説明

プリント装置及び乾燥装置の制御方法

【課題】シートが乾燥部から抜けた後の乾燥部の過度の温度上昇を防ぐ。
【解決手段】プリント装置は、インクジェット方式のプリントヘッドと、プリントヘッドでプリントされたシートを乾燥させる乾燥部とを備えている。また、プリント装置は、乾燥部の中を通過するようにシートを搬送する搬送ベルトを有している。また、プリント装置は、搬送ベルトにより搬送されるシートの後端が乾燥部から抜けるタイミング以前に、乾燥部が持つヒータの出力を低減させるよう制御する制御手段を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴を吐出してプリントを行うプリント装置に関し、特にシートの搬送過程でシートに風を吹き付けて乾燥させるプリント装置及び乾燥装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント装置では、シートにインクを吐出して画像のプリントが行われるので、プリントの行われた直後のシートのプリントが行われた面では、インクがシートに定着していない場合がある。シートがそのような状態にあるときに、ユーザがシートに触ったり、両面プリントのためにシートが再度プリント装置内を搬送されたりすると、そこでシートのプリント面が周囲と擦れてプリント画像の画像品位が低下する場合があった。
【0003】
そこで、プリントが行われたシートに温風を吹き付けてシートを乾燥させ、シートへのプリント画像の定着を促す乾燥部が設けられたプリント装置が提案されている。特に、特許文献1では、目標設定温度が予め設定され、温風の検出温度が目標設定温度を超えたときに、温風を加熱するためのヒータを停止させて過度な加熱を防止することが可能な乾燥部を有するプリント装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−234103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、シートが乾燥部から排出された後のことについては開示されていない。シートが乾燥部から排出された後にヒータによって乾燥部の内部が加熱され続けると、乾燥部の内部の温度が上昇し続け、一時的に乾燥部の内部の温度が許容温度を超えてしまう、いわゆるオーバーシュートが発生する可能性がある。そのため、乾燥部を構成する部品の耐熱性を向上させる必要性が生じ、乾燥部の製造上のコストが上昇してしまう可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、シートが乾燥部から排出された後の乾燥部の過度の温度上昇を防ぐことができるプリント装置及び乾燥装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプリント装置は、インクジェット方式のプリントヘッドと、前記プリントヘッドでプリントされたシートを乾燥させる乾燥ユニットとを備えたプリント装置であって、前記乾燥ユニットの中を通過するようにシートを搬送する搬送手段と、前記搬送手段により搬送されるシートの後端が前記乾燥ユニットから抜けるタイミング以前に、前記乾燥ユニットが持つヒータの出力を低減させるよう制御する制御手段と、を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シートが乾燥部から排出された後の乾燥部の過度の温度上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係るプリント装置の全体構成を示す断面図である。
【図2】片面プリントの動作を説明するための図である。
【図3】両面プリントの動作を説明するための図である。
【図4】乾燥部の構成を示した斜視図である。
【図5】乾燥部の内部構成の正面図である。
【図6】乾燥部の内部構成の側面図である。
【図7】プリント装置における乾燥部の位置を説明する断面図である。
【図8】乾燥部の温度制御シーケンスを示したフローチャートである。
【図9】乾燥部の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るプリント装置100について説明する。本実施形態のプリント装置100では、シートとして、ロール状に巻かれた連続シートが使用されている。本実施形態のプリント装置100は、片面プリント及び両面プリントの両方に対応した高速ラインプリンタとして用いられている。このようなプリント装置100は、例えば、プリントラボ等における大量の枚数のプリントが行われる用途に適している。
