説明

プリント配線用基板

【課題】 本発明は、光透過性、耐熱性、力学強度に優れ、かつ成型加工性に優れたプリント配線用基板を提供することを目的とする。
【解決手段】 芳香族ポリエーテル樹脂からなるプリント配線用基板であって、フィルム厚みが50±10μmの場合において、JIS K7105透明度試験法における全光線透過率が90%以上、もしくは、400nmの光透過率が85%以上であることを特徴とするプリント配線用基板である。好ましくは、前記芳香族ポリエーテル樹脂が、沸点70〜150℃以下の非アミド系かつ非ハロゲン系有機溶媒に可溶である。また、好ましくは、前記芳香族ポリエーテル樹脂のDSC(昇温速度20℃/分)によるガラス転移温度が160℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性が高く、耐熱性、機械強度に優れ、かつ、成型加工性に優れたプリント配線用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高機能化する携帯電話やデシタルカメラ、ナビゲーター、その他各種電子機器類の小型化、軽量化の進展に伴って、これらに使用される電子配線材料としてのフレキシブルプリント基板(配線用基板)の高機能化が高まっている。
【0003】
これらの用途に適用するためにはプリント配線用基板及びその材料であるフレキシブル金属積層体に、従来の耐熱性、柔軟性に加えてガラス並の透明性が必要となるが、現在フレキシブルプリント配線板及びその材料であるフレキシブル金属積層体を形成するためのポリマーとしては、例えば(特許文献1)に示されるような全芳香族ポリイミド(カネカ(株)社製アピカル等)が用知られているが、分子内及び分子間での電荷移動錯体の形成により黄褐色に着色しており、透明フィルム基板等の光透過性が必要な用途に適用することは困難であるという問題点があった。
【特許文献1】特開2002−322298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光透過性に優れたプリント配線用基板を提供することを目的とし、さらには耐熱性、力学強度、成型加工性、低吸水性に優れたプリント配線用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、特に透明性、成型加工性を改善する要因について鋭意研究した結果、プリント配線用基板を構成する耐熱性高分子として特定の芳香族ポリエーテルを使用することによって、かかる問題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0006】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1]芳香族ポリエーテル樹脂からなるプリント配線用基板であって、フィルム厚みが50μmの場合における、JIS K7105透明度試験法における全光線透過率が90%以上、もしくは、400nmの光透過率が85%以上であることを特徴とするプリント配線用基板。
[2]前記芳香族ポリエーテル樹脂が、沸点70〜150℃以下の非アミド系かつ非ハロゲン系有機溶媒に可溶であることを特徴とする上記[1]に記載のプリント配線用基板。
[3]前記芳香族ポリエーテル樹脂のDSC(昇温速度20℃/分)によるガラス転移温度が160℃以上であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のプリント配線用基板。
[4]下記化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジハロゲン化物またはその反応性誘導体と、少なくとも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを含むビスフェノールと反応させて得られる芳香族ポリエーテルを含むことを特徴とするプリント配線用基板。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

(式(A)および(B)中のXは、それぞれ独立して、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種の基を示す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明のプリント配線用基板は、透明性と溶解性に優れた耐熱性高分子フィルムからなるため、光透過性が高く、結果として、プロセス負荷の低減が可能であり、高い光透過性を利用したフレキシブルプリント配線用基板、リジットプリント配線用基板、光電子プリント配線用基板、COF(Chip on Film)用基板、TAB(Tape Automated Bonding)用基板等に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなるプリント配線用基板は、その400nmの透過率が、フィルム厚み50μmの場合における、85%であることが望ましい。すなわち、実施例1〜2に示すように、緑色及び赤色の光源に対してのみならず、少なくとも青色付近の光源に対して、光透過率が85%以上の透明性を有していることが好ましい。さらには、87%以上であることがより好ましい。また、全光線透過率で代替すると、フィルム厚みが50μmの場合における、90%以上であることが望ましい。光透過性が上記の範囲を少なくとも1つ以上を満たすことにより、例えば、基盤用途での位置合わせが可能となりプロセス面でのメリットが発現するため上記用途に好適に用いることができるからである。
【0011】
