説明

プリント装置及びシートの乾燥装置

【課題】プリントの行われたシートを乾燥させる際に、シートにより均一に気流を吹き付けることが可能な乾燥機構を提供する。
【解決手段】プリント装置は、インクジェット方式のプリントヘッドと、プリントヘッドでプリントされたシートを乾燥させる乾燥部8とを備えている。乾燥部8は、気流を生じさせるファン37と、シートを支持する搬送ローラと、シートの一方の面に沿ってシートの搬送方向を横切る方向に気流が通る流路と、を有している。流路には、搬送ローラに支持されるシートの面に対して傾斜し、気流がシートの一方の面に向かうように方向付ける第1の傾斜面50と、搬送ローラに支持されるシートの面に対して傾斜し、気流がシートの一方の面に向かうよう方向付けると共に、流路において第1の傾斜面50よりも下流に設けられ且つ傾斜角度が第1の傾斜面50よりも小さい第2の傾斜面51とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録の行われたシートに温風を吹き付けてシートを乾燥させるための機構を有するプリント装置及びシートの乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドの吐出口からシートにインク滴を吐出してプリントを行うプリント装置では、プリントの行われたシートに風を吹き付けてシートに着弾したインク滴を乾燥させる形式のものがある。このように、プリントの行われたシートに風を吹き付けて乾燥させることで、シートに着弾したインク滴をシートにより速く定着させることができる。このように、シートへのインク滴の定着を速く行うことができるので、シート上のプリント画像が乾燥しないうちにシートのプリント面が周囲に接触してプリント画像の品質を低下させることを抑えることができる。また、プリント画像が乾燥しないうちにシートが周囲に接触することで周囲にインクを付着させ、付着したインクによって周囲を汚してしまうことを抑えることができる。
【0003】
このように、プリントの行われたシートに風を吹き付けてシートを乾燥させることで、シートにプリント画像のより速い定着を行わせるものとして、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1には、シートの幅方向に均一に乾燥風が吹き付けられるように、流路に整流板の設けられたシートの乾燥機構を有する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−3019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、シートに均一に乾燥風を吹き付けるために、送風ダクトからの乾燥風が整流板によってシートの幅方向に分割され、分割されたそれぞれの乾燥風がスリットの多数形成された送風板を介してシートに吹き付けられている。しかしながら、特許文献1の構成では、乾燥風はシートの幅方向に対して整流板によって分割されているだけなので、整流板によって分割されたそれぞれの区画での乾燥風の流量は均一でない可能性がある。そのため、乾燥風における流量のシートの幅方向への均一さが不十分である可能性がある。乾燥風の流量が均一でない場合には、シートにプリントされた画像の乾燥するための時間がシート上の位置ごとに異なり、そこでプリント画像に色ムラが生じる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、プリントの行われたシートを乾燥させる際に、シートにより均一に気流を吹き付けることが可能なプリント装置及びシートの乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプリント装置はインクジェット方式のプリントヘッドと、前記プリントヘッドでプリントされたシートを乾燥させる乾燥機構とを備え、前記乾燥機構は、気流を生じさせる送風手段と、シートを支持する支持手段と、シートの一方の面に沿ってシートの搬送方向を横切る方向に気流が通る流路と、を有し、前記流路には、前記支持手段に支持されるシートの面に対して傾斜し、気流がシートの前記一方の面に向かうように方向付ける第1の傾斜面と、前記支持手段に支持されるシートの面に対して傾斜し、気流がシートの前記一方の面に向かうよう方向付けると共に、前記流路において前記第1の傾斜面よりも下流に設けられ且つ傾斜角度が前記第1の傾斜面よりも小さい第2の傾斜面とが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より均一にシートに気流を吹き付けてシートの乾燥を行うことができるので、乾燥にかかる時間が位置ごとに異なることによる色ムラの発生が抑えられたプリント装置及びシートの乾燥装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプリント装置の全体の構成について示した模式的な断面図である。
