説明

プリーツフィルター、それを用いたバラスト水処理装置、およびプリーツフィルターの製造方法

【課題】使用による劣化や破損を防止し、長期間安定して使用することが可能なプリーツフィルターとその製造方法、およびそれを用いたバラスト水処理装置を提供する。
【解決手段】平面状の基材を周期的に折り曲げて形成され、山部と谷部が繰り返し連続して構成されたプリーツフィルターであって、折り曲げ部である前記谷部に破損防止手段を講じた。破損防止手段は、前記谷部に設けられた樹脂補強手段、または谷部の曲げ半径R(mm)と基材の厚さt(mm)を2t≦R≦10tの関係とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に液体の濾過に用いられるプリーツフィルターの構造に関するものであり、特に、船舶に貯留されるバラスト水の処理システムに用いられ大量の水の濾過に用いられるプリーツフィルターおよびそれを用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体や液体から混入物としての固体を分離除去する目的では多種多様なフィルターが用いられており、フィルターをプリーツ形状として濾過面積を大きくしたプリーツフィルターも主に空気清浄機等の気体用途で用いられている。また、特許文献1には、円筒形状に形成されたプリーツフィルターを工作機械の切削液からスラッジを除去するためのフィルター装置として用いた例が示されている。この装置では、円筒形状フィルターを回転させながら、フィルター外面に向かって液体を噴出させることで、フィルターの洗浄効果の高いフィルター装置を提供できるとされている。
【0003】
一方、近年、船舶に積載するバラスト水の処理が問題となっている。バラスト水は空荷状態でも安全に航行するために船舶に積載される海水であり、バラスト水を浄化処理して微生物を除去あるいは死滅、不活性化する方法が種々検討されている。比較的大きな微生物の除去の目的で濾過を用いる方法も検討されており、たとえば特許文献2には濾過膜を用いたバラスト水の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−93783号公報
【特許文献2】特開2006−728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海水淡水化やバラスト水などの汽水・海水利用、あるいは下水、生活排水、工業排水など水処理に際しては、水中の異物やゴミ、微生物を除去処理する前濾過処理が必要となる。本願発明者らは、このような濾過へのプリーツフィルターの適用を検討している。ここでは大量の水をできるだけ短時間で濾過する必要があるが、大規模・高流量の運転は概して早期の目詰まりによる処理量や濾過機能の低下を招きやすいことが技術的な問題となっている。
【0006】
例えば、円筒状フィルターを筒状容器に内蔵し、円筒状フィルターの外側から内部に流入する液体を濾液として回収する濾過装置において、濾過対象液を筒状容器の側面に設けたノズルからフィルター濾過面の一部に噴出することでフィルター表面に堆積した濾過物を洗浄して透過流束を回復、洗い流した濾過物を濾過前室から排液することで安定した濾過状態を連続して継続させることが可能である。このようなシステムが安定に連続濾過を維持するのに重要なのは、フィルター濾過面への濾過対象液の噴出の洗浄効果である。局所的な洗浄噴出が経時的にフィルターの洗浄部位を変えてフィルター全体を洗浄していくことを効率的かつ効果的に行うために、円筒状フィルターを濾過中にモーター駆動等で回転させて、噴出ノズルからの噴出が当たる場所を連続的かつ周期的に変えていくことが望ましい。この回転洗浄を確実に行って高い濾過流量を安定に保つためには、ノズルからの濾過対象液の噴出をある程度以上の高い流量レベルで維持する必要があるが、発明者らの検討ではこのような高流量の噴出を受けた結果、円筒状フィルターは経時的に劣化して、破損による孔が生じ、濾過対象液の一部がフィルターを通らずに濾液に直接混入してしまう場合があることがわかった。
