説明

プリント装置

【課題】 フチ無しプリントが可能なプリント装置において、プリントスループットの向上と装置の小型化を実現する。
【解決手段】 シートを第1方向に搬送する搬送機構と、インクジェット方式のプリントヘッドと、前記プリントヘッドに対向して設けられた可動ガイドと、前記プリントヘッドに対向して設けられ、シート面の外側でインクを受ける受け部と、前記可動ガイドを、固定された前記受け部に対して前記第1方向と交差する第2方向に移動させる駆動機構とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動するシートにプリントを行うプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、連続シートを用いたインクジェット方式のプリント装置において、シートの端部まで余白なくプリントを行う、いわゆるフチ無しプリントに関する技術が開示されている。フチ無しプリントの際には、シート端部の外側にもインクの一部が打ち捨てられるので、打ち捨てられたインクを受けるために、シートの外側に可動インク受け部(90A、90B)が配置されている。可動インク受け部およびシートの端部を支持する搬送ガイド(92A、92B)は、使用するシートのシート幅に応じて移動するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−152885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、可動インク受け部と搬送ガイドは一体で移動する。しかし、搬送ガイドに比べて可動インク受け部は大きな質量および体積を有するので、これを高速に移動させることは容易ではない。そのため、シート幅が変わるごとにこの移動に要する待ち時間が発生して、トータルのプリントスループット向上の妨げになる。とくに複数のラインヘッドを用いたプリント装置に適用しようとすると、可動インク受け部を移動させるための駆動機構が大型化してしまう。
【0005】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の目的は、フチ無しプリントが可能なプリント装置において、プリントスループットの向上と装置の小型化を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプリント装置は、シートを第1方向に搬送する搬送機構と、インクジェット方式のプリントヘッドと、前記プリントヘッドに対向して設けられた可動ガイドと、前記プリントヘッドに対向して設けられ、シート面の外側でインクを受ける受け部と、前記可動ガイドを、固定された前記受け部に対して前記第1方向と交差する第2方向に移動させる駆動機構とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インク受け部は固定して可動ガイドを必要に応じて移動させるので、プリントスループットの向上と装置の小型化を実現したフチ無しプリントが可能なプリント装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】プリンタの内部構成を示す概略図
【図2】制御部のブロック図
【図3】片面・両面プリントモードでの動作を説明するための図
【図4】プリント部のシート搬送機構を中心とする構成を示す上面図
【図5】プリント部のシート搬送機構を中心とする構成を示す横断面図
【図6】可動ガイドを移動させる駆動機構の構成を示す上面図
【図7】各種モータを制御する制御系のシステム構成を示すブロック図
【図8】可動ガイドを移動させるシーケンスを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、インクジェット方式を用いたプリント装置の実施形態を説明する。本例のプリント装置は、ロール状に巻かれた連続シートを使用し、片面プリントおよび両面プリントの両方に対応した高速ラインプリンタである。例えば、プリントラボ等における大量の枚数のプリントの分野に適している。本発明はプリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント装置に適用可能である。また、本発明はプリント装置に限らず、工場等で使用される産業機器(各種デバイスの製造装置、検査装置など)等の各種装置にも広く適用可能である。
【0010】
図1はプリント装置の内部構成を示す断面の概略図である。本実施形態のプリント装置は、ロール状に巻かれたシートを用いて、シートの第1面と第1面の裏面側の第2面に両面プリントすることが可能となっている。プリント装置内部には、大きくは、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、プリント部4、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12、加湿部20、制御部13の各ユニットを備える。シートは、図中の実線で示したシート搬送経路に沿ってローラ対やベルトからなる搬送機構で搬送され、各ユニットで処理がなされる。なお、シート供給から排出までのシート搬送経路の任意の位置において、シート供給部1に近い側を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0011】