【図2】図1のプリント装置により片面プリントが行われる際の、プリント装置の動作について説明するための説明図である。
【図3】図1のプリント装置により両面プリントが行われる際の、プリント装置の動作について説明するための説明図である。
【図4】図1のプリント装置で用いられる乾燥部の構成について、一部を破断して示した斜視図である。
【図5】図4の乾燥部の内部の構成について、シートの搬送方向の正面から見て模式的に示した断面図である。
【図6】図4の乾燥部の内部の構成について、シートの搬送方向の側面から見て模式的に示した断面図である。
【図7】図4の乾燥部の内部の構成について、シートの搬送方向の正面から見て気流の流れる方向を示した模式的な断面図である。
【図8】比較例の乾燥部の内部の構成について、シートの搬送方向の正面から見て気流の流れる方向を示した模式的な断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るプリント装置で用いられる乾燥部について、シートの搬送方向の正面から見て気流の流れる方向を示した模式的な断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係るプリント装置で用いられる乾燥部について、シートの搬送方向の正面から見て気流の流れる方向を示した模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るプリント装置100について説明する。本実施形態のプリント装置100では、シートとして、ロール状に巻かれた連続シートが使用されている。本実施形態のプリント装置100は、片面プリント及び両面プリントの両方に対応した高速ラインプリンタとして用いられている。このようなプリント装置100は、例えば、プリントラボ等における大量の枚数のプリントが行われる用途に適している。
【0011】
図1はプリント装置の内部構成を示す断面の概略図である。プリント装置内部には、大きくは、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、プリント部4、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、シート巻取部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出トレイ12、制御部13の各ユニットを備える。シートは、図中の実線で示したシート搬送経路に沿ってローラ対やベルトからなる搬送機構で搬送され、各ユニットで処理がなされる。
【0012】
シート供給部1は、ロール状に巻かれた連続シートを収納して供給するユニットである。シート供給部1は、2つのロールR1、R2を収納することが可能であり、いずれかのロールR1、R2から択一的にシートを搬送経路の下流側へ引き出して供給する構成となっている。なお、本実施形態では、シート供給部1に収納可能なロールは2つとされているが、収納可能なロールは2つであることに限定はされず、1つ、あるいは3つ以上を収納するものであってもよい。デカール部2は、シート供給部1から供給されたシートのカール(反り)を軽減させるユニットである。デカール部2では、1つの駆動ローラに対して2つのピンチローラを用いて、カールの逆向きの反りを与えるようにシートを湾曲させてしごくことでカールを軽減させる。斜行矯正部3は、デカール部2を通過したシートの斜行(本来の進行方向に対する傾き)を矯正するユニットである。基準となる側のシート端部をガイド部材に押し付けることにより、シートの斜行が矯正される。
【0013】
プリント部4は、搬送されるシートに対してプリントヘッド14によりシートの上に画像を形成するユニットである。このように、本実施形態のプリント装置は、インク滴を吐出可能なプリントヘッド14を有している。このプリントヘッド14からシートにインク滴を吐出してシートにプリントが行われる。プリント部4は、シートを搬送する複数の搬送ローラを備えている。プリントヘッド14は、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲でインクジェット方式の吐出口列が形成されたライン型プリントヘッドを有する。プリントヘッド14は、複数のプリントヘッドが搬送方向に沿って平行に並べられている。本例ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)、G(グレー)、K(ブラック)の7色に対応した7つのプリントヘッドを有する。なお、色数及びプリントヘッドの数は7つには限定はされない。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介してプリントヘッド14に供給される。