そこで、本発明は、使用による劣化や破損を防止し、長期間安定して使用することが可能なプリーツフィルター、およびそれを用いた濾過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、フィルターの劣化について鋭意検討の結果、高流量の噴出を受けたフィルターの、プリーツの谷に当たる折り曲げ部分に破損による孔が発生しやすく、孔や亀裂状の破損によって、濾過対象液の一部がフィルターを通らずに濾液に直接混入してしまうことを確認し、本願発明に至った。
【0008】
平面状の基材を周期的に折り曲げて形成され、山部と谷部が繰り返し連続して構成されたプリーツフィルターであって、折り曲げ部である前記谷部に破損防止手段が講じられているプリーツフィルターとした(請求項1)。
【0009】
プリーツフィルターにおいては、濾過対象液の圧力によって、あるいはその圧力の変動によってプリーツの折り曲げ部分に応力が集中しやすい。特に、濾過対象液が水等の液体の場合は、空気等の気体の場合に比べてフィルターが受ける圧力が大きく、フィルターが折り曲げ部にて破損しやすい。発明者らの検討によると、この破損は、濾過対象液と接する側からみて谷部となる折り曲げ部にて生じやすいことが判った。かかる谷部には折り曲げを開こうとする方向の力が加わり、また圧力変動によって折り曲げ部の曲げ角度が変動することから、引張応力と繰り返し曲げによって破損の可能性が高まるものと考えられる。そこで、折り曲げ部の、少なくとも谷部となる側に、破損防止手段を講じることで、プリーツフィルターの強度が増し、寿命を延ばすことができ、ひいては濾過装置の長期運転が可能となる。また、強度が増すことによって、かかるプリーツフィルターを用いた濾過装置の濾過量や濾過速度を向上することが可能となる。
【0010】
このような破損防止手段は、前記谷部の折り曲げ部に設けられた樹脂を補強体とする樹脂補強手段であると良い(請求項2)。樹脂補強手段とは、樹脂を補強体として用いた補強手段全般をいう。フィルターの基材に樹脂を含浸して形成されたものが、基材と補強体樹脂が一体となることで強度と寿命が効果的に向上することから最も好ましく用いられる(請求項3)。本発明は、含浸により多孔質である基材の孔部を埋め、含浸部分が無孔質となる態様をも含む。無孔質となることで折り曲げ部の強度は一層補強される。含浸は、少なくとも谷部の谷側表面、すなわち、濾過対象液が供給される側の表面に含浸されることが好ましい。また、前記基材の表面の一方面あるいは両方面に樹脂シートなどの樹脂部材を貼付して形成されたものでも良い(請求項4)。貼り付けは接着剤を用いても良く、樹脂自体の接着性を利用してもよい。これらの一形態として、補強体としての樹脂シートを熱融着により貼り付ける際に、融着された樹脂の一部が基材中に含浸する形態も挙げられる。
【0011】
他の破損防止手段として、谷部の曲げ半径Rと基材の厚さt(mm)が、2t≦R≦10tの関係とすると良い(請求項5)。基材に折り曲げ加工を施すことで、折り曲げ部の頂部の基材の厚さは一般には元の基材の厚さより薄くなり、特に鋭角に折り曲げると、その部分に応力集中が生じて破損しやすい。折り曲げ部の曲げ半径を上述のようにすることで、破損を抑止できる。2tより小さくなると破断防止の効果が十分に得られない。また、プリーツの目的が折り畳むことによって体積当たりのフィルター面積を大きくすることであることを勘案すると、フィルターの隙間は数mm以内にすることが望ましく、これにともなって曲げ半径は10tより小さくすること好ましい。好ましくは5t以下、2t以上である。例えば、基材として500μmの不織布を用いた場合には、曲げ半径Rを1mm以上とすることが好ましい。より好ましい範囲は1〜3mmである。ここで、曲げ半径Rは、折り曲げられた谷部側表面に接する円の最小半径を指し、使用するプリーツフィルターの複数の谷部から抜き取った20サンプル以上の曲げ半径を、拡大鏡や写真等を用いて通常の寸法測定手法により測定して平均した値とする。
【0012】
もちろん、前述の樹脂補強手段と併用して、樹脂補強手段を備えつつ谷部の曲げ半径を所望の範囲に形成することが、さらに好ましい(請求項6)。双方の効果を併せ持つことで、より補強の効果が発揮されるからである。
【0013】
