説明

プレゲル溶液および高分子組成物、ならびに高分子組成物の製造方法

【課題】本発明では、製造時に形状を自由に成形加工でき、かつ高い強度を有する高分子組成物および該高分子組成物を得るためのプレゲル溶液、ならびに前記高分子組成物の製造方法を目的とする。
【解決手段】水中で正または負の極性を示す網目構造を有する粒子(A)と、水中で前記粒子(A)と反対の極性を示すポリマー(B)と、前記粒子(A)と相互侵入網目構造を形成する網目構造(C)を形成する第三のモノマー(c)と、を含み、前記粒子(A)100質量部に対する前記ポリマー(B)の質量割合が5質量部未満であることを特徴とするプレゲル溶液。また、該プレゲル溶液を用いた高分子組成物、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレゲル溶液および高分子組成物、ならびに高分子組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル材料は、自重の数百〜数千倍の溶媒を保持できる材料として、従来より、高吸水性樹脂、紙おむつ、生理用品、ソフトコンタクトレンズ、屋内緑化用含水シートなどに利用されている。また、薬物の徐放性も有し、ドラッグデリバリーなどの低侵襲診断にも応用されている。また、衝撃吸収材料、制振・防音材料などにも利用されており、その用途は多岐に渡る。しかしながら、ゲル材料は、一般的に強度がなく、微小な応力で構造が破壊されてしまうため、強度が必要とされる用途には不向きである。
【0003】
近年、従来のゲル材料から強度を大幅に向上させた、様々な新規ゲル材料が提唱されている。例えば、下記の3種のゲルは、三大高強度ゲルと称され、注目を浴びている。
(1)架橋点が主鎖に沿って動くトポロジカルゲル(例えば特許文献1)。
(2)架橋点として親水性クレイを用いたナノコンポジットゲル(例えば特許文献2)。
(3)2種類の網目構造が相互に侵入したダブルネットワークゲル(例えば特許文献3)。
【0004】
(1)のゲルは、引張時の伸長度は極めて高いものの、弾性率や破断強度が充分ではない。また、製造工程が複雑である。
(2)のゲルにおいては、架橋点であるクレイの適切な選択や添加量の調節によって、伸びと強度のバランスをとることが可能である。しかしながら、クレイの添加量が増大するに伴ってプレゲル溶液の粘度が増大し、ハンドリング性が悪くなる。また、強度が高いゲルを作製するためには、プレゲル溶液に対して充分な窒素置換を行うことが必要であり、その過程で重合が開始されることがあるなど、製造条件の確立が難しい。
(3)のゲルは、伸びおよび強度のバランスがよく、透明度の高いゲルが得られる。しかし、このゲルは2回の重合工程を必要としており、1回目の重合を終えたゲルを2回目のモノマー溶液で膨潤させる工程が製造上の律速段階となるために、工業生産には適していない。
【0005】
(3)のダブルネットワークゲルの一種として、微粒子状のゲルがマトリックスゲルに分散され、部分的に相互侵入網目構造が形成されたゲル材料が示されている(特許文献4〜6)。このようなゲル材料は、製造時に形状を自由に成形加工することができる点で優れている(特許文献6)。しかし、2種類の網目構造がゲル全体にわたって相互侵入網目構造を形成しているダブルネットワークゲルと比べ、強度が充分に得られないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3475252号公報
【特許文献2】特許第3914489号公報
【特許文献3】国際公開第2003/093337号パンフレット
【特許文献4】特開2004−285203号公報
【特許文献5】特許第3423832号公報
【特許文献6】特開2008−163055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、微粒子状のゲルがマトリックスゲルに分散された高分子組成物を製造するプレゲル溶液として、製造時に高分子組成物の形状を自由に成形加工できる特性を維持しつつ、かつ高い強度の高分子組成物が得られるプレゲル溶液を目的とする。
また、本発明では、製造時に形状を自由に成形加工でき、かつ高い強度を有する、微粒子状のゲルがマトリックスゲルに分散された高分子組成物、および該高分子組成物の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプレゲル溶液は、水中で正または負の極性を示す網目構造を有する粒子(A)と、水中で前記粒子(A)と反対の極性を示すポリマー(B)と、前記粒子(A)と相互侵入網目構造を形成する網目構造(C)を形成する第三のモノマー(c)と、を含み、前記粒子(A)100質量部に対する前記ポリマー(B)の質量割合が5質量部未満であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のプレゲル溶液は、水中で正または負の極性を示す網目構造を有する粒子(A)と、水中で前記粒子(A)と反対の極性を示すポリマー(B)と、前記粒子(A)と相互侵入網目構造を形成する網目構造(C)を形成する第三のモノマー(c)と、を含み、前記粒子(A)および前記ポリマー(B)からなる粒子のゼータ電位が−50〜+50mVであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の高分子組成物は、前記いずれかのプレゲル溶液を重合・ゲル化して得られる組成物である。
また、本発明の高分子組成物の製造方法は、前記いずれかのプレゲル溶液を重合・ゲル化させる工程を含む方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプレゲル溶液は、製造時に形状を自由に成形加工することができ、かつ高い強度を有する、微粒子状のゲルがマトリックスゲルに分散された高分子組成物を得ることができる。
また、本発明の高分子組成物は、製造時に形状を自由に成形加工することができ、かつ高い強度を有している。
また、本発明の製造方法によれば、製造時に形状を自由に成形加工することができ、かつ高い強度を有する高分子組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<プレゲル溶液>