【0011】
図1はプリント装置100の内部構成を示す断面の概略図である。プリント装置100は、大きくは、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、プリント部4、検査部5、カッタ部6、情報プリント部7、乾燥部8、シート巻取部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出トレイ12、制御部13の各ユニットを備える。シートは、図中の実線で示したシート搬送経路に沿ってローラ対やベルトからなる搬送機構で搬送され、各ユニットで処理がなされる。
【0012】
シート供給部1は、ロール状に巻かれた連続シートを収納して供給するユニットである。シート供給部1は、2つのロールR1、R2を収納することが可能であり、いずれかのロールR1、R2を択一的に搬送経路の下流側へ引き出してシートとして供給する構成となっている。なお、本実施形態では、シート供給部1に収納可能なロールは2つとされているが、収納可能なロールは2つであることに限定はされず、1つ、あるいは3つ以上を収納するものであってもよい。デカール部2は、シート供給部1から供給されたシートのカール(反り)を軽減させるユニットである。デカール部2では、1つの駆動ローラに対して2つのピンチローラを用いて、カールの逆向きの反りを与えるようにシートを湾曲させてしごくことでカールを軽減させる。斜行矯正部3は、デカール部2を通過したシートの斜行(本来の進行方向に対する傾き)を矯正するユニットである。基準となる側のシート端部をガイド部材に押し付けることにより、シートの斜行が矯正される。
【0013】
プリント部4は、搬送されるシートに対してインクジェット方式のプリントヘッド14によりシートの上に画像を形成するユニットである。このように、本実施形態のプリント装置は、インク滴を吐出可能なプリントヘッド14を有している。このプリントヘッド14からシートにインク滴を吐出してシートにプリントが行われる。プリント部4は、シートを搬送する複数の搬送ローラを備えている。プリントヘッド14は、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲で方式の吐出口列が形成されたライン型プリントヘッドを有する。図4に示されるように、プリント部4では、複数のプリントヘッド14が搬送方向に沿って平行に並べられている。本実施形態ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)、G(グレー)、K(ブラック)の7色に対応した7つのプリントヘッドを有する。なお、色数及びプリントヘッドの数は7つには限定はされない。方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介してプリントヘッド14に供給される。
【0014】
検査部5は、プリント部4でシートにプリントされた検査パターンや画像を光学的に読み取って、プリントヘッドの吐出口の状態、シート搬送状態、画像位置等を検査するユニットである。図5に示されるように、カッタ部6は、プリント後のシートを所定長さにカットする機械的なカッタ26、27、28、29を備えたユニットである。また、カッタ部6は、シートを次工程に送り出すための複数の搬送ローラ30、31、32、33も備えている。情報プリント部7は、カットされたシートの裏面にプリントのシリアル番号や日付などのプリント情報をプリントするユニットである。乾燥部8は、プリント部4でプリントされたシートを加熱して、付与されたインクを短時間に乾燥させる乾燥ユニットである。乾燥部8は、シートを次工程に送り出すための搬送ベルト及び搬送ローラも備えてある。このように、本実施形態のプリント装置100は、プリント後のシートを所定長さに切断するカッタ部6のカッタ26、27、28、29(カット手段)を有している。
【0015】
シート巻取部9は、両面プリントを行う際に表面へのプリントが終了した連続シートを一時的に巻き取るユニットである。シートと巻取部9はシートを巻き取るための回転する巻取ドラムを備えている。表面へのプリントが済んでカットされていない連続シートは巻取ドラムに一時的に巻き取られる。巻き取りが終わったら、巻取ドラムが逆回転して巻き取り済みシートはデカール部2に供給され、プリント部4に送られる。このシートは表裏反転しているのでプリント部4で裏面にプリントを行うことができる。両面プリントのより具体的な動作については後述する。