上述のプリーツフィルターは、その形状が、山部の稜線方向を軸線の方向として全体が円筒状をなし、破損防止手段が少なくとも円筒状の外側からみた谷部に設けられている場合に特に好ましく用いられる(請求項7)。また、特に好ましい使用形態である装置として、前記の円筒状のプリーツフィルターが軸線を囲むように円筒配置され、プリーツフィルターの外周面に向けて濾過対象液である被処理水を流出する被処理水ノズルと、プリーツフィルターを囲むように設けられ被処理水ノズルのノズル口を内部に備えた外筒部を有するケースと、フィルターを透過した濾過水をプリーツフィルターの円筒内部からケースの外部へ導出する濾過水流路と、プリーツフィルターで濾過されなかった排出水を前記ケースの外部へ排出する排出流路とを備えたバラスト水処理装置が挙げられる(請求項8)。
【0014】
かかる装置においては、円筒状の大型のプリーツフィルターの外表面側に、被処理水ノズルからの高流量の被処理水が噴出され、円筒状のプリーツフィルターが回転しつつ、その表面が洗浄されながら濾過が行われる。被処理水の量が多く、圧力が大きいことから、プリーツの折り曲げ部にかかる応力が大きく、また、被処理水ノズルからの噴出によりプリーツ間隔が開閉する方向にフィルターが振動する。このため、例えば空気清浄等の目的での小型のプリーツフィルターでは問題とならなかった折り曲げ部の強度が求められることとなり、本発明の如き破損防止手段が極めて有効に機能する。
【0015】
次に、これらのプリーツフィルターの製造方法として好ましい方法を示す。まず平面板帯状の基材を準備する。基材は多孔質樹脂製であることが好ましい。平面状の基材を周期的に折り曲げることにより、山部と谷部を繰り返し連続して形成する。折り曲げ部となる基材の少なくとも一方面に樹脂シートを添える工程と、樹脂シートが添えられた部分の基材と樹脂シートとを加熱することにより、樹脂シートの少なくとも一部を基材内に含浸する含浸工程と、折り曲げ部を折り曲げた状態で冷却固定する冷却工程とを備えたプリーツフィルターの製造方法とすると良い(請求項9)。含浸による補強と、それを冷却固定することによる形状固定が同時あるいは連続して行えることから効果的である。
【0016】
ここで、冷却工程は、一定半径の金属治具を折り曲げ部に当接させた状態で冷却する工程とすると、樹脂の含浸による補強と一定曲げ半径による補強が同時に形成することができ、特に好ましい(請求項10)。
【発明の効果】
【0017】
以上の発明によれば、使用による破損を防止し、長期間安定して使用することに寄与するプリーツフィルターとその製造方法、およびそれを用いたバラスト水処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかるプリーツフィルターの代表的構成を説明する斜視模式図である。
【図2】図1のプリーツの一部を拡大した図である。
【図3】本発明による破断防止手段の一例として樹脂補強された折り曲げ部を拡大した模式図である。
【図4】本発明による破断防止手段の一例として樹脂補強された折り曲げ部の別な態様を説明する模式図である。
【図5】本発明による破断防止手段の一例として樹脂補強された折り曲げ部の別な態様を説明する模式図である。
【図6】本発明による破断防止手段の一例として樹脂補強された折り曲げ部の別な態様を説明する模式図である。
【図7】本発明による破断防止手段の一例としての折り曲げ部と先端曲げ半径を説明する模式図である。
【図8】本発明にかかる破損防止手段の製造方法を説明する図である。
【図9】本発明によるバラスト水処理装置の一例を示す図であり、軸線を含む垂直断面の構成を示す模式図である。
【図10】本発明によるバラスト水処理装置の一例を示す図であり、図9における水平A−A断面の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明にかかるプリーツフィルターおよびバラスト水の処理装置の構成を以下図面を参照して説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
(プリーツフィルターの構成)
図1は、本発明にかかるプリーツフィルターの代表的構成を説明する斜視模式図である。このフィルターは帯状の平面基材を山谷交互に折りたたむことで、いわゆるプリーツ形状とし、さらに円筒状につなぎ合わせて構成されたものである。以下、特に効果的な代表例として円筒状のプリーツフィルターについて説明するが、本発明による破損防止手段はプリーツフィルターを円筒にすることなく平板状のフィルターとして用いる場合にも適用でき、同様の効果を奏するものである。
【0021】
