プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法及び反応装置
【課題】プレート上の複数個の分析対象につき確実に所望の反応を実施することができる反応方法及び反応装置を提供する。
提供する。
【解決手段】プレート上の複数個の分析対象に対する反応を実施するのにあたり、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを準備する工程と、前記プレート上の前記複数個の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程と、を実施する。
提供する。
【解決手段】プレート上の複数個の分析対象に対する反応を実施するのにあたり、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを準備する工程と、前記プレート上の前記複数個の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程と、を実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法及び反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質やヌクレオチドなどの生体分子の解析が重要になっていてきている。こうした生体分子の解析では、多数個の分析対象を処理しなければならなことが多い。
【0003】
例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS)は簡易にペプチドを同定したり配列を解析することができる点において優れており、現在、ペプチド等について汎用される分析方法の一つである。MALDI−TOF MSにおいて汎用される手法としては、例えば、ペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)がある。PMFは、プロテアーゼによって消化した反応混合物の各フラグメントの分子量をぺプチドマスデータベースに当てはめて、被験ペプチドを同じフラグメント分布を有するタンパク質として同定する手法である。
【0004】
PMFによって得られるペプチドフラグメントや目的のペプチドのN末端などの部分配列や全体配列を決定することは、ペプチドの同定やペプチドのスクリーニングに有用である。MALDI−TOF MSでアミノ酸配列を決定する方法としては、分子がイオン化されることによって生じる過剰なエネルギーによるPost Sorce Decay(PSD)により生成されるフラグメントイオンを分離検出するPSD法や衝突活性化により生じるフラグメントイオンを分離検出するCollision Induced Dissociation(CID)法が挙げられる。また、アミノ酸配列の決定は、カルボキシペプチダーゼやアミノペプチダーゼで目的のペプチドをN末端又はC末端のアミノ酸が一つずつ欠損したラダー状の反応混合物を調製し、これらをそれぞれMALDI−TOF MSで分析する方法も挙げられる(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006-300758
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、PMF後のペプチドフラグメントや目的のタンパク質のN末端のアミノ酸配列を決定することはぺプチドの同定、ひいてはタンパク質の同定に非常に有用である。しかしながら、汎用性の高いMALDI−TOF MSにおいてアミノ酸配列を決定することは必ずしも容易ではなく、依然として高度な測定技術が必要な場合もあった。また、目的のペプチド等をMALDI−TOF MSで測定後あるいはMALDI−TOF MSの測定と並行して酵素法でアミノ酸配列を決定するのは非常に煩雑であった。したがって、現状において、MALDI−TOF MSによる分析に伴って簡易にMALDI−TOF MS分析後のペプチドのN末端アミノ酸配列を決定できる方法はなかった。
【0006】
生体分子の解析にあたっての反応工程の煩雑さは、MALDI−TOF MS以外の分析方法を用いる場合においても問題となっている。このため、多くの分析分野において、分析工程に先立って行うべき反応工程を自動化し効率化する必要性があるといえる。
【0007】
特に、生体分子の解析にあたっては、多数個の分析対象がアレイ状に配列されたプレートが用いられることが多いため、こうしたプレートに対応して確実でかつ効率的に反応を実施することも必要があるといえる。
【0008】
そこで、本発明は、プレート上の複数個の分析対象につき確実に所望の反応を実施することができる反応方法及び反応装置を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、プレート上の複数個の分析対象につき効率的に所望の反応を実施することができる反応方法及び装置を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、プレート上に配列された多数個の分析対象について液体を供給して反応を実施するとき、反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体を介して供給することで、多数個の分析対象にも確実に反応を生じさせ、結果として良好な反応結果が得られること、さらに、効率的に多数個の分析対象に同一反応を実施させることができることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0010】
本発明によれば、プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法であって、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを準備する工程と、前記プレート上の前記複数個の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程と、を備える、方法が提供される。
【0011】
本発明によれば、前記反応工程が前記プレート上の前記複数個の分析対象上に配置した前記固相担体に前記反応用液体を供給する工程である、前記方法も提供される。さらに、前記反応工程が真空下のキャビティに収容される前記プレート上の前記分析対象に前記固相担体を介して前記反応用液体を供給する工程である、前記方法も提供される。さらにまた、前記反応工程が前記キャビティ内を真空吸引して前記反応用液体を前記キャビティから除去することを含む工程である、前記反応方法も提供される。また、前記反応工程は、前記キャビティ内を加温することを含む、前記方法も提供される。
【0012】
本発明によれば、前記固相担体が多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質である、前記方法も提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、前記反応工程後の分析対象について質量分析を実施する工程を備える、前記方法も提供される。
【0014】
また、本発明によれば、前記反応工程に先だって、分析対象について質量分析工程を実施する、前記方法も提供される。また、前記質量分析工程が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置を用いて質量分析を実施する工程である、前記方法も提供される。
【0015】
本発明によれば、前記分析対象はペプチドであり、前記反応工程は、ペプチドのN末端切断反応を実施する工程である、前記方法も提供される。
【0016】
本発明によれば、プレート上の複数個の分析対象に対する反応装置であって、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、前記反応容器の前記キャビティ内を真空吸引可能に連結される真空吸引系と、前記反応容器の前記キャビティ内の前記固相担体に前記反応用液体を供給可能に連結される反応用液体供給系と、を備える、装置が提供される。
【0017】
本発明によれば、前記固相担体は、前記プレート上の前記ぺプチドサンプルの保持領域上に載置可能に形成されている、前記装置も提供される。さらに、前記固相担体は、多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質である、前記装置も提供される。さらにまた、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析用である、前記装置も提供される。
【0018】
本発明によれば、プレート上の複数個の分析対象用の反応容器であって、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、を備える、反応容器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のプレート上の複数個の分析対象に対する反応方法は、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを準備する工程と、前記プレート上の前記複数個の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程と、を備える、方法を備えることができる。
【0020】
本発明の方法によれば、上記反応工程を備えることから、プレート上の複数個の分析対象に対して確実にまたほぼ均等な量の反応用液体を供給することができる。このため、プレート上において分離した複数個の分析対象に対して所望の反応を実施することができる。また、多数個の分析対象に一括して反応用液体を供給できるため、効率的に反応を実施することができる。さらに、簡易に自動化も可能である。
【0021】
また、本発明のプレート上の複数個の分析対象に対する反応装置は、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、前記反応容器の前記キャビティ内を真空吸引可能に連結される真空吸引系と、前記反応容器の前記キャビティ内の前記固相担体に前記反応用液体を供給可能に連結される反応用液体供給系と、を備えことができる。
【0022】
本発明の装置によれば、通気可能な空隙を有しぺプチド反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体をキャビティ内に有し、この固相担体に反応用液体を供給することで確実に反応用液体をプレート上の分析対象に供給できる。このため、確実にプレート上のぺプチドサンプルにつきぺプチド反応を実施することができる。また、キャビティ内が真空吸引可能であるため、反応用液体の結露を抑制するとともに気化を促進して過剰な反応用液体の供給を回避できる。さらに、過剰な反応用液体を吸引除去することができる。このため、複数種類の反応用液体を次々に添加することができ、複数段の反応も可能となっている。
【0023】
以下、本発明の実施の形態として、プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法びプレート上の複数個の分析対象用の反応装置並びにこれらの適用について、適宜図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の反応方法のフローの一例を示し、図2には、本発明の反応方法に用いるプレートの一例を示し、図3には、本発明の反応方法における反応工程の模式図を示す。また、図4には、本発明の反応装置の概略を示す。なお、参照する図面は本発明の実施形態を説明のために示す一実施形態であり、本発明を限定するものではない。
【0024】
(プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法)
(分析対象が保持されたプレートの準備工程)
本発明の反応方法は、プレート準備工程を備えることができる。プレート準備工程は、複数個の分析対象が保持されたプレートを作製又は入手等して準備する工程である。
【0025】
(プレート)
プレート110は、分析目的等に応じた形態を採ることができ、その形態は限定されない。プレート状であれば円形であっても方形状であってもよい。プレート110は、分析対象が保持される分析用セルの領域が明示されていることが好ましい。なお、分析用セルとは、1種又は2種以上の分析対象が保持される領域であり、反応工程においては反応領域でもある。なお、分析対象がまとまりをもって保持されたプレート上の領域(スポット等)は、分析用セルが明示されていない場合であっても、分析用セルを構成することができる。
【0026】
プレート110が2個以上の分析用セルを有している場合、これらの分析用セルは、一定形態で配列されていることが好ましく、それぞれ固有の位置情報(例えば数字、記号等あるいはこれらの組み合わせ)により関連付けられていることがより好ましい。すなわち、分析用セルのそれぞれのプレート上における位置が特定されていることが好ましい。分析用のセルが固有の位置情報に関連付けられて、その位置が特定されていることにより、分析工程を容易化することができるとともに、分析工程後の解析を容易化でき、結果としてプレート上に多くの分析用セルを保持させたときの分析を高速化することができる。例えば、MALDIによる場合、プレート上に配列された分析用セルに順次レーザーを照射して、セルに含まれる分析対象を脱離・イオン化させることで、大量の分析用セルについて解析を容易にかつ迅速に行うことができる。
【0027】
図2には、複数個の円形の分析用セルが凹状のスリットで区画されて、マトリックス状に配列されたプレート110を示す。
【0028】
プレート110は、多孔質性であるなど液体透過性であってもよいし、緻密質あるいは撥液性を有するなどにより液体不透過性であってもよいが、好ましくは、液体不透過性である。液体透過性であることにより、分析対象がプレート内部に保持されることになり、後述する質量分析工程におけるイオン化効率が低下し、また、質量分析の精度が低下する傾向がある。材料が緻密質であって液体不透過性であるプレートであることがより好ましい。なお、プレート110は、分析対象領域を構成する表層部分のみが後述するプレート110として好ましい材料で構成されていてもよい。
【0029】
プレート110は、耐食性を備えていることが好ましい。耐食性を備えることが好ましい酸としては、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸並びに酢酸、トリフルオロ酢酸などのハロゲン化有機酸、有機スルホン酸などの有機酸が挙げられる。なかでも、ペプチドの解析を考慮すれば、一般にペプチドの修飾反応や分解反応に用いられる有機酸に対する耐食性を備えていることが好ましい。典型的には、エドマン反応でのN末端アミノ酸の切断に用いる酢酸、トリフルオロ酢酸などのハロゲン化有機酸及び無水酢酸などの無水有機酸並びに塩酸などの無機酸が挙げられ、こうした酸に対する耐食性を備えていることが好ましい
【0030】
必要な耐食性を備えるプレート110上では、エドマン反応を始めとするぺプチドの修飾や切断反応が可能である。こうしたプレート110を本解析方法に用いることで、プレート110の材料の耐食性が低いことによる副生成物や副反応を考慮する必要がなくなる。また、プレート110は、メタノールやアセトニトリルなどに対する耐食性を備えていることが好ましい。溶媒の種類の選択自由度が向上されるからである。
