説明

プレス用治具、及びこれを用いた触媒層−電解質膜積層体の製造方法

【課題】電解質膜のしわを防止することのできるプレス用治具及びこれを用いた触媒層−電解質膜積層体や電極−電解質膜接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】基材シート61に触媒層62が形成された触媒層形成用転写シート6を、電解質膜5に対して押圧するよう互いに近接及び離間可能な一対の熱盤A間に設置されるプレス用治具1であって、触媒層形成用転写シート6を収容する開口部211が形成され、電解質膜5の外周縁部51を押さえるよう枠状に形成された電解質膜押さえ部21を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス用治具及びこれを用いた触媒層−電解質膜積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層が形成された触媒層−電解質膜積層体(CCM)や、電解質膜の両面に、触媒層及び導電性多孔質基材からなる電極が形成された電極−電解質膜接合体(MEA)を主な構成としている。この触媒層−電解質膜積層体や電極−電解質膜接合体の製造方法は、主にプレスを使用して電解質膜の両面に触媒層や電極を接合させるものが採用されている(例えば特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−158014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記プレスによって製造した触媒層−電解質膜積層体や電極−電解質膜接合体は、電解質膜における触媒層や電極が形成されていない部分にしわが発生する。このしわが原因となり、触媒層や電極が形成されている部分と形成されていない部分との境界で電解質膜が破れたり、単セルを積層しスタッキングする際の厚みバラツキの原因になったりするという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、電解質膜のしわを防止することのできるプレス用治具及びこれを用いた触媒層−電解質膜積層体や電極−電解質膜接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題に鑑み、鋭意研究を行った結果、下記プレス用治具を使用してプレスをすると上記問題が解決されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明に係るプレス用治具は、基材シート上に触媒層が形成された触媒層形成用転写シート、又は導電性多孔質基材上に触媒層が形成された電極を、電解質膜に対して押圧するよう互いに近接及び離間可能な一対の熱盤間に設置されるプレス用治具であって、触媒層形成用転写シート又は電極を収容する開口部が形成され、電解質膜の外周縁部を押さえるよう枠状に形成された電解質膜押さえ部を備えている。
【0008】
このプレス用治具を使用してプレスを行えば、電解質膜押さえ部が、その開口部内に触媒層形成用転写シートや電極を収容することで、電解質膜の外周縁部を押さえながらプレスを行うことができる。このように電解質膜押さえ部によって電解質膜を押さえることで、プレスをおこなっても電解質膜が伸びることが防止でき、ひいては電解質膜における触媒層や電極が形成されていない部分にしわが発生することを防止することができる。
【0009】
上記プレス用治具は種々の構成をとることができ、例えば、電解質膜押さえ部を一対備え、一方の電解質膜押さえ部と他方の電解質膜押さえ部との位置を、開口部同士が一致する位置で決定する位置決め手段をさらに備えた構成とすることができる。このような構成とすることで、触媒層形成用転写シートや電極を電解質膜押さえ部の開口部内に配置するだけで、電解質膜の両面に触媒層形成用転写シートや電極を対向した位置に配置することができる。すなわち、触媒層形成用転写シートや電極をわざわざ位置合わせして電解質膜の両面に配置する必要がなくなるため、作業性を向上させることができる。
【0010】
また、少なくとも一方の電解質膜押さえ部と該電解質膜押さえ部に隣接する熱盤との間に介在し、前記電解質膜押さえ部の開口部内に収容された触媒層形成用転写シート又は電極を電解質膜に対して押圧する介在部をさらに備えているような構成とすることもできる。
【0011】
また、電解質膜押さえ部と介在部とは一体的に形成されていてもよいし、別部材として形成されていてもよい。
【0012】
また、介在部は、少なくとも前記電解質膜押さえ部の開口部と対向する領域に触媒層形成用転写シート又は電極との離型性を有する離型層が形成されていることが好ましい。これにより、プレス後にプレス用治具を容易に取り外すことができ、作業性を向上させることができる。
