説明

プロスタグランジンを含有するカチオン性水中油型エマルジョンおよびその使用

本発明は、プロスタグランジンと、2以下のヨウ素価を有する油と、少なくとも1種の第四級アンモニウム化合物を含む1種または複数の界面活性剤と、水とを含み、界面活性剤の総質量に対するプロスタグランジンの質量比が0.5〜5の範囲であるコロイド状カチオン性水中油型エマルジョンに関する。本発明は、前記プロスタグランジンの安定性を高めるため、高眼圧症および/または緑内障の治療のため、睫毛の成長の促進のため、および/または睫毛の貧毛の治療のための前記カチオン性水中油型エマルジョンの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジンの局所投与のため、特に眼の病気または疾患、好ましくは目の内部、より具体的には前眼部に影響を及ぼす眼の病気(例えば、高眼圧症および/または緑内障)の治療のため、および睫毛の成長を促進するため、および/または睫毛の貧毛を治療するためのプロスタグランジンを含有するカチオン性水中油型エマルジョンに関する。本発明に係るカチオン性水中油型エマルジョンは、プロスタグランジンの化学的安定性を高めるための利点をさらに提供する。
【0002】
本発明では、「プロスタグランジン」という用語は、プロスタグランジン、その誘導体、前駆体、プロドラッグまたは類似体に対して区別なく使用される。
【背景技術】
【0003】
緑内障は眼内圧(IOP)の上昇を特徴とする疾患であり、多くの場合、視神経の損傷および視野欠損を伴う。緑内障は治療せずに放置すると、最終的に失明につながる可能性がある。
【0004】
プロスタグランジン、特にプロスタグランジンF2αおよびそのフェニル置換類似体は、ヒトおよび動物のIOPを効果的に低下させることが知られている。実際、プロスタグランジンは、緑内障を治療するために眼科用薬剤に使用されている。例えば、ラタノプロストは、局所眼科用液剤(点眼液)の形態で入手可能であり、キサラタン(Xalatan)(登録商標)という商標で販売されている。
【0005】
実際、ラタノプロストは、緑内障の治療のために開発された強力なプロスタグランジンF2α類似体である。その化学名は、イソプロピル−(Z)−7−[(1R,2R,3R,5S)−3,5−ジヒドロキシ−2−[(3R)3−ヒドロキシ−5−フェニルペンチル]−シクロペンチル]−5−ヘプタノエートであり、その分子式はC2640であり、その化学構造は以下である:
【化1】

【0006】
具体的には、ラタノプロストは、眼の中への活性薬物の生物学的利用能を増加させるためにα鎖内のカルボキシル酸部分がエステル化されている親油性プロドラッグである。さらに、ラタノプロストは角膜を介して吸収され、角膜において、イソプロピルエステルプロドラッグは酸性型に加水分解されて生物学的に活性になる。
【0007】
また、ビマトプロスト、ラタノプロストまたはトラボプロストなどのいくつかの眼科用プロスタグランジンは、睫毛の成長を促進することができるとも言われている。従って、そのようなプロスタグランジンは睫毛の貧毛の局所治療のために使用することができる。
【0008】
プロスタグランジンに関して一般に直面する問題は、それらが化学的に不安定になり得ることである。特に、ラタノプロストは光および熱に対して非常に感受性が高いことが知られている。実際、これらの2つの要素(すなわち、光および熱)は、その加水分解および/または酸化を誘発してラタノプロストの安定性に影響を及ぼす場合がある。そのため、キサラタン(登録商標)の未開封の瓶は、暗所に2〜8℃の冷凍下で保管しなれなければならない。
【0009】
従って、プロスタグランジンの化学的安定性が向上し、特に光および熱に対する経時的安定性が向上したプロスタグランジン製剤が必要である。
【0010】
本出願人は、プロスタグランジンのエマルジョンをすでに着想し、かつエマルジョンがプロスタグランジンを安定させるのに適した媒体であることを見い出していた(例えば、国際公開第2007/042262号を参照)。
【0011】
しかし、眼科用エマルジョンの分野では、改良に向けて研究が続けられており、本出願人は、驚くべきことに、超低量の界面活性剤よってプロスタグランジンの安定性が得られ、よって、多くの場合、眼の刺激または痒みの原因となる高量の界面活性剤に起因する欠点を回避できることを実験で見い出した。
【0012】
本発明は、市販品と比較して向上したプロスタグランジンの安定性を示すと同時に、界面活性剤が少なく、毒性がなく、患者が忍容でき、かつ少なくとも市販の製品と同程度に有効であるプロスタグランジン組成物を提供する。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、プロスタグランジンと、2以下のヨウ素価を有する油と、少なくとも1種の第四級アンモニウム化合物を含む1種または複数の界面活性剤と、水とを含み、界面活性剤の総質量に対するプロスタグランジンの質量比が0.5〜5の範囲に含まれるコロイド状カチオン性水中油型エマルジョンである。