シート供給部1は、ロール状に巻かれた連続シートを保持して供給するためのユニットである。シート供給部1は、2つのロールR1、R2を収納することが可能であり、択一的にシートを引き出して供給する構成となっている。なお、収納可能なロールは2つであることに限定はされず、1つ、あるいは3つ以上を収納するものであってもよい。
【0012】
デカール部2は、シート供給部1から供給されたシートのカール(反り)を軽減させるユニットである。デカール部2では、1つの駆動ローラに対して2つのピンチローラを用いて、カールの逆向きの反りを与えるようにシートを湾曲させて通過させることでデカール力を作用させてカールを軽減させる。
【0013】
斜行矯正部3は、デカール部2を通過したシートの斜行(本来の進行方向に対する傾き)を矯正するユニットである。基準となる側のシート端部をガイド部材に押し付けることにより、シートの斜行が矯正される。
【0014】
プリント部4は、搬送されるシートに対して上方からプリントヘッド14によりシート上にプリント処理を行なって画像を形成するシート処理部である。プリント部4は、シートを搬送する複数の搬送ローラも備えている。プリントヘッド14は、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲でインクジェット方式のノズル列が形成されたライン型プリントヘッドを有する。連続シートにラインプリント方式でプリントがなされる。プリントヘッド14は、複数のプリントヘッドが搬送方向に沿って平行に並べられている。本例ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)、G(グレー)、K(ブラック)の7色に対応した7つのプリントヘッドを有する。なお、色数およびプリントヘッドの数は7つには限定はされない。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介してプリントヘッド14に供給される。
【0015】
検査部5は、プリント部4でシートにプリントされた検査パターンや画像をスキャナによって光学的に読み取って、プリントヘッドのノズルの状態、シート搬送状態、画像位置等を検査して画像が正しくプリントされたかを判定するためのユニットである。スキャナはCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサを有する。
【0016】
カッタ部6は、プリント後のシートを所定長さに切断する機械的なカッタを備えたユニットである。カッタ部6は、シートを次工程に送り出すための複数の搬送ローラも備えている。
【0017】
情報記録部7は、切断されたシートの非プリント領域にプリントのシリアル番号や日付などのプリント情報(固有の情報)を記録するユニットである。記録はインクジェット方式、熱転写方式などで文字やコードをプリントすることで行なわれる。情報記録部7の上流側且つカッタ部6の下流側には、切断されたシートの先端エッジを検知するセンサ23が設けられている。つまり、センサ23はカッタ部6と情報記録部7による記録位置との間でシートの端部を検知する、センサ23の検知タイミングに基づいて情報記録部7で情報記録するタイミングが制御される。
【0018】
乾燥部8は、プリント部4でプリントされたシートを加熱して、付与されたインクを短時間に乾燥させるためのユニットである。乾燥部8の内部では通過するシートに対して少なくとも下面側から熱風を付与してインク付与面を乾燥させる。なお、乾燥方式は熱風を付与する方式に限らず、電磁波(紫外線や赤外線など)をシート表面に照射する方式であってもよい。
以上のシート供給部1から乾燥部8までのシート搬送経路を第1経路と称する。第1経路はプリント部4から乾燥部8までの間にUターンする形状を有し、カッタ部6はUターンの形状の途中に位置している。
【0019】
反転部9は両面プリントを行う際に表(おもて)面プリントが終了した連続シートを一時的に巻き取って表裏反転させるためのユニットである。反転部9は、乾燥部8を通過したシートを再びプリント部4に供給するための、乾燥部8からデカール部2を経てプリント部4に到る経路(ループパス)(第2経路と称する)の途中に設けられている。反転部9はシートを巻き取るための回転する巻取回転体(ドラム)を備えている。表面のプリントが済んで切断されていない連続シートは巻取回転体に一時的に巻き取られる。巻き取りが終わったら、巻取回転体が逆回転して巻き取り済みシートはデカール部2に供給され、プリント部4に送られる。このシートは表裏反転しているのでプリント部4で裏面にプリントを行うことができる。両面プリントのより具体的な動作については後述する。