【0013】
また、電解質膜押さえ部は、その開口部内壁面と、前記開口部内に収容された触媒層形成用転写シート又は電極の外周面と距離が10mm以下であることが好ましい。
【0014】
また、上記電解質膜押さえ部の電解質膜と接触する領域に電解質膜との離型性を有する離型層が形成されていることが好ましく、例えば、フッ素樹脂などでコーティング加工を施すことができる。
【0015】
また、本発明に係るプレス治具は、触媒層形成用転写シート又は電極が開口部内に収容された状態を維持するよう、開口部内を吸引する吸引機構をさらに備えた構成とすることもできる。
【0016】
また、本発明に係るプレス治具は、開口部内に収容された触媒層形成用転写シート又は電極を加熱するための加熱機構をさらに備えた構成とすることもできる。
【0017】
また、本発明に係るプレス装置は、基材シート上に触媒層が形成された触媒層形成用転写シート、又は導電性多孔質基材上に触媒層が形成された電極を、電解質膜に対して加圧させるプレス装置であって、互いに近接及び離間可能な一対の熱盤と、前記熱盤の間に配置される上記いずれかのプレス用治具と、を備えている。
【0018】
このプレス装置によれば、上述したプレス用治具を備えているため、上述したのと同様の効果を得ることができる。
【0019】
また、本発明に係る触媒層−電解質膜積層体の製造方法は、電解質膜の両面に触媒層が形成された触媒層−電解質膜積層体の製造方法であって、電解質膜を準備する工程と、基材シート上に触媒層が形成された触媒層形成用転写シートを準備する工程と、上記いずれかのプレス用治具を準備する工程と、開口部が前記電解質膜と対向するよう前記プレス用治具の電解質膜押さえ部を前記電解質膜の両面に配置する工程と、前記触媒層が前記電解質膜と対向するよう前記触媒層形成用転写シートを前記電解質膜押さえ部の開口部内に収容する工程と、前記一対の熱盤を互いに近接するよう移動させて前記各プレス用治具を電解質膜に対して加圧することで、前記電解質膜押さえ部で前記電解質膜の外周縁部を押さえながら前記開口部内の触媒層形成用転写シートを前記電解質膜に対して押圧して接着させる工程と、前記電解質膜の両面に接着した触媒層形成用転写シートから基材シートを剥離する工程と、を含んでいる。
【0020】
この製造方法によれば、上述したプレス用治具を使用して触媒層−電解質膜積層体を製造するため、上述したのと同様の効果を得ることができる。
【0021】
なお、触媒層形成用転写シートの外周面と前記開口部の内壁面との距離は、10mm以内であることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る電極−電解質膜接合体の製造方法は、触媒層及び導電性多孔質基材を有する電極が電解質膜の両面に形成された電極−電解質膜接合体の製造方法であって、電解質膜を準備する工程と、導電性多孔質基材上に触媒層が形成された電極を準備する工程と、上記いずれかのプレス用治具を準備する工程と、開口部が前記電解質膜と対向するよう、前記プレス用治具の電解質膜押さえ部を前記電解質膜の両面に配置する工程と、前記触媒層が前記電解質膜と対向するよう、前記電極を前記電解質膜押さえ部の開口部内に収容する工程と、前記一対の熱盤を互いに近接するよう移動させて前記各プレス用治具を電解質膜に対して加圧することで、前記電解質膜押さえ部で前記電解質膜の外周縁部を押さえながら前記開口部内の電極を前記電解質膜に対して押圧して接着させる工程と、を含んでいる。
【0023】
この製造方法によれば、上述したプレス用治具を使用して電極−電解質膜接合体を製造するため、上述したのと同様の効果を得ることができる。
【0024】
なお、電極の外周面と前記開口部の内壁面との距離は、10mm以内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るプレス用治具を使用することで、プレスによる電解質膜のしわを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は本実施形態に係るプレス装置を示す概略正面図である。
【図2】図2は本実施形態に係るプレス用治具を示す正面断面図である。
【図3】図3は本実施形態に係る電解質膜押さえ部を示す平面図である。
【図4】図4は本実施形態に係る開口部内に触媒層形成用転写シートが収容された電解質膜押さえ部を示す正面断面図である。
【図5】図5は別の実施形態に係る介在部の平面図(a)及び正面図(b)である。
【図6】図6は別の実施形態に係るプレス用治具を示す正面断面図である。
