説明

プレコート金属板の切断端面の補修液及びそれを用いた補修方法

【課題】クロメート型のみならずクロメートフリー型プレコート金属板であっても、その切断端面を十分に防錆する効果を示す補修液及びそれを用いた補修方法を提供すること。
【解決手段】水溶液中の不揮発成分として、バインダー成分及び防錆剤成分を同時に含有する混合物において、バインダー成分としてシリカ微粒子を、防錆剤成分として下記(A)(B)(C)のうちいずれか1種の薬品を含有し、バインダー成分(シリカ微粒子)100質量部に対し防錆剤成分を5乃至50質量部含有することを特徴とする、プレコート金属板の切断端面の補修液である。
(A)リン酸二水素マグネシウム(別名:第一リン酸マグネシウム、重リン酸マグネシウム)100質量部に対しバナジン(V)酸アンモニウムを0乃至200質量部添加した混合物
(B)リン酸水素マグネシウム(別名:第二リン酸マグネシウム)
(C)L−アスコルビン酸

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート金属板の切断端面からの腐食を効果的に防止することのできる端面補修液及び補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装板の代表例の一つである塗装金属板は、建材、家電、雑貨、自動車などの分野において、金属板を成形加工して組み立てた後に塗装するという従来のポストコート方式に替わって、あらかじめ塗装された金属板を成形加工して組み立てて製品とするプレコート方式が多く採用されている。プレコート方式の導入によって、需要家での塗装工程が省略でき、塗装廃棄物等による公害・環境問題を解消できるメリットがある。
【0003】
プレコート方式によって塗装されたプレコート金属板は、上述のようなメリットがある反面、切断端面がそのままの状態で実使用されるため切断端面からの発錆が生じやすいという問題があった。一般的に原板として使用されるのは亜鉛めっき鋼板であり、この場合切断端面に亜鉛と鉄がむきだしになるため、鉄の赤錆が発生する。この赤錆の印象が特に悪く消費者から嫌われるため、市場クレームが頻発する状況となっている。
【0004】
このような切断端面からの発錆を抑制するため、切断端面に補修塗料を予め塗布して使用することは有効である。例えば特許文献1では、スポンジや不織布に塗料を含浸させた塗装パッドを切断端面に押し付けることによる、プレコート鋼板の切断面塗装方法及びその装置について記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、補修塗料の防錆効果を高めるための工夫として、表面積の大きな粗粒または2次粒子を骨材として含有させた補修塗料を切断端面に塗布することで、プレコート鋼板の下塗り塗膜から滲み出る防錆イオンが補修塗膜中に保持されやすくする効果を狙った例が記載されている。
【0006】
特許文献1に記載されたプレコート鋼板の切断面塗装方法に代表されるような、一般的な補修塗料により切断端面を補修する方法では、防錆能力が低く、長期にわたって防錆効果が維持できない問題がある。プレコート金属板の普及当時には、前処理剤及び塗料の防錆剤としてクロメートを使用していたため、その高い防錆効果によって切断端面からの発錆はある程度限定的ではあったが、近年の環境問題によるクロメートフリー化により非クロメート系防錆剤が使用されるようになった現在、このような方法では実使用に耐えられる防錆効果は全く期待できない。
【0007】
一方、特許文献2に記載された方法では、端面防錆効果が常に発揮されるとは限らない点が問題である。この方法は、下層塗膜から端面に滲み出た防錆イオンを含んだ水が補修塗膜中に滞在し続けることで端面を防錆するメカニズムである。切断端面を常に濡れた環境にするため、補修塗膜中に含浸される液の種類によって端面の腐食状態は大きく変わってくる。一定条件に調整された腐食液が噴霧されるSSTでは、純粋なNaCl溶液が端面を濡らし続けるため、亜鉛の犠牲防食効果が有効に働き、亜鉛の腐食による白錆と塗膜膨れは発生するが赤錆は発生しない。また、下層塗膜から溶出する防錆イオンが、実施例に唯一記載のあるクロムイオンであるならば、その亜鉛に対する防錆効果によって白錆(塗膜膨れ)さえも抑制される。しかし、実際の使用環境では様々の腐食因子により汚染されており、切断端面がこの腐食因子を含んだ水で濡らされ続けることになり、かえって想定できないような異常腐食を引き起こす危険性を孕んでいる。