【0016】
排出搬送部10は、カッタ部6でカットされ乾燥部8で乾燥させられたシートを搬送して、ソータ部11までシートを受け渡すためのユニットである。ソータ部11は必要に応じてプリント済みシートをグループ毎に排出トレイ12の異なるトレイに振り分けて排出するユニットである。制御部13は、プリント装置全体の各部の制御を司るユニットである。制御部13は、CPU、メモリ、各種I/Oインターフェースを備えたコントローラ15及び電源を有する。プリント装置の動作は、コントローラ15又はコントローラ15にI/Oインターフェースを介して接続されるホストコンピュータ等の外部機器16からの指令に基づいて制御される。
【0017】
次に、プリント時の基本動作について説明する。プリントは、片面プリントと両面プリントとでは動作が異なるので、それぞれについて説明する。
【0018】
図2は片面プリントが行われる際のプリント装置100の動作を説明するための図である。図2には、シート供給部1から供給されたシートにプリントが行われて排出トレイ12に排出されるまでのシートの搬送経路が、太線で示されている。シート供給部1から供給され、デカール部2、斜行矯正部3でそれぞれ処理されたシートは、プリント部4において表面のプリントがなされる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎にカットされる。カットシートは、必要に応じて情報プリント部7でシートの裏面にプリント情報がプリントされる。そして、カットシートは一枚ずつ乾燥部8に搬送され乾燥が行なわれる。その後、排出搬送部10を経由して、ソータ部11のトレイ12に順次排出され積載されていく。
【0019】
図3は両面プリントが行われる際のプリント装置100の動作を説明するための図である。両面プリントでは、表面プリントのシーケンスに次いで裏面プリントのシーケンスが実行される。最初の表面プリントのシーケンスでは、シート供給部1から検査部5までの各ユニットでの動作は上述の片面プリントの動作と同じである。カッタ部6ではカット動作は行わずに、連続シートのまま乾燥部8に搬送される。乾燥部8での表面のインク乾燥の後、排出搬送部10の側の経路ではなく、シート巻取部9の側の経路にシートが導入される。導入されたシートは、順方向(図面では反時計回り方向)に回転するシート巻取部9の巻取ドラムに巻き取られていく。プリント部4において、予定された表面のプリントが全て終了すると、カッタ部6にて連続シートのプリント領域の後端がカットされる。カット位置を基準に、搬送方向下流側(プリントされた側)の連続シートは乾燥部8を経てシート巻取部9でシート後端(カット位置)まで全て巻き取られる。一方、カット位置よりも搬送方向上流側の連続シートは、シート先端(カット位置)がデカール部2に残らないように、シート供給部1に巻き戻される。
【0020】
以上の表面プリントシーケンスの後に、裏面プリントシーケンスに切り替わる。シート巻取部9の巻取ドラムが巻き取り時とは逆方向(図面では時計回り方向)に回転する。巻き取られたシートの端部(巻き取り時のシート後端は、送り出し時にはシート先端になる)はデカール部2に送り込まれる。デカール部2では先とは逆向きのカール矯正がなされる。これは、巻取ドラムに巻かれたシートは、シート供給部1でのロールとは表裏反転して巻かれ、逆向きのカールとなっているためである。その後は、斜行矯正部3を経て、プリント部4で連続シートの裏面にプリントが行なわれる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎にカットされる。カットシートは両面にプリントされているので、情報プリント部7でのプリントはなされない。カットシートは一枚ずつ乾燥部8に搬送され、排出搬送部10を経由して、ソータ部11のトレイ12に順次排出され積載されていく。
【0021】
また、本実施形態のプリント装置100は、プリントの行われたシートを乾燥させるためのシートの乾燥装置(以下乾燥部、乾燥機構とも称する)を有している。乾燥部8は、シートを搬送させながら、プリントの行われたシートに沿って気流を流通させてプリントの行われたシートを乾燥させる。
【0022】