【0014】
本発明の特定の実施形態では、本エマルジョンにおける界面活性剤の総質量に対するプロスタグランジンの質量比は、0.5〜4、0.5〜3、0.5〜3、0.5〜2、0.6〜1.5または0.7〜1.3の範囲にあるか、あるいは約1である。本発明の意味において、選択された値の前の「約」という用語は、選択された値のプラスマイナス10%の範囲を意味する。
【0015】
一実施形態によれば、本エマルジョンは、プロスタグランジン、油および界面活性剤(1種または複数)を含み、界面活性剤の総質量に対する油の質量比が50〜500、好ましくは100〜400、より好ましくは約200であるようなエマルジョンである。
【0016】
好ましい実施形態によれば、本エマルジョンにおける界面活性剤の総質量に対するプロスタグランジンの質量比は0.5〜4の範囲であり、界面活性剤の総質量に対する油の質量比は50〜500の範囲である。
【0017】
驚くべきことに、本発明のエマルジョンは、超低量の界面活性剤を含有しているにも関わらず顕著な安定性を示し、その結果、患者において高い忍容性を示す。
【0018】
本発明によれば、「良好な忍容性」または「高い忍容性」とは、「眼の不快感」に対する「治療効果」の比率が患者によって許容され、かつ好ましくはプラセボまたは0.9%のNaCl溶液に類似していることを意味する。眼における良好な忍容性を示すために、製剤中のカチオン性薬剤含有量は0.1%を超えてはならず、好ましくは0.05%を超えてはならず、さらにより多くは好ましくは0.03%を超えてはならないことが一般に認められている。
【0019】
好ましい実施形態によれば、本発明に係るエマルジョンは、少なくとも1種の第四級アンモニウム化合物を含む1種または複数の界面活性剤を含む。
【0020】
本発明に係るエマルジョンでは、第四級アンモニウム化合物は、カチオン性薬剤として使用される。第四級アンモニウム化合物は、好ましくは、セタルコニウムハロゲン化物、ベンザルコニウムハロゲン化物、ラウラルコニウムハロゲン化物、セトリミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハロゲン化物、テトラデシルトリメチルアンモニウムハロゲン化物、ドデシルトリメチルアンモニウムハロゲン化物、セトリモニウムハロゲン化物、ベンゼトニウムハロゲン化物、ベヘナルコニウムハロゲン化物、セテチルジモニウムハロゲン化物、セチルピリジニウムハロゲン化物、ベンゾドデシニウムハロゲン化物、クロラリルメテナミンハロゲン化物、ミリスチルアルコニウム(myristylalkonium)ハロゲン化物、ステアラルコニウムハロゲン化物またはそれらの混合物の中から選択される。ハロゲン化物としては臭化物および塩化物が挙げられる。
【0021】
好ましくは、第四級アンモニウム化合物は、塩化セタルコニウム、塩化ベンザルコニウムまたはそれらの混合物の中から選択される。
【0022】
本発明の別の実施形態では、本エマルジョンは、エマルジョン中に唯一存在する界面活性剤として、1種または複数の第四級アンモニウム化合物を含む。言い換えると、本実施形態では、エマルジョン中の界面活性剤の総和は、全ての第四級アンモニウム化合物の和からなる。
【0023】
本発明によれば、本エマルジョンは1種の界面活性剤のみを含み、それは第四級アンモニウム化合物、好ましくは塩化セタルコニウムである。本実施形態では、本発明のエマルジョンは、先行技術のエマルジョンよりも単純なエマルジョンであり、すなわち先行技術のエマルジョンよりも含有成分が少ない。
【0024】
第四級アンモニウム化合物、好ましくは塩化セタルコニウムの濃度は、好ましくは0.001〜0.1%w/w、より好ましくは0.002〜0.05%w/w、さらにより好ましくは0.002〜0.03%w/wの範囲である。
【0025】
典型的には、本エマルジョンは、本発明のゼータ電位が正の状態を維持する限り、第四級アンモニウム界面活性剤に加えて、例えば、さらなるカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤、親水性界面活性剤(高いHLBを有する)、疎水性界面活性剤(低いHLBを有する)またはそれらの混合物などのさらなる界面活性剤を含んでいてもよい。
【0026】