【0014】
検査部5は、プリント部4でシートにプリントされた検査パターンや画像を光学的に読み取って、プリントヘッドの吐出口の状態、シート搬送状態、画像位置等を検査するユニットである。カッタ部6は、プリント後のシートを所定長さにカットする機械的なカッタを備えたユニットである。カッタ部6は、シートを次工程に送り出すための複数の搬送ローラも備えている。情報記録部7は、カットされたシートの裏面にプリントのシリアル番号や日付などのプリント情報をプリントするユニットである。乾燥部8は、プリント部4でプリントされたシートを加熱して、付与されたインクを短時間に乾燥させるユニットである。乾燥部8は、シートを次工程に送り出すための搬送ベルト及び搬送ローラも備えている。
【0015】
シート巻取部9は、両面プリントを行う際に表面へのプリントが終了した連続シートを一時的に巻き取るユニットである。シートと巻取部9はシートを巻き取るための回転する巻取ドラムを備えている。表面へのプリントが済んでカットされていない連続シートは巻取ドラムに一時的に巻き取られる。巻き取りが終わったら、巻取ドラムが逆回転して巻き取り済みシートはデカール部2に供給され、プリント部4に送られる。このシートは表裏反転しているのでプリント部4で裏面にプリントを行うことができる。両面プリントのより具体的な動作については後述する。
【0016】
排出搬送部10は、カッタ部6でカットされ乾燥部8で乾燥させられたシートを搬送して、ソータ部11までシートを受け渡すためのユニットである。ソータ部11は必要に応じてプリント済みシートをグループ毎に排出トレイ12の異なるトレイに振り分けて排出するユニットである。制御部13は、プリント装置全体の各部の制御を司るユニットである。制御部13は、CPU、メモリ、各種I/Oインターフェースを備えたコントローラ15及び電源を有する。プリント装置の動作は、コントローラ15又はコントローラ15にI/Oインターフェースを介して接続されるホストコンピュータ等の外部機器16からの指令に基づいて制御される。
【0017】
次に、プリント時の基本動作について説明する。プリントは、片面プリントと両面プリントとでは動作が異なるので、それぞれについて説明する。
【0018】
図2は片面プリントが行われる際のプリント装置100の動作を説明するための図である。図2には、シート供給部1から供給されたシートにプリントが行われて排出トレイ12に排出されるまでのシートの搬送経路が、太線で示されている。シート供給部1から供給され、デカール部2、斜行矯正部3でそれぞれ処理されたシートは、プリント部4において表面のプリントがなされる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎にカットされる。カットシートは、必要に応じて情報プリント部7でシートの裏面にプリント情報がプリントされる。そして、カットシートは一枚ずつ乾燥部8に搬送され乾燥が行なわれる。その後、排出搬送部10を経由して、ソータ部11のトレイ12に順次排出され積載されていく。
【0019】
図3は両面プリントが行われる際のプリント装置100の動作を説明するための図である。両面プリントでは、表面プリントのシーケンスに次いで裏面プリントのシーケンスが実行される。最初の表面プリントのシーケンスでは、シート供給部1から検査部5までの各ユニットでの動作は上述の片面プリントの動作と同じである。カッタ部6ではカット動作は行わずに、連続シートのまま乾燥部8に搬送される。乾燥部8での表面のインク乾燥の後、排出搬送部10の側の経路ではなく、シート巻取部9の側の経路にシートが導入される。導入されたシートは、順方向(図面では反時計回り方向)に回転するシート巻取部9の巻取ドラムに巻き取られていく。プリント部4において、予定された表面のプリントが全て終了すると、カッタ部6にて連続シートのプリント領域の後端がカットされる。カット位置を基準に、搬送方向下流側(プリントされた側)の連続シートは乾燥部8を経てシート巻取部9でシート後端(カット位置)まで全て巻き取られる。一方、カット位置よりも搬送方向上流側の連続シートは、シート先端(カット位置)がデカール部2に残らないように、シート供給部1に巻き戻される。
【0020】