本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなるプリント配線用基板は、沸点70〜150℃以下の非アミド系かつ非ハロゲン系有機溶媒に可溶であることが好ましい。樹脂溶液に使用する溶媒の沸点が上記範囲にあると、成型する際に適度の乾燥性があり、表面の平滑性、および、溶媒の除去性に優れている。具体的には、1,2−ジメトキシエタン(沸点:84.5℃)、1,4−ジオキサン(101.3℃)、メチルエチルケトン(79.6℃)、メチルイソブチルケトン(116.2℃)、酢酸エチル(88.1℃)、酢酸イソプロピル(102.1℃)、酢酸ブチル(116.1℃)、プロピレングリコールモノメチル(90.1℃)、プロピレングリコールモノメチルアセテート(132.2℃)が好適に用いられ、塗工性、安全性、経済性の観点から、好ましくは、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルアセテートが好適に使用される。これらの溶媒は、単独もしくはその他の溶媒と併せて使用できる。芳香族ポリイミド、ポリエーテルに代表される通常の耐熱性高分子では、本特性を満たすことが困難である。溶媒の沸点が70℃より低い場合には、乾燥が速すぎるため表面の均一性が損なわれることがあり、沸点が150℃を超えると溶媒除去が困難になり、過剰の乾燥熱によりプリント配線用基板が着色することがある。
【0012】
本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなるプリント配線用基板は、DSC(昇温速度20℃/分)によるガラス転移温度が160℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が、160℃以上、より好ましくは、180℃以上であると、乾燥時、もしくは、プリント配線用基板として使用する際の熱変形を低減できる。
【0013】
また、本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなるプリント配線用基板は、吸水率が2.0質量%未満であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが特に好ましい。なお、上記吸水率は、下記の実施例に示す測定方法で測定された吸水率である
【0014】
次に、本発明の芳香族ポリエーテル樹脂からなるプリント配線用基板の好ましい原料組成について説明する。本発明の芳香族ポリエーテルを形成する必須モノマーの第一成分は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンであり、また、前記の特性を発現するのに必須モノマーの第二成分として、下記化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジハロゲン化物またはその反応性誘導体が挙げられる。上記の必須モノマーの第一成分と第二成分とを反応させて得られるポリマーは上述した特性を満たすものとなる。
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

(式(A)および(B)中のXは、それぞれ独立して、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種の基を示す。)
【0017】
ビスフェノール成分として使用される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンは、ビスフェノール成分中に50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましく、90mol%以上含有することがさらに好ましい。また、ビスフェノール成分としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン意外に他の共重合可能なビスフェノール成分を用いることも可能である。共重合可能なビスフェノール成分としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、2−フェニルヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、2,5−ジメチルヒドロキノン、4,4’−ビフェノール、3,3’−ビフェノール、ビスフェノールA、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,1’−ビ−2−ナフトール、1,1’−ビ−4−ナフトール、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−5−ビフェニルイル)プロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、などが使用できる。
【0018】
上記式(A)で表される化合物としては、具体的には、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジブロモジフェニルスルホン、4,4’−ジヨードジフェニルスルホン、および、その反応性誘導体が使用できる。特に、反応性の観点から、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好適に使用できる。
また、上記式(B)で表される化合物としては、具体的には、2,6−ジフルオロベンゾフェノン、2,6−ジクロロロベンゾフェノン、2,6−ジブロモベンゾフェノン、および、その反応性誘導体が使用できる。特に、反応性、経済性の観点から、2,6−ジフルオロベンゾフェノン、2,6−ジクロロロベンゾフェノンが好適に使用できる。
上記式(A)で表される化合物及び上記式(B)で表される化合物は、2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0019】
本発明の芳香族ポリエーテル樹脂は、例えば、以下に示す方法で合成することができる。 まずビスフェノールを対応するビスフェノールのアルカリ金属塩とするために、N−メチル−2−ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイドなどの誘電率の高い極性溶媒中でリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などを加える。通常、アルカリ金属はフェノールの水酸基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量を使用する。好ましくは、1.2〜1.5倍当量の使用である。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどの水と共沸する溶媒を共存させて、ビスフェノールのアルカリ金属塩を調製した後、上記化合物(A)および/または(B)等の電子吸引性基で活性化されたフッ素、塩素等のハロゲン原子で置換された芳香族ジハライド化合物などを反応させる。活性芳香族ジハライド化合物の使用量は、目的とするポリマーの分子量に合わせて変更することが出来る。通常、ジハライド化合物はビスフェノールに対し、等量もしくは過剰気味で反応させる。