【0020】
排出搬送部10は、カッタ部6で切断され乾燥部8で乾燥させられたシートを搬送して、ソータ部11までシートを受け渡すためのユニットである。排出搬送部10は、反転部9が設けられた第2経路とは異なる経路(第3経路と称する)に設けられている。第1経路を搬送されてきたシートを第2経路と第3経路のいずれか一方に選択的に導くために、経路の分岐位置には可動フラッパを有する経路切替機構が設けられている。
【0021】
ソータ部11と排出部12は、シート供給部1の側部で且つ第3経路の末端に設けられている。ソータ部11は必要に応じてプリント済みシートをグループ毎に仕分けるためのユニットである。仕分けられたシートは、複数のトレイからなる排出部12に排出される。このように、第3経路はシート供給部1の下方を通過して、シート供給部1を挟んでプリント部4や乾燥部8とは逆側にシートを排出するレイアウトとなっている。
【0022】
加湿部20は加湿気体(空気)を生成して、プリント部4のプリントヘッド14とシートの間に供給するためのユニットである。これにより、プリントヘッド14のノズルのインク乾燥が抑制される。加湿部20の加湿方式は、気化式、水噴霧式、蒸気式などの方式が採用される。気化式には、本実施形態の回転式の他に、透湿膜式、滴下浸透式、毛細管式などがある。水噴霧式には、超音波式、遠心式、高圧スプレー式、2流体噴霧式などがある。蒸気式には、蒸気配管式、電熱式、電極式などがある。加湿部20とプリント部4は第1ダクト21で接続され、さらに加湿部20と乾燥部8は第2ダクト22で接続されている。乾燥部8ではシートを乾燥させる際に多湿且つ高温の気体が生成される。この気体は第2ダクト22を通して加湿部20に導入されて、加湿部20での加湿気体生成の補助エネルギとして利用される。そして、加湿部20で生成された加湿気体は第1ダクト21を通してプリント部に導入される。
【0023】
制御部13は、プリント装置全体の各部の制御を司るユニットである。制御部13は、CPU、記憶装置、各種制御部を備えたコントローラ(制御部)、外部インターフェース、およびユーザが入出力を行なう操作部15を有する。プリント装置の動作は、コントローラまたはコントローラに外部インターフェースを介して接続されるホストコンピュータ等のホスト装置16からの指令に基づいて制御される。
【0024】
図2は制御部13の概念を示すブロック図である。制御部13に含まれるコントローラ(破線で囲まれる範囲)は、CPU201、ROM202、RAM203、HDD204、画像処理部207、エンジン制御部208、個別ユニット制御部209から構成される。CPU201(中央演算処理部)はプリント装置の各ユニットの動作を統合的に制御する。ROM202はCPU201が実行するためのプログラムやプリント装置の各種動作に必要な固定データを格納する。RAM203はCPU201のワークエリアとして用いられたり、種々の受信データの一時格納領域として用いられたり、各種設定データを記憶させたりする。HDD204(ハードディスク)はCPU201が実行するためのプログラム、プリントデータ、プリント装置の各種動作に必要な設定情報を記憶読出することが可能である。操作部15はユーザとの入出力インターフェースであり、ハードキーやタッチパネルの入力部、および情報を提示するディスプレイや音声発生器などの出力部を含む。例えば、タッチパネル付きのディスプレイが用いられ、装置の動作ステータス、プリント状況、メンテナンス情報(インク残量、シート残量、メンテナンスステータスなど)等がユーザに対して表示される。ユーザはタッチパネルから各種の情報入力を行なうことができる。
【0025】
高速なデータ処理が要求されるユニットについては専用の処理部が設けられている。画像処理部207は、プリント装置で扱うプリントデータの画像処理を行う。入力された画像データの色空間(たとえばYCbCr)を、標準的なRGB色空間(たとえばsRGB)に変換する。また、画像データに対し解像度変換、画像解析、画像補正等、様々な画像処理が必要に応じて施される。これらの画像処理によって得られたプリントデータは、RAM203またはHDD204に格納される。エンジン制御部208は、CPU201等から受信した制御コマンドに基づいてプリントデータに応じてプリント部4のプリントヘッド14の駆動制御を行なう。エンジン制御部208はさらにプリント装置内の各部の搬送機構の制御も行なう。個別ユニット制御部209は、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12、加湿部20の各ユニットを個別に制御するためのサブコントローラである。CPU201による指令に基づいて個別ユニット制御部209によりそれぞれのユニットの動作が制御される。外部インターフェース205は、コントローラをホスト装置16に接続するためのインターフェース(I/F)であり、ローカルI/FまたはネットワークI/Fである。以上の構成要素はシステムバス210によって接続されている。