本発明のプレゲル溶液は、水中で正または負の極性を示す網目構造を有する粒子(A)と、水中で粒子(A)と反対の極性を示すポリマー(B)と、第三のモノマー(c)とを含む溶液である。
【0013】
本発明におけるプレゲル溶液とは、加熱や紫外線照射などによって重合反応を進行させることで高分子組成物(ゲル)になる溶液を指す。ゲルとは、ポリマーで構成された網目構造中に溶媒を取り込んでいる組成物を意味する。
また、網目構造とは、不飽和モノマーを重合することにより形成されたポリマー同士を架橋することにより、三次元に張り巡らされた網の目のような構造を意味する。網目構造は、直鎖状のポリマーとは異なり、網目内に各種溶媒を保持できる。
また、不飽和モノマーとは、1分子中に1個以上の炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。
以下、本発明のプレゲル溶液の実施形態の一例について説明する。
【0014】
[第1実施形態]
(粒子(A))
網目構造を有する粒子(A)は、三次元に架橋された高分子の粒子であり、水中で正負いずれかの極性を示す粒子である。粒子(A)は、第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより得られる。第一のモノマー(a)は、水中で正負いずれかの極性を示す不飽和モノマー(a1)を含むモノマーである。極性を有する不飽和モノマー(a1)を用いることにより、該不飽和モノマー(a1)により粒子(A)に導入された極性基同士が静電的に反発し、網目構造が大きく広がることで、粒子(A)の内部に大量の溶媒を取り込むことができる。また、第一のモノマー(a)は、必要に応じて他の不飽和モノマー(a2)を含んでいてもよい。
【0015】
不飽和モノマー(a1)は、水中において正負いずれかに帯電するモノマーであり、アニオン性不飽和モノマー、カチオン性不飽和モノマーが挙げられる。
アニオン性不飽和モノマーは、水中において負に帯電するモノマーであり、例えば、スルホン酸基を有する不飽和モノマー(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸など)、カルボン酸基を有する不飽和モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸など)、リン酸基を有する不飽和モノマー(メタクリルオキシエチルトリメリック酸など)、またこれらの塩などが挙げられる。
【0016】
カチオン性不飽和モノマーは、水中において正に帯電するモノマーであり、例えば、4級アンモニウム塩(メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなど)を代表とする公知のモノマーが挙げられる。また、3級アミノ基を有する不飽和モノマーも、そのアミノ基の位置によっては水中で容易に4級化され、カチオン性を示す。このような3級アミノ基を有する不飽和モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピルメタクリレートなどのアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体やメタクリルアミド誘導体が挙げられる。
【0017】
これら不飽和モノマー(a1)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、2種以上の不飽和モノマー(a1)を用いる場合は、極性が反対のものを用いると粒子(A)内でイオン架橋が形成されるなど思わぬ副反応が起き、得られるプレゲル溶液やそれを用いたゲルの物性が低下するおそれがあることから、極性が同じものを用いることが好ましい。
【0018】
他の不飽和モノマー(a2)としては、ノニオン性不飽和モノマーが挙げられる。ノニオン性不飽和モノマーとは、水中において正負いずれにも帯電しない、または帯電しても極めて微弱であるモノマーを意味する。
ノニオン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド誘導体(アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリンなど)、メタクリルアミド誘導体(メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリンなど)、アクリレート(ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレートなど)、メタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレートなど)、アクリロニトリル、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニルなどの水溶性のものや、アルキル(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなど、反応性官能基を有する(メタ)アクリレート(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなど)などの非水溶性のものが挙げられる。
他の不飽和モノマー(a2)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
第一のモノマー(a)中の不飽和モノマー(a1)の割合は、第一のモノマー(a)の100モル%のうち、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。不飽和モノマー(a1)の割合が5モル%以上であれば、粒子(A)においてポリマー(B)と相互作用できる部位をより多くすることができ、得られる高分子組成物の物性向上効果が得られやすい。また、後述するプレゲル溶液の溶媒(D)中で粒子(A)が膨潤しやすくなるため、粒子(A)同士が凝集して高分子組成物の物性が不均一になることを抑制しやすく、プレゲル溶液の粘度が充分に高くなることで塗布する場合にハンドリング性が良好になる。
【0020】