図1において円筒状プリーツフィルター10の円筒外側から濾過対象液が供給され、フィルターの基材1によって濾過された液が円筒内側から排出される場合を想定する。濾過対象液が接する側の面を濾過前面、濾過された濾過液が排出される側の面を濾過後面と呼び、以下の説明を行う。本例の構成では円筒外側のフィルター面が濾過前面、円筒内側のフィルター面が濾過後面に該当する。フィルターが円筒状では無い平板等の場合においても、濾過の利用形態に応じて濾過前面か濾過後面かを読み替えれば良い。濾過前面から見てプリーツ形状の折り曲げ部の山部と谷部を定義する。図1においては、例えば図中のA部が谷部であり、B部が山部である。
【0022】
フィルターの基材には多孔質樹脂シートが用いられる。材質として例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等からなる延伸多孔質体、相分離多孔体、不織布等の多孔質構造物が利用されるが、高流量処理を行う目的においては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなる不織布が特に好適に用いられる。
【0023】
図2は、図1のプリーツの一部を拡大した図である。Aは谷部、Bは山部を指す。濾過前面からの濾過対象液の圧力を受けたプリーツフィルターにおいて、谷部には拡がろうとする向きの力Pが加わり、谷部の基材1に引っ張り応力が集中する。また、圧力の変動により折り曲げ部に繰り返し曲げが加わることもある。これらによって、特に谷部には裂けによる孔が生じやすいと考えられる。本発明はかかる折り曲げ部、特に谷部の破損防止をおこなうことがプリーツフィルターの長寿命化、ひいては濾過装置の長期安定運転に効果的であることを見いだした点に特徴がある。なお、もちろん補強は山部にも設けても良い。
【0024】
このような多孔質樹脂シートである基材を折り曲げた部分の破損防止手段として、折り曲げ部近傍を樹脂により補強する。樹脂を補強体とした補強手段の一例として、基材への樹脂の含浸が好ましく用いられる。図3は、樹脂補強されたプリーツフィルターの折り曲げ部を拡大して説明するための模式図である。谷部Aにおいて、基材1の折り曲げ内側面に補強用の樹脂2が含浸されている様子を示す。基材1は多孔質樹脂であり、樹脂2は基材1の多孔質の孔部において孔部表面の基材表面に付着している。含浸により孔部を埋め、含浸部分が無孔質となると、濾過液の圧力により孔が拡がり裂けようとする力が生じないことによる折り曲げ部の補強効果も得られることでさらに強い補強効果が得られる。
【0025】
図4および図5は含浸の別な態様を例示したものであり、図4では折り曲げ部の基材1の外側表面に樹脂2を含浸、図5では基材1の両面に亘って全体に樹脂2を含浸している。図5ではまた、含浸した樹脂2がさらに基材1の表面を覆うように厚みを持って付着している。このように基材1の内部に含浸させるのみに限定されることなく表面への樹脂の付着にも効果がある。谷部においては少なくとも濾過前面に樹脂が含浸されている方が、引っ張り応力への補強として好ましい。
【0026】
含浸される樹脂は、シリコーンやエポキシ、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ETFE、PVdF等の熱可塑性樹脂、またはPVdFやシリコーンを溶剤で希釈したもの等が利用可能であり特に限定されないが、フィルターの素材になじみやすいものが望ましい。また、含浸される樹脂は、含浸時には多孔質内に浸入する流動性が必要であるが、含浸後はフィルターと一体となって容易に分離できないようにすることが必要である。熱硬化性樹脂では含浸後加熱硬化すればよいし、2液性硬化樹脂では混合後すぐに含浸させた後に、溶剤希釈して粘度を下げた樹脂の場合は含浸後に溶剤を乾燥するためにしばらく時間を置いて硬化させるとよい。
【0027】
図6は、さらに別な樹脂補強手段を例示したものであり、基材1の表面に樹脂シート3を貼り付けた例である。このように含浸を伴わない手段によっても、濾過対象液の圧力を受け止め、また基材1との接着により基材の受ける力を分担することによって補強が可能である。図示はしないが基材1の濾過後面への樹脂シートの貼り付け、あるいは両面への貼り付けによっても効果が得られる。
【0028】