以上の表面プリントシーケンスの後に、裏面プリントシーケンスに切り替わる。シート巻取部9の巻取ドラムが巻き取り時とは逆方向(図面では時計回り方向)に回転する。巻き取られたシートの端部(巻き取り時のシート後端は、送り出し時にはシート先端になる)はデカール部2に送り込まれる。デカール部2では先とは逆向きのカール矯正がなされる。これは、巻取ドラムに巻かれたシートは、シート供給部1でのロールとは表裏反転して巻かれ、逆向きのカールとなっているためである。その後は、斜行矯正部3を経て、プリント部4で連続シートの裏面にプリントが行なわれる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎にカットされる。カットシートは両面にプリントされているので、情報プリント部7でのプリントはなされない。カットシートは一枚ずつ乾燥部8に搬送され、排出搬送部10を経由して、ソータ部11のトレイ12に順次排出され積載されていく。
【0021】
本実施形態のプリント装置100は、プリントの行われたシートを乾燥させるためのシートの乾燥装置(以下乾燥部、乾燥機構とも称する)を有している。乾燥部8は、シートを搬送させながら、プリントの行われたシートに沿って気流を流通させてプリントの行われたシートを乾燥させる。以下、プリント装置100における、乾燥部8についてさらに詳しく説明する。図4、5、6を用いて乾燥部8の概略構成について説明する。
【0022】
図4は乾燥部8の概略構成を示す模式的な斜視図である。図5は図4の矢印X方向から見た乾燥部8の内部構成について示した模式的な断面図である。図6は図4の矢印Y方向から見た乾燥部8の内部構成について示した模式的な断面図である。図4、5、6では、説明のために、後述する乾燥部8の流路に形成された傾斜面50、51については省略している。カッタ部6から搬送されたシート40は、乾燥部8において、不図示の駆動モータにより駆動される搬送ベルト34及び搬送ベルト34に対向する搬送ローラ35により、乾燥部8内を搬送される。このとき、本実施形態では、シート40が、搬送ローラ35によって支持されながら、搬送ベルト34と搬送ローラ35との間に挟まれた状態で搬送ベルト34が駆動されることで搬送方向へ搬送される。このように、本実施形態では、搬送ローラ35が、乾燥部8の内部でシート40を支持する支持手段として機能している。シート40は、カットシートである場合には排出搬送部10へ搬送され、連続シートである場合にはシート巻取部9へ搬送される。
【0023】
また、乾燥部8には、シート40上に吐出されたインクを乾燥させるための温風を吹き出すための温風装置42が備えられている。温風装置42は、乾燥部8内部の空気に熱を付与して空気を加熱するヒータ36を有している。また、乾燥部8は、ヒータ36によって加熱された空気すなわち温風(気体)をシート40のプリント面に吹き出すために、温風に運動エネルギーを与えて気流を生じさせるファン37(送風手段)を備えている。
【0024】
本実施形態では、図6に示されるように、乾燥部8では、シート40の搬送経路の側方に温風装置42が設けられている。また、図5では省略しているが、本実施形態では、温風は、上向きに開口したノズル41を介してシート40に吹き出されるので、上向きの成分を有して斜めに吹き出される。そのため、温風はシート40の下面に向かって吹き出され、それからシート40の下面に沿って流通する。このとき、温風がシート40に沿って流通することにより、温風がシート40からインクに含まれる水分を奪い、プリントによってシート40の下面に着弾したインクを、温風によって乾燥させることができる。また、温風の有する熱がシート40に伝達されることでシート40が加熱され、これによってさらにシート40を乾燥させることができる。ノズル41は、図6に示されるように、複数の穴で構成してもよいし、たとえば紙幅と同サイズの幅をもった単一の穴で構成してもよい。シートを乾かした温風はファン37へと戻され、再度プリント面に吹き出される循環系となっている。
【0025】
一旦シートの乾燥を行った気流は、シートに着弾したインクに含まれた水分を奪うと共に、シートを加熱してシートを乾燥させるので、比較的多くの水分を含み、気流の温度も低下している。一旦乾燥を終えた気流は、再び温風装置42に戻ることによって、気流が加熱されて気流に含まれた水分が飛ばされると共に、気流が加熱されて温度が再び上昇する。これにより、再びシートを乾燥させるのに適した気流となるので、この気流がシートに供給されて再びシートの乾燥が行われる。
【0026】
