説明

プレス金型用打抜きパンチ及びそれを用いた車両用部品の製造方法

【課題】寿命向上を図り得るプレス金型用打抜きパンチを提供する。
【解決手段】プレス金型用打抜きパンチ11の全体、あるいは刃先部11aの一部位である先端部11a1のみを炭窒化チタン焼結体で形成する。このプレス金型用打抜きパンチ11を用いて、ディスクカバー31(車両用部品)における車体に取り付けるための取付穴31a〜31f、及び車軸を挿通するための挿通穴31gを打抜き加工によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス金型用打抜きパンチ及びそれを用いた車両用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス金型用打抜きパンチの材質として合金工具鋼、高速度工具鋼などのプレス用鋼か、これらのプレス用鋼に表面処理等を施したものを使用するのが一般的である。このようなプレス用鋼を主体としたプレス金型用打抜きパンチでは、耐磨耗性等が十分に得られないため、頻繁に打抜きパンチの交換・補修のためのメンテナンス作業を行う必要がある。この場合、打抜きパンチの材質として少なくとも刃先の一部位が超硬合金からなるものを使用すれば、プレス用鋼を使用した場合に比べて寿命向上を図ることが可能である。しかし、超硬合金はプレス用鋼に比して靭性が劣るため、欠損・脱落のおそれがあり、打抜きパンチへの適用は困難である。
【0003】
ところで、アルミニウムダイキャスト等を鋳造するための射出型材の材料として炭窒化チタン焼結体を使用したものが知られている(例えば、下記特許文献1参照)。炭窒化チタン焼結体は、アルミニウムと反応しにくいこと、溶湯に対する耐摩耗性が高いこと、熱伝導度が低いこと、などから上記射出型材の材料としての適性があり、このような炭窒化チタン焼結体を使用することで、射出型材の寿命の向上を図ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3787533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、プレス金型用打抜きパンチの寿命向上を図るべく鋭意検討した結果、その材質として炭窒化チタン焼結体を使用することが十分に可能であることを見出し、本願出願に至ったものである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
すなわち、本発明のプレス金型用打抜きパンチは、少なくとも刃先部の一部位を炭窒化チタン焼結体で形成したことを特徴とする。
【0007】
これによれば、打抜きパンチの寿命を従来品に比して大幅に向上させることができ、その交換・補修のためのメンテナンス作業を減らすことができる。
【0008】
また、本発明に係る車両用部品の製造方法は、上記したプレス金型用打抜きパンチを用いて、車両用部品における車体又は車輪に取り付けるための取付穴を打抜き加工によって形成することを特徴とする。
【0009】
これによれば、打抜きパンチの寿命向上と相俟って、車両用部品における取付穴の加工形態の均一性を図り、しかも寸法精度を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1に係り、プレス金型用打抜きパンチの一例を示す正面図。
【図2】本発明の実施例1〜3に係り、プレス金型用打抜きパンチが組み込まれたプレス金型のパンチホルダを示す斜視図。
【図3】本発明の実施例1〜3に係り、プレス金型用パンチを用いて打抜き加工された車両用部品を示す平面図。
【図4】本発明の実施例2に係り、プレス金型用打抜きパンチの一例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明に係るプレス金型用打抜きパンチ11(以下、単に打抜きパンチ11という)の正面図である。打抜きパンチ11は、例えば鋼板を素材とする車両用部品としてのディスクカバー31(図3参照)を打ち抜いて穴あけ加工を行う工具であり、刃先部11aと、刃先部11aと一体に形成されて刃先部11aよりも大径のシャンク部11bと、シャンク部11bと一体に形成されてシャンク部11bよりも大径の鍔部11cとをこの順に備えている。刃先部11a、シャンク部11b及び鍔部11cは、それぞれ直径の異なる断面円形状に形成されている。
【0013】
上記打抜きパンチ11は、その全体が炭窒化チタン焼結体で形成されている。具体的には、特許第3787533号公報に開示されているように、例えば炭窒化チタン(TiC0.70.3)粉体:64重量%、炭化チタン粉体:30重量%、及びAFM合金鉄粉体(助剤)6重量%を混合して、所定形状(図1参照)に成型した後、1300〜1600℃の範囲内で焼結することにより得られる。
【0014】
なお、炭窒化チタン焼結体は、上記した組成のものに限らず、AFM合金鉄粉体に代えて、例えばニッケル粉体や、クロム−ニッケル−鉄合金(BTG合金鉄)などを助剤として用いたものなどを適宜使用することができる。
【0015】
