説明

プレグラウトPC鋼材及びそのプレグラウト層の硬化方法

【課題】プレグラウト層2の硬化を任意の時になし得るようにする。
【解決手段】複数の素線1aを撚り合わせたPC鋼線材1と、そのPC鋼線材1の外周にそのPC鋼線材1を収納するように配されたエポキシ樹脂等のプレグラウト層2と、そのプレグラウト層2の外周を被うシース3を有するプレグラウトPC鋼材10である。その内部に、一端から他端に向かってプレグラウト層2を硬化させる硬化剤導入用線材4を設ける。ポストテンション工法において使用し、コンクリートを打設して硬化後、PC鋼線材1を緊張・定着し、その緊張力の反力により、コンクリートに圧縮応力を与える。この作業が終われば、プレグラウトPC鋼材10の露出端面から、シリンジでもって、例えば、イミダゾール、アルカリ水溶液(防錆した水)を線材4を介してPC鋼材10の一端から他端に向かって導入する。この導入によって、プレグラウト層2の全域に硬化剤が行き亘ってその硬化がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレストレストコンクリート(PC)ポストテンション工法等のPC施工方法において使用されるプレグラウトPC鋼材、及びそのプレグラウトPC鋼材のプレグラウト層の硬化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なポストテンション工法は、コンクリートに予め埋設された筒状シースにPC鋼線材を挿入して緊張・定着し、その緊張力の反力により、コンクリートに圧縮応力を与えるものであり、引張り強度が弱いというコンクリートの欠点を補うものである。
このポストテンション工法において、シースにはセメントミルク等のグラウト材を注入・充填して、PC鋼線材とコンクリートの接着、PC鋼線材の腐食を防止する。
【0003】
上記グラウト材の注入作業は、施工現場で行うため煩雑であって、コストアップの要因となる。このため、上記シース、PC鋼線材及びグラウト材を予め有するプレグラウトPC鋼材を使用することが行われている。このプレグラウトPC鋼材は、複数の素線を撚り合わせたPC鋼線材と、そのPC鋼線材の外周にそのPC鋼材を収納するように配されたプレグラウト層と、そのプレグラウト層の外周を被うシースを有する構成である(特許文献1 段落0005、図2参照)。
【0004】
このプレグラウトPC鋼材を使用したポストテンション工法において、プレグラウト材(プレグラウト層)は、PC鋼線材を緊張するまで硬化せず(長いポットライフが要求され)、コンクリートに緊張定着後、常温で硬化する必要があり、その作用を担保するために、所要の時間でグラウト材を硬化させるべく、硬化時間に応じたグラウト材の組成、粘度等を定めたり(特許文献1 請求項1)、硬化時間に応じた混合比率で硬化剤を混合したり(特許文献2 請求項1)、同グラウト材の配合を工夫したりした種々のグラウト材が提案されている(特許文献3 請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−172001号公報
【特許文献2】特開2000−281967号公報
【特許文献3】特開2009−108497号公報
【特許文献4】特開2007−211486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の各プレグラウトPC鋼材は、何れも、前もって硬化剤を混合したり、グラウト材の配合等に工夫をしたりしたものであり、その混合量や配合割合の正確な設定は困難であり、要求する硬化時間(硬化完了時期)を確実に得ることができないのが実情である。また、硬化度合は、気温等の環境によって変化するとともに、工期は予定をずれる場合が多く、その工期が長くなった場合には、グラウト材の硬化が進行してPC鋼材の緊張作業に支障が生じる恐れがある。
こうした実情から、緊張可能期間は可能な限り長めに要求されることが多い。そのため、現在適用されているプレグラウト層の樹脂はポットライフを伸ばす方向で配合設計されている。しかし、ポットライフと硬化時間はトレードオフの関係にあるから、通常、プレグラウト層が完全に硬化するまでに3〜5年を必要としている。
【0007】
一方、プレグラウト層を任意の時に硬化させる手段として、発熱体をシース内に設けたものがある(特許文献4)が、コンクリートは硬化に基づき発熱するため、その発熱との関係で、有効な発熱量を設定できない上に、加熱することは好ましくない場合が多い。