【0008】
【特許文献1】特開平9−285758号公報
【特許文献2】特開2006−263597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況に鑑み、本発明は、クロメート型のみならずクロメートフリー型プレコート金属板であっても、その切断端面を十分に防錆する効果を示す補修液及びそれを用いた補修方法を提供することを目的とする。切断端面を十分に防錆するとは、様々な腐食環境において防錆効果を示すということである。例えば、重塩害地域で電解質を多く含む腐食溶液に曝されても白錆や塗膜膨れが発生せず、かつ、非電解質雰囲気下でも赤錆が発生しない(非電解質雰囲気下では亜鉛の犠牲防食効果が働かないために赤錆が発生しやすい)ということである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述のような課題を解決するためには、切断端面から水を遮断する効果を補修剤に求める必要がある。しかし、端面が水に浸漬された場合には、その遮断効果には限界があり、補修剤の欠陥部分から腐食因子が浸入することは避けられない。そこで、補修剤に鉄や亜鉛に対して防錆効果のある薬剤を含有させ、相乗的に赤錆や白錆の発生を抑制する効果を狙うこととした。水を遮断する効果の高いバインダー成分及び、鉄や亜鉛を防錆するための防錆剤成分として高い効果を示す薬剤を種々探索し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、水溶液中の不揮発成分として、バインダー成分及び防錆剤成分を同時に含有する混合物において、バインダー成分としてシリカ微粒子を、防錆剤成分として下記(A)(B)(C)のうちいずれか1種の薬品を含有し、バインダー成分(シリカ微粒子)100質量部に対し防錆剤成分を5乃至50質量部含有することを特徴とする、プレコート金属板の切断端面の補修液である。
(A)リン酸二水素マグネシウム(別名:第一リン酸マグネシウム、重リン酸マグネシウム)100質量部に対しバナジン(V)酸アンモニウムを0乃至200質量部添加した混合物
(B)リン酸水素マグネシウム(別名:第二リン酸マグネシウム)
(C)L−アスコルビン酸
【0012】
また、不揮発成分の濃度が5〜30質量%であることを特徴とする、上述のプレコート金属板の切断端面の補修液である。さらには、プレコート金属板の切断端面に、上記の補修液を塗布し乾燥させることを特徴とする、プレコート金属板の切断端面の補修方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の補修液及び補修方法により、クロメート型のみならずクロメートフリー型プレコート金属板であっても、その切断端面を十分に防錆する効果を示す。切断端面を十分に防錆するとは、様々な腐食環境において防錆効果を示すということである。例えば、重塩害地域で電解質を多く含む腐食溶液に曝されても白錆や塗膜膨れが発生せず、かつ、非電解質雰囲気下でも赤錆が発生しない(非電解質雰囲気下では亜鉛の犠牲防食効果が働かないために赤錆が発生しやすい)ということである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(バインダー成分の種類)
バインダー成分には、腐食因子を含んだ水をプレコート金属板の切断端面から遮断する役割を担わせる。目的に適合する水の遮断効果が高いのは、シリカである。シリカ微粒子の分散体を塗布乾燥させることで、シリカ皮膜が切断端面を被覆することにより緻密なバリア層を形成し、水の浸入を効果的に防止することができる。一般的な有機樹脂系補修塗料では、基本的に水を透過させるため長期的な防食性の維持は難しい。
【0015】
シリカ微粒子の分散体としては、様々な形態のものが上市されており、例えば、日産化学工業(株)からはスノーテックスシリーズとして様々なシリカ濃度、粒子径、pH等を有するものが市販されている。いずれのものでも適用できるが、本発明における防錆剤成分を共存させたときの薬液の安定性を考慮すると、酸性領域で安定なものが望ましく、例えばスノーテックスO(pH=2〜4)を使用することで、防錆剤成分混合後も長期間ゲル化することなく使用できる。
【0016】
(防錆剤成分の種類)
