説明

プリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液と表面処理方法

【課題】簡便に処理でき、銅及び銅合金の表面を粗化することなく、ドライフィルムレジスト等を強固に密着させ得る表面に仕上げることのできる銅及び銅合金の表面処理液とそれを用いたプリント回路基板用表面処理方法の提供。
【解決手段】過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを含む水溶液からなる銅及び銅合金のプリント回路基板用表面処理液。この表面処理液を、銅及び銅合金に接触させて表面処理を行うプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理方法。前記アミノ基含有アゾールとしては、5−アミノテトラゾール、3−アミノトリアゾール、それらの誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅及び銅合金の表面処理に関し、プリント回路基板の回路などの銅及び銅合金の表面を簡便に処理でき、銅及び銅合金の表面を粗化することなく、ドライフィルムレジスト等を強固に密着させることができ、且つ耐食性に優れた表面に仕上げることのできるプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液とそれを用いた表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板を製造する際には、銅張積層板の不要部分の銅を薬品で溶解除去し、回路を形成する工程(以下、エッチング工程と称す)を行っている。また、このエッチング工程に先立ち、ドライフィルムレジスト(以下、DFRと称す)を銅表面に張り付け、露光、現像し、銅表面にDFRによる回路のマスクを形成している。このDFRと銅表面とが強固に密着していないと、エッチング工程時にDFRが銅表面から浮き、回路が断線し、所望の回路が得られず不良となる。そのため、DFRと銅表面とを密着させる方法として、古くはバフ研磨、ブラシ研磨、スクラブ研磨あるいはベルトサンダー研磨のような機械的研磨によって銅表面を研磨処理する方法が採用されていた。しかしながら、プリント回路基板の高密度化、細線化、薄化が進み、特にフレキシブル回路基板に代表されるような薄物には、研磨機の構造上あるいは機械的な力を加えることによる基板の伸びによる寸法精度の低下が問題となり、機械研磨では対応できなくなった。そこで、機械的な研磨から薬品を使用した化学的研磨へと研磨方法が移行して来た。
【0003】
しかしながら現在、プリント回路基板は更に高密度化、細線化、薄化が進み、回路の線幅が15μm以下の基板を製造するに至っては、DFR張り付け前の銅表面が粗化されていることによる悪影響が指摘されるようになってきている。すなわち、銅表面の粗化による凹凸の影響で露光・現像の精度が低下したり、エッチング工程で回路の肩にギザが発生し、あるいは回路のうねりが発生し、品質の低下をもたらすようになってきている。
更に、エッチング後に回路のでき上がりを検査する装置(自動光学検査装置:AOI)で検査を行う場合、高密度化した多層基板の場合、基板内側(内層)の回路が透けて観えるが、表面が粗化された銅表面は光を吸収し、透けて観えた内層の回路と表面にある回路の色調がほぼ同じとなり(「裏映り」と称される)、AOIで検査ができない状況が発生することも問題となっている。
また、DFRの張り付け位置がずれた場合、一旦DFRを剥離除去し、再度表面粗化処理工程からやり直すのであるが、化学的粗化処理は、繰り返し処理する度に、銅表面の粗化状態が強くなり、凹凸が深くなることにより、再加工した基板は、DFRを一度接着すると剥離するのが困難になるという問題も有している。
【0004】
そこで、銅及び銅合金の表面を粗化することなく、DFR等を強固に密着させ得る表面に仕上げることのできる銅及び銅合金の表面処理方法の開発が求められている。
従来技術では、銅及び銅合金の表面処理剤として、例えば、特許文献1〜3に開示されているような、過酸化水素及び何らかの酸とアゾール化合物を配合したエッチング液を銅及び銅合金の表面処理剤に適用することが提起されている。
【0005】
特許文献1には、硫酸、硝酸、スルファミド酸及びリン酸から成る群から選択される酸と、過酸化水素と、水との混合物を含む水性エッチング剤溶液を使用して銅を処理することを含む銅エッチング方法において、エッチング剤溶液中にトリアゾール化合物と、脂肪族水溶性モノアルコール或いはグリコールモノエーテルいずれかとの両方を、急速なエッチング速度を与える促進有効量含むことを特徴とする改善方法が開示されている。
特許文献2には、過酸化水素と硫酸とを主成分とするエッチング液を用いるプリント配線板のエッチングにおいて、エッチング後の配線基板を、(1)アルカリ金属水酸化物と(2)けい酸塩、りん酸塩、ほう酸塩、脂肪族オキシカルボン酸塩から選ばれる一種以上の化合物とを用いて処理することを特徴とする過酸化水素−硫酸系エッチングにおける後処理方法が開示されている。