また、乾燥部8が温風を循環させてシートを乾燥させる構成となっているので、加熱された温風がシート40に沿って流通した後に再び温風装置42に戻る。このとき、温風は、一度ヒータ36によって加熱されているので、温風装置42に戻った温風にもまだ熱が残っており、温風を加熱するのに必要な熱量は比較的少なくて済む。従って、加熱の際にヒータ36によって発せられる熱量を少なくすることができ、温風の加熱の際に消費される加熱エネルギーを低減させることができる。また、この循環流の流通する流路を形成する壁(例えばノズル部近傍の壁)に不図示のサーミスタを備えることで、温風の温度を検知し、ヒータ36からの熱量を調節することで温風温度の制御を行うことができる。
【0027】
また、搬送ベルト34の内周には、伝熱プレート38及び面状発熱体39が設けられている。面状発熱体39は温度を可変に調節可能である。伝熱プレート38は面状発熱体39の構造により任意の設定温度に調整される。搬送ベルト34の裏面は伝熱プレート38に当接しながら滑り、伝熱プレート38から加熱されるため、高速連続プリントの際も搬送ベルト34は保温され、乾燥能力を維持する。つまり、乾燥部8の動作及び役割は、カッタ部6から搬送されたシート40に対し温風により乾燥動作を与えながら、搬送ベルト34及び搬送ローラ35によって順次送り、乾燥部の排出部より乾燥部の外部へ導くということである。
【0028】
乾燥部8の内部の構成について、図7を用いて説明する。乾燥部8は筐体57を有し、筐体57の内部で温風を流通させている。本実施形態では、乾燥部8は、図7(説明のため、搬送ベルト34及び搬送ローラ35は不図示)に示されるように、循環気流で乾燥を行う構成である。乾燥部8内部で気流の流通する流路内におけるヒータ36の下流には、第1の傾斜面50と第2の傾斜面51が形成されている。
【0029】
本実施形態では、ファン37の駆動によって温風が送風され、シート40の下面(一方の面)に沿ってシート40の搬送方向を横切る方向に流通する。そして、温風が乾燥部8におけるシート40の下面に沿った流路の端部の壁面に到達すると、そこで一旦上方に方向を変え、そこからさらにシート40の裏側の上面(他方の面)に沿う方向に流通するように温風が流通する方向を変える。以後、説明のために、シート40の下面で温風が流通する流路を第1の流路55と言うものとする。また、シート40の上面で温風が返還のために流通する流路(返路)を第2の流路56と言うものとする。
【0030】
このように、第1の流路では、シート40の下面に沿ってシート40の搬送方向を横切る方向に温風を流通させている。また、第2の流路では、シート40の上面に沿ってシート40の搬送方向を横切る方向に温風を流通させている。上述のように、第1の流路55には、筐体57からシート40の方へ突出するように、第1の流路55を形成する壁面が傾斜した傾斜面50、51を有している。
【0031】
第1の傾斜面50は、第1の流路55の内部を通る温風の流通する方向に対して傾斜し、温風がシート40の下面に向かうようにガイドして方向付ける。第2の傾斜面51は、内部を通る温風の流通する方向に対して傾斜し、温風がシート40の下面に向かうようにガイドして方向付けると共に、温風の流通する方向に対する傾斜角度が第1の傾斜面50よりも小さく形成されている。第1の傾斜面50は、第2の傾斜面51よりも温風の流路における上流側に設けられている。第1の流路55を形成する壁面においては、上流側から下流側にかけて、筐体57の壁面から第1の傾斜面50が傾斜して立ち上がり、そこから筐体57の壁面と平行に延びる平面58を介して第2の傾斜面51に連続するように形成されている。第2の傾斜面51は、平面58からさらに突出して形成されている。
【0032】
第1の流路55を形成する壁面がこのように形成されているので、ファン37の駆動によって送風される温風は、第1の傾斜面50にぶつかって図7の上方へ流れる方向を変える。これによって温風の流通する方向が上方への成分を有するようになり、図7に示されるように、第1の傾斜面50に沿うように斜め上方へ流れるようになる。これにより、温風の流通する方向をシート40の下面に向けて指向させることができる。これにより、第1の流路55を流れる温風を、シート40に向けて流通させることができる。
【0033】
また、第1の流路55の内部を流通する温風のうち、一部の温風は、矢印Eに示されるように、平面58及び第2の傾斜面51に沿うように流通する。第2の傾斜面51に沿って流れる温風は、第2の傾斜面51から徐々に剥離しながら巻き上げられる。第2の傾斜面51から剥離した温風は、そこからシート40に向かうように流れる。このように、第2の傾斜面51に沿って流れる温風が、徐々に第2の傾斜面51から剥離しながらシート40に向かうことになり、シート40における気流の下流側の領域にも、温風をシート40に向けて吹き付けることができる。従って、シート40の下面に乾燥した温風をより均一に供給することができる。