防錆剤成分には、バインダーとしてのシリカ皮膜中に含有させ、水に濡れた際に適度に溶出して相乗的に切断端面を保護し防錆する役割を担わせる。鉄に対する防錆効果を有し赤錆を抑制できることが必須であり、かつ、亜鉛に対する防錆効果を併せて有し白錆と塗膜膨れを抑制できることが要求される。リン酸二水素マグネシウム(別名:第一リン酸マグネシウム、重リン酸マグネシウム)、リン酸水素マグネシウム(別名:第二リン酸マグネシウム)、及びL−アスコルビン酸は、上述の機能を有している。
【0017】
また、リン酸二水素マグネシウムにバナジン(V)酸アンモニウムを併用すると、亜鉛に対する防錆効果が極度に増加し、極めて良好な端面耐食性が得られる。バナジン酸アンモニウムを添加しなくても、亜鉛に対する防錆効果は実使用上問題ないレベルまで得られるが、バナジン(V)酸アンモニウムを添加することで、白錆の発生量がさらに減少し、端面からの塗膜膨れが抑制される。リン酸二水素マグネシウムとバナジン(V)酸アンモニウムとの混合比率は、リン酸二水素マグネシウム100質量部に対しバナジン(V)酸アンモニウムを最大200質量部まで添加することが望ましい。この範囲内であれば、バナジン(V)酸アンモニウムの添加比率が高くなるほど亜鉛の防錆効果が増加する。200質量部を越えると、逆に鉄に対する防錆効果が低下し、耐赤錆性が悪化に転ずる。
【0018】
バインダー成分(シリカ微粒子)と防錆剤成分との混合比率は、バインダー成分(シリカ微粒子)100質量部に対し、防錆剤成分を5乃至50質量部とする。防錆剤成分が5質量部未満では、防錆剤成分を添加しない場合と防錆性に有意な差が無く、十分な防錆効果が得られない。防錆剤成分が50質量部超では、バインダー成分の製膜性が低下しシリカ皮膜が緻密なバリア層を形成することができないため、水の浸入を防止する効果が失われ、端面耐食性が悪化に転ずる。
【0019】
本発明の補修液の不揮発成分(バインダー成分及び防錆剤成分)の濃度は、5〜30質量%であることが望ましい。補修液の不揮発成分濃度は、補修液を切断端面に塗布・乾燥したときの膜の健全性に影響を及ぼす。不揮発成分濃度が5%未満では、1回の塗布・乾燥で形成される皮膜の厚さが薄く、十分な端面耐食性が得られない。塗布・乾燥を繰り返すことで皮膜の厚さを確保することは可能であるが、積層された皮膜のため各層の密着性が低下し、バリア性が低下する危険性がある。また、時間と手間がかかるデメリットもある。一方、不揮発成分濃度が30%超では、補修液の粘度が増加し均一に塗布ができなくなるのに加え、乾燥前後での塗膜の収縮率が低いため製膜後も塗布むらがそのまま残り、結果として欠陥の多い補修皮膜が形成される。そのため、バリア性が低下し水の浸入を防止する効果が失われ、十分な端面耐食性が得られない。
【0020】
(塗布・乾燥方法)
本発明の補修液の、プレコート金属板の切断端面への塗布方法は特に限定されず、刷毛、ローラー、スポンジ、布、スプレー、端面の補修液への浸漬、その他による塗布方法を自由に選択できる。また、本発明の補修液の乾燥方法は特に限定されず、常温乾燥、加熱オーブン中での乾燥、遠近赤外線、高周波誘導加熱等による加熱乾燥、その他による乾燥方法を自由に選択できる。
【0021】
(プレコート金属板の種類)
本発明の補修液及び補修方法は、任意のプレコート金属板に適用できる。クロメート型、クロメートフリー型のいずれであっても良いが、本発明の効果が特に発揮されるのは、耐食性に劣るクロメートフリー型プレコート金属板においてである。プレコート金属板の原板としては、例えば鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板、チタン板、銅板等が挙げられる。このうち鋼板の例として、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛−鉄合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、クロムめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、錫めっき鋼板等が挙げられる。
【0022】
(補修剤の色について)
本発明の補修剤は、必要に応じて着色顔料あるいは染料を添加して、任意の色に着色して使用することができる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例により本発明を更に説明する。なお、当然ながら本発明が以下の実施例に限定されるものでない。
【0024】
1.補修液の作製
バインダー成分(コロイド状シリカ微粒子)としては、下記のものを使用した。
・スノーテックスO(日産化学工業製)
pH:2〜4
粒子径:10〜20nm