【0026】
ホスト装置16は、プリント装置にプリントを行わせるための画像データの供給源となる装置である。ホスト装置16は、汎用または専用のコンピュータであってもよいし、画像リーダ部を有する画像キャプチャ、デジタルカメラ、フォトストレージ等の専用の画像機器であってもよい。ホスト装置16がコンピュータの場合は、コンピュータに含まれる記憶装置にOS、画像データを生成するアプリケーションソフトウェア、プリント装置用のプリンタドライバがインストールされる。なお、以上の処理の全てをソフトウェアで実現することは必須ではなく、一部または全部をハードウェアによって実現するようにしてもよい。
【0027】
次に、プリント時の基本動作について説明する。プリントは、片面プリントと両面プリントとでは動作が異なるので、それぞれについて説明する。
図3(a)は片面プリント時の動作を説明するための図である。シート供給部1から供給されたシートがプリントされて排出部12に排出されるまでの搬送経路を太線で示している。シート供給部1から供給され、デカール部2、斜行矯正部3でそれぞれ処理されたシートは、プリント部4において表面のプリントがなされる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎にカットされる。カットシートは、必要に応じて情報記録部7でシートの裏面にプリント情報が記録される。そして、カットシートは一枚ずつ乾燥部8に搬送され乾燥が行なわれる。その後、排出搬送部10を経由して、ソータ部11のトレイ12に順次排出され積載されていく。
【0028】
図3(b)は両面プリント時の動作を説明するための図である。両面プリントでは、表面プリントシーケンスに次いで裏面プリントシーケンスを実行する。最初の表面プリントシーケンスでは、シート供給部1から検査部5までの各ユニットでの動作は上述の片面プリントの動作と同じである。カッタ部6ではカット動作は行わずに、連続シートのまま乾燥部8に搬送される。乾燥部8での表面のインク乾燥の後、排出搬送部10の側の経路ではなく、反転部9の側の経路にシートが導入される。導入されたシートは、順方向(図面では反時計回り方向)に回転する反転部9の巻取ドラムに巻き取られていく。プリント部4において、予定された表面のプリントが全て終了すると、カッタ部6にて連続シートのプリント領域の後端がカットされる。カット位置を基準に、搬送方向下流側(プリントされた側)の連続シートは乾燥部8を経て反転部9でシート後端(カット位置)まで全て巻き取られる。一方、カット位置よりも搬送方向上流側の連続シートは、シート先端(カット位置)がデカール部2の残らないように、シート供給部1に巻き戻される。
【0029】
以上の表面プリントシーケンスの後に、裏面プリントシーケンスに切り替わる。反転部9の巻取ドラムが巻き取り時とは逆方向(図面では時計回り方向)に回転する。巻き取られたシートの端部(巻き取り時のシート後端は、送り出し時にはシート先端になる)はデカール部2に送り込まれる。デカール部2では先とは逆向きのカール矯正がなされる。これは、巻取ドラムに巻かれたシートは、シート供給部1でのロールとは表裏反転して巻かれ、逆向きのカールとなっているためである。その後は、斜行矯正部3を経て、プリント部4で連続シートの裏面にプリントが行なわれる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎にカットされる。カットシートは両面にプリントされているので、情報記録部7での記録はなされない。カットシートは一枚ずつ乾燥部8に搬送され、排出搬送部10を経由して、ソータ部11のトレイ12に順次排出され積載されていく。
【0030】
次に、プリント部4についてさらに詳しく説明する。図4、図5はプリント部4のシート搬送機構を中心とする構成を示す上面図と横断面図である。プリント部4において、連続シートであるシートSは第1ローラ対、第2ローラ対、第3ローラ対の3種類のローラ対で図中の矢印A方向に搬送される。第1ローラ対は、駆動力を持つ搬送ローラ101と従動回転するピンチローラ102からなるローラ対である。第2ローラ対は、駆動力を持つ複数の搬送ローラ103a〜103gと、従動回転する複数のピンチローラ104a〜104gからなる各ローラ対(7組)を指す。第3ローラ対は、駆動力を持つ搬送ローラ105と従動回転するピンチローラ106からなるローラ対である。搬送ローラ101には、ローラの回転状態を検出するためのロータリエンコーダ109が設けられている。
【0031】