第一のモノマー(a)の組成を適宜選択することで、粒子(A)と溶媒(D)の相溶性を調節することができる。例えば、溶媒(D)として低極性の溶媒を用いる場合には、他の不飽和モノマー(a2)として極性の低いモノマーを選択し、不飽和モノマー(a1)と他の不飽和モノマー(a2)の比率を調整することにより、粒子(A)と溶媒(D)の相溶性を向上させることができる。これにより、粒子(A)が偏在して高分子組成物の物性が不均一になることを抑制しやすくなる。
【0021】
粒子(A)の粒子径は特に限定されないが、粒子(A)があまりに粗大であると、得られる高分子組成物の機械的物性が不均一になるおそれがある。そのため、粒子(A)の粒子径は、絶乾状態で100μm以下、膨潤状態で100nm〜100μmであることが好ましく、絶乾状態で10μm以下、膨潤状態で100nm〜10μmであることがより好ましく、絶乾状態で1μm以下、膨潤状態で100nm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0022】
粒子(A)は、懸濁重合や乳化重合、分散重合などの既存の方法によって調製することができる。水溶性のモノマーを用いる場合は逆相重合を行ってもよい。また、光重合などで得たブロック状のゲルを機械的に粉砕してもよい。
【0023】
第一のモノマー(a)の重合方法としては、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。
熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどのレドックス系開始剤や、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、その他一般的な水溶性アゾ系重合開始剤などが挙げられる。
光重合開始剤としては、アルキルフェノン系開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤などの一般的な光重合開始剤が挙げられる。
【0024】
架橋方法としては、化学結合による架橋方法、イオン結合による架橋方法、物理的架橋方法などが挙げられる。具体的には、下記(α)〜(ε)の架橋方法が挙げられ、特殊な設備を必要としない点、製造工程が複雑にならない点、操作が簡便である点、網目構造を制御しやすい点から、方法(α)が好ましい。
(α)1分子中に2個以上の炭素−炭素不飽和二重結合を有する多官能モノマーを第一のモノマー(a)とともに用いて、重合と同時に架橋する方法。
(β)放射線照射によってポリマー中にラジカルを発生させて架橋する方法。
(γ)ポリマーを構成する不飽和モノマーに由来する単位の側鎖の官能基同士を直接反応させる方法。
(δ)ポリマーを構成する不飽和モノマーに由来する単位の側鎖の官能基同士を橋架け剤で架橋する方法。
(ε)多価金属イオン(銅イオン、亜鉛イオン、カルシウムイオンなど)を用いて、イオン結合または配位結合によって架橋する方法。
【0025】
方法(α)に用いる多官能モノマーとしては、例えば、N,N−メチレンビスアクリルアミド、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、モノプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートやポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
多官能モノマーは二官能に限らず、三官能以上の多官能モノマーであってもよい。三官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、またそれらのエチレンオキサイド変性物などが挙げられる。
【0026】
多官能モノマーの添加量は、第一のモノマー(a)の100モル%に対して、0.5〜30モル%が好ましく、1〜15モル%がより好ましく、1〜10モル%がさらに好ましい。多官能モノマーの添加量が0.5モル%以上であれば、網目構造を有する粒子(A)が得られやすい。また、溶媒(D)に対して少量の粒子(A)でプレゲル溶液の粘度が増大しすぎることを抑制しやすく、プレゲル溶液のハンドリング性がより良好になる。多官能モノマーの添加量が30モル%以下であれば、粒子(A)が膨潤しやすく、プレゲル溶液中に均一に分散して、得られる高分子組成物の物性が均一になりやすい。
【0027】
(ポリマー(B))
ポリマー(B)は、水中で粒子(A)と反対の極性を示すポリマーである。ポリマー(B)は、第二のモノマー(b)を重合することにより得られる。第二のモノマー(b)は、水中で粒子(A)と反対の極性を示す不飽和モノマー(b1)を含むモノマーである。ポリマー(B)は、網目構造を有する粒子(A)を全体的あるいは部分的に取り巻き、隣接する粒子(A)同士を静電的引力で結び付けるバインダーの役目を果たす。
【0028】
不飽和モノマー(b1)は、水中で粒子(A)と反対の極性を示す不飽和モノマーであり、アニオン性不飽和モノマー、カチオン性不飽和モノマーが挙げられる。
アニオン性不飽和モノマーおよびカチオン性不飽和モノマーは、不飽和モノマー(a1)で挙げたものと同じものが挙げられる。
不飽和モノマー(b1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、不飽和モノマー(b1)を2種以上併用する場合は、ポリマー(B)のバインダーとしての効果が得られやすく、プレゲル溶液やそれを用いた高分子組成物の物性を向上させやすい点から、極性が同じものを用いることが好ましい。
【0029】
第二のモノマー(b)は、水中で粒子(A)と反対の極性を示す不飽和モノマー(b1)を含み、また必要に応じて他の不飽和モノマー(b2)が含まれていてもよい。
他の不飽和モノマー(b2)としては、ノニオン性不飽和モノマーが挙げられる。ノニオン性不飽和モノマーは、他の不飽和モノマー(a2)で挙げたものと同じものが挙げられる。他の不飽和モノマー(b2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