【0031】
プレート110をLDI又はMALDIに適用する場合には、当該装置によって質量分析が可能な程度の導電性を備えることが好ましい。プレート110の備える導電性は、LDI又はMALDIによるレーザー脱離イオン化が可能であればよく、特に限定しないが、例えば、TOF
MSに用いられる場合においては、厚み方向の体積抵抗値(Ωcm)が2以上10000以下であるものを用いることができる。こうした体積抵抗値は、例えばJIS K7194によって測定することができる。
【0032】
プレート110を構成する導電性材料としては、例えば、置換又は置換されていないポリアセチレン、ジアセチレン重合体、置換又は置換されていないポリピロール、置換又は置換されていないポリチオフェン、ポリアニリンなどの本質的な導電性プラスチックのほか、プラスチックやシリコーンなど高分子材料に金属粉末や繊維又はカーボンブラックやグラファイトの粉末や繊維などの導電性材料を分散複合した複合導電性高分子材料が挙げられる。本発明においては、耐食性の観点から、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリプロピレン等を用いることが好ましい。
【0033】
このような導電性高分子材料は、分析対象を保持するのに都合のよい官能基を備えることができる。こうした官能基は、予め高分子材料の合成時にモノマー等が備えることもできるし、合成後にプレートの表面に対して後修飾によって導入されてもよい。例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基、カルボジミド基、活性エステル基を導入することが挙げられる。例えば、DNAやRNAなどの核酸を保持するのに好ましい官能基には、N−ヒドロキシスクシンイミド基、カルボジミド基、エポキシ基、ホルミル基などが挙げられ、ペプチドを保持するのに好ましい官能基には、N−ヒドロキシスクシンイミド基、カルボジミド基、エポキシ基、ホルミル基、金属キレートが挙げられる。
【0034】
また、他の導電性材料としては、導電性セラミックス材料が挙げられる。例えば、炭化ケイ素(SiC)、グラファイトなどの非酸化物系セラミックスが挙げられる。また、絶縁性セラミックスのマトリックスに金属や導電性セラミックス材料の粒子を混合した複合導電性セラミックス材料なども挙げられる。
【0035】
好ましい導電性セラミックス材料は、グラファイトであり、より好ましくは、その表面にガラス状炭素又は熱分解炭素による表面処理層を有するグラファイトである。こうしたグラファイトによれば、グラファイトの離脱が抑制されるとともに、導電性のみならず耐溶剤性、繰り返し使用性に優れるプレートとして用いることができる。なかでも、熱分解炭素による表面処理層を有するグラファイトは、炭素粒子の脱落が一層抑制されるとともにアセトニトリルなどの溶剤に対する優れた耐溶剤性、酸やアルカリなどに対する耐腐食性及び強度、繰り返し使用性等を有しているため、より好ましい。これらの表面処理層を有するグラファイト材料は、いずれも、金属製プレートに貼着することなくそれ自体単独でMALDIに適したプレートを構成することができる。
【0036】
ガラス状炭素による表面処理層を有するグラファイトとしては、ガラス状炭素をフラファイト表面及び内部にまで含侵させた材料を好ましく用いることができる。含侵深さは、例えば、1mm以上であることが好ましく、より好ましくは10mm以下である。こうしたグラファイト材料は、例えば、VGI(イビデン株式会社の黒鉛製品)として入手することができる。また、熱分解炭素による表面処理層を有するグラファイトとしては、炭素の化学蒸着による皮膜を有するグラファイトを用いることができる。好ましくは、グラファイトは等方性黒鉛である。こうしたグラファイト材料は、例えば、パイロカーブ(イビデン株式会社の黒鉛製品)として入手することができる。
【0037】
(分析対象)
本反応方法における分析対象は、特に制限なく、DNAやRNA、DNA/RNAキメラ、DNA/RNAハイブリッドなどの形態のポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、多糖類、糖タンパク質、脂質、PNA(ペプチド核酸)などが挙げられる。このような生体高分子は分析のために化学修飾が施されて誘導体化されていてもよい。また、分析対象としては、こうした生体高分子のほか、天然又は人工の有機化合物が挙げられる。こうした分析対象は、細胞や菌体抽出物、発酵産物、無細胞系抽出物、PCR産物、人工的な合成産物、タンパク質の酵素処理物等に含まれている。また、本発明における分析対象は、本発明のプレートが質量分析に適していることから、質量分析、特に、MALDIによって分析可能なあるいは分析するのが適した化合物であることが好適である。
【0038】
(分析対象が保持されたプレート)
分析対象は、少なくともプレート上において後述する反応工程を実施するまで一定位置に保持されればよい。したがって、プレート上への保持の形態は特に限定されないが、分析後の分析対象が洗浄等により容易にプレートから除去可能な程度の固定状態であっても、その分析対象はプレートに保持されているといえる。分析対象の保持形態は、特に限定されない。例えば、イオン結合、水素結合、静電的相互作用、疎水性相互作用、キレート等の非共有結合性の結合にて保持されていてもよいし、共有結合によって保持されていてもよい。また、こうした化学的結合以外であってもよく、プレート110表面上の単に表面に分析対象が存在している場合であっても、分析するときまで当該表面に保持されている限り、この分析対象は保持されているといえる。固定形態は、分析対象の種類とプレートの材料や表面修飾等によって種々の形態がありうるが、質量分析におけるイオン化を考慮すれば非共有結合性の結合であることが好ましい。
【0039】
分析対象は、プレートの表面に直接に保持されてもよいが、間接的に、例えば、プレートの表面に直接保持された介在物を介してプレートに保持されていてもよい。例えば、プレートに、抗体又は抗原を保持しておき、このプレートに対して抗原又は抗体を供給して抗原抗体反応を行うことで、分析対象たる抗体又は抗原を、抗原−抗体複合体の形態で、プレートに保持されていてもよい。また、ヌクレオチド鎖間の対合する塩基間の水素結合による複合体形成(ハイブリダイゼーション)により分析対象たるオリゴヌクレオチド又は核酸などハイブリダイズ可能な化合物が保持されていてもよい。この場合、プレートに対して一定のヌクレオチド配列を有する核酸等を保持しておく。こうした抗原−抗体間の特異的な相互作用、レセプター−リガンド相互作用、ハイブリダイゼーションなど、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−核酸相互作用及びその他の各種相互作用、予めプレートに保持した介在物と分析対象との間の水素結合、親水性相互作用、疎水性相互作用、静電的相互作用及び、キレート作用等を利用して、分析対象がプレートに保持されてもよい。
【0040】
また、分析対象は、必要に応じて化学修飾がなされていてもよい。化学修飾の種類は特に問わない。
【0041】
(分析対象が保持されたプレートの作製)
分析対象をプレート上に直接保持するには、まず、分析対象をプレート上に供給する。分析対象は、プレート上で合成してもよいし、予め調製された分析対象をプレート上に供給してもよい。プレート上で直接分析対象を合成する場合としては、無細胞タンパク質合成系によりタンパク質を合成する場合や、プレート上でオリゴヌクレオチドを合成する場合が挙げられる。また、分析対象をプレートに供給するには、例えば、インクジェット法やピン法等を用いることができる。
【0042】
また、分析対象を含む混合物を電気泳動又はクロマトグラフィーなどの分離手法で分離した上でプレートに供給してもよい。特に、電気泳動やクロマトグラフィーで分離されたパターンに基づいて分離された成分をプレートに供給することが好ましい。こうすることで、各種分離手段によって分離された分析対象をその分離パターンに対応して個々に解析することができる。具体的には、電気泳動パターンは、ブロッティングを利用してそのままプレートに転写することができる。この場合、プレートは液体浸透性であることが好ましい。また、液体クロマトグラフィーからの溶離液を一定量毎にプレートにドット状又はストリーム状に滴下させることにより、各種の溶離画分をその分離パターンに対応して保持できる。
【0043】
なお、分析対象がペプチドやタンパク質などの高分子化合物である場合、質量分析で分析可能な分子量や得られる情報内容を考慮して、各種の分解酵素で適宜低分子化した上でプレート上に供給してもよい。例えば、タンパク質はトリプシンなどのプロテアーゼなどで処理すればよい。分解パターンについて解析できるほか、質量分析の精度が向上され、タンパク質の同定あるいはタンパク質の配列決定が容易化される。例えば、電気泳動で分離したバンドを含むゲル内でプロテアーゼを作用させて分解したタンパク質を分析対象としてもよい。また、こうして分解して小分子化したタンパク質をさらに液体クロマトグラフィー等で分離した上で分析対象としてプレートに供給することもできる。
【0044】
例えば、ぺプチドサンプルは、二次元電気泳動等の電気泳動、ナノLCなどの液体クロマトグラフィーなどにより予め適度に分離精製されていてもよい。また、これらの分離精製とは別個にあるいはプロテアーゼ等による分解反応、アミノ酸の修飾反応等が施されていてもよい。PMFの場合には、通常、二次元電気泳動で分離されたタンパク質をゲル中でプロテアーゼで分解し、分解物をプレートにブロットし、これを分析する。さらに、他の分析手段で既に分析されたものであるなど第1の質量分析工程に提供されるぺプチドサンプルに施されている処理については特に限定されない。
【0045】
なお、電気泳動としては、アガロースゲル電気泳動、変性アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミド電気泳動、SDSポリアクリルアミド電気泳動、等電点電気泳動及び二次元電気泳動などが挙げられる。また、液体クロマトグラフィーとしては、マイクロキャピラリーあるいはナノキャピラリーを用いた液体クロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0046】
また、分析対象を間接的にプレート上に保持するには、まず、分析対象を間接的に保持するための介在物が保持されたプレートを用意する。介在物とは、上記したように、例えば、タンパク質や核酸等である。こうした介在物をプレート上に供給し保持するには、上記のような方法を適宜用いることができる。また、分析対象を保持するには、こうして介在物を保持したプレートに対して、分析対象を含有する試料を供給し、意図した相互作用を生じさせて、分析対象を、介在物を介して分析対象をプレートに保持する。
【0047】
こうして分析対象をプレート上に供給した後、分析対象はプレートに保持される。最も簡易には、分析対象を供給する際に用いた水などの媒体を蒸発させ乾燥させることで分析対象をプレートに保持することができる。また、プレートあるいはプレート表面の官能基と分析対象とを共有結合を介して保持するときには、分析対象とともにあるいは別個に必要な試薬をプレート上に供給し反応させることで分析対象をプレートに保持できる。その他、保持形態に応じて必要な条件を付与することができる。
【0048】
(反応工程)
分析対象をプレート上に保持した後、プレート上の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程を実施する。図3に反応工程の一例を模式的に表す。固相担体20をプレート110の分析用セル上に載置又は近接させて用い、固相担体20に対して反応用液体を供給し、固相担体20を介して目的のぺプチドサンプルに反応用液体が到達するようにすることで、プレート110上の多数個のぺプチドサンプルについて、均一にかつ確実に適量の反応用液体を供給することができる。特に、多数個の分析セルをマトリックス状に備えるプレート110を用いる場合において好ましい。また、過剰量の反応用液体が供給されることを防いで、隣り合う分析セル同士のぺプチドサンプルやその反応物がコンタミするのを防ぐことができる。
【0049】
固相担体20は、通気可能な空隙を備えるとともに少なくとも一時的には反応用液体を保持することができるものであればよい。例えば、一般的にはフィルターとして機能することができ、多孔質体、繊維の交絡体、織成体、編成体を用いることができる。材質としては、ガラス、セラミックス、セルロースなどの天然高分子繊維材料又は人工高分子繊維材料等を用いることができる。好ましくは、多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質であり、より好ましくは多孔質ガラス質である。ガラス質であると、分析対象と反応用液体との混合物が付着しても固相担体20側に浸透しにくいからである。固相担体20の形状は特に限定しない。プレート110のぺプチドサンプル保持領域の輪郭に沿ったあるいは当該輪郭よりも大きな外形を備えることが好ましい。なお、固相担体20は、単一の材料で構成されていてもよいが、2種類以上の材料で構成されていてもよい。例えば、気孔率やポアサイズの異なる層体を複数積層した積層体として構成することもできる。
【0050】
固相担体20は、プレート110上の分析セルの上方に近接して配置されるか又は分析セル上に載置される。分析セル上に載置されることで、確実にかつ均一に反応用液体がプレート110上の分析対象に供給される。
【0051】
反応用液体の固相担体20への供給方法は、固相担体20を介してプレート110の分析セル内の分析対象に到達されるかぎり、特に限定されない。好ましくは、固相担体20に滴下、注入、噴霧等により供給する。固相担体20内に均一に反応用液体を保持させることで、複数の分析セルに対して均一にかつ確実に判別用液体を供給できる。固相担体20に供給された反応用液体は、固相担体20に一時的に保持されるが、その後、固相担体20の下方にのプレート110の分析セル側に移動し、分析対象に到達される。なお、反応用液体は、1種類又は2種類以上を用いることができ、2種類以上を用いる場合には逐次的又は同時的に供給することができる。
【0052】
一方、反応用液体を分析用セルから除去するときには、プレート110を放置したり分析用セルに送風したりすることのほか、プレート110を加温するあるいはプレート110が存在する雰囲気を加温することができる。反応用液体の蒸発除去にあたって、固相担体20を分析用セル上に載置した状態であっても固相担体20は通気可能であるため、分析用セルからの反応用液体の除去を妨げることがない。また、同時に、固相担体20からも反応用液体が除去される。
【0053】
本反応工程は、プレート110を収容する真空吸引可能なキャビティ10で行われることが好ましい。真空吸引により、反応後の過剰な反応用液体を速やかに分析セルから除去することができる。また、キャビティ内を予め真空にしておくことにより、キャビティ内に供給される反応用液体の結露を防いで反応用液体の均一な供給を確保することができる。さらに、反応用液体をガス化した状態で分析用セルに供給することもでき、一層均一に各分析用セルで反応を生じさせることができる。
