説明

プレス機械

【課題】プレス機械において、ボルスタの動的変形にスライド5を追従変形させるための機構を提案する。
【解決手段】駆動機構とスライド5とを連接する連接具10,20,30が、スライド5の長手方向に3箇所以上設けられると共に、当該複数の連接具10,20,30のうち、外側に位置する2つの連接具20,30(ネジ部中空)の圧縮剛性が、内側の連接具10(ネジ部中実)よりも低い。これにより、加工中のボルスタの動的変形に追従してスライド5が変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
プレス機械のスライドに関し、特に、駆動機構との連結構造に関する技術が以下に開示される。
【背景技術】
【0002】
ベッドに立設したコラムの間にスライドを上下往復運動可能に摺動支持すると共に、コラム上に設置したクラウン内の駆動機構によりスライドを駆動して上下動させるプレス機械が、金属薄板等のワークの成形加工に使用される。加工のための上下金型は、下金型がベッド上のボルスタに固定され、上金型がスライド下に固定される。
【0003】
このようなプレス機械において、稼働中、特許文献1の図1等に開示されるように、ボルスタが加工圧力によって動的に変形することが知られている。特に長尺のワークを加工する場合、ベッドに載置されたボルスタは、加工圧力によって長手方向の中央部が下方へ凹むように湾曲する。このようにボルスタが動的に変形する一方、スライドは、種々の制御機構により変形が抑制されるので、ボルスタの動的変形分、中央部分の加工精度に影響が出る。そこで、特許文献1の場合、各押付部(駆動機構との連接具)に、スライドに押付力を伝える連結機構を備え、この連結機構は、スライドを押し引き可能にガイドされた複数の連結部を備え、この各連結部は、水平方向に互いに間隔を隔てた箇所にてスライドに連結され、押付力は、連結機構を介して押付分力に分割され各連結部に伝達され、各連結部は、各押付分力が所定のつり合いに達するまでスライドを押し引きする、ことを特徴とするプレス機械のスライド構造を提供する。このスライド構造により、スライドがボルスタの変形に追従して変形し、加工精度を向上させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−42426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のスライド構造は、駆動機構との連接具である押付部に新たな機構を追加することで、ボルスタの動的変形に対するスライドの追従変形を可能にしている。その機構は、シーソー機構等の複雑な部材を要する機構であり、スライドに加圧力を伝える連結部が多数に増える構造のものである。機械式のプレス機械において可動部の機構が複雑になれば、それだけトラブルが発生し易くなるし、部品が多くなることはプレス機械のコストにも影響する。この点に鑑みると、ボルスタの動的変形にスライドを追従変形させるための、より簡単な機構がプレス機械において必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に対して提案するプレス機械は、ベッドと、該ベッドに立設されたコラムと、前記ベッド上のボルスタと、前記コラム上に設置されたクラウンと、前記コラム間に摺動支持されるスライドと、前記クラウン内に設けられ、前記スライドを往復運動させる駆動機構と、を含んで構成され、
前記駆動機構と前記スライドとを連接する連接具が、前記スライドの長手方向に3箇所以上設けられると共に、当該複数の連接具のうち、少なくとも最も外側に位置する2つの連接具の圧縮剛性が、その他の連接具よりも低い、プレス機械である。
【発明の効果】
【0007】
上記提案に係るプレス機械によると、スライドの複数箇所に設けられた連接具に関し、外側の連接具の圧縮剛性が内側の連接具の圧縮剛性よりも低くしてある。すなわち、スライドの変形に対し、内側の連接具は突っ張る力が強く、外側の連接具は突っ張る力が弱い。これによりスライドは、加工時の反力に対し、中央部よりも外側の方が変形し易くなる。したがって、加工圧力によってボルスタの中央部が下方へ凹むように動的変形したときに、当該ボルスタの動的変更に追従してスライドも変形することが可能となる。つまり、連接具の圧縮剛性を場所によって変えるだけで、ボルスタの動的変形にスライドが追従変形することの可能なプレス機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】プレス機械の実施形態を示した図。
【図2】実施形態に係るプレス機械における連接具の部分を断面で示した図。