さらなるカチオン性界面活性剤は、オレイルアミンまたはステアリルアミンなどのC10〜C24第一級アルキルアミン、第三級脂肪族アミン、カチオン性脂質、アミノアルコール;クロルヘキシジンおよびその塩、ポリアミノプロピルビグアナイド、フェンホルミン、アルキルビグアナイドまたはそれらの混合物から選択されるビグアナイド系の塩;キトサン、1,2−ジオレイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−ホスファチジルエタノールアミン、カチオン性スフィンゴ糖脂質またはカチオン性コレステロール誘導体またはそれらの混合物から選択されるカチオン性高分子を含む。
【0027】
典型的には、非イオン性界面活性剤は、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェノールポリエチレンオキシド、ポロクサマー、チロキサポール、アルキルポリグルコシド、脂肪族アルコール、コカミドMEA、コカミドDEA、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ソルビタンエステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリソルベートまたはそれらの混合物を含む。別の実施形態によれば、本発明の組成物は、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体を含有していない。
【0028】
典型的には、アニオン性界面活性剤は、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸、アルキル硫酸塩、硫酸ナトリウムラウリルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、石鹸、脂肪酸塩またはそれらの混合物を含む。
【0029】
典型的には、双性イオン性界面活性剤は、ドデシルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ココアンホグリシン酸塩(coco-ampho-glycinate)またはそれらの混合物を含む。
【0030】
典型的には、本発明に係る界面活性剤は、親水性界面活性剤(高いHLBを有する)および/または疎水性界面活性剤(低いHLBを有する)またはそれらの混合物を含む。
【0031】
好ましくは、本エマルジョンはリン脂質を含有していない。
【0032】
特定の実施態様では、本発明のエマルジョン中に存在する界面活性剤は、第四級アンモニウム化合物、ポロクサマー、チロキサポール、ポリソルベート、ソルビタンエステル、ステアリン酸ポリオキシルまたはそれらの混合物の中から選択される。
【0033】
特定の実施態様では、本エマルジョンは、唯一の界面活性剤として、ラタノプロスト、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、塩化セタルコニウムを含む。
【0034】
本発明に係るエマルジョンはカチオン性エマルジョンであり、それはゼータ電位が経時的に正の状態を維持することを意味する。この正のゼータ電位は、好ましくは10mV超、より好ましくは20mV以上であってもよい。
【0035】
ゼータ電位はコロイド粒子間の相互作用の大きさの非常に良好な指標であり、ゼータ電位の測定値はコロイド系の安定性を評価するために一般に使用されることは長い間知られている。特定の系において測定されるゼータ電位は、その表面の化学作用に依存し、かつその周囲環境との相互作用の仕方にも依存している。
【0036】
典型的には、本発明に係るカチオン性エマルジョンは、経時的な物理的安定性を有し、かつ25℃で2年間にわたって正のゼータ電位を保持し得る。ゼータ電位の各測定のために、以下のような操作を行う。
【0037】
本エマルジョンの液滴表面のゼータ電位は、好適なソフトウェアを備えかつ付属の標準液で較正したMalvern Zetasizer 2000(Malvern Instruments社、英国)などの装置を用いて電気泳動移動度によって測定する。
【0038】
本エマルジョンは、最適な粒子の検出を可能にする散乱強度を得るために、必要に応じて再蒸留水で希釈する。ホモダイン検出における試料計数率は、100〜1000KCpsでなければならない(ヘテロダイン検出が使用される場合、参照ビームの寄与は推定しなければならない)。3つの連続的な測定は、150mVの一定のセル駆動電圧(cell drive)を用いて25℃で行う。電気泳動移動度は、水の誘電率および粘度を用いるスモルコフスキー(Smoluchowski)方程式によってゼータ電位値に変換する。測定値は得られた3つの値の平均に一致する。
【0039】
特定の実施態様では、本発明のエマルジョンは、どんな緩衝液も含有していない。
【0040】