芳香族求核置換反応の前に予め、ビスフェノールのアルカリ金属塩としていてもよいし、ジハライド化合物存在下で金属塩を調製してもよい。反応濃度は好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。反応温度は60℃〜250℃で、好ましくは80℃〜200℃の範囲である。反応時間は15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲である。本発明の芳香族ポリエーテルの分子量は、好ましくは5,000〜500,000、さらに好ましくは15,000〜250,000である。
【0020】
本発明の芳香族ポリエーテルの単離精製は、例えば、メタノール等のポリマーの貧溶媒に再沈殿、ろ過、減圧乾燥することにより行うことが出来る。本発明の芳香族ポリエーテルを溶解する溶媒としては、例えば、前記の通り、1,2−ジメトキシエタン(沸点:84.5℃)、1,4−ジオキサン(101.3℃)、メチルエチルケトン(79.6℃)、メチルイソブチルケトン(116.2℃)、酢酸エチル(88.1℃)、酢酸イソプロピル(102.1℃)、酢酸ブチル(116.1℃)、プロピレングリコールモノメチル(90.1℃)、プロピレングリコールモノメチルアセテート(132.2℃)が好適に用いられ、塗工性、安全性、経済性の観点から、好ましくは、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルアセテートが好適に使用される。これらの溶媒は、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
【0021】
本発明の芳香族ポリエーテルを溶解させた溶液のポリマー濃度は、ポリマーの分子量にもよるが、通常、5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。5重量%未満では、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい。一方、40重量%を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
なお、溶液粘度は、ポリマーの分子量や濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。2,000mPa・s未満では、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがある。一方、100,000mPa・sを超えると、粘度が高過ぎて、膜厚の調製が困難となりプリント配線用基板の成型が困難となることがある。
【0022】
また、芳香族ポリエーテル樹脂溶液には老化防止剤、好ましくは分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物を含有してもよく、老化防止剤を含有することでプリント配線用基板としての耐久性をより向上させることができる。
本発明で使用することのできる分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロオネート](商品名:IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 259)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、ペンタエリスリチルーテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:IRGANOX 1076)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGAONOX 1098)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト(商品名:IRGANOX 3114)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名:Sumilizer GA-80)などを挙げることができる。
本発明において、芳香族ポリエーテル100重量部に対して分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物は0.01〜10重量部の量で使用することが好ましい
【0023】
本発明のプリント配線用基板の製造方法は、具体的には、上記芳香族ポリエーテル樹脂溶液を基板上に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜から前記有機溶媒を蒸発させることにより除去することでプリント配線用基板を製造する。
上記基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、SUS板、銅箔等が挙げられる。
乾燥温度は、60℃前後の温度で乾燥後、250℃以下の温度で段階的に乾燥を行う方法が好ましい。より好ましい乾燥温度は230℃以下、さらに好ましくは210℃以下である。乾燥温度が高過ぎると、プリント配線用基板が黄変して光透過性が低下することがある。
得られたフィルムは、基板から剥離して、あるいは剥離せずにそのまま用いることができる。
【0024】