【0054】
また、本反応工程は、プレート110又はキャビティ10内を加温した状態で行うことが好ましい。加温により反応時間を短縮できるほか、反応用液体の結露の抑制及び反応用液体の除去時間を短縮することができる。好ましくは、キャビティ10内を加温することで、固相担体20も加温しておく。さらに、加温した反応用液体自体を供給することが好ましい。
【0055】
本反応工程は、少なくとも反応用液体を、固相担体20を介して分析用セル内の分析対象に供給して反応させることを含み、必要に応じ反応用液体の除去、別の1又は2以上の反応用液体の供給・反応及び除去を含むことができる。また、本反応工程は、一つの反応を複数サイクル実施するものであってもよいし、異なる反応を組み合わせて実施するものであってもよい。
【0056】
本反応工程でいかなる反応を実施するかは、分析対象や分析の目的によって選択される。例えば、分析対象がタンパク質、ペプチド等の場合には、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(FNDB)や5−ジメチルアミノナフタレン−1−スルホニルクロリド(ダンシルクロリド)との反応や、エドマン試薬(フェニルイソチオシアネート)と無水酸とによるエドマン法やその変法によるN末端アミノ酸切断反応等が挙げられる。
【0057】
分析対象がタンパク質又はペプチドであるとき、本反応工程でエドマン法及びその変法によるN末端アミノ酸切断反応工程を実施することで、N末端アミノ酸を容易に決定することができる。反応用液体としては、フェニルイソチオシアネート(PITC)、イソシアネート(ITC)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)及びメチルイソチオシアネート(MITC)などから選択される1種又は2種以上の修飾用試薬として用いることができる。例えば、これらをそれぞれ単独で用いてもよいし、PITCにITC、FITC及びMITCのいずれかあるいは2種類以上を加えてもよい。カップリング試薬を複数組み合わせると、N末端にカップリングする修飾基を変えることができる。異なる修飾基をN末端に備えることで、後段で酸を添加したときのN末端アミノ酸切断反応の反応性が変わり、同一の反応条件であっても、N末端アミノ酸の切断反応の程度を調整して、N末端アミノ酸の切断程度が異なる反応生成物を得ることができる。なお、温度、時間等他の条件によってもN末端切断反応の進行程度を調整することができる。
【0058】
まず、プレート110を収容したキャビティ10を減圧状態とした後密閉し、修飾用試薬を固相担体20の上方から固相担体20に噴霧等して供給して修飾反応を実施する。所定時間経過後、キャビティ10内を真空吸引して修飾用試薬を除去した。再びキャビティ10内を減圧状態として密閉し、塩酸などの酸を固相担体20に噴霧等して供給して分解反応を実施する。所定時間経過後、キャビティ10内を真空吸引して酸を除去する。
【0059】
以上の結果、プレートの分析用セル内には、(1)反応生成物の一方である切断されたN末端アミノ酸残基の誘導体と、(2)他の一方であるN末端アミノ酸残基が切断されたフラグメント(被エドマン反応物)の他、N末端アミノ酸の切断反応が完全に完了しなかった場合には、(3)カップリングされていないかカップリングされたが切断されていない未切断のタンパク質やペプチドの修飾体(カップリング体)が存在することができる。ここで、上記(2)がエドマン反応又はその類似反応の反応生成物であり、上記(3)がエドマン反応又はその類似反応の反応未反応物である。
【0060】
これらのうち、(2)及び(3)は、N末端アミノ酸残基分が異なるだけであるので、後段の質量分析工程で、これらのフラグメントの質量の差を計測し、比較することで、N末端アミノ酸残基を決定することができる。なお、(3)についての質量情報は、予め分析対象について質量分析工程を実施しておくことで取得しておくこともでき、そうした質量情報を利用することもできる。
【0061】
こうした反応工程を複数実施して、さらに、複数種類の上記(2)の反応生成物を生じさせ、これらをと質量分析工程とを必要な回数繰り返し行うことで、N末端アミノ酸配列を決定することができるが、これについては後段で詳細に説明する。
【0062】
(反応前の分析対象の質量分析工程)
図1にも示すように、本反応工程に先だって、質量分析工程を実施してもよい。反応前の分析対象につき質量分析工程を実施しておくことで、反応前の分析対象の質量情報を取得できる。この反応前の分析対象の質量情報を反応後に質量分析工程を実施して得られる質量情報の解析時に参照することで、反応後の分析対象の質量情報に基づく解析をより正確に行うことができる。こうした、反応工程前の質量分析工程は、後段で実施する質量分析工程と同一であっても異なっていてもよい。先の質量分析工程をMALDIで行ってマトリックスを用いても、マトリックスが後段の反応工程や質量分析工程での質量分析を阻害することを回避することができる。好ましくは、後段での質量分析工程と同一の分析手法による質量分析工程を実施する。より簡易により正確な質量分析が可能となるからである。
【0063】
(反応後の分析対象の質量分析工程)
図2に示すように、反応工程後には、反応後の分析対象の質量分析工程を実施することができる。この質量分析工程は、プレート上の分析用セル内の反応生成物を含む分析用セルの内容物の質量を分析する工程である。質量分析工程で用いる質量分析手法としては、特に限定されない。
【0064】
イオン化法としては、マトリックスを使用しないレーザー脱離イオン化(LDI)、マトリックスを使用するマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)を用いることが好ましい。なかでも、ペプチドにはMALDIを用いることが好ましい。
【0065】
MALDIに用いるレーザーとしては、N2、Nd−YAG、CWCO、TEA−CO2、アルゴンなどが用いられる。また、MALDIに用いるマトリックスとしては、特に限定しないが、ニコチン酸、2−ピラジンカルボン酸、シナピン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、5−メトキシサリチル酸、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、3−ヒドロキシピコリン酸、ジアミノナフタレン、2−(4−ヒドロキシフェニラゾ)安息香酸、ジスラノール、コハク酸、5−(トリフルオロメチル)ウラシル,グリセリンなどを用いることができる。マトリックスの分析対象に対する添加量等は特に限定しないで従来公知の範囲で適宜設定することができる。
【0066】
質量分析手法としては、磁場偏光型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロン型、タンデム型などの各種の質量分析部によることができる。LDI及びMALDIよる場合には、飛行時間型分析部を備えることが好ましい。汎用性等を考慮すると、MALDI−TOF MS装置を利用することが最も好ましい。
【0067】
本質量分析工程により、反応後の分析対象の質量情報を取得できる。この質量情報は、構造既知あるいは未知の分析対象について新たな情報を含んでおり、分析対象の同定、構造決定及び機能研究に有用である。特に、反応前の分析対象の質量情報と組み合わせることにより、分析対象について精度の高い解析が可能となる。例えば、分析対象がペプチドやタンパク質である場合であって、反応工程としてN末端アミノ酸切断反応を1サイクル又は2サイクル以上実施することで、本質量分析工程で1種又は2種以上のN末端切断後のフラグメントの質量情報を取得できる。こうした反応後の質量情報と反応前の質量情報とを組み合わせると、各種フラグメントの質量の差から分析対象のN末端配列を正確に決定することができる。反応後の分析用セル内にも未切断物として反応前の分析対象が残存することもあり、こうした未切断物の質量情報を得ることができる場合もある。
【0068】
質量分析工程は、反応工程後に実施する。一つの反応工程に異種又は同種の2以上の小工程からなる場合、当該小工程を全て完了した後に質量分析工程を実施することもできるし、当該小工程毎あるいは複数の小工程毎に中間的な質量分析工程を実施してもよい。
【0069】
たとえば、ペプチドのN末端アミノ酸のみを決定する場合には、反応工程として上記したように二つの小工程からなる一つのアミノ酸切断反応工程を完了後に質量分析工程を実施する。一方、ペプチドのN末端アミノ酸配列を2以上決定する場合には、二つのアミノ酸切断反応工程を実施する。この場合には、各アミノ酸切断反応工程毎に質量分析工程を実施してもよいし、2又は3以上若しくは全てのアミノ酸切断工程後に質量分析工程を実施してもよい。効率的にN末端アミノ酸配列を決定するには、複数サイクルの切断工程を実施後に質量分析工程を実施することが好ましい。
【0070】
本発明の反応方法の典型例として以下の例が挙げられる。すなわち、タンパク質をトリプシンなどのプロテアーゼで分解した後、マイクロあるいはナノキャピラリー液体クロマトグラフィーにて分離し、溶離液をプレート上に多数個のスポットとして配列して滴下し乾燥して、個々の分析用セルにプロテアーゼ分解産物が分析対象として保持されたプレートを準備する。次に、これらの分析用セルを対象として、MALDI−TOF
MSによる質量分析工程を実施して反応前の質量情報を取得する。次いで、各分析用セルを対象として、1又は2サイクル以上のN末端アミノ酸切断反応工程を実施する。その後、反応後の分析対象につき質量分析工程を実施して、反応後の分析対象についての質量情報を取得する。
【0071】
なお、本発明の反応方法における反応後の分析対象は、質量分析以外の方法でも分析することもできる。また、質量分析と質量分析以外の分析とを組み合わせてもよい。分析対象が蛍光試薬や発色試薬等により標識される場合には、プレート上のこうした蛍光や発色などを検出する方法を採用することができる。
【0072】
(反応装置)
次に、本発明の反応装置を図4を参照しながら説明する。本反応装置は、上記した本発明方法を実施するのに適した反応装置である。図4に示すように、本装置2は、質量分析装置100のぺプチドサンプルを保持するプレート110を収容可能する反応容器4と、反応容器4のキャビティ10内に収容可能である固相担体20と、反応容器4のキャビティ10内を真空吸引可能に連結される真空吸引系40と、キャビティ10内に反応用液体を供給可能な反応用液体供給系60とを備えている。
【0073】
質量分析装置100としては、既に説明したように、質量分析工程で用いることができるイオン化及び質量分析手法に備える装置を用いることができる。本装置を適用する質量分析装置100としては、MALDI−TOF MS装置とすることが最も好ましい。また、プレート110としては、既に本発明の反応方法で説明したとおりである。
【0074】
(反応装置)
次に、反応装置2について説明する。反応容器4は、プレート110を収容可能であり、適度な容積のキャビティ10を構成している。反応容器4はこうしたキャビティ10を構成できれば、その大きさや形状は特に限定されない。反応容器4は、好ましくは、プレート110の出し入れを考慮して、開閉可能な分割式となっていることが好ましい。例えば、図4に示すように、プレート110を載置可能なプレート部6と蓋体8との組み合わせとすることもできるし、プレート110を載置可能な底部を有する凹状の容器本体と蓋体との組み合わせとすることもできる。プレート110を載置する部位には、プレート110の位置決めのためのプレート110の外形に沿う凹部あるいは目視可能なマークあるいはラインを備えることができる。
【0075】
反応容器4には、キャビティ10内の空気などのガスを真空吸引可能に真空吸引系40が接続されている。真空吸引口はキャビティ10内のいずれの箇所であってもよいが、例えば、図4に示すように、キャビティ10の中央上部とすることもできる。
【0076】
反応容器4は、真空吸引系40を作動させてキャビティ10内の空気などを吸引した場合に得られる減圧状態に耐えるのに都合がよい強度と気密性とを有することが好ましい。反応容器4において気密性を確保する手法においては特に問わないで公知の手法を採用することができる。図4に示す例では、プレート部6に対して気密性のOリングを介して蓋体8をセットし、スクリューでプレート部6に対して蓋体8を圧締することができるように構成されている。こうした構成によれば、容易に反応容器4を開閉できるほか、反応容器4の剛性も容易に高めることができる。
【0077】
本装置2は、反応容器4のキャビティ10内に収容されるプレート10の分析用セル上に載置又は近接に配置可能な固相担体20を備えている。固相担体20は、好ましくはプレート110の分析用セル上に載置される。直接載置されることで、確実にかつ均一に反応用液体がプレート110上の分析対象に供給される。
【0078】
固相担体20は、既に説明したように、固相担体20の形状は特に限定しないが、プレート110の分析用セルの形成領域の輪郭に沿ったあるいは当該輪郭よりも大きな外形を備えることが好ましい。
【0079】
固相担体20をプレート110のぺプチドサンプル保持領域に載置又は近接させて用い、固相担体20に対して反応用液体を供給し、固相担体20を介して目的のぺプチドサンプルに反応用液体が到達するようにすることで、プレート110上の多数個の分析用セルの分析対象について、均一にかつ確実に適量の反応用液体を供給することができる。特に、多数個の分析用セルをマトリックス状に備えるプレート110を用いる場合において好ましい。また、過剰量の反応用液体が供給されることを防いで、隣り合う分析領域同士のぺプチドサンプルやその反応物がコンタミするのを防ぐことができる。
【0080】
真空吸引系40は、真空吸引源42を有し、バルブ80及びマニフォールド70を介して反応容器4のキャビティ10内のガスを吸引可能に接続されている。真空吸引源42と反応容器4のキャビティ10とは、マニフォールド70及びロータリーバルブ80のコンピュータ等によるポート制御によって吸引用ルートが適時に形成されるようになっており、これらマニフォールド70及びバルブ80によって、キャビティ10内の真空吸引の開始、停止及び減圧状態の維持等が可能になっている。
【0081】
真空吸引源42の前段には、必要に応じてトラップを備えることができる。例えば、図1に示すように、キャビティ10から混入した液体をトラップする液体トラップ部44とキャビティ10から吸引したガスなどを凝縮して液体としてトラップするガストラップ部46を備えることができる。
【0082】
反応用液体供給系60は、所望のぺプチド反応を実施するための1又は複数の反応用液体を供給可能に構成されている。反応用液体供給系60は、少なくとも反応用液体を貯留する貯留容器62を備えることが好ましい。ぺプチド反応に用いる反応用液体が1種類のときには、貯留容器62がロータリーバルブ80によるポート制御によって反応容器4にまでの流路が適時に開通され、反応用液体がキャビティ10内にまで到達されるようになっている。
【0083】
