説明

プレス機械およびそのスライド位置調整方法

【課題】スライドの待機位置が上死点からずれている場合でも、スライドの所定量の移動を正確にでき、かつコストが嵩むのを防止できるプレス機械を提供すること。
【解決手段】プレス機械の制御装置40は、上死点から所定のクランク角度ずれた待機位置にスライドが待機している状態でのスライド移動量を、スライドの高さ位置調整に際して与えられる調整前のダイハイトの実測値と、調整後のダイハイトの所望値と、クランク角度と、ボルスタの上面およびエキセン部のクランク中心間の距離と、エキセン部のクランク半径と、スライドの下面からポイント中心までの距離とに基づき、調整前後のダイハイトの差分に対応させて算出する移動量演算部58を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に電動サーボモータにて駆動されるプレス機械およびそのスライド位置調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メインシャフトのエキセン部にコンロッドの上端を連結し、コンロッドの下端にプランジャを介さずにスライドを取り付けたプレス機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなプレス機械は、コンロッドとスライドとの間にプランジャが存在しないため、構造を簡素化でき、プレス機械の全高を低くできる。
【0003】
また、近年では、メンインシャフトの駆動源として電動サーボモータを採用することが多くなっている。サーボモータを用いたプレス機械では、サーボモータの駆動速度や駆動開始位置等を制御することで、スライドモーションを任意に設定できるというメリットがある。例えば、従来のプレス機械では、スライドの待機位置は上死点であることが通常であるが、サーボモータを用いる場合には、スライドの待機位置をメインシャフトのクランク角度にして、正回転方向へ所定角度θ進めた位置に設定可能である。
【0004】
このように設定した場合には、メインシャフトを正回転させてスライドを待機位置から下死点に到達させた後、メインシャフトを逆回転させてスライドを下死点から元の待機位置に戻す反転モーションや、スライドが下死点に到達した後に、そのままメインシャフトを正回転させてスライドを上死点から角度−θだけ手前の待機位置に停止させ、次のワーク加工時には、スライドを角度−θの待機位置から下死点を通過させ、元の角度θの待機位置まで駆動する往復(振り子)モーションなどを実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−237698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のプレス機械では、駆動源がサーボモータであるなしに係わらず、ダイハイト調整時のスライドの移動を、スライドを上死点で待機させた状態で行うのが一般的である。また、ダイハイトの調整は、プランジャがない小型のプレス機械では、伸縮構造を有したコンロッドを伸縮させ、この際のスライドの高さ位置を位置検出器で検出することで行うことができる。
一方で、駆動源をサーボモータとしたプレス機械では、スライドの待機位置が上死点からずれている場合には、その待機位置にスライドを待機させた状態のまま、ダイハイト調整を行うことが望まれている。そうすることで、ダイハイト調整のためにスライドを上死点に移動させるという煩わしさを解消できるからである。
【0007】
しかし、ダイハイトの値とは、用いられる金型毎に設定されている値であり、スライドが下死点位置にある時のボルスタ上面からスライド下面までの高さ寸法であるから、スライドが上死点にある場合には、コンロッドを伸縮させたことに伴うスライドの移動量がそのままダイハイトの調整量となるが、スライドが上死点からずれた位置にある状態では、スライドの移動量が上死点にある時の移動量とは一致せず、その調整が困難になる。
【0008】
これに対して、コンロッドの伸縮量を検出できるようにすれば、スライドの待機位置が上死点からずれている場合でも、コンロッドの伸縮量がそのまま下死点(上死点)でのスライドの移動量となり、ダイハイトの調整量となるから、調整が簡単であるが、そのためには、コンロッドの伸縮量を検出する検出器が新たに必要になるなど、コストが嵩むという問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、スライドの待機位置が上死点からずれている場合でも、スライドの所定量の移動を正確にでき、かつコストが嵩むのを防止できるプレス機械およびそのスライド位置調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係るプレス機械は、スライドと、前記スライドの下方に設けられたボルスタと、前記スライドに球面継手を介して下端が連結された伸縮自在なコンロッドと、前記コンロッドの上端が連結されたエキセン部を有するメインシャフトと、前記メインシャフトを駆動するサーボモータと、前記サーボモータを制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、上死点から所定のクランク角度ずれた待機位置に前記スライドが待機している状態でのスライド移動量を、前記スライドの高さ位置調整に際して与えられる調整前のダイハイトの実測値と、調整後のダイハイトの所望値と、前記クランク角度と、前記ボルスタの上面および前記エキセン部のクランク中心間の距離と、前記エキセン部のクランク半径と、前記スライドの下面からポイント中心までの距離とに基づき、前記調整前後のダイハイトの差分に対応させて算出する移動量演算部を有していることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係るプレス機械では、前記移動量演算部は、上死点から所定のクランク角度ずれた待機位置に前記スライドが待機している状態でのスライド移動量を、前記スライドの高さ位置調整前のスライド位置の実測値と、位置調整後のスライド位置の実測値の差分から算出するとともに、前記スライド移動量と、前記スライドの高さ位置調整に際して与えられる調整前のダイハイトの実測値と、前記クランク角度とに基づいて、位置調整後のダイハイトを算出することを特徴とする。