また、本発明のプリント配線用基板は、銅層が設けられたものであってもよい。フィルム上に銅層が設けられたプリント配線用基板の製造方法としては、キャスティング法、ラミネート法、メタライジング法等を挙げることができる。キャスティング法としては、例えば、上記工程(b)において使用する基板を銅箔とすることで達成できる。具体的には、芳香族ポリエーテル樹脂溶液を銅箔上に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜から前記有機溶媒を除去することでフィルム上に銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。本発明のフィルムに銅層を設ける方法としては、ラミネート法の場合には、例えば、ラミネート法で得られた本発明のフィルムに銅箔を熱プレスすることで、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。ラミネート法の場合には、例えば、本発明のフィルムに銅箔を熱プレスすることで銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。メタライジング法の場合には、例えば、本発明のフィルムの金属との親和性を発現させるために表面改質を行った後に、蒸着法またはスパッタリング法によって、芳香族ポリエーテルと結合するNi系の金属層と湿式電気めっきに必要なシード層を形成する。そして、湿式めっき法により所定の膜厚の銅層を設けることで、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。
【0025】
本発明のプリント配線用基板は、透明性と溶解性に優れた耐熱性高分子フィルムからなるため、光透過性が高く、成型加工性に優れており、結果として、プロセス負荷の低減が可能であり、さらに高光透過性を利用したフレキシブルプリント配線用基板、リジットプリント配線用基板、光電子プリント配線用基板、COF(Chip on Film)用基板、TAB(Tape Automated Bonding)用基板等に好適に使用できる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管、Dean−Stark管、及び冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン(16.81g、50mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(14.36g、50mmol)、炭酸カリウム(7.60g、55mmol)、NMP50mL、トルエン20mLを添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、得られた溶液を130℃で反応させ、生成する水をDean−Stark管により除去した。水の生成が認められなくなったところで、徐々に温度を180℃まで上昇し、そのままの温度で5時間反応させた。
室温まで冷却後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末を得た(25.3g、92%)。
次いで、得られたポリマーをプロピレングリコールモノメチルアセテート(PGMEA)に再溶解し、20質量%の樹脂溶液を得た。該樹脂溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレードを用いて塗布し、80℃で30分、ついで150℃で60分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムを金枠に固定しさらに200℃、2時間乾燥して、膜厚50μmの評価用フィルムを得た。また、ここで得られた樹脂溶液を後の成型加工性評価に用いた。
得られたポリマーについて、下記の方法により構造分析及び重量平均分子量の測定を行った。結果は、赤外スペクトルの特性吸収が、1585、1508、1237、1148cm−1、重量平均分子量が、109,000であった。
また、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、吸水試験、成型加工性評価は、下記の方法により実施した。結果を表1及び表2に示した。
【0027】
(1)構造分析
IR(ATR法)により行った。
(2)重量平均分子量
重量平均分子量は、TOSOH製HLC−8020型GPC装置を使用して測定した。溶媒には、臭化リチウムおよび燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い、測定温度40℃にて、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
(3)有機溶媒に対する溶解性
ポリマーを、各種有機溶媒(N−メチルピロリドン(以下、NMPともいう)、シクロヘキサノン(以下、CHNともいう)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAともいう)、メチルエチルケトン(以下、MEKともいう)、ジクロロメタン(以下、DCMともいう))に溶解し、5〜20質量%溶液になるように調整し、室温での溶解性を評価した(表1)。また、製膜に好適である非アミド系かつ非ハロゲン系で沸点が80〜150℃の有機溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン)に完全に溶解した場合を「○」、膨潤もしくは不溶ポリマーがある場合を「×」とした(表2)。
(4)全光線透過率
JIS K7105透明度試験法に準じて測定した。具体的には、フィルムの全光線透過率を、スガ試験機株式会社製SC−3H型ヘイズメーターを用いて測定した。
(5)光透過性
得られたフィルムの波長400nmにおける透過率は、JASCO社製V−570型UV/VIS/NIR分光器を用いて測定した。
(6)ガラス転移温度(Tg)
得られたフィルムのガラス転移点は、Rigaku社製8230型DSC測定装置を用いて、昇温速度を20℃/minとして測定した。
(7)引張特性
得られたフィルムの力学強度は、JIS K7127に準じて測定した。
(8)吸水試験
得られたフィルムを3cm×4cmの大きさに3枚切り出し、減圧乾燥下180℃で8時間乾燥させた。フィルムの質量を測定した後、蒸留水に25℃で24時間フィルムを浸漬させた。浸漬後フィルム表面の水滴をふき取り、浸漬前後の質量変化から吸水率を算出した。
(9)成形加工性
得られたポリマーのフィルムの作製は、以下の方法により行った。上記芳香族ポリエーテル樹脂溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレードを用いて乾燥後の膜厚が50±10μmとなるように塗布し、80℃で30分、ついで150℃で60分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムを金枠に固定しさらに最終乾燥としてポリマーの種類により150〜300℃、2時間乾燥させることにより行った。成型加工性の評価は、溶解性、残存溶媒量(熱重量分析法:TGA、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分)により行った。
