説明

プレス機械

【課題】 本発明の目的は、プレス加工の精度を十分に確保しながら、全高を低くできるプレス機械を提供すること。
【解決手段】 エキセン軸33のエキセンドラム333の外周に、外周が内周に対して偏心した回転リング34を設ける。回転リング34の外周に、外周が内周に対して偏心した調整用リング41を設け、この調整用リング41の外周にスライド5を取り付ける。スライド5とスライド駆動装置30とがほぼ同じ高さに重なって配置されるので、スライド駆動装置30からスライド5の下端までの距離を短くでき、サーボプレス1の全高を低くできる。また、調整用リング41を回動させることにより、スライド5の高さ位置を微調整できるので、プレス加工を高精度に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械に関し、特に、例えば板金などの高い精度が要求されるプレス加工を行うプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス機械としては、クランク軸の回転運動をスライドの昇降動に変換して鍛造を行う鍛造プレス装置がある(例えば、特許文献1参照)。この鍛造プレス装置は、クランク軸が貫通された揺動杆を有し、揺動杆の上端が軸杆によりスライドに回動自在に支承されている。また、揺動杆の下端には軸杆を中心とする円弧状面が形成され、円弧状面にライナを介してスライドが接触配置されている。
この鍛造プレス装置では、クランク軸が回転すると揺動杆が軸杆を中心に揺動しながら、スライドを昇降動させる。このような構成によれば、クランク軸に従来のコンロッドを接続しコンロッドにスライドを取り付ける場合に較べて、クランク軸からスライドまでの距離を小さくできるので、鍛造プレス装置の全高を低くできる。
【0003】
【特許文献1】特開昭51−31975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の鍛造プレス装置では、揺動杆がスライドに取り付けられ、また揺動杆の円弧状面がライナを介してスライドに接触しているため、スライドの高さ位置を補正できない。ここで、鍛造プレス装置では、通常比較的高い精度を要求されないため問題とはならないが、例えば高い加工精度が要求される薄板のプレス加工や板金などでは、必要な精度を確保するためにスライドの高さを微調整する機能は不可欠となる。このため、高精度なプレス加工が必要なプレス機械において、プレス機械の全高を低くするために前述のような鍛造プレス装置のような構造を採用すると、スライドの高さが調整できず、プレス加工を高精度に行えないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、プレス加工の精度を十分に確保しながら、全高を低くできるプレス機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、偏心軸と、偏心軸外周に対して摺動可能に設けられ、外周が内周に対して偏心した偏心環状部材と、偏心環状部材の外周に設けられるスライドと、偏心環状部材に対するスライドの高さ位置を調整可能なスライド調整装置とを備えたことを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明のプレス機械において、スライド調整装置は、外周が内周に対して偏心し、内周が偏心環状部材の外周に対して摺動可能に設けられ、外周にスライドが取り付けられた調整用環状部材と、調整用環状部材を回動する調整用駆動装置とを備えたことを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明または第2の発明のプレス機械において、偏心軸と偏心環状部材との間、および偏心環状部材と調整用環状部材との間には、滑り軸受が介装されることを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、第1の発明または第2の発明のプレス機械において、偏心軸と偏心環状部材との間、および偏心環状部材と調整用環状部材との間には、転がり軸受が介装されることを特徴とする。
第5の発明は、第1の発明から第4の発明のいずれかのプレス機械において、偏心環状部材の外周の中心は、偏心軸の回転中心より鉛直方向上方に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、偏心軸に偏心環状部材が摺動可能に設けられ、偏心環状部材の外周にスライドが設けられているので、偏心軸を回転させると、偏心環状部材が偏心軸に対して回動しながら偏心軸の左右方向の動きを吸収し、スライドに上下方向の動きのみを伝達することにより、スライドを昇降動させる。従来の偏心軸にコンロッドを接続した構造とは異なり、コンロッドに相当する偏心環状部材が環状に構成されるので、より小さい高さ寸法で偏心軸の左右方向の動きが吸収され、偏心軸からスライドの下端までの距離が短くなる。したがって、プレス機械の全高が低減される。