第1搬送ローラ対の下流のプリント領域110には、7色の各色に対応した7つのライン型プリントヘッド14a〜14gがシート搬送方向(第1方向)に沿って並べられている。ライン型プリントヘッド14a〜14gとピンチローラ104a〜104gは1つずつ交互に配置されている。プリントヘッド14a〜14gのそれぞれに対向した位置には、固定ガイド112a〜112gが設けられ、シートSの導入をガイドするようになっている。第1方向と交差(直交)するシート幅方向(第2方向)において、各固定ガイド112a〜112gの両側の2カ所には、2つの可動ガイド113a〜113g、114a〜114gが設けられている。これら固定ガイドおよび可動ガイドは、シート導入の際に、シートがカールしていたとしてもシート先端を下流にあるローラ対に確実に導くために設けられたものである。プリント動作中は固定ガイドおよび可動ガイドは移動するシートに接触しない。つまり、前後のローラ対の間にシートが張られてシート下部からはガイドの支持がないシート搬送の形態となっている。プリントヘッド14a〜14gの対向位置それぞれにおいて、シートSは前後両側が短い距離でもってローラ対で挟持されるのでシート搬送の挙動が安定する。最初にシートが導入される際には、シート先端が固定ガイドと移動ガイドでガイドされながら、短い周期で複数のニップ位置を通過していくので、安定したシート導入がなされる。
【0032】
ダイレクトセンサ108はシート面を直接計測することでシートの移動状態(移動速度または移動距離)に関する情報をシートからダイレクトに取得する非接触型光学センサである。第1ローラ対のニップ位置と第3ローラ対のニップ位置の間が計測位置111となっている。ダイレクトセンサ108は計測位置111でシート面を計測することでシートの移動状態に関する情報を取得する。本例では、ダイレクトセンサ108はレーザドップラ式センサである。レーザドップラ式センサは移動面にレーザを照射してドップラシフトを捉えて移動速度や移動距離を計測する速度センサである。レーザドップラ式センサのより詳細な構成の計測原理については、上述の特許文献1(特開2009−6655号公報)やその他文献でも広く知られているのでここでは説明を省略する。
【0033】
ダイレクトセンサ108は、レーザドップラ式センサ以外の非接触型光学センサを用いることも可能である。例えば、イメージセンサ(CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ)を用いたタイプのダイレクトセンサがある。このタイプのダイレクトセンサは、固定されたイメージセンサで移動するシート面を時系列に異なるタイミングで撮像して複数の画像データを取得する。そして、パターンマッチング等の手法により画像データ同士を比較処理することでシートの移動状態(移動距離、移動速度)を取得する。ダイレクトセンサ108の更に別の形態として、センサ表面がシートSの表面に物理的に接触する接触型センサであってもよい。
【0034】
計測位置111において、シートSを挟んでダイレクトセンサ108と対向する位置には、マーク読取器122が設けられている。マーク読取器122は、ダイレクトセンサ108によるシートSの計測位置の裏側からシートSの第1面に形成されたマーク読み取る。マーク読取器122は、シート面を照明する光源(例えば白色LED)と、照明されたシート面で反射される光をRGB成分ごとに検出するフォトダイオードあるいはイメージセンサ等の受光器を有する。受光器の信号レベルの変化あるいは撮像データの画像解析によってマークを読み取ることができる。マーク読取器122は上述した両面プリントモードの裏面プリントの際に、シートSの第1面に形成された画像位置を示すマークを読み取って裏面画像を位置合わせするために用いられる。
【0035】
図5に示すように、各々のプリントヘッド14a〜14gに対向して、インク受け部116a〜116g、117a〜117gが設けられている。インク受け部はシート幅方向に細長い凹形状の孔になっていて、孔の中にインクを受ける。各インク受け部は共通の回収ダクト127に接続されている。回収ダクト127の端部にはファン129が設けられ、回収ダクト127を介して各インク受け部からエア吸引する。この吸引によって、インク受け部から気体中に浮遊するインクミストおよびシートの外側に打ち捨てられたインクを効率的に回収する。ファン129の手前にはスポンジからなるフィルタ128と廃液タンク130が設けられ、フィルタ128は回収されたインクをトラップする。廃液タンク130はフィルタ128にトラップされたインクを回収する。廃液タンク130へのインクの流れを良くするために、回収ダクト127はやや廃液タンク130へ向かって下側に傾斜させるようにすると好ましい。長期間の使用によって廃液タンク130に溜まったインクは、ユーザが装置からタンクを取り外して処理する。
【0036】