第二のモノマー(b)中の不飽和モノマー(b1)の割合は、第二のモノマー(b)の100モル%のうち、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましく、30モル%以上が特に好ましい。不飽和モノマー(b1)の割合が5モル%以上であれば、粒子(A)と相互作用可能な部位がより多くなり、得られる高分子組成物の物性向上効果がより大きくなる。
【0031】
また、第二のモノマー(b)の組成を適宜選択することで、ポリマー(B)の溶媒(D)への溶解性を調節することができる。例えば、溶媒(D)として低極性の溶媒を用いる場合には、他の不飽和モノマー(b2)として、極性の低いモノマーを選択し、不飽和モノマー(b1)と他の不飽和モノマー(b2)の比率を調整することにより、第二のモノマー(b)の溶媒(D)への溶解性を向上させることができる。これにより、得られるポリマー(B)が粒子(A)とより均一に相互作用することができ、得られる高分子組成物が均一に強化されやすくなる。
【0032】
ポリマー(B)の分子量は、バインダーとしての効果が得られやすい点から、10万以上が好ましく、100万以上が特に好ましい。ポリマー(B)の分子量が10万以上であれば、ポリマー(B)が粒子(A)内に取り込まれ難くなり、バインダーとして粒子(A)間に存在しやすくなる。
【0033】
第二のモノマー(b)の重合方法は、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。熱重合開始剤および光重合開始剤としては、第一のモノマー(a)の重合方法において挙げたものと同じものが挙げられる。これら熱重合開始剤および光重合開始剤を用いて、懸濁重合や乳化重合、分散重合、溶液重合などの既存の重合方法によりポリマー(B)を調製することができる。
また、ポリマー(B)は、市販の高分子凝集剤をそのまま用いてもよい。
【0034】
(第三のモノマー(c))
第三のモノマー(c)は、重合し架橋することにより、粒子(A)と相互侵入網目構造を形成する網目構造(C)を形成するモノマーである。相互侵入網目構造とは、複数種の網目構造が互いの間で化学的な結合を持つことなく、独立に存在しながら、分子構造が相互に絡み合った構造を言う。
第三のモノマー(c)は、ノニオン性不飽和モノマー(c1)を含むモノマーであり、必要に応じて他の不飽和モノマー(c2)を含んでいてもよい。
【0035】
ノニオン性不飽和モノマー(c1)としては、他の不飽和モノマー(a2)で挙げたノニオン性不飽和モノマーと同じものが挙げられる。ノニオン性不飽和モノマー(c1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、ノニオン性不飽和モノマー(c1)は、得られる高分子組成物の機械強度発現の点から、モノマーの分子量・分子容が小さいものが好ましく、分子量が150以下のものが特に好ましい。なかでもアクリルアミド誘導体やアクリル酸エステル類が好ましい。
【0036】
他の不飽和モノマー(c2)としては、アニオン性不飽和モノマーやカチオン性不飽和モノマーが挙げられる。アニオン性不飽和モノマーおよびカチオン性不飽和モノマーは、不飽和モノマー(a1)で挙げたアニオン性不飽和モノマーおよびカチオン性不飽和モノマーと同じものが挙げられる。
他の不飽和モノマー(c2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
第三のモノマー(c)中のノニオン性不飽和モノマー(c1)の割合は、第三のモノマー(c)の100モル%のうち、90モル%以上が好ましく、100モル%が特に好ましい。ノニオン性不飽和モノマー(c1)の割合が90モル%以上であれば、重合、架橋により形成される網目構造(C)と粒子(A)との間でイオン架橋などが形成され難くなり、高分子組成物における引張時の伸びなどの物性がより良好になる。
【0038】
溶媒(D)は、特に限定されず、他の成分との相溶性や溶解性を考慮して適宜選択することができる。溶媒(D)としては、例えば、水や各種アルコール類(メタノール、エタノール、n−ブタノールなど)、極性の高い有機溶媒(ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなど)や低極性の有機溶媒(シクロヘキサン、n−ヘキサンなど)などが挙げられる。また、溶媒(D)は、互いに溶解・混和可能な2種以上の溶媒を用いてもよい。
【0039】
本実施形態のプレゲル溶液は、粒子(A)、ポリマー(B)、第三のモノマー(c)および溶媒(D)以外に、必要に応じて、公知の着色剤、可塑剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤などの添加剤が配合されていてもよい。
【0040】
本実施形態のプレゲル溶液は、以上説明した粒子(A)、ポリマー(B)、第三のモノマー(c)が必須成分として溶媒(D)に含まれている溶液である。
本実施形態のプレゲル溶液では、粒子(A)100質量部に対するポリマー(B)の質量割合が5質量部未満である。ポリマー(B)の前記質量割合が5質量部未満であれば、粒子(A)の表面の電荷を適度に中和することができるため、ポリマー(B)の極性が優勢となって粒子(A)を取り囲むポリマー(B)の電荷同士が静電的に反発することを抑制でき、高分子組成物の強度向上効果が充分に得られる。
【0041】
ポリマー(B)の前記質量割合は、ポリマー(B)の分子量や不飽和モノマー(b1)の比率、粒子(A)中の不飽和モノマー(a1)の比率などによっても異なるが、粒子(A)100質量部に対して、0.0001〜2質量部であることが好ましく、0.001〜1質量部であることがより好ましく、0.005〜0.5質量部であることがさらに好ましく、0.01〜0.5質量部であることが特に好ましく、0.01〜0.05質量部であることが最も好ましい。前記質量割合が0.0001質量部以上であれば、粒子(A)間のバインダーとしての効果が得られやすく、高分子組成物の強度向上効果が得られやすい。また、前記質量割合が2質量部以下であれば、粒子(A)を取り囲むポリマー(B)の電荷同士の静電的な反発を抑制しつつ、粒子(A)の表面の電荷を適度に中和しやすくなり、高分子組成物の強度向上効果が得られやすい。