【0010】
さらに、スライド調整装置が、偏心環状部材に対するスライドの高さを調整可能に構成されているので、スライドの高さの微調整が可能となる。したがって、従来とは異なり、スライドの全高の低減を実現しながらプレス加工を高精度に行えるので、例えば高い加工精度が要求される板金プレス加工など、より多様な成形加工に対応可能となり、プレス機械の汎用性が向上する。
【0011】
第2の発明によれば、調整用環状部材の外周が内周に対して偏心しているので、調整用駆動装置によって調整用環状部材を回動させると、偏心環状部材の外周とスライドの内周との距離が変化する。これにより、スライドが偏心環状部材に対して高さ方向に移動し、スライドの高さが調整される。
調整用環状部材によってスライドの高さを調整するので、スライドの高さを無段階に調整可能となる。また、調整用環状部材を回動させることで調整できるので、調整用環状部材の回動角度などを制御することでスライドの高さの調整量を容易に把握可能となり、スライドの高さの高精度な微調整が可能となる。
【0012】
第3の発明によれば、偏心軸と偏心環状部材との間、および偏心環状部材と調整用環状部材との間には、滑り軸受が介装されているので、これらの部材間の摺動動作が良好となり、スライドの動作が滑らかとなる。また、滑り軸受が介装されているので、これらの部材間の摩擦による摩耗が低減され、プレス機械の長寿命化が図れる。さらに、滑り軸受は構造が簡素であるから、偏心軸からスライドへの動力伝達機構の構造が簡素化し、プレス機械の製造、メンテナンスなどが容易となる。
【0013】
第4の発明によれば、偏心軸と偏心環状部材との間、および偏心環状部材と調整用環状部材との間には、転がり軸受が介装されているので、これらの部材間の摺動動作が良好となり、スライドの動作が滑らかとなる。また、転がり軸受が介装されているので、これらの部材間の摩擦が最小限に抑制され、摩耗が防止されるとともに、プレス機械の長寿命化が図れる。
【0014】
第5の発明によれば、偏心環状部材の内周の中心が、偏心軸の回転中心よりも鉛直方向上方に配置されるので、スライドの下死点付近でのスライドの速度が遅くなる。したがって、偏心環状部材の内周の中心が偏心軸の回転中心よりも鉛直方向下方に配置される場合に較べて、成形時により大きな成形荷重が得られるので、より高効率なプレス加工が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、後述する第二実施形態で、以下に説明する第一実施形態での構成部品と同じ部品および同様な機能を有する部品には同一符号を付し、説明を簡単にあるいは省略する。
【0016】
[第一実施形態]
図1には、本発明の第一実施形態に係るサーボプレス(プレス機械)1の全体図が示されている。この図1に示されるように、サーボプレス1では、4本の柱状のアプライト(2本のみを図示)2がベッド3の上面に立設され、このベッド3の上部に4本のアプライト2に囲まれる形でボルスタ4が載置されている。アプライト2の上部にはクラウン6が設けられている。そして、タイロッド61によってクラウン6、アプライト2、およびベッド3が串刺し状に締結されている。クラウン6には、スライド5が支承されており、さらにスライド5を上下動(昇降動)させるスライド駆動装置30が設けられている。
スライド駆動装置30によりスライド5が昇降動すると、ボルスタ4の上面に設けられる下型とスライド5の下面に設けられる上型との間でワークに対するプレス加工が施される。
【0017】
図2には、スライド駆動装置30の拡大図が、また図3には、スライド駆動装置30の拡大側断面図が示されている。これらの図2および図3に示されるように、スライド駆動装置30は、駆動源としてのサーボモータ31と、サーボモータ31からの回転を減速しながら伝達する減速機構32と、減速機構32からの回転動力により回転するエキセン軸(偏心軸)33と、エキセン軸33の回転により揺動する回転リング(偏心環状部材)34とを備えている。
スライド駆動装置30は、サーボプレス1の前後方向に2つ設けられており、一つのエキセン軸33には、回転リング34が2つずつ設けられている。したがって、本実施形態のサーボプレス1は、スライド5を4箇所で支持する4ポイントタイプとなっている。
【0018】