図6は可動ガイドを移動させる駆動機構の構成を示す上面図である。7ヶ所とも同等構造であるが、ここでは任意の1つの機構について説明する。一方の可動ガイド113は、リードスクリュー125およびガイドシャフト123からなる機構によりシート幅方向に移動可能にガイドされる。もう一方の可動ガイド114は、リードスクリュー126およびガイドシャフト124からなる機構によりシート幅方向に移動可能にガイドされる。リードスクリュー125は駆動源118(図7の可動ガイドモータ303)から駆動力を受けて回転することにより可動ガイド113を移動させる。リードスクリュー126は駆動源119(図7の可動ガイドモータ303)から駆動力を受けて回転することにより可動ガイド114を移動させる。ガイドシャフト123、124とリードスクリュー125、126はプリントヘッドのノズルが対向する位置に設けられたインク受け部116,117からシート搬送方向の両脇にずらした配置となっており、吐出したインクが直接付着することはない。
【0037】
リードスクリュー125の外側には圧縮バネ131が固定され、リードスクリュー126の外側には圧縮バネ132が固定されている。可動ガイド113、114が外側に図中の破線位置113−2、114−2まで移動すると、バネ131、132に当接する。リードスクリュー125、126のリード部(案内ねじの螺旋溝)は、この位置よりもさらに若干外側まで形成されており、可動ガイドがバネを圧縮させながら短い距離だけ外側に移動する。それ以上はリードスクリューを回転させても可動ガイドは外側には移動しない。可動ガイド113、114を内側に移動させるには、リードスクリュー125、126を逆方向に回転させる。圧縮バネ131、132に押されて可動ガイド113、114は確実にリードスクリュー125、126のリード部に係合される。
【0038】
このように、駆動機構には可動ガイドが所定の範囲を超えて移動することができないように駆動伝達が遮断される領域が設けられている。すなわち、リードスクリュー125、126のリード部を限定された範囲に形成することで、所定の移動範囲を得ている。この構成によれば、可動ガイドの位置を検出するためのセンサは不要である。インクが付着しやすい場所でセンサを用いる必要がないので長期間に渡って信頼性が高まる。また、装置組立時に複数の可動ガイド間の位相合わせの調整作業が必要ないので組立作業性に優れる。なお、7ヶ所の各リードスクリューは共有の駆動源で駆動することが好ましい。共有化することで装置組立時にリードスクリュー125、126の位相を合わせて組み立てる必要がなくなるのでさらに組み立て作業性が高まる。
【0039】
図7は搬送機構が有する各種モータの駆動を制御する制御系のシステム構成を示すブロック図である。コントローラ300はそれぞれモータドライバを介して、搬送ローラモータ301、ピンチローラリリースモータ302、可動ガイドモータ303、ファンモータ304、カッタモータ305が接続されている。装置の状態を検出するための各種のセンサをまとめてセンサ部310として示している。コントローラ300は、センサ部310からの検出が入力され、モータドライバを介して各種のモータの駆動を制御する。
【0040】
本実施形態のプリント装置は様々なシートサイズを使用することが可能であり、最小のシート幅は5inch、最大シート幅は12inchである。さらに、その間の中間的なサイズとして、6inch、8inch、10inchのシート幅のシートも選択的に使用可能となっている。これら使用が想定されている5種類の異なるサイズのシートは、シート幅方向の中心線(図4、図6のの一点鎖線Z)を基準として中心を揃えてシートを供給する、いわゆるセンタ基準でプリント部に供給される。
【0041】
可動ガイド113、114の標準位置は図6に示す状態であり、12inch幅のシートSよりもやや狭い位置である。12inch(=304.8mm)の距離Eに対する、可動ガイド113、114の外側端の間の距離Dは299.8mmである。この位置であれば、シート幅公差、プリント装置の部品位置公差を鑑みても、2つの可動ガイドは確実にシート端部よりも内側に位置する。一方、固定ガイド112は、最小シート幅である5inchよりもやや小さい幅Bを有し、幅Bは5inch(=127mm)よりも若干小さい122mmである。
【0042】
使用が想定されている最も大きな12inch幅のシートSにプリントする場合は、可動ガイド113、114は標準位置のまま変位しない。シートSの中央部は固定ガイド112で、端部は可動ガイド113、114でガイドされる。シートはある程度の剛性を有しているので、固定ガイドと可動ガイド間にこの程度の空間があってもガイド機能として問題はない。このように、最も大きなシート幅のシートが存在する状態(第1状態という)でプリントヘッドの方向から見たとき、2つの可動ガイドはともにシートの背後に位置し且つシートの外側には露出しない位置にある。このとき、シートの外側にはインク受け部116、117が露出して、フチ無しプリントの際にシートに外に打ち捨てられたインクおよびインクミストを吸引する。
【0043】