本発明の特定の実施形態によれば、本エマルジョンは、高圧蒸気滅菌中に安定な状態を維持する。本発明によれば、「高圧蒸気滅菌」は、気圧よりも高い約103kPa(15psi)で、長期間(例えば10〜60分、好ましくは10〜20分)、高温(例えば100〜200℃、好ましくは121℃)のオートクレーブ内で製品を加熱することによる圧力下での蒸気による製品の滅菌として定義されている。蒸気および圧力によって十分な熱を微生物まで移動させ、微生物を殺し、よって製品を滅菌する。
【0041】
本発明によれば、「安定性」とは、製品が、指定された限界の範囲内で、かつその貯蔵および使用期間(すなわち、その貯蔵寿命)の間ずっと、その製造の時点に有していたのと同じ特性および特徴を保持する程度として定義されている。
【0042】
安定性試験の目的は、原薬または製剤の経時的な品質に関する証拠を提供することであり、前記製品は、様々な環境要因(例えば、温度、湿度および光)に曝される。その結果は、適当な貯蔵条件、再試験期間および貯蔵寿命を提供するのに有用となり得る。
【0043】
従来の安定性研究でも最終的に薬物の有効期限に影響を及ぼすそれらの要因を評価しているが、このような従来の研究は時間および費用がかかる。従って、例えば医薬製品の貯蔵寿命を予測するために、医薬品業界では通常、「加速安定性試験」(苛酷試験)を使用する。これらの加速試験は、分解経路を確立し、かつ可能性のある分解生成物を同定することによって、目的の分子の固有の安定性機構を理解するのを助ける。この種の研究では、製品は、約40℃の温度で約6ヶ月間のような極限条件に通常曝される。
【0044】
本発明によれば、「コロイド状」とは、本エマルジョンが、1μm以下の粒径を有しかつ水の中に分散した界面膜によって取り囲まれた油性コアを有するコロイド粒子を含むことを意味する。典型的には、油性コアはプロスタグランジンおよび油を含む。プロスタグランジンは親油性であるため、本質的に油性コアの中に存在することが理解できる。典型的には、本エマルジョンは、皮膚軟化剤(好ましくはグリセリン)、pH調整剤(例えば、NaOH)、浸透圧剤または防腐剤などの他の成分を含有していてもよい。
【0045】
本発明に係るエマルジョンは、コロイド粒子が、1μm以下、有利には300nm以下、より有利には100〜250nmの範囲の平均粒径を有するようなエマルジョンである。
【0046】
一実施形態では、プロスタグランジンは、プロスタグランジンF2α、その誘導体、前駆体、プロドラッグまたは類似体である。
【0047】
別の実施形態では、プロスタグランジンは、眼科用プロスタグランジン、特に高眼圧症および/または緑内障の治療において有効なプロスタグランジンである。
【0048】
別の実施形態では、プロスタグランジンは、活性なプロスタグランジン(特に活性な眼科用プロスタグランジン)のエステルプロドラッグもしくはアミドプロドラッグまたはそれらの混合物である。エステルプロドラッグとしては、メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステルまたはブチルエステルなどのC〜Cアルキルエステルプロドラッグが挙げられ、アミドプロドラッグとしては、メチルアミド、エチルアミド、イソプロピルアミドまたはブチルアミドなどのC〜Cアルキルアミドプロドラッグが挙げられる。
【0049】
特定の実施形態によれば、本発明のプロスタグランジンは、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロストまたはそれらの混合物の中から選択される。
【0050】
好ましい実施形態では、本発明に係るエマルジョンはラタノプロストを含む。
【0051】
本発明に係るエマルジョンの油性コアの中に存在するプロスタグランジンの量は、プロスタグランジンの性質および用途によって決まる。典型的には、本エマルジョンの総重量に対するプロスタグランジンの量は、0.001〜1%w/w、好ましくは0.002〜0.3%w/w、さらにより好ましくは、0.004〜0.15%w/wの範囲である。
【0052】
特定の実施態様では、プロスタグランジンは、ドルゾラミドまたはチモロールなどの他の抗緑内障有効成分と組み合わせることができる。
【0053】
本発明によれば、当該油は、好ましくは、本エマルジョン中での酸化および/または加水分解によるプロスタグランジンの分解を制限することができる飽和油の中から選択される。
【0054】
本発明によれば、「飽和油」は、2以下、好ましくは2未満のヨウ素価を有する油であり、これは、この油が二重もしくは三重結合を含む炭化水素鎖を有するどんな分子も実質的に含有していないことを意味する。
【0055】
ヨウ素価は、例えば、欧州薬局方モノグラフ2.5.4または米国薬局方モノグラフ401に開示されている方法に従って測定することができる。