【0042】
プレゲル溶液における粒子(A)の含有量は、第三のモノマー(c)100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましく、1〜10質量部であることがさらに好ましく、1〜5質量部であることが特に好ましい。粒子(A)の前記添加量が0.1質量部以上であれば、得られる高分子組成物の強度向上効果が得られやすい。また、粒子(A)の前記添加量が20質量部を超えると、粒子(A)の膨潤が不充分なものとなり、一部凝集して残ってしまい、強度上の欠陥になる場合がある。またプレゲル溶液の粘度が高くなり、ハンドリング性が悪くなる場合がある。
また、粒子(A)の含有量は、溶媒(D)100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましく、0.2〜8質量部であることがより好ましく、0.5〜5質量部であることがさらに好ましく、1〜2.5質量部であることが特に好ましい。溶媒(D)100質量部に対する粒子(A)の含有量が0.05質量部以上であれば、得られる高分子組成物の強度向上効果が得られやすい。また、溶媒(D)100質量部に対する粒子(A)の含有量が10質量部を超えると、粒子(A)の膨潤が不充分なものとなり、一部凝集して残ってしまい、強度上の欠陥になる場合がある。また、プレゲルの粘度が高くなり、ハンドリング性が悪くなる場合がある。
【0043】
プレゲル溶液中の溶媒(D)の含有量は、粒子(A)、ポリマー(B)、第三のモノマー(c)、および必要に応じて添加剤を含有できる量であれば特に限定されず、得られる高分子組成物の用途に必要な物性に応じて適宜調整することができる。
【0044】
[第2実施形態]
以下、本発明のプレゲル溶液の他の実施形態例について説明する。
本実施形態のプレゲル溶液は、第1実施形態のプレゲル溶液と同様に、溶媒(D)に、粒子(A)、ポリマー(B)、第三のモノマー(c)が必須成分として含まれている溶液である。また、該プレゲル溶液には、必要に応じて添加剤が含まれる。粒子(A)、ポリマー(B)、第三のモノマー(c)、溶媒(D)、添加剤については、第1実施形態と同じであり、好ましい態様も同じである。
【0045】
本実施形態のプレゲル溶液における粒子(A)とポリマー(B)の比率は、粒子(A)およびポリマー(B)からなる粒子のゼータ電位が以下の条件を満たすように調節する。ゼータ電位とは、液相中に分散した粒子の表面電位を表わす値である。ゼータ電位の一般的な測定方法は、電気泳動と光散乱を組合せたものである。粒子に電場をかけることで該粒子を移動(電気泳動)させ、移動する粒子にレーザー照射し、照射光と散乱光の周波数の変化から泳動速度を計算することによりゼータ電位が算出される。本実施形態における粒子(A)およびポリマー(B)からなる粒子のゼータ電位とは、粒子(A)およびポリマー(B)を分散、溶解させた希薄水溶液を作製し、該希薄水溶液において粒子(A)を全体的または部分的にポリマー(B)が取り囲んだ粒子のゼータ電位を測定した値である。
ゼータ電位の測定は市販のゼータ電位測定機器により行うことができ、例えば、大塚電子製ゼータ電位測定装置ELS800により、水系希薄溶液用のセルを用いて測定する方法が挙げられる。一般に、ゼータ電位がゼロに近づくと粒子の凝集する傾向が静電的反発に打ち勝つため、粒子の凝集が起きる。
【0046】
本実施形態のプレゲル溶液における粒子(A)およびポリマー(B)からなる粒子のゼータ電位は、−50〜+50mVであることが好ましく、−40〜+40mVであることがより好ましく、−30〜+30mVであることがさらに好ましく、−20〜+20mVであることが特に好ましい。前記ゼータ電位が−50〜+50mVであれば、充分な量のポリマー(B)で粒子(A)を取り囲むことで電荷を適度に中和することができ、かつポリマー(B)の極性が優勢となって粒子(A)を取り囲むポリマー(B)の電荷同士が静電的に反発することを抑制することができるため、高分子組成物の強度向上効果が充分に得られる。
【0047】
プレゲル溶液における粒子(A)の含有量は、第三のモノマー(c)100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましく、1〜10質量部であることがさらに好ましく、1〜5質量部であることが特に好ましい。粒子(A)の前記添加量が0.1質量部以上であれば、得られる高分子組成物の強度向上効果が得られやすい。また、粒子(A)の前記添加量が20質量部を超えると、粒子(A)の膨潤が不充分なものとなり、一部凝集して残ってしまい、強度上の欠陥になる場合がある。またプレゲル溶液の粘度が高くなり、ハンドリング性が悪くなる場合がある。
また、粒子(A)の含有量は、溶媒(D)100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましく、0.2〜8質量部であることがより好ましく、0.5〜5質量部であることがさらに好ましく、1〜2.5質量部であることが特に好ましい。溶媒(D)100質量部に対する粒子(A)の含有量が0.05質量部以上であれば、得られる高分子組成物の強度向上効果が得られやすい。また、溶媒(D)100質量部に対する粒子(A)の含有量が10質量部を超えると、粒子(A)の膨潤が不充分なものとなり、一部凝集して残ってしまい、強度上の欠陥になる場合がある。また、プレゲルの粘度が高くなり、ハンドリング性が悪くなる場合がある。
【0048】
プレゲル溶液中の溶媒(D)の含有量は、粒子(A)、ポリマー(B)、第三のモノマー(c)、および必要に応じて添加剤を含有できる量であれば特に限定されず、得られる高分子組成物の用途に必要な物性に応じて適宜調整することができる。
【0049】
以上説明した本発明のプレゲル溶液によれば、微粒子状のゲルがマトリックスゲルに分散された、高い強度を有する高分子組成物を得ることができる。また、該高分子組成物は製造時に形状を自由に成形加工することができる。
【0050】
本発明のプレゲル溶液は、船底塗料、着氷防止塗料、防曇塗料、防汚塗料などの各種コーティング材料や、摩擦抵抗を低減したい部位(プロペラ、カテーテル、配管内の圧力損失低減など)に塗布する材料などとして好適に用いることができる。また、鋳型を用いてプレゲル溶液を任意の形状で固めることで、玩具などの用途の高分子組成物の製造にも用いることができる。