【0012】
第3発明に係るプレス機械のスライド位置調整方法は、スライドと、前記スライドの下方に設けられたボルスタと、前記スライドに球面継手を介して下端が連結された伸縮自在なコンロッドと、前記コンロッドの上端が連結されたエキセン部を有するメインシャフトと、前記メインシャフトを駆動するサーボモータと、前記サーボモータを制御する制御装置とを備えたプレス機械のスライド位置調整方法であって、上死点から所定のクランク角度ずれた待機位置に前記スライドが待機している状態でのスライド移動量を、前記スライドの高さ位置調整に際して与えられる調整前のダイハイトと、調整後のダイハイトと、前記クランク角度と、前記ボルスタの上面および前記エキセン部のクランク中心間の距離と、前記エキセン部のクランク半径と、前記スライドの下面からポイント中心までの距離とに基づいて、前記調整前後のダイハイトの差分に対応させて算出し、算出された前記スライド移動量で前記スライドを移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1、第3発明によれば、スライドの待機位置として、上死点から所定のクランク角度ずれた位置に設定された場合でも、位置調整前のダイハイトの実測値や、その他プレス機械の固定値として既知である値を用いることで、制御装置の移動量演算部によってスライド移動量を算出するため、スライドを待機位置に待機させた状態のまま、スライドをスライド移動量分だけ移動させればよく、わざわざ上死点に移動させた状態にしてダイハイト変更に伴うスライド位置を調整する必要がなくて、スライドの移動を正確かつ迅速にでき、解くにダイハイトの変更時に有用である。また、コンロッドの伸縮量を直接検出している訳ではないので、そのような検出器を不要にでき、安価である。
【0014】
第2発明によれば、スライドを所定のクランク角度ずれた位置で待機させたまま、例えばインチング操作によりスライドを僅かに移動させてスライド位置を追い込み調整する場合でも、移動量演算部は、インチング操作によって移動したスライドの実際の移動量に基づいて調整後のダイハイトを算出するので、このようなダイハイトをコントロールパネル等に表示させておくことにより、オペレータはコントロールパネルの表示値を参照しながらのダイハイトの変更を、スライドの待機位置が上死点に設定される従来のプレス機械と同じ感覚で行え、操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るプレス機械の概略全体を示す斜視図。
【図2】前記プレス機械の要部を示す側断面図。
【図3】前記プレス機械の別の要部を示す一部断面の平面図。
【図4】前記プレス機械で実施される代表的な動きを説明するための図。
【図5】前記プレス機械で実施される他の代表的な動きを説明するための図。
【図6】前記プレス機械の構成を示すブロック図。
【図7】前記プレス機械での上死点検出を説明するための図。
【図8】前記プレス機械でのダイハイト調整を説明するための図。
【図9】前記プレス機械での上死点検出およびダイハイト調整を説明するためのフローチャート。
【図10】図9の続きを示すフローチャート。
【図11】図10の続きを示すフローチャート。
【図12】図10の続きを示す別のフローチャート。
【図13】図12の続きを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
先ず、図1〜図3により、本実施形態のプレス機械としてプランジャが設けられていないタイプのサーボプレス1を説明する。図1はサーボプレス1の全体斜視図、図2はその要部を示す側断面図、図3は他の要部を示す一部断面の平面図である。
【0017】
図1において、サーボプレス1の本体フレーム2の略中央部には、スライド3が上下動自在に支承されており、スライド3に対する下方には、ベッド4上に取り付けられたボルスタ5が配置されている。本体フレーム2の前方には、後述するコントロールパネル6が設けられ、本体フレーム2の側方には、コントロールパネル6が接続された制御装置40が設けられている。
【0018】
図2に示すように、サーボプレス1では、サーボモータ21によりスライド3を駆動している。スライド3の上部に形成された球面孔3A内には、ダイハイト調整用のねじ軸7の下端に設けられた球体部7Aが抜け止めされた状態で回動自在に挿入されている。球面孔3Aおよび球体部7Aにより、球場継手が構成されている。ねじ軸7のねじ部7Bは、上方に向けてスライド3から露出し、ねじ軸7の上方に設けたコンロッド本体8の雌ねじ部8Aに螺合している。ねじ軸7およびコンロッド本体8により、伸縮自在なコンロッド9が構成されている。
【0019】
コンロッド9の上部は、メインシャフト10に設けられたクランク状のエキセン部10Aに回転自在に連結されている。メインシャフト10は、本体フレーム2を構成する左右一対の厚板状のサイドフレーム11間において、前後3箇所の軸受部12,13,14で支承されている。メインシャフト10の後部側には、メインギア15が取り付けられている。
【0020】
メインギア15は、その下方に設けられた動力伝達軸16の伝達ギア16Aと噛合している。動力伝達軸16は、サイドフレーム11間において、前後2箇所の軸受部17,18で支承されている。動力伝達軸16の後端には、従動側のプーリ19が取り付けられている。プーリ19は、その下方に配置されたサーボモータ21で駆動される。
