説明

プレストレストコンクリートタンク

【課題】 建設コストを下げるとともに、メンテナンス費用を低減することができる、プレストレストコンクリートタンクを提供する。
【解決手段】 プレストレストコンクリートタンク1は、浄水池または配水池用のタンクであって、側壁2と底壁3と天壁4を形成するコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有する。そして、側壁2と底壁3と天壁4を形成するコンクリートが、タンク内に露出している。すなわち、このプレストレストコンクリートタンク1は、内面無塗装のタンクとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、浄水池または配水池用のプレストレストコンクリートタンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、配水池に用いられるプレストレストコンクリートタンクでは、上水に含まれる残留塩素によるコンクリートの劣化を防止するために、内面塗装を施していた。
【0003】
また、道路とか橋梁とか建築物とかに用いられるコンクリートに、結合材がポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末とからなるコンクリートを使用することが知られていた(例えば、特許文献1参照)。そして、この高炉スラグ微粉末入りのコンクリートは、高炉スラグ微粉末を含まないコンクリートに比して、塩素浸透に対する抵抗性が高いと考えられていた。
【0004】
【特許文献1】特開2005−154213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来のプレストレストコンクリートタンクにおいては、残留塩素に対する耐久性を高めるために内面塗装を施す必要があり、コスト高となっていた。また、内面塗装を点検したり再塗装したりする等のメンテナンスを定期的に行なわなければならなかった。
【0006】
また、前述のような高炉スラグ微分末入りのコンクリートは、知られていたものの、そのコンクリートを、例えば配水池用のプレストレストコンクリートタンクに用いるという発想はなかった。
【0007】
この発明は、上記した従来の欠点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、建設コストを下げるとともに、メンテナンス費用を低減することができる、プレストレストコンクリートタンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るプレストレストコンクリートタンクは、前記目的を達成するために、次の構成からなる。すなわち、
請求項1に記載の発明に係るプレストレストコンクリートタンクは、浄水池または配水池用のタンクである。このプレストレストコンクリートタンクにおいて、側壁を形成するコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有する。そして、前記側壁を形成するコンクリートが、タンク内に露出している。すなわち、このプレストレストコンクリートタンクでは、側壁を形成するコンクリートの結合材に、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを用いることで、タンク内の残留塩素に対する側壁の耐久性を高めて、側壁の内面塗装を省略している。
【0009】
また、請求項2に記載の発明に係るプレストレストコンクリートタンクは、請求項1に記載のプレストレストコンクリートタンクにおいて、前記側壁を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末は、比表面積の平均値が5000cm2/g以上である。このように、側壁を形成するコンクリートにおいて、高炉スラグ微粉末の比表面積の平均値を、5000cm2/g以上とすることで、タンク内の残留塩素に対する側壁の耐久性を確実に高めることができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明に係るプレストレストコンクリートタンクは、請求項1または2に記載のプレストレストコンクリートタンクにおいて、底壁を形成するコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有する。そして、前記底壁を形成するコンクリートが、タンク内に露出している。すなわち、このプレストレストコンクリートタンクでは、側壁だけでなく、底壁を形成するコンクリートの結合材に、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを用いることで、タンク内の残留塩素に対する底壁の耐久性を高めて、底壁の内面塗装を省略している。
【0011】
また、請求項4に記載の発明に係るプレストレストコンクリートタンクは、請求項3に記載のプレストレストコンクリートタンクにおいて、前記底壁を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末は、比表面積の平均値が5000cm2/g以上である。このように、底壁を形成するコンクリートにおいて、高炉スラグ微粉末の比表面積の平均値を、5000cm2/g以上とすることで、タンク内の残留塩素に対する底壁の耐久性を確実に高めることができる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明に係るプレストレストコンクリートタンクは、請求項3または4に記載のプレストレストコンクリートタンクにおいて、天壁を形成するコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有する。そして、前記天壁を形成するコンクリートが、タンク内に露出している。すなわち、このプレストレストコンクリートタンクでは、側壁と底壁だけでなく、天壁を形成するコンクリートの結合材に、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを用いることで、タンク内の残留塩素に対する天壁の耐久性を高めて、天壁の内面塗装を省略している。
