説明

プリプレグおよび樹脂複合材料

【課題】 特殊な薬剤や成形条件を必要とせず、適正な樹脂含有量で且つ内部にボイドを生成しにくいプリプレグを提供すること。
【解決手段】アミド酸オリゴマーをマトリックス樹脂とし、溶媒中に均一に分散させたアミド酸オリゴマーが強化繊維に含浸され、この強化繊維がサイジング剤として耐熱サイジング剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
硬化成形物内部にボイドを発生しにくいプリプレグ及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、その耐熱性を活かした特殊エンジニアリングプラスチックであり、金属代替素材として注目されている。最初の熱硬化型ポリイミドは、ナジック酸末端ポリイミドであったが、溶解性や流動性に問題があり、実用化されなかった。これらの問題を解決するために、モノマーから直接重合する技術が開発された。
【0003】
例えば、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類と芳香族ジアミン化合物と4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸とを反応させて得られる末端変性イミドオリゴマーをマトリックス樹脂とする繊維強化プリプレグを加熱硬化した硬化物である複合材料は、耐熱性、機械特性等に優れ、航空機や宇宙産業機器等の用途に好適である。
【0004】
ところで、熱硬化型ポリイミドを製造するには、モノマー混合物をアルコール中もしくはホットメルト法で強化繊維に含浸することによってプリプレグ化し、プリプレグ中のモノマー混合物を120〜230℃に加熱することでイミドオリゴマー(重縮合反応)とし、さらに温度を270〜350℃に上げることによって重付加反応が起こり、架橋ポリイミドが得られる。
【0005】
しかし、従来は有機溶剤を含むアミド酸オリゴマーという樹脂が一般的に用いられていたので、加熱によるアミド酸オリゴマーからイミドオリゴマーへの反応に伴って主に溶媒が揮発し、その結果低粘度化を起こし、樹脂が流出するので、硬化成形物中に適正な樹脂量を確保することができなくなる(繊維の含有量が多くなる)という不都合があり、強度低下を招いてしまう。また、反応後期の加熱時に強化繊維に含まれているサイジング剤が揮発するので、硬化成形物内にボイドが発生するという不都合がある。
【0006】
そこで、これらの問題を解決するために、例えば、(a)ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物と、(b)芳香族ジアミンと、(c)不飽和型の反応性化合物とを反応させて得られた、不飽和末端基を有する付加型のポリイミド樹脂が、特許文献1、2、3、4、5及び6において提案されている。
【特許文献1】特開昭59−167569号公報
【特許文献2】特開昭60−250030号公報
【特許文献3】特開昭60−260624号公報
【特許文献4】特開昭60−260625号公報
【特許文献5】特開昭61−247733号公報
【特許文献6】特開昭62−29584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の公知のポリイミド樹脂は、特殊で高価な特定のジアミン化合物を使用して製造しなければならなかったり、そのポリマーの有機溶媒への溶解性が必ずしも高くないものであったり、また、ポリイミド溶液の調製において、特殊な高沸点の有機溶媒を使用しなければならなかったり、あるいは、ポリイミド樹脂の融点が高くなりすぎて、高温で成形しなければ良好な形状の製品を製造することができないという不都合な点があった。
【0008】
本発明は、従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、特殊な薬剤や成形条件を必要とせず、適正な樹脂含有量で且つ硬化成形物内部にボイドを生成しにくいプリプレグ及びそのプリプレグを素材とし、特別の成形条件を選択することなく製造しうる高強度の樹脂複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明のプリプレグは、アミド酸オリゴマーをマトリックス樹脂とし、溶媒中に均一に分散させたアミド酸オリゴマーが強化繊維に含浸され、この強化繊維がサイジング剤として耐熱サイジング剤を含有することを特徴としている。この耐熱サイジング剤とは、融点および沸点が高いサイジング剤をいう。
【0010】
また、耐熱サイジング剤に代えて、強化繊維がサイジング剤として低沸点サイジング剤を含有することもできる。
【0011】
また、強化繊維に含まれる一般的なサイジング剤(耐熱サイジング剤および低沸点サイジング剤以外のサイジング剤)の含有量が0.00〜1.00重量%であることが好ましい。
【0012】
また、溶媒は低沸点溶媒を含有することが好ましい。
【0013】
さらに、繊維を一方向に配向した一方向プリプレグの代替材として、繊維が簾織りのプリプレグを用いることが好ましい。
【0014】
そして、以上のようなプリプレグを熱硬化することにより、高強度の耐熱樹脂複合材料を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記のように構成されているので、次の効果を奏する。