以下、シート乾燥ユニットである乾燥部8について詳しく説明する。図4は乾燥部8の概略構成を示す模式的斜視図である。図5(a)、(b)は、図4における矢印X方向から見た乾燥部8の模式的な断面図である。図5(a)には、乾燥部8の外部の空気を乾燥部8内部に取り入れるために、吸気手段50及び排気手段51が開放された状態の乾燥部8が示されている。図5(b)には、吸気手段50及び排気手段51が閉じられた状態の乾燥部8が示されている。図6は、図4における矢印Y方向から見た乾燥部8の模式的な断面図である。
【0023】
カッタ部6から搬送されたシート40は、駆動モータにより駆動される搬送ベルト34及び搬送ベルト34に対向する搬送ローラ35により、乾燥部8の内部を搬送される。本実施形態では、シート40が、搬送ローラ35によって支持されながら、搬送ベルト34と搬送ローラ35との間に挟まれた状態で搬送ベルト34が駆動されることで搬送方向へ搬送される。搬送ベルト34は、シートを搬送させる搬送手段として機能している。
【0024】
乾燥部8から排出されたシートは、シートがカットシートである場合には排出搬送部10に搬送され、シートが連続シートである場合にはシート巻取部9へ搬送される。乾燥部8におけるシートの進入口及び排出口の近傍には、シートを検出する上流シートセンサ62、下流シートセンサ63が取り付けられている。これらのセンサは、乾燥部8の内部のシートの有無及び乾燥部8内のシートのジャムを検知できるジャム検出手段として動作することができる。
【0025】
また、乾燥部8にはシート40上に吐出されたインクを乾燥させるための温風を吹き出す温風装置42が設けられている。温風装置42は、加熱手段として乾燥部8の内部の空気を加熱するヒータ36と、加熱された空気すなわち温風をシート40のプリント面に吹き出すための循環ファン37とを備えている。
【0026】
このように、乾燥部8は、シート40を乾燥させるためにシート40に温風を吹き付けてシート40を加熱するための領域(加熱領域)でシートを加熱するためのヒータ36を有している。本実施形態の乾燥部8においては、シート40を加熱するための領域は、筐体53の内部の領域である。本実施形態では、図6に示されるように、シート40の搬送経路の側方に温風装置42が設けられている。
【0027】
シート40のプリント面にノズル41を介して温風を吹き出し、これによってシートの記録面に着弾したインクを乾燥させる。シートの乾燥を終えた温風は、カバー52に沿って流れ、循環ファン37へと戻される。循環ファン37に戻った気流は、再度吹き出されてプリント面に向かって流れる循環系となっている。
【0028】
乾燥部8が温風を循環させてシートを乾燥させる構成となっているので、加熱された温風がシート40に沿って流通した後に再び温風装置42に戻る。このとき、温風は、一度ヒータ36によって加熱されているので、温風装置42に戻った温風にもまだ熱が残っており、温風を加熱するのに必要な熱量は比較的少なくて済む。従って、加熱の際にヒータ36によって発せられる熱量を少なくすることができ、温風の加熱の際に消費される加熱エネルギを低減させることができる。
【0029】
この循環流の流通する流路を形成する壁(例えばノズル部近傍の壁)に温度検出手段(温度センサ)としてサーミスタが設けられている。サーミスタにより乾燥部8のユニット内の温度を検知し、フィードバック制御によりヒータ36が出力する熱量を調節することで、温風温度ひいてはユニット内の温度を一定範囲に維持するよう温度制御を行う。なお、乾燥部8の内部の気体温度をサーミスタによって検出するのに変えて、ヒータ36の温度を検出するようにしても良い。
【0030】
搬送ベルト34の内周には、伝熱プレート38及び面状発熱体39が設けられている。面状発熱体39は温度を可変に調節可能である。伝熱プレート38は面状発熱体39の構造により任意の設定温度に調整される。搬送ベルト34の裏面は伝熱プレート38に当接しながら滑り、伝熱プレート38から加熱されるため、高速連続プリントの際も搬送ベルト34は保温され、乾燥能力を維持する。つまり、乾燥部8の動作及び役割は、カッタ部6から搬送されたシート40に対し温風により乾燥動作を与えながら、搬送ベルト34及び搬送ローラ35によって順次送り、排出口から乾燥の済んだシートを排出することである。
【0031】
本実施形態では、図5、6に示されるように、乾燥部8の筐体53の外部から空気を吸気することが可能な吸気手段50と、空気を乾燥部8の外部へ排気することが可能な排気手段51とを備えている。このように乾燥部8が構成されていることにより、乾燥機内の高湿空気を外気と速やかに置換可能となる。吸気手段50と排気手段51は開閉可能であり、たとえばソレノイドやモータの駆動で開閉するシャッターなどで構成される。これらの吸気手段50と排気手段51には、吸気及び排気を効率的に行うためにファンが設けられてもよい。