【図3】ボルスタの動的変形に対するスライドの状態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、プレス機械の実施形態を側方から見て示している。
図示のプレス機械は、ベッド1にコラム2を立設し、該コラム2の上にクラウン3を設置したフレーム構造を有する。ベッド1の上には、下金型を固定するボルスタ4が載置される。コラム2は、ベッド1の上面四隅に4本立設されており、このコラム2の間にスライド5が摺動支持される。すなわち、各コラム2の内側には摺動面となるギブ6が設けられており、スライド5の角部がギブ6に当接して案内され、スライド5が上下に摺動する。クラウン3の内部には、クランクシャフト式、エキセントリックシャフト式などの図示せぬ駆動機構が設けられ、スライド5を上下に往復運動させる。本実施形態のプレス機械は、長尺のワークを成形加工するもので、横に長く(長手方向)、奥行きは短い。
【0010】
スライド5を駆動機構に連接する3つの連接具10,20,30が、スライド5の長手方向に等間隔で離れた3箇所に設けられている。すなわち、スライド5の真ん中に連接具10が設けられ、この連接具10から等間隔で左右に離して、左側の連接具20及び右側の連接具30が設けられる。なお、連接具が3つの例を示すが、4個、5個等、3個以上の連接具を採用し得る。この連接具10,20,30の詳細について、断面で図2に示す。なお、図2において、油路等の細かい部分は図示を省略している。
【0011】
連接具10,20,30はそれぞれ、駆動機構の運動、例えばクランクシャフトの回転運動を往復運動にして伝達する部材であるコンロッド(コネクティングロッド)11,21,31と、コンロッド11,21,31の端部に接続された連結ネジ部材12,22,32と、スライド5に固定された連結ネジ穴部材13,23,33と、を含んで構成される。連結ネジ部材12,22,32が連結ネジ穴部材13,23,33にねじ込まれることで両者が連結され、ダイハイトの調整を可能として駆動機構とスライド5とが連接される。
【0012】
連結ネジ部材12,22,32は、コンロッド11,21,31を接続する頭部12a,22a,32aと、連結ネジ穴部材13,23,33にねじ込まれるネジ部12b,22b,32bと、を有する。頭部12a,22a,32aは、コンロッド11,21,31の端部を軸12c,22c,32cにより軸支し、回動可能にコンロッド11,21,31と接続される。また、接続したコンロッド11,21,31の端面との間に油圧室12d,22d,32dが形成される。ネジ部12b,22b,32bは、周設されたフランジ12e,22e,32eを介して頭部12a,22a,32aにボルト止めされ、その胴部周面にねじ切りが施され、雄ねじが形成されている。
【0013】
このネジ部12b,22b,32bについて、内側の連接具10と両外側の連接具20,30とで異なるものが使用されている。すなわち、内側の連接具10におけるネジ部12bは中実材であり、外側の連接具20,30におけるネジ部22b,32bは中空材である。これにより、ネジ部22b,32bに中空材を使用した外側の連接具20,30における連結ネジ部材22,32の圧縮剛性が、ネジ部12bに中実材を使用した内側の(つまりその他の)連接具10における連結ネジ部材12よりも低く設定されている。この圧縮剛性の差は、中実のネジ部12b及び中空のネジ部22b,32bのばね定数を計算することにより適宜設計することができる。圧縮剛性を低くすることで、ネジ部22b,32bは、ネジ部12bに比べて縮み(撓み)やすくなる。
【0014】
この3つの連接具10,20,30の態様は、連接具を4個以上とする場合でも同様に実施可能である。すなわち、4個の場合は、外側2つの連接具の圧縮剛性を内側2つの連接具よりも低くし、5個の場合は、少なくとも最も外側に位置する2つの連接具の圧縮剛性を、その他の、つまり内側3つの連接具よりも低くする。あるいは、5個の場合、真ん中の1個の連接具の圧縮剛性が最も高く、外側へいくにつれ徐々に圧縮剛性が低くなる態様とすることもできる。
【0015】
連結ネジ穴部材13,23,33は、スライド5にボルト止め等で固定される油圧シリンダ部13a,23a,33aと、この油圧シリンダ部13a,23a,33aの上にボルト止め等で固定されるネジ穴部13b,23b,33bと、を含んで構成される。油圧シリンダ部13a,23a,33aは、油圧室13c,23c,33cとピストン13d,23d,33dとを有し、スライド5に過大荷重や動的に偏芯荷重がかかったときに、油圧室13c,23c,33c内の油量が変化することで荷重を緩和し、また、スライド5の平行度を保つように作用する。