【図7】図7は別の実施形態に係るプレス装置を示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るプレス装置、及びこれに用いるプレス用治具の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1に示すように、プレス装置10は、上下に配置され互いに近接及び離間可能な一対の熱盤Aと、この一対の熱盤A間に設置されたプレス用治具1と、を備えている。熱盤Aは、内部に熱媒が流れる等といった公知の方法で加熱されるように構成されている。また、一対の熱盤Aはそれぞれが上下動することで互いに近接及び離間してもよいし、どちらか一方のみが上下動することで互いに近接及び離間するような構成としてもよい。この熱盤Aは、種々の方法で駆動させることで上下動させることができ、例えばモータなどによって駆動させてもよいし、油圧シリンダや空気圧シリンダなどの流体圧シリンダによって駆動させてもよい。
【0029】
図2に示すように、プレス用治具1は、2つの治具本体部2から構成されており、この各治具本体部2を熱盤A間に設置するとともに治具本体部2間に電解質膜5を配置して使用する。各治具本体部2は、開口部211が形成された枠状の電解質膜押さえ部21(図3参照)と、この電解質膜押さえ部21と熱盤Aとの間に設置される平板状の介在部22と、から構成されている。電解質膜押さえ部21に形成された開口部211は、触媒層形成用転写シート6や電極を収容するための空間であり、図4に示すように開口部211内に触媒層形成用転写シート6を収容した状態において、開口部211の内壁面から触媒層形成用転写シート6の外周面までの距離dが、0〜10mm程度とすることが好ましい。また、この電解質膜押さえ部21は、特に限定されるものではないが、ステンレス板、アルミ板などの金属基板、又はポリエチレンテレフタレートなどの樹脂性基材などによって構成することができ、電解質膜5と接触する領域にフッ素樹脂をコーティングして電解質膜5との剥離性を向上させることができる。なお、触媒層形成用転写シート6は、基材シート61上に触媒層62が形成されることで構成されている。具体的には、基材シート61の材料としては、ポリエチレンテレフタレート等の高分子フィルムなどを挙げることができ、触媒層62の材料としては、触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を含有する、公知の白金含有の触媒層(カソード触媒及びアノード触媒)等を挙げることができる。また、触媒層形成用転写シート6の製造方法の一例としては、触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を適当な溶剤に混合、分散してできた触媒ペーストを、基材シート61上にスクリーン印刷などによって塗布し、これを乾燥して触媒層62を形成する方法を挙げることができる。
【0030】
図2に示すように、電解質膜5の下側に設置される電解質膜押さえ部21の外周縁部には、その上方及び下方に延びる突起部212が右側及び左側にそれぞれ形成されている。そして、上側の電解質膜押さえ部21には、下側の電解質膜押さえ部21と開口部211を一致させた状態で下側の電解質膜押さえ部21の突起部212が挿入するように貫通孔213が2カ所形成されている。この突起部212と貫通孔213とによって、上側の電解質膜押さえ部21と下側の電解質膜押さえ部21との互いの位置が決定される。なお、この突起部212と貫通孔213とが、本発明の位置決め手段に相当する。また、この突起部212は、電解質膜5上に電解質膜押さえ部21を載置した際に、電解質膜5に当たらない位置に形成していることが好ましい。
【0031】
また、平板状の介在部22は、少なくとも電解質膜押さえ部21の開口部211を覆うよう開口部211より大きく形成されており、好ましくは電解質膜押さえ部21と同じ大きさを有している。この介在部22は、熱盤Aからの熱を開口部211に収容された触媒層形成用転写シート6に伝えるような熱伝導率を有する材質で形成されていることが好ましく、例えば、ステンレス、アルミなどの金属製のものや、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、メラミン樹脂、シリコンアクリル樹脂、エポキシ樹脂などのバインダーで有機または無機繊維を結合したもの、ゴム、不織布、織布、これらの積層体などで形成することができる。なお、介在部22の熱伝導率は0.1W/(m・K)以上であることが好ましい。また、この介在部22には、電解質膜押さえ部21の突起部212を挿入させるための貫通孔221が形成されている。
【0032】
以上のように構成されたプレス用治具1を用いたプレス装置10の使用方法について図1を参照しつつ説明する。
【0033】
まず、下側の治具本体部2を設置する。具体的には、下側の熱盤A上に平板状の介在部22を配置し、この介在部22上に電解質膜押さえ部21を積層する。このとき、電解質膜押さえ部21の突起部212を介在部22の貫通孔221内へ挿入する。なお、電解質膜押さえ部21は、その開口部211が今回のプレス対象である触媒層形成用転写シートが収容できる大きさを有するものを選択する。