【0032】
図5(a)は、吸気手段50と排気手段51を閉状態にした系の図であり、温風は乾燥部8の内部を循環している。図5(b)は、吸気手段50と排気手段51を開状態にした系の図であり、温風は乾燥部8の内部を循環しながら、吸気手段50から外気を取り入れ、排気手段51から外部に温風の一部を排気している。これにより、乾燥部8の内部空気と外部空気を効率よく交換することができる。外部空気が、乾燥部8の内部空気よりも相対温度が十分に低い場合には、この吸排気により乾燥部8内の温度を速やかに下げることが可能である。また、外部空気が、乾燥部8の内部空気よりも相対湿度が十分に低い場合には、この吸排気により乾燥部8内の湿度を速やかに下げることが可能である。
【0033】
吸気手段50は、乾燥機内循環風の負圧領域70に配置されることが望ましい。本実施形態においては、吸気手段50は、循環ファン37の上流近傍の負圧領域70に配置されている。排気手段51は、乾燥機内循環風の正圧領域71に配置されることが望ましい。本実施形態においては、排気手段51は、シート40の下部のダクト部分における循環ファン37に対向した位置に配置されている。吸気手段50と排気手段51を通過する風量は、乾燥機内循環風によるシートの乾燥の効率を低下させないような風量であることが望ましい。吸気手段50と排気手段51を通過する風量と循環風量との間のバランスにより、乾燥部内の空気を均一かつ効率的に排気することが可能である。
【0034】
乾燥部8には、ユニット筐体のシート進入口の近傍に配置される上流カッタ60と、ユニット筐体のシート排出口に配置される下流カッタ61とがそれぞれ備えられている。ユーザがこれらカッタを手動で操作することにより、シートによる乾燥部8への進入口及び排出口の近傍、すなわち乾燥部8と乾燥部8の上流及び下流のユニットとの間でシート40をカットすることができる。このカットにより、乾燥部8でシート40のジャムが発生したときに、乾燥部8内にカットされたシート40のみを残すことができる。従って、乾燥部8の上流及び下流のユニットのシート40のジャムの影響を受けていない部分について、そのシートを取り出すことができる。上流カッタ60及び下流カッタ61には、不図示のシート切断検知手段がそれぞれ備えられ、それぞれのカッタがシート40をカットする動作を検知することができる。
【0035】
カバー52は、ジャム処理時に乾燥部内のシート40を取り出すためにユーザが手動で開くことができる。図7(a)、(b)には、乾燥部8の内部のジャム処理時におけるプリント装置100の断面図が示されている。図7(a)、(b)では、説明のために、プリント装置100を構成する部品のうち、乾燥部8についてのみ示している。図7(a)はプリント装置100を、図1の側面方向からみた通常時の断面図である。図7(b)はプリント装置100を図1の側面方向からみた乾燥部内のジャム処理時の断面図であり、カバー52を開いた状態を示している。
【0036】
本実施形態では、プリント装置に設けられた不図示のレールにより、プリント装置100から乾燥部8をユーザの手動によって引き出すことが可能に構成されている。乾燥部8は、プリント装置100から引き出された状態でカバー52を回動させて開閉することが可能である。乾燥部8の内部でジャムが生じたときには、乾燥部8のカバー52を開けることでシートを取り出し、ジャム処理を行うことが可能である。
【0037】
カバー52は、搬送ベルト34、伝熱プレート38及び面状発熱体39と一体的に構成されている。カバー52を開状態としたときに搬送ベルト34と搬送ローラ35との間のニップが解除されて、搬送ベルト34と搬送ローラ35とを離間させることができるため、乾燥部内のシート40を容易に取り出すことができる。また、このカバー52を制御手段により閉状態にロックすることができる不図示のロック機構が備えられている。乾燥動作中、カバー52内側は高温になるため、乾燥動作中、カバー52は閉状態にロックされている。
【0038】
図8に、本発明を実施した際のプリント装置における制御のフローチャートを示す。プリント装置に電源が投入されると(S1)、各ユニットが始動して立ち上げ運転が行われると共に、搬送部にシートのジャムが残っていないか、カバー類が開いていないか等の初期チェックが行われる(S2)。次に、各ユニットが待機状態となり、プリント指令の指示を待つ(S3)。制御部13からプリント指示(記録指令)が行われると(S4)乾燥部8が稼働する(S5)。カッタ部6で指定された長さにシート40が裁断されると(S6)、制御部13で乾燥部8のユニット内部にシート40のシート先端が進入してから、乾燥部8のからシート後端が排出されるまでに必要とされる乾燥部内の搬送時間T1が算出される(S7)。