【0008】
この発明は、上記の実情に鑑み、加熱以外の手段でもってプレグラウト層の硬化を任意の時になし得るようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、この発明は、まず、プレグラウト層の硬化を任意の時になし得るためには、その硬化を行うときに硬化剤をプレグラウト層に添加し、その添加によって速やかに硬化するようにすれば良いことに着目し、つぎに、複数の素線を撚り合わせたPC鋼線材は、その撚り合わせ目の間隙が存在してその隙間から液を導入し得る点を発見し、プレグラウト層を硬化させたい時に、その隙間を介して硬化剤を導入するようにしたのである。
このようにすれば、プレグラウト層を硬化させたい時に硬化剤を導入し、その硬化速度を希望する硬化剤組成に設定すれば、その希望する時間(時期)でもってプレグラウト層の所要時間での硬化を得ることができる。このため、コンクリートの硬化後、PC鋼線材による緊張・定着作業が終了すれば、速やかに、プレグラウト層の硬化を行うことができて、工期の著しい短縮を図ることができる。
【0010】
この発明の具体的な構成としては、複数の素線を撚り合わせたPC鋼線材と、そのPC鋼線材の外周にそのPC鋼線材を収納するように配されたプレグラウト層と、そのプレグラウト層の外周を被うシースを有するプレグラウトPC鋼材の前記プレグラウト層の硬化方法において、硬化剤を、プレグラウトPC鋼材の一端から他端に向かって前記素線の撚り合わせ目の間隙を介して全長内部に導き入れてプレグラウト層を硬化するようにしたのである。
【0011】
また、複数の素線の撚り合わせ目の間隙を介した硬化剤の導入に代えて、PC鋼線材に沿って硬化剤導入用線材を設ければ、その線材を介して硬化剤をプレグラウト層に導入できると考えたのである。
このようにすれば、上記と同様に、コンクリートの硬化後、PC鋼線材による緊張・定着すれば、速やかに、プレグラウト層の硬化を行うことができて、工期の著しい短縮を図ることができる。この場合、PC鋼線材は、複数の素線の撚り合わせたものに限らず、鋼棒や異形鋼棒等の周知のものを採用できる。
【0012】
この発明の具体的な構成は、PC鋼線材と、そのPC鋼線材の外周にそのPC鋼線材を収納するように配されたプレグラウト層と、そのプレグラウト層の外周を被うシースを有するプレグラウトPC鋼材であって、その内部に、一端から他端に向かってプレグラウト層を硬化させる硬化剤導入用線材が設けられている構成を採用することができる。
この硬化剤導入用線材を介した硬化剤の導入は、毛細管現象を利用する方法や、加圧注入等が考えられ、上記複数の素線の撚り合わせ目の間隙を介した硬化剤の導入手段を併用することができる。
【0013】
この構成において、上記硬化剤導入用線材は、硬化剤を導き入れる態様の物であれば、何れでも良く、例えば、繊維糸、中空糸、周囲に小孔を有する多孔管等を採用することができる。繊維糸には、ガラス、炭素等の無機繊維、合成繊維、木綿糸等の液を導入し得るものであれば、何れでも良い。小孔を有する管としては、プラスチック管、金属管等の任意の径のものを採用できるが、その径、孔位置、孔数等は、導入性、硬化剤のプレグラウト層への吐出性、強度等を考慮して適宜に設定する。
また、その硬化剤導入用線材の設置位置は、硬化剤の導入に支障がない限りにおいて任意であるが、PC鋼線材の外周面としたり、プレグラウト層表面(シース内面)としたりすることができる。さらに、同本数も任意であるが、プレグラウト層の周囲等間隔に設けることが好ましい。
【0014】
さらに、硬化剤を内封したカプセルをグラウト層に充填し、硬化させたい時にそのカプセルの殻を破り(溶かし)得る液体を導入して中の硬化剤がグラウト層中に入り込む(接触する)ようにすることもできる。
このようにすれば、同様に、プレグラウト層を硬化させたい時にその液体を導入し、その硬化剤による硬化速度を希望するものに設定すれば、その希望する時間でもってプレグラウト層の所要の硬化を得ることができる。このため、コンクリートの硬化後、PC鋼線材による緊張・定着を行い、その後、速やかに、プレグラウト層の硬化を行うことができて、工期の著しい短縮を図ることができる。
【0015】