サーボモータ31は、クラウン6の側面外側に設けられている。したがって、サーボモータ31のメンテナンスのためクラウン6の上面に上る必要がないため、メンテナンス作業を容易にできる。
減速機構32は、サーボモータ31の出力軸に固定される小プーリ321と、クラウン6に回転自在に支持される大プーリ322と、小プーリ321および大プーリ322に掛け回されるベルト323と、大プーリ322に一体的に設けられた第一ピニオン324と、第一ピニオン324に噛み合うアイドラ325と、アイドラ325に噛み合う第一ギヤ326と、第一ギヤ326に一体的に設けられた第二ピニオン327とを備えている。第二ピニオン327は、エキセン軸33に固定される外周ギヤ331に噛み合っている。
【0019】
エキセン軸33は、二つに分割されており(図3では一つのみを図示)、両者の端部がカップリング332によって連結されている。分割されたそれぞれのエキセン軸33には、エキセンドラム333が一体的に形成されている。エキセンドラム333の軸方向両側は、クラウンフレーム62に取り付けられた軸受63に軸支されている。
なお、エキセン軸33は、二つに分割されている構造に限らず、分割されずに一本の偏心軸として構成され、一本の偏心軸に回転リング(偏心環状部材)が二つ取り付けられる構造であってもよい。
【0020】
回転リング34は、外周が内周に対して偏心した環状に形成され、内周がエキセンドラム333の外周にブシュ(滑り軸受)341を介して摺動可能に配置されている。エキセンドラム333と回転リング34との間にブシュ341が設けられているので、両者の摺動動作が良好となる。これにより、エキセンドラム333の外周および回転リング34の内周の摩耗を低減でき、スライド駆動装置30の耐久性を向上させることができる。回転リング34内周への給油は、エキセン軸33内部に形成された給油穴334からロータリコネクションを介して行われる。
なお、スライド5の上死点(図4(A)参照)または下死点(図4(C)参照)において、回転リング34の外周と内周との間の距離は、真下で最小となっている。このように、回転リング34の外周の中心Cが、エキセン軸33の回転中心Cよりも上方に配置される、いわゆるアンダドライブの配置により、スライド5の下死点付近において、回転リング34の外周と内周との間の距離の変化が小さくなるため、スライド5の移動速度を遅くできる。したがって、スライド5がワークを成形する領域での速度が遅くなるので、プレス成形を良好に行える。
【0021】
回転リング34の外周には、外周が内周に対して偏心した環状の調整用リング(調整用環状部材)41が配置されている。調整用リング41は、ブシュ(滑り軸受)342を介して回転リング34に取り付けられるため、回転リング34は、調整用リング41の内周に対して摺動しながら回動可能となっている。調整用リング41と回転リング34との間にブシュ342が設けられているので、両者の摺動動作が良好となる。これにより、回転リング34の外周と調整用リング41の内周との摩耗を低減でき、スライド駆動装置30の耐久性を向上させることができる。
回転リング34の下方には、内周から外周に貫通する給油穴34Aが形成されており、回転リング34の内周に供給された油が給油穴34Aを通って回転リング34の外周に供給される。
【0022】
ここで、スライド5の上死点において、エキセン軸33の回転中心Cからエキセンドラム333の中心Cまでの距離を距離A(図4(A)参照)とし、エキセン軸33の回転中心Cから回転リング34の外周の中心Cまでの距離を距離B(図4(A)参照)とすると、連桿比γはγ=B/Aで表される。連桿比γは、その値が大きいほど同一トルクでより大きな成形荷重が得られるが、その一方で連桿比γが大きいほどスライド駆動装置30全体の高さ寸法が大きくなる。このため、連桿比γは、必要な成形荷重値や、サーボプレス1の全高などの仕様を勘案して適宜設定されることが望ましい。
特に、本実施形態のスライド駆動装置30では、スライド5の上死点または下死点において回転リング34の内周の中心Cが外周の中心Cよりも鉛直方向下側に配置される、いわゆるアンダドライブの構造となっているので、サーボプレス1の全高を低くするために連桿比γを1に近づけると、下死点前後においてスライド5の下降速度を極低速のまま、あるいは巨視的に停止状態のまま保持できる、いわゆるドウェルモーションとなる。このため本実施形態のサーボプレス1は、連桿比γを1に近づけてサーボプレス1の全高を低くしながら、下死点付近での低速成形を実現できるから、プレス成形に有利となる。
【0023】