【0039】
搬送時間T1は、図6に示されるように乾燥部8の長さLが定まっており、シート40の搬送速度Vが決まっているので、搬送時間T1=(L+シート長)/Vで算出できる。変数はシート長であり、他は固定値である。
【0040】
さらに、シート40のシート後端が乾燥部8に進入するタイミングが求められる。そして、乾燥部8を搬送される搬送時間T1及びシート40のシート後端が搬送部8に進入するタイミングから、シート40のシート後端が乾燥部8から排出されるタイミングが求められる。具体的には、検知された乾燥部8へのシート40の進入タイミングと、搬送ベルト34の駆動によるシート40の搬送速度から、シート40のシート後端が乾燥部8から抜けるタイミング(排出タイミング)を求める。
【0041】
シート40の搬送が進行し乾燥部8にシート40が進入してから、搬送時間T1が経過すると(S8)、ヒータ36への電力供給が休止期間T2の期間だけOFF(遮断または低減を意味する)される(S9)。このタイミングでヒータ36の出力が低減されることで、乾燥部8における筐体53(ユニット)内部の温度の上昇が抑えられ、内部温度が所定の許容温度を超えてしまうことを抑えることができる。本実施形態では、乾燥部8における所定の許容温度は100℃、休止期間T2は30秒にそれぞれ設定されている。
【0042】
搬送時間T1の値は、シート40の全体が乾燥部8から抜け出る瞬間に限定されるものではない。つまり、ヒータ36の出力低減は、シートがユニットから排出される瞬間に限定されるものではなく、乾燥部8内のシート40の残長が少なくなった時点でヒータ36の出力を低減するようにしてもよい。シート40が乾燥部8から排出されるタイミング以前にヒータ36の出力を弱めることにより、シート後端が乾燥部8の排出口から抜け出る瞬間では、既にヒータ36の温度が低下し始めている状態にすることができる。これにより、乾燥部8から排出された後の温度上昇をより確実に抑えることができる。
【0043】
このように、本実施形態のプリント装置は、シート後端の排出タイミングの後に、乾燥部8における筐体53内部の温度が所定の許容温度(たとえば100℃)を超えることが無いように、ヒータ36の温度を制御する制御手段を有するものである。
【0044】
制御部13により、シート後端が乾燥部8から抜け出るタイミング以前(同時またはそれよりも前)に、ヒータ36への電力供給を減らしてヒータ出力を低減させるよう制御する。ヒータ出力をゼロにするよう制御する場合は、ヒータ36への電力の供給/遮断(オン/オフ)を切り替える。ヒータ出力を低減させるよう制御する場合は、例えばヒータがPWM制御によって制御されている場合には、信号のパルス幅を小さくして出力を低減させる。いずれにせよ、シート後端が乾燥部8の内部から排出されるタイミング以前に、ヒータ36の出力を低減させるものである。
【0045】
図8のフローチャートに戻る。上記動作を繰り返し行い、不図示の電源を切ると(S10)乾燥部8の温風あるいは伝熱プレート38に係る運転が終了し(S11)、プリント動作の終了に至る(S12)。
【0046】
このように本実施形態のプリント装置は、搬送されるシートの後端が乾燥部8から抜けるタイミングを事前に予測して求める。そして、このタイミングの後に乾燥部8の中の温度が許容温度を超えることがないように、当該タイミング以前に乾燥部が持つヒータ36の出力を低減させるよう、制御部13により制御する。
【0047】
このような温度制御により、乾燥部8からシートが排出された後に、ヒータ36が乾燥部8の内部を加熱し続けて内部温度が一時的に許容温度を超えること(オーバーシュート)が防止される。乾燥部8内部の過度の温度上昇を抑えることができるので、乾燥部8を構成する部品に高い耐熱性を持たせる必要がなくなり、製造コストを低く抑えることができる。また、シート40が乾燥部8から排出された後に、不必要に乾燥部8の内部を加熱し続けることを抑えることができるので、消費エネルギを低く抑えることができる。
【0048】