次に、折り曲げ部と曲げ半径について説明する。折り曲げ部の曲げ半径は、谷部の濾過前面の最小半径で定義する。図7は折り曲げ部と先端曲げ半径を説明する模式図であり、谷部を拡大した図である。ここで谷の内側が濾過前面である。折り曲げ部とは、折り曲げ前の平板状基材が曲げられた部分を言う。図7を参照して断面で見ると、直線部Lが曲げられていない部分であり、曲線部をなす区間Cが折り曲げ部となる。かかる折り曲げ部の濾過前面の折り曲げた曲面への内接円のうち最小の半径R(mm)を曲げ半径とする。Rが小さい程折り曲げ部の破断、すなわち裂けや孔などが生じやすい。適切な曲げ半径Rは、基材の厚さt(mm)との関係において、2t≦R≦10tである。
【0029】
また、樹脂により補強する場合においては、樹脂補強手段は、折り曲げ部全体に亘って補強するように設けられていることが好ましい。補強された部分と補強されていない部分の境界部分は堅さが不連続となることから、応力が集中しやすい。折り曲げ部にそのような境界が存在すると、長期の使用において破断しやすい。そのため、樹脂補強手段は折り曲げ部全体に亘っており、その端部(境界部)が基材の直線部に存在するように設けられていることがより好ましい態様である。言い換えると、樹脂補強手段による補強部分の補強長さが折り曲げ部の長さよりも長いと好ましい。また、折り曲げ部をほぼ均等な円に接するような形状で形成する場合では、折り曲げ部Cの濾過前面側の表面長さが曲げ半径のほぼ2倍となるため、補強長さが曲げ半径の2倍より長いと好ましい。
【0030】
上述の樹脂の含浸等を行った上で、さらに曲げ半径を上記の範囲にすることが、より好ましい。樹脂補強を行った後に、あるいは補強の工程において曲げ半径が所望の範囲になるように折り曲げ部を固定することで製造することが可能である。
【0031】
(製造方法)
以下、製造方法について説明する。樹脂補強手段として熱融着樹脂の含浸を行い、併せて形状を所望の曲げ半径に収める場合を代表例を図8を参照して説明する。図8(a)は、基材1の折り曲げ部を形成する部分の片側表面に補強用のシート状の樹脂2を添えたところを示している。この例では、谷部の内側である濾過前面に含浸する場合として説明するが、補強用の樹脂シートは樹脂を含浸させたい面に添えれば良い。図8において、基材1は、多孔体であることを模式的に判りやすくするための表記としている。また、本例では、好ましい製造方法の例として、基材1は多孔質樹脂シート、補強用の樹脂2は、基材1よりも融点の低い熱可塑性樹脂の場合を示す。例えば、多孔質樹脂シートに融点が260℃前後のポリエチレンテレフタレートを主材料とするポリエステル製不織布を用い、含浸させる熱可塑性樹脂として、融点が230℃前後のポリメチルペンテンや66ナイロン、ポリカーボネート、さらには融点が一般に120℃前後のポリエチレン、160℃近辺のポリプロピレン等を好適に用いることができる。ヒートシーラー等の加熱加圧装置(図示しない)によって、図8(a)の矢印の方向に圧力を加えながら加熱することにより、補強用の樹脂2が溶融しつつ基材1の多孔体内部に含浸される。
【0032】
かかる含浸の後、あるいは含浸と並行して所望の曲率に折り曲げる工程を説明する。図8(b)は含浸と並行して曲げる場合の例を示しており、図8(a)の加熱に際して、樹脂2の上に所望の半径をもつ金属治具4を当接させた状態である。かかる状態で含浸を行いつつ折り曲げることで、図8(c)の如くに、基材1に樹脂2が含浸した状態で所望の曲率に折り曲げられる。この例以外の方法として、含浸は図8(a)のような基材と樹脂のみの状態で行った後に、図8(c)のように金属治具4を冷却部材として当接させながら曲げと冷却を行って折り曲げ部を形成しても良い。当接させる部材は金属に限定されるものではないが、冷却効果を考慮すると、金属棒やパイプ、あるいはセラミックスやガラスなど、加熱温度で変形せず、かつ熱伝導が比較的良好な部材であると良い。
【0033】
以上は、基材中に補強用の樹脂を含浸する場合について記載したが、樹脂シートを接着剤により貼り合わせる方法や、熱融着で接着する方法により、含浸以外の樹脂補強手段を形成することが可能である。また、含浸させる場合であっても、予め熱可塑性樹脂以外の樹脂を基材の所定の部分に含浸させた後に、当該部分を折り曲げることでも良いし、折り曲げる際に、加熱をともなって柔軟な状態で所望の曲率に変形させるようにしても良い。
【0034】
(濾過装置)