【0034】
ここで、説明のためにシート40の領域をシート40の搬送方向に4つの領域に分け、図7に示されるように、上流側から領域A、B、C、Dとする。このとき、第1の傾斜面50によりシート40のA面に向けられて流れ、そこからシート40の近傍を流れている気流は、シート40のA、B、C、D面と順次、シート40を上流から乾燥させて下流へ流れていく。このとき、第2の傾斜面51によって気流の向きが変えられることにより、気流の下流側においても気流の分割された分流がシートに向かって流れる。そして、これらの下流側からシート40に向かって流れる気流(領域B、C、Dに向かう気流)が、シート40の近傍を流れる気流に混合される。これらの2つの気流が混合されてシート40の近傍を流れることで、シート40を乾燥させる。これにより、シート40の乾燥にまだ関与せずに、シート40に着弾したインクからの水分をあまり含んでいない気流が、シート40の下流側にも吹き付けられる。従って、水分をあまり含んでいない気流が、シート40の領域Aから領域Dにかけて均一に供給されるので、シート40の乾燥をより均一に行うことができる。これにより、乾燥の程度が上流側と下流側との間で位置ごとに異なることを抑えることができ、プリント画像に色ムラが発生することを低減させることができる。従って、シート40の下面を乾燥させる際に、乾燥が均一に行われ、乾燥が偏ることで生じる色ムラをプリント画像に生じさせることを抑えることができる。
【0035】
また、本実施形態では、ファン37によって運動エネルギーを与えられた温風は、第1の流路55及び第2の流路56を通って再びファン37に戻ることで循環している。
【0036】
ここで、比較例として、第1の流路55に、第1の傾斜面50あるいは第2の傾斜面51が設けられない乾燥部について説明する。もし、仮に図5に示されるように、第1の傾斜面50及び第2の傾斜面51の両方が形成されずに、第1の流路55を形成する壁面がフラットな場合について説明する。この場合には、ファン37によって送風される気流はシート40に平行に下面を通過し、シート40の下面に向かう気流が少なく、シート40の乾燥に寄与する気流の流量が少なくなる。従って、シート40の下面に温風を流したとしても、そこで十分に乾燥能力を得られないおそれがある。
【0037】
また、さらに別の比較例として、図8に示されるように、第2の傾斜面51が形成されずに、第1の傾斜面50から筐体57の壁面と平行に延びる平面58が第1の流路55の下流側の端部まで連続して形成される場合について説明する。この場合には、シート40の近傍を流れる気流は、全体的に、まずシート40の上流側の領域Aに向かい、そこから下流側に向かって流れる。このとき、シート40に沿って流れる気流は、シート40の上流から下流に向かう過程でシート40に着弾しているインクから水分を奪うと共に、シート40に熱を付与して、シート40を乾燥させる。しかしながら、シート40の近傍を流れる気流は、全体的にシート40の上流側から下流側に向かうので、シート40の上流側でシート40に着弾したインクから水分を奪い、熱をシート40に渡した後に、シート40の下流側に向かう。そのため、シート40の上流側では、乾燥に適した温風によって、シート40を良好に乾燥させることができる。しかしながら、シート40の下流側では気流が水分を多く含み温度も低下している状態なので、気流によるシート40を乾燥させる能力が低下しており、下流側でシート40の乾燥が不十分となる可能性がある。これにより、上流側と下流側との間で、乾燥の程度に差が生じ、乾燥にかかる時間が異なることから、プリント画像に色ムラが生じる可能性がある。また、下流側で乾燥が不足し、プリント画像が定着する前にシート40のプリント面が周囲の機器に付着して、プリント画像や周囲の機器を汚してしまう可能性がある。
【0038】
これに対して本実施形態では、シート40の乾燥が気流の上流側から下流側にかけてより均一に行われるので、乾燥の程度が偏ってしまうことから生じるプリント画像の色ムラの発生を抑えることができる。また、気流の下流側で乾燥の程度が不足してしまうことを抑えることができる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るプリント装置における乾燥部について説明する。なお、上記第1実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。第1実施形態では、乾燥部8がシート40の下面を通る第1の流路55及びシート40の上面を通る第2の流路56を有し、気流は、第1の流路55及び第2の流路56を通って再びファン37に戻って循環する形態について説明した。これに対して、第2実施形態では、吸気口から取り入れられた空気が送風されて第1の流路55を通った後に、筐体57に形成された排気口から外部に排気される。