スライド5には、当該スライド5を調整用リング41の外周に取り付けるための取付部材51が形成されている。取付部材51は、エキセン軸33の軸方向に直交する面を有し、板状に形成され、回転リング34が設けられる位置に対応して一対設けられている。取付部材51の上部には、着脱可能な取付キャップ511が設けられており、ボルト512によって取付部材51に固定されている。
取付部材51と取付キャップ511とが接触する端面には、それぞれ略半円形状の切欠51A,511Aが形成されており、これらの切欠51A,511Aの内側に形成される円形状部分に、調整用リング41が配置される。なお、調整用リング41は、スライド5(取付部材51および取付キャップ511)に対して所定の摩擦力を持って摺動可能に配置されている。
【0024】
スライド5の取付部材51から取付キャップ511が分割可能となっているので、スライド5を調整用リング41に取り付ける際には、調整用リング41を取り付けたエキセン軸33を取付部材51の切欠51A上に上方から組み込み、取付キャップ511を被せてボルト512で固定すればよいので、取付作業を簡単にできる。
なお、それぞれの取付部材51には、二つのスライド駆動装置30の回転リング34が一つずつ取り付けられている。そして、二つのサーボモータ31が、互いに逆方向に回転することにより、スライド5の駆動バランスを保っている。
【0025】
また、スライド5が調整用リング41の外周に取り付けられているので、スライド5がエキセン軸33および回転リング34などのスライド駆動装置30を囲んだ位置に配置されている。これにより、従来コンロッドおよびプランジャを介してスライドを取り付けていた構造に較べて、スライド5がスライド駆動装置30とほぼ同じ高さ位置に配置されて一体型に構成されるため省スペース化を図れる。よって、スライド駆動装置30からスライド5の下端までの距離を短くでき、サーボプレス1の全高を低くできる。これにより、サーボプレス1を組み立てた状態での輸送も可能となり、組み立て作業をサーボプレス1の製造工場内で行うことができ、サーボプレス1の設置工事作業を短縮化できる。
【0026】
サーボプレス1の全高を低くできるので、サーボプレス1を収納する建物の高さが低くなるため、冷房費、暖房費などを節約できる。また、サーボプレス1の全高を低くできるので、タイロッド61を短く構成できる。したがって、サーボプレス1の剛性を向上させることができる。
さらに、エキセンドラム333の外周に回転リング34を取り付け、回転リング34の外周に調整用リング41を介してスライド5を取り付けるので、動力の伝達機構が全て円形または環状の部材で構成されるから、従来エキセン軸に棒状のコンロッドおよびプランジャを介してスライドを取り付ける構造に較べて、スライド駆動装置30の強度を向上させることができる。
【0027】
スライド5において、一対の取付部材51の間には、スライド案内部52がスライド5の外側面から突出して設けられている。スライド案内部52は、アプライト2に設けられたスライドギブ64に係合されており、スライド案内部52がスライドギブ64に沿って移動することにより、スライド5の昇降動が上下方向に拘束される。スライドギブ64が、左右のアプライト2間の中央寄りに配置されているので、スライドギブ64およびスライド案内部52を長く構成することができ、スライド5を高精度に昇降させることができる。
【0028】
調整用リング41の外周には、取付部材51および取付キャップ511が接触する部分以外の部分に歯車411が形成されている。この歯車411には、アイドラ421が噛合され、アイドラ421は、減速機42に接続され、この減速機42にはモータ(調整用駆動源)43が接続されている。アイドラ421、減速機42、およびモータ43を備えて、本発明の調整用駆動装置44が構成されている。
モータ43を駆動すると、減速機42によって適切な速度に減速された回転運動がアイドラ421を介して調整用リング41に伝達され、調整用リング41が回動する。したがって、調整用リング41とスライド5との接触面における摩擦力は、プレス加工中に回転リング34が揺動しても調整用リング41が回動しないような値に設定する必要があり、またモータ43の駆動力は、その摩擦力に打ち勝って調整用リング41を回動させることができる値に設定する必要がある。
なお、調整用リング41と、調整用駆動装置44とを備えて本発明のスライド調整装置40が構成されている。
【0029】
次に、サーボプレス1の動作について説明する。
図4には、エキセン軸33の回転によるスライド5の昇降動の様子が示されている。なお、図4では、理解を容易にするため、エキセン軸33、回転リング34、調整用リング41、およびスライド5を模式的に示している。
図4(A)に示されるようなスライド5の上死点の状態から、エキセン軸33を回転させると、図4(B)に示されるように、エキセン軸33の回転に伴ってエキセンドラム333が偏心回転する。このとき、回転リング34の外周は、調整用リング41およびスライド5によって左右方向の移動が規制されているため、回転リング34は、エキセンドラム333の回転とは逆方向に回動して左右方向の移動量を吸収する。一方回転リング34の上下方向の位置は、エキセンドラム333の偏心回転によって下がるため、スライド5全体は回転リング34の移動に伴って下降する。
さらにエキセン軸33を回転させると、図4(C)に示されるように、回転リング34がエキセンドラム333の回転方向と同じ方向に回動しながら、スライド5全体が下降し、下死点に達する。
【0030】
スライド5の高さ位置を調整する場合には、スライド調整装置40のモータ43を駆動して減速機42を介して調整用リング41を回動させる。
図5には、スライド調整装置40によるスライド5の高さ位置の調整の様子を示す。図5(A)では、調整用リング41は、外周と内周との間の距離が最小となる部分が真下となるように配置されている。この状態では、スライド5は、スライド調整装置40の高さ調整範囲のうち、一番高い位置に調整されている。モータ43を駆動して、図5(B)に示されるように調整用リング41を所定角度回動させると、調整用リング41の上方および下方における内周と外周との距離が変化する。つまり、調整用リング41の上方における内周と外周との距離は図5(A)よりも小さくなり、かつ調整用リング41の下方における内周と外周との距離は図5(A)よりも大きくなる。したがって、スライド5は、調整用リング41の外周に沿って全体的に下方に移動する。さらに調整用リング41を図5(C)に示される位置まで回動させると、スライド5はさらに下方に修正される。図5(C)の状態では、スライド5は、スライド調整装置40の高さ調整範囲のうち、一番低い位置に調整されている。
【0031】
スライド調整装置40によってスライド5の高さ位置を微調整できるので、高精度なプレス加工を行うことができ、例えば板金プレス加工など、高いプレス成形精度を要するプレス加工においても、良好な成形品が得られる。
また、スライド調整装置40が調整用リング41を回動させることによりスライド5の高さ位置を調整するので、スライド5の高さ調整を無段階に調整でき、高精度な高さ調整が行える。モータ43の駆動によりスライド5の高さ位置を調整できるので、モータ43の回転角度などを制御することにより、高さ調整を高精度に行える。
さらに、調整用リング41が環状に形成されているので、サーボプレス1の動作中にも調整用リング41を回動させることができ、スライド5の高さ位置の調整を行える。したがって、スライド5の高さの微調整のためにサーボプレス1を停止させる必要がないので、生産性を向上させることができる。
【0032】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態は、第一実施形態のサーボプレス1の回転リング34および調整用リング41の取付構造が第一実施形態と異なる他は、第一実施形態と同様である。
図6には、第二実施形態に係るサーボプレス1のスライド駆動装置30の拡大図が示されている。また図7には、スライド駆動装置30の拡大側断面図が示されている。これらの図6および図7に示されるように、スライド駆動装置30の回転リング34は、球面ころ軸受(転がり軸受)343を介してエキセンドラム333に取り付けられている。また、調整用リング41は、円筒ころ軸受(転がり軸受)344を介して回転リング34に取り付けられている。なお、球面ころ軸受343および円筒ころ軸受344の組み合わせは、傾き防止を考慮して採用されているが、その他任意の形式の転がり軸受およびこれらの組み合わせを採用できる。
【0033】
また、回転リング34は、スライド5の上死点または下死点において、回転リング34の外周と内周との間の距離は、真上で最小となっている。このように、回転リング34の外周の中心Cがエキセン軸33の回転中心Cよりも下方に配置される、いわゆるトップドライブの構造により、スライド5の昇降動の速度は上死点付近で遅くなり、この傾向は連桿比γが1に近づくほど顕著となる。
スライド調整装置40の調整用リング41は、第一実施形態とは異なり、アイドラ421を介さず直接減速機42に接続されている。
このような第二実施形態によれば、第一実施形態と同様に、エキセン軸33の回転に伴ってスライド5が昇降動し、プレス加工を行う。スライド5の高さ位置を調整する場合には、第一実施形態と同様に、モータ43を駆動することにより調整用リング41を回動させる。
【0034】