【0051】
<高分子組成物>
以下、本発明の高分子組成物について説明する。
本発明の高分子組成物は、前述のいずれかのプレゲル溶液を重合・ゲル化することにより得ることができる。本発明の高分子組成物は、第三のモノマー(c)により形成される網目構造(C)を有しており、該網目構造(C)は粒子(A)と相互侵入網目構造を形成している。
前述のプレゲル溶液においては、溶媒(D)により粒子(A)が膨潤しており、第三のモノマー(c)は粒子(A)の内部にも導入されている。この状態で重合・ゲル化を行うことで第三のモノマー(c)が重合、架橋されることにより、網目構造(C)と粒子(A)との間で相互侵入網目構造が形成され、粒子(A)が網目構造(C)中に均一に分散した3次元の海島構造状の高分子組成物となる。
【0052】
本発明の高分子組成物の形状は、用途に応じた形状であればよい。
本発明の高分子組成物は、例えば、高吸水性樹脂、紙おむつ、生理用品、ソフトコンタクトレンズ、屋内緑化用含水シート、衝撃吸収材料、制振・防音材料や、子供用の玩具など様々な用途に用いることができる。また、高分子組成物を基材上に膜状に形成し、氷着防止用塗膜、防曇膜、汚染防止膜などとすることもできる。さらに、高分子組成物をプロペラ、カテーテル、配管内部などに膜状に形成し、摩擦抵抗を低減するために用いてもよい。
【0053】
一般にゲル(高分子組成物)の物理的強度は、該ゲルを構成する固形分の量により大きく変化するため、強度測定時の膨潤度を明確に設定する必要がある。本発明における高分子組成物の膨潤度(%)は、乾燥後の高分子組成物の質量に対する乾燥前の該高分子組成物の質量の比であり、下記式により算出される値である。
(膨潤度)=(乾燥前質量)/(乾燥後質量)×100(%)
本発明の高分子組成物の膨潤度は、用途に応じて適宜設定すればよく、コンタクトレンズの用途等の場合、40〜95%であることが好ましく、50〜90%であることがより好ましい。膨潤度が95%を超えると、強度がなくハンドリング性が悪くなることがある。また、膨潤度が40%未満であると、酸素透過性が悪くなり、コンタクトレンズとしての性能を満たさない場合がある。
【0054】
<高分子組成物の製造方法>
本発明の高分子組成物の製造方法は、前述のプレゲル溶液を重合・ゲル化させる工程を含む方法である。プレゲル溶液を重合・ゲル化する方法は、第1実施形態のプレゲル溶液を用いる場合も第2実施形態のプレゲル溶液を用いる場合も同じ方法により行うことができる。
【0055】
本発明の製造方法における重合・ゲル化工程は、粒子(A)、ポリマー(B)、第三のモノマー(c)、および必要に応じて前記添加剤を溶媒(D)に分散、溶解し、粒子(A)を充分に膨潤させ、均一なプレゲル溶液とした状態で行う。この時、必要に応じて加熱や攪拌を行ってもよい。このような状態で重合・ゲル化を行うことにより、粒子(A)の網目構造と第三のモノマー(c)により形成される網目構造(C)とが、相互侵入網目構造を形成する。
【0056】
重合方法としては、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。熱重合開始剤および光重合開始剤としては、粒子(A)の重合において挙げたものと同じものが挙げられる。開始剤の種類や添加量は特に限定されるものではなく、プレゲル溶液の用途や理想とする硬化時間に合わせて、適宜変更できる。
【0057】
ゲル化は、第三のモノマー(c)を重合したポリマー成分を架橋することにより行われる。架橋方法としては、化学結合による架橋方法、イオン結合による架橋方法、物理的架橋方法などが挙げられる。具体的には、前述の方法(α)〜(ε)が挙げられ、特殊な設備を必要としない点、製造工程が複雑にならない点、操作が簡便である点、網目構造を制御しやすい点から、方法(α)が好ましい。
架橋は、第三のモノマー(c)の重合と同時に行ってもよく、第三のモノマー(c)を重合させてポリマーとした後に行ってもよい。
【0058】
方法(α)における多官能モノマーの添加量は、第三のモノマー(c)の100モル%に対して、0.01〜5モル%が好ましく、0.01〜1モル%がより好ましく、0.01〜0.1モル%がさらに好ましい。
多官能モノマーの添加量が0.01モル%以上であれば、高分子組成物を主に構成する網目構造(C)の強度が得られやすく、優れた物性の高分子組成物が得られやすい。また、多官能モノマーの添加量が5モル%以下であれば、得られる高分子組成物において引張時に伸びが出なくなるなど物性が損なわれることを抑制しやすい。
【0059】
また、子供用の玩具などの特定の形状を有する高分子組成物を製造する場合には、その形状に応じた鋳型(容器や型枠など)にプレゲル溶液を注入した後に、重合・ゲル化工程を行えばよい。また、基材上に膜状の高分子組成物を形成する場合には、プレゲル溶液を該基材の表面に塗布した後に、重合・ゲル化工程を行えばよい。
このように、本発明のプレゲル溶液を用いた製造方法により、任意の形状の高分子組成物が得られる。
【0060】
以上説明した本発明の高分子組成物の製造方法にあっては、網目構造を有する粒子を均一分散させた相互侵入網目構造を有する既存の高分子組成物とは異なり、水中で正負いずれかの極性を示す不飽和モノマー(a1)を用いて網目構造を有する粒子(A)を形成し、該不飽和モノマー(a1)と反対の極性を示す不飽和モノマー(b1)を用いて形成したポリマーをバインダーとして用いることで、特に高い強度の高分子組成物が得られる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。尚、以下の記載において、特に断らない限り「部」は「質量部」、「%」は「モル%」を意味する。
<粒子(A)>
[製造例1]粒子(A1)の製造