【0021】
サーボモータ21は、略L字形状のブラケット22を介してサイドフレーム11間に支持されている。サーボモータ21の出力軸21Aは、サーボプレス1の前後方向に沿って突出しており、出力軸21Aに設けられた駆動側のプーリ23と前記従動側のプーリ19に巻回されたベルト24により動力が伝達される。
【0022】
また、スライド3の背面側には、上下2箇所からサイドフレーム11間に向けて後方に突出した一対のブラケット25が取り付けられており、上下のブラケット25間には、リニアスケール等の位置検出器26を構成するロッド27が取り付けられている。このロッド27には、スライド3の上下位置を検出するためのスケールが設けられており、同じく位置検出器26を構成する位置センサ28に上下動自在に嵌挿されている。位置センサ28は、一方のサイドフレーム11に設けられた補助フレーム29に固定されている。
【0023】
補助フレーム29は、上下方向に縦長に形成されており、下部がボルト31によりサイドフレーム11に取り付けられ、上部が上下方向に長い長孔内に挿入されたボルト32により上下方向に摺動自在に支持されている。このように補助フレーム29は、上下いずれか一方側(本実施形態では下側)のみがサイドフレーム11に固定され、他方側が上下動自在に支持されているため、サイドフレーム11の温度変化による伸縮の影響を受けないようになっている。これにより、前記位置センサ28は、サイドフレーム11のそのような伸縮の影響を受けずに、スライド位置およびダイハイト位置を正確に検出可能としている。
【0024】
一方、スライド3のスライド位置およびダイハイトは、スライド3内に設けられたスライド位置調整機構33によって調整される。スライド位置調整機構33は、図3にも示すように、ねじ軸7の球体部7Aの外周にピン7Cを介して取り付けられたウォームホイール34と、ウォームホイール34と噛合するウォームギア35と、ウォームギア35の端部に取り付けられた入力ギア36と、入力ギア36に噛合する出力ギア37を有したインダクションモータ38とで構成される。インダクションモータ38は、軸方向長さが短いフラット形状とされ、コンパクトに構成されている。
【0025】
コントロールパネル6は、スライドモーションを設定するための各種データを入力するものであり、モーションデータを入力するためのスイッチやテンキー、およびこれらの入力データや設定完了し登録された設定データ等を表示する表示器を有している。表示器としては、透明タッチスイッチパネルを液晶表示器やプラズマ表示器等のグラフィック表示器を前面に装着した、所謂タッチパネル付きのプログラマブル表示器が採用されている。なお、このコントロールパネル6は、予め設定されたモーションデータを記憶したICカード等の外部記憶媒体からのデータ入力装置、または無線や通信回線を介してデータを送受信する通信装置を備えていてもよい。
【0026】
本実施形態のコントロールパネル6では、成形条件に合った加工パターン、すなわちスライド制御パターンを回転、反転、往復(下死点通過往復)、および反転往復(上死点通過往復)の4種類から選択し、設定可能となっている。また、加工パターンに応じてスライド3の高さ位置を位置検出器26の実際の検出値で表示させるか、後述する演算によって算出された値を表示させるかが、モーションデータとして指定される。
【0027】
制御パターン中の「回転」パターンとは、従来のプレス機械のパターンと同様、メインシャフト10を正回転側にのみに回転させることで実現するものであり、ワークに対する1ショットの動きについて、スライド3を上死点から始動させ、下死点を通過させて再び上死点まで到達させるモーションである。
【0028】
「回転往復」パターンとは、ワークに対する1ショットの動きについて、やはりスライド3を上死点から正回転側へ始動させ、下死点手前の加工終了位置で停止させた後、この位置から逆回転側に回転させて上死点まで戻し、次のワークに対する1ショットの動きについて、スライド3を上死点から逆回転側へ始動させ、下死点手前の加工終了位置で停止させた後、この位置から正回転側に回転させて上死点まで戻すモーションである。つまり、メインシャフト10は、ワーク毎に正逆転が交互に繰り返される。
【0029】
以上のパターンはいずれも、スライドを上死点から始動させるパターンである。これに対して「反転」パターンおよび「往復」パターンは、スライドを上死点からずれた待機位置から始動させるパターンであり、本発明は、このようなパターンの実施に際して問題となっていたスライド3の高さ調整やダイハイト調整を解決するためのものであるから、本発明を理解するためにも、そのような制御パターンについては、以下に詳説する。
【0030】
図4の(A)には、連続してプレス加工される2つのワークに対する「反転」パターン時のスライド3の動きが示されている。(B)には、その祭のスライド3の時間tの経過に対応したスライド位置P、すなわちスライドモーションが示されている。(C)には、時間tの経過に対応したメインシャフト10の回転方向がタイムチャートとして示されている。
【0031】
「反転」パターンでは、スライド3の始動は、上死点(0°)ではなく、メインシャフト10のエキセン部10Aのクランク角度にして、上死点から正回転側へ角度θずれた待機位置から行われる。そして、メインシャフト10を正転側に回転させることでスライド3を下降させ、下死点(180°)まで下降させるか、または下死点手前で加工が終了する場合にはその位置まで下降させて瞬間的に停止させ、この下降位置からメインシャフト10を逆回転側に切り換えて駆動し、元の角度θの待機位置まで戻し、これを繰り返す。
【0032】
図5の(A)〜(C)には、「往復」パターン時のスライド3の動き、スライドモーション、メインシャフト10の回転方向に関するタイムチャートが示されている。