特許文献3には、オキソ酸群から選ばれた少なくとも1つの酸若しくはその誘導体、および、過酸化物群から選ばれた少なくとも1つの過酸化物若しくはその誘導体を有する主剤と、アゾール群から選ばれた少なくとも1つのアゾール、および、ハロゲン化物群から選ばれた少なくとも1つのハロゲン化物を有する助剤とを含むことを特徴とするエッチング液が開示されている。
【特許文献1】特開平1−503470号公報
【特許文献2】特開昭61−261484号公報
【特許文献3】特開平10−96088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されたような組成のエッチング液を、銅及び銅合金の表面処理剤として用いた場合には、銅及び銅合金の表面が粗化してしまうため、前述した表面粗化による品質低下等の問題を生じ、表面を粗化することなくDFR等を強固に密着させ得る表面に仕上げるという目的を達成することはできなかった。
【0007】
更に、前記問題と併せ、前後工程との関係上銅表面粗化処理後、処理物を直ちにDFRラミネート工程に入れず保管する場合があるが、表面粗化処理等の化学処理を行った銅表面は、活性化しているため、保管中に酸化するという問題がある。一般的には、化学処理後に別途防錆処理を行うことになるが、処理工程が増え、管理が煩雑になるという問題も抱えている。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、プリント回路基板の回路などの銅及び銅合金の表面を簡便に処理でき、銅及び銅合金の表面を粗化することなく、DFR等を強固に密着させることができ、且つ、防錆性を有する表面に仕上げることができるプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液とそれを用いた表面処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを含む水溶液からなるプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液を提供する。
【0010】
本発明のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液において、前記アミノ基含有アゾールが、5−アミノテトラゾール、3−アミノトリアゾール、それらの誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0011】
本発明のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液において、前記水溶液中に、過酸化水素の安定剤と非イオン系界面活性剤の一方又は両方を含むことが好ましい。
【0012】
本発明のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液において、前記過酸化水素の安定剤が、分子構造中にヒドロキシル基、カルボニル基又はエーテル結合が少なくとも一つ以上ある化合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0013】
本発明のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液において、前記非イオン界面活性剤が、ポリエチレングリコールの重合度4以上の化合物からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、前記プリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液を、銅及び銅合金に接触させて表面処理を行うプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、銅及び銅合金表面を粗化することなくDFR等を強固に密着できる表面仕上げを行うことができると共に防錆性を有する表面の形成を一つの簡便な薬液処理によって完結できるプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液とそれを用いた表面処理方法を提供することができる。本発明は、著しい薄化が進むプリント回路基板の製造プロセスにおける銅及び銅合金表面の無粗化高密着仕上げ処理としてきわめて有用な手段を提供するものであり、工業的価値は非常に大きい。
また、本発明の表面処理方法で処理した後の銅及び銅合金の表面は、平滑であるため、DFRの張り付けと剥離を複数回繰り返し行うことができるので、資源の有効利用が図れる。
また、表面粗化処理等化学処理を行った銅表面は活性化しているため、保管中に酸化し易く、保存するためには別途防錆処理を行う必要があるが、本発明の表面処理方法で処理した後の銅及び銅合金の表面は、耐熱性や防錆性に優れており、別途防錆処理を行わなくても長期保存が可能となるので、余分な防錆処理を省くことができる。
さらに、本発明の表面処理方法で処理した後の銅及び銅合金の表面は、金属銅及び銅酸化物の色と異なる美麗な色調を呈するものとなり、多様な色の耐熱防錆性に優れた表面を有する表面美麗な銅製品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、過酸化水素及び燐酸を主成分とし、DFR等の密着性向上成分として、アミノ基含有アゾールを配合することにより、銅及び銅合金の表面を粗化することなく、DFR等を強固に密着させ得る表面に仕上げることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る銅及び銅合金の表面処理液(以下、表面処理液と略記する。)は、過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを含む水溶液からなることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る表面処理液において、過酸化水素および燐酸は、表面処理液の主成分として用いる。本発明に係る表面処理液中の過酸化水素の配合量は、1g/L〜220g/Lの範囲とすることが好ましく、5g/L〜100g/Lの範囲がより好ましく、10g/L〜50g/Lの範囲が更に好ましい。
また、燐酸の配合量は、4g/L〜1000g/Lの範囲とすることが好ましく、10g/L〜150g/Lの範囲がより好ましく、20g/L〜60g/Lの範囲が更に好ましい。
【0018】
また、本発明に係る表面処理液には、アミノ基含有アゾールを必須成分として配合する。このアミノ基含有アゾールとしては、少なくとも1つのアミノ基を有するアゾール化合物、該化合物の誘導体、該化合物の塩からなる群から選択される1種又は2種以上を用いることができ、特に好ましいアミノ基含有アゾールとしては、5−アミノテトラゾール、3−アミノトリアゾール、それらの誘導体及びそれらの塩が挙げられる。
【0019】
本発明に係る表面処理液において、アミノ基含有アゾールの配合量は、DFRの密着性を得ようとする場合は0.1g/L〜飽和の範囲が好ましく、0.5g/L〜50g/Lの範囲がより好ましく、1g/L〜20g/Lの範囲が更に好ましい。また、耐熱性を有する防錆表面を得ようとする場合には、1g/L〜飽和の範囲が好ましく、5g/L〜50g/Lの範囲がより好ましく、10g/L〜40g/Lの範囲が更に好ましい。
【0020】
本発明の表面処理液は、必須成分である過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを、水に溶解させることによって調製することができる。
本発明の表面処理液は、必須成分である過酸化水素、燐酸、アミノ基含有アゾール及び水以外に、過酸化水素の安定剤、界面活性剤などの各種の添加物を必要に応じて添加することができる。
【0021】
本発明の表面処理液において、過酸化水素の安定剤を配合することが好ましい。過酸化水素の安定剤として使用し得る物質は、分子構造中にヒドロキシル基、カルボニル基又はエーテル結合が少なくとも一つ以上あるものが好ましい。ヒドロキシル基を有する物質としては、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられ、カルボニル基を有する物質としてはプロピオンアルデヒド、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられ、エーテル結合を有する物質としてはポリエチレングリコールフェニルエーテル等が挙げられる。本発明の表面処理液に過酸化水素の安定剤を配合する場合、その配合量は、0.01g/L 〜 20g/Lの範囲とすることが好ましく、0 .1g/L 〜 15g/Lの範囲がより好ましく、0 .5g/L 〜 10g/Lの範囲が更に好ましい。
【0022】
また、本発明の表面処理液に好適に配合し得る非イオン界面活性剤としては、ポリエチレングリコールフェニルエーテル、ポリエチレングリコールスチレン化フェニルエーテル、ポリエチレングリコールベンジルエーテルなどを使用することができる。これらの非イオン界面活性剤は、銅表面の洗浄効果などの界面活性剤本来の作用の他、過酸化水素の安定剤としても有効である。なお、前記化合物中のエチレングリコールの重合度は、4以上であることが望ましい。この重合度が4を下回る化合物は、経時的に不溶性の黒茶褐色の副生成物を生じ、槽壁あるいは処理基板表面に付着し汚損するので好ましくない。本発明に係る表面処理液中に非イオン界面活性剤を配合する場合、その配合量は、0.01g/L〜20g/Lの範囲とすることが好ましく、0.1g/L〜15g/Lの範囲がより好ましく、0.5g/L〜10g/Lの範囲が更に好ましい。
【0023】
本発明の表面処理方法は、前述した本発明に係る表面処理液を、プリント配線基板を製造するために用いる銅張積層板などの非処理物の銅表面に接触させる工程を有することを特徴とする。
なお、本発明の表面処理方法は、プリント配線基板を製造するために用いる銅張積層板などの表面処理に適用可能であるが、これに限らず、銅及び銅合金の表面を粗化させずに接着剤や粘着剤などに対する密着性を向上させる目的で、銅及び銅合金からなる表面を有する各種の機器や部品等の表面処理に適用することができる。
【0024】
銅張積層板を用いてプリント配線基板を製造するには、概ね、
(1)銅張積層板の銅に表面処理を施す工程、
(2)表面処理した銅にDFRを張り付ける工程、
(3)露光、現像し、銅表面にDFRによる回路のマスクを形成する工程、
(4)マスクを形成した基板にエッチングを施し、余分な銅を除去して回路を形成する工程、
(5)マスクを剥離して回路形成済みのプリント配線基板を得る工程、
を経て行っている。このようなプリント配線基板の製造において、本発明の表面処理方法は、(1)の表面処理工程で好適に使用される。
【0025】
本発明の表面処理方法によって銅の表面処理を行うには、必要に応じて保温機能や撹拌機能を備えた処理槽内に、前述した本発明に係る表面処理液を入れ、銅張積層板などの非処理物をこの液中に所定時間浸漬して引き上げることによって行うことができる。また、スプレー処理を行うことにより、より均一の表面処理を行うことができる。この表面処理を行った被処理物は、十分に洗浄し、乾燥した後、次のDFR張り付け工程に供される。前記(2)工程以降は、プリント配線基板の製造分野で従来より周知の方法を用いて実施することができる。
【0026】
本発明の表面処理方法において、銅の表面処理を行う際の液温は、20〜50℃の範囲が好ましく、30〜40℃の範囲がより好ましい。
また、被処理物を表面処理液中に浸漬する処理時間は、使用する表面処理液の組成、液温、被処理物の銅層の状態(銅層の厚さや表面状態)などに応じて適宜変更してよく、通常は5秒〜120秒の範囲が好ましく、30秒〜90秒の範囲がより好ましい。
また、本発明の表面処理方法において、銅の表面と表面処理液との接触を促進させるために、超音波振動を付与したり、表面処理液を循環供給して液流を銅の表面に当てるようにしてもよい。
【実施例】
【0027】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]
過酸化水素(H)1g/L、燐酸(HPO)4g/L、5−アミノテトラゾール1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とした。
被処理物として市販の銅張積層板(日立化成工業社製、商品名:MCL−E67)を用いた。
前記の通り調製した表面処理液を200mLガラスビーカに入れ、液温を40℃に保ち、その液中に銅張積層板を浸漬し、処理時間60秒で処理を行った。
この表面処理後、銅張積層板を十分に水洗し、乾燥させ、表面の仕上り状態(下記表中では「仕上り」と記す。)と密着性(テープ糊の転着状態)とを調べ、この二つの指標により総合判断した。
【0029】
<表面の仕上がり状態>
表面処理後の銅張積層板の表面を目視にて観察し、以下の評価基準で評価を行った。
○:未処理の銅表面に比して同等乃至はより平滑で、くすみ、斑がない場合。
×:未処理の銅表面に比して粗く、又はくすみ、斑がある場合。
【0030】
<密着性>
表面処理後の銅張積層板の表面に粘着テープ(積水化学社製のポリエステルテープ、商品名:LITHOGRAPHIC)を圧着後、テープを剥離し、銅表面に残存するテープ糊の転着状態を目視で調べ、以下の評価基準で評価を行った。
○:テープ糊の転着が全面均一である場合。
×:テープ糊の転着が全面均一でなく、一部又は全部が欠損している場合。
【0031】
<総合評価>
○:前述した表面仕上がり状態と密着性との評価について、両方とも○であった場合。
×:前述した表面仕上がり状態と密着性との評価について、一方又は両方が×であった場合。
【0032】
[実施例2]
燐酸を35g/Lとし、5−アミノテトラゾールを0.1g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0033】
[実施例3]
燐酸を35g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0034】
[実施例4]
過酸化水素を20g/Lとし、燐酸を35g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0035】
[実施例5]
5−アミノテトラゾールを5g/Lとしたこと以外は、実施例4と同じとした。
【0036】
[実施例6]
5−アミノテトラゾールを10g/Lとしたこと以外は、実施例4と同じとした。
【0037】
[実施例7]
過酸化水素を20g/Lとし、燐酸を35g/Lとし、5−アミノテトラゾールを20g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0038】
[実施例8]
過酸化水素を220g/Lとし、燐酸を35g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0039】
[実施例9]
燐酸を1000g/Lとし、5−アミノテトラゾールを4g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0040】
[実施例10]
燐酸を35g/Lとし、5−アミノテトラゾールに代えて3−アミノトリアゾールを1g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0041】
[実施例11]
過酸化水素を20g/Lとしたこと以外は、実施例10と同じとした。
【0042】
[実施例12]
3−アミノトリアゾールを5g/Lとしたこと以外は、実施例11と同じとした。
【0043】
[実施例13]
3−アミノトリアゾールを10g/Lとしたこと以外は、実施例11と同じとした。
【0044】
[実施例14]
過酸化水素を20g/Lとし、燐酸を83g/Lとし、5−アミノテトラゾールに代えて3−アミノトリアゾールを20g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0045】
[実施例15]
過酸化水素を220g/Lとしたこと以外は、実施例10と同じとした。
【0046】
[実施例16]
過酸化水素を20g/Lとし、燐酸を35g/Lとし、5−アミノテトラゾールに代えて3−アミノ−5−カルボキシトリアゾールを0.25g/Lとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0047】
[実施例17]
3−アミノ−5−カルボキシトリアゾールを1g/Lとしたこと以外は、実施例16と同じとした。
【0048】
実施例1〜9は、過酸化水素、燐酸および5−アミノテトラゾールの組合せ例である。
実施例10〜15は、過酸化水素、燐酸および3−アミノトリアゾールの組合せ例である。
実施例16〜17は、過酸化水素、燐酸および3−アミノ−5−カルボキシトリアゾールの組合せ例である。
これらの実施例1〜17の表面処理液の組成及び評価結果を表1にまとめて記す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果より、本発明に係る実施例1〜17の表面処理液は、仕上りおよび密着性の双方を満足する良好な結果となった。
【0051】
[比較例1]
過酸化水素20g/L、5−アミノテトラゾール1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0052】
[比較例2]
燐酸35g/L、5−アミノテトラゾール1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0053】
[比較例3]
過酸化水素1g/L、燐酸4g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0054】
[比較例4]
過酸化水素1g/L、燐酸35g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0055】
[比較例5]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0056】
[比較例6]
過酸化水素220g/L、燐酸35g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0057】
[比較例7]
過酸化水素1g/L、燐酸35g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0058】
比較例1〜7は、実施例1〜8に対し、過酸化水素、燐酸、5−アミノテトラゾールのいずれかを含まない組合せ例である。比較例1〜7の表面処理液の組成及び評価結果を表2にまとめて記す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2の結果より、比較例1〜7は、いずれも総合判定で満足し得ない結果となり、過酸化水素、燐酸、5−アミノテトラゾール等のアミノ基含有アゾールの三種が本発明の表面処理液における必須構成要素であることが分かる。
【0061】
[比較例8]
過酸化水素20g/L、硫酸(HSO)35g/L、5−アミノテトラゾール1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0062】
[比較例9]
過酸化水素20g/L、酢酸(CHCOOH)35g/L、5−アミノテトラゾール1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0063】
[比較例10]
過酸化水素20g/L、過塩素酸(HClO)35g/L、5−アミノテトラゾール1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0064】
[比較例11]
過酸化水素20g/L、硝酸(HNO)35g/L、5−アミノテトラゾール1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0065】
比較例8〜11は、実施例4に対し、酸成分を燐酸以外の酸に変えた組合せ例である。比較例8〜11の表面処理液の組成及び評価結果を表3にまとめて記す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3の結果より、比較例8〜11は、いずれも総合判定で満足し得ない結果となり、燐酸以外の酸では、本発明に係る実施例と同様の表面処理を行うことができないことが分かる。
【0068】
[比較例12]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、1H−テトラゾール(Tet)1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0069】
[比較例13]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、5−メチルテトラゾール(5MT)1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0070】
[比較例14]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、5−フェニルテトラゾール(5PT)0.2g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0071】
[比較例15]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、5,5’−ビ−テトラゾール(BHT)1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0072】
[比較例16]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、1H−トリアゾール(Try)1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0073】
[比較例17]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、アデニン(Ade)1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0074】
[比較例18]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、アニシジン(Ani)1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0075】
[比較例19]
過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、ベンゾトリアゾール(BTA)1g/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とし、それ以外は実施例1と同様に表面処理を行った。
【0076】
比較例12〜19は、実施例4(11,17)に対し、使用したアミノ基含有アゾールをそれ以外のアゾールまたは類似物に変えた例である。比較例12〜19の表面処理液の組成及び評価結果を表4にまとめて記す。
【0077】
【表4】

【0078】
表4の結果より、比較例12〜19は、いずれも総合判定で満足し得ない結果となり、アゾールとして5−アミノテトラゾールおよび3−アミノトリアゾール及びその誘導体などのアミノ基含有アゾール以外では、本発明に係る実施例と同様の表面処理を行うことができないことが分かる。
【0079】
[表面処理後の銅表面の観察]
電子顕微鏡を用い、未処理の銅張積層板の銅表面、及び実施例4の表面処理液を用いて表面処理した後の銅表面の状態を観察し、比較した。
図1は未処理の銅張積層板の銅表面、図2は実施例4の表面処理液を用いて表面処理した後の銅表面の画像である。両方とも倍率は2000倍である。
図1、図2から、本発明に係る表面処理方法で処理された銅表面は、粗化されないが、DFR等を強固に密着できる表面に仕上げられていることが分かる。
【0080】
[テープ糊の転着状態の目視評価]
前述した<密着性>の評価に従って、未処理の銅張積層板の銅表面と、実施例4の表面処理液を用いて表面処理した後の銅表面とに、それぞれテープを圧着し、これを剥離してテープ糊を銅表面に転着させた後、テープ糊転着部に酸化銅(黒色)の粉末を付着させ、テープ糊の転着状態を明確に目視可能とし、比較した。
図3は未処理の銅張積層板の銅表面のテープ糊転着状態を示す図であり、図4は実施例4の表面処理液を用いて表面処理した後の銅表面のテープ糊転着状態を示す図である。
図3、図4から、本発明に係る表面処理方法で処理された銅表面は、テープ糊が全面均一に転着されており、優れた密着性を有していることが分かる。
【0081】
[テープ引き剥がし強さ試験]
前述した実施例1〜17および比較例1〜19における表面の仕上り状態判定に用いたテープ密着試験の評価結果が、DFRの密着性と相関があるのかを確認するため、JIS C5012に準拠したテープ引き剥がし強さ試験を実施した。
サンプルとして、実施例4の表面処理液を用いて表面処理した後の銅張積層板(実施例4と記す)と、未処理の銅張積層板(未処理と記す)と、一般的な化学整面処理に用いられている過酸化硫酸ナトリウム水溶液(過酸化硫酸ナトリウム35g/L、硫酸30g/Lを含む水溶液)で表面処理した銅張積層板(比較例20と記す)の3種類を用いた。
尚、JIS C5012に準拠したテープ引き剥がし強さ試験に用いた試験片は、日立化成工業社製の両面銅張板(商品名:MCL−E67)に各処理を施し、旭化成エレクトロニクス社製のDFR(商品名:SUNFORT AQ−2575)をラミネートし、露光量50mJにて硬化させたものを用いた。
結果を表5にまとめて記す。
また、比較例20の銅表面の状態(2000倍)を図5に示す。
また、未処理の銅表面でのテープ引き剥がし強さ試験の結果を図6に示す。
また、比較例20の銅表面でのテープ引き剥がし強さ試験の結果を図7に示す。
また、実施例4の銅表面でのテープ引き剥がし強さ試験の結果を図8に示す。
【0082】
【表5】

【0083】
表5の結果及び図6〜8の図示から分かる通り、未処理ではDFRが全面剥離し全く密着性が無かった。
比較例20は、未処理に比べれば若干密着はあるが、カッターを入れて交差した碁盤目状の刻み部分のDFRは殆ど全て剥離した。
これらに対し、実施例4では、カッターを入れて交差した碁盤目状の刻み部分のDFRは殆ど剥離しておらず、未処理および比較例20に比較して強い密着性が付与されていることが実証された。この結果から、実施例1〜17および比較例1〜19におけるテープ密着試験の評価法と、JIS C5012に準拠したテープ引き剥がし強さ試験とには、強い相関があることが確認できた。
【0084】
[過酸化水素の安定剤の評価試験]
過酸化水素の安定剤としての効果を数種類の化合物で評価した結果を示す。
基本組成として、過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、銅(Cu)10g/Lとし、さらに表6中のNo.2〜9に記した各物質(ただし、No.1は無添加(ブランク))をそれぞれ10g/L含む水溶液を調製し、30℃で72時間放置後の過酸化水素の残存率を測定し、この残存率を安定性(%)とし、その安定性が80%以上を○とし、80%未満を×として評価した。その結果を表6にまとめて記す。
【0085】
【表6】

【0086】
No.2のフェノールスルホン酸ナトリウムは、一般に過酸化水素/硫酸系の処理液に用いられているが、今回の評価では、ブランクよりも安定性が低く、本発明の表面処理液における過酸化水素の安定剤としては不適であった。
それ以外のNo.3〜9の各物質(ポリエチレングリコールフェニルエーテル、n−ブタノール、t−ブタノール、1,3−ブタンジオール、n−プロパノール、イソプロパノール、N−メチル−2−ピロリドン)は、いずれも89%以上の高い安定性(過酸化水素残存率)を示し、本発明の表面処理液における過酸化水素の安定剤として好適である。
ポリエチレングリコールフェニルエーテルは、非イオン系界面活性剤であるが、過酸化水素の安定剤としての効果をも有している。
【0087】
[防錆性の評価試験]
前記実施例4の表面処理液の組成(過酸化水素20g/L、燐酸35g/L、5−アミノテトラゾール1g/L)を基本とし、下記表7中に記した通り、燐酸と5−アミノテトラゾールの配合量を種々変更した実施例18〜27の組成の表面処理液をそれぞれ調製した。
実施例4、実施例18〜27、比較例5及び比較例20のそれぞれの表面処理液に、銅張積層板(日立化成工業社製、商品名:MCL−E67)を浸漬し、温度40℃、処理時間60秒で処理を行った。
この表面処理後、洗浄及び乾燥させた各銅張積層板について、表面の仕上り状態と乾燥機における120℃×60分放置および150℃×60分放置における変色の有無の三つの指標により防錆性を総合判断した。判定は以下の通りとした。
○:未処理の銅張積層板と同等の金属光沢が有り且つ150℃×60分放置で変色が無かった場合。
△:未処理の銅張積層板と同等の金属光沢が有り且つ120℃×60分放置で変色が無かった場合。
×:前記○と△以外の場合。
結果を表7にまとめて記す。
【0088】
【表7】

【0089】
実施例4、実施例18〜27は、表面処理後の銅表面が未処理と同様の金属光沢を有しつつ、様々な色調となり、120℃×60分放置では変色は起こらなかった。さらに、実施例20〜25においては150℃×60分放置でも変色が起こらなかった。
一方、比較例5及び比較例20は、仕上り状態が悪く、且つ120℃×60分放置及び150℃×60分放置で褐変を生じた。
【0090】
[比較例21]
過酸化水素20g/L、硫酸54g/L、5−アミノテトラゾール0.5g/L、塩素イオン0.5mg/Lを含む水溶液を調製し、表面処理液とした。
被処理物として市販の銅張積層板(日立化成工業社製、商品名:MCL−E67)を用いた。
前記の通り調製した表面処理液を200mLガラスビーカに入れ、液温を40℃に保ち、その液中に銅張積層板を浸漬し、処理時間60秒で処理を行った。
この表面処理後、銅張積層板を十分に水洗し、乾燥させ、前記[表面処理後の銅表面の観察]及び[テープ引き剥がし強さ試験]を実施した。図9に、この比較例21の銅表面の状態を示す。また図10に、この比較例21の銅表面におけるテープ引き剥がし強さ試験の結果を示す。
図9から、この比較例21で用いた表面処理液は、処理した銅表面が粗化されることが分かる。また、図10から、この比較例21で処理した銅表面は、カッターを入れて交差した碁盤目状の刻み部分のDFRが殆ど剥離しておらず、密着性が強いことが分かる。
このように、比較例21の表面処理液は、処理した銅表面に密着性が得られるものの、表面粗化を生じてしまう。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、未処理の銅表面の状態を表す図である。
【図2】図2は、実施例4の銅表面の状態を表す図である。
【図3】図3は、未処理の銅表面におけるテープ糊転着状態を表す図である。
【図4】図4は、実施例4の銅表面におけるテープ糊転着状態を表す図である。
【図5】図5は、比較例20の銅表面の状態を表す図である。
【図6】図6は、未処理の銅表面におけるテープ引き剥がし強さ試験の結果を表す図である。
【図7】図7は、実施例20の銅表面におけるテープ引き剥がし強さ試験の結果を表す図である。
【図8】図8は、実施例4の銅表面におけるテープ引き剥がし強さ試験の結果を表す図である。
【図9】図9は、比較例21の銅表面の状態を表す図である。
【図10】図10は、比較例21の銅表面におけるテープ引き剥がし強さ試験の結果を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを含む水溶液からなるプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液。
【請求項2】
前記アミノ基含有アゾールが、5−アミノテトラゾール、3−アミノトリアゾール、それらの誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1に記載のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液。
【請求項3】
前記水溶液中に、過酸化水素の安定剤と非イオン系界面活性剤の一方又は両方を含む請求項1又は2に記載のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液。
【請求項4】
前記過酸化水素の安定剤が、分子構造中にヒドロキシル基、カルボニル基又はエーテル結合が少なくとも一つ以上ある化合物からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項3に記載のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液。
【請求項5】
前記非イオン界面活性剤が、ポリエチレングリコールの重合度4以上の化合物からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項3に記載のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液を、銅及び銅合金に接触させて表面処理を行うプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−299096(P2009−299096A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151861(P2008−151861)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000140111)株式会社荏原電産 (51)
【Fターム(参考)】