【0056】
本発明の特定の実施形態によれば、当該油は、油性脂肪酸、油性脂肪族アルコール、脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピルおよびパルミチン酸イソプロピル)、植物油、動物油、鉱油(例えば、ワセリン)、流動パラフィン、半合成油(例えば、植物油から得られる分別油)またはそれらの混合物の中から選択される。
【0057】
本発明によれば、「半合成油」は天然油からの化学合成によって調製される。
【0058】
特に、本発明に係る油は、分別されたヤシ油、核油またはババス油から得られる半合成油である。より詳細には、当該油は中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である。
【0059】
実際、欧州薬局方によれば、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、得られた脂肪酸の加水分解、分別、および再エステル化によって、ココヤシ(Cocos nucifera L.)の内胚乳の硬い乾燥部分から抽出された不揮発性油であると言われている。MCTは、その95%以上が飽和脂肪酸オクタン(カプリル)酸およびデカン(カプリン)酸である脂肪酸の短鎖もしくは中鎖脂肪酸トリグリセリドのみの混合物からなる。
【0060】
さらに、MCTは、少量(最大4%)のMCTを含み得る乳脂肪などの一部の動物性製品だけでなく、核油およびババス油の中にもかなりの量で含まれている。
【0061】
いくつかの実施形態では、本エマルジョンの総重量に対する当該油の量は、7%w/w以下、好ましくは0.5〜5%w/w、さらにより好ましくは1〜3%w/wである。
【0062】
別の実施形態では、エマルジョンのpHは、4〜7、好ましくは4.5〜6.5、より好ましくは4.5〜6の範囲に含まれ、さらにより好ましくは約5であることが好ましい。
【0063】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、浸透圧剤、好ましくはグリセリンを含む。
【0064】
本発明の別の目的は、先に記載したエマルジョンの製造方法である。本発明のエマルジョンは、プロスタグランジン(例えば、ラタノプロスト)と飽和油(例えば、MCT)と、場合により、それが水相に溶けない場合には四級アンモニウムとを混合して油相を調製する工程、水溶性成分(例えば、グリセリン)と精製水を混合して水相を調製する工程、油相を水相に組み込む工程、当業者に知られる任意の好適な手段、例えば高剪断混合によってエマルジョンの液滴の大きさを減少させる工程、冷却したエマルジョンを均質化する工程、場合により、例えばNaOHまたはHClを用いてpHを生理的pHに調整する工程、および場合により、高圧蒸気滅菌によってエマルジョンを滅菌する工程によって調製する。
【0065】
本発明のエマルジョンのさらなる利点は、本エマルジョンが高圧蒸気滅菌中も安定している点であり、言い換えると、プロスタグランジンは分解されず、ゼータ電位は正の状態を維持する点である。
【0066】
本発明によれば、本発明に係るカチオン性水中油型エマルジョンは、眼の病気または疾患、好ましくは眼の内部の眼の病気または疾患に罹患している患者の治療に有用である。本発明の一実施形態では、前記患者は、眼の表面の病変、特に角膜または結膜の病変には罹患していない。本発明の意味において、角膜もしくは結膜病変は、角膜、結膜もしくは杯細胞の局所的破壊である。そのような病変は、局所性または播種性であり、それにより、角膜びらん、点状角膜症、上皮欠損、角膜潰瘍、角膜瘢痕、角膜菲薄化、角膜穿孔、角膜炎、結膜炎、創傷、小さな擦過傷などが生じる場合がある。
【0067】
別の実施形態では、患者は、第四級ハロゲン化アンモニウムに対して忍容性を有する。
【0068】
本発明に係るエマルジョンは、好ましくは、患者の、例えば眼の表面、特に角膜または結膜あるいは毛髪(例えば、睫毛)に局所的に塗布することを目的としている。
【0069】
従って、本発明は、治療量の本発明の組成物を投与することによって、眼の病気または疾患、好ましくは眼の内部の眼の病気または疾患に罹患している患者の治療方法にも関する。この投与方法は、眼の表面に1日2滴または1日1滴である。この治療は、生涯続く治療である。
【0070】
本発明によれば、カチオン性水中油型エマルジョンは、睫毛の成長の促進または睫毛の貧毛の治療に有用である。
【0071】
本発明の一実施形態によれば、本エマルジョンは、点眼薬、眼軟膏または眼科用ゲルの形態であってもよい。
【0072】
本発明の目的は、本発明に係るカチオン性水中油型エマルジョンを含む送達装置である。
【0073】