「往復」パターンでも、スライド3の始動は、上死点(0°)ではなく、メインシャフト10のエキセン部10Aのクランク角度にして、上死点から正回転側へ角度θずれた待機位置から行われる。そして、メインシャフト10を正転側に回転させることでスライド3を下降させ、下死点(180°)を通過させた後、上死点から角度−(マイナス)θずれた位置までスライド3を上昇させて、1つのワークに対するプレス加工を終了し、この角度−θの位置を次のワークのための待機位置として待機させる。
【0033】
次のワークに対しては角度−θにあるスライド3を、メインシャフト10を逆転側に回転させて下降させ、下死点(180°)を通過した後、上死点から角度θずれた元の待機位置まで上昇させて、2つ目のワークに対するプレス加工を終了し、これを繰り返す。
【0034】
なお、図4および図5では、サーボ制御にてサーボモータ21の回転の角速度を変えることで、下死点へ向けて下降する方のスライド速度を遅く、上死点へ向けて上昇する方のスライド速度を速く設定している。勿論、サーボモータ21を等速回転させれば、スライドモーションをサインカーブのように設定できることは言うまでもない。
【0035】
このようなスライド制御パターンは、コントロールパネル6を操作して入力されるが、以下には、コントロールパネル6が接続された制御装置40について説明する。
図6は、制御装置40の主要な構成を示すブロック図である。図6において、制御装置40は、スライド3駆動用のサーボモータ21をフィードバック制御により制御したり、スライド位置調整機構33のインダクションモータ38を制御したりする装置であって、詳細図示による説明は省略するが、マイクロコンピュータや高速数値演算プロセッサ等を主体に構成され、決められた手順に従って入力データの算術・論理演算を行うコンピュータ装置と、指令電流を出力する出力インタフェースとを備えて構成されている。
【0036】
そして、本実施形態での制御装置40には、モーション設定部41、スライド位置指令演算部42、第1指令演算部43、上死点検出部44、パルスカウンタ45、スライド位置調整部46、および第2指令演算部47が形成されている。また、制御装置40は、ROM、RAM等の適宜な記憶媒体で構成された記憶手段51を備えている。
【0037】
そして、このような制御装置40には、前述のコントロールパネル6の他、スライド3の高さ位置を検出するリニアスケール等の前述した位置検出器26、メインシャフト10の回転角度を検出するクランクエンコーダ等の角度検出器52、およびインダクションモータ38が接続され、また、サーボモータ21がサーボアンプ53を介して接続されている。
【0038】
制御装置40のモーション設定部41は、コントロールパネル6により選択、設定された制御パターンと、この制御パターンに対応するモーションデータとに基づき、制御実行用の時間tとスライド位置Pとの関係を示すモーションデータを決定し、記憶手段51内のモーションデータ記憶部54に格納する。
【0039】
スライド位置指令演算部42は、モーション設定部41で決定した制御パターンに応じて、メインシャフト10の正回転時および逆回転時、すなわちサーボモータ21の正回転時および逆回転時のそれぞれのモーションに沿ってスライド3が正確に移動するように、所定のサーボ演算周期時間t毎のスライド位置Pの目標値を前記モーションに基づき演算により求める。そして、求めたスライド位置目標値を第1指令演算部43に出力する。
【0040】
第1指令演算部43は、前記スライド位置指令演算部42からのスライド位置目標値と、位置検出器26により検出したスライド位置との偏差を小さくするように、当該偏差に基づきサーボモータ21用のモータ速度指令を演算し、サーボアンプ53に出力する。なお、このモータ速度指令の演算時に用いる位置偏差ゲインは、記憶手段51内のモータ/スライド関係データ記憶部55に格納されたスライド位置とモータ回転角度との関係データを参照して、スライド位置に応じて補正される。
【0041】
上死点検出部44は、サーボプレス1を起動させた際に上死点を検出してスライド3を上死点に移動させ、上死点でのスライド位置を位置検出器26にて検出する機能を有している。
パルスカウンタ45は、パルス出力タイプのクランクエンコーダを採用している本実施形態の角度検出器52においては、角度検出器52から出力されるパルスの出力数をカウントし、記憶手段51内のパルス数記憶部56に格納する。
【0042】
スライド位置調整部46は、金型を取り付けた状態でのワークの試し打ちを行う場合など、スライド位置を自動またはインチング操作により手動にて追い込み調整する場合等に機能すものであり、スライド位置調整方法決定部57および移動量演算部58を有している。
【0043】
スライド位置調整方法決定部57は、スライド位置の調整を自動で行うか、手動で行うかをオペレータの入力に基づいて決定する機能を有する。
移動量演算部58は、自動調整によりダイハイトを変更するような場合において、コントロールパネル6から入力される所望のダイハイトの値に基づき、スライド3の現在位置からの移動量を演算するとともに、移動量に基づいたスライド位置目標値を第2指令演算部47に出力する。
【0044】
第2指令演算部47は、移動量演算部58からのスライド位置目標値に基づいてスライド3を目標位置に移動させるよう、インダクションモータ38に対して指令電流を出力する。また、手動調整によりダイハイトを調整するような場合には、コントロールパネル6に設けられた操作ボタン(不図示)の操作に基づく指令電流を生成し、インダクションモータ38に出力してスライド3を移動させる。なお、スライド3移動後のダイハイトは、コントロールパネル6に表示される。
【0045】
以下には、上述した各機能部のうち、上死点検出部44および移動量演算部58について、図7、図8を参照し、さらに詳細に説明する。