使用が想定されている最も小さな5inch幅および6inch幅のシートSにプリントする場合も、可動ガイド113、114は標準位置のまま変位しない。シートSは固定ガイド112のみでガイドされる。6inch幅シートは5inch幅シートに比べると固定ガイド112でカバーされる割合が減るが、この程度の差異であればガイド機能として問題ない。このように、最も小さなシート幅のシートが存在する状態(第2状態という)でプリントヘッドの方向から見たとき、2つの可動ガイドはともにシートの外側に露出した位置にある。このとき、可動ガイドとシート端部との間にインク受け部116、117が露出して、フチ無しプリントの際にシートに外に打ち捨てられたインクおよびインクミストを吸引する。第1状態と第2状態とで可動ガイドは同じ位置にあって変位しない。
【0044】
一方、8inch幅または10inch幅シートをプリントする場合は、シートが導入される前に可動ガイド113、114は標準位置よりも間隔が狭くなる方向に移動する。すなわち、可動ガイド113、114をより内側の破線位置113−1、114−2に移動させる。このときの可動ガイド113、114の外側端の間の距離Cは8inch(=203.2mm)よりも若干小さい198.2mmである。このように、最も大きなシート幅よりも小さく且つ最も小さなシート幅よりは大きい所定のシート幅のシートが存在する状態(第3状態という)では、2つの可動ガイドはともに第1状態のときとは異なる位置に変位する。プリントヘッドの方向から見たとき、可動ガイドはシートの背後に位置し且つシートの外側には露出しない位置にあり、シートの外側にはインク受け部117が露出する。
【0045】
第1状態または第2状態から第3状態に移行する際、あるいはその逆に移行する際に、移動するのは質量の小さい可動ガイド113、114だけであり、質量の大きなインク受け部116、117は固定されて移動しない。そのため、小さな駆動源であっても素早く移動が完了し、プリントスループットの低下は小さくて済む。それでも、シートサイズの切換えが頻繁になされるとスループットに影響がおよぶ場合がある。しかし、写真プリントの用途で使用される場合、主に用いられるサイズは、写真サイズの5inch、6inch、アルバムサイズの12inchである。したがって、これらのシート幅であればシートを頻繁に変更しても可動ガイドの移動はなく、スループットの低下が抑止される。
【0046】
なお、本実施形態では、シートをセンタ基準で配置しているために、シート幅に応じて2つの可動ガイドを中心対称に移動させている。もし、シートを片側基準で配置するのであれば、移動する可動ガイドは片側のみとして、他方は固定ガイドとすればよい。片側基準ではシートの一端は固定ガイドで常に同じ位置に揃えられ、シート幅に応じて1つの可動ガイドが移動する。
【0047】
図8は可動ガイドを移動させるシーケンスを示すフローチャートである。ステップS100では、使用するシートのサイズ(シート幅方向のサイズ)を確認し、前回使用したシートと同じサイズであるか(YES)否か(NO)を判断する。判断がYES(同サイズ)の場合は可動ガイドの位置を変える必要がないのでシーケンスを終了する。判断がNO(異サイズ)の場合は、ステップS101に移行する。ステップS101では、今回使用するシートおよび前回使用したシートのサイズがともに、5inch幅、6inch幅、12inch幅の3種類のいずれかであるか(YES)否か(NO)を確認する。これら3種類の中でのシートサイズの変更であれば、可動ガイドの位置を変える必要がない。したがって、判断がYESの場合はでシーケンスを終了する。判断がNOの場合はステップS102に移行する。ステップS102では、2つの可動ガイドを適切な位置に移動させる。使用するシートのサイズが5inch幅、6inch幅、12inch幅のいずれかである場合は、可動ガイド113、114を図6の位置にする。上述したように、このときの可動ガイド113、114の外側端の間は距離D(=299.8mm)となる。一方、使用するシートのサイズが8inch幅、10inch幅のいずれかである場合は、可動ガイド113、114をより内側の破線位置113−1、114−2に移動させる。上述したように、このときの可動ガイド113、114の外側端の間は距離C(=198.2mm)となる。これらの位置調整は7カ所すべての可動ガイドで同じである。
【0048】
以上説明してきたプリント装置によれば、インク受け部は固定して軽量な可動ガイドを必要に応じて移動させるので、移動に要する時間が短く且つ駆動機構が小型で済む。また、最大と最小を含む所定の複数のシート幅に関しては、可動ガイドの位置は同じにして移動は生じさせないので、シートサイズを頻繁に変更したとしても可動ガイドの移動の頻度は少なくなる。これらの結果として、プリントスループットの向上と装置の小型化を実現したフチ無しプリントが可能なプリント装置が提供される。加えて、インク受け部からインクミストを吸引するので、フチ無しプリントにおけるインクミストの影響を少なくし、シートの汚れが少ない高品質なプリントが実現する。