【0034】
そして、電解質膜押さえ部21の開口部211内に触媒層形成用転写シート6を収容する。なお、このとき、触媒層62が上側を向くように触媒層形成用転写シート6を配置する。また、触媒層形成用転写シート6の外周面と、開口部211の内壁面との距離dは、0〜10mm程度とすることが好ましい。続いて、開口部211内に収容された触媒層形成用転写シート6を覆うように電解質膜5を配置する。このとき電解質膜5の外周縁部51は、電解質膜押さえ部21上に載置される状態となる。
【0035】
次に、上側の治具本体部2を設置する。具体的には、まず、電解質膜5の外周縁部51上に載置するよう、上側の電解質膜押さえ部21を電解質膜5上に設置する。なお、下側の電解質膜押さえ部21から延びる突起部212を上側の電解質膜押さえ部21の貫通孔213内に挿入することで、自動的に上側の電解質膜押さえ部21と下側の電解質膜押さえ部21との開口部211の位置が互いに合致する。
【0036】
そして、上側の電解質膜押さえ部21の開口部211内に、触媒層62が電解質膜5側を向くよう触媒層形成用転写シート6を配置する。また、この触媒層形成用転写シート6も下側の触媒層形成用転写シート6と同様に、その外周面と開口部211の内壁面との距離dが0〜10mm程度となるよう位置合わせする。そして、この触媒層形成用転写シート6が開口部211内に収容された上側の電解質膜押さえ部21上に、上側の介在部22を配置する。なお、この介在部22を電解質膜押さえ部21上に配置したとき、下側の電解質膜押さえ部21の突起部212が上側の介在部22の貫通孔221内に挿入した状態となっている。
【0037】
以上のように熱盤A間にプレス用治具1、電解質膜5、及び触媒層形成用転写シート6を配置した後、各熱盤Aが互いに近接するように少なくとも一方の熱盤Aを動かす。そして、この熱盤Aが、プレス用治具1を介した状態で電解質膜5及び触媒層形成用転写シート6に対して加熱加圧する。このように加熱された状態で触媒層形成用転写シート6が電解質膜5に対して押圧されるため、各触媒層形成用転写シート6の触媒層62が電解質膜5に接着する。このときのプレス条件は、特に限定されるものではなく、各構成部材の材質や寸法によっても変わってくるが、一般的には、各熱盤Aの加熱温度を100〜150℃程度、圧力を10〜70kgf/cm程度、加圧時間を1〜15分程度とすることが好ましい。
【0038】
続いて、各熱盤Aが互いに離間するよう、少なくとも一方の熱盤Aを移動させる。そして、プレス用治具1を熱盤A間から取りだし、電解質膜5の両面に触媒層形成用転写シート6が接着されたものを取り出す。そして、この触媒層形成用転写シート6の基材シート61を剥離して、触媒層−電解質膜積層体が完成する。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、プレス用治具1は、電解質膜押さえ部21と介在部22とを別部材として構成していたが、この電解質膜押さえ部21と介在部22とを一体的に形成することもできる。
【0040】
また、作業時に触媒層転写シート6がずれないように、介在部22に吸引機構を設けることができる。具体的には、図5に示すように、介在部22の触媒層形成用転写シート6などと対応する部分に多孔部222を形成するとともに、介在部22内に空間を形成し、この空間と繋がる吸引口223から吸引機などで吸引する。これにより、多孔部222から介在部22内の空間に空気を吸い込み、この吸引力によって、多孔部222上に配置された触媒層転写シート6が作業中にずれることを防止することができる。
【0041】
また、図6に示すように、加熱ヒータ8を介在部22内に設置することもできる。さらには介在部22内に熱電対81を設置することもできる。これにより、加熱温度のムラを抑えることができるという効果を得ることができる。
【0042】
また、上記実施形態では、電解質膜押さえ部21の開口部211に触媒層形成用転写シート6を配置していたが、触媒層形成用転写シート6の代わりに電極を配置することもできる。この電極は、導電性多孔質基材上に触媒層が形成されることで構成されているが、この触媒層が電解質膜5側を向くように電解質膜押さえ部21の開口部211内に設置する。なお、導電性多孔質基材の材料としては、カーボンペーパーやカーボンクロス等を挙げることができ、触媒層の材料としては、上記実施形態の触媒層と同じものとすることができる。
【0043】