(1)請求項1記載の発明によれば、サイジング剤の沸点が高いので、硬化成形時においても揮発しにくく、硬化成形物内にボイドが発生しにくいという効果がある。
(2)請求項2記載の発明によれば、硬化前の加熱初期のタイミングでサイジング剤を揮発させることにより、硬化成形物内に発生するボイドの量を抑えることができる。
(3)請求項3記載の発明によれば、サイジング剤の量が必要最小限であるから、硬化成形物内に発生するボイドの量を抑えることができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、比較的低温で溶媒を揮発させることにより、樹脂の粘度低下を抑え、樹脂漏れを防ぐことができる。
(5)請求項5記載の発明によれば、繊維の乱れを抑制できるため、特殊な装置を使用しなくても容易に脱サイジング処理が可能であり、複合材の成形面においても樹脂の低粘度化による繊維の乱れを抑制できる。
(6)請求項6記載の発明によれば、ボイドがなく高強度の耐熱樹脂複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について説明する。
【0017】
本発明において、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類と芳香族ジアミン化合物と4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸とを反応させることによって得られる次式(1)の構造を有するアミド酸オリゴマーを使用することができる。
【0018】
【化1】

【0019】
式(1)および後記する式(2)において、Xは芳香族ジアミン残基であり、nは整数である。
【0020】
この末端変性アミド酸オリゴマーは、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類と芳香族ジアミン化合物と4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸とを、各酸基の当量の合計と各アミノ基の当量とが概略当量となるようにして、好適には溶媒中で反応させて得られるアミド酸オリゴマーであって、そのアミド酸オリゴマーの末端(好適には両末端)に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸に基づくアセチレン性の付加重合可能な不飽和末端基およびアミド酸オリゴマーの主鎖にアミド酸結合を有する。
【0021】
特に、硬化前の最低溶融粘度である溶融粘度が10〜1000000ポアズの範囲にある末端変性アミド酸オリゴマーが好ましい。さらに、末端変性アミド酸オリゴマーをイミド化および硬化した後のガラス転移温度(Tg)が300℃以上でかつ曲げ強度が1300kgf/cm2以上である次式(2)の構造を有する末端変性イミドオリゴマーが好ましい。
【0022】
【化2】

【0023】
なお、上記最低溶融粘度とは、アミド酸オリゴマーがイミドおよび硬化する過程において、温度上昇により粘度が低下し、硬化反応により粘度が上昇するが、この反応過程の最小値を意味する。
【0024】
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類とは、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、あるいは2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の低級アルコールエステル又は塩などの酸誘導体であり、特に、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が最適である。
【0025】
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の一部(好ましくは50モル%以下、特に好ましくは30モル%以下、その中でも特に好ましくは25モル%以下)が、他の芳香族テトラカルボン酸類、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物などで置換されてもよい。
【0026】
上記の芳香族ジアミン化合物としては、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3−ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5− ジエチルトルエン−2,6−アミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、ビス(2−エチル−6−メチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、2,2’−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンチジン、3,3’−ジメチルベンチジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス〔4’−(4’’−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパンなどを挙げることができ、それらを単独あるいは2種以上を併用することができる。
