説明

プロテアーゼ検出系

【課題】細胞内及び組織内におけるプロテアーゼの存在又はその阻害剤を検出又はスクリーニングするためのキメラタンパク質を提供する。
【解決手段】キメラタンパク質は、1)少なくとも1つの隠蔽されたシグナルタンパク質;2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位;及び3)少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に細胞内のプロテアーゼを検出する系に関する。好ましい系はキメラ基質タンパク質を含み、前記タンパク質は、(1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、(2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位及び(3)少なくとも1つの検出することができるアミノ酸配列を含む。本発明は、1つ又は2つ以上のヒトの病原体によって産生されるプロテアーゼを阻害する化合物を検出するスクリーンニングでの使用を含む、広範囲の重要な用途を有する。
関連出願の相互引用
本出願は韓国特許出願10-2001-0048123号(2001年8月10日出願、発明の名称:プロテアーゼ阻害剤のin vivoスクリーニング系)(前記文献は参照により本明細書に含まれる)の継続出願である。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼはタンパク質の特定のペプチド結合を切断する酵素である。生物体では、特定のタンパク分解活性を有するプロテアーゼ及びそれらの阻害剤は種々の生物学的機能の調節に中心的に関与する。多様な生物学的プロセスにおいて生物学的に要求される機能は、ポリプロテイン前駆体のプロテアーゼによるタンパク分解切断(前記は活性なタンパク質を生成させる)によって活性化するか又は調節することができる。前記の例には血液凝固、免疫防御プロセス、細胞内側膜を介するタンパク質の選択的輸送、ホスト細胞におけるウイルスの増殖などが含まれる。従って、プロテアーゼは、特定のプロテアーゼの阻害剤を新規な薬剤として開発する場合の主要な標的である。
ウイルスプロテアーゼの阻害剤は、新規薬剤として開発されたプロテアーゼ阻害剤の代表的な例である。ウイルスプロテアーゼはタンパク分解切断によりポリプロテイン前駆体の活性化に参画するので、前記プロテアーゼはウイルス増殖の開始、従ってホスト細胞内で複製される正確なキャプシド集合に必須の成分である。
プロテアーゼ阻害剤は、後天性免疫不全症候群(エイズ)をひき起こすHIVの増殖を阻止するために開発された。例えばアンプレナビア(amprenavir)、ネルフィナビア(nelfinavir)、インジナビア(indinavir)、リトナビア(ritonavir)及びスクイナビア(squinavir)がHIVのプロテアーゼを阻害する薬剤としてFDAに承認され、ロピナビア(lopinavir)及びエファビレンツ(efavirenz)は臨床試験中である。上記の医薬を投与された患者ではHIV粒子の数が薬剤処置前の数の約10%に減少することが示された。これは、前記プロテアーゼ阻害剤を効果的な医薬として用いることができることを示している。しかしながら、いくつかの副作用がこのような処置の間に報告され(T.L. Miller et al. 2001)、更に変異プロテアーゼを有する変異体が長期的処置の症例で報告された(H. Jacobsen et al. 1996; H. Cote et al. 2001)。従って、種々の変異HIVウイルスの増殖を特異的に阻止することができるより多様なプロテアーゼ阻害剤の開発が要求される。
【0003】
プロテアーゼ阻害剤は、他のヒト及び動物ウイルス(例えばHCV(N. Kasai et al. 2001)及びHERV(R. Kuhelj et al. 2001))を抑制するために研究されてきた。植物ウイルス病の研究者らもまた同じ概念で研究してきた。例えば、TEV(タバコ腐れ病ウイルス)及びPVY(モザイク病ウイルス)によって生成されるポリプロテインのタンパク分解切断の阻害は、遺伝子導入植物でプロテアーゼ阻害剤としてリコンビナントタンパク質を発現させることによって研究されてきた(R. Gutierres-Campos et al. 1999)。植物ウイルス由来のプロテアーゼのタンパク分解部位を特定する研究もまた行われてきた(H.Y. Yoon et al. 2000)。
プロテアーゼ阻害剤開発の試みが続けられてきた。例えば、多くの場合プロテアーゼ阻害剤のスクリーニングは、プロテアーゼ、その基質ペプチド又はタンパク質及び候補化学物質を混合してin vitroで反応させた後、電気泳動を用いて基質の切断を測定することによって実施された。タンパク分解部位の重要性が認識されていたので、前記タンパク分解部位と同様なアミノ酸配列を有するペプチドが合成され、プロテアーゼ阻害剤の発見に用いられてきた(C.A. Kettner and B.D. Korant, 1987)。タンパク質の三次元構造の決定が容易になり、更にコンピュータシミュレーションによって化合物をデザインすることが可能になったので、多くの研究者が酵素の活性部位と特異的に結合する分子をデザイン及び合成しようとした(A. Wlodawer and J.W. Erickson, 1993; J.D. Rodgers et al. 1998; K.L. Mardis et al. 2001)。更にまた、蛍光標識基質を用いてプロテアーゼ活性の測定効率を高める試み(J. Ermolief et al. 2000)、及び大腸菌のペリプラズムで発現させた抗体フラグメントをプロテアーゼ阻害剤として用いてプロテアーゼ阻害剤の骨格構造を拡大する試みが(N. Kasai et al. 2001)為された。
【0004】
現在用いられているプロテアーゼ活性をスクリーニングする方法の大半はin vitroで実施される。しかしながら、in vitroスクリーニング法では種々の複雑な作用(例えば候補薬剤の細胞への輸送効率、候補薬剤の安定性及び細胞毒性など)を調べることはできない。in vitroスクリーニング法で選別した候補薬剤を生体で調べる前に、従って更に別の多くの時間のかかる実験が要求される。従って、プロテアーゼ阻害剤の候補物質の細胞への機能を調べ、更により特異的なプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングするためにより単純で普遍的なin vivoスクリーニング法を開発することが必要である。
タンパク分解切断を検出し、よりin vivoの条件又はin vivoに類似した条件でプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする努力が為されてきた。
例えば、単離小胞内に存在するプロテアーゼを用いる方法が報告された(V.Y. Hook, 2001)。開示された他の方法には、組織切片を用いたin situザイモグラフィー(C.-F. Yi et al. 2001)及びプロテアーゼのポリペプチド基質で細胞を処理する方法(R. Kuhelj et al. 2001)が含まれる。
しかしながら、前記の方法及び関連する方法には欠点が附随することがますます認識されつつある。
例えば、前記の方法の多くはin vivoの環境に単に近似しているだけであると考えられる。従って、そのような方法は、プロテアーゼ機能に実質的に影響を与えることができる細胞内環境を常に再現しているとはかぎらない。
更にまた、従来の方法の多くは感度、選択性及び利便性に関して限界があると考えられる。前記の欠点及び他の欠点は、これまでのスクリーニングの試みの効率及び信頼性を低下させていると考えられる。
より感度が高く使用が容易な、細胞内のプロテアーゼを検出するより優れたin vivoの方法が所望されるであろう。哺乳類及びウイルスプロテアーゼの阻害剤の検出に容易に応用できるin vivoの方法が希求されるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、細胞内又は組織内のプロテアーゼを検出する系に関する。ある実施態様では、本発明の系は、共有結合で連結された成分として以下を含む少なくとも1つのキメラタンパク質を含む:1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質;2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位;及び3)少なくとも1つの検出することができるアミノ酸配列。好ましいキメラタンパク質は、プロテアーゼの存在下で細胞内の位置を変える“分子信号”として機能する。本発明は広範囲の用途を有し、前記用途には、ヒトの病原体に附随するプロテアーゼを阻害又は阻止する化合物を検出するためのin vivoスクリーニングにおける使用が含まれる。
本発明の好ましい使用では、対象の細胞又は組織が少なくとも1つの活性なプロテアーゼをその中に含むことが要求される。適切なプロテアーゼには細胞にとって内因性であるもの、例えば“ハウスキーピング”酵素として知られているものが含まれる。更に別の適切なプロテアーゼには、細胞又は組織にとって天然には存在しないものが含まれる。例えばそのようなプロテアーゼは病原体感染の結果であってもよい。また別には、細胞内又は組織内のプロテアーゼの存在は、それら細胞又は組織にプロテアーゼを導入するために実験的に処理した結果であってもよい。これらの実施態様では、前記キメラタンパク質(又はその検出可能成分)の細胞内の位置の変化は、細胞又は組織内のプロテアーゼの存在の指標として利用される。従って、本発明は、その細胞内又は組織内の位置が対象のプロテアーゼの存在(又は非存在)の指標となる、位置的感度が高い“分子信号”を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下で明確になるとおり本発明は普遍的用途をもつ発明である。すなわち、本発明を用いて細胞内又は組織内の多様なプロテアーゼを検出できる。好ましいプロテアーゼは、キメラタンパク質内の切断部位を好ましくは特異的に切断(加水分解)することができる。本明細書では、問題のプロテアーゼによる切断可能性を示すために、前記キメラタンパク質は時にはキメラ基質タンパク質と称されるであろう。位置特異的切断は、キメラ分子を一般的には特異的切断部位又は切断部位の近くで分断し、少なくとも1つの成分(例えば場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、切断部位又は検出可能なアミノ酸配列)を前記キメラ分子から遊離させる。好ましい遊離は少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列を含むが、前記遊離は使用に応じてキメラ分子の他の成分を含んでいてもよい。
キメラ分子の1つ又は2つ以上の成分のより好ましい放出では、位置的感度が高い分子信号を提供することが意図される。例えば、ある実施態様では、検出可能なアミノ酸配列がキメラ基質タンパク質から遊離され、ホスト細胞又は組織全体に本質的に自由に拡散する。この拡散シグナルは容易に検出することができ、プロテアーゼの存在の指標として利用することができる。しかしながら、本発明の別の実施態様では、1つ又は2つ以上の検出可能なアミノ酸配列の遊離は、場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質により別の細胞内部位への前記分子の誘導を伴なう。この実施例では、より一点集中的でより強いシグナルがプロテアーゼの指標として利用される。
【0007】
本発明のいくつかの実施態様では、細胞内又は組織内にプロテアーゼが存在する場合に前記キメラ分子が好ましくはインフレーム融合物として検出可能なアミノ酸配列の少なくとも1つを保持することは有用であろう。この事例では、キメラ分子の局在は、プロテアーゼが存在するとき検出可能なアミノ酸配列を参考にしてモニターすることができる。ほとんどの事例では、検出可能なアミノ酸配列(単独又は検出可能なキメラタンパク質のまた別の成分と組み合わされている)の遊離及びそれに続く細胞内局在は、通常の検出方法の1つ又はそれらの組合せによって容易にin situで可視化することができる。
従って、本発明の目的は、問題のプロテアーゼの存在及び好ましくは活性をキメラタンパク質の局在の変化と結びつけることである。そのような変化はシグナルの位置及び好ましくは強度の増加又は減少として容易に検出できる。例として、検出できるように標識されたキメラタンパク質(又は1つ又は2つ以上の成分)の細胞内分布は最初は比較的小さな場所(例えば細胞内小器官)に限定することができる。前記の限定性によって比較的高いシグナル強度が得られる。しかしながら、前記キメラタンパク質を特異的に切断するプロテアーゼの存在下では、前記の分布ははるかに拘束性が低く拡散性ですらある。前記限定性の欠如によって比較的低いシグナル強度が得られる。この例では、プロテアーゼによる特異的な切断は、キメラタンパク質(又は標識成分)の細胞内小器官からより広い空間(例えば細胞質ゾル)への移動を伴なう。また別には、活性なプロテアーゼの存在が標識タンパク質の細胞質ゾルからより限定的空間(例えば細胞内小器官又は空胞)への細胞内移動として本発明により示される実施態様では、シグナル強度は急激に増加する。更に別の実施態様では、活性なプロテアーゼの存在はシグナル強度の変化をほとんど又は全く伴なわないが、その代わりに、前記変化は、ある細胞部位から別の部位への標識タンパク質の移動によってモニターされる(例えばキメラ基質タンパク質の1つの細胞内小器官から別の小器官又は空胞への移動のように)。
【0008】
本発明の実施によって多数の重要な利点が提供される。
例えば、本発明は、対象のプロテアーゼによって特異的に切断される標識された(及び無標識の)成分タンパク質を生じるキメラタンパク質を提供する。本発明の好ましい実施によって、標識タンパク質の細胞内局在及び好ましくはシグナル強度が対象のプロテアーゼの存在(又は不在)と結びつく。この“二要素”検出法は、高い感度をもつ信頼性の高い検出を提供する。すなわち、細胞内又は組織内の標識タンパク質の位置及びそのシグナル強度はともに活性なプロテアーゼの存在の指標として利用される。本発明はまた高度に選択性であり、すなわち本発明は、異なるプロテアーゼ又はアイソザイムの細胞内存在を、同じプロテアーゼの不活性型及び活性型と同様にそれぞれ容易に識別することができる。本発明の好ましいキメラタンパク質は、利用可能な試薬及び標準的なリコンビナント技術を用いて製造することができ、本発明の使用を容易にしている。
更にまた、本発明には融通性があり、広範囲の細胞、典型的には真核細胞(植物、酵母菌、真菌、動物及び昆虫に由来するものを含む)内の活性なプロテアーゼを検出するために用いることができる。好ましいキメラタンパク質は細胞内又は組織内の遺伝子発現に最小限の影響しか与えず、それによって潜在的に複雑な遺伝学的影響が回避される。本発明はまた、種々の適切なプロテアーゼ切断部位及び検出可能なアミノ酸配列と適合する。
従ってある実施態様では、本発明は、好ましくは前述のキメラタンパク質の少なくとも1つを含む、細胞内プロテアーゼを検出する系を提供する。前記キメラタンパク質に関しては、各タンパク質成分(場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、プロテアーゼ切断部位及び検出可能配列)の連結順序は、目的の結果が達成されるかぎり重要ではない。しかしながら、典型的には連結順序は、1つの成分のN末端から開始し、別の成分のC末端で終わる。
【0009】
既に述べたように、本キメラタンパク質は共有結合によって連結された以下の成分を含む:少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質;2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位;3)少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列。好ましくは、前記キメラタンパク質は約10個未満の場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、より好ましくは約5個未満の前記タンパク質、典型的には約1つ、2つ又は3つの前記シグナルタンパク質を含む。“場合によって隠蔽された”という語句は、シグナルタンパク質の目的の機能(典型的にはトラフィッキングシグナル)が隠蔽されてあるか、又は隠蔽されていないことを意味する。“隠蔽されている”という用語は、少なくとも1つの隠蔽配列をシグナルタンパク質に共有結合により連結することによって、前記シグナルタンパク質の目的の機能が可逆的又は不可逆的に実質的に低下させられてあるか、又は好ましくは完全に阻止されていることを意味する。典型的には、隠蔽されるシグナルタンパク質は約1つ又は約2つの前記のような隠蔽配列を含む。一般的に好ましい隠蔽配列は約200未満のアミノ酸残基、好ましくは50未満のアミノ酸残基から成り、多くの応用例では約3から約20残基の間が好ましい。多くの使用例で特に好ましい隠蔽配列は少なくとも1つの位置特異的プロテアーゼ切断部位、例えば1つ、2つ、3つ又は4つの前記部位である。
更にまた、本発明の好ましいキメラタンパク質は、共有結合により連結された成分として、約10未満のプロテアーゼ特異的切断部位、好ましくは5つ未満の前記切断部位を含み、約1つ、2つ、3つ又は4つの前記のような部位がしばしば好ましい。
更に好ましいキメラタンパク質は、共有結合により連結された成分として、約10未満の検出可能なアミノ酸配列、好ましくは5つ未満の前記アミノ酸配列を含み、約1つ、2つ、3つ又は4つの前記のような検出可能なアミノ酸配列が一般的には好ましい。ある実施態様では、前記配列は蛍光性、リン光性又は化学発光性タンパク質又はその機能的フラグメントである。検出可能なアミノ酸配列の機能的フラグメントは、完全長配列と実質的に同じ感度で検出が可能である。別の実施態様では、前記アミノ酸配列は、適切な基質と接触したとき蛍光性、リン光性又は化学発光性にさせることができる酵素又はその触媒性フラグメントである。前記検出可能なアミノ酸配列から生じるシグナルを検出及び場合によって定量する方法は当分野で公知であり、下記でより詳しく説明される。
別の特徴では、本発明は、共有結合によって連結された以下の成分を含む実質的に純粋なキメラタンパク質を提供する:1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質;2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位;及び少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列。
【0010】
更に別の特徴では、本発明はキメラタンパク質をコードする配列を含む核酸である。ある実施態様では、前記コードされたキメラタンパク質は共有結合によって連結された成分として以下を含む:1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質;2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位;及び少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列。
更にまた本発明によって提供されるものは、本明細書で開示されるキメラタンパク質をコードする核酸を含むベクターである。更に提供されるものは、前記キメラタンパク質を含み、好ましくはまた前記キメラタンパク質を発現する細胞、例えば植物、酵母、動物、真菌又は昆虫細胞である。
更に本発明によって提供されるものは細胞内プロテアーゼを検出するためのキットである。ある実施態様では、前記キットは本明細書に記載された系を含み、前記系は好ましくは以下の少なくとも1つを含む:a)本明細書に記載されたキメラタンパク質;及びb)本明細書に開示されたキメラタンパク質をコードする核酸のいずれかを含むベクター。場合によって前記キットは更に、前記キメラタンパク質に特異的なプロテアーゼをコードする核酸を含むベクター、及び/又は前記キメラタンパク質及びプロテアーゼを含み、更に好ましくはそれらを発現する細胞を含む。前記キットはまたプロテアーゼ阻害剤のスクリーニングに用いることができる。
本発明は更に別の使用及び利点を提供する。例えば本発明の目的はまた、あるプロテアーゼに特異的な阻害剤のin vivoスクリーニングのために効果的で普遍化された方法を提供することである。従って、ある実施態様では、本発明は以下を提供する:
(1)細胞内小器官への輸送を誘導する少なくとも1つのシグナルタンパク質、あるプロテアーゼに特異的な少なくとも1つのタンパク分解切断部位、及び少なくとも1つの蛍光性タンパク質標識を含むキメラ基質タンパク質、並びに前記キメラ基質タンパク質を構築する普遍化された方法;
(2)前記キメラ基質タンパク質をコードする核酸配列を含むリコンビナント遺伝子、前記遺伝子を用いて細胞を形質転換させ、前記キメラ基質タンパク質を発現させることができる;
(3)前記キメラ基質タンパク質及びその特異的プロテアーゼが生細胞に同時に存在し、それによって前記基質のプロテアーゼによるタンパク分解切断が生細胞内で生じることが可能な系;
(4)前記生細胞内での前記プロテアーゼによる前記キメラタンパク質の切断を、前記基質に結合させた蛍光性タンパク質標識から放出される蛍光シグナルを示す細胞を直接観察することにより確認することによって前記プロテアーゼ活性をin vivoで測定する効果的な段階的方法;及び
(5)生細胞内での前記プロテアーゼ活性の測定のために構築された上記の系を用いることによって、あるプロテアーゼに対して特異的な阻害剤をスクリーニングする効果的な段階的方法。
【0011】
附随する技術的問題を熟慮することにより、本発明は、特定のプロテアーゼの活性を分析し、更に前記プロテアーゼの阻害剤をスクリーニングするより実際的なin vivoの方法を提供する。前記方法では、プロテアーゼ及びその特異的基質は生細胞に同時に存在し、それにより前記プロテアーゼによる基質の切断が生細胞内で生じ、その結果を前記生細胞で直接観察することができる。
関連する特徴で、本発明は、細胞内又は組織内のプロテアーゼを検出する極めて有用な方法を提供する。本発明を詳述すれば、前記方法は以下の工程の1つ、好ましくは全てを含む:
a)対象の細胞又は組織に、共有結合で連結された以下の成分を含むキメラタンパク質をコードする核酸を含む第一のベクターを導入し:1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質;2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位;及び3)少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列;
b)前記第一のベクターによってコードされたキメラタンパク質を発現させることができる条件下で前記細胞又は組織をインキュベートし;更に
c)前記キメラタンパク質(又は検出できるように標識されたその成分)の細胞内局在及びシグナル強度の少なくとも1つにおける変化を、前記細胞内における前記プロテアーゼの存在の指標として検出する。
考察されるように、本方法は融通性をもち、目的の使用に適合するように容易に調整することができる。例えば必要な場合には、本方法は更に、対象の細胞又は組織に、プロテアーゼをコードする核酸配列を含む第二のベクターを導入し、更に前記第二のベクターを前記細胞又は組織で発現させ前記プロテアーゼを前記細胞内又は組織内で産生させる工程を含むことができる。
【0012】
本発明はまた、プロテアーゼ阻害剤のin vivo活性を検出し、場合によって定量する方法を提供する。好ましい阻害剤は問題の細胞又は組織にとって内因性でもよい。しかしながら、本発明の多くの実施態様では、前記阻害剤は前記細胞又は組織に投与されるもので、天然に存在する分子、合成及び半合成分子が含まれるであろう。そのような分子はケミカルライブラリーから入手することができるが、それら分子には、公知の阻害剤、疑いのある阻害剤又は完全に未知の阻害剤活性を有するものが含まれる。例えば、特定のプロテアーゼ活性が確定されている実施態様では、特定の細胞、組織タイプ又は培養条件で前記プロテアーゼの活性を確認するために本発明を用いることができる。他の実施態様では、本発明を用いて候補化合物をケミカルライブラリーからスクリーニングすることができる。本発明のある実施態様では、本検出方法は以下の工程の少なくとも1つ、好ましくは全てを含む:
a)対象の細胞又は組織に、共有結合で連結された以下の成分を含むキメラタンパク質をコードする核酸を含む第一のベクターを導入し:1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質;2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位;及び3)少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列;
b)前記細胞又は組織に、少なくとも1つの対象のプロテアーゼ、好ましくは1つの対象のプロテアーゼをコードする第二のベクターを導入し;
c)前記細胞又は組織を候補化合物と接触させ;
d)前記第一のベクターによってコードされたキメラタンパク質及び前記第二のベクターによってコードされたプロテアーゼを発現させることができる条件下で前記細胞又は組織をインキュベートし;更に
e)前記キメラタンパク質(又は検出できるように標識されたその成分)の細胞内局在及びシグナル強度の少なくとも1つにおける変化を、前記プロテアーゼ阻害剤の存在の指標として検出する。
【0013】
前述の検出方法は融通性を有し、単一処理、標準処理又は高処理態様で候補化合物をスクリーニングするために容易に調整することができる。例を挙げればある実施態様では、本方法は更に、検出できるように標識されたキメラタンパク質もしくは標識されたその成分タンパク質の細胞内局在又はシグナル強度における変化を検出することを目的とする、自動化又は半自動化装置の使用を含む。より具体的な装置には、細胞内又は組織内の検出可能な配列を検出できるように適応させた光学系が含まれる(前記の系は使用者に即時出力又は保存出力を提供することができる)。
所望の場合には、キメラタンパク質(又は検出できるように標識されたその成分)の細胞内局在、シグナル強度(又はその両方)における検出可能な変化は適切なコントロールを参考にモニターすることができる。適切なコントロールの1つは、工程c)での被検化合物の代わりに水、食塩水又は緩衝液の添加である。もちろん、コントロールの使用は、キメラタンパク質、ホスト細胞又は組織などの特徴が個々の方法において既に確立されている実施態様では必要とされないかもしれない。
考察されるように、本発明はプロテアーゼ阻害剤の検出に適している。本発明に適した公知のプロテアーゼ阻害剤はウイルス疾患阻害剤であろう。ウイルスプロテアーゼはウイルスキャプシドの複製及び再組み立てに必須であるので、前記プロテアーゼの阻害剤は、前記プロテアーゼを阻害しウイルスの増殖を抑制することによってウイルス疾患の治療に用いることができる。動物ウイルスは例えばエイズ及び肝炎などの疾患を惹起し、植物ウイルスは葉を萎れさせ斑入りにして作物の収量を低下させるであろう。
ある特徴では、本発明は、複数の基質を提供することによって種々のプロテアーゼに特異的な阻害剤を効果的に開発する体制、及び種々のプロテアーゼに特異的な阻害剤をin vivoでスクリーニングする方法を提供する。本方法はまた、通常のin vitroの方法によってスクリーニングされた薬剤候補物質の有効性を決定するために用いることができる。
【0014】
発明の最良の実施態様
考察するように、本発明は、細胞内又は組織内のプロテアーゼを検出する極めて有用な系を提供する。所望する場合には、本発明の系は、2つ以上のプロテアーゼ、好ましくは約3つ未満のプロテアーゼ、通常は約1つのプロテアーゼを検出するために容易に適合させることができる。好ましくは本発明の系は共有結合で連結された成分として以下を含むキメラタンパク質を含む:1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質;2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位;及び3)少なくとも1つの検出することができるアミノ酸配列。典型的には好ましいキメラタンパク質は約20未満の成分、より好ましくは約10未満の成分から成り、一般的にはほとんどのタンパク質の場合約3から約6成分が好ましい。本発明は広範囲の重要な用途を有し、前記にはin vivoでプロテアーゼ活性を低下させるか、又は完全に阻止する候補化合物を検出するスクリーニングにおける使用が含まれる。
本発明の“系”は、本明細書に記載されている1つ又は2つ以上のキメラ分子を、前記に加えることができる任意の付加成分とともに含んでいる。前記付加成分は、前記キメラ分子の可溶性又は安定性を促進することができる成分である。前記の例には、血清タンパク質(例えばウシ血清アルブミン)、緩衝液(例えばリン酸緩衝食塩水)又は許容される賦形剤又は安定剤が含まれるが、ただしこれらに限定されない。許容可能な賦形剤、安定化剤などについては例えば一般的には以下を参照された:Reminington's Pharmaceutical Sciences, Mack Pub. Co., Easton, PA, 1980。本発明の典型的な系はまた、本明細書に記載した核酸、ベクター、遺伝的改変(manipulated)細胞又は組織の少なくとも1つを含むであろう。本発明の実施態様では、前記キメラタンパク質は有用な実験的コントロールとして機能することができる。好ましい系は約1から10、好ましくは約5未満、より好ましくは約1つのキメラタンパク質を含み、前記キメラタンパク質は許容可能な担体(例えば水又は緩衝食塩水)に溶解されている。好ましくは、前記系は滅菌状態で提供される。
【0015】
“シグナルタンパク質”という語句は、細胞内小器官へ誘導する固有のトラフィッキングシグナル又は細胞内でのその局在に関係する固有の特性(例えば集合塊形成)のいずれかを有するポリペプチド配列を意味する。好ましいシグナルタンパク質は、実施例の章を含む本明細書を通して見出すことができよう。
本発明の好ましいキメラタンパク質は、場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、プロテアーゼ特異的切断部位、及び検出可能なアミノ酸配列を含む。前記は遺伝子組換えの方法、化学的方法又は他の適切な方法によって共有結合により一緒に連結(すなわち融合)されてある。ほとんどの実施態様では遺伝子組換えによるアプローチが好ましいであろう。ほとんどの実施態様で一般的には要求されるわけではないが、ペプチドリンカー配列を介して1つ又は2つ以上の成分を1つの部位又はいくつかの部位で融合させることができる。具体的なペプチドリンカー配列は約30未満のアミノ酸、より好ましくは約15未満のアミノ酸、更に好ましくは約1から約5アミノ酸であろう。 前記ペプチド配列は、病原体誘発又はホスト誘発プロテアーゼによって切断される1つ又は2つ以上の部位を含むことができる。また別には、前記ペプチドリンカーは前記キメラタンパク質の構築を促進するために用いてもよい。特に好ましいキメラタンパク質は“インフレーム”融合分子と称されるであろう。
【0016】
記載したように、本明細書に開示したキメラタンパク質の成分は、前記タンパク質がその目的の機能を有することを条件にほぼ任意の態様で編成させることができる。更に既に述べたように、前記キメラタンパク質の各成分は少なくとも1つの適切なペプチドリンカー配列によって互いに一定の間隔を置いて配置することができる。
例えば、前記キメラタンパク質成分のいずれも前記タンパク質のN−末端を含むことができる。更にまた、前記成分のいずれも前記キメラタンパク質のC−末端を含むことができ、その末端には下記で考察するようにまた別の成分(例えば精製タグ配列)を含むことができる。別に特定しないかぎり、アミノ酸配列に関して“共有結合により連続的に連結された”という語句は、NからCの方向に一緒に連結されたペプチド結合を意味する。ヌクレオチド配列に関しては、前記語句は5’から3’方向への1つのヌクレオシドと別のヌクレオシドとの結合を意味する。
本発明の系のより具体的な例として、前記キメラタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含む:1)シグナルタンパク質;2)プロテアーゼ特異的切断部位;及び3)検出可能なアミノ酸配列。また別には、前記キメラタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含む:1)隠蔽配列;2)プロテアーゼ切断部位;3)シグナルタンパク質;及び4)検出可能なアミノ酸配列。また別に実施態様では、本発明の系の特徴的な使用のために前記キメラタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含む:1)シグナルタンパク質;2)プロテアーゼ切断部位;3)隠蔽配列;及び4)検出可能なアミノ酸配列。
【0017】
2つ以上のシグナルタンパク質がキメラタンパク質で要求される実施態様では、前記のタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含む:1)第一のシグナルタンパク質;2)プロテアーゼ切断部位;3)第二のシグナルタンパク質;及び4)検出可能なアミノ酸配列。より具体的には、前記のようなタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含む:1)第一のシグナルタンパク質;2)第一のプロテアーゼ切断部位;3)隠蔽配列;4)第二のシグナルタンパク質;及び5)検出可能なアミノ酸配列。
いくつかの事例では、前記キメラタンパク質が2つ以上(例えば1つ、2つ、3つ又は4つ)のプロテアーゼ切断部位を含む系をもつことが有用であろう。そのような場合には、前記キメラタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含むことができる:1)隠蔽配列;2)第一のプロテアーゼ切断部位;3)第一のシグナルタンパク質;4)第二のプロテアーゼ切断部位;5)第二のシグナルタンパク質;及び6)検出可能なアミノ酸配列。また別には、前記キメラタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含むことができる:1)第一のシグナルタンパク質;2)第一のプロテアーゼ切断部位;3)第二のシグナルタンパク質;4)第二のプロテアーゼ切断部位;5)隠蔽配列;及び6)検出可能なアミノ酸配列。
また別の実施態様では、前記キメラタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含む:1)プロテアーゼ特異的切断部位;2)シグナルタンパク質;及び3)検出可能なアミノ酸配列。また別には前記キメラタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含むことができる:1)第一のシグナルタンパク質;2)第一の検出可能なアミノ酸配列;3)プロテアーゼ切断部位;及び4)第二の検出可能な配列。この実施例では、前記タンパク質は更に前記プロテアーゼ切断部位のC−末端と前記第二の検出可能配列のN−末端との間に共有結合により連結された第二のシグナル配列を含むことができる。
【0018】
本発明は、共有結合により連続的に連結された以下を含む更に別のキメラタンパク質を提供する:1)第一のシグナルタンパク質;2)プロテアーゼ切断部位;3)第二のシグナルタンパク質;及び4)検出可能なアミノ酸配列。また別には前記キメラタンパク質は共有結合により連続的に連結された以下を含むことができる:1)第一の検出可能な配列;2)プロテアーゼ切断部位;3)シグナルタンパク質;及び4)第二の検出可能な配列。
本発明のより好ましいキメラタンパク質は、適切な分子量マーカーを用いて標準的なSDSPAGEゲル電気泳動によって決定したとき、約250kDa未満、好ましくは約200kDa未満の分子サイズ、より好ましくは約25から約175kDaの分子サイズを有するであろう。
“ポリペプチド”とは任意のポリマーを指し、前記は本質的にそのサイズとは無関係に天然の20個のアミノ酸のいずれかから成る。比較的大きなポリペプチドを指してしばしば“タンパク質”と称し、小さなポリペプチドを指してしばしば“ペプチド”と称するが、当分野におけるこれらの用語の使用はしばしばオーバーラップする。“ポリペプチド”という用語は、別に特定されないかぎり、一般的にタンパク質、ポリペプチド及びペプチドを指す。
本明細書で用いられるように、“細胞”という用語は任意の初代細胞又は不朽化細胞株、前記のような細胞の任意の群、組織又は器官を含むことが意図される。好ましい細胞には哺乳類細胞(例えばヒト起源のもの)、植物細胞、酵母、真菌及び昆虫細胞が含まれる。本発明の“ホスト細胞”は感染細胞であってもよく、また本明細書に記載されているように核酸又はベクターの増殖に用いることができる例えば大腸菌のような細胞でもよい。
【0019】
本発明を個々に用いる場合キメラタンパク質の固有の構造がしばしば要求されることは理解されよう。個々のキメラタンパク質成分又は成分群の選択は認識されているパラメーターによって教示されるであろう。前記パラメーターには以下が含まれる:選択されるシグナルタンパク質、プロテアーゼ特異的切断部位及び検出可能なアミノ酸配列、モニターされるべきプロテアーゼ、並びに使用のために要求される感度及び選択性のレベル。
例示すれば、本発明は、前記キメラタンパク質が1つのシグナルタンパク質、1つの検出可能な配列及び1つのプロテアーゼ特異的切断部位を含む実施態様を含む。この実施例では、前記シグナルタンパク質のN−末端又はC−末端に連結された隠蔽配列を含むことがしばしば有用であろう。すなわち、隠蔽配列の前記検出可能配列への連結は、本発明の使用例のいくつかではあまり望ましくないであろう。
本発明の他の特定の使用例では、典型的にはまた別の特定のキメラタンパク質構造が要求されるであろう。例えば、個々のタンパク質が1つのシグナルタンパク質、及び2つの検出可能なアミノ酸配列の間に位置する1つのプロテアーゼ特異的切断部位を有する場合、前記検出可能アミノ酸配列の1つを除いて前記の系を最適化することがしばしば所望されるであろう。
本発明のまた別の使用は、多数の隠蔽配列を含むことによって促進されるであろう。前記隠蔽配列はシグナル配列でも、検出可能アミノ酸配列でも又は他の適切な配列(例えばプロテアーゼ特異的切断配列)でもよい。これらの実施態様では、1つ又は2つ以上の更に別の隠蔽配列(例えばプロテアーゼ切断部位)を有することは、前記系の効果を最大にするために必ずしも必要ではないであろう。しかしながら、2つの異なるシグナルタンパク質を含む実施態様では、1つのプロテアーゼ切断部位及び2つの検出可能アミノ酸配列、その上に付加される1つ又は2つの隠蔽配列は有益であろう。
【0020】
更にまた、個々のキメラタンパク質は除去可能なタグ配列を含むことができる。前記はいくつかの実施態様では前記キメラタンパク質の特定及び/又は精製に役立つであろう。前記の例は6XHis及びMYCタグである。他の適切なタグ配列は当分野で周知であり、所望の場合本発明で用いることができる。
本発明の実施は、隠蔽されてあるか又は隠蔽されていない、多様なシグナルタンパク質及びその機能的フラグメントと完全に適合する。好ましい例は、細胞小器官又は他の細胞内小区画に前記キメラタンパク質(又は前記タンパク質の検出可能成分(例えば検出可能配列))を一般的に局在させるために十分である。“小区画”という用語は内部が限定された空間(例えば空胞、ペルオキシソーム、ミトコンドリアなど)を意味する。
好ましい植物シグナルタンパク質は、キメラタンパク質又はその成分の少なくとも1つを植物細胞の核、ゴルジ小体、溶解小胞、貯蔵小胞、ペルオキシソーム、ミトコンドリア、小胞体、細胞質膜又は葉緑体に局在させる。より好ましい植物シグナルタンパク質には、AtOEP7;RbcS;RA;SKL;F1−ATPアーゼ;PH;FAPP;H+−ATPアーゼ;又はその機能的フラグメントが含まれる。好ましい動物シグナルタンパク質は、キメラタンパク質又はその成分の少なくとも1つを動物細胞の核、ゴルジ小体、貯蔵小胞、リソソーム、ペルオキシソーム、小胞体、細胞質膜又はミトコンドリアに局在させる。前記の例には、ヒトのペプチドメチオニンスルホキシドレダクターゼ(MSRA)、チトクロームb2、11−β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β−HSD)、G9−AKL、ペルオキシソーム必須膜タンパク質7(PMP47);又はその機能的フラグメントが含まれる。好ましい動物シグナルタンパク質の配列については下記実施例を参照されたい。
【0021】
考察されるように、本発明の実施は、動物細胞で機能するシグナルタンパク質の使用と適合する。典型的な例には下記の表Iに示されている動物のシグナルが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
表I

1タイプA:シグナルタンパク質は隠蔽シグナルタンパク質として用いることができる。
タイプB:シグナルタンパク質は非隠蔽シグナルタンパク質として用いることができる。
以下の文献を参照されたい:A. Hansel et al., FASEB J, 16:911-31(2002)(ヒトのペプチドメチオニンスルホキシドレダクターゼ(MSRA));U. Bomer et al., J. Biol. Chem. 272:30439-30446(1997)(チトクロームb12);A. Naray-Fejes-Toth and G. Fejes-Toth, J. Biol. Chem. 15436-15444(1996)(11β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β−HSD));J.A. McNew and J.M. Godman, J. Cell Biol. 127:1245-1257(1994)(G9−AKL);Dyer et al., J. Cell Biol. 133:269-280(1996)(PMP47(ペルオキシソーム必須膜タンパク質7))。
【0022】
“機能的フラグメント”という用語は、本明細書でシグナルタンパク質について用いる場合は、個々のシグナルタンパク質のフラグメントであって、完全長配列のシャトル機能の少なくとも約70%、好ましくは約90%を越える機能を提供することができる前記フラグメントを意味する。シグナルタンパク質機能の検出及び定量方法は公知であり、実施例の章に記載したように蛍光画像化技術を用いたシグナル強度の局在及び定量化が含まれる。
明白なように本発明は融通性を有し、いずれのプロテアーゼ特異的切断部位の使用にも限定されない。例えば、前記切断部位は哺乳類のプロテアーゼ又はウイルスプロテアーゼによって特異的に切断される。“特異的に切断される”という語句は、固有のプロテアーゼ切断部位のペプチド結合が対象のプロテアーゼによって特異的に破壊されることを意味する。すなわち、前記プロテアーゼ切断部位は、ホスト細胞に天然に存在するプロテアーゼ(一般にハウスキーピングプロテアーゼと称されるものを含む)によって特異的に破壊されることはない。前記プロテアーゼ切断部位の特異的な切断は、多様な技術(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を含む)によってモニターすることができる。
【0023】
好ましいプロテアーゼ切断部位は、ヒトの病原体(例えば酵母菌、細菌、真菌、線虫、ウイルス又は原虫に附随するプロテアーゼによって特異的に加水分解される部位である。より具体的な例には、サイトメガロウイルス(CMV);ヘルペスシンプレックスウイルス(HSV);肝炎ウイルス(好ましくはA又はC型);ヒト免疫不全ウイルス(HIV);カポジ肉腫附随ヘルペスウイルス(KSHV);黄熱病ウイルス;フラビウイルス;ライノウイルス;マラリア原虫(例えば熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P.vivax)又は卵形マラリア原虫(P. ovale)、四日熱マラリア原虫(P. malariae))が含まれる。典型的には、マラリア原虫はマラリア及びマラリアに関連する多様な合併症をひき起こす。プロテアーゼのプラスメプシンI及びIIが関与しているとの認識がある。HSVが問題となる実施態様では、プロテアーゼはHSVの成熟に関するプロテアーゼである。
種々の具体的なHIV−1及びHCVプロテアーゼ特異的切断部位が報告されている。例えば以下を参照されたい:I.Y. Gluzman et al., J. Clin. Invest. 94:1602(1994); A. Grakoui et al., J. Virol. 67:2832(1993); A.A. Kolykholov et al., J. Virol. 68:7525(1994); K.A. Barrie et al., Virology 219:407(1996)(前記文献は参照により本明細書に含まれる)。
更に別の病原体特異的プロテアーゼ及び特定の切断部位が報告されているが、本発明に従って用いることができる。例えば、HSV−1成熟に関するプロテアーゼ及びプロテアーゼ切断部位が記載されている。例えば以下を参照されたい:M.R.T. Hall and W. Gibson, Virology 227:160(1997)。更に、プラスメプシンI及びIIは熱帯熱マラリア原虫の消化小胞で見出されている。その対応するプロテイナーゼ切断部位もまた報告された。例えば以下を参照されたい:R.P. Moon, J. Biochem. 244:552(1997)。
【0024】
更に別の本発明で使用されるプロテアーゼ特異的切断部位は、血液凝固、アポトーシス又は細胞外マトリックスに附随する哺乳類プロテアーゼによって特異的に切断される。下記の実施例及び考察を参照されたい。
本発明の実施は、例えば直接的又は間接的に蛍光性、リン光性、冷光性又は化学発光性である検出可能なアミノ酸の1つ又はそれらの組合せの使用に適合する。2つ又は3つ以上のそのような検出可能配列が用いられる実施態様では、検出可能配列の1つの放出波長はしばしば少なくとも1つの他の検出可能配列とは異なっているであろう。例えば、好ましい検出可能配列はある種のクラゲの周知の蛍光タンパク質に由来する。前記蛍光タンパク質には、緑色光、赤色光及び黄色光を適切な励起条件下で放出するものが含まれる。
考察されるように、本発明は更に実質的に純粋なキメラタンパク質を提供する。そのようなキメラタンパク質は、公知の技術の適切な組合せによって分離及び精製することができる。所望する場合は、そのようなタンパク質は本明細書に記載するように1つ又は2つ以上の精製タグを含むことができる。これらの方法には、例えば可溶性を利用する方法(例えば塩沈澱及び溶媒沈澱)、分子量における相違を利用する方法(例えば透析、限外ろ過、ゲルろ過及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)、荷電の相違を利用する方法(例えばイオン交換カラムクロマトグラフィー)、固有の親和性を利用する方法(例えばアフィニティークロマトグラフィー)、疎水性の相違を利用する方法(例えば逆相高速液体クロマトグラフィー)及び等電点の相違を利用する方法(例えばイソエレクトリックフォーカシング、金属親和性カラム(例えばNi−NTA))が含まれる。これらの方法に関する記載については一般的には以下を参照されたい:Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed. (1989); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1989); and Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1999)。
【0025】
本発明のキメラタンパク質は実質的に純粋であるのが好ましい。すなわち、前記キメラタンパク質は天然の状態で細胞置換物に附随するものから単離され、従って前記キメラタンパク質は好ましくは少なくとも80%(w/w)又は90から95%(w/w)の均一性で存在する。少なくとも98から99%(w/w)の均一性を有するキメラタンパク質が多くの医薬用途、臨床用途及び研究用途にとって極めて好ましいであろう。いったん実質的に精製されたら、前記キメラタンパク質は、細胞培養及び関連用途に対して夾雑物を実質的に含まないはずである。いったん部分的又は実質的に精製されたら、前記可溶性キメラタンパク質は治療のために、又は本明細書で開示されるようにin vitroもしくはin vivoアッセイの実施に用いることができる。実質的精製度は多様な標準的技術(例えばクロマトグラフィー及びゲル電気泳動)によって決定することができる。
適切なホスト細胞を調製目的で使用して所望のキメラタンパク質をコードする核酸を増殖させることができる。従ってホスト細胞には、前記キメラたんぱく質の製造を特に目的とする原核細胞、植物又は真核細胞が含まれる。従ってホスト細胞には、前記キメラタンパク質をコードする核酸を増殖させることができる、特に酵母、ハエ、蠕虫、植物、カエル、哺乳類細胞、植物細胞及び器官が含まれる。使用することができる哺乳類細胞の非限定的な例には、CHOdhfl-細胞(Urlaub and Chasm, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216(1980) )、293細胞(Graham et al., J. Gen. Virol. 36:59(1977))、SP2又はNSOのようなミエローマ細胞(Galfre and Milstein, Meth. Enzymol. 73(B):3(1981))が含まれる。他の適切な細胞は上掲書に記載されている(Sambrook et al.)。
【0026】
所望のキメラタンパク質をコードする核酸を増殖させることができるホスト細胞には非哺乳類真核細胞が同様に含まれ、前記には昆虫細胞(例えばSp. Frungiperda)、酵母細胞(例えばS. cerevisiae, S. pombe, P. pastoris, K, lactis, H. polymorpha;一般的には以下で概括されている:R. Fleer, Current Opinion in Biotechnology, 3(5):486-496(1992))、真菌細胞及び植物細胞(例えばシロイヌナズナ(Arabidopsis)及びタバコ(Nicotinia))が含まれる。更に、ある種の原核細胞(例えば大腸菌(E. coli)及びバチルス)の使用も意図される。
所望のキメラタンパク質をコードする核酸を、細胞をトランスフェクトする標準的な技術によってホスト細胞に導入することができる。“トランスフェクト”又は“トランスフェクション”という用語は、核酸をホスト細胞に導入する通常の全ての技術を包含し、前記技術には以下の方法が含まれる:カルシウムリン酸塩同時沈澱、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクチン、電気穿孔、マイクロインジェクション、ウイルスによる形質導入及び/又は組み込み。ホスト細胞のトランスフェクションに適した方法は上掲書(Sambrook et al.)及び他の実験用テキストで見出すことができる。
【0027】
本発明は更に問題のキメラタンパク質の単離のための製造方法を提供する。前記方法では、問題のタンパク質をコードする核酸(調節配列に機能的に連結されてある)が導入されたホスト細胞(例えば酵母、真菌、昆虫、細菌又は動物細胞)を、問題のキメラタンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写を刺激するために、前記キメラタンパク質の存在下で培養液中で大量に増殖させる。続いて、採集したホスト細胞又は培養液から前記問題のキメラタンパク質を単離する。標準的なタンパク質精製技術を用いて、培養液又は採集細胞から問題のタンパク質を単離することができる。特に、多様な装置(ローラーボトル、スピンナーフラスコ、組織培養プレート、バイオリアクター又はファーメンターを含む)で大規模に(すなわち少なくともミリグラム単位で)所望のキメラタンパク質を発現及び精製するために、前記精製技術を用いることができる。
従って、本発明は更にキメラ基質タンパク質をコードする核酸配列を提供する。前記キメラ基質タンパク質をコードする核酸を用いて、細胞を形質転換し細胞内で前記キメラ基質タンパク質を発現させることができる。細胞を形質転換させるために、リコンビナント遺伝子は、前記キメラ基質タンパク質のコード領域に機能的に連結されたプロモーター及び他の調節核酸配列を含まねばならない。プロモーターの選択は、認識されているパラメーター(典型的にはホスト細胞の選択)によって教示されるであろう。
【0028】
考察されるように、本発明はまた、本発明のキメラタンパク質をコードする核酸配列及び特にDNA配列を提供する。好ましくは、前記DNA配列は、染色体外複製に適したベクター(例えばファージ、ウイルス、プラスミド、ファージミド、コスミド、YAC又はエピソーム)によって担持される。特に、所望のキメラタンパク質をコードするDNAベクターを用いて本明細書で開示する調製方法を容易にし、相当量のキメラタンパク質を得ることができる。前記DNA配列を適切な発現ベクター(すなわち前記挿入タンパク質をコードする配列の転写及び翻訳に必要なエレメントを含むベクター)に挿入することができる。多様なホスト−ベクター系を利用して、前記タンパク質をコードする配列を発現させることができる。前記系には、ウイルス(例えばワクシニアウイルス、アデノウイルスなど)を感染させた哺乳類細胞系;ウイルス(例えばバキュロウイルス)を感染させた昆虫細胞系;酵母ベクターを含む微生物(例えば酵母)、又はバクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNAで形質転換した細菌が含まれる。利用するホスト−ベクター系に応じて、多数の適切な転写及び翻訳エレメントのいずれも使用することができる。一般的には上掲書(Sambrook et al.; Ausubel et al.)を参照されたい。
一般的に、本発明の好ましいDNAベクターは、本明細書に記載したキメラタンパク質をコードする第一のヌクレオチド配列の導入のために、5’から3’方向にホスホジエステル結合によって連結された第一のクローニング部位を含むヌクレオチド配列を含む。所望される場合には、前記タンパク質は1つ又は2つ以上の適切なタグ配列をコードするDNAに連結することができる。図7(a)−(j);8(a)−(b);及び9(a)−(c)はそのようなベクターの例を提供する。
【0029】
本発明のいくつかの実施態様では、前記DNAベクターによって提供されるキメラタンパク質が“カセット形式”で提供されるのが好ましいであろう。“カセット”という用語は、コードされたタンパク質(又はその成分)が標準的な遺伝子組換え方法によって別の成分と容易に置換できることを意味する。特に、カセット形式で構成されたDNAベクターは、1つの位置特異的プロテアーゼ切断部位又は検出可能なアミノ酸配列を別の配列に“交換”することが有用な場合に特に所望される。コアベクターを用いて種々のキメラタンパク質を発現させる、図7(a)−(j);8(a)−(b);及び9(a)−(c)を参照されたい。
より具体的には、いくつかの事例では、個々のプロテアーゼ切断部位はある種の病原体の血清タイプ(特にウイルス株)に特異的であることが意図される。前記に関しては、薬剤耐性HIV血清タイプの出現が特に問題である。この場合は、カセット形式のDNAベクター内の1つ又は2つ以上の現存のプロテアーゼ切断部位を、必要とされる他の予め定めたプロテアーゼ切断部位と置き換えることができる。具体的なプロテアーゼ切断部位は、個々の患者に存在する病原体に従って選択することができる。
重要なことには、本発明は、対象細胞又は組織におけるプロテアーゼ活性の変化を記録することができる効果的な“警告システム”として機能することができる。例えば、PCR又はハイブリダイゼーション実験が病原体附随プロテアーゼをコードするゲノムDNAの存在を示した場合に、本発明を使用することによって細胞内又は組織内の活性なプロテアーゼの存在を検出することができる。本発明のこの特徴は多様な設定(病原体の夾雑が判明しているか疑われる細胞培養を含む)で有用である。
考察されるように、本発明を用いて問題のホスト細胞内又は組織内の1つ又は2つ以上のプロテアーゼの存在を検出することができる。本明細書に開示した本方法及び組成物は、プロテアーゼ阻害分子(考察されるように、前記は天然に存在するものでもそのような分子群(すなわちケミカルライブラリー)の一部分でもよい)の検出及び分析に特に有用である。
【0030】
A.プロテアーゼ阻害剤の候補物質のスクリーニングにおける本発明の使用
1.一般的考察
本発明で述べる実施例で用いられる植物プロトプラストの他に、細胞壁をもつ正常な植物細胞、ヒト、動物又は昆虫の細胞もまた、本発明のプロテアーゼ阻害剤のスクリーニングに用いることができる。形質転換及び培養が容易であり、更にプロトプラストの規則的な球体のためにタンパク質の局在の特定が促進されるという理由から植物細胞がしばしば好ましいであろう。しかしながら、例えば問題のプロテアーゼが植物細胞内では活性形として発現させることができない場合は、他の細胞及び組織も有用であろう。例えばそのようなプロテアーゼは不適切な翻訳後修飾のために発現させることが困難であるかもしれない。このような問題が生じる場合は、適切な動物又は昆虫細胞を用いて解決することができるであろう。前記のような事例では、選択された細胞で機能することができるシグナルタンパク質を使用する必要がある。例えば、ヒト、動物又は昆虫細胞がスクリーニングに用いられる場合は、葉緑体誘導シグナルタンパク質(例えばAtOEP7、RbcS、Cab及びRA)は上記細胞には存在しないので用いることができない。ヒト、動物又は昆虫細胞の場合、他の細胞内小器官(例えばミトコンドリア、ペルオキシソーム、細胞質膜など)に誘導するシグナルタンパク質を用いることができる。更にまた、プロモーター及び他の調節エレメントを含むベクター系も使用する細胞に応じて適切に選択する必要がある。
本発明のプロテアーゼ阻害剤のin vivoスクリーニングの場合、問題のプロテアーゼ及び前記プロテアーゼに特異的なキメラ基質タンパク質の両者を発現することができる形質転換細胞を調製する。前記形質転換細胞を調製するもっとも好ましい方法は、前記プロテアーゼをコードするリコンビナントプラスミド及び本発明によって提供されるキメラ基質タンパク質をコードするリコンビナントプラスミドで細胞を同時形質転換させることである。前記プロテアーゼがウイルスのプロテアーゼである場合は、ウイルス感染もまた形質転換細胞内でのプロテアーゼ発現に用いることができる。
【0031】
極めて多様な植物、動物、酵母、真菌及び昆虫細胞を形質転換する方法が確立されている。例えば、リコンビナントプラスミドを導入することによって細胞を形質転換する方法には、PEG(ポリエチレングリコール)、リン酸カリウムもしくはDEAE−デキストランを用いる化学物質仲介方法、陽イオン性脂質仲介リポフェクチン、マイクロインジェクション、電気穿孔、電気融合及びDNA衝撃法が含まれるが、ただしこれらに限定されない。使用する細胞タイプに応じて、適切な形質転換方法を選択し、条件を最適化して効率的な形質転換を達成する必要がある。植物細胞のプロトプラスト(例えばシロイヌナズナ又はタバコのプロトプラスト)を用いる場合は、実施例1(c)に記載されているPEG仲介形質転換法が好ましい方法である。実施例1(c)に示されている条件はシロイヌナズナ(Arabidopsis)のプロトプラストに最適化されている。細胞壁を有する正常な植物細胞を用いる場合は、遺伝子銃によるDNA衝撃法又はPEG−仲介形質転換法が植物の細胞タイプに応じて用いられるであろう。ヒト、動物又は昆虫細胞の場合、リン酸カリウム仲介もしくはDEAEデキストラン仲介トランスフェクション法、又は陽イオン性脂質仲介リポフェクチン法を用いて細胞を形質転換することができる。
【0032】
プロテアーゼ阻害剤をスクリーニングするために、前記プロテアーゼ及びキメラ基質タンパク質の発現中に前記形質転換細胞を候補化合物と接触させる必要がある。典型的には、形質転換細胞を含む溶液に候補化合物を添加し、得られた溶液を適切な温度でインキュベートする。前記候補阻害剤は、化合物、ペプチド、化合物又はペプチドの混合物、及び天然生成物の抽出物から成る群から選択されたものであろう。前記タンパク質を発現させるためのインキュベーション時間は細胞のタイプ及びインキュベーション温度に応じて変動するであろう。前記時間は約1時間から数日であろう。シロイヌナズナのプロトプラストの場合、インキュベーション時間は、インキュベーションの条件に応じて約4時間から約1週間であろう。シロイヌナズナのプロトプラストをW5溶液中で22℃でインキュベートするときは、好ましいインキュベーション時間は12から48時間の範囲である。検査される候補阻害剤の濃度は約0.1から100μg/mLである。典型的なスクリーニングでは、約1から数μg/mLの濃度を用いることができる。多数の候補化合物をスクリーニングする必要がある場合には、約5から30の候補阻害剤の混合物を1回のスクリーニングで用いることができる。
【0033】
ほぼ任意の化合物又は化合物群を本発明の抗プロテアーゼ活性についてスクリーニングすることができる。これら化合物の例にはサイトカイン、腫瘍抑制物質、抗生物質、レセプター、ミューテイン、前記タンパク質のフラグメントもしくは部分、及び活性なRNA分子(例えばアンチセンスRNA分子又はリボザイム)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。スクリーニングのために好ましい化合物は合成又は半合成薬剤(時に“小分子”と称される)である。例えば、ヒトのウイルス病原体の公知の阻害剤の誘導体集合物を本発明の方法によって容易に検査することができる。例えば以下を参照されたい:米国特許第6,420,438号、6,329,525号、6,287,840号、6,147,188号及び6,046,190号(前記は多様な検査可能分子及びその誘導体を開示する)。
更に別の化合物をスクリーニングするために本発明を用いることができる。以下の文献を参照されたい:Pillay et al., Rev. Med. Virol.(1995)(種々の可能なウイルスプロテアーゼ阻害物質を開示する);Wei et al., Nature 373:117(1995)(インディナビア(indinavir)、ABT-538を開示する);Ho et al., Ann. Intern. Med. 113:111(1992)(抗ヘルペス剤を開示する)。更にまた、前述の特定の化合物の誘導体を本発明によりスクリーニングすることができる。前記特定の化合物にはサクィナビア(saquinavir)及びその誘導体が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0034】
候補化合物によるプロテアーゼ活性の阻害を確認するために、形質転換細胞の蛍光画像を時間の関数としてモニターするのが好ましい。発現時間は細胞の条件に応じて変化させることができ、従ってタンパク分解活性又は阻害は種々の時間で出現するであろう。使用される細胞がシロイヌナズナのプロトプラストである場合、蛍光画像をモニターする好ましい一連の時間は、発現開始後12、18、24、36及び48時間である。キメラ基質タンパク質が2つ又は3つ以上の異なる蛍光標識を含む場合、蛍光画像を前記蛍光標識に特異的な2つ又は3つ以上の蛍光波長でモニターするのが好ましい。明視野画像は細胞内小器官の特定を容易にするので明視野画像をモニターするのが好ましい。プロテアーゼ阻害剤の特定を容易にするために、候補阻害剤と接触させていない形質転換細胞の蛍光画像を比較のためにモニターすることもまた好ましい。多色蛍光フィルターセットを搭載した標準的蛍光顕微鏡(例えばツァイスアキシオプラン(Zeiss Axioplan)蛍光顕微鏡又はニコンE800蛍光顕微鏡)を用い、倍率200倍、400倍又は600倍で蛍光画像をモニターできる。走査共焦点顕微鏡を用いてより高解析の画像を得ることができる。
本発明は広い範囲のキメラ基質タンパク質の構築及び使用に適合することは明白であろう。例えば実施例1を参照されたい。
【0035】
2.Niaプロテアーゼの例証的使用
上記に記載したように構築されたキメラ基質タンパク質を用いてプロテアーゼ活性を測定するために、タバコ葉脈萎縮ウイルス(Tobacco Vein Mottling Virus;TVMV)のNIaプロテアーゼを本発明の実施例でモデル系として用いた。NIaプロテアーゼはもっとも性状が明らかにされたウイルスプロテアーゼの1つであり、前記はTVMVによって産生されるポリプロテインで7つの特異的部位を切断することが知られている。最適なプロテアーゼ活性を達成するために、N末端の6つのアミノ酸残基(P6−P1)及びC末端の4つのアミノ酸残基(P1'−P4')が要求され、更に4つの保存アミノ酸残基(V−R−F−Q)が基質タンパク質のP4−P1に含まれていなければならない。前記4つの保存アミノ酸残基のいずれかがグリシン(Gly)に変異した場合、前記基質タンパク質のタンパク分解切断は生じない(H.Y. Yoon et al., 2000)。
NIaプロテアーゼのタンパク分解部位(PS(NIa))を含むキメラ基質タンパク質発現のためのリコンビナント遺伝子、FP:PS(NIa):AtOEP7:GFPをポリエチレングリコール仲介形質転換法によってプロトプラストに導入したとき、GFP及びRFPが大きな集合物として細胞質ゾルに蓄積した(図4)。この結果は、前記プロテアーゼが機能しない場合に一致する。この場合には、集合物の細胞質ゾルでの蓄積は、AtOPE7タンパク質の疎水性領域間の疎水性相互作用により生じたと考えられる。キメラ基質タンパク質の赤色蛍光シグナルを葉緑体の自家蛍光と容易に識別することができない場合には(図4(b))、2つの異なる蛍光標識を用い、緑色蛍光がオーバーラップ蛍光画像として赤色蛍光と同時に発生するか否かを観察することによって前記基質の反応を明瞭に識別することができる(図4(c))。NIaプロテアーゼをコードするプラスミド及びRFP:PS(NIa):AtOEP7:GFPをコードするプラスミドが形質転換により一緒に導入されたