説明

プリント機構

【目的】 低コストで加熱および加圧を実現するプリント機構であるとともに、プリント機構の小型化を図ることが可能なプリント機構を提供する。
【構成】 シート状媒体(40)に対する摩擦力でそのシート状媒体(40)を相対的に送り出す用紙送り機構(36)と、前記シート状媒体(40)における面に対して局所的な加熱が可能なサーマルヘッド(33)と、前記シート状媒体(40)の面に対して局所的にかける圧力を制御する圧力機構(70)と、を備える。前記圧力機構(70)は、前記シート状媒体(40)に対する高圧状態、およびその高圧状態よりも低い圧力の低圧状態という少なくとも二段階を制御可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント機構の技術に関し、特に、少ない部材で印刷を実現させたプリント機構の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、発色剤等を封入したカプセルを用いて画像を形成する画像形成システムが知られている。この種の画像形成システムでは、カプセルの壁膜は光硬化性樹脂製の膜で構成されており、基材上に当該カプセルの層を形成してシート化し、当該カプセル層を所望の画像パターンに応じて露光した後、圧力を加えることによって、露光(硬化)されなかったカプセルが潰れて発色剤等が外に出て、シート上で発色するよう構成されている。
【0003】
図10は、上記の画像形成システムとしてのサーマルプリンタである。
このサーマルプリンタは、所定の樹脂でできた壁膜の内部にインクを封入してカプセルを構成し、基材の表面上にカプセルの層を形成してシート化し、カプセル層を所望の画像パターンに応じて加熱して壁膜のガラス転移温度以上に上昇させると共に、カプセル層を加圧することによって、カプセルの壁膜を破壊して内部のインクを放出させるよう構成されている。そして、この技術によれば、低コストで廃棄物が少なく、且つカラー対応が可能な画像形成システムを提供することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−170692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、サーマルヘッド及び発熱部がそれぞれ3個ずつ使用された構成となっていることが分かる(サーマルヘッド51,52,53、発熱部56,57,58)。通常、プリンタを構成する部品のうち、最も高価な部品がサーマルヘッド等のヘッド群であることは知られている。このため、通常のプリンタでは記録用紙を3往復させることでフルカラー印刷を実現させている。
【0006】
これに対し、特許文献1のサーマルプリンタでは、サーマルヘッドを3個も使用していることから、コスト高になってしまう。
また、複数のサーマルヘッドや発熱部を使用することによって、プリント機構全体の大型化を招くおそれもあった。
したがって、低コストで加熱および加圧を実現するプリント機構であるとともに、プリント機構の小型化を図ることが可能なプリント機構の開発が望まれていた。
【0007】
請求項1から請求項3記載の発明は、低コストで加熱および加圧を実現するプリント機構であるとともに、プリント機構の小型化を図ることが可能なプリント機構を提供することにある。
また、請求項4に記載の発明によれば、低コストで加熱および加圧を実現するプリント機構であるとともに、プリント機構の小型化を図ることが可能なプリント方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1)
シート状媒体(40)に対する摩擦力でそのシート状媒体(40)を相対的に送り出す用紙送り機構(36)と、前記シート状媒体(40)における面に対して局所的な加熱が可能なサーマルヘッド(33)と、前記シート状媒体(40)の面に対して局所的にかける圧力を制御する圧力機構(70)と、を備え、前記圧力機構(70)は、シート状媒体に対して高圧をかける高圧状態、およびその高圧状態よりも低い圧力の低圧状態という少なくとも二段階を制御可能としたプリント機構である。
【0009】
(作用)
用紙送り機構(36)がシート状媒体(40)を搬送させる。その搬送されたシート状媒体(40)の面に対してサーマルヘッド(33)が加熱処理をする。加熱処理後、シート状媒体(40)に対してサーマルヘッド(33)が加圧処理をする。この加圧処理は、圧力機構(70)によって二段階で制御される。すなわち、シート状媒体に対して高圧をかける高圧状態、およびその高圧状態よりも低い圧力の低圧状態で制御する。つまり、サーマルヘッド(33)の加圧処理を圧力機構(70)が高圧および低圧の二段階で調整しているため、シート状媒体(40)を印刷する際に、段階的かつ複数の色で発色させることができる。
【0010】
(請求項2)
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のプリント機構を限定したものである。
すなわち、前記圧力機構(70)は、サーマルヘッド(33)をシート状媒体(40)に押し付ける方向への回動を可能とする回転軸(71)と、その回転軸(71)に対するシート状媒体(40)に押し付ける方向への付勢力を与える付勢手段(72,73)と、その付勢手段(72,73)に対する付勢力を二段階に切り替え可能な切替機構(72,73,76,78,)と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
(作用)
回転軸(71)に軸支されて回動したサーマルヘッド(33)は、付勢手段(72,73)の伸張または収縮によって、シート状媒体(40)を押し付ける。加圧力は、切替機構(72,73,76,78,)を用いて付勢手段(72,73)を、高圧と低圧の二段階に切り替えることができる。
切替機構(72,73,76,78,)を備えることで、複数のサーマルヘッド(33)を使用しなくても加圧力を変化させることができる。このため、コストメリットに優れたプリント機構が実現できる。
【0012】
(請求項3)
請求項3記載の発明は、請求項2に記載のプリント機構を限定したものである。
すなわち、前記切替機構(72,73,76,78,)は、低圧状態を作り出すための低圧バネ(72)と高圧状態を作り出すための高圧バネ(73)とを備えるとともに、それら低圧バネ(72)および高圧バネ(73)の一端は、前記サーマルヘッド(33)の回転軸(71)に対するヘッド部(33a)とは反対側に固定し、前記高圧バネ(73)が効かなくなる無圧位置と高圧状態を作り出す高圧位置との少なくとも二段階を実現可能な回転カム(76)と、その回転カム(76)の回転を制御するモータと、そのモータの制御によって回転した回転カム(76)の周面を移動して、前記サーマルヘッド(33)を押圧させるL字梃子(78)と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
(作用)
モータから伝達された回転作用によって回転カム(76)が回転する。
回転カム(76)が高圧状態の位置にあれば、高圧バネ(73)が収縮し、L字梃子(78)がサーマルヘッド(33)を押圧してヘッド部(33a)が記録シート(40)を加圧する。
一方、回転カム(76)が回転して低圧状態の位置にくると、高圧バネ(73)が伸張するので、L字梃子(78)はサーマルヘッド(33)から離れ、サーマルヘッド(33)のヘッド部(33a)のみが記録シート(40)を加圧する。
すなわち、切替機構(72,73,76,78,)を備えることで、記録シート(40)を加圧する際に、一つのサーマルヘッド(33)で低圧と高圧の異なる加圧力を実現することができる。このため、低コストで加熱や加圧を実現するプリント機構が形成される。また、部品数が少なくなるので、プリント機構の小型化も図ることができる。
なお、高圧バネ(73)と低圧バネ(72)とは同一のバネとして形成しても良い。
【0014】
(請求項4)
請求項4に記載の発明は、 シート状媒体に対する摩擦力でそのシート状媒体を相対的に送り出す用紙送り機構と、 前記シート状媒体における面に対して局所的な加熱が可能なサーマルヘッドと、 前記シート状媒体の面に対して局所的にかける圧力を制御する圧力機構と、を備えたプリント機構の制御方法に係る。
すなわち、前記用紙送り機構によって前記シート状媒体のプリント位置を前記サーマルヘッドの位置へ移動させる用紙送り工程と、 前記シート状媒体に対しては、前記圧力機構による低圧状態下にて前記サーマルヘッドによる低温加熱工程と、 その低温加熱を終えた部位に対して前記圧力機構による高圧状態を与える高圧工程と、 その高圧工程を終えた部位に対して、前記サーマルヘッドによる中温加熱工程と、 その中温加熱工程を終えた部位に対して、前記サーマルヘッドによる高温加熱工程とを含むことによって前記シート状媒体へのプリントを実行するプリント方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1から請求項3に記載の発明によれば、低コストで加熱および加圧を実現するプリント機構であるとともに、プリント機構の小型化を図ることが可能なプリント機構を提供することができた。
また、請求項4に記載の発明によれば、低コストで加熱および加圧を実現するプリント機構であるとともに、プリント機構の小型化を図ることが可能なプリント方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を参照させながら説明する。ここで使用する図面は、図1から図9である。図1は、高圧状態のプリント機構を示した正面図であり、図2は、低圧状態のプリント機構を示した正面図であり、図3から図6は、印刷シートについて説明した図であり、図7は、プリント機構の他の形態を示した概略図であり、図8は、プリント機構を搭載した画像形成装置の概略図であり、図9は、図8の他の形態を示した概略図である。
【0017】
プリント機構30は、記録シート40に対する摩擦力でその記録シート40を相対的に送り出すシート送りローラ(用紙送り機構)36と、記録シート40における面に対して局所的な加熱が可能なサーマルヘッド33と、そのサーマルヘッド33に対向し、記録シート40を挟んで配置されたプラテンローラ32と、記録シート40の面に対して局所的にかける圧力を制御する圧力機構70と、プリント機構30を制御する制御部51と、を備えて構成されている。
【0018】
(シート送りローラ)
シート送りローラ36(図7)は、シート収容ケース50の最上段の記録シート40に接触して位置し、制御部51からの制御信号に基づいてモータ(図示は表示しない)によって回転駆動される。シート送りローラ36が回転すると、バネの付勢力により記録シート40とシート送りローラ36との間に生じた摩擦力によって、シート送りローラ36の回転に連動してシート収容ケース50の最上段の記録シート40がサーマルヘッド33に向けて搬送される。なお、制御部51は、上記制御信号に基づいて、モータ(シート送りローラ36)の回転量を制御することで、記録シート40の位置や送り量を制御する。
【0019】
(サーマルヘッド)
サーマルヘッド33は、複数の発熱素子を主走査方向にライン状に並べた発熱素子アレイを備えている。サーマルヘッド33は、発熱素子アレイを記録シート40に接触した状態で、形成する画像に応じたパターンで各発熱素子を発熱させる。本実施形態では、各発熱素子は、少なくとも、非発熱状態、低温発熱状態および高温発熱状態の3状態を有し、これら3状態のうち一つが制御部51によって選択される。
【0020】
各発熱素子の発熱温度は、その発熱素子に接続された抵抗に電流を流す時間によって制御される。制御部51は、加熱時間に応じて、サーマルヘッド33の各発熱素子に電流を流す時間を規定するストローブ信号のパルス幅を制御する。なお、サーマルヘッド33は、低温発色状態および高温発色状態の各々において、画像データの諧調に応じた複数の発熱温度を調整可能にしてもよい。
【0021】
(プラテンローラ)
プラテンローラ32は、記録シート40の搬送経路を挟んだ反対側に設けられている。プラテンローラ32は、記録シート40の搬送に応じて回転し、記録シート40とサーマルヘッド33の発熱素子との接触状態を安定にする。なお、プラテンローラ32及びサーマルヘッド33に隣接した搬送経路の下流側には、排出口から排出された記録シート40を挟み込んで搬送させる一対の搬送補助ローラを備えていても良い。
【0022】
圧力機構70は、高圧状態およびその高圧状態よりも低い圧力の低圧状態という少なくとも二段階を制御可能な機能を有する。
この圧力機構70は、サーマルヘッド33を記録シート40に押し付ける方向への回動を可能とする回転軸71と、その回転軸71に対する記録シート40に押し付ける方向への付勢力を与える付勢手段と、その付勢手段に対する付勢力を二段階に切り替え可能な切替機構と、を備えている。
【0023】
切替機構は、前述した付勢手段を用いている。すなわち、低圧状態を作り出すための低圧バネ72と高圧状態を作り出すための高圧バネ73と、それら低圧バネ72および高圧バネ73の一端は、サーマルヘッド33の回転軸71に対するヘッド部33aとは反対側に固定し、高圧バネ73が効かなくなる無圧位置と高圧状態を作り出す高圧位置との少なくとも二段階を実現可能な回転カム76と、その回転カム76の回転を制御するモータ(図示は表示しないが、回転角度の制御が容易なステッピングモータが好ましい)と、そのモータの制御によって回転した回転カム76の周面を移動して、サーマルヘッド33を押圧させるL字梃子78とから構成されている。
【0024】
(バネ)
低圧バネ72の一端72aはフック状に形成されており、サーマルヘッド33に固定された低圧バネ支持部33bに接続されている。同様に、フック状の他端72bは、低圧バネ支持部33bに対向配置された第二低圧バネ支持部33bに接続されている。
高圧バネ73の一端73aもフック状に形成されており、L字梃子78に固定された高圧バネ支持部78bに接続されている。フック状の他端73bは、高圧バネ支持部78bに対向配置された第二高圧バネ支持部78cに接続されている。
なお、高圧バネ(73)と低圧バネ(72)とは同一のバネとして形成するようにしても良い。
【0025】
(L字梃子)
L字梃子78は、サーマルヘッド33と回転軸71によって回転自在に結合されており、サーマルヘッド33側に位置する一端に、サーマルヘッド33の上部33dに当接する当接部78aとを備え、サーマルヘッド33の回転軸71に対するヘッド部33aとは反対側に固定されている。また、L字梃子78の他端78dは、回転カム76の切り欠き部76aに接続され、回転カム76の回転動作に応じて高圧バネ73が伸縮し、高圧状態と低圧状態が作られる。
【0026】
(回転カム)
回転カム76は、モータからの駆動力が伝達されることで同一方向に回転する回転体であり、その円周上に切り欠き部76aを備えている。また、高圧バネ73が効かなくなる低圧位置と、高圧状態を作り出す高圧位置との少なくとも二段階の状態を実現可能な機能を備えている。
すなわち、図1に示した状態は、切り欠き部76aにL字梃子78の端部が噛み合った状態である。この状態は高圧状態であり、サーマルヘッド33の上部33dにL字梃子78の当接部78aが当接して押圧している。このため、サーマルヘッド33だけの押圧力に加え、L字梃子78の押圧力も加わることになる。
【0027】
また、図2に示した状態は、回転カム76が矢印方向に回転し、切り欠き部76aに対してL字梃子78の端部が外れた状態である。この状態は低圧状態(無圧)であり、サーマルヘッド33の上部33dにL字梃子78の当接部78aが外れている。このため、低圧バネ72のみによる付勢力が産み出す押圧力が掛かっていることになる。
【0028】
また、回転カム76の切り欠き部76aは、図7に示すような切り欠き部76bのような形態としても良い。この場合の、回転カム76の位置とL字梃子78と各バネの関係は次のようになる。
L字梃子78が切り欠き部76bにおけるαの位置にある場合には、高圧バネ73及び低圧バネ72の二つのバネ力が記録シート40に対して印加されている状態である。
L字梃子78が切り欠き部76bにおけるβの位置にある場合には、高圧バネ73のみが記録シート40に対して印加されている状態である。
L字梃子78が切り欠き部76bにおけるγの位置にある場合には、高圧バネ73及び低圧バネ72のバネ力が解除される。
なお、γの位置でバネ力を解除しているのは、サーマルヘッド33とプラテンローラ32の間の力を解除しないで長時間保存していると、ゴム質で形成されたプラテンローラ32が塑性変形してしまうからである。このため、通常時はγにL字梃子78が位置していることになる。
【0029】
また、プリント機構30には、紙詰まり排出機能を備えている。
これは、L字梃子78のリンク機構75を図7における右方向に押すと、L字梃子78が時計廻り方向に回転する。そして、L字梃子78がサーマルヘッド33の端部に接触するのでL字梃子78とともにサーマルヘッド33も時計廻り方向に回転する。すると、サーマルヘッド33が記録シート40から離れる。このため、サーマルヘッド33とプラテンローラ32間に隙間を空けることができ、紙が詰まった際でも容易に排出することができる。
【0030】
(記録シート)
次に、図3から図6を参照して本実施形態で用いられる記録シート40について説明する。
図3は、本実施形態で用いる記録シート40の断面構成図である。
図3に示すように、記録シート40は、例えば、基材41に高温発色層43、混合防止層45、低温発色層47および保護層49を順に積層して構成される。
記録シート40は、低温発色層47内に低温発色カプセル27の他に低温発色抑制カプセル28を内包している。記録シート40は、画像形成時に低温発色カプセル27が低温発色された後に、加圧されて低温発色抑制カプセル28が破壊され、低温定着される。その後に、高温発色カプセル23が高温発色される。
【0031】
基材41は、例えば、ポリエステルやポリエチレンテレフタレート(PET)等によって構成される。基材41は、白色あるいは透明である。
高温発色層43は、高温発色カプセル23、顕色剤および必要に応じて塩基性物質または酸性物質をバインダ材中に分散させて構成される。高温発色カプセル23は、例えば、発色剤を内包する。高温発色層43は、例えば、図4に示す温度T3(例えば、330℃)以上の高温状態となると、高温発色カプセル23が内包する発色剤と高温発色層43内の顕色剤とが反応して発色する。
【0032】
高温発色カプセル23は、いわゆるマイクロカプセルであり、その壁が300〜350℃のガラス転移点を持つポリウレアあるいはポリウレタンからなる。高温発色カプセル23は、ガラス転移点前後で物質浸透(透過)性が大きくなる特性を持つ。これにより、図5(A)に示すように、温度T3未満(非高温)においては、高温発色カプセル23内に顕色剤は浸透せず、高温発色カプセル23内の発色剤は発色しない。一方、図5(B)に示すように、温度T3以上(上記高温状態)になると、高温発色層13内の顕色剤が高温発色カプセル23内に浸透し、当該顕色剤と高温発色カプセル23内の発色剤とが反応して色素が形成されて発色する。
【0033】
高温発色カプセル23等の本実施形態におけるマイクロカプセルの壁は、例えば、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂等の合成樹脂で形成される。具体的には、高温発色カプセル23の壁として、メラミン−ホルムアルデヒドポリマー、尿素−ホルムアルデヒドポリマー等が用いられる。
また、マイクロカプセルの平均粒径は、例えば約3〜4μmであり、そのガラス転移点は壁の材質によって規定される。マイクロカプセルは、反応する物質を多層構造の状態で隔離しておくだけでなく、マイクロカプセルの壁を隔ててミクロンに分散して共存させることにより、数μの薄い塗布膜の中で、常温では十分に隔離性を保ちながら、加熱時に瞬時に十分な物質浸透性を持たせる機能を持つ。
【0034】
なお、高温発色カプセル23は、上記高温状態になると、その壁が溶けて、カプセル内の発色剤がカプセル外に流出して、カプセル外の顕色剤と反応して発色するように構成してもよい。
本実施形態において、発色剤と、それに反応する顕色剤との組み合わせには、例えば、ジアゾ化合物(発色剤)とカプラー(顕色剤)との組み合わせ、あるいは電子供与性無色染料(発色剤)と電子受容性化合物(顕色剤)との組み合わせ等がある。なお、ジアゾ化合物の化学構造とカプラーの化学構造との組み合わせ、あるいは電子供与性無色染料の化学構造と電子受容性化合物の化学構造との組み合わせによって任意の色相を発色できることは公知である。
【0035】
なお、上記ジアゾ化合物は、例えば、リン酸トリクレジル等である。ジアゾ化合物は、電子供与性染色前駆体(染料前駆体)であり、塩基性雰囲気でカプラーと反応して発色する。カプラーは、例えば、レゾルシルやフロログルシンであり、塩基性雰囲気中でジアゾ化合物とカップリングして色素を形成する。塩基性雰囲気は、水難溶性か水不溶性の塩基性物質や加熱によりアルカリを発生する物質(例えば、有機アンモニウム塩)によって作られる。
また、上記電子供与性無色染料は例えばロイコ染料であり、電子受容性化合物は例えばフェノール系酸性物質である。この組み合わせでは、ロイコ染料が酸性物質である顕色剤に吸着して酸化されて発色する。
【0036】
また、上記カプラーとしては、例えば、2−ヒドロキシ−3ナフトエ酸アニリド等が用いられる。
また、上記電子受容性化合物としては、例えば、フェノール化合物、有機酸またはその金属塩、オキシ安息香酸エステル等の酸性物質が用いられる。
【0037】
また、本実施形態では、発色剤をマイクロカプセル内に内包する場合を例示するが、例えば、発色剤と顕色剤とをバインダ内に分散して配置し、過熱によりバインダが溶融して発色剤と顕色剤とが反応するような構成にしてもよい。
【0038】
混合防止層45は、高温発色層43と低温発色層47との間でカプセルが混ざり合うことを防止するための層である。
【0039】
低温発色層47は、低温発色カプセル27、顕色剤、低温発色抑制カプセル28、並びに必要に応じて塩基性物質または酸性物質をバインダ材中に分散させて構成される。低温発色カプセル27は、発色剤を内包し、その壁のガラス転移点が例えば、90〜140℃の低温である。低温発色層47は、例えば、図4に示す温度T1(例えば、110℃)以上の低温状態となると、低温発色カプセル27が内包する発色剤と低温発色層47内の発色剤とが反応して発色する。低温発色カプセル27の壁のガラス転移点を除いて、発色の原理は、高温発色カプセル23と同じである。
【0040】
本実施形態において、高温発色カプセル23および低温発色カプセル27が内包する発色剤と、その外部の顕色剤とが反応する条件として、圧力は不要である。
【0041】
低温発色抑制カプセル28は、図6(A)に示すように、通常圧力(非破壊圧力)状態で、低温発色層47の発色機能を抑制する低温発色抑制剤を内包する。
低温発色抑制カプセル28は、図6(B)に示すように、図3に示す破壊圧力P1以上の圧力が加わると、カプセルが破壊状態(あるいは浸透状態)となり、低温発色抑制剤を低温発色抑制カプセル28外に流出させる。
低温発色抑制カプセル28等のマイクロカプセルの破壊(浸透)圧力は、マイクロカプセルの径と壁厚との関係、並びに壁の材質によって規定される。
低温発色抑制カプセル28が内包する低温発色抑制剤は、例えば、低温発色カプセル27内は発色剤、低温発色層47内の顕色剤、塩基性物質および酸性物質のうち、1つ以上の物質の化学構造を変化させて、化学反応を起こさないようにする機能、あるいは化学反応しても色素が生成されないようにする機能を有する。
また、低温発色抑制カプセル28は、低温発色カプセル27のカプセルの壁の物質透過性を変化させて浸透性を低下させて発色反応を抑制する機能を有していてもよい。
なお、本実施形態において、低温発色抑制カプセル28が内包する低温発色抑制剤がカプセル外部に流出する条件として、温度条件は特に不要である。
【0042】
低温発色層47において電子供与性無色染料(発色剤:例えばロイコ染料)と電子受容性化合物(顕色剤:例えば酸性物質)との組み合わせで発色する場合には、低温発色抑制カプセル28として、例えば、リン酸エステル類、テトラヒドロフタル酸、脂肪酸エステル、2価アルコールエステル類、エポキシ系可塑剤あるいはトリメット酸系可塑剤等が用いられる。
【0043】
保護層49は、低温発色層47を保護するための層である。保護層49は、例えば、耐熱機能を有する。
【0044】
本実施形態において、高温発色層43および低温発色層47の厚みは、例えば1〜4μmである。
【0045】
前述のプリント機構30の作用としては、次のようになる。
シート送りローラ36がシート収容ケースに収容された記録シート40を搬送させる。その搬送された記録シート40の面に対してサーマルヘッド33のヘッド部33aが加熱処理をする。加熱処理後、記録シート40に対してサーマルヘッド33のヘッド部33aが加圧処理をする。この加圧処理は、低圧と高圧の二段階で制御される。
【0046】
低圧処理の命令がなされた場合には、回転カム76の切り欠き部76a以外の周面にL字梃子78の他端78dが沿って接地する。これに応じて高圧バネ73が、高圧バネ支持部78bと第二高圧バネ支持部78cとの間で伸張し、L字梃子78の当接部78aがサーマルヘッド33の上部33dから離れる。この状態では、記録シート40に対してサーマルヘッド33のみで加圧されている。
【0047】
また、高圧処理の命令がなされた場合には、回転カム76が反時計回り(矢印方向)に回転し、切り欠き部76aにL字梃子78の他端78dが嵌合する。すると、高圧バネ73が、高圧バネ支持部78bと第二高圧バネ支持部78cとの間で収縮し、L字梃子78の当接部78aがサーマルヘッド33の上部33dに当接して押圧する。この状態では、記録シート40に対してサーマルヘッド33の加圧力にL字梃子78の加圧力が加わった状態となる。なお、低圧及び高圧の制御については、図示しない制御部によって制御される。
【0048】
すなわち、加圧処理が高圧および低圧と二段階に調整可能であるため、記録シート40を印刷する際に、複数のサーマルヘッドを必要とせずに段階的かつ複数の色を発色させることができる。このため、低コストなプリント機構の実現に寄与する。また、このプリント機構は、一つのサーマルヘッドで構成されているので、プリント機構の小型化に寄与する。
【0049】
(画像形成装置)
図8は、プリント機構30Bを搭載した画像形成装置90の概略図である。
プリント機構30Bは、サーマルヘッド33およびL字梃子78の角度が異なっているが、その他は、前述したプリント機構30の構成は同一である。
画像形成装置90は、高温発色層と低温発色層とを連続して発色することが可能な1ヘッド1パス方式を採用している。ここでいう1ヘッドとはサーマルヘッド33のことであり、1パスとは、記録シート40がサーマルヘッド33と一回接触して通過するだけで、画像形成が可能な印刷方式のことである。
【0050】
画像形成装置90は、潜像を担持する複数の感光体と、その感光体表面に帯電を施す帯電手段と、帯電した感光体の表面に画像データに基づいて露光し、潜像を書き込む露光手段と、感光体表面に形成された潜像にトナーを供給し、可視像化する現像手段と、感光体表面の可視像を転写紙もしくは中間転写体に転写する転写手段と、転写後の感光体表面をクリーニングするクリーニング手段とを少なくとも備えている。
画像形成装置90は、プリント機構30Bを搭載しているので、低コストで加熱および加圧を実現することができる。また、プリント機構の小型化が図られていることから、画像形成装置90の小型化にも寄与する。
【0051】
また、図0は、プリント機構30Cを搭載した画像形成装置90の概略図である。
プリント機構30Cは、低圧バネ72および高圧バネ73の設置箇所と、L字梃子78の先端部分に回転軸71によって軸支してサーマルヘッド33に接続させている点が、図8のプリント機構30Bとは異なるが、その他は、前述したプリント機構30及びプリント機構30Bの構成と同一である。
このようにすれば、出っ張り部分を少なくすることができるので、画像形成装置90をさらに小型化することができる。
【0052】
なお、本実施形態におけるプリント機構30は、画像形成装置に適用した例を述べているが、これに限定されることはない。例えば、撮像装置(プリント機構付きのカメラ)などに使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】高圧状態のプリント機構を示した正面図である。
【図2】低圧状態のプリント機構を示した正面図である。
【図3】記録シートの断面構成図である。
【図4】図3に示す記録シート内の高温発色カプセル、低温発色カプセルおよび低温発色抑制カプセルの特性を説明するための図である。
【図5】図3に示す発色カプセルの発色原理を説明するための図である。
【図6】図3に示す低温発色抑制カプセルの発色抑制作用を説明するための図である。
【図7】プリント機構の他の形態を示した概略図である。
【図8】プリント機構を搭載した画像形成装置の概略図である。
【図9】プリント機構を搭載した画像形成装置の他の形態を示した概略図である。
【図10】従来のサーマルプリンタの一部を示した図である。
【符号の説明】
【0054】
23 高温発色カプセル 27 低温発色カプセル
28 低温発色抑制カプセル
30、30B、30C プリント機構
32 プラテンローラ 33 サーマルヘッド
33a ヘッド部 33b 低圧バネ支持部
33c 第二低圧バネ支持部 33d 上部
36 シート送りローラ
40 記録シート 41 基材
43 高温発色層 45 混合防止層
47 低温発色層 49 保護層
50 シート収容ケース 51 制御部
70 圧力機構 71 回転軸
72 低圧バネ
72a、73a 一端 72b、73b 他端
73 高圧バネ 75 リンク機構
76 回転カム
76a、76b 切り欠き部 78 L字梃子
78a 当接部 78b 高圧バネ支持部
78c 第二高圧バネ支持部 78d 他端
90 画像形成装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状媒体に対する摩擦力でそのシート状媒体を相対的に送り出す用紙送り機構と、
前記シート状媒体における面に対して局所的な加熱が可能なサーマルヘッドと、
前記シート状媒体の面に対して局所的にかける圧力を制御する圧力機構と、を備え、
前記圧力機構は、シート状媒体に対して高圧をかける高圧状態、およびその高圧状態よりも低い圧力の低圧状態という少なくとも二段階を制御可能としたことを特徴とするプリント機構。
【請求項2】
前記圧力機構は、サーマルヘッドをシート状媒体に押し付ける方向への回動を可能とする回転軸と、
その回転軸に対するシート状媒体に押し付ける方向への付勢力を与える付勢手段と、
その付勢手段に対する付勢力を二段階に切り替え可能な切替機構と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のプリント機構。
【請求項3】
前記切替機構は、低圧状態を作り出すための低圧バネと高圧状態を作り出すための高圧バネとを備えるとともに、
それら低圧バネおよび高圧バネの一端は、前記サーマルヘッドの回転軸に対するヘッド部とは反対側に固定し、 前記高圧バネが効かなくなる無圧位置と高圧状態を作り出す高圧位置との少なくとも二段階を実現可能な回転カムと、
その回転カムの回転を制御するモータと、
そのモータの制御によって回転した回転カムの周面を移動して、前記サーマルヘッドを押圧させるL字梃子と、を備えたことを特徴とする請求項2に記載のプリント機構。
【請求項4】
シート状媒体に対する摩擦力でそのシート状媒体を相対的に送り出す用紙送り機構と、
前記シート状媒体における面に対して局所的な加熱が可能なサーマルヘッドと、
前記シート状媒体の面に対して局所的にかける圧力を制御する圧力機構と、を備えたプリント機構の制御方法であって、
前記用紙送り機構によって前記シート状媒体のプリント位置を前記サーマルヘッドの位置へ移動させる用紙送り工程と、
前記シート状媒体に対しては、前記圧力機構による低圧状態下にて前記サーマルヘッドによる低温加熱工程と、
その低温加熱を終えた部位に対して前記圧力機構による高圧状態を与える高圧工程と、
その高圧工程を終えた部位に対して、前記サーマルヘッドによる中温加熱工程と、
その中温加熱工程を終えた部位に対して、前記サーマルヘッドによる高温加熱工程とを含むことによって前記シート状媒体へのプリントを実行するプリント方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−296717(P2007−296717A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125919(P2006−125919)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(503118332)IPトレーディング・ジャパン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】