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、偏心軸と偏心環状部材との間の軸受または偏心環状部材と調整用環状部材との間の軸受は、第一実施形態のような両方滑り軸受のものや、第二実施形態のような両方転がり軸受のものに限らず、例えばいずれか一方に滑り軸受を設け、いずれか他方に転がり軸受を設けてもよい。
スライド調整装置の構成は、前述の各実施形態に示した調整用環状部材および調整用駆動装置を備えた構成のものに限らず、偏心環状部材とスライドとの間の上下方向の距離を調整可能な構成であればよい。
プレス機械は、スライドを4点で支持する4ポイントタイプのものに限らず、その他2ポイント、1ポイントなど、任意のタイプのものを採用できる。
【0035】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、単独のプレス機械として利用できる他、複数のプレス機械を連続配置するタンデムプレスや一つのプレス機械で複数加工工程を有するトランスファプレスにも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第一実施形態に係るプレス機械の全体図。
【図2】本発明の第一実施形態に係るプレス機械の一部拡大図。
【図3】本発明の第一実施形態に係るプレス機械の一部拡大側断面図。
【図4】本発明の第一実施形態に係るスライドの動きを示した図。
【図5】本発明の第一実施形態に係るスライド調整装置の動作を示す図。
【図6】本発明の第二実施形態に係るプレス機械の一部拡大図。
【図7】本発明の第二実施形態に係るプレス機械の一部拡大側断面図。
【符号の説明】
【0038】
1…サーボプレス(プレス機械)、5…スライド、30…スライド駆動装置、33…エキセン軸(偏心軸)、34…回転リング(偏心環状部材)、40…スライド調整装置、41…調整用リング(調整用環状部材)44…調整用駆動装置、333…エキセンドラム、341,342…ブシュ(滑り軸受)、343…球面ころ軸受(転がり軸受)、344…円筒ころ軸受(転がり軸受)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心軸(33)と、
前記偏心軸(33)外周に対して摺動可能に設けられ、外周が内周に対して偏心した偏心環状部材(34)と、
前記偏心環状部材(34)の外周に設けられるスライド(5)と、
前記偏心環状部材(34)に対する前記スライド(5)の高さ位置を調整可能なスライド調整装置(40)とを備えた
ことを特徴とするプレス機械(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス機械(1)において、
前記スライド調整装置(40)は、外周が内周に対して偏心し、前記内周が前記偏心環状部材(34)の外周に対して摺動可能に設けられ、前記外周に前記スライド(5)が取り付けられた調整用環状部材(41)と、
前記調整用環状部材(41)を回動する調整用駆動装置(44)とを備えた
ことを特徴とするプレス機械(1)。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプレス機械(1)において、
前記偏心軸(33)と前記偏心環状部材(34)との間、および前記偏心環状部材(34)と前記調整用環状部材(41)との間には、滑り軸受(341,342)が介装される
ことを特徴とするプレス機械(1)。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のプレス機械(1)において、
前記偏心軸(33)と前記偏心環状部材(34)との間、および前記偏心環状部材(34)と前記調整用環状部材(41)との間には、転がり軸受(343,344)が介装される
ことを特徴とするプレス機械(1)。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のプレス機械(1)において、
前記偏心環状部材(34)の外周の中心は、前記偏心軸(33)の回転中心より鉛直方向上方に配置される
ことを特徴とするプレス機械(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−255745(P2006−255745A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75394(P2005−75394)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(394019082)コマツ産機株式会社 (103)
【Fターム(参考)】