この発明の具体的な構成は、PC鋼線材と、そのPC鋼線材の外周にそのPC鋼線材を収納するように配されたプレグラウト層と、そのプレグラウト層内に充填された硬化剤内封のカプセルと、前記プレグラウト層の外周を被うシースを有するプレグラウトPC鋼材の前記プレグラウト層の硬化方法であって、プレグラウトPC鋼材を上記構成のプレグラウトPC鋼材とし、カプセルの殻を壊す(溶かす)液体を硬化剤導入用線材を介して全長内部に導き入れたり、素線の撚り合わせ目の間隙を介して導き入れたりして、カプセルを破壊して硬化剤をプレグラウト層内に露出させて硬化する構成を採用することができる。
【0016】
上記各構成において、グラウト材は、上記各特許文献1〜3等に記載の周知のものを採用することができ、そのグラウト材に対応した硬化剤を適宜に採用する。その硬化剤は、液状が導入性から好ましいが、導入できれば、粉状等であっても良い。
また、カプセルの殻を破る液体としては、殻の材質に応じて適宜に選択すれば良いが、例えば、殻が樹脂であれば、その溶剤であり、一般的なカプセルであれば、水やアルコール類、ケトン類又はその混和物が好ましい。
さらに、注入する場合の導入(注入)具としては、シリンジ等を使用する。
【発明の効果】
【0017】
この発明は以上のように構成して、任意の時にプレグラウト層の硬化を行い得るようにしたので、グラウト材の組成や硬化時間を考慮する必要がなくなる。また、硬化剤を適宜に選択することによってプレグラウト層の硬化時間も任意に設定できるため、プレストレストコンクリートからなる構造物の完成時期も任意に設定でき、勢い、工期を速めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態の断面図
【図2】同他の実施形態の断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
一実施形態を図1に示し、この実施形態のプレグラウトPC鋼材10は、従来と同様に、ピアノ線等の鋼素線1aを撚り合わせたPC鋼線材1と、そのPC鋼線材1の外周にそのPC鋼線材1を収納するように配されたエポキシ樹脂(グラウト材)からなるプレグラウト層2と、そのプレグラウト層2の外周を被うポリエチレンからなるシース3を有する構成である。
このプレグラウトPC鋼材10の製造時、その撚り合わせたPC鋼線材1にグラウト材を被覆した後、そのプレグラウト層2の外周面に凧糸4を全長に亘って沿わせ、その上にシース3を押出し被覆する。凧糸4は、螺旋状でも、直線状でも良く、その本数も任意である。
【0020】
このプレグラウトPC鋼材10は、従来と同様にして、ポストテンション工法において使用し、コンクリートを打設して硬化後、PC鋼線材1を緊張・定着し、その緊張力の反力により、コンクリートに圧縮応力を与える。
この作業が終われば、プレグラウトPC鋼材10の露出端面から、シリンジでもって、例えば、イミダゾール、アルカリ水溶液(防錆した水)を凧糸4を介してPC鋼材10の一端から他端に向かって導入する。
この導入によって、プレグラウト層2の全域に硬化剤が行き亘ってその硬化がなされる。
【0021】
図2に示す実施形態は、エポキシ樹脂からなるプレグラウト層2内に、硬化剤を内封したカプセル5、例えば、ノバキュア(旭化成イーマテリアルズ株式会社 商品名(登録商標))を充填したものであり、このプレグラウトPC鋼材10も、PC鋼線材1を緊張・定着し、その緊張力の反力により、コンクリートに圧縮応力を与えた後、プレグラウトPC鋼材10の露出端面から、シリンジでもって、例えば、カプセル5がノバキュアであれば、エタノールを凧糸4を介してPC鋼材10の一端から他端に向かって導入する。
この導入によって、プレグラウト層2の全域にその液が行き亘ってカプセル5が破れて硬化剤が露出して硬化がなされる。
【0022】
上記各実施形態は、凧糸からなる硬化剤導入用線材4によって硬化剤、溶融剤を注入したが、その線材4を設けることなく、素線1aの撚り合わせ目の間隙を介して全長内部に導き入れることもできる。
また、凧糸4に代えて、合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維としたり、プラスチック製多孔管としたりし得る。さらに、硬化剤導入用線材4による硬化剤導入の場合、PC鋼線材1は撚り線でなく、棒材とし得る。
グラウト材としては、エポキシ樹脂以外の従来周知のものを適宜に採用することができる。