【0027】
特に、芳香族ジアミン化合物として、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルあるいは1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが好適である。
【0028】
末端変性(エンドキャップ)用の不飽和酸二無水物として、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を使用することができる。4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸は、酸類の合計に対して5から200モル%、特に5から150モル%の範囲内の割合で使用することが好ましい。
【0029】
溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタムなどを挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
末端変性アミド酸オリゴマーは、例えば、上記の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類(特に、この酸二無水物)と、芳香族ジアミン化合物と、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸とが、全成分の酸無水基(または隣接するジカルボン酸基)の当量の全量とアミノ基の全量とがほぼ等量となるように使用して、各成分を、上記溶媒中で約100℃以下、特に80℃以下の反応温度で重合させて、アミド−酸結合を有するオリゴマーを生成する。末端変性アミド酸オリゴマーの特に好ましい製法としては、例えば、まず、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンと、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸とを上記溶媒中に均一に溶解し、約5〜60℃の反応温度で1〜180分間程度撹拌しながら反応させてアミド酸オリゴマーを生成する。
【0031】
次いで、溶媒中に均一に分散させた末端変性アミド酸オリゴマー溶液を強化繊維、例えば、炭素繊維に含浸させ、140〜275℃で5〜500分間程度加熱して乾燥およびイミド化した後、その複合材を300〜500℃の温度で、常圧、好適には、1〜1000kg/cm2の圧力で、1秒 〜100分間程度加熱して、加熱硬化させて複合材を製造することができる。
【0032】
サイジング剤は、繊維の毛羽立ちや表面特性を改善するために、必要に応じて添加される結合剤であり、融点および沸点が高いものほど揮発しにくくなり、上記した硬化成形物内にボイドが発生しにくくなるので好ましい。例えば、この耐熱サイジング剤としては、本発明に係るアミド酸オリゴマーをイミド化してなる末端変性イミドオリゴマーを熱硬化してなるポリイミド樹脂(ガラス転移点=343℃、密度=1.30g/cc、引張強さ=115MPa、溶融粘度=2000ポアズ)やその他公知の熱硬化性ポリイミド樹脂、エマルションまたはカルボジイミドを用いることができる。
【0033】
低沸点サイジング剤とは、比較的低温(約200℃以下)で容易に揮発するサイジング剤をいい、イミド化加熱反応の初期の段階またはイミド化反応前の加熱により容易に揮発するものであれば、上記した硬化成形物内にボイドが発生しにくくなるので好ましい。この低沸点サイジング剤としては、例えば、澱粉、グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどを用いることができる。
【0034】
耐熱サイジング剤または低沸点サイジング剤は、繊維の毛羽立ちや表面特性を改善するために強化繊維にそれぞれ0.1重量%以上含有されているのが好ましく、硬化成形物内のボイドの発生を抑えるためには強化繊維中の耐熱サイジング剤または低沸点サイジング剤の含有量はそれぞれ2.0重量%以下とするのが好ましい。
【0035】
強化繊維に含まれる一般的なサイジング剤(耐熱サイジング剤および低沸点サイジング剤以外の沸点が約200〜300℃のサイジング剤)の含有量は、硬化成形物内のボイドの発生を抑えるためには1.0重量%以下とするのが好ましい。この一般的なサイジング剤は必須成分ではなく任意成分であり、例えば、表面特性を特に改善することが必要とされないような場合には、強化繊維が一般的なサイジング剤を含有しないこともある。
【0036】
低沸点溶媒も低沸点サイジング剤と同様に、比較的低温(約200℃以下)で容易に揮発する溶媒をいい、イミド化加熱反応の初期の段階またはイミド化反応前の加熱により容易に揮発するものであれば、上記した樹脂の粘度低下を招かないので好ましい。この低沸点溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(沸点80℃)を挙げることができる。
【0037】
簾織りクロスとは、図1に示すように、一方向(X−X方向)に配向している主たる各繊維の束が乱れないように直交する方向(Y−Y方向)に必要最小限の繊維を通して束ねたものをいう。繊維をこのように簾織りしたものは、実質的に一方向に配向した繊維束と同様に、X−X方向には極めて高い機械的特性を有するという効果がある。