上述のプリーツフィルターを用いた濾過装置の好ましい適用例として、バラスト水処理装置の構成を図面を参照して説明する。図9および図10は本発明による船舶用のバラスト水処理装置の一例を示す図であり、図9は軸線を含む垂直断面の構成、図10は図9における水平A−A断面の構成をそれぞれ模式的に示す図である。円筒形状のプリーツフィルター101は回転中心となる軸線を囲むように配置されており、中心に配置された中心配管(配管は回転しない)の周囲を回転自在に取り付けられている。プリーツフィルターの上下面は水密に塞がれている。回転自在な取り付け構造は、同じく水密構造とする必要があるが、特に限定されることなく既知の構造が用いられる。フィルター全体を覆うようにケース103が設けられる。ケース103は外筒部131、蓋部132、底部133で構成され、底部133には排出流路108が設けられる。ケース103内に被処理水としての海水を導入するため被処理水流路106と被処理水ノズル102が設けられる。被処理水ノズル102は、そのノズル口121をケース103の外筒部131内に備えるように被処理水流路106から延設され、被処理水がプリーツフィルターの外周面に向かって流出するように構成されている。また、プリーツフィルターの回転のためにモーター190がプリーツフィルターの中心軸に備えられている。モーター190はモーターカバー191で覆われて収納され、駆動制御部(図示せず)からの電力により駆動される。
【0035】
本例の場合、被処理水ノズルから噴出した被処理水はプリーツフィルターのプリーツ外周面に当たり、その圧力によってプリーツフィルターの洗浄効果が得られる。濾過されない被処理水および、ケース内に沈殿した濁質分は、ケース底部の排出流路から順次排出される。このように濁質分や残った被処理水が連続的に常に排出されつつ濾過が進行される点もこの装置の特徴であり、バラスト水に求められる10〜20ton/時間やさらには100ton/時間という処理量を確保するために効果がある。なお、図では排出流路にバルブなどを記載していないが、保守用や流量調節用に必要な機器を設けることはできる。一方、プリーツフィルター101により濾過された濾過水はフィルター内部にて中心配管104に設けられた取水穴141を通して濾過水流路107に導かれ、ケース外部に流出される。
【0036】
100ton/時間の処理を行う装置の一例として、プリーツフィルターの外径は700mm、軸方向長さ320mm、有効面積としての高さ280mm、プリーツ深さ70mm、プリーツ数420折、が挙げられる。被処理水ノズル102はノズル口121が矩形開口であるとよい。被処理水ノズルから大量の水がプリーツフィルター面に噴出されることにより、プリーツフィルターの特に谷部への応力集中が生じ、また谷部の折り目が開閉する方向の振動が生じることで、折り目に裂け等の孔が開きやすくなる。本発明の折り目が補強されたプリーツフィルターを用いることで、破断が効果的に抑止でき、装置の長期安定的な運転が可能となる。
【0037】
(実験例)
樹脂補強手段による効果を確認するため、樹脂の含浸と折り曲げを行った部分の強度比較を行った。使用した材料は次の通りである。
多孔質フィルター:ポリエチレンテレフタレート製不織布(商品名:東レ製 アクスターG2260−1S BK0)
含浸樹脂:ポリプロピレン製不織布(商品名:出光ユニテック製 ストラテックRW2100)
ヒートシール機:石崎電気製卓上シーラーNL−301J
基材となる多孔質フィルターの折り曲げ部に含浸樹脂を載せて、ヒートシール機のシールタイマーの設定4(加熱時間約1秒)にてヒートシールをしてストラテックを完全に熱溶融してアクスターに含浸させた状態でいったん冷やし、さらに同じ加熱条件で加熱したあと、直ちに直径3mmのステンレス棒を挟んでステンレス棒の形状に添って折り曲げ部を曲げて曲げ半径1.5mmとなったものを実施例とした。また、同多孔質フィルターをそのまま180度折り曲げて戻らないまで折れクセを付けたものを比較例とした。
【0038】
