説明

プリント化粧板用接着剤及びプリント化粧板

【課題】刷込み工程や研磨工程等を経なくても、化粧面の平滑性を改善することのできるプリント化粧板用接着剤を提供すること。
【解決手段】(A)酢酸ビニルを乳化重合して得られるか、又は酢酸ビニルと共重合可能な不飽和単量体とを乳化共重合して得られる酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョン、(B)水酸化アルミニウム、及び(C)顔料分散剤を含有することを特徴とするプリント化粧板用接着剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント化粧板用接着剤及びそれを用いて得られるプリント化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な色彩や模様等が施されたパターン紙を台板に貼り合せて形成したプリント化粧板が、床材、家具等に用いられている。このプリント化粧板は、台板の表面を研磨して平滑化した後、その表面に接着剤を塗布してからパターン紙を貼って製造される。
【0003】
プリント化粧板は、多様な色彩や模様等を有し、しかも低価格であることから建築材料として有用なものである。しかし、プリント化粧板の台板として、質の低下した台板合板や透湿性の無い特殊紙を用いていることから、台板合板の導管部の凹み、貼り合わせ時に発生するパターン紙の浮き上がりやしわの発生等によって化粧面が平滑にならず、美しく仕上がらないという問題があった。
【0004】
この表面平滑性の低下には大きく2つの原因が考えられる。一つは、接着剤に含まれる水分が過剰であることによるものである。プリント化粧板を作製する工程で、台板(合板、MDF、パーティクルボード等)に接着剤を塗布後、熱ロールを用いて水を通しにくい樹脂含浸紙等を貼り合わせると水分の急激な蒸発により紙を押し上げて膨れが生じる現象が起こる。この問題は、加工メーカーで接着剤の予備乾燥を行い接着剤中の含水率を調整することで対応可能である。もう一つは、接着剤を予備乾燥して貼り合わせ、熱ロールを通って製品ができた時は表面の平滑性が良好であるが、時間の経過とともに台板合板の導管部等の凹みに沿ってパターン紙が徐々に凹む現象によるものである。このような現象を抑える方法として、導管部等の凹みに目止め剤を充填した後、表面を研磨してパターン紙を貼り合せる技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−183841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来技術では、パターン紙を接着剤で貼り合せる前に、目止め剤を台板合板の表面に刷込む工程や目止め処理された表面を研磨する工程が必要となるので、プリント化粧板を低コストで効率よく製造することができないという問題があった。
従って、本発明の目的は、刷込み工程や研磨工程等を経なくても、化粧面の平滑性、特に、導管部等の凹凸に起因する化粧面の凹凸を改善することのできるプリント化粧板用接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、上記のような従来の課題を解決すべく鋭意研究、開発を遂行した結果、酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョンと水酸化アルミニウムと顔料分散剤とを配合した接着剤が、化粧面の平滑性を大幅に向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、(A)酢酸ビニルを乳化重合して得られるか、又は酢酸ビニルと共重合可能な不飽和単量体とを乳化共重合して得られる酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョン、(B)水酸化アルミニウム、及び(C)顔料分散剤を含有することを特徴とするプリント化粧板用接着剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、刷込み工程や研磨工程等を経なくても、化粧面の平滑性を改善することのできるプリント化粧板用接着剤を提供することができる。また、本発明のプリント化粧板用接着剤を用いることで、表面平滑性に優れたプリント化粧板を低コストで効率よく製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明によるプリント化粧板用接着剤は、(A)酢酸ビニルを乳化重合して得られるか、又は酢酸ビニルと共重合可能な不飽和単量体とを乳化共重合して得られる酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョンと、(B)水酸化アルミニウムと、(C)顔料分散剤とを必須成分として含有する。
【0010】