【0013】
また、請求項6に記載の発明に係るプレストレストコンクリートタンクは、請求項5に記載のプレストレストコンクリートタンクにおいて、前記天壁を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末は、比表面積の平均値が5000cm2/g以上である。このように、天壁を形成するコンクリートにおいて、高炉スラグ微粉末の比表面積の平均値を、5000cm2/g以上とすることで、タンク内の残留塩素に対する天壁の耐久性を確実に高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係るプレストレストコンクリートタンクによれば、次の効果がある。
【0015】
請求項1および2に記載されたプレストレストコンクリートタンクによれば、側壁の内面塗装を省略することで、建設コストを下げるとともに、その側壁の内面塗装に関わるメンテナンスを省いて全体のメンテナンス費用を低減することができる。
【0016】
請求項3および4に記載されたプレストレストコンクリートタンクによれば、側壁と底壁の内面塗装を省略することで、建設コストを下げるとともに、それら側壁と底壁の内面塗装に関わるメンテナンスを省いて全体のメンテナンス費用を低減することができる。
【0017】
請求項5および6に記載されたプレストレストコンクリートタンクによれば、側壁と底壁と天壁の内面塗装を省略することで、建設コストを下げるとともに、それら側壁と底壁と天壁の内面塗装に関わるメンテナンスを省いて全体のメンテナンス費用を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明に係るプレストレストコンクリートタンクを実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態を示す。図中符号1は、配水池用のプレストレストコンクリートタンク(以下、PCタンクと称す。)である。このPCタンク1は、例えば、円筒形状に形成されており、側壁2と底壁3と天壁4とを備えている。そして、これら側壁2と底壁3と天壁4は、コンクリート製であって、特に、側壁2にはプレストレスが導入されている。
【0020】
ここで、PCタンク1において、側壁2を形成するコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有している。そして、このPCタンク1は、側壁2を形成するコンクリートが、タンク内に露出している。さらに、この実施の形態にあっては、底壁3を形成するコンクリートと、天壁4を形成するコンクリートも、それらコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有している。そして、PCタンク1は、これら底壁3と天壁4を形成するコンクリートが、タンク内に露出している。つまり、このPCタンク1は、側壁2と底壁3と天壁4とがタンク内に露出する、内面無塗装のPCタンクとなっている。なお、側壁2、底壁3、天壁4のそれぞれを形成するコンクリートの結合材は、40〜60質量%のポルトランドセメントと、同じく40〜60質量%の高炉スラグ微粉末とを有するのが好ましく、特に、40〜55質量%のポルトランドセメントと、45〜60質量%の高炉スラグ微粉末とを有するのが好適である。
【0021】
また、側壁2を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末、底壁3を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末、そして、天壁4を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末は、それぞれ、比表面積の平均値が、5000cm2/g以上となっている。この高炉スラグ微粉末の比表面積の上限は、特に限定されないが、一般的な供給状況からは、10000cm2/g未満あるいは10000cm2/g以下のものが容易に入手可能である。日本工業規格には、そのA6206に、コンクリート用高炉スラグ微分末の規定があり、この規定における、高炉スラグ微分末6000(比表面積5000cm2/g以上、7000cm2/g未満)、あるいは高炉スラグ微粉末8000(比表面積7000cm2/g以上、10000cm2/g未満)のものを採用すれば、前述した、比表面積の平均値5000cm2/g以上となる。
【0022】
このPCタンク1によると、側壁2を形成するコンクリートと、底壁3を形成するコンクリートと、天壁4を形成するコンクリートにおいて、それらコンクリートの結合材に、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを用いることで、タンク内の残留塩素に対する側壁2と底壁3と天壁4の耐久性を高めて、それら側壁2と底壁3と天壁4の内面塗装を省略している。このように、側壁2の内面塗装と底壁3の内面塗装と天壁4の内面塗装とのそれぞれを省略することで、建設コストを下げるとともに、それら内面塗装に関わるメンテナンス(つまり、内面塗装の状態を定期的に点検したり、再塗装したりする)を省いて全体のメンテナンス費用を低減することができる。特に、側壁2の内面塗装と底壁3の内面塗装と天壁4の内面塗装というように、タンク全体の内面塗装を省くことで、内面塗装のメンテナンスに伴う、タンク内の水を抜いてタンクの稼動を停止するということも、必要がなく、タンクの稼働率を上げることができる。
【0023】
そして、側壁2を形成するコンクリートと、底壁3を形成するコンクリートと、天壁4を形成するコンクリートにおいて、高炉スラグ微粉末の比表面積の平均値を、5000cm2/g以上とすることで、タンク内の残留塩素に対する側壁2と底壁3と天壁4(すなわち、タンク全体)の耐久性を確実に高めることができる。
【0024】
図2に、実験用のコンクリート供試体における、表面からの深さと塩化物イオン量との関係を表わしたグラフを示す。ここで、供試体としては、
(1) 結合材として普通ポルトランドセメント(C)を使用した従来のコンクリート(N)
(2) 結合材として普通ポルトランドセメント(C)と高炉スラグ微粉末6000(BFS)とを使用したコンクリート(BSPC)
とを用いる。これら供試体の配合を、表1に示す。この表からわかるように、コンクリートの結合材は、50質量%のポルトランドセメントと、同じく50質量%の高炉スラグ微粉末を有している。
【0025】
【表1】

【0026】
図2のグラフは、これら供試体が、10000ppmの塩素ガス中(気中)と、その塩素ガスと平衡状態にある水の中(水中)とに、各々8週間置かれたときの、塩化物イオン量の値である。このグラフにおいて、従来のコンクリート(N)では、塩化物イオンは、表面からの深さが10mmを越えて、内部まで浸透している。これに対して、結合材としてポルトランドセメントと高炉スラグ微分末とを使用したコンクリート(BSPC)では、塩化物イオンの浸透は、概ね、表面からの深さが10mmの範囲内に留まっている。このことは、(N)と(BSPC)とを比較した場合、(N)の方が、コンクリート表面から30mm程度内側に配置された鉄筋の位置まで塩化物イオンが到達しやすいことを示している。これは、(BSPC)が(N)と比較して、鉄筋が錆びることを抑制する効果が高いことを表わしている。
【0027】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。例えば、PCタンク1は、配水池用のPCタンクでなくとも、配水池と同様に残留塩素を有する浄水池用のPCタンクであってもよい。
【0028】
また、側壁2と底壁3と天壁4のそれぞれに、結合材に高炉スラグ微粉末を含むコンクリートを用いているが、この高炉スラグ微分末を含むコンクリートを、側壁2のみに用いてもよく、また、側壁2と底壁3のみ、あるいは側壁2と天壁4のみに用いても構わない。また、PCタンク1は、側壁2と底壁3と天壁4との全体がコンクリート製であるが、天壁4は、合成樹脂製等、コンクリート製でなくともよい。
【0029】
また、結合材として用いられる高炉スラグ微分末は、比表面積の平均値が5000cm2/g以上であるのが望ましいが、5000cm2/g未満であっても構わない。
【0030】
また、PCタンク1は、コンクリートが現場打設されて形成されたものであっても、また、工場生産されたプレキャスト部材が組み合わされたものであってもよい。ここで、コンクリートの結合材として用いられるポルトランドセメントは、現場打設される場合には、普通ポルトランドセメントが好ましく、プレキャスト部材の場合には、早強ポルトランドセメントが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一の実施の形態の、PCタンクの断面図である。
【図2】供試体において塩化物イオン量の測定値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1 PCタンク(プレストレストコンクリートタンク)
2 側壁
3 底壁
4 天壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水池または配水池用の、プレストレストコンクリートタンクであって、
側壁を形成するコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有し、前記側壁を形成するコンクリートが、タンク内に露出してなる、プレストレストコンクリートタンク。
【請求項2】
前記側壁を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末は、比表面積の平均値が5000cm2/g以上である、請求項1に記載のプレストレストコンクリートタンク。
【請求項3】
底壁を形成するコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有し、前記底壁を形成するコンクリートが、タンク内に露出してなる、請求項1または2に記載のプレストレストコンクリートタンク。
【請求項4】
前記底壁を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末は、比表面積の平均値が5000cm2/g以上である、請求項3に記載のプレストレストコンクリートタンク。
【請求項5】
天壁を形成するコンクリートの結合材は、30〜60質量%のポルトランドセメントと、40〜70質量%の高炉スラグ微粉末とを有し、前記天壁を形成するコンクリートが、タンク内に露出してなる、請求項3または4に記載のプレストレストコンクリートタンク。
【請求項6】
前記天壁を形成するコンクリートにおける高炉スラグ微粉末は、比表面積の平均値が5000cm2/g以上である、請求項5に記載のプレストレストコンクリートタンク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−75352(P2008−75352A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256505(P2006−256505)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年4月25日社団法人日本水道協会発行の「第57回全国水道研究発表会講演集」に発表
【出願人】(591121111)株式会社安部日鋼工業 (38)
【出願人】(500477425)新日鐵高炉セメント株式会社 (6)
【Fターム(参考)】