折り曲げ部を開いて折り曲げ部がダンベルの中心付近で引張方向に垂直になるようにダンベル型に打ち抜き、チャック間隔3cm,引張スピード100mm/分にて破断強度を測定した。結果、比較例は全て折り曲げた部分で破断し破断強度は33MPaであった。また、折り曲げ無しの基材そのものでの測定結果は40MPaであったため、折り曲げによって強度が低下していることが示唆された。これに対し、実施例では、樹脂を含浸した折り曲げ部分では破断せず全てが他の平坦部で破断し、その破断強度は41MPaであった。すなわち折り曲げ部は41MPa以上の強度であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のプリーツフィルターは目詰まりによる性能低下を起こさず耐久性にも優れているため、海水淡水化やバラスト水などの汽水・海水利用、あるいは下水、生活排水、工業排水など水処理に際して、水中の異物やゴミ、微生物を除去処理する前濾過処理に好適に利用できる。また、高濁質・高SSの水処理や濃縮処理にも優れているため、食品分野などの有価物回収分野にも応用が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 基材
2 樹脂
3 樹脂シート
4 金属治具
10,101 プリーツフィルター
102 被処理水ノズル
103 ケース
104 中心配管
106 被処理水流路
107 濾過水流路
108 排出流路
121 ノズル口
131 外筒部
132 蓋部
133 底部
141 取水穴
190 モーター
191 モーターカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の基材を周期的に折り曲げて形成され、山部と谷部が繰り返し連続して構成されたプリーツフィルターであって、
折り曲げ部である前記谷部に破損防止手段が講じられているプリーツフィルター。
【請求項2】
前記破損防止手段は、前記谷部の折り曲げ部に設けられた樹脂を補強体とする樹脂補強手段である、請求項1に記載のプリーツフィルター。
【請求項3】
前記樹脂補強手段は、前記基材に樹脂を含浸して形成されている、請求項2に記載のプリーツフィルター。
【請求項4】
前記樹脂補強手段は、前記基材の表面に樹脂部材を貼付して形成されている、請求項2に記載のプリーツフィルター。
【請求項5】
前記破損防止手段は、前記谷部の折り曲げ部の曲げ半径Rであって、
該曲げ半径Rと前記基材の厚さt(mm)が、
2t≦R≦10t
の関係である、請求項1に記載のプリーツフィルター。
【請求項6】
前記破損防止手段は、前記谷部の折り曲げ部に設けられた樹脂補強手段であり、
かつ、前記谷部の折り曲げ部の曲げ半径Rと前記基材の厚さt(mm)が、2t≦R≦10tの関係である、請求項1に記載のプリーツフィルター。
【請求項7】
前記山部の稜線方向を軸線の方向として全体が円筒状をなし、前記破損防止手段が少なくとも前記円筒状の外側からみた谷部に設けられている、請求項1から6のいずれか1項に記載のプリーツフィルター。
【請求項8】
請求項7に記載のプリーツフィルターが前記軸線を囲むように円筒配置され、
該プリーツフィルターの外周面に向けて被処理水を流出する被処理水ノズルと、
前記プリーツフィルターを囲むように設けられ前記被処理水ノズルのノズル口を内部に備えた外筒部を有するケースと、
前記プリーツフィルターを透過した濾過水を前記プリーツフィルターの円筒内部から前記ケースの外部へ導出する濾過水流路と、
前記プリーツフィルターで濾過されなかった排出水を前記ケースの外部へ排出する排出流路とを備えたバラスト水処理装置。
【請求項9】
平面状の基材を周期的に折り曲げることにより、山部と谷部が繰り返し連続して形成されるプリーツフィルターの製造方法であって、
前記折り曲げ部となる基材の少なくとも一方面に樹脂シートを添える工程と、
前記樹脂シートが添えられた部分の前記基材と前記樹脂シートとを加熱することにより、前記樹脂シートの少なくとも一部を前記基材内に含浸する含浸工程と、
前記折り曲げ部を折り曲げた状態で冷却固定する冷却工程とを備えた、プリーツフィルターの製造方法。
【請求項10】
前記冷却工程は、一定半径の金属治具を前記折り曲げ部に当接させた状態で冷却する工程である、請求項9に記載のプリーツフィルターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245428(P2012−245428A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116720(P2011−116720)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】