本発明における(A)酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョンは、プリント化粧板用接着剤の主成分であり、酢酸ビニルをラジカル重合して得られる酢酸ビニルのホモポリマー、又は酢酸ビニルと共重合可能な不飽和単量体の1種以上とをラジカル重合して得られる共重合物の水系エマルジョンである。いずれの水系エマルジョンを配合した接着剤も常態接着性を十分に備え、且つ化粧面の平滑性を改善することができるが、特に、共重合物の水系エマルジョンを配合した接着剤は、ホモポリマーの水系エマルジョンを配合したものよりも、耐水接着性に優れる。
このような酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョンは、ポリビニルアルコールを保護コロイドとして、公知の乳化重合法により製造することができる。重合の際に用いるポリビニルアルコールとしては、通常の酢酸ビニルの鹸化されたポリビニルアルコールの他に、エチレン−酢酸ビニルの鹸化されたポリビニルアルコール(例えば、商品名:エクセバール、株式会社クラレ製)、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。また、重合時の温度は、使用する重合触媒等によって変わるが、通常、60℃〜90℃である。反応時間は、特に制限されることはなく、各成分の配合量及び反応温度等に応じて適宜調整すればよい。また、乳化重合に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤(重合安定助剤)、重合開始剤、還元剤、緩衝剤、重合度調節剤等を適宜使用してもよい。
(A)酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョンは、好ましくは40質量%〜60質量%、より好ましくは45質量%〜55質量%の酢酸ビニル系樹脂分(固形分)を含むことが望ましい。
【0011】
酢酸ビニルと共重合可能な他の不飽和単量体としては、バーサティック酸ビニル(商品名:VeoVa 9、VeoVa 10、ジャパンエポキシレジン株式会社製)、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ラウリル酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボン酸含有不飽和単量体、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和単量体、エチレン等を挙げることができる。これらを1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
また、(A)酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョンとして、市販されているものを用いてもよく、例えば、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体の水系エマルジョンであるポリゾールAX−560(昭和高分子株式会社製、不揮発分48質量%)、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸共重合体水系エマルジョンであるポリゾール EVA AD−14(昭和高分子株式会社製、不揮発分45質量%)、ポリ酢酸ビニルの水系エマルジョンであるポリゾール接着用−1000JL(昭和高分子株式会社製、不揮発分49.5質量%)が挙げられる。
【0013】
本発明における(B)水酸化アルミニウムは、貼り合わされたパターン紙の平滑性を改善する役割を果たす成分である。水酸化アルミニウムの粒度は、市販の製品であれば特に限定されないが、1μm〜30μmの範囲の平均粒子径を有するものが好ましい。
本発明で使用する水酸化アルミニウムの具体例としては、昭和電工株式会社製のハイジライトH−21、H−31、H−32、H−42、H−42M、H−43及びH−43M、日本軽金属株式会社製の水酸化アルミニウムB52、B53、B72、B73、B303、B153、B103、B703及びB1403、巴工業株式会社製の水酸化アルミニウムB−30、B−325、B−315、B−308、B−303及びUFH−20が挙げられる。
水酸化アルミニウムの配合量は、固形分基準で、(A)酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョンの100質量部に対して、1質量部〜50質量部であることが好ましく、5質量部〜30質量部であることが更に好ましい。水酸化アルミニウムの配合量が1質量部未満であると、化粧面の平滑性が十分に改善されない場合があり、また、50質量部を超えると、接着性が劣る場合がある。
【0014】
本発明における(C)顔料分散剤は、(B)水酸化アルミニウムの分散性を補助し、化粧面の平滑性を更に向上させる役割を果たす成分である。