なお、シート後端が乾燥部8を抜けるタイミングを事前に予測して求める手法は上述の例に限らない。例えば、カッタ部6によってシートを切断したタイミング(カットタイミング)を検知し、そこからの搬送距離および搬送速度から、乾燥部8からシート後端が抜けるタイミングが算出するようにしても良い。すなわち、カット手段でシートをカットしたカットタイミングと、搬送手段によるシートの搬送速度およびその間の搬送距離(ともに固定値)とから、乾燥部8からシート後端が抜けるタイミングを求める。
【0049】
さらに別の例として、シートの搬送経路の途中に搬送されるシートのシート後端を検知するセンサ設けて、センサの検知タイミングと、シートの搬送速度おとび搬送距離(共に固定値)から、乾燥部8からシート後端が抜けるタイミングを算出するようにしても良い。搬送するシートの長さが分かっているので、センサはシート後端でなくシート先端を検知するものであってもよい。すなわち、搬送経路の途中でシート端部を検知する検知手段を設け、検知手段によって検知されるタイミングと、搬送手段によるシートの搬送速度およびその間の搬送距離とから、乾燥部8からシート後端が抜けるタイミングを求める。
【0050】
ところで、上述の例は、乾燥部8のユニット内部からシート後端が抜けるタイミングに着目したものである。本発明はこれに限定されるものではなく、シートに画像がプリントされた領域(インクが付与された領域)を基準に考えてもよい。乾燥部8の内部温度に大きく影響を与えるのは、インクを乾燥させる際の気化熱である。これはとくに高デューティ画像のプリントで多量のインクが付与された場合に顕著となる。したがって、シート上に形成された画像領域の後端が、乾燥部8のユニット内部から抜けるタイミングを基準としても、上述した作用効果を得ることができる。
【0051】
この形態では、プリント部4で画像プリントの行われたシート領域は、画像サイズとシート上での画像のレイアウトによって認識される。認識した領域が乾燥部8を通過して抜けるタイミングは、プリント画像の最後端を記録したタイミング、ならびにプリントヘッド14の記録位置から乾燥部8の排出口までの搬送距離(固定値)とその間の平均搬送速度(固定値)から算出して事前に求める。制御部13は、このタイミングの後に乾燥部8の内部温度が所定の許容温度を超えることがないように、当該タイミング以前にヒータ36の出力を低減するよう制御する。より具体的なヒータ制御の手法は上述したとおりである。
【0052】
このように、プリント画像を基準とする形態では、画像のプリントの行われたシート領域が、乾燥部8から抜けるタイミングを事前に予測して求める。そして、求めたタイミングの後に乾燥部8のユニットの中の温度が、許容温度を超えることがないように、搬送手段によるシートの搬送に応じて、当該タイミング以前にヒータの出力を低減させるよう、制御部13で制御する。このような温度制御により、乾燥部8から画像領域が排出された後に、ヒータ36が乾燥部8の内部を加熱し続けて内部温度が一時的に許容温度を超えること(オーバーシュート)が防止される。
【0053】
本実施形態の温度制御が実施されない場合には、乾燥部からシート後端が抜け出た後に乾燥部内の温度が一時的に温度上昇するオーバーシュートと呼ばれる現象が発生する可能性がある。シート40が乾燥部8の内部にある間には、ヒータ36で発生する熱はシート40及びシート40に着弾しているインクを乾燥するために用いられ、温度センサのフィードバック制御により乾燥部8の内部の温度は均衡を保ち上昇し続けることはない。ところが、乾燥部8からシート40が排出されると、シート40がヒータ36からの熱を受け取ることができずに、ヒータの制御応答性が悪いためフィードバック制御が追い付かずにオーバーシュートを起こし、乾燥部8の内部の温度が急激に上昇してしまう。
【0054】
図9(a)に、比較例として、本実施形態の制御を実施しない場合の乾燥部8内部の温度変化を時間の経過に対してプロットしたグラフを示す。乾燥部8からシート40のシート後端が抜けた後に、温度制御がオーバーシュートして、乾燥部8内部の温度上昇ΔTで一時的に許容温度の100℃を超えている。
【0055】
オーバーシュートの発生を回避することだけを考慮するならば、シート40が乾燥部から排出されるときにカバー52を開放して吸排気を行う手法も考えられる。しかし、一度カバー52を開放して乾燥部8の内部の空気を乾燥部8の外部の空気と置換すると、そこから再びヒータ36によって乾燥部8の内部の空気を加熱し、シート40の乾燥に適する温度まで温風の温度を上昇させる必要性が生じる。そのため、ヒータ36に電力をさらに供給する必要が生じ、装置のエネルギ効率が低下する。