不飽和モノマー(a1)である2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の60%、および他の不飽和モノマー(a2)であるN,N−ジメチルアクリルアミドの40%からなる第一のモノマー(a)と、第一のモノマー(a)の100%に対して4%のN,N−メチレンビスアクリルアミド(架橋剤)と、第一のモノマー(a)の100%に対して1%の熱重合開始剤(和光純薬工業社製、VA−057、2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物)とを、第一のモノマー(a)の100部に対して400部の蒸留水に溶かし、第一のモノマー水溶液を調製し、窒素バブリングによって第一のモノマー水溶液から溶存酸素を除去した。
次いで、セパラブルフラスコに乳化剤(花王社製、SPAN80、ソルビタンモノオレエート)100部を溶解させたシクロヘキサン1200部を用意し、ウォーターバスで60℃に保ち、フラスコ内を窒素フローさせた。その後、攪拌翼によってシクロヘキサンを攪拌したところへ、先に用意した第一のモノマー水溶液を滴下し、2時間重合させた。
重合後の乳化液は大量のアセトンへ析出させ、充分に洗浄を繰返して乳化剤を洗い落とした後に、乾燥させ、網目構造を有する粒子(A1)を得た。
【0062】
[製造例2]粒子(A2)の製造
第一のモノマー(a)を、不飽和モノマー(a1)である2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の50%およびアクリル酸の50%からなる混合物に変更し、N,N−メチレンビスアクリルアミドを2%に変更した以外は、粒子(A1)と同様の方法により、網目構造を有する粒子(A2)を得た。
【0063】
[製造例3]粒子(A3)の製造
第一のモノマー(a)を、不飽和モノマー(a1)である2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の20%、および他の不飽和モノマー(a2)であるアクリロイルモルホリンの80%からなる混合物に変更し、N,N−メチレンビスアクリルアミドを2%に変更した以外は、粒子(A1)と同様の方法により、網目構造を有する粒子(A3)を得た。
【0064】
[製造例4]粒子(A4)の製造
第一のモノマー(a)を、不飽和モノマー(a1)であるN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートの50%、および他の不飽和モノマー(a2)であるN,N−ジメチルアクリルアミドの50%からなる混合物に変更し、N,N−メチレンビスアクリルアミドを2%に変更した以外は、粒子(A1)と同様の方法により、網目構造を有する粒子(A4)を得た。
【0065】
製造例1〜4で得られた粒子(A1)〜(A4)について、以下に示す方法で絶乾状態の粒子径、および水膨潤状態(水中)の粒子径を測定した。
[絶乾状態の粒子径]
得られた粒子(A1)〜(A4)について、走査型電子顕微鏡(日本電子データム社製、JSM−6060)により絶乾状態での粒子を観察し、その粒子径を目算した。
[水膨潤状態の粒子径]
得られた粒子(A1)〜(A4)について、大塚電子社製粒子径測定器ELS800を用いて、水中での粒子径を測定した。粒子の水分散液の濃度はおよそ0.1%に調製し、必要に応じて更に希釈して測定に供した。
粒子(A1)〜(A4)の絶乾状態および水膨潤状態(水中)の粒子径を表1に示す。
【0066】
【表1】

ただし、表1中の略号は、下記の意味を示す。
AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
AAc:アクリル酸
DMAEA:N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート
DMAAm:N,N−ジメチルアクリルアミド
ACMO:アクリロイルモルホリン
MBAAm:N,N−メチレンビスアクリルアミド
【0067】
<ポリマー(B)>
ポリマー(B1):アクリル酸ジメチルアミノエチル100部、熱重合開始剤(同上)1部、および蒸留水300部の混合物を調製し、60℃にて2時間重合させ、ポリマー(B1)の水溶液とした。30℃、塩化ナトリウム1N溶液での粘度測定によって算出された分子量は約20万であった。
【0068】
ポリマー(B2):市販の高分子凝集剤(ダイヤニトリックス社製、KP201G、ポリメタクリル酸ジメチルアミノエチル、分子量300万)をポリマー(B2)として用いた。
【0069】
ポリマー(B3):市販の高分子凝集剤(ダイヤニトリックス社製、KP204BS、メタクリル酸ジメチルアミノエチルとアクリルアミドの共重合体、分子量1300万)をポリマー(B3)として用いた。
【0070】
ポリマー(B4):アクリル酸100部、熱重合開始剤(同上)1部、蒸留水900部の混合物を調製し、60℃にて2時間重合させ、ポリマー(B4)の水溶液とした。30℃、塩化ナトリウム1N溶液での粘度測定によって算出された分子量は約10万であった。
【0071】
以下、実施例および比較例について説明する。
[実施例1]
第三のモノマー(c)であるアクリルアミド(100部)と、第三のモノマー(c)の100%に対して0.1%のN,N−メチレンビスアクリルアミド(架橋剤)および0.01%の光重合開始剤(チバガイギー社製、DAROCURE1173、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン)とを合わせた混合物、粒子(A1)(4部)、ならびにポリマー(B1)(0.002部)を、蒸留水(200部)に溶解・膨潤させ、プレゲル溶液を調製した。
次いで、シリコーンゴムで周囲をシールしたガラス板間に、前記プレゲル溶液を流し込み、ケミカルランプ(東芝社製、捕虫器用蛍光灯FL20S・BL−A)を用いて、1分間の照射エネルギー120mJ/cmにて該プレゲル溶液に90分間紫外線を照射し、重合・ゲル化を完結させ、高分子組成物を得た。
【0072】
[実施例2〜9]
粒子(A)、ポリマー(B)、重合開始剤の組成を表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして高分子組成物を得た。
【0073】
[比較例1〜6]
粒子(A)、ポリマー(B)、モノマー(c)、重合開始剤の組成を表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして高分子組成物を得た。
【0074】
【表2】

ただし、表2中の略号は、下記の意味を示す。
AAm:アクリルアミド
DMAPAA:N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
MBAAm:N,N−メチレンビスアクリルアミド
DAR1173:DAROCURE1173
VA−057:2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物
【0075】
<評価方法>
実施例1〜9および比較例1〜6で得られた高分子組成物の評価は以下のようにして行なった。
[膨潤度]
得られた高分子組成物の乾燥前後の質量の比から膨潤度(%)を算出した。計算式は、下記の通りである。
(膨潤度)=(乾燥前質量)/(乾燥後質量)×100(%)
【0076】
[引張強度]
得られた高分子組成物を3号ダンベル試験片に打抜き、引張試験に供した。引張試験はJIS K6251に準拠して、試験片の引張破断強度を測定した。チャック間距離は50mm、引張速度は50mm/分とした。
【0077】
[強度向上率]
比較例1の引張破断強度に対する実施例1〜2および比較例2の引張破断強度の向上率(引張向上率、単位%)を算出した。また、同様に、比較例4の引張破断強度に対する実施例3〜5の引張破断強度の向上率、比較例5の引張破断強度に対する実施例6〜8の向上率、比較例6の引張破断強度に対する実施例9の向上率を算出した。
実施例1〜9および比較例1〜6における膨潤度、引張強度、引張向上率の結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
表3に示すように、実施例1および2で得られた高分子組成物は、同様の組成でポリマー(B)が添加されていない比較例1の高分子組成物に比べて高い強度を有していた。また、実施例3〜5で得られた高分子組成物は、同様の組成でポリマー(B)が添加されていない比較例4の高分子組成物に比べて高い強度を有していた。また、実施例6〜8で得られた高分子組成物は、同様の組成でポリマー(B)が添加されていない比較例5の高分子組成物に比べて高い強度を有していた。実施例9で得られた高分子組成物は、同様の組成でポリマー(B)が添加されていない比較例6の高分子組成物に比べて高い強度を有していた。
【0080】
一方、比較例2で得られた高分子組成物は、ポリマー(B)が添加されているもののその添加量が多すぎるため、ポリマー(B)がバインダーとして働かず、実施例1および2の高分子組成物に比べて強度に劣っていた。
また、比較例3で得られた高分子組成物は、ポリマー(B)の代わりに、網目構造(C)を形成する第三のモノマー(c)として、水中で不飽和モノマー(a1)と反対の極性を示す不飽和モノマーを用いているが、網目構造(C)中のノニオン性不飽和モノマー(c1)が少なくなり、比較例1の高分子組成物に比べてかえって強度が低下した。
【0081】
[実施例10]
実施例1のプレゲル溶液をポリエチレン製の子供用玩具(星型の鋳型)に注入し、上部よりケミカルランプ(同上)を用いて、1分間の照射エネルギー120mJ/cmにて90分間紫外線を照射し、重合・ゲル化を完結させ、高分子組成物を得た。
その結果、得られた高分子組成物は、鋳型から簡単に取り出すことができ、また鋳型の形が細部まで再現されていた。
【0082】
[実施例11]
実施例3のプレゲル溶液をポリメタクリル酸メチル製の基材上に塗布し、上部よりケミカルランプ(同上)を用いて、1分間の照射エネルギー120mJ/cmにて90分間紫外線を照射し、重合を完結させ、高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物は基材と良好な密着性を有しており、基材に摩擦力の少ない表面を付与することができた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のプレゲル溶液は、ハンドリング性に優れ、簡便に高分子組成物を製造することができる。また、得られる高分子組成物は高い弾性率・強度を有しており、摩擦抵抗が少ない材料である。そのため、船底塗料、着氷防止塗料、防曇塗料、防汚塗料などの各種コーティング材料や、摩擦抵抗を低減したい部位(プロペラ、カテーテル、配管内の圧力損失低減など)に塗布する材料などとして好適に用いることができる。また、プレゲル溶液を自由な形状で固めることで玩具などにも応用できるため、工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中で正または負の極性を示す網目構造を有する粒子(A)と、
水中で前記粒子(A)と反対の極性を示すポリマー(B)と、前記粒子(A)と相互侵入網目構造を形成する網目構造(C)を形成する第三のモノマー(c)と、を含み、
前記粒子(A)100質量部に対する前記ポリマー(B)の質量割合が5質量部未満であることを特徴とするプレゲル溶液。
【請求項2】
水中で正または負の極性を示す網目構造を有する粒子(A)と、
水中で前記粒子(A)と反対の極性を示すポリマー(B)と、前記粒子(A)と相互侵入網目構造を形成する網目構造(C)を形成する第三のモノマー(c)と、を含み、
前記粒子(A)および前記ポリマー(B)からなる粒子のゼータ電位が−50〜+50mVであることを特徴とするプレゲル溶液。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプレゲル溶液を重合・ゲル化して得られる高分子組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のプレゲル溶液を重合・ゲル化させる工程を含む高分子組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−260929(P2010−260929A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111569(P2009−111569)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】