また、反応用液体を2種類以上を用いるときには、それぞれの反応用液体について貯留容器62を備え、ロータリーバルブ90がこれらの貯留容器62内の各液体が適時にロータリーバルブ80における反応用液体の流路に接続されるようにポート制御するようになっている。なお、必要に応じて反応用液体の種類を増やすことができる。その場合には、それに応じたバルブ数を有するロータリーバルブを用いればよい。
【0084】
こうした反応装置2を構成する反応容器4、反応用液体供給系60及びロータリーバルブ80、90を含む流路系の温度を一定の保つ保温装置200を備えることができる。保温装置200は、図4に示すようにヒーティングバス状であってもよいが、その形態は特に限定されない。保温装置200は、適度に反応容器4等を加温するものであることが好ましく、加熱手段を備えることが好ましい。
【0085】
次に、本装置2の使用方法について説明する。以下、分析対象をペプチドとし、ペプチド切断反応を実施する使用について説明する。まず、1又は2以上の分析対象が複数の分析用セルに供給されたプレート110を準備する。このプレート110をプレート部6の所定位置に載置するとともに、このプレート110上に固相担体20を載置した後、蓋部8に対してキャビティ10を構成するようにプレート部8をセットし気密状態とする。この後、バルブ80のポート制御により真空吸引系40を作動させて、キャビティ10内を真空吸引して、所定の真空状態とする。
【0086】
所定の真空状態が形成されたら、真空状態を維持しつつバルブ80、90のポート制御によりMITC溶液などの反応用液体を貯留容器62によりキャビティ10内の固相担体20に供給する。この後、キャビティ10を密閉して所定時間維持してペプチドカップリング反応を実施する。その後、バルブ80のポート制御により真空吸引系40を作動させて、キャビティ10内の真空吸引し気化したMITC溶液を蒸発させて吸引除去する。
【0087】
MITC溶液を除去後、所定の真空状態となったら、バルブ80,90のポート制御により他の反応用液体である塩酸を貯留容器62よりキャビティ10内の固相担体20に供給する。この後、キャビティ10を密閉して所定時間維持してアミノ酸切断反応を実施する。その後、バルブ80のポート制御により真空吸引系40を作動させて、キャビティ10内を真空吸引し気化した塩酸を吸引除去する。
【0088】
こうした反応装置2により反応を終了したのち、反応後の分析対象を保持するプレート110を質量分析工程等に供することができる。
【0089】
本装置2によれば、本発明の反応方法を効率的に実施できる。また、本反応装置2は、必ずしも質量分析用に限定されるものではなく、複数個、特にマトリックス状に多数個配列された分析対象について効率的に反応用液体を供給して反応させるのに適した装置である。その場合には、プレート110は質量分析に適用可能な材料等に構成する必要はなく、他の分析手法で許容される材料や形状とすることができる。
【0090】
また、バルブ80,90におけるポート制御をコンピュータなどにより制御することで、反応装置2における反応を自動化することができる。反応を自動化できることで、より効率的で均質な反応が可能となる。また、温度制御も同様にコンピュータにより自動制御することができる。
【0091】
(プレート上の複数個の分析対象用の反応容器)
既に説明した反応容器4と固相担体20とは、プレート上の複数個の分析対象用の反応容器として用いることができる。この反応容器によれば、複数個の分析対象に対して一挙に均一かつ確実に反応用液体を供給できる。このため、プレート上での複数個、特に多数個の分析対象について液体を供給してなんらかの反応を行うのに適している。
【0092】
(プレート上の複数個の分析対象に対して反応を実施するための補助部材)
既に説明した固相担体20は、プレート110上の複数個の分析対象に対して反応を実施するための補助部材として、より具体的には反応用液体を供給するための補助部材として用いることができる。こうした固相担体20をプレート110上の分析用セルに近接し又は分析用セル上に載置して用いることで、均一かつ確実に反応用液体を複数個の分析対象に反応用液体を供給することができる。
【0093】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0094】
本実施例では、パイロカーブ(いずれもイビデン株式会社製)のプレートをプレートとして用いた。すなわち、このグラファイトプレートをMALDI−TOF質量分析装置(ABI
Voyager DE−STR MALDI TOF型質量分析計)の金属製プレートと同じ大きさに調製し、アンジオテンシン(angiotensin、MW1293)を0.5pmol/μlを0.5μlを塗布した上、これらをそれぞれプレートとして用いてレーザー強度を1100として質量分析を行った。なお、マトリックスは、α−シアノ−4−ヒドロキシケイヒ皮酸(CHCA)を用いた。マトリックスは、CHCAの過飽和溶液の1/5、1/25、1/125、1/625のそれぞれの希釈倍率で希釈し各希釈液0.5μlを用いた。結果を図5に示す。
【0095】
図5に示すように、いずれの分析対象においても、分子量イオンを検出することができ、バックグラウンドノイズも良好であった。
【0096】
次に、図4に示す反応装置2において、反応容器4をプラスチック製とし、固相担体20をディスク状のガラスフィルターとし、貯留容器62には、5w/v%MITCのヘプタン溶液:30%トリエチルアミン(TEA)水溶液混液(2:1(体積比))(以下、単にMITC溶液という。)及び6N塩酸をそれぞれ充填したものを用いて以下の反応を実施した。
【0097】
すなわち、反応容器4のプレート部6に先に調製したプレートをセットし、蓋部8でキャビティ10を密閉した。この後、ヒーティングバスである保温手段200の保温温度を80℃にセットした。保温手段200内の各部が85℃に到達した後、真空吸引系40を作動させて15分間キャビティ10内を吸引してキャビティ10内を高真空状態とした。
【0098】
その後、真空吸引を停止し真空状態を維持しつつ、MITC溶液300μlをキャビティ10内の固相担体20に噴霧し、真空状態を維持して5分間維持してMITCによる修飾反応を実施した。その後、キャビティ10内を20分間吸引して乾燥させ、気化した又は液体のMITC溶液を除去した。
【0099】
次に、6N塩酸100μlをキャビティ10内の固相担体20に噴霧し、真空状態を維持して10分間維持して塩酸による切断反応を実施した。その後、キャビティ10内を25分間吸引して乾燥させ、気化した又は液体の塩酸溶液を除去した。
【0100】
以上のようなMITC溶液の供給、除去及び6N塩酸の供給及び除去の工程を1サイクルとして、1サイクル実施後に質量分析を実施するほか、2サイクル実施後に、質量分析を実施した。質量分析は、実施例1で使用したMALDI−TOF質量分析装置を用いて同様に行った。なお、マトリックスは、1/125希釈倍率のHCA溶液0.5μlを使用した。結果を、図6及び図7に、それぞれ1サイクル実施後及び2サイクル後のチャート示す。
【0101】
図6に示すように、1サイクル実施後のチャートによれば、反応前の質量分析工程で用いたマトリックス希釈倍率に関わらず、分子量1294のイオン及びN末端のアミノ酸1つを失ったペプチドの分子量1180のイオンを検出できた。また、反応前に用いたマトリックスの希釈倍率が大きいほど、安定したイオンが検出できる傾向があることがわかった。
【0102】
また、図7に示すように、2サイクル実施後のチャートによれば、アンジオテンシンのN末端から2つアミノ酸を失った分子量1024のイオンを検出できた。
【0103】
以上のことから、MALDIによる質量分析後のプレート上の分析対象に対して反応を実施した後も、再びMALDIによって質量分析が可能であることがわかった。また、こうした方法により、ペプチドのN末端を容易に決定できることがわかった。さらに、先の質量分析工程におけるマトリックスの希釈倍率は、1/5以上1/625以下であり、より好ましくは、1/25以上であり、さらに好ましくは1/125以上であることがわかった。
【0104】
また、以上の結果から、アンジオテンシンのN末端のアミノ酸配列は、既に同定されている配列と同一であることがわかった。
【実施例2】
【0105】
本実施例では、実施例1と同様にパイロカーブ製プレートを用い、サンプルとしてアンジオテンシン(MW1294)を0.5pmol/μlを0.5μlを塗布した上、これをプレートとして用いてレーザー強度を900として質量分析を行った。なお、マトリックスは、α−シアノ−4−ヒドロキシケイヒ皮酸(CHCA)を用いた。マトリックスは、CHCAの過飽和溶液の1/125の希釈倍率で希釈した希釈液0.5μlを用いた。結果を図7に示す。
【0106】
実施例1と同様の1サイクルを3回実施後に、質量分析を行った。質量分析は、実施例1で使用したMALDI−TOF質量分析装置を用いて同様に行った。なお、マトリックスはCHCAの過飽和溶液原液0.5μlを使用した。結果を、図8に示す。
【0107】
図8に示すように、全てのチャートにおいて、4種の分子量イオン(完全長ペプチド、N末端1アミノ酸喪失断片、2アミノ酸喪失断片及び3アミノ酸喪失断片)を検出することができた。このペプチドのN末端の3アミノ酸は、実際の配列と同一であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の反応方法のフローの例を示す図である。
【図2】本発明の反応方法で用いるプレートの一例を示す図である。
【図3】本発明の反応工程の模式図を示す図である。
【図4】本発明の反応装置の概略を示す図である。
【図5a】実施例1で得られた反応前のアンジオテンシンのMALDI−TOFMSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/5である。
【図5b】実施例1で得られた反応前のアンジオテンシンのMALDI−TOF MSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/25である。
【図5c】実施例1で得られた反応前のアンジオテンシンのMALDI−TOF MSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/125である。
【図5d】実施例1で得られた反応前のアンジオテンシンのMALDI−TOF MSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/625である。
【図6】実施例1で得られた1サイクルのN末端アミノ酸切断反応実施後のMALDI−TOFMSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/125である。
【図7】実施例1で得られた2サイクルのN末端アミノ酸切断反応実施後のMALDI−TOFMSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/125である。
【図8】実施例2で得られた3サイクルのN末端アミノ酸切断反応実施後のMALDI−TOFMSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/125である。
【符号の説明】
【0109】
2 反応装置、4 反応容器、6 プレート部、8 蓋部、10 キャビティ、20 固相担体、40 真空吸引系、 60 反応用液体供給系、70 マニフォールド、 80,90 ロータリーバルブ、100 質量分析装置、110 プレート、200 保温装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法及び反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質やヌクレオチドなどの生体分子の解析が重要になっていてきている。こうした生体分子の解析では、多数個の分析対象を処理しなければならなことが多い。
【0003】
例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS)は簡易にペプチドを同定したり配列を解析することができる点において優れており、現在、ペプチド等について汎用される分析方法の一つである。MALDI−TOF MSにおいて汎用される手法としては、例えば、ペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)がある。PMFは、プロテアーゼによって消化した反応混合物の各フラグメントの分子量をぺプチドマスデータベースに当てはめて、被験ペプチドを同じフラグメント分布を有するタンパク質として同定する手法である。
【0004】
PMFによって得られるペプチドフラグメントや目的のペプチドのN末端などの部分配列や全体配列を決定することは、ペプチドの同定やペプチドのスクリーニングに有用である。MALDI−TOF MSでアミノ酸配列を決定する方法としては、分子がイオン化されることによって生じる過剰なエネルギーによるPost Sorce Decay(PSD)により生成されるフラグメントイオンを分離検出するPSD法や衝突活性化により生じるフラグメントイオンを分離検出するCollision Induced Dissociation(CID)法が挙げられる。また、アミノ酸配列の決定は、カルボキシペプチダーゼやアミノペプチダーゼで目的のペプチドをN末端又はC末端のアミノ酸が一つずつ欠損したラダー状の反応混合物を調製し、これらをそれぞれMALDI−TOF MSで分析する方法も挙げられる(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006-300758
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、PMF後のペプチドフラグメントや目的のタンパク質のN末端のアミノ酸配列を決定することはぺプチドの同定、ひいてはタンパク質の同定に非常に有用である。しかしながら、汎用性の高いMALDI−TOF MSにおいてアミノ酸配列を決定することは必ずしも容易ではなく、依然として高度な測定技術が必要な場合もあった。また、目的のペプチド等をMALDI−TOF MSで測定後あるいはMALDI−TOF MSの測定と並行して酵素法でアミノ酸配列を決定するのは非常に煩雑であった。したがって、現状において、MALDI−TOF MSによる分析に伴って簡易にMALDI−TOF MS分析後のペプチドのN末端アミノ酸配列を決定できる方法はなかった。
【0006】
生体分子の解析にあたっての反応工程の煩雑さは、MALDI−TOF MS以外の分析方法を用いる場合においても問題となっている。このため、多くの分析分野において、分析工程に先立って行うべき反応工程を自動化し効率化する必要性があるといえる。
【0007】
特に、生体分子の解析にあたっては、多数個の分析対象がアレイ状に配列されたプレートが用いられることが多いため、こうしたプレートに対応して確実でかつ効率的に反応を実施することも必要があるといえる。
【0008】