スライドが常に上死点から始動するプレス機械では、上死点がスライドの待機位置であるから、改めて上死点を検出するまでもない。これに対して、上死点から所定角度θずれた位置を待機位置に設定可能な本実施形態のサーボプレス1では、待機位置に待機した状態においての位置検出器26の検出値は、上死点にある時の検出値とは異なる。
【0046】
従って、現状設定されているダイハイトは一般に、上死点でのスライド3の位置を位置検出器26で検出し、その値を基準として、そこから固定値であるクランク半径の2倍の値を減算することで算出できるが、角度θだけずれた位置に待機している場合には、待機位置での位置検出器26の検出値から単純にクランク半径の2倍を減算したのでは、現状設定されているダイハイトを求めることはできない。
【0047】
そして、現状設定されているダイハイトは、ダイハイトを変更する際の基準となり、現状設定されているダイハイトからのスライド3の移動量を演算することで、その移動量に基づいて新たなダイハイトに調整されることから、現状設定されているダイハイトを正確に検出することは重要であり、そのためにスライド3を一旦上死点に移動させ、位置検出器26による検出に基づいて現状のダイハイトを算出することは重要である。
【0048】
また、現状のダイハイトが正確に算出され、変更したい新たなダイハイトとの差分により移動量が算出されるが、スライド3を角度θずれた待機位置から移動させる場合には、ダイハイト同士の差分により算出された移動量に従いそのまま移動させたのでは、やはり新たなダイハイトを正確に設定することはできない。
【0049】
そこで、本実施形態では、上死点検出部44にてスライドを上死点に位置させて現状のダイハイトを正確に算出するとともに、スライド3を角度θずれた待機位置から移動させる場合でも、移動量演算部58により適正な移動量を算出し、その移動量に従って移動させることで、新たなダイハイトへの調整を正確に行えるようにしてある。
【0050】
図7に示す説明図において、上死点検出部44は、サーボプレス1が起動されると、メインシャフト10での任意の角度で停止しているスライド3に対して、角度検出器52での検出値が0°となるようにサーボモータ21を制御し、メインシャフト10を正回転させる。しかし、この0°の位置が正確な上死点からずれている(例えば角度θ1)可能性を否定できないため、先ず、0°でのスライド位置を位置検出器26で検出し、この検出値に対して所定の値を加算して目標位置xmmを決定し、スライド3が実際に目標位置xmmに到達するまでメインシャフト10を駆動する(ステップ1:以下、ステップをSと略す)。
【0051】
次いで、メインシャフト10を逆回転させ、逆回転側にて同じスライド位置である目標値xmmまで到達させる。この際、メインシャフト10の逆転開始から停止までの間、角度検出器52から出力されるパルス数をパルスカウンタ45にてカウントしておき、パルス数記憶部56に記憶しておく(S2)。
【0052】
この後、記憶されたパルス数の1/2(半分)のパルス数分だけ、メインシャフト10を正回転させ、パルス数が規定の数に達した時点でメインシャフト10を停止させる。このことにより、メインシャフト10を停止させた時点でのスライド3の位置が正確な上死点として検出される(S3)。
【0053】
なお、1パルス当たりのメインシャフト10の角度は十分小さいので、S1にて記憶されたパルス数が奇数のとき、それを1/2にした際のパルス数の0.5パルス分については切り上げても、あるいは切り捨ててもよい。より精度を上げたいときには、1パルス当たりのメインシャフト10の角度を1/2した値を加味すればよい。
【0054】
図8に基づいて移動量演算部58について詳説する。図8に示す説明図において、(A)はスライド3の待機位置が上死点から角度θずれた位置に設定されている場合であり、現状の設定としてダイハイトDH1を要する金型が使用されている。このような設定下では、制御パターンとして「反転」パターンまたは「往復」パターンが選択される。
一方の(B)は、新たにダイハイトDH2を要する金型を使用する場合の設定であり、やはり待機位置が上死点から角度θずれた位置に設定され、制御パターンとして「反転」パターンまたは「往復」パターンが選択される。
【0055】
ここで、図中の記号を以下の通りとした場合、(A)と(B)との間には、式(1)〜式(6)の関係が成立し、両者のダイハイトの差であるXは式(7)に示すように、角度θ、ダイハイトDH1、および角度θの待機位置でのスライド移動量eの関数で表すことができる。
【0056】
r :クランク半径(mm) … 固定値
L :ボルスタ上面からクランク中心までの距離(mm) … 固定値
S :スライド下面からポイント中心までの距離(mm) … 固定値
θ :クランク角度(deg) … 実測値
DH1:調整前のダイハイト(mm) … 実測値
【0057】
e :ダイハイト調整時のスライド移動量(mm) … 計算値
C1 :ねじ軸を含む調整前のコンロッドの長さ(mm) … 計算値
C2 :ねじ軸を含む調整後のコンロッドの長さ(mm) … 計算値
S1 :調整前での待機位置と下死点とのスライド位置の差(mm) … 計算値
S2 :調整後での待機位置と下死点とのスライド位置の差(mm) … 計算値
X :調整前後のダイハイトの差で、コンロッド伸縮量(mm) … 計算値
DH2:調整後のダイハイト(mm) … 計算値
【0058】
なお、cosθの値は、記憶手段51のテーブル記憶部59の内部に、単位角度(1°)あたりの三角関数に相当するテーブルを持つことにより、固定値とされている。テーブルとしては90°までとし、91°〜359°は計算により求める。角度θは、角度検出器52での実測値であり、スライド移動量eは、位置検出器26での実測値である。
【0059】
C1−C2+S2=S1+e …(1)
S1=r+C1+rcosθ−(C12−r2+r2cos2θ)1/2 …(2)
S2=r+C2+rcosθ−(C22−r2+r2cos2θ)1/2 …(3)
ここで、式(2)および式(3)は、クランクの一般式である。
【0060】
式(1)、式(2)、式(3)からS1,S2を消去してeを求める。
e=(C12−r2+r2cos2θ)1/2−(C22−r2+r2cos2θ)1/2 …(4)
式(4)をC2について解く。
C2={(−e+(C12−r2+r2cos2θ)1/2)2+r2−r2cos2θ}1/2 …(5)
【0061】
ここで、
C1=L−r−S−DH1 …(6)
であるから
X=C1−C2=f(θ,DH1,e) …(7)
となり、Xはθ、DH1、eの関数で表すことができる。
なお、DH2=DH1+Xである。
【0062】
従って、上死点から角度θずれた待機位置にスライド3を待機させた状態において、金型を変更してダイハイトをDH1からDH2へ変更調整する場合には、始めに上死点検出部44の機能により得られる上死点でのスライド位置を、位置検出器26で検出して調整前のダイハイトDH1を算出しておく。
【0063】
次いで、そのDH1を式(6)に代入して調整前のコンロッド長さC1を算出する。L、r、Sはそれぞれ固定値である。所望するダイハイトDH2とダイハイトDH1の差Xがコンロッド伸縮量に等しいから、C1およびXが求められることで、式(7)からは調整後のコンロッド長さC2を算出することが可能である。そして、C1、C2により、式(4)からは、角度θずれた待機位置で移動させるべきスライド移動量eを算出することができる。
【0064】
なお、スライド3の駆動機構とスライド3との繋ぎ部分をポイントと呼んでいる。本実施形態では、コンロッド9とスライド3との繋ぎ部分になるが、コンロッド9とスライド3との間にプランジャを有するプレス機械では、プランジャとスライドとの繋ぎ部分がポイントである。
従って、本実施形態では、ポイント中心Pcとは、球面継手の球面中心のことである(図2)。また、コンロッド9の長さC1,C2は、メインシャフト10のエキセン部10Aでの軸中心Ec(図2)から前記ポイント中心Pc迄の距離を指している。
【0065】
つまり、そのスライド移動量eを求める演算を行うのが、移動量演算部58である。また、上死点から角度θずれた待機位置にスライド3を待機させたまま、スライド3をスライド移動量eだけ移動させることが、ダイハイトをDH1からDH2へ正確に調整することになる。
【0066】
図9〜図13のフローチャートに基づき、現状使用されている金型でのスライド3の上死点位置を上死点検出部44にて検出し、これに基づいてダイハイトDH1を算出する方法、および移動量演算部58によりスライド移動量eを演算し、これに基づいてダイハイトをDH1からDH2へ変更する方法について説明する。
【0067】
ただし、以下の説明は、ダイハイトDH1を要する金型を、ダイハイトDH2を要する金型に交換した直後の状態からの説明とする。また、交換後の金型を用いた場合の制御データは既に入力されているものとする。
【0068】
図9において、制御装置40に電源を投入し(S1)、サーボプレス1を起動させると、角度検出器52での検出値からスライド3が上死点にあるか否かを判断する(S2)。上死点にないと判断されると、サーボモータ21を駆動して上死点へ低速で移動させる(S3)。上死点へ移動した後、または、S2にて上死点に位置していると判断された場合には、偏心軸であるメインシャフト10を正回転側へ低速で回転させる(S4)。メインシャフト10の正回転を、スライド位置が所定の高さxmm(図7)に到達するまで継続する(S5,S6)。
【0069】
スライド位置が所定の高さxmmに到達し、メインシャフト10を停止させた時点でパルスカウンタ45でのカウント数をリセットする(S7)。次いで、メインシャフト10を逆回転側へ低速で回転させ、これと同時にパルスカウンタ45による角度検出器52からのパルス数のカウントを開始する(S8)。メインシャフト10の逆回転を、スライド位置が上死点を通過した逆回転側での所定の高さxmmに到達するまで継続し(S9,S10)、パルス数PNをパルス数記憶部56に記憶する(S11)。
【0070】
スライド位置が逆回転側での所定の高さxmmに到達し、メインシャフト10を停止させた時点でパルスカウンタ45でのカウント数をリセットする(S12)。この位置から再びメインシャフト10を低速で正回転させ、同時にパルスカウンタ45でのパルスカウントを開始する(S13)。このメインシャフト10の回転を、カウントされたパルス数が前記のパルス数PNの半分(1/2)に達するまで継続する(S14,S15)。以上により、上死点がより正確に検出されるとともに、この上死点にスライド3が位置することになる。
以上が、主に上死点検出部44の機能により実行されるステップである。
【0071】
次いで、スライド3の位置調整を行う。スライド位置調整部46は先ず、スライド調整方法を設定する。コントロールパネル6からは予め、今から行うプレス加工がいずれの制御パターンで行われるかが設定されており、「反転」パターンおよび「往復」パターンでは方法1が、「回転」パターンおよび「反転往復」パターンでは方法2が自動的に設定される(S16)。
【0072】
この後、位置検出器26によるスライド位置の実測により、上死点にスライド3を位置させた状態でのボルスタ5上面からスライド3下面までの距離OH1を算出し、この距離OH1からクランク半径rの2倍を減算して現状設定されているダイハイトDH1を算出する(S17,S18)。
【0073】
そして、プレス稼動のステップに入る。スライド位置調整部46は、スライド駆動の駆動指令の有無を監視しており(S19)、コントロールパネル6からの駆動指令の入力を認めると、スライド3を駆動する(S20)。この時点で、スライド駆動を終了させる場合など、サーボプレス1の停止指令の入力を認めると、サーボプレス1を停止させる(S21,S22)。
【0074】
S18にて始めからスライド3を駆動をしない場合、コントロールパネル6からのスライド3の調整指令を監視する(S23)。通常、スライド3を駆動しながらスライド位置を調整しないため、S19に続いてS23が実行される。調整指令の入力を認めると、前述したスライド調整方法1,2が判定される(S24)。
【0075】
ここでは、スライド調整方法としては「方法1」が設定されているものとする。つまり、スライド3の待機位置が上死点から角度θずれた位置にある場合であり、「反転」パターンまたは「往復」パターンで駆動される場合である。スライド位置調整部46は、スライド3を待機位置である角度θの位置に移動させ、停止させておく(S25)。この際の角度θは、使用する金型に対応させて予め記憶されているモーションデータから読み込まれる。
【0076】
次に、スライド位置調整方法決定部57は、スライド位置の調整を自動で行うか手動で行うかを決定する(S26)。その決定は、コントロールパネル6上でのオペレータによる選択結果に基づいて行われる。
【0077】
自動でスライド位置を調整する場合、オペレータはコントロールパネル6上から所望するダイハイトDH2の値を入力する(S27)。すると、現在のスライド位置Saが位置検出器26により検出され(S28)、この後、前述したように、移動量演算部58によりスライド移動量eを演算する(S29)。さらに、現在のスライド位置Saに対してスライド移動量eを加算して調整後のスライド位置目標を決定する。
【0078】
第2指令演算部47は、スライド位置目標に基づいてインダクションモータ38に電流を供給し、コンロッド9を伸縮させてスライド3を移動させる(S30)。スライド3の移動中においては、変化するスライド位置Sbを位置検出器26から逐一取得し、スライド位置Sbが位置目標に達したか、つまり移動量がeに達したかを監視する(S31)。
【0079】
スライド位置が目標位置に達した時点でスライド位置の調整が終了し(S32)、コントロールパネル6には、調整後の新たなダイハイトDH2を表示させるとともに(S33)、現状のダイハイトDH1としてDH2の値に書き換える(S34)。この後、S19に戻ってスライド駆動を行う。ここでのダイハイトDH2は、演算により求められた値である。
【0080】
ところで、スライド駆動を行った結果、ダイハイトをさらに調整する必要が生じた場合には、S20、S22、S23、S24、S25と進み、S26にて手動でのスライド位置調整が選択される。手動調整では最初に、現在のスライド位置Saを位置検出器26により検出する(S35)。オペレータによるスライド調整釦の操作状態を監視し(S36)、釦が操作されている間は、第2指令演算部47から電流を供給し、コンロッド9を伸縮させてスライド3を移動させる(S37,S38,S39)。
【0081】
スライド3の移動後、位置検出器26にて移動後のスライド位置Sbを検出し(S40)、移動量演算部58がSaとSbとの差分により、実際の移動量eを算出する(S41)。さらに、角度θ、手動調整前に書き換えられたダイハイトDH1、および移動量eに基づいてコンロッド9の伸縮量Xを演算し(S42)、この伸縮量XにダイハイトDH1を加算して新たなダイハイトDH2を算出し(S43)、このダイハイトDH2をコントロールパネル6に表示させる(S44)。ここでのダイハイトDH2も演算により求められた値である。
【0082】
また、ダイハイトDH1の値をDH2に置き換えるとともに、スライド位置Saの値をSbに置き換える(S45)。この後、スライド3を駆動せずに再度スライド位置を手動で調整したい場合には、調整の継続を指示する(S46)。こうすることで、S36に戻り、始動調整を繰り返すことが可能である。これに対して、スライド駆動を再度行ってスライド位置を調整するか否かを決定したい場合には、S46にて一旦スライド位置調整を終了させ、S19に戻す。
【0083】
ところで、スライド3の待機位置としては、角度θずれた位置に設定されている場合でも、ダイハイトの変更に伴うスライド調整を、従来と同様にスライド3を上死点に移動させて行うことも可能である。また、制御パターンとして「回転」または「反転往復」が選択された場合も、上死点が待機位置となることから、スライド3を上死点に移動させてスライド調整を行う必要がある。以下には、そのような場合のスライド位置の調整について説明する。図9のS24では、方法2が選択される。
【0084】
先ず、スライド3を上死点に停止させる(S47)。スライド位置調整方法決定部57は、スライド位置の調整を自動で行うか手動で行うかを決定する(S48)。自動調整が選択された場合、オペレータはコントロールパネル6上から所望するダイハイトDH2の値を入力する(S49)。すると、現在のスライド位置Saが位置検出器26により検出され(S50)、この後、インダクションモータ38によりコンロッド9が伸縮してスライド3を移動させる(S51)。
【0085】
スライド3の移動中においては、変化するスライド位置Sbを位置検出器26から逐一取得し(S52)、スライド位置Sa,Sbの差分が調整前後のダイハイトDH1,DH2の差分と同じか否かを監視し(S53)、同じになった時点で移動を停止する(S54)。コントロールパネル6には、調整後の新たなダイハイトDH2を表示させるとともに(S55)、現状のダイハイトDH1としてDH2の値に書き換える(S56)。この後、S19に戻ってスライド3を駆動する。この際のダイハイトDH2は、三角関数に係るテーブルを使用しないで求められた実測値である。
【0086】
続いて手動調整である。手動調整では方法1と同様に、現在のスライド位置Saが位置検出器26により検出される(S57)。オペレータによるスライド調整釦の操作状態を監視し(S58)、釦が操作されている間は、第2指令演算部47から電流を供給し、コンロッド9を伸縮させてスライド3を移動させる(S59,S60,S61)。
【0087】
スライド3の移動後、位置検出器26にて移動後のスライド位置Sbを検出し(S62)、移動量演算部58がSaとSbとの差分を調整前のダイハイトDH1に加算し、これを調整後のダイハイトDH2とするとともに(S63)、ダイハイトDH2をコントロールパネル6に表示する(S64)。このダイハイトDH2も実測値である。
【0088】
また、ダイハイトDH1の値をDH2に置き換える(S65)。この後、スライド駆動を行わずに再度スライド位置を手動で調整したい場合には、調整の継続を指示する(S66)。こうすることで、S58に戻り、始動調整を繰り返すことが可能である。これに対して、スライド駆動を再度行ってスライド位置を調整するか否かを決定したい場合には、S66にて一旦スライド位置調整を終了させ、S19に戻す。
【0089】
以上説明したように、スライド3の待機位置として、上死点から角度θずれた位置に設定された場合には、スライド3をわざわざ上死点に移動させた状態にしてダイハイト変更に伴うスライド位置を調整する必要がなく、スライド3の移動、すなわちダイハイトの変更を正確かつ迅速にできる。また、コンロッド9の伸縮量を直接検出している訳ではないので、そのような検出器が不要であり、経済的である。
【0090】
加えて、ダイハイト調整を行うに際しては、上死点を正確に検出するので、調整前に使用していた金型でのプレス加工中において、上死点に多少のずれが生じた場合でも、上死点を正確に検出してダイハイトDH1を適正な値に変更でき、その後のスライド移動をより正確に行える。
【0091】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば前記実施形態では、スライド3が1つのコンロッド9にて吊設されたワンポイント式であったが、2つのコンロッド9で吊設されるツーポイント式であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、電動サーボプレスに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1…プレス機械であるサーボプレス、2…スライド、5…ボルスタ、9…コンロッド、10A…エキセン部、10…メインシャフト、21…サーボモータ、40…制御装置、58…移動量演算部、DH1…ダイハイト、DH2…ダイハイト、e…スライド移動量、L…距離、r…クランク半径、S…距離、Sa,Sb…スライド位置、X…ダイハイトの差分でありコンロッドの伸縮量、θ…クランク角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドと、
前記スライドの下方に設けられたボルスタと、
前記スライドに球面継手を介して下端が連結された伸縮自在なコンロッドと、
前記コンロッドの上端が連結されたエキセン部を有するメインシャフトと、
前記メインシャフトを駆動するサーボモータと、
前記サーボモータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、上死点から所定のクランク角度ずれた待機位置に前記スライドが待機している状態でのスライド移動量を、前記スライドの高さ位置調整に際して与えられる調整前のダイハイトの実測値と、調整後のダイハイトの所望値と、前記クランク角度と、前記ボルスタの上面および前記エキセン部のクランク中心間の距離と、前記エキセン部のクランク半径と、前記スライドの下面からポイント中心までの距離とに基づき、前記調整前後のダイハイトの差分に対応させて算出する移動量演算部を有している
ことを特徴とするプレス機械。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス機械において、
前記移動量演算部は、上死点から所定のクランク角度ずれた待機位置に前記スライドが待機している状態でのスライド移動量を、前記スライドの高さ位置調整前のスライド位置の実測値と、位置調整後のスライド位置の実測値の差分から算出するとともに、
前記スライド移動量と、前記スライドの高さ位置調整に際して与えられる調整前のダイハイトの実測値と、前記クランク角度とに基づいて、位置調整後のダイハイトを算出する
ことを特徴とするプレス機械。
【請求項3】
スライドと、
前記スライドの下方に設けられたボルスタと、
前記スライドに球面継手を介して下端が連結された伸縮自在なコンロッドと、
前記コンロッドの上端が連結されたエキセン部を有するメインシャフトと、
前記メインシャフトを駆動するサーボモータと、
前記サーボモータを制御する制御装置とを備えたプレス機械のスライド位置調整方法であって、
前記制御装置は、上死点から所定のクランク角度ずれた待機位置に前記スライドが待機している状態でのスライド移動量を、前記スライドの高さ位置調整に際して与えられる調整前のダイハイトと、調整後のダイハイトと、前記クランク角度と、前記ボルスタの上面および前記エキセン部のクランク中心間の距離と、前記エキセン部のクランク半径と、前記スライドの下面からポイント中心までの距離とに基づいて、前記調整前後のダイハイトの差分に対応させて算出し、算出された前記スライド移動量で前記スライドを移動させる
ことを特徴とするプレス機械のスライド位置調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−31853(P2013−31853A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167780(P2011−167780)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(394019082)コマツ産機株式会社 (103)
【Fターム(参考)】