・スノーテックスS(日産化学工業製)
pH:9.5〜10.5
粒子径:8〜11nm
【0025】
防錆剤成分としては、下記のものを使用した。
・リン酸二水素マグネシウム(米山化学製)
・リン酸二水素マグネシウム(同上)及びバナジン(V)酸アンモニウム(関東化学製)の各種比率混合物
・リン酸水素マグネシウム(関東化学製)
・L−アスコルビン酸(関東化学製)
【0026】
バインダー成分である上記のコロイド状シリカ水溶液に、上記の防錆剤成分としての薬品及び蒸留水を添加したのち十分に攪拌し、表1、2に示す各種の補修液を作製した。
【0027】
2.プレコート金属板
被塗物であるプレコート金属板としては、以下のものを使用した。
・PCM−1
0.5mm厚 溶融亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量片面当たり40g/m)を原板と するクロメートフリー型プレコート金属板
・PCM−2
0.8mm厚 溶融亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量片面当たり40g/m)を原板と するクロメートフリー型プレコート金属板
・PCM−3
0.5mm厚 電気亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量片面当たり20g/m)を原板と するクロメートフリー型プレコート金属板
【0028】
各種試験に供する際のサンプル形状は評価方法毎に異なるので、評価方法の項にて後述する。
【0029】
3.補修液の塗布・乾燥
刷毛塗り、ローラー塗り、及び端面の補修液への浸漬の各方法で補修液を塗布し、常温で24時間乾燥、及び80℃オーブン中で10分間加熱乾燥、の各方法で乾燥させ、表1、2に示す実施例及び比較例の試験片を作製した。
【0030】
4.端面耐食性の評価方法
(1)40℃HCT
サンプル形状:50×100mm、2つの長辺がそれぞれ上バリ、下バリとなるようにシャーにて切断。両辺を補修液にて補修処理し、JIS K5600−7−2の回転式湿潤箱中に長辺を左右として吊り下げ、40℃にて耐湿性試験を500時間実施した。n=2以上。
【0031】
ルーペによる目視観察により切断端面部の断面積に対する赤錆の発生面積率を測定した。評価基準は以下の通り。
○:赤錆が1%未満
△:赤錆が1%以上5%未満
×:赤錆が5%以上
【0032】
(2)蒸留水浸漬試験
サンプル形状:50×50mm、4辺がそれぞれ上バリ2、下バリ2となるようにシャーにて切断。全辺を補修液にて補修処理したものを5枚ずつ作製する。蒸留水を入れたシャーレ中に5枚を重ねて浸漬し、水深が10mmとなるように調整し、シャーレの蓋をして、20℃にて500時間放置した。
【0033】
切断端面部からの赤錆及び白錆のそれぞれの発生状況を観察した。評価基準は以下の通り。
(赤錆)
○:赤錆の発生無し
△:赤錆の発生若干有り(赤錆5%未満)
×:赤錆の発生有り(赤錆5%以上)
(白錆)
○:白錆の発生無し
△:白錆の発生若干有り(部分的に発生)
×:白錆の発生有り(全辺にわたって発生)
【0034】
(3)塩水噴霧試験(SST)
サンプル形状:50×100mm、2つの長辺がそれぞれ上バリ、下バリとなるようにシャーにて切断。両辺を補修液にて補修処理し、JIS K5600−7−1の方法で、500時間試験を実施した。n=2以上。
【0035】
表側塗膜の切断端面部からの最大膨れ幅(エッジクリープ)を、ルーペ観察にて測定した。評価基準は以下の通り。
○:2mm未満
△:2mm以上5mm未満
×:5mm以上
【0036】
(4)N−CCT
N−CCTは、「SST(35℃、6時間)→移行時間(1時間)→乾燥(70℃、60%RH、4時間)→移行時間(2時間)→湿潤(49℃、95%RH、4時間)→移行時間(2時間)→冷凍(−20℃、4時間)→移行時間(1時間)→」を1サイクルとするサイクル試験である。これまでの検討にて、実際の曝露環境との相関が高いことがわかっており、N−CCTの5週間(35サイクル)が沖縄曝露の約3年に相当する。
【0037】
サンプル形状:50×100mm、2つの長辺がそれぞれ上バリ、下バリとなるようにシャーにて切断。両辺を補修液にて補修処理し、N−CCTを3週間実施した。n=2以上。
【0038】
表側塗膜の切断端面部からの最大膨れ幅(エッジクリープ)を、ルーペ観察にて測定した。また切断端面部からの赤錆の発生状況を観察した。評価基準は以下の通り。