そこで、本発明は、プレート上の複数個の分析対象につき確実に所望の反応を実施することができる反応方法及び反応装置を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、プレート上の複数個の分析対象につき効率的に所望の反応を実施することができる反応方法及び装置を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、プレート上に配列された多数個の分析対象について液体を供給して反応を実施するとき、反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体を介して供給することで、多数個の分析対象にも確実に反応を生じさせ、結果として良好な反応結果が得られること、さらに、効率的に多数個の分析対象に同一反応を実施させることができることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0010】
本発明によれば、プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法であって、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを準備する工程と、前記プレート上の前記複数個の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程と、を備える、方法が提供される。
【0011】
本発明によれば、前記反応工程が前記プレート上の前記複数個の分析対象上に配置した前記固相担体に前記反応用液体を供給する工程である、前記方法も提供される。さらに、前記反応工程が真空下のキャビティに収容される前記プレート上の前記分析対象に前記固相担体を介して前記反応用液体を供給する工程である、前記方法も提供される。さらにまた、前記反応工程が前記キャビティ内を真空吸引して前記反応用液体を前記キャビティから除去することを含む工程である、前記反応方法も提供される。また、前記反応工程は、前記キャビティ内を加温することを含む、前記方法も提供される。
【0012】
本発明によれば、前記固相担体が多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質である、前記方法も提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、前記反応工程後の分析対象について質量分析を実施する工程を備える、前記方法も提供される。
【0014】
また、本発明によれば、前記反応工程に先だって、分析対象について質量分析工程を実施する、前記方法も提供される。また、前記質量分析工程が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置を用いて質量分析を実施する工程である、前記方法も提供される。
【0015】
本発明によれば、前記分析対象はペプチドであり、前記反応工程は、ペプチドのN末端切断反応を実施する工程である、前記方法も提供される。
【0016】
本発明によれば、プレート上の複数個の分析対象に対する反応装置であって、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、前記反応容器の前記キャビティ内を真空吸引可能に連結される真空吸引系と、前記反応容器の前記キャビティ内の前記固相担体に前記反応用液体を供給可能に連結される反応用液体供給系と、を備える、装置が提供される。
【0017】
本発明によれば、前記固相担体は、前記プレート上の前記ぺプチドサンプルの保持領域上に載置可能に形成されている、前記装置も提供される。さらに、前記固相担体は、多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質である、前記装置も提供される。さらにまた、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析用である、前記装置も提供される。
【0018】
本発明によれば、プレート上の複数個の分析対象用の反応容器であって、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、を備える、反応容器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のプレート上の複数個の分析対象に対する反応方法は、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを準備する工程と、前記プレート上の前記複数個の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程と、を備える、方法を備えることができる。
【0020】
本発明の方法によれば、上記反応工程を備えることから、プレート上の複数個の分析対象に対して確実にまたほぼ均等な量の反応用液体を供給することができる。このため、プレート上において分離した複数個の分析対象に対して所望の反応を実施することができる。また、多数個の分析対象に一括して反応用液体を供給できるため、効率的に反応を実施することができる。さらに、簡易に自動化も可能である。
【0021】
また、本発明のプレート上の複数個の分析対象に対する反応装置は、前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、前記反応容器の前記キャビティ内を真空吸引可能に連結される真空吸引系と、前記反応容器の前記キャビティ内の前記固相担体に前記反応用液体を供給可能に連結される反応用液体供給系と、を備えことができる。
【0022】
本発明の装置によれば、通気可能な空隙を有しぺプチド反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体をキャビティ内に有し、この固相担体に反応用液体を供給することで確実に反応用液体をプレート上の分析対象に供給できる。このため、確実にプレート上のぺプチドサンプルにつきぺプチド反応を実施することができる。また、キャビティ内が真空吸引可能であるため、反応用液体の結露を抑制するとともに気化を促進して過剰な反応用液体の供給を回避できる。さらに、過剰な反応用液体を吸引除去することができる。このため、複数種類の反応用液体を次々に添加することができ、複数段の反応も可能となっている。
【0023】
以下、本発明の実施の形態として、プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法びプレート上の複数個の分析対象用の反応装置並びにこれらの適用について、適宜図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の反応方法のフローの一例を示し、図2には、本発明の反応方法に用いるプレートの一例を示し、図3には、本発明の反応方法における反応工程の模式図を示す。また、図4には、本発明の反応装置の概略を示す。なお、参照する図面は本発明の実施形態を説明のために示す一実施形態であり、本発明を限定するものではない。
【0024】
(プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法)
(分析対象が保持されたプレートの準備工程)
本発明の反応方法は、プレート準備工程を備えることができる。プレート準備工程は、複数個の分析対象が保持されたプレートを作製又は入手等して準備する工程である。
【0025】
(プレート)
プレート110は、分析目的等に応じた形態を採ることができ、その形態は限定されない。プレート状であれば円形であっても方形状であってもよい。プレート110は、分析対象が保持される分析用セルの領域が明示されていることが好ましい。なお、分析用セルとは、1種又は2種以上の分析対象が保持される領域であり、反応工程においては反応領域でもある。なお、分析対象がまとまりをもって保持されたプレート上の領域(スポット等)は、分析用セルが明示されていない場合であっても、分析用セルを構成することができる。
【0026】
プレート110が2個以上の分析用セルを有している場合、これらの分析用セルは、一定形態で配列されていることが好ましく、それぞれ固有の位置情報(例えば数字、記号等あるいはこれらの組み合わせ)により関連付けられていることがより好ましい。すなわち、分析用セルのそれぞれのプレート上における位置が特定されていることが好ましい。分析用のセルが固有の位置情報に関連付けられて、その位置が特定されていることにより、分析工程を容易化することができるとともに、分析工程後の解析を容易化でき、結果としてプレート上に多くの分析用セルを保持させたときの分析を高速化することができる。例えば、MALDIによる場合、プレート上に配列された分析用セルに順次レーザーを照射して、セルに含まれる分析対象を脱離・イオン化させることで、大量の分析用セルについて解析を容易にかつ迅速に行うことができる。
【0027】
図2には、複数個の円形の分析用セルが凹状のスリットで区画されて、マトリックス状に配列されたプレート110を示す。
【0028】
プレート110は、多孔質性であるなど液体透過性であってもよいし、緻密質あるいは撥液性を有するなどにより液体不透過性であってもよいが、好ましくは、液体不透過性である。液体透過性であることにより、分析対象がプレート内部に保持されることになり、後述する質量分析工程におけるイオン化効率が低下し、また、質量分析の精度が低下する傾向がある。材料が緻密質であって液体不透過性であるプレートであることがより好ましい。なお、プレート110は、分析対象領域を構成する表層部分のみが後述するプレート110として好ましい材料で構成されていてもよい。
【0029】
プレート110は、耐食性を備えていることが好ましい。耐食性を備えることが好ましい酸としては、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸並びに酢酸、トリフルオロ酢酸などのハロゲン化有機酸、有機スルホン酸などの有機酸が挙げられる。なかでも、ペプチドの解析を考慮すれば、一般にペプチドの修飾反応や分解反応に用いられる有機酸に対する耐食性を備えていることが好ましい。典型的には、エドマン反応でのN末端アミノ酸の切断に用いる酢酸、トリフルオロ酢酸などのハロゲン化有機酸及び無水酢酸などの無水有機酸並びに塩酸などの無機酸が挙げられ、こうした酸に対する耐食性を備えていることが好ましい
【0030】
必要な耐食性を備えるプレート110上では、エドマン反応を始めとするぺプチドの修飾や切断反応が可能である。こうしたプレート110を本解析方法に用いることで、プレート110の材料の耐食性が低いことによる副生成物や副反応を考慮する必要がなくなる。また、プレート110は、メタノールやアセトニトリルなどに対する耐食性を備えていることが好ましい。溶媒の種類の選択自由度が向上されるからである。
【0031】
プレート110をLDI又はMALDIに適用する場合には、当該装置によって質量分析が可能な程度の導電性を備えることが好ましい。プレート110の備える導電性は、LDI又はMALDIによるレーザー脱離イオン化が可能であればよく、特に限定しないが、例えば、TOF
MSに用いられる場合においては、厚み方向の体積抵抗値(Ωcm)が2以上10000以下であるものを用いることができる。こうした体積抵抗値は、例えばJIS K7194によって測定することができる。
【0032】
プレート110を構成する導電性材料としては、例えば、置換又は置換されていないポリアセチレン、ジアセチレン重合体、置換又は置換されていないポリピロール、置換又は置換されていないポリチオフェン、ポリアニリンなどの本質的な導電性プラスチックのほか、プラスチックやシリコーンなど高分子材料に金属粉末や繊維又はカーボンブラックやグラファイトの粉末や繊維などの導電性材料を分散複合した複合導電性高分子材料が挙げられる。本発明においては、耐食性の観点から、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリプロピレン等を用いることが好ましい。
【0033】
このような導電性高分子材料は、分析対象を保持するのに都合のよい官能基を備えることができる。こうした官能基は、予め高分子材料の合成時にモノマー等が備えることもできるし、合成後にプレートの表面に対して後修飾によって導入されてもよい。例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基、カルボジミド基、活性エステル基を導入することが挙げられる。例えば、DNAやRNAなどの核酸を保持するのに好ましい官能基には、N−ヒドロキシスクシンイミド基、カルボジミド基、エポキシ基、ホルミル基などが挙げられ、ペプチドを保持するのに好ましい官能基には、N−ヒドロキシスクシンイミド基、カルボジミド基、エポキシ基、ホルミル基、金属キレートが挙げられる。
【0034】
また、他の導電性材料としては、導電性セラミックス材料が挙げられる。例えば、炭化ケイ素(SiC)、グラファイトなどの非酸化物系セラミックスが挙げられる。また、絶縁性セラミックスのマトリックスに金属や導電性セラミックス材料の粒子を混合した複合導電性セラミックス材料なども挙げられる。
【0035】
好ましい導電性セラミックス材料は、グラファイトであり、より好ましくは、その表面にガラス状炭素又は熱分解炭素による表面処理層を有するグラファイトである。こうしたグラファイトによれば、グラファイトの離脱が抑制されるとともに、導電性のみならず耐溶剤性、繰り返し使用性に優れるプレートとして用いることができる。なかでも、熱分解炭素による表面処理層を有するグラファイトは、炭素粒子の脱落が一層抑制されるとともにアセトニトリルなどの溶剤に対する優れた耐溶剤性、酸やアルカリなどに対する耐腐食性及び強度、繰り返し使用性等を有しているため、より好ましい。これらの表面処理層を有するグラファイト材料は、いずれも、金属製プレートに貼着することなくそれ自体単独でMALDIに適したプレートを構成することができる。
【0036】
ガラス状炭素による表面処理層を有するグラファイトとしては、ガラス状炭素をフラファイト表面及び内部にまで含侵させた材料を好ましく用いることができる。含侵深さは、例えば、1mm以上であることが好ましく、より好ましくは10mm以下である。こうしたグラファイト材料は、例えば、VGI(イビデン株式会社の黒鉛製品)として入手することができる。また、熱分解炭素による表面処理層を有するグラファイトとしては、炭素の化学蒸着による皮膜を有するグラファイトを用いることができる。好ましくは、グラファイトは等方性黒鉛である。こうしたグラファイト材料は、例えば、パイロカーブ(イビデン株式会社の黒鉛製品)として入手することができる。
【0037】
(分析対象)
本反応方法における分析対象は、特に制限なく、DNAやRNA、DNA/RNAキメラ、DNA/RNAハイブリッドなどの形態のポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、多糖類、糖タンパク質、脂質、PNA(ペプチド核酸)などが挙げられる。このような生体高分子は分析のために化学修飾が施されて誘導体化されていてもよい。また、分析対象としては、こうした生体高分子のほか、天然又は人工の有機化合物が挙げられる。こうした分析対象は、細胞や菌体抽出物、発酵産物、無細胞系抽出物、PCR産物、人工的な合成産物、タンパク質の酵素処理物等に含まれている。また、本発明における分析対象は、本発明のプレートが質量分析に適していることから、質量分析、特に、MALDIによって分析可能なあるいは分析するのが適した化合物であることが好適である。