【0038】
プリプレグ中の樹脂の含有量は、15〜70重量%とするのが好ましい。樹脂が15重量%未満では樹脂複合材料の体を成さず、樹脂が70重量%を超えると、所定の強度を確保することができなくなる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、適宜変更と修正が可能である。
(1)プリプレグの作製
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)589.01gと、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4−ODA)440.96gと、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸(PEPA)99.39gとを、N−ジメチルアセトアミド(DMAc、沸点165℃)2097g中でアミド酸オリゴマーを合成し、そのアミド酸オリゴマーのDMAc溶液にメチルエチルケトン(MEK、沸点80℃)484g、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME、沸点120℃)484gを添加し、常法によりアミド酸オリゴマー溶液(主鎖重合度の繰り返し数が10の10量体)を作製した。この10量体アミド酸オリゴマー溶液を炭素繊維(平均直径が約5μmのもの)に含浸して、プリプレグを作製した。
(2)プリプレグの加熱処理と低沸点溶媒
上記プリプレグについて80℃の熱処理を行うことによる溶媒の揮発試験を行ったので、以下の表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、80℃の熱処理を行うことにより、揮発分比率は大きく低下するが、各溶媒の比率(表1の括弧内の分率)はあまり変わらないことが分かる。
【0042】
そこで、上記のように80℃の予備熱処理を行ったプリプレグと予備熱処理を行わなかったプリプレグについて、動的粘弾性測定器により粘弾性特性を調査したので、その結果を図2に示す。図2に明らかなように、予備熱処理を行わなかったプリプレグ(点線)は約120℃付近で大きく粘度が低下しているが、80℃の予備熱処理を行ったプリプレグ(80℃×1時間が太線、80℃×2時間が細線)については、このような粘度低下は見られない。
【0043】
従って、単独の溶媒ではなく、低沸点の溶媒を添加して共沸現象が随伴して起こる混合溶媒とすることにより、イミド化反応初期での粘度低下を抑制することが可能であることが分かる。
(3)サイジング剤について
a.イミドオリゴマーの熱硬化過程で分解し、成形物内のボイド原因となる物質の調査
イミドオリゴマーの熱硬化過程で分解する物質としては、イミドオリゴマー化により発生する水と、溶媒と、サイジング剤が考えられるので、以下の表2のように樹脂量(a−BPDAと4,4−ODAとPEPAからなるもの)と溶媒量(NMP)を変更したプリプレグと、炭素繊維のみ(サイジング剤はエポキシ樹脂)について、図3のような熱処理を行うことにより、図3中の測定域(イミドオリゴマーの熱硬化過程を想定した温度領域)における各試料の重量減少率を熱重量分析(TGA)手法により測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、試料No.4と5を比べると、明らかに繊維に含まれているサイジング剤が無視できないほど、この温度領域で揮発していることが分かる。試料No.4の重量減少率は、試料No.1〜3のものと同程度以上である。従って、イミドオリゴマーの熱硬化過程で分解する物質は、繊維に含まれるサイジング剤がほとんどであると思われる。
【0046】
そこで、繊維にサイジング剤が殆ど含まれないか、上記の熱硬化過程より低温で揮発する低沸点サイジング剤を使用するか、または上記の熱硬化過程でも揮発しない耐熱サイジング剤を使用することにより、熱硬化成形物内のボイド発生を抑えることができると思われる。
b.サイジング剤と繊維の配向方向の差違によるプリプレグ化
プリプレグに用いられる強化繊維は繊維数千本を束ねた繊維束の集合体であり、その繊維を一方向に配向したものがUD、縦方向の繊維と横方向の繊維を織ったものがいわゆるクロスである。プリプレグ製造工程においては、ハンドリング性の向上のために繊維にはサイジング剤が含有されていることが多い。このサイジング剤は上記したように、イミドオリゴマーの熱硬化過程で分解し、成形物内のボイドの原因となり、また、強度低下を引き起こすことがある。そこで、サイジング剤と繊維の配向方向によって、プリプレグ化に影響を与えるかどうかについて調査した。
【0047】
クロスの炭素繊維(平均直径が約5μmのもの)をMEK溶液に浸漬することにより繊維中のサイジング剤を溶解除去した。当初の繊維中のサイジング剤の含有量は、約2重量%であったが、MEK溶液に浸漬することにより0.25重量%に低下した。そして、a−BPDA1176.9gと、4,4−ODA1001.2gと、PEPA496.5gとを、NMP4967.1g中でアミド酸オリゴマーを合成し、その溶液にMEK3820.8gを添加し、アミド酸オリゴマー溶液(主鎖重合度の繰り返し数が4の4量体)を作製した。この4量体アミド酸オリゴマー溶液を、上記のようにサイジング剤を溶解除去したクロスの炭素繊維に含浸して、樹脂分が40.8重量%で、揮発分が16.6重量%のクロスプリプレグを問題なく作製することができた。
【0048】
また、すべての繊維が一方向に配向しているUDでは、上記のようにして溶剤に浸漬してサイジング剤を溶解除去しようとすれば、糸そのものの形態が崩れてしまうため、プリプレグ化することが困難である。そこで、図1に示すように、UDの持つ強度特性に影響を与えることなく、UDの形態保持のために最低限の横糸を使用した簾織りの炭素繊維(平均直径が約5μmのもの)をMEK溶液に浸漬することにより繊維中のサイジング剤を溶解除去した。当初の繊維中のサイジング剤の含有量は、約2重量%であったが、MEK溶液に浸漬することにより0.50重量%に低下した。そして、同上アミド酸オリゴマー溶液を、上記のようにサイジング剤を溶解除去した簾織りの炭素繊維に含浸して、樹脂分が41.4重量%で、揮発分が21.7重量%のUDタイプのプリプレグを作製することができた。
(4)実際の熱硬化物の繊維含有率とボイド率
図1に示すように、主方向に配向した繊維が炭素繊維(東邦テナックス社製の商品名「ベスファイトIM600−6K」の平均直径が約5μmのもの)であって、UDの形態保持のために横糸にガラス繊維を使用した簾織りの炭素繊維をMEK溶剤に浸漬して脱サイジング処理した。図4はその実物写真である。そして、同上4量体アミド酸オリゴマー溶液を、上記のようにサイジング剤を溶解除去した図4に示す炭素繊維に含浸して、樹脂分が41重量%で、揮発分が21重量%で、目付量が237g/m2のUDタイプのプリプレグを得た。
【0049】
そして、このプリプレグに、図5に示す粘度調整のための予備熱処理と、図6に示す揮発分除去のための熱処理と、図7に示す熱硬化のための熱処理を施した。その結果得られた硬化成形物の特性評価結果を表3に示す。表3において、繊維含有率及びボイド率は硫酸分解法(ASTMD−3171に準拠)により測定した数値である。表3において、外観良好とは成形物表面に樹脂欠損が殆ど確認されない状態をいい、超音波非破壊検査良好とは超音波非破壊検査機を使用して、成形物内部に殆ど欠陥が見当たらない状態をいい、光学顕微鏡による断面観察良好とは実際に断面を研磨して顕微鏡で断面を観察し、ボイドとなる欠陥が殆ど見当たらない状態をいう。
【0050】
【表3】

【0051】
表3に明らかなように、硬化成形物のボイド率は極めて低く、実用的に問題ない程度のボイド量であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】簾織りを説明するための図である。
【図2】プリプレグの粘弾性特性を示す図である。
【図3】アミド酸オリゴマーの熱処理の一例を示す図である。
【図4】簾織りクロスの平面図である。
【図5】プリプレグの粘度調整のための熱処理の一例を示す図である。
【図6】プリプレグの揮発分除去のための熱処理の一例を示す図である。
【図7】プリプレグの熱硬化のための熱処理の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド酸オリゴマーをマトリックス樹脂とし、溶媒中に均一に分散させたアミド酸オリゴマーが強化繊維に含浸され、この強化繊維がサイジング剤として耐熱サイジング剤を含有することを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
アミド酸オリゴマーをマトリックス樹脂とし、溶媒中に均一に分散させたアミド酸オリゴマーが強化繊維に含浸され、この強化繊維がサイジング剤として低沸点サイジング剤を含有することを特徴とするプリプレグ。
【請求項3】
アミド酸オリゴマーをマトリックス樹脂とし、溶媒中に均一に分散させたアミド酸オリゴマーが強化繊維に含浸され、この強化繊維に含まれるサイジング剤量が0.00〜1.00重量%であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
溶媒が低沸点溶媒を含有することを特徴とする請求項1、2または3記載のプリプレグ。
【請求項5】
強化繊維として、簾織りクロスを用いたことを特徴とする請求項1、2、3または4記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項1ないし5記載のプリプレグを熱硬化してなる樹脂複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−191658(P2007−191658A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13504(P2006−13504)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成14年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 民間基盤技術試験研究業務委託基本契約に基づく「新ポリイミド複合材開発と航空エンジンナセル等への適用基板研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】