本発明で使用する顔料分散剤としては、(A)酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョンと混和可能であれば特に限定されないが、ポリカルボン酸系分散剤、ポリスルホン酸アンモニウム系分散剤、カチオン型溶剤系分散剤、リン酸系分散剤、油溶性ノニオン系分散剤、アニオン系分散剤、脂肪族エステル系分散剤等が挙げられる。このような顔料分散剤の具体例としては、サンノプコ株式会社製のノプコサントK、SNディスパーサント5034、ノプコスパース44−C、SNディスパーサント5045、SNディスパーサント5468、SNディスパーサント5047、ノプコスパース092、SNディスパーサント2060、ノプコサントR、SNスパース70、SNスパース2100、SNウエット514、SNスパース2120、SNスパース2130、SNスパース2180及びSNスパース2190、花王株式会社製のデモールNL、デモールRN−L、デモールT−46、デモールMS、デモールSN−B、デモールSS−L、デモールSC−30、デモールEP、ポイズ620、ポイズ621、ポイズ530、ポイズ532A、ホモゲノールL−15、ホモゲノールL−1820、ホモゲノールL−95及びホモゲノールL−100、三洋化成工業株式会社製のキャリボンL−400、エレミノールMBN−1、サンスパールPS−2、カラボンDA−72、三洋レベロンPHL、サンノニックFD−80、サンノニックFD−140、サンノニックSS−90、ナロアクティーN−50、ナロアクティーN−95、エマルミン40、ニューポールPE−62、イオネットMO−200、イオネットDL−200、イオネットS−20及びイオネットT−20Cが挙げられる。
顔料分散剤の配合量は、固形分基準で、(B)水酸化アルミニウムの100質量部に対して0質量部を超え10質量部以下であることが好ましく、1質量部〜8質量部であることが更に好ましい。顔料分散剤を配合しないと、水酸化アルミニウムの分散性が改善されないため化粧面の平滑性が十分に得られず、また、顔料分散剤の配合量が10質量部を超えると、耐水性が低下する場合がある。
【0015】
なお、本発明のプリント化粧板用接着剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、パターン紙に対する濡れ性を高めるための高沸点溶剤、成膜助剤、可塑剤等を変性時に添加してもよい。また、本発明のプリント化粧板用接着剤の粘度は、通常1,000mPa・s〜5,000mPa・sである。なお、ここでの粘度は、株式会社トキメック製のBH型粘度計を用い、ローターNo.3、10rpm、23℃で測定した値である。また、本発明のプリント化粧板用接着剤には、上記のような粘度範囲に調整するために、ポリカルボン酸、水溶性ウレタン等の増粘剤、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子を添加してもよい。
【0016】
本発明によるプリント化粧板は、台板とパターン紙とが上記したプリント化粧板用接着剤で接着されたものであり、具体的には、プリント化粧板用接着剤を台板に塗布した後、必要に応じて接着剤を乾燥させ、台板にパターン紙を重ね、熱ロール等を通して貼り合せることにより製造することができる。本発明では、従来の目止め剤処理とは異なって刷込み工程や研磨工程等を経ることなく、表面平滑性に優れ且つ台板とパターン紙とが強固に接着されたプリント化粧板を製造することができる。プリント化粧板用接着剤の塗布量は、通常30g/m2〜80g/m2である。
本発明で使用する台板としては、当該技術分野で公知の合板台板、MDF、パーティクルボード等を挙げることができる。また、パターン紙としては、当該技術分野で公知のメラミン樹脂やポリエステル樹脂を含浸させたチタン紙、フェノールを含浸させたコアー原紙、合成紙を挙げることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に説明するが、本発明は実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0018】
<実施例1>
酢酸ビニル−アクリル酸共重合体水系エマルジョン(商品名:ポリゾールAX−560、固形分48質量%、昭和高分子株式会社製)の樹脂分(固形分)100質量部に対して、水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライト H−32、平均粒径8μm、昭和電工株式会社製)を10質量部、ポリカルボン酸系顔料分散剤(商品名:ノプコスパース44−C、固形分40質量%、サンノプコ株式会社製)を0.5質量部配合し、均一に攪拌して接着剤を調製した。配合処方を表1に示した。
【0019】
<実施例2>