【0038】
(分析対象が保持されたプレート)
分析対象は、少なくともプレート上において後述する反応工程を実施するまで一定位置に保持されればよい。したがって、プレート上への保持の形態は特に限定されないが、分析後の分析対象が洗浄等により容易にプレートから除去可能な程度の固定状態であっても、その分析対象はプレートに保持されているといえる。分析対象の保持形態は、特に限定されない。例えば、イオン結合、水素結合、静電的相互作用、疎水性相互作用、キレート等の非共有結合性の結合にて保持されていてもよいし、共有結合によって保持されていてもよい。また、こうした化学的結合以外であってもよく、プレート110表面上の単に表面に分析対象が存在している場合であっても、分析するときまで当該表面に保持されている限り、この分析対象は保持されているといえる。固定形態は、分析対象の種類とプレートの材料や表面修飾等によって種々の形態がありうるが、質量分析におけるイオン化を考慮すれば非共有結合性の結合であることが好ましい。
【0039】
分析対象は、プレートの表面に直接に保持されてもよいが、間接的に、例えば、プレートの表面に直接保持された介在物を介してプレートに保持されていてもよい。例えば、プレートに、抗体又は抗原を保持しておき、このプレートに対して抗原又は抗体を供給して抗原抗体反応を行うことで、分析対象たる抗体又は抗原を、抗原−抗体複合体の形態で、プレートに保持されていてもよい。また、ヌクレオチド鎖間の対合する塩基間の水素結合による複合体形成(ハイブリダイゼーション)により分析対象たるオリゴヌクレオチド又は核酸などハイブリダイズ可能な化合物が保持されていてもよい。この場合、プレートに対して一定のヌクレオチド配列を有する核酸等を保持しておく。こうした抗原−抗体間の特異的な相互作用、レセプター−リガンド相互作用、ハイブリダイゼーションなど、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−核酸相互作用及びその他の各種相互作用、予めプレートに保持した介在物と分析対象との間の水素結合、親水性相互作用、疎水性相互作用、静電的相互作用及び、キレート作用等を利用して、分析対象がプレートに保持されてもよい。
【0040】
また、分析対象は、必要に応じて化学修飾がなされていてもよい。化学修飾の種類は特に問わない。
【0041】
(分析対象が保持されたプレートの作製)
分析対象をプレート上に直接保持するには、まず、分析対象をプレート上に供給する。分析対象は、プレート上で合成してもよいし、予め調製された分析対象をプレート上に供給してもよい。プレート上で直接分析対象を合成する場合としては、無細胞タンパク質合成系によりタンパク質を合成する場合や、プレート上でオリゴヌクレオチドを合成する場合が挙げられる。また、分析対象をプレートに供給するには、例えば、インクジェット法やピン法等を用いることができる。
【0042】
また、分析対象を含む混合物を電気泳動又はクロマトグラフィーなどの分離手法で分離した上でプレートに供給してもよい。特に、電気泳動やクロマトグラフィーで分離されたパターンに基づいて分離された成分をプレートに供給することが好ましい。こうすることで、各種分離手段によって分離された分析対象をその分離パターンに対応して個々に解析することができる。具体的には、電気泳動パターンは、ブロッティングを利用してそのままプレートに転写することができる。この場合、プレートは液体浸透性であることが好ましい。また、液体クロマトグラフィーからの溶離液を一定量毎にプレートにドット状又はストリーム状に滴下させることにより、各種の溶離画分をその分離パターンに対応して保持できる。
【0043】
なお、分析対象がペプチドやタンパク質などの高分子化合物である場合、質量分析で分析可能な分子量や得られる情報内容を考慮して、各種の分解酵素で適宜低分子化した上でプレート上に供給してもよい。例えば、タンパク質はトリプシンなどのプロテアーゼなどで処理すればよい。分解パターンについて解析できるほか、質量分析の精度が向上され、タンパク質の同定あるいはタンパク質の配列決定が容易化される。例えば、電気泳動で分離したバンドを含むゲル内でプロテアーゼを作用させて分解したタンパク質を分析対象としてもよい。また、こうして分解して小分子化したタンパク質をさらに液体クロマトグラフィー等で分離した上で分析対象としてプレートに供給することもできる。
【0044】
例えば、ぺプチドサンプルは、二次元電気泳動等の電気泳動、ナノLCなどの液体クロマトグラフィーなどにより予め適度に分離精製されていてもよい。また、これらの分離精製とは別個にあるいはプロテアーゼ等による分解反応、アミノ酸の修飾反応等が施されていてもよい。PMFの場合には、通常、二次元電気泳動で分離されたタンパク質をゲル中でプロテアーゼで分解し、分解物をプレートにブロットし、これを分析する。さらに、他の分析手段で既に分析されたものであるなど第1の質量分析工程に提供されるぺプチドサンプルに施されている処理については特に限定されない。
【0045】
なお、電気泳動としては、アガロースゲル電気泳動、変性アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミド電気泳動、SDSポリアクリルアミド電気泳動、等電点電気泳動及び二次元電気泳動などが挙げられる。また、液体クロマトグラフィーとしては、マイクロキャピラリーあるいはナノキャピラリーを用いた液体クロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0046】
また、分析対象を間接的にプレート上に保持するには、まず、分析対象を間接的に保持するための介在物が保持されたプレートを用意する。介在物とは、上記したように、例えば、タンパク質や核酸等である。こうした介在物をプレート上に供給し保持するには、上記のような方法を適宜用いることができる。また、分析対象を保持するには、こうして介在物を保持したプレートに対して、分析対象を含有する試料を供給し、意図した相互作用を生じさせて、分析対象を、介在物を介して分析対象をプレートに保持する。
【0047】
こうして分析対象をプレート上に供給した後、分析対象はプレートに保持される。最も簡易には、分析対象を供給する際に用いた水などの媒体を蒸発させ乾燥させることで分析対象をプレートに保持することができる。また、プレートあるいはプレート表面の官能基と分析対象とを共有結合を介して保持するときには、分析対象とともにあるいは別個に必要な試薬をプレート上に供給し反応させることで分析対象をプレートに保持できる。その他、保持形態に応じて必要な条件を付与することができる。
【0048】
(反応工程)
分析対象をプレート上に保持した後、プレート上の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程を実施する。図3に反応工程の一例を模式的に表す。固相担体20をプレート110の分析用セル上に載置又は近接させて用い、固相担体20に対して反応用液体を供給し、固相担体20を介して目的のぺプチドサンプルに反応用液体が到達するようにすることで、プレート110上の多数個のぺプチドサンプルについて、均一にかつ確実に適量の反応用液体を供給することができる。特に、多数個の分析セルをマトリックス状に備えるプレート110を用いる場合において好ましい。また、過剰量の反応用液体が供給されることを防いで、隣り合う分析セル同士のぺプチドサンプルやその反応物がコンタミするのを防ぐことができる。
【0049】
固相担体20は、通気可能な空隙を備えるとともに少なくとも一時的には反応用液体を保持することができるものであればよい。例えば、一般的にはフィルターとして機能することができ、多孔質体、繊維の交絡体、織成体、編成体を用いることができる。材質としては、ガラス、セラミックス、セルロースなどの天然高分子繊維材料又は人工高分子繊維材料等を用いることができる。好ましくは、多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質であり、より好ましくは多孔質ガラス質である。ガラス質であると、分析対象と反応用液体との混合物が付着しても固相担体20側に浸透しにくいからである。固相担体20の形状は特に限定しない。プレート110のぺプチドサンプル保持領域の輪郭に沿ったあるいは当該輪郭よりも大きな外形を備えることが好ましい。なお、固相担体20は、単一の材料で構成されていてもよいが、2種類以上の材料で構成されていてもよい。例えば、気孔率やポアサイズの異なる層体を複数積層した積層体として構成することもできる。
【0050】
固相担体20は、プレート110上の分析セルの上方に近接して配置されるか又は分析セル上に載置される。分析セル上に載置されることで、確実にかつ均一に反応用液体がプレート110上の分析対象に供給される。
【0051】
反応用液体の固相担体20への供給方法は、固相担体20を介してプレート110の分析セル内の分析対象に到達されるかぎり、特に限定されない。好ましくは、固相担体20に滴下、注入、噴霧等により供給する。固相担体20内に均一に反応用液体を保持させることで、複数の分析セルに対して均一にかつ確実に判別用液体を供給できる。固相担体20に供給された反応用液体は、固相担体20に一時的に保持されるが、その後、固相担体20の下方にのプレート110の分析セル側に移動し、分析対象に到達される。なお、反応用液体は、1種類又は2種類以上を用いることができ、2種類以上を用いる場合には逐次的又は同時的に供給することができる。
【0052】
一方、反応用液体を分析用セルから除去するときには、プレート110を放置したり分析用セルに送風したりすることのほか、プレート110を加温するあるいはプレート110が存在する雰囲気を加温することができる。反応用液体の蒸発除去にあたって、固相担体20を分析用セル上に載置した状態であっても固相担体20は通気可能であるため、分析用セルからの反応用液体の除去を妨げることがない。また、同時に、固相担体20からも反応用液体が除去される。
【0053】
本反応工程は、プレート110を収容する真空吸引可能なキャビティ10で行われることが好ましい。真空吸引により、反応後の過剰な反応用液体を速やかに分析セルから除去することができる。また、キャビティ内を予め真空にしておくことにより、キャビティ内に供給される反応用液体の結露を防いで反応用液体の均一な供給を確保することができる。さらに、反応用液体をガス化した状態で分析用セルに供給することもでき、一層均一に各分析用セルで反応を生じさせることができる。
【0054】
また、本反応工程は、プレート110又はキャビティ10内を加温した状態で行うことが好ましい。加温により反応時間を短縮できるほか、反応用液体の結露の抑制及び反応用液体の除去時間を短縮することができる。好ましくは、キャビティ10内を加温することで、固相担体20も加温しておく。さらに、加温した反応用液体自体を供給することが好ましい。
【0055】
本反応工程は、少なくとも反応用液体を、固相担体20を介して分析用セル内の分析対象に供給して反応させることを含み、必要に応じ反応用液体の除去、別の1又は2以上の反応用液体の供給・反応及び除去を含むことができる。また、本反応工程は、一つの反応を複数サイクル実施するものであってもよいし、異なる反応を組み合わせて実施するものであってもよい。
【0056】
本反応工程でいかなる反応を実施するかは、分析対象や分析の目的によって選択される。例えば、分析対象がタンパク質、ペプチド等の場合には、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(FNDB)や5−ジメチルアミノナフタレン−1−スルホニルクロリド(ダンシルクロリド)との反応や、エドマン試薬(フェニルイソチオシアネート)と無水酸とによるエドマン法やその変法によるN末端アミノ酸切断反応等が挙げられる。
【0057】
分析対象がタンパク質又はペプチドであるとき、本反応工程でエドマン法及びその変法によるN末端アミノ酸切断反応工程を実施することで、N末端アミノ酸を容易に決定することができる。反応用液体としては、フェニルイソチオシアネート(PITC)、イソシアネート(ITC)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)及びメチルイソチオシアネート(MITC)などから選択される1種又は2種以上の修飾用試薬として用いることができる。例えば、これらをそれぞれ単独で用いてもよいし、PITCにITC、FITC及びMITCのいずれかあるいは2種類以上を加えてもよい。カップリング試薬を複数組み合わせると、N末端にカップリングする修飾基を変えることができる。異なる修飾基をN末端に備えることで、後段で酸を添加したときのN末端アミノ酸切断反応の反応性が変わり、同一の反応条件であっても、N末端アミノ酸の切断反応の程度を調整して、N末端アミノ酸の切断程度が異なる反応生成物を得ることができる。なお、温度、時間等他の条件によってもN末端切断反応の進行程度を調整することができる。
【0058】
まず、プレート110を収容したキャビティ10を減圧状態とした後密閉し、修飾用試薬を固相担体20の上方から固相担体20に噴霧等して供給して修飾反応を実施する。所定時間経過後、キャビティ10内を真空吸引して修飾用試薬を除去した。再びキャビティ10内を減圧状態として密閉し、塩酸などの酸を固相担体20に噴霧等して供給して分解反応を実施する。所定時間経過後、キャビティ10内を真空吸引して酸を除去する。
【0059】
以上の結果、プレートの分析用セル内には、(1)反応生成物の一方である切断されたN末端アミノ酸残基の誘導体と、(2)他の一方であるN末端アミノ酸残基が切断されたフラグメント(被エドマン反応物)の他、N末端アミノ酸の切断反応が完全に完了しなかった場合には、(3)カップリングされていないかカップリングされたが切断されていない未切断のタンパク質やペプチドの修飾体(カップリング体)が存在することができる。ここで、上記(2)がエドマン反応又はその類似反応の反応生成物であり、上記(3)がエドマン反応又はその類似反応の反応未反応物である。
【0060】
これらのうち、(2)及び(3)は、N末端アミノ酸残基分が異なるだけであるので、後段の質量分析工程で、これらのフラグメントの質量の差を計測し、比較することで、N末端アミノ酸残基を決定することができる。なお、(3)についての質量情報は、予め分析対象について質量分析工程を実施しておくことで取得しておくこともでき、そうした質量情報を利用することもできる。
【0061】
こうした反応工程を複数実施して、さらに、複数種類の上記(2)の反応生成物を生じさせ、これらをと質量分析工程とを必要な回数繰り返し行うことで、N末端アミノ酸配列を決定することができるが、これについては後段で詳細に説明する。
【0062】
(反応前の分析対象の質量分析工程)