また、介在部22は、触媒層形成用転写シート6や電極をプレスした後にこれらがすぐに剥がれるよう、例えばフッ素樹脂をコーティングすることで離型層を形成したりすることもできる。またこれと同様に、電解質膜押さえ部21にも、電解質膜5から電解質膜押さえ部21がすぐに剥がれるよう、例えばフッ素樹脂をコーティングすることで離型層を形成したりすることもできる。
【0044】
また、平板状の介在部22にステンレスやアルミなどの金属製のものを用いた場合には、図7に示すように、電解質膜押さえ部21の開口部211内にフッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、メラミン樹脂、シリコンアクリル樹脂、エポキシ樹脂などのバインダーで有機または無機繊維を結合したもの、ゴム、不織布、織布、これらの積層体などで作られ耐熱性に優れた弾性体7を入れることが好ましい。これにより触媒層形成用転写シートや電極をプレスする際のムラや方当たりを防ぐことができる。
【0045】
また、上記電解質膜押さえ部21の突起部212及び貫通孔213や、介在部22の貫通孔221の数は特に限定されるものではない。また、上記実施形態では、突起部212は、下側の電解質膜押さえ部21に形成されているが、上側の電解質膜押さえ部21に形成してもよいし、上側又は下側の介在部22に形成してもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、電解質膜5の両面に触媒層62を同時に転写形成していたが、片面ずつ異なる条件で転写形成してもよい。さらには、電解質膜5の一方の面のみに触媒層62を転写形成することもできる。この場合は、1つの治具本体部2をその触媒層62を形成する側にのみ設置し、その他は上述したプレス方法と同様の方法で熱プレスを行う。また、電解質膜5のもう一方の面には、スプレーなどによって触媒層62を直接形成することが好ましい。また、この場合は、治具本体部2同士の位置ずれは発生しないため、突起部や貫通孔などを省略することができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
まず、図2に示すようなプレス用治具1を準備した。電解質膜押さえ部21は、アルミによって構成し、その大きさを100mm×100mmとし、厚さを0.3mmとした。このような寸法の電解質膜押さえ部21を、6種類準備し、それぞれに大きさが異なる開口部211を形成した。なお、開口部の大きさは、51mm×51mm、52mm×52mm、54mm×54mm、58mm×58mm、70mm×70mmとした。
【0049】
また、介在部22は、シリコンシート(クレハエラストマー社製 SR970P(R733))によって構成し、その大きさを100mm×100mmとし、厚さを1.5mmとした。
【0050】
また、以下のような触媒層形成用転写シート及び電解質膜を準備した。
【0051】
触媒層形成用転写シート6は、ポリエチレンフィルム(東レ社製 E5100)からなる基材シート61を準備し、この基材シート61上に、触媒粉(田中貴金属社製 TEC10E50E)及びバインダー(デュポン社製NafionDE520CS)からなる触媒ペーストを塗布し、これを乾燥させて触媒層62を形成することで作製した。触媒層形成用転写シートの大きさは50mm×50mmとした。
【0052】
また、電解質膜は6種類準備し、各電解質膜毎にプレスを行った。なお、電解質膜の大きさはどれも同じとし、その大きさは75mm×75mmとした。また、電解質膜は、フッ素樹脂系のものと、炭化水素系のものを用意し、フッ素樹脂系の電解質膜の厚さは、25μm(Nafion211)、50μm(Nafion212)、125μm(Nafion115)、175μm(Nafion117)の4種類用意した。また、炭化水素系の電解質膜(PolyFuel)の厚さは20μm、45μmの2種類を用意した。
【0053】
以上の各電解質膜の両面に、上述した各プレス用治具1を使用して電極を形成した。なお、このときのプレス条件は、150℃、50kgf/cm、2分30秒とした。このプレス後の電極−電解質膜接合体を目視で観察し、シワの発生の有無を表1に示した。なお、「○」はシワが発生しなかったことを示し、「×」はシワが電解質膜における触媒層や電極が形成されていない部分に発生したことを示す。
【0054】
【表1】

【符号の説明】
【0055】
1 プレス用治具
21 電解質膜押さえ部
211 開口部
22 介在部
5 電解質膜
6 触媒層形成用転写シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート上に触媒層が形成された触媒層形成用転写シート、又は導電性多孔質基材上に触媒層が形成された電極を、電解質膜に対して押圧するよう互いに近接及び離間可能な一対の熱盤間に設置されるプレス用治具であって、
触媒層形成用転写シート又は電極を収容する開口部が形成され、電解質膜の外周縁部を押さえるよう枠状に形成された電解質膜押さえ部を備えた、プレス用治具。