【0040】
第2実施形態の乾燥部8’について、図9を用いて説明する。図9では、説明のために搬送ベルト34及び搬送ローラ35は図示していない。第2実施形態の乾燥部8’には、筐体57におけるファン37よりも上流側に空気の流通可能な吸気口60が形成され、第1の流路55の下流側に空気の流通可能な排気口61が形成されている。このように、乾燥部8’の筐体57に吸気口60及び排気口61が形成されることにより、外部から取り入れられた気流が第1の流路55を通過した後にファン37に戻らずに排気口61から乾燥部8’の外部に排気されて、循環の行われない気流が形成される。すなわち、ファン37の駆動によって吸気口60から吸気された気流は、第1の流路55を通り、排気口61から排気される。
【0041】
第1実施形態では、乾燥部8の内部で気流が循環する構成となっているので、シートからインクに含まれた水分を奪って水分を多く含んだ気流が再度使用されることになる。従って、気流は水分を比較的多く含んでおり、その気流によってシートの乾燥が行われたときには、シートを乾燥させる程度が不十分である可能性がある。これに対して、第2実施形態では、乾燥部8’の外部から取り入れられた空気がシートの乾燥のために乾燥部8’の内部に供給され続けるので、シートの乾燥の際に用いられる気流に含まれる水分の量を少なくすることができる。従って、シートから水分を奪う能力が低下せずに、気流によりシートを乾燥させる能力が良好なまま維持される。従って、乾燥部8’を長期間に亘って使用したとしても、気流に含まれる水分の少ない状態でシートの乾燥が行われるので、シートを乾燥させる能力が不足することが抑えられる。
【0042】
なお、排気口61には、排気を効率よく行うために、ファンが設けられてもよい。
【0043】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るプリント装置における乾燥部について、図10を用いて説明する。なお、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0044】
第1実施形態では、乾燥部8は、シート40の下面を通る第1の流路55及びシート40の上面を通る第2の流路56を有し、気流は、第1の流路55及び第2の流路56を通って再びファン37に戻って循環する経路のみを通る形態について説明した。
【0045】
これに対し、図10に示す第3実施形態の乾燥部8’’では、シート40の下面を通る第1の流路55を通る気流が、ガイド部材(ガイド手段)43によって分割されている。すなわち、第1の流路55は、内部を流通する気流を、第2の流路56に流入する前にファン37へ流入するようにガイドするガイド部材43を有している。第1の傾斜面50にぶつかって上方に方向を変えた気流の一部が、ファン37の駆動によって引っ張られ、シートとガイド部材43との間の流路を通ってファン37に戻る。このように、第1の流路55を通る気流が、シート40の上面を通る第2の流路56を通る気流と、シート40とガイド部材43との間の第3の流路59を通る気流とに分割されて、それぞれ循環する流路を形成している。この点で、第3実施形態の乾燥部8’’は第1実施形態の乾燥部8と異なる。
【0046】
このように、第3実施形態の乾燥部8’’では、第1の流路55を通る気流が、第2の流路56を通る気流53と、第3の流路59を通る気流52とに分割される。従って、シート40の上流側の部分を乾燥させた気流は、すぐにファン37に戻る。ファン37に戻った気流はそこで再び加熱されるので、気流に含まれる水分が飛ばされると共に、シートを加熱する際に熱をシートに付与したことで低下した温度を再び上昇させる。
【0047】
また、第1の流路55を通る気流のうち、下流側に流れた気流は、シートの下流側でシートを乾燥させ、第2の流路56を通ってファン37に戻る。第2の流路56を通ってファン37に戻った気流も同様に、そこで再び加熱され、気流に含まれる水分が飛ばされると共に、シートを加熱する際に熱をシートに付与したことで低下した温度を再び上昇させる。
【0048】
本実施形態では、第1の流路55を通る気流が、第2の流路56を通る気流53と、第3の流路59を通る気流52とに分割されるので、シートの上流側での乾燥を行った気流が、そのまま第1の流路55及び第2の流路56を流れ続けることが抑えられる。従って、シートの上流側で一旦シートを乾燥させ水分を多く含み温度の低下した気流がそのまま下流側に流れることで、その気流が下流側でシートに向かう気流による乾燥を妨げてしまうことを抑えることができる。従って、シートの下流側で気流による乾燥能力が低下することが抑えられ、さらに均一にシートを乾燥させることができる。また、気流の下流側で、乾燥の程度が不足することを抑えることができる。