図1にも示すように、本反応工程に先だって、質量分析工程を実施してもよい。反応前の分析対象につき質量分析工程を実施しておくことで、反応前の分析対象の質量情報を取得できる。この反応前の分析対象の質量情報を反応後に質量分析工程を実施して得られる質量情報の解析時に参照することで、反応後の分析対象の質量情報に基づく解析をより正確に行うことができる。こうした、反応工程前の質量分析工程は、後段で実施する質量分析工程と同一であっても異なっていてもよい。先の質量分析工程をMALDIで行ってマトリックスを用いても、マトリックスが後段の反応工程や質量分析工程での質量分析を阻害することを回避することができる。好ましくは、後段での質量分析工程と同一の分析手法による質量分析工程を実施する。より簡易により正確な質量分析が可能となるからである。
【0063】
(反応後の分析対象の質量分析工程)
図2に示すように、反応工程後には、反応後の分析対象の質量分析工程を実施することができる。この質量分析工程は、プレート上の分析用セル内の反応生成物を含む分析用セルの内容物の質量を分析する工程である。質量分析工程で用いる質量分析手法としては、特に限定されない。
【0064】
イオン化法としては、マトリックスを使用しないレーザー脱離イオン化(LDI)、マトリックスを使用するマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)を用いることが好ましい。なかでも、ペプチドにはMALDIを用いることが好ましい。
【0065】
MALDIに用いるレーザーとしては、N2、Nd−YAG、CWCO、TEA−CO2、アルゴンなどが用いられる。また、MALDIに用いるマトリックスとしては、特に限定しないが、ニコチン酸、2−ピラジンカルボン酸、シナピン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、5−メトキシサリチル酸、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、3−ヒドロキシピコリン酸、ジアミノナフタレン、2−(4−ヒドロキシフェニラゾ)安息香酸、ジスラノール、コハク酸、5−(トリフルオロメチル)ウラシル,グリセリンなどを用いることができる。マトリックスの分析対象に対する添加量等は特に限定しないで従来公知の範囲で適宜設定することができる。
【0066】
質量分析手法としては、磁場偏光型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロン型、タンデム型などの各種の質量分析部によることができる。LDI及びMALDIよる場合には、飛行時間型分析部を備えることが好ましい。汎用性等を考慮すると、MALDI−TOF MS装置を利用することが最も好ましい。
【0067】
本質量分析工程により、反応後の分析対象の質量情報を取得できる。この質量情報は、構造既知あるいは未知の分析対象について新たな情報を含んでおり、分析対象の同定、構造決定及び機能研究に有用である。特に、反応前の分析対象の質量情報と組み合わせることにより、分析対象について精度の高い解析が可能となる。例えば、分析対象がペプチドやタンパク質である場合であって、反応工程としてN末端アミノ酸切断反応を1サイクル又は2サイクル以上実施することで、本質量分析工程で1種又は2種以上のN末端切断後のフラグメントの質量情報を取得できる。こうした反応後の質量情報と反応前の質量情報とを組み合わせると、各種フラグメントの質量の差から分析対象のN末端配列を正確に決定することができる。反応後の分析用セル内にも未切断物として反応前の分析対象が残存することもあり、こうした未切断物の質量情報を得ることができる場合もある。
【0068】
質量分析工程は、反応工程後に実施する。一つの反応工程に異種又は同種の2以上の小工程からなる場合、当該小工程を全て完了した後に質量分析工程を実施することもできるし、当該小工程毎あるいは複数の小工程毎に中間的な質量分析工程を実施してもよい。
【0069】
たとえば、ペプチドのN末端アミノ酸のみを決定する場合には、反応工程として上記したように二つの小工程からなる一つのアミノ酸切断反応工程を完了後に質量分析工程を実施する。一方、ペプチドのN末端アミノ酸配列を2以上決定する場合には、二つのアミノ酸切断反応工程を実施する。この場合には、各アミノ酸切断反応工程毎に質量分析工程を実施してもよいし、2又は3以上若しくは全てのアミノ酸切断工程後に質量分析工程を実施してもよい。効率的にN末端アミノ酸配列を決定するには、複数サイクルの切断工程を実施後に質量分析工程を実施することが好ましい。
【0070】
本発明の反応方法の典型例として以下の例が挙げられる。すなわち、タンパク質をトリプシンなどのプロテアーゼで分解した後、マイクロあるいはナノキャピラリー液体クロマトグラフィーにて分離し、溶離液をプレート上に多数個のスポットとして配列して滴下し乾燥して、個々の分析用セルにプロテアーゼ分解産物が分析対象として保持されたプレートを準備する。次に、これらの分析用セルを対象として、MALDI−TOF
MSによる質量分析工程を実施して反応前の質量情報を取得する。次いで、各分析用セルを対象として、1又は2サイクル以上のN末端アミノ酸切断反応工程を実施する。その後、反応後の分析対象につき質量分析工程を実施して、反応後の分析対象についての質量情報を取得する。
【0071】
なお、本発明の反応方法における反応後の分析対象は、質量分析以外の方法でも分析することもできる。また、質量分析と質量分析以外の分析とを組み合わせてもよい。分析対象が蛍光試薬や発色試薬等により標識される場合には、プレート上のこうした蛍光や発色などを検出する方法を採用することができる。
【0072】
(反応装置)
次に、本発明の反応装置を図4を参照しながら説明する。本反応装置は、上記した本発明方法を実施するのに適した反応装置である。図4に示すように、本装置2は、質量分析装置100のぺプチドサンプルを保持するプレート110を収容可能する反応容器4と、反応容器4のキャビティ10内に収容可能である固相担体20と、反応容器4のキャビティ10内を真空吸引可能に連結される真空吸引系40と、キャビティ10内に反応用液体を供給可能な反応用液体供給系60とを備えている。
【0073】
質量分析装置100としては、既に説明したように、質量分析工程で用いることができるイオン化及び質量分析手法に備える装置を用いることができる。本装置を適用する質量分析装置100としては、MALDI−TOF MS装置とすることが最も好ましい。また、プレート110としては、既に本発明の反応方法で説明したとおりである。
【0074】
(反応装置)
次に、反応装置2について説明する。反応容器4は、プレート110を収容可能であり、適度な容積のキャビティ10を構成している。反応容器4はこうしたキャビティ10を構成できれば、その大きさや形状は特に限定されない。反応容器4は、好ましくは、プレート110の出し入れを考慮して、開閉可能な分割式となっていることが好ましい。例えば、図4に示すように、プレート110を載置可能なプレート部6と蓋体8との組み合わせとすることもできるし、プレート110を載置可能な底部を有する凹状の容器本体と蓋体との組み合わせとすることもできる。プレート110を載置する部位には、プレート110の位置決めのためのプレート110の外形に沿う凹部あるいは目視可能なマークあるいはラインを備えることができる。
【0075】
反応容器4には、キャビティ10内の空気などのガスを真空吸引可能に真空吸引系40が接続されている。真空吸引口はキャビティ10内のいずれの箇所であってもよいが、例えば、図4に示すように、キャビティ10の中央上部とすることもできる。
【0076】
反応容器4は、真空吸引系40を作動させてキャビティ10内の空気などを吸引した場合に得られる減圧状態に耐えるのに都合がよい強度と気密性とを有することが好ましい。反応容器4において気密性を確保する手法においては特に問わないで公知の手法を採用することができる。図4に示す例では、プレート部6に対して気密性のOリングを介して蓋体8をセットし、スクリューでプレート部6に対して蓋体8を圧締することができるように構成されている。こうした構成によれば、容易に反応容器4を開閉できるほか、反応容器4の剛性も容易に高めることができる。
【0077】
本装置2は、反応容器4のキャビティ10内に収容されるプレート10の分析用セル上に載置又は近接に配置可能な固相担体20を備えている。固相担体20は、好ましくはプレート110の分析用セル上に載置される。直接載置されることで、確実にかつ均一に反応用液体がプレート110上の分析対象に供給される。
【0078】
固相担体20は、既に説明したように、固相担体20の形状は特に限定しないが、プレート110の分析用セルの形成領域の輪郭に沿ったあるいは当該輪郭よりも大きな外形を備えることが好ましい。
【0079】
固相担体20をプレート110のぺプチドサンプル保持領域に載置又は近接させて用い、固相担体20に対して反応用液体を供給し、固相担体20を介して目的のぺプチドサンプルに反応用液体が到達するようにすることで、プレート110上の多数個の分析用セルの分析対象について、均一にかつ確実に適量の反応用液体を供給することができる。特に、多数個の分析用セルをマトリックス状に備えるプレート110を用いる場合において好ましい。また、過剰量の反応用液体が供給されることを防いで、隣り合う分析領域同士のぺプチドサンプルやその反応物がコンタミするのを防ぐことができる。
【0080】
真空吸引系40は、真空吸引源42を有し、バルブ80及びマニフォールド70を介して反応容器4のキャビティ10内のガスを吸引可能に接続されている。真空吸引源42と反応容器4のキャビティ10とは、マニフォールド70及びロータリーバルブ80のコンピュータ等によるポート制御によって吸引用ルートが適時に形成されるようになっており、これらマニフォールド70及びバルブ80によって、キャビティ10内の真空吸引の開始、停止及び減圧状態の維持等が可能になっている。
【0081】
真空吸引源42の前段には、必要に応じてトラップを備えることができる。例えば、図1に示すように、キャビティ10から混入した液体をトラップする液体トラップ部44とキャビティ10から吸引したガスなどを凝縮して液体としてトラップするガストラップ部46を備えることができる。
【0082】
反応用液体供給系60は、所望のぺプチド反応を実施するための1又は複数の反応用液体を供給可能に構成されている。反応用液体供給系60は、少なくとも反応用液体を貯留する貯留容器62を備えることが好ましい。ぺプチド反応に用いる反応用液体が1種類のときには、貯留容器62がロータリーバルブ80によるポート制御によって反応容器4にまでの流路が適時に開通され、反応用液体がキャビティ10内にまで到達されるようになっている。
【0083】
また、反応用液体を2種類以上を用いるときには、それぞれの反応用液体について貯留容器62を備え、ロータリーバルブ90がこれらの貯留容器62内の各液体が適時にロータリーバルブ80における反応用液体の流路に接続されるようにポート制御するようになっている。なお、必要に応じて反応用液体の種類を増やすことができる。その場合には、それに応じたバルブ数を有するロータリーバルブを用いればよい。
【0084】
こうした反応装置2を構成する反応容器4、反応用液体供給系60及びロータリーバルブ80、90を含む流路系の温度を一定の保つ保温装置200を備えることができる。保温装置200は、図4に示すようにヒーティングバス状であってもよいが、その形態は特に限定されない。保温装置200は、適度に反応容器4等を加温するものであることが好ましく、加熱手段を備えることが好ましい。
【0085】
次に、本装置2の使用方法について説明する。以下、分析対象をペプチドとし、ペプチド切断反応を実施する使用について説明する。まず、1又は2以上の分析対象が複数の分析用セルに供給されたプレート110を準備する。このプレート110をプレート部6の所定位置に載置するとともに、このプレート110上に固相担体20を載置した後、蓋部8に対してキャビティ10を構成するようにプレート部8をセットし気密状態とする。この後、バルブ80のポート制御により真空吸引系40を作動させて、キャビティ10内を真空吸引して、所定の真空状態とする。
【0086】
所定の真空状態が形成されたら、真空状態を維持しつつバルブ80、90のポート制御によりMITC溶液などの反応用液体を貯留容器62によりキャビティ10内の固相担体20に供給する。この後、キャビティ10を密閉して所定時間維持してペプチドカップリング反応を実施する。その後、バルブ80のポート制御により真空吸引系40を作動させて、キャビティ10内の真空吸引し気化したMITC溶液を蒸発させて吸引除去する。
【0087】
MITC溶液を除去後、所定の真空状態となったら、バルブ80,90のポート制御により他の反応用液体である塩酸を貯留容器62よりキャビティ10内の固相担体20に供給する。この後、キャビティ10を密閉して所定時間維持してアミノ酸切断反応を実施する。その後、バルブ80のポート制御により真空吸引系40を作動させて、キャビティ10内を真空吸引し気化した塩酸を吸引除去する。
【0088】
こうした反応装置2により反応を終了したのち、反応後の分析対象を保持するプレート110を質量分析工程等に供することができる。
【0089】
本装置2によれば、本発明の反応方法を効率的に実施できる。また、本反応装置2は、必ずしも質量分析用に限定されるものではなく、複数個、特にマトリックス状に多数個配列された分析対象について効率的に反応用液体を供給して反応させるのに適した装置である。その場合には、プレート110は質量分析に適用可能な材料等に構成する必要はなく、他の分析手法で許容される材料や形状とすることができる。
【0090】
また、バルブ80,90におけるポート制御をコンピュータなどにより制御することで、反応装置2における反応を自動化することができる。反応を自動化できることで、より効率的で均質な反応が可能となる。また、温度制御も同様にコンピュータにより自動制御することができる。
【0091】
(プレート上の複数個の分析対象用の反応容器)
既に説明した反応容器4と固相担体20とは、プレート上の複数個の分析対象用の反応容器として用いることができる。この反応容器によれば、複数個の分析対象に対して一挙に均一かつ確実に反応用液体を供給できる。このため、プレート上での複数個、特に多数個の分析対象について液体を供給してなんらかの反応を行うのに適している。
【0092】
(プレート上の複数個の分析対象に対して反応を実施するための補助部材)
既に説明した固相担体20は、プレート110上の複数個の分析対象に対して反応を実施するための補助部材として、より具体的には反応用液体を供給するための補助部材として用いることができる。こうした固相担体20をプレート110上の分析用セルに近接し又は分析用セル上に載置して用いることで、均一かつ確実に反応用液体を複数個の分析対象に反応用液体を供給することができる。
【0093】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0094】
本実施例では、パイロカーブ(いずれもイビデン株式会社製)のプレートをプレートとして用いた。すなわち、このグラファイトプレートをMALDI−TOF質量分析装置(ABI
Voyager DE−STR MALDI TOF型質量分析計)の金属製プレートと同じ大きさに調製し、アンジオテンシン(angiotensin、MW1293)を0.5pmol/μlを0.5μlを塗布した上、これらをそれぞれプレートとして用いてレーザー強度を1100として質量分析を行った。なお、マトリックスは、α−シアノ−4−ヒドロキシケイヒ皮酸(CHCA)を用いた。マトリックスは、CHCAの過飽和溶液の1/5、1/25、1/125、1/625のそれぞれの希釈倍率で希釈し各希釈液0.5μlを用いた。結果を図5に示す。