【0056】
図9(b)は本実施形態の温度制御を実施した場合の乾燥部8内部の温度変化を時間の経過に対してプロットしたグラフである。同図から判るように、図9(a)に比べて、シートが抜けた後のオーバーシュートは無く、乾燥部8内部の温度変化ΔTは小さく抑えられ、許容温度である100℃を超えていない。図9(a)の形態では、乾燥部8の内部を構成する部品により高い耐熱性が要求され、その分乾燥部8の大型化やコスト上昇につながる。また、乾燥部8の内部にはシートが無いにもかかわらず、乾燥部8の内部が加熱されることになり、不要な電力を消費することになり、エネルギ効率が低下する。本実施例の温度制御を実施すれば、このような問題が解決される。
【符号の説明】
【0057】
14 プリントヘッド
34 搬送ベルト
36 ヒータ
100 プリント装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式のプリントヘッドと、前記プリントヘッドでプリントされたシートを乾燥させる乾燥ユニットとを備えたプリント装置であって、
前記乾燥ユニットの中を通過するようにシートを搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送されるシートの後端が前記乾燥ユニットから抜けるタイミング以前に、前記乾燥ユニットが持つヒータの出力を低減させるよう制御する制御手段と、
を有していることを特徴とするプリント装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記タイミングの後に前記乾燥ユニットの中の温度が許容温度を超えることがないよう、前記タイミング以前に前記ヒータの出力を低減させるよう制御することを特徴とする、請求項1に記載のプリント装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記シートのシート先端またはシート後端が前記乾燥ユニットに進入するタイミングを元に、前記抜けるタイミングを求めることを特徴とする請求項1または2に記載のプリント装置。
【請求項4】
前記プリントヘッドと前記乾燥ユニットの間においてシートを切断するカット手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記カット手段でシートをカットしたカットタイミングを元に、前記抜けるタイミングを求めることを特徴とする、請求項1または2に記載のプリント装置。
【請求項5】
搬送経路の途中でシートのシート端部を検知する検知手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記検知手段によって検知されるタイミングを元に、前記抜けるタイミングを求めることを特徴とする、請求項1または2に記載のプリント装置。
【請求項6】
インクジェット方式のプリントヘッドと、前記プリントヘッドでプリントされたシートを乾燥させる乾燥ユニットとを備えたプリント装置であって、
前記乾燥ユニットの中を通過するようにシートを搬送する搬送手段と、
前記プリントヘッドにより画像のプリントの行われたシート領域が、前記乾燥ユニットから抜けるタイミング以前に、前記乾燥ユニットが持つヒータの出力を低減させるよう制御する制御手段と、
を有していることを特徴とするプリント装置。
【請求項7】
前記乾燥ユニットの中の温度もしくは前記ヒータの温度を検知するセンサをさらに有し、前記制御手段は、前記ヒータの出力を低減させるまでは、前記センサの出力が一定範囲を維持するように前記ヒータの出力をフィードバック制御することを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項8】
シートを乾燥させる乾燥ユニットを備える乾燥装置の制御方法であって、
搬送されるシートの後端が前記乾燥ユニットから抜けた後に前記乾燥ユニットの中の温度が許容温度を超えることがないように、シートの搬送に応じて前記乾燥ユニットが持つヒータの出力を制御することを特徴とする乾燥装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−86456(P2013−86456A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231626(P2011−231626)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】