(塗膜の最大膨れ幅)
○:1mm未満
△:1mm以上3mm未満
×:3mm以上
(赤錆)
○:赤錆の発生無し
△:赤錆の発生若干有り(赤錆5%未満)
×:赤錆の発生有り(赤錆5%以上)
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1、2の結果より、実施例についてはいずれも、蒸留水浸漬試験で白錆が若干発生するものはあるものの、全ての条件においての端面耐食性で良好な結果を示している。特に、リン酸二水素マグネシウムとバナジン(V)酸アンモニウムの混合物、及びL−アスコルビン酸を防錆剤成分とするときに、極めて良好な端面耐食性を示している。プレコート金属板の原板の板厚、亜鉛めっき付着量に関わらず、基本的な端面耐食性の傾向には差が無く、本発明による補修効果が発揮できる(通しNo.17〜21、No.43〜47、及びNo.48〜52の比較)。塗布方法についても、ローラー塗り、刷毛塗り、浸漬法のいずれでも結果は同一である(通しNo.4、No.41、及びNo.42の比較)。乾燥方法も、常温乾燥、80℃加熱乾燥を問わない結果となっている(通しNo.4と37、No.14と38、No.29と39、及びNo.34と40の比較)。バインダー成分であるシリカの種類も、端面耐食性には影響しない(通しNo.17〜21、及びNo.53〜57の比較)。
【0042】
一方、比較例については、バインダー成分のみで防錆剤成分が未添加の比較例1は、バリア効果のみに頼ることにあるため、十分な端面耐食性が得られていない。防錆剤成分としてリン酸二水素マグネシウムにバナジン(V)酸アンモニウムを添加すると良好な亜鉛の防食効果を示す傾向が見られるが、比較例6は、バナジン(V)酸アンモニウムの添加比率が所定を越えているため、耐赤錆性が悪くなっている。バインダー成分に対する防錆剤成分の比率が少なすぎると(比較例2、7、12、14、16、18、及び20)、防錆剤成分未添加の比較例1に組成が近づき、十分な端面耐食性が得られていない。逆に、バインダー成分に対する防錆剤成分の比率が多すぎても(比較例3、8、13、15、17、19、及び21)、バインダー成分の製膜性が低下しシリカ皮膜が緻密なバリア層を形成することができないため、水の浸入を防止する効果が失われ、端面耐食性が悪化している。補修液の不揮発成分(バインダー成分及び防錆剤成分)の濃度が低すぎると(比較例4,及び9)、十分な端面耐食性が得られていない。塗布・乾燥で形成される皮膜の厚さが薄いためと考えられる。逆に、不揮発成分濃度が高すぎると(比較例5,及び11)、欠陥の多い補修皮膜が形成されるため、バリア性が低下し水の浸入を防止する効果が失われ、極めて深刻な端面耐食性の低下が見られる。比較例22〜24は、全く補修無し(切断したまま)の状態であり、劣悪な端面腐食が発生している。比較例25は特許文献1に相当する一般的な樹脂径塗料を塗布したもの、比較例26は特許文献2に相当するシリカ粉末2次粒子を添加した塗料を塗布したものであるが、いずれも良好な端面耐食性は得られていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中の不揮発成分として、バインダー成分及び防錆剤成分を同時に含有する混合物において、バインダー成分としてシリカ微粒子を、防錆剤成分として下記(A)(B)(C)のうちいずれか1種の薬品を含有し、バインダー成分(シリカ微粒子)100質量部に対し防錆剤成分を5乃至50質量部含有することを特徴とする、プレコート金属板の切断端面の補修液。
(A)リン酸二水素マグネシウム(別名:第一リン酸マグネシウム、重リン酸マグネシウム)100質量部に対しバナジン(V)酸アンモニウムを0乃至200質量部添加した混合物
(B)リン酸水素マグネシウム(別名:第二リン酸マグネシウム)
(C)L−アスコルビン酸
【請求項2】
不揮発成分の濃度が5〜30質量%であることを特徴とする、請求項1記載のプレコート金属板の切断端面の補修液。
【請求項3】
プレコート金属板の切断端面に、請求項1あるいは2記載の補修液を塗布し乾燥させることを特徴とする、プレコート金属板の切断端面の補修方法。

【公開番号】特開2010−53404(P2010−53404A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219840(P2008−219840)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】