【0095】
図5に示すように、いずれの分析対象においても、分子量イオンを検出することができ、バックグラウンドノイズも良好であった。
【0096】
次に、図4に示す反応装置2において、反応容器4をプラスチック製とし、固相担体20をディスク状のガラスフィルターとし、貯留容器62には、5w/v%MITCのヘプタン溶液:30%トリエチルアミン(TEA)水溶液混液(2:1(体積比))(以下、単にMITC溶液という。)及び6N塩酸をそれぞれ充填したものを用いて以下の反応を実施した。
【0097】
すなわち、反応容器4のプレート部6に先に調製したプレートをセットし、蓋部8でキャビティ10を密閉した。この後、ヒーティングバスである保温手段200の保温温度を80℃にセットした。保温手段200内の各部が85℃に到達した後、真空吸引系40を作動させて15分間キャビティ10内を吸引してキャビティ10内を高真空状態とした。
【0098】
その後、真空吸引を停止し真空状態を維持しつつ、MITC溶液300μlをキャビティ10内の固相担体20に噴霧し、真空状態を維持して5分間維持してMITCによる修飾反応を実施した。その後、キャビティ10内を20分間吸引して乾燥させ、気化した又は液体のMITC溶液を除去した。
【0099】
次に、6N塩酸100μlをキャビティ10内の固相担体20に噴霧し、真空状態を維持して10分間維持して塩酸による切断反応を実施した。その後、キャビティ10内を25分間吸引して乾燥させ、気化した又は液体の塩酸溶液を除去した。
【0100】
以上のようなMITC溶液の供給、除去及び6N塩酸の供給及び除去の工程を1サイクルとして、1サイクル実施後に質量分析を実施するほか、2サイクル実施後に、質量分析を実施した。質量分析は、実施例1で使用したMALDI−TOF質量分析装置を用いて同様に行った。なお、マトリックスは、1/125希釈倍率のHCA溶液0.5μlを使用した。結果を、図6及び図7に、それぞれ1サイクル実施後及び2サイクル後のチャート示す。
【0101】
図6に示すように、1サイクル実施後のチャートによれば、反応前の質量分析工程で用いたマトリックス希釈倍率に関わらず、分子量1294のイオン及びN末端のアミノ酸1つを失ったペプチドの分子量1180のイオンを検出できた。また、反応前に用いたマトリックスの希釈倍率が大きいほど、安定したイオンが検出できる傾向があることがわかった。
【0102】
また、図7に示すように、2サイクル実施後のチャートによれば、アンジオテンシンのN末端から2つアミノ酸を失った分子量1024のイオンを検出できた。
【0103】
以上のことから、MALDIによる質量分析後のプレート上の分析対象に対して反応を実施した後も、再びMALDIによって質量分析が可能であることがわかった。また、こうした方法により、ペプチドのN末端を容易に決定できることがわかった。さらに、先の質量分析工程におけるマトリックスの希釈倍率は、1/5以上1/625以下であり、より好ましくは、1/25以上であり、さらに好ましくは1/125以上であることがわかった。
【0104】
また、以上の結果から、アンジオテンシンのN末端のアミノ酸配列は、既に同定されている配列と同一であることがわかった。
【実施例2】
【0105】
本実施例では、実施例1と同様にパイロカーブ製プレートを用い、サンプルとしてアンジオテンシン(MW1294)を0.5pmol/μlを0.5μlを塗布した上、これをプレートとして用いてレーザー強度を900として質量分析を行った。なお、マトリックスは、α−シアノ−4−ヒドロキシケイヒ皮酸(CHCA)を用いた。マトリックスは、CHCAの過飽和溶液の1/125の希釈倍率で希釈した希釈液0.5μlを用いた。結果を図7に示す。
【0106】
実施例1と同様の1サイクルを3回実施後に、質量分析を行った。質量分析は、実施例1で使用したMALDI−TOF質量分析装置を用いて同様に行った。なお、マトリックスはCHCAの過飽和溶液原液0.5μlを使用した。結果を、図8に示す。
【0107】
図8に示すように、全てのチャートにおいて、4種の分子量イオン(完全長ペプチド、N末端1アミノ酸喪失断片、2アミノ酸喪失断片及び3アミノ酸喪失断片)を検出することができた。このペプチドのN末端の3アミノ酸は、実際の配列と同一であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の反応方法のフローの例を示す図である。
【図2】本発明の反応方法で用いるプレートの一例を示す図である。
【図3】本発明の反応工程の模式図を示す図である。
【図4】本発明の反応装置の概略を示す図である。
【図5a】実施例1で得られた反応前のアンジオテンシンのMALDI−TOFMSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/5である。
【図5b】実施例1で得られた反応前のアンジオテンシンのMALDI−TOF MSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/25である。
【図5c】実施例1で得られた反応前のアンジオテンシンのMALDI−TOF MSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/125である。
【図5d】実施例1で得られた反応前のアンジオテンシンのMALDI−TOF MSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/625である。
【図6】実施例1で得られた1サイクルのN末端アミノ酸切断反応実施後のMALDI−TOFMSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/125である。
【図7】実施例1で得られた2サイクルのN末端アミノ酸切断反応実施後のMALDI−TOFMSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/125である。
【図8】実施例2で得られた3サイクルのN末端アミノ酸切断反応実施後のMALDI−TOFMSによるチャートを示す図である。マトリックス飽和溶液の希釈倍率は1/125である。
【符号の説明】
【0109】
2 反応装置、4 反応容器、6 プレート部、8 蓋部、10 キャビティ、20 固相担体、40 真空吸引系、 60 反応用液体供給系、70 マニフォールド、 80,90 ロータリーバルブ、100 質量分析装置、110 プレート、200 保温装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法であって、
前記複数個の分析対象が保持されたプレートを準備する工程と、
前記プレート上の前記複数個の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程と、
を備える、方法。
【請求項2】
前記反応工程は、前記プレート上の前記複数個の分析対象上に配置した前記固相担体に前記反応用液体を供給する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応工程は、真空下のキャビティに収容される前記プレート上の前記分析対象に前記固相担体を介して前記反応用液体を供給する工程である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応工程は、前記キャビティ内を真空吸引して前記反応用液体を前記キャビティから除去することを含む工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記反応工程は、前記キャビティ内を加温することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記固相担体は、多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記反応工程後の分析対象について質量分析を実施する工程を備える、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記反応工程に先だって、分析対象について質量分析工程を実施する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記質量分析工程は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置を用いて質量分析を実施する工程である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記分析対象はペプチドであり、前記反応工程は、ペプチドのN末端切断反応を実施する工程である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
プレート上の複数個の分析対象に対する反応装置であって、
前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、
前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、
前記反応容器の前記キャビティ内を真空吸引可能に連結される真空吸引系と、
前記反応容器の前記キャビティ内の前記固相担体に前記反応用液体を供給可能に連結される反応用液体供給系と、
を備える、装置。
【請求項12】
前記固相担体は、前記プレート上の前記ぺプチドサンプルの保持領域上に載置可能に形成されている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記固相担体は、多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質である、請求項11又は12に記載の装置。
【請求項14】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析用である、請求項11〜13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
プレート上の複数個の分析対象用の反応容器であって、
前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、
前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、
を備える、反応容器。
【請求項1】
プレート上の複数個の分析対象に対する反応方法であって、
前記複数個の分析対象が保持されたプレートを準備する工程と、
前記プレート上の前記複数個の分析対象に、通気可能に空隙を有し少なくとも一時的に反応用液体を保持可能な固相担体を介して反応用液体を供給し、前記分析対象と前記反応用液体とを反応させる反応工程と、
を備える、方法。
【請求項2】
前記反応工程は、前記プレート上の前記複数個の分析対象上に配置した前記固相担体に前記反応用液体を供給する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応工程は、真空下のキャビティに収容される前記プレート上の前記分析対象に前記固相担体を介して前記反応用液体を供給する工程である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応工程は、前記キャビティ内を真空吸引して前記反応用液体を前記キャビティから除去することを含む工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記反応工程は、前記キャビティ内を加温することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記固相担体は、多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記反応工程後の分析対象について質量分析を実施する工程を備える、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記反応工程に先だって、分析対象について質量分析工程を実施する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記質量分析工程は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置を用いて質量分析を実施する工程である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記分析対象はペプチドであり、前記反応工程は、ペプチドのN末端切断反応を実施する工程である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
プレート上の複数個の分析対象に対する反応装置であって、
前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、
前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、
前記反応容器の前記キャビティ内を真空吸引可能に連結される真空吸引系と、
前記反応容器の前記キャビティ内の前記固相担体に前記反応用液体を供給可能に連結される反応用液体供給系と、
を備える、装置。
【請求項12】
前記固相担体は、前記プレート上の前記ぺプチドサンプルの保持領域上に載置可能に形成されている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記固相担体は、多孔質セラミックス又は多孔質ガラス質である、請求項11又は12に記載の装置。
【請求項14】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析用である、請求項11〜13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
プレート上の複数個の分析対象用の反応容器であって、
前記複数個の分析対象が保持されたプレートを収容可能なキャビティを構成する反応容器と、
前記キャビティ内に収容可能であり、通気可能な空隙を有するとともに反応用液体を少なくとも一時的に保持可能な固相担体と、
を備える、反応容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2008−261780(P2008−261780A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105815(P2007−105815)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(503152059)株式会社バイオロジカ (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(503152059)株式会社バイオロジカ (4)
【Fターム(参考)】
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