【符号の説明】
【0049】
4 プリント部
101 搬送ローラ
102 ピンチローラ
103 搬送ローラ
104 ピンチローラ
108 ダイレクトセンサ
110 プリント領域
111 検知領域
112 固定ガイド
113 可動ガイド
114 可動ガイド
116 インク受け部
117 インク受け部
128 フィルタ
129 ファン
130 廃インクタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを第1方向に搬送する搬送機構と、
インクジェット方式のプリントヘッドと、
前記プリントヘッドに対向して設けられた可動ガイドと、
前記プリントヘッドに対向して設けられ、シート面の外側でインクを受ける受け部と、
前記可動ガイドを、固定された前記受け部に対して前記第1方向と交差する第2方向に移動させる駆動機構と、
を有することを特徴とするプリント装置。
【請求項2】
使用するシートの前記第2方向におけるシート幅に応じた位置に前記可動ガイドを前記駆動機構により移動させるよう制御する制御部を有することを特徴とする、請求項1記載のプリント装置。
【請求項3】
使用が想定されている最も大きなシート幅のシートが存在する第1状態で前記プリントヘッドの方向から見たとき、前記可動ガイドはシートの背後に位置し且つシートの外側には露出しない位置にあり、シートの外側には前記受け部が露出し、
使用が想定されている最も小さなシート幅のシートが存在する第2状態で前記プリントヘッドの方向から見たとき、前記可動ガイドはシートの外側に露出した位置にあり、前記可動ガイドとシート端部との間に前記受け部が露出し、
前記第1状態と前記第2状態とで前記可動ガイドは同じ位置にあるように、前記可動ガイドの位置が設定されることを特徴とする、請求項2記載のプリント装置。
【請求項4】
前記最も大きなシート幅よりも小さく且つ前記最も小さなシート幅よりは大きい所定のシート幅のシートが存在する第3状態では、前記可動ガイドは前記第1状態のときとは異なる位置に変位し、前記プリントヘッドの方向から見たとき、前記可動ガイドはシートの背後に位置し且つシートの外側には露出しない位置にあり、シートの外側には前記受け部が露出するように、前記可動ガイドの位置が設定されることを特徴とする、請求項3記載のプリント装置。
【請求項5】
前記プリントヘッドに対向して設けられた固定ガイドを有し、前記固定ガイドは前記最も小さなシート幅よりも小さな幅を有していることを特徴とする、請求項3または4に記載のプリント装置。
【請求項6】
前記可動ガイドは前記第2方向において前記固定ガイドの両側の2カ所に設けられ、2カ所それぞれにおいて前記駆動機構により前記第2方向に移動することを特徴とする、請求項5記載のプリント装置。
【請求項7】
前記第1方向に沿って複数の前記プリントヘッドが設けられ、複数のそれぞれの前記プリントヘッドに対応して前記可動ガイドおよび前記受け部が設けられていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項8】
前記駆動機構には前記可動ガイドが所定の範囲を超えて移動することができないように駆動伝達が遮断される領域が設けられていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項9】
前記駆動機構はリードスクリューを有し、前記リードスクリューのリード部は限定された範囲に形成されており、前記可動ガイドは前記リードスクリューを回転させても前記限定された範囲を超えては移動しないようになっていることを特徴とする、請求項8に記載のプリント装置。
【請求項10】
前記可動ガイドはシートが導入される際にシート先端を裏面側からガイドし、プリント動作中は前記可動ガイドにシートが接触しないことを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項11】
前記受け部はエア吸引されていることを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項12】
前記プリントヘッドはライン型プリントヘッドであり、連続シートにラインプリント方式でプリントがなされることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載のプリント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−153059(P2012−153059A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15401(P2011−15401)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】