【0049】
なお、第3の流路59を通る気流52は、第2の流路56を通る気流53のように、第2の傾斜面51からの分流による気流の混合がないので、その下流側で気流52による乾燥能力の低下が発生し易い。そのため、第3の流路59を長く形成すると、上流と下流との間で、第3の流路59を通る気流による乾燥の程度に差が生じることになる。従って、第3の流路59が長くなることによって乾燥の程度に差が生じないように、第3の流路59の入り口は、なるべくシートの上流側に配置される必要がある。そのため、第3の流路59の入り口は、シート幅方向においてシート中心よりも上流側、すなわちファン37がる送風手段に近い側で開口するように、第3の流路59が形成されることが好ましい。
【符号の説明】
【0050】
8、8’、8’’ 乾燥部
14 プリントヘッド
35 搬送ローラ
36 ヒータ
37 ファン
50 第1の傾斜面
51 第2の傾斜面
55 第1の流路
100 プリント装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式のプリントヘッドと、
前記プリントヘッドでプリントされたシートを乾燥させる乾燥機構と
を備え、
前記乾燥機構は、
気流を生じさせる送風手段と、
シートを支持する支持手段と、
シートの一方の面に沿ってシートの搬送方向を横切る方向に気流が通る流路と、
を有し、
前記流路には、
前記支持手段に支持されるシートの面に対して傾斜し、気流がシートの前記一方の面に向かうように方向付ける第1の傾斜面と、
前記支持手段に支持されるシートの面に対して傾斜し、気流がシートの前記一方の面に向かうよう方向付けると共に、前記流路において前記第1の傾斜面よりも下流に設けられ且つ傾斜角度が前記第1の傾斜面よりも小さい第2の傾斜面と
が設けられていることを特徴とするプリント装置。
【請求項2】
前記乾燥機構は、シートの前記一方の面の裏側の他方の面に沿って前記搬送方向を横切る方向に気流が通る返路を有し、
前記送風手段によって生じた気流の少なくとも一部は、前記流路および前記返路を順に通って前記送風手段に戻り、前記乾燥機構の内部で循環することを特徴とする、請求項1の記載のプリント装置。
【請求項3】
前記流路には、前記送風手段によって生じた気流の一部を、前記返路に流入させずに前記一方の面に沿って前記送風手段に戻すためのガイド手段が設けられていることを特徴とする、請求項2に記載のプリント装置。
【請求項4】
前記ガイド手段は、シート幅方向において前記支持手段に支持されるシートの中心よりも前記送風手段に近い側に設けられていることを特徴とする、請求項3に記載のプリント装置。
【請求項5】
前記乾燥機構は、吸気口及び排気口を有し、
前記送風手段の駆動によって前記吸気口から吸気された気流は、前記流路を通り、前記排気口から排気されることを特徴とする、請求項1に記載のプリント装置。
【請求項6】
前記送風手段は、ヒータと、気流を発生させるファンを有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項7】
前記一方の面は、前記プリントヘッドでインクが付与されたシートの面であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項8】
シートを乾燥させる乾燥装置であって、
気流を生じさせる送風手段と、
シートを支持する支持手段と、
シートの一方の面に沿ってシートの搬送方向を横切る方向に気流が通る流路と、を有し、
前記流路には、
前記支持手段に支持されるシートの面に対して傾斜し、気流がシートの前記一方の面に向かうように方向付ける第1の傾斜面と、
前記支持手段に支持されるシートの面に対して傾斜し、気流がシートの前記一方の面に向かうよう方向付けると共に、前記流路において前記第1の傾斜面よりも下流に設けられ且つ傾斜角度が前記第1の傾斜面よりも小さい第2の傾斜面と
が設けられていることを特徴とするシートの乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−86457(P2013−86457A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231634(P2011−231634)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】