なお、この発明においては、プレグラウト層2に、従来の硬化剤を全く配合しない場合のみを言うのではなく、PC鋼線材1の緊張時、プレグラウト層2にある程度の粘性が要求される時などは硬化剤を配合する必要があり、その場合等は、必要量の硬化剤を前もって配合しておくことは勿論である。この発明におけるプレグラウト層2の硬化は、PC鋼線材1によるコンクリートの緊張・定着後、プレグラウト層2を速やかに硬化させる場合を主に言うが、この発明は、前記PC鋼線材1の緊張時、プレグラウト層2にある程度の粘性を付与する場合においても採用し得る。
【0023】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0024】
1 PC鋼線材
1a 鋼素線(ピアノ線)
2 プレグラウト層
3 シース
4 硬化剤導入用線材(凧糸)
5 カプセル
10 PC鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼線材(1)と、そのPC鋼線材(1)の外周にそのPC鋼線材(1)を収納するように配されたプレグラウト層(2)と、そのプレグラウト層(2)の外周を被うシース(3)を有するプレグラウトPC鋼材(10)であって、その内部に、一端から他端に向かって前記プレグラウト層(2)を硬化させる硬化剤導入用線材(4)が設けられていることを特徴とするプレグラウトPC鋼材。
【請求項2】
上記硬化剤導入用線材(4)が繊維糸からなることを特徴とする請求項1に記載のプレグラウトPC鋼材。
【請求項3】
上記硬化剤導入用線材(4)が周囲に小孔を有する多孔管からなることを特徴とする請求項1に記載のプレグラウトPC鋼材。
【請求項4】
複数の素線(1a)を撚り合わせたPC鋼線材(1)と、そのPC鋼線材(1)の外周にそのPC鋼線材(1)を収納するように配されたプレグラウト層(2)と、そのプレグラウト層(2)の外周を被うシース(3)を有するプレグラウトPC鋼材(10)の前記プレグラウト層の硬化方法であって、
硬化剤を、プレグラウトPC鋼材(10)の一端から他端に向かって上記素線(1a)の撚り合わせ目の間隙を介して全長内部に導き入れて上記プレグラウト層(2)を硬化することを特徴とするプレグラウトPC鋼材のプレグラウト層の硬化方法。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1つに記載のプレグラウトPC鋼材(10)の上記プレグラウト層(2)の硬化方法であって、
硬化剤を、プレグラウトPC鋼材(10)の一端から他端に向かって上記硬化剤導入用線材(4)を介して全長内部に導き入れてプレグラウト層(2)を硬化することを特徴とするプレグラウトPC鋼材のプレグラウト層の硬化方法。
【請求項6】
PC鋼線材(1)と、そのPC鋼線材(1)の外周にそのPC鋼線材(1)を収納するように配されたプレグラウト層(2)と、そのプレグラウト層(2)内に充填された硬化剤内封のカプセル(5)と、前記プレグラウト層(2)の外周を被うシース(3)を有するプレグラウトPC鋼材の前記プレグラウト層(2)の硬化方法であって、
上記プレグラウトPC鋼材を、請求項1乃至3の何れか1つに記載のプレグラウトPC鋼材(10)にそのプレグラウト層(2)に上記カプセル(5)を充填されたものとし、そのカプセル(5)の殻を壊す液体を上記硬化剤導入用線材(4)を介してプレグラウトPC鋼材の全長内部に導き入れてカプセル(5)を破壊して硬化剤をプレグラウト層(2)内に導き入れて硬化することを特徴とするプレグラウトPC鋼材のプレグラウト層の硬化方法。
【請求項7】
複数の素線(1a)を撚り合わせたPC鋼線材(1)と、そのPC鋼線材(1)の外周にそのPC鋼線材(1)を収納するように配されたプレグラウト層(2)と、そのプレグラウト層(2)内に充填された硬化剤内封のカプセル(5)と、そのプレグラウト層(2)の外周を被うシース(3)を有するプレグラウトPC鋼材(10)の前記プレグラウト層(2)の硬化方法であって、
上記カプセル(5)の殻を壊す液体を、プレグラウトPC鋼材の一端から他端に向かって上記素線(1a)の撚り合わせ目の間隙を介して全長内部に導き入れてカプセル(5)を破壊して硬化剤をプレグラウト層(2)内に導き入れて硬化することを特徴とするプレグラウトPC鋼材のプレグラウト層の硬化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−117243(P2012−117243A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266552(P2010−266552)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】