【0028】
(実施例2)
ジクロロジフェニルスルホンの代わりに2,6−ジクロロベンゾニトリル(8.60g、50mmol)、を使用した以外は実施例1と同様の方法で行い、白色粉末を得た(20.5g、94%)。
得られたポリマーの赤外スペクトルの特性吸収は、2233、1600、1577、1507、1239、1164cm−1、重量平均分子量は、158,000であった。
また、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、吸水試験、成型加工性評価は、実施例1と同様に行い、結果を表1及び表2に示した。
【0029】
(比較例1)
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンの代わりに4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル(10.1g、50mmol)、を使用した以外は実施例1と同様の方法で行行い、白色粉末を得た(19.6g、94%)。得られたポリマーの重量平均分子量は、101,000であった。
また、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、吸水試験、成型加工性評価は、実施例1と同様に行い、結果を表1及び表2に示した。
【0030】
(比較例2)
ポリイミド:温度計、攪拌機、窒素導入管、及び冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(12.4g、50mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)(170ml)を加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に4,4‘’−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸無水物):6FDA(22.2g、50mmol)を室温で加え、そのままの温度で12時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られた溶液はそのまま樹脂溶液として使用し、製膜後に熱イミド化(300℃、2時間)を行うことにより評価サンプルを得た。得られたイミド化ポリマーの重量平均分子量は、90,000であった。
また、本イミド化ポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、吸水試験、成型加工性評価は、実施例1と同様に行い、結果を表1及び表2に示した。
【0031】
(比較例3)
シクロオレフィンポリマー:シクロオレフィンポリマーとして、JSRのARTONをそのまま使用した。
また、本シクロオレフィンポリマーの有機溶媒に対する溶解性、フィルムの全光線透過率、400nm透過率、ガラス転移点、吸水試験、成型加工性評価は、実施例1と同様に行い、結果を表1及び表2に示した。なお、本ポリマーはGPCの展開溶媒に不溶なため分子量の測定は行わなかった。成型加工性評価は、樹脂溶液の乾燥速度が速すぎるため表面が不均一であった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1から、本発明の芳香族ポリエーテルは、成型する際に適度の乾燥性を有する有機溶媒に対して優れた溶解性を有していることが分かる。表2からも、高温(例えば、300℃程度)で熱処理することなくフィルムが得られ、成型加工性が優れていることが分かる。また、本発明のポリマーは光線透過率が高く、吸水性、耐熱性および力学強度も優れていることが示されている(実施例1〜2)。一方、本発明の範囲外比較例1〜3では、溶解性が乏しく、成型加工性が悪いことが分かる。比較例1、2では、光透過性に劣る問題もある。さらに、比較例2では、イミド化のため高温での熱処理が必要でプロセス負荷が高く、吸水性に劣っている。また、比較例3では、実施例1〜2に比して、耐熱性、力学強度に劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエーテル樹脂からなるプリント配線用基板であって、フィルム厚みが50μmの場合における、JIS K7105透明度試験法における全光線透過率が90%以上、もしくは、400nmの光透過率が85%以上であることを特徴とするプリント配線用基板。
【請求項2】
前記芳香族ポリエーテル樹脂が、沸点70〜150℃以下の非アミド系かつ非ハロゲン系有機溶媒に可溶であることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線用基板。
【請求項3】
前記芳香族ポリエーテル樹脂のDSC(昇温速度20℃/分)によるガラス転移温度が160℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のプリント配線用基板。
【請求項4】
下記化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジハロゲン化物またはその反応性誘導体と、少なくとも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを含むビスフェノールと反応させて得られる芳香族ポリエーテルを含むことを特徴とするプリント配線用基板。
【化1】

【化2】

(式(A)および(B)中のXは、それぞれ独立して、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種の基を示す。)

【公開番号】特開2010−123889(P2010−123889A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298507(P2008−298507)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】