【請求項2】
前記電解質膜押さえ部を一対備え、一方の電解質膜押さえ部と他方の電解質膜押さえ部との位置を、前記開口部同士が一致する位置で決定する位置決め手段をさらに備えた、請求項1に記載のプレス用治具。
【請求項3】
前記少なくとも一方の電解質膜押さえ部と該電解質膜押さえ部に隣接する熱盤との間に介在し、前記電解質膜押さえ部の開口部内に収容された触媒層形成用転写シート又は電極を電解質膜に対して押圧する介在部をさらに備えた、請求項1又は2に記載のプレス用治具。
【請求項4】
前記電解質膜押さえ部と介在部とは一体的に形成されている、請求項3に記載のプレス用治具。
【請求項5】
前記介在部は、少なくとも前記電解質膜押さえ部の開口部と対向する領域に触媒層形成用転写シート又は電極との離型性を有する離型層が形成されている、請求項3又は4に記載のプレス用治具。
【請求項6】
前記電解質膜押さえ部は、少なくとも電解質膜と接触する領域に電解質膜との離型性を有する離型層が形成されている、請求項1〜5のいずれかに記載のプレス用治具。
【請求項7】
前記電解質膜押さえ部は、その開口部内壁面と、前記開口部内に収容された触媒層形成用転写シート又は電極の外周面と距離が10mm以下である、請求項1〜6のいずれかに記載のプレス用治具。
【請求項8】
触媒層形成用転写シート又は電極が前記開口部内に収容された状態を維持するよう、前記開口部内を吸引する吸引機構をさらに備えた、3〜7のいずれかに記載のプレス用治具。
【請求項9】
前記開口部内に収容された触媒層形成用転写シート又は電極を加熱するための加熱機構をさらに備えた、請求項3〜8のいずれかに記載のプレス用治具。
【請求項10】
基材シート上に触媒層が形成された触媒層形成用転写シート、又は導電性多孔質基材上に触媒層が形成された電極を、電解質膜に対して加圧させるプレス装置であって、
互いに近接及び離間可能な一対の熱盤と、
前記熱盤の間に配置される請求項1〜9のいずれかに記載のプレス用治具と、を備えたプレス装置。
【請求項11】
電解質膜の両面に触媒層が形成された触媒層−電解質膜積層体の製造方法であって、
電解質膜を準備する工程と、
基材シート上に触媒層が形成された触媒層形成用転写シートを準備する工程と、
請求項1〜9のいずれかに記載のプレス用治具を準備する工程と、
開口部が前記電解質膜と対向するよう前記プレス用治具の電解質膜押さえ部を前記電解質膜の両面に配置する工程と、
前記触媒層が前記電解質膜と対向するよう前記触媒層形成用転写シートを前記電解質膜押さえ部の開口部内に収容する工程と、
前記一対の熱盤を互いに近接するよう移動させて前記各プレス用治具を電解質膜に対して加圧することで、前記電解質膜押さえ部で前記電解質膜の外周縁部を押さえながら前記開口部内の触媒層形成用転写シートを前記電解質膜に対して押圧して接着させる工程と、
前記電解質膜の両面に接着した触媒層形成用転写シートから基材シートを剥離する工程と、
を含む、触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項12】
前記触媒層形成用転写シートの外周面と前記開口部の内壁面との距離は、10mm以内である、請求項11に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項13】
触媒層及び導電性多孔質基材を有する電極が電解質膜の両面に形成された電極−電解質膜接合体の製造方法であって、
電解質膜を準備する工程と、
導電性多孔質基材上に触媒層が形成された電極を準備する工程と、
請求項1〜8のいずれかに記載のプレス用治具を準備する工程と、
開口部が前記電解質膜と対向するよう前記プレス用治具の電解質膜押さえ部を前記電解質膜の両面に配置する工程と、
前記触媒層が前記電解質膜と対向するよう前記電極を前記電解質膜押さえ部の開口部内に収容する工程と、
前記一対の熱盤を互いに近接するよう移動させて前記各プレス用治具を電解質膜に対して加圧することで、前記電解質膜押さえ部で前記電解質膜の外周縁部を押さえながら前記開口部内の電極を前記電解質膜に対して押圧して接着させる工程と、
を含む、電極−電解質膜接合体の製造方法。
【請求項14】
前記電極の外周面と前記開口部の内壁面との距離は、10mm以内である、請求項13に記載の電極−電解質膜接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−70911(P2011−70911A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220759(P2009−220759)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】