図2は、打抜きパンチ11を構成要素とするプレス金型1のパンチホルダ20(上ダイセット)を示す。パンチホルダ20は、打抜きパンチ11を鍔部11cにて固定するための周知のバッキングプレート21及びパンチプレート22を備えるとともに、図示を省略するガイドピンを挿通させるための複数のコイルスプリング23を備えている。
【0016】
打抜きパンチ11は、ほぼ同じ形状、同じ寸法に形成された複数の打抜きパンチ11A〜11Fと、打抜きパンチ11A〜11Fよりも大径の打抜きパンチ11Gとで構成されている。なお、打抜きパンチ11Gは、底付き円筒形状に形成されている。
【0017】
打抜きパンチ11A〜11Fは、パンチホルダ20の動作に応じて、図3に示すようなディスクカバー31における車体(図示省略)に取り付けるための取付穴31a〜31fを打抜き加工によって形成する。
【0018】
一方、打抜きパンチ11Gは、パンチホルダ20の動作に応じて、ディスクカバー31における車軸(図示省略)を挿通するための挿通穴31gを打抜き加工によって形成する。
【0019】
以上のように、炭窒化チタン焼結体で形成した打抜きパンチ11(打抜き11A〜11G)を使用することにより、その寿命を従来品に比して大幅に向上させることができ、交換・補修のためのメンテナンス作業を減らすことができる。特に、せん断面の大きい挿通穴31gを打抜き加工する打抜きパンチ11Gで生じやすかった早期の磨耗を良好に防止することができる。
【0020】
また、打抜きパンチ11の寿命向上と相俟って、ディスクカバー31における取付穴31a〜31f、及び挿通穴31gの加工形態の均一性を図り、しかも寸法精度を良好に維持することができる。
【実施例2】
【0021】
上記実施例1では、打抜きパンチ11を構成する打抜きパンチ11A〜11Gにおいて、それぞれ全体を炭窒化チタン焼結体で形成したが、これに限らず、例えば打抜きパンチ11の刃先部11aのみや、図4に示すような刃先部11aの一部位である先端部11a1(素材を貫通する部分)のみを炭窒化チタン焼結体で形成するとともに、残部を合金工具鋼(例えばSKD11)や高速度工具鋼(例えばSKH51、SKH40)等のプレス用鋼で形成してもよい。この場合、炭窒化チタン焼結体とプレス用鋼とは、ボルト止め等で一体的に構成することができる。
【0022】
この実施例2によれば、打抜きパンチ11の寿命を向上させつつ、コストの上昇を抑えることができる。
【実施例3】
【0023】
上記実施例1及び実施例2では、打抜きパンチ11の全て(打抜きパンチ11A〜11G)において少なくとも一部位に炭窒化チタン焼結体が含まれるように構成したが、これに限らず、少なくとも一部位に炭窒化チタン焼結体が含まれるパンチ群(第1の打抜きパンチ)と、プレス用鋼からなるパンチ群(第2の打抜きパンチ)とを混合させるようにしてもよい。
【0024】
具体的には、図2において、例えば打抜きパンチ11A〜11C、11Gを上記実施例1又は実施例2で説明したような炭窒化チタン焼結体が含まれる第1の打抜きパンチとし、打抜きパンチ11D〜11Fをプレス用鋼からなる第2の打抜きパンチとすることができる。あるいは、打抜きパンチ11A、11C、11E、11Gを上記実施例1又は実施例2で説明したような炭窒化チタン焼結体が含まれる第1の打抜きパンチとし、打抜きパンチ11B、11D、11Fをプレス用鋼からなる第2の打抜きパンチとすることもできる。
【0025】
この実施例3によれば、第2の打抜きパンチにおける耐摩耗性の不足分を第1の打抜きパンチにおける耐摩耗性の増加分で補うことにより、打抜きパンチ11の全てを窒化チタン焼結体が含まれる第1の打抜きパンチで構成しなくて済むので、コストの上昇を良好に抑えることができる。
【0026】
なお、上記実施例1〜3では、本発明の車両用部品としてディスクカバー31を例示したが、車両用部品はこれに限らず、例えばドラムブレーキのバッキングプレートやブレーキドラム、あるいはホイールなどであってもよい。
【0027】
また、打抜きパンチ11は、上記実施例1〜3で示した形態のものに限らず、例えば刃先部11aとシャンク部11bとが同径で形成された円柱形状、底付き円筒形状のものなどに適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 プレス型
11(11A〜11G) 打抜きパンチ(プレス金型用打抜きパンチ)
11a 刃先部
11a1 先端部
20 パンチホルダ
21 バッキングプレート
22 パンチプレート
31 ディスクカバー(車両用部品)
31a〜31f 取付穴
31g 挿通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも刃先部の一部位を炭窒化チタン焼結体で形成したことを特徴とするプレス金型用打抜きパンチ。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス金型用打抜きパンチを用いて、車両用部品における車体又は車輪に取り付けるための取付穴を打抜き加工によって形成することを特徴とする車両用部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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