典型的には、本発明に係る送達装置は、レンズ、眼科用パッチ、インプラント、挿入物を含む群から選択される。
【0074】
本発明の他の特徴および利点については、以下の非限定的な実施例を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のエマルジョンの投与後の毛様体および角膜におけるラタノプロスト遊離酸の濃度。
【実施例】
【0076】
1.カチオン性水中油型エマルジョンの調製
本発明に係るカチオン性水中油型エマルジョンを、界面活性剤の総質量に対するプロスタグランジンの質量比が1、界面活性剤の総質量に対する飽和油の質量比が200にして、プロスタグランジン(ラタノプロスト)と飽和油(MCT)と塩化セタルコニウムを50℃で混合して油相を調製する工程、グリセリンと精製水を50℃で混合して水相を調製する工程、油相を水相に組み込む工程、当業者に知られている任意の好適な手段、例えば、16000rpmで5分間の高剪断混合(ポリトロン(Polytron)PT6100、Kinematica社、スイス)によってエマルジョンの液滴の大きさを減少させる工程、冷却したエマルジョンを15000psiで20分間均質化(Emulsiflex C3、Avestin社、カナダ)する工程、pHをNaOHで調整する工程、およびエマルジョンを高圧蒸気滅菌によって滅菌する工程によって調製する。
【0077】
エマルジョンの組成を表1に示す。
【表1】

【0078】
滅菌後のエマルジョンのpHは約5.0である。
【表2】

【0079】
2.安定性試験および比較試験
実施例1のエマルジョンの安定性は、加速条件「苛酷試験」(80℃で14日間)で評価し、カチオン性エマルジョン(発明)とキサラタン(登録商標)との比較分析を同じ「苛酷試験」条件で行なった。両方の試験において、HPLC−紫外部測定法によってプロスタグランジン含有量を分析した。その結果を表2(安定性試験)および表3(比較試験)に示す。
【表3】

【表4】

【0080】
T0において、本エマルジョン(発明)およびキサラタン(登録商標)におけるプロスタグランジンの濃度は約0.005%である。しかし、両エマルジョンを「苛酷試験」(80℃で14日間)に曝した後は、プロスタグランジンの濃度は、エマルジョン(発明)では同じ値を維持したが、キサラタン(登録商標)の場合は、半分を超えて減少したことが認められる。さらに、驚くべきことに、界面活性剤の総質量に対する油の質量比が200(油が界面活性剤よりも200倍多い状態)であっても、エマルジョンはクリーム状にならず、合体も分離もしなかった。
【0081】
3.表1のエマルジョンの薬物動態学的/薬力学的研究
雄および雌のニュージランドホワイト種ウサギに表1のエマルジョンまたはキサラタン(登録商標)を投与し、投与後の異なる時点(0.25、0.5、1、4、6および24時間後)で、標的組織(結膜、角膜、眼房水および毛様体)におけるラタノプロスト遊離酸の濃度を測定した。TmaxおよびAUC0.5〜24時間を計算し、以下の表5に示す。
【表5】

【0082】
図1(毛様体および角膜)および上に示した結果は、本エマルジョンの投与後にラタノプロスト遊離酸が標的眼組織内に高濃度で存在することを示している。前記濃度はキサラタン(登録商標)の濃度に類似しており、シュレム管の開口および、よって眼房水の排出を可能にし、それにより眼内圧を低下させるのに十分であることが分かっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジンと、
2以下のヨウ素価を有する油と、
少なくとも1種の第四級アンモニウム化合物を含む1種または複数の界面活性剤と、
水と、
を含み、
正のゼータ電位を有し、かつ前記界面活性剤の総質量に対する前記プロスタグランジンの質量比は0.5〜5の範囲である水中油型エマルジョン。
【請求項2】
前記界面活性剤の総質量に対する前記プロスタグランジンの質量比が0.5〜4、好ましくは0.5〜3、より好ましくは0.5〜2、さらにより好ましくは0.6〜1.5、さらにより好ましくは0.7〜1.3の範囲であり、さらにより好ましくは約1であることを特徴とする、請求項1に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項3】
前記プロスタグランジンは、活性なプロスタグランジンのエステルプロドラッグもしくはアミドプロドラッグまたはそれらの混合物の中から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項4】
前記プロスタグランジンは、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロストまたはそれらの混合物の中から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項5】
前記第四級アンモニウム化合物は、セタルコニウムハロゲン化物、ベンザルコニウムハロゲン化物、ラウラルコニウムハロゲン化物、セトリミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハロゲン化物、テトラデシルトリメチルアンモニウムハロゲン化物、ドデシルトリメチルアンモニウムハロゲン化物、セトリモニウムハロゲン化物、ベンゼトニウムハロゲン化物、ベヘナルコニウムハロゲン化物、セテチルジモニウムハロゲン化物、セチルピリジニウムハロゲン化物、ベンゾドデシニウムハロゲン化物、クロラリルメテナミンハロゲン化物、ミリスチルアルコニウム(myristylalkonium)ハロゲン化物、ステアラルコニウムハロゲン化物またはそれらの混合物の中から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項6】
前記第四級アンモニウム化合物は、塩化セタルコニウム、塩化ベンザルコニウムまたはそれらの混合物の中から選択される、請求項5に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項7】
前記油は、油性脂肪酸、油性脂肪族アルコール、脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピルおよびパルミチン酸イソプロピル)、植物油、動物油、鉱油(例えば、ワセリン)、流動パラフィン、半合成油(例えば、植物油から得られる分別油)またはそれらの混合物の中から選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項8】
前記分別油は中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)であることを特徴とする、請求項7に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項9】
前記界面活性剤は、ポロクサマー、チロキサポール、ポリソルベート、ソルビタンエステル、ステアリン酸ポリオキシルまたはそれらの混合物の中から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項10】
前記エマルジョンの総重量に対するプロスタグランジンの量は、0.001〜1%w/w、好ましくは0.002〜0.3%w/w、さらにより好ましくは0.004〜0.15%w/wの範囲である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項11】
前記組成物全体に対する前記第四級アンモニウム化合物の量は、0.001〜0.1%w/w、好ましくは0.002〜0.05%w/w、さらにより好ましくは0.002〜0.03%w/wの範囲である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項12】
前記エマルジョンの総重量に対する前記油の量は、7%w/w以下、好ましくは0.5〜5%w/w、さらにより好ましくは1〜3%w/wである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項13】
前記界面活性剤の総質量に対する前記プロスタグランジンの質量比は0.5〜4の範囲であり、前記界面活性剤の総質量に対する前記油の質量比は50〜500の範囲である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項14】
高眼圧症および/または緑内障の治療に使用される請求項1〜13のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョン。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョンを含む送達装置。

【図1】
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【公表番号】特表2012−519665(P2012−519665A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552444(P2011−552444)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052741
【国際公開番号】WO2010/100218
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(510141785)ノバガリ ファーマ エスエー (2)
【Fターム(参考)】