【0016】
ネジ穴部13b,23b,33bは、円筒形の雌ネジ部13e,23e,33eを、枠体によって回転可能に且つ上下方向へ摺動可能に保持して構成される。雌ネジ部13e,23e,33eは、その内周面にねじ切りが施され、連結ネジ部材12,22,32のネジ部12b,22b,32bがねじ込まれる。この雌ネジ部13e,23e,33eの外周面には、ウォームホイール13f,23f,33fが、雌ネジ部13e,23e,33e側のキーとウォームホイール13f,23f,33f側のキー溝との係合により上下摺動可能にして、周設される。そして、当該ウォームホイール13f,23f,33fを回転させるウォーム13g,23g,33gが枠体に軸支されており、モータMにより回転制御される。これらモータ及びウォームギヤによる回転制御で、それぞれ雌ネジ部13e,23e,33eを回転させて連結ネジ部材12,22,32の上下位置を調整することができる。すなわち、3つの連接具10,20,30にそれぞれかかる負荷に応じて各モータ及びウォームギヤを作動させると、連結ネジ部材12,22,32の位置がそれぞれ別個に調節されて、スライド5の偏芯荷重が緩和される。なお、モータMを個別に設ける他に、モータMは1つとし、該1つのモータMにより回転する共通の駆動軸を介して、全ウォーム13g,23g,33gを同時に回転制御する構成とすることもできる。
【0017】
以上の構造の連接具10,20,30を備えたスライド5は、稼働中のボルスタ4の動的変形に追従して変形する。
図3に示すように、下金型Lが固定されたボルスタは、加工圧力によって中央部が下方へ凹むように湾曲する。図3Aに示す従来型のプレス機械の場合、スライドは、連接具等に設けられた制御機構により、加工圧力で撓まないように維持され且つ偏芯荷重で傾かないように姿勢が保たれる。したがって、ボルスタが動的に変形すると、図3Aに示すように、ボルスタ上の下金型Lとスライド下の上金型Uの中央部分の密着精度に影響が出る。
【0018】
一方、図3Bに示す本実施形態に係るプレス機械では、スライド5に対する制御が従来同様に実行されたとしても、中央の連接具10に対して外側の連接具20,30の圧縮剛性が低く設定されているので、ボルスタ4の動的変更に追従してスライド5が変形する余地がある。すなわち、内側の連接具10は突っ張る力が強く、外側の連接具20,30は突っ張る力が弱いので、スライド5は、反力に対して中央部よりも外側の方が変形し易く、ボルスタ4の中央部が下方へ凹むように動的変形したときに、当該ボルスタ4の動的変更に追従して、スライド5も、外側が上方へ反るように(中央部が下方へ凸)変形することが可能となる。
【0019】
その結果、図3Bに示すように、ボルスタ4の動的変形が発生してもこれに追従してスライド5が変形するので、ボルスタ4上の下金型Lとスライド5下の上金型Uの密着精度が全体的に保たれる。
【符号の説明】
【0020】
1 ベッド
2 コラム
3 クラウン
4 ボルスタ
5 スライド
6 ギブ
10,20,30 連接具
11,21.31 コンロッド
12,22,32 連結ネジ部材
13,23,33 連結ネジ穴部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッドと、
該ベッドに立設されたコラムと、
前記ベッド上のボルスタと、
前記コラム上に設置されたクラウンと、
前記コラム間に摺動支持されるスライドと、
前記クラウン内に設けられ、前記スライドを往復運動させる駆動機構と、
を含んで構成され、
前記駆動機構と前記スライドとを連接する連接具が、前記スライドの長手方向に3箇所以上設けられると共に、
当該複数の連接具のうち、少なくとも最も外側に位置する2つの連接具の圧縮剛性が、その他の連接具よりも低い、
プレス機械。
【請求項2】
前記連接具は、
前記駆動機構の運動を伝達するコンロッドと、
該コンロッドの端部に接続された連結ネジ部材と、
前記スライドに固定され、前記連結ネジ部材をねじ込んで連結する連結ネジ穴部材と、
を含んで構成され、
前記少なくとも最も外側に位置する2つの連接具における前記連結ネジ部材の圧縮剛性が、前記その他の連接具における前記連結ネジ部材よりも低い、
請求項1記載のプレス機械。
【請求項3】
前記少なくとも最も外側に位置する2つの連接具における前記連結ネジ部材に中空材が使用され、前記その他の連接具における前記連結ネジ部材に中実材が使用される、
請求項2記載のプレス機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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