実施例1で使用したポリゾールAX−560の代わりに、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸共重合体水系エマルジョン(商品名:ポリゾール EVA AD−14、固形分45質量%、昭和高分子株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして接着剤を調製した。配合処方を表1に示した。
【0020】
<実施例3>
実施例1で使用したポリゾールAX−560の代わりに、ポリ酢酸ビニル水系エマルジョン(商品名:ポリゾール接着用−1000JL、固形分49.5質量%、昭和高分子株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして接着剤を調製した。配合処方を表1に示した。
【0021】
<比較例1〜10>
比較例1は、実施例1で使用したポリゾールAX−560のみで作製した。比較例2は、実施例2で使用したポリゾールEVA AD−14のみで作製した。比較例3は、実施例3で使用したポリゾール接着用−1000JLのみで作製した。比較例4は、比較例1で使用したポリゾールAX−560の樹脂分100質量部に対してハイジライト H−32を10質量部配合し、均一に撹拌して調製した。比較例5は、比較例4で使用したポリゾールAX−560の代わりに、ポリゾール EVA AD−14を使用した以外は、比較例4と同様にして調製した。比較例6は、比較例4で使用したポリゾールAX−560の代わりに、ポリゾール接着用−1000JLを使用した以外は、比較例4と同様にして調製した。比較例7は、比較例4で使用した水酸化アルミニウムの量を80質量部に変えた以外は、比較例4と同様にして調製した。比較例8〜10は、比較例4で使用したハイジライト H−32の代わりに、クレー(商品名:カオブライト、白石カルシウム株式会社製)、酸化チタン(商品名:チタンペーストD、三木理研工業株式会社製)及び炭酸カルシウム(商品名:ソフトン1200、白石カルシウム株式会社製)それぞれを配合した以外は、比較例4と同様にして調製した。配合処方を表2に示した。
【0022】
実施例及び比較例の接着剤が、固形分45質量%、粘度3,000mPa・sとなるように、水や増粘剤としてのポリカルボン酸(商品名:ポリゾールT−A、昭和高分子株式会社製)を適宜添加した後、下記の試験方法に従って接着剤の性能を評価した。
【0023】
(1)平滑性
接着剤を23℃の雰囲気下でJAS2類合板に60g/m2塗布した後、80℃の熱風乾燥機で20秒乾燥させた。次いで、接着剤が塗布された合板上にパターン紙を重ね、これを100℃の熱ロール(圧力3kg/cm2)に3回通し、養生1日後の化粧面の状態を目視にて確認した。なお、膨れや合板の木目が目視で確認できず、平滑性が非常に良好なものを「◎」とし、表面状態良好なものを「○」とし、膨れや合板の木目が確認でき、平滑性が不十分であるものを「×」とした。結果を表3に示した。
【0024】
(2)常態接着性
合板の日本農林規格に準拠した平面引張り試験により常態接着性を評価したところ、実施例1〜3及び比較例1〜10はいずれも接着強度の平均値が0.4MPa以上あり、実用上十分な接着性を有していた。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
表3の結果から、実施例1〜3の接着剤を用いて得られた化粧合板は、比較例のものと比べて、平滑性に優れていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酢酸ビニルを乳化重合して得られるか、又は酢酸ビニルと共重合可能な不飽和単量体とを乳化共重合して得られる酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョン、
(B)水酸化アルミニウム、及び
(C)顔料分散剤
を含有することを特徴とするプリント化粧板用接着剤。
【請求項2】
固形分基準で、前記(B)水酸化アルミニウムが、前記(A)酢酸ビニル系樹脂水系エマルジョン100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下配合されていることを特徴とする請求項1に記載のプリント化粧板用接着剤。
【請求項3】
固形分基準で、前記(C)顔料分散剤が、前記(B)水酸化アルミニウム100質量部に対して、0質量部超10質量部以下配合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプリント化粧板用接着剤。
【請求項4】
台板とパターン紙とを請求項1〜3の何れか一項に記載のプリント化粧板用接着剤で接着させてなることを特徴とするプリント化粧板。

【公開番号】特開2009−202360(P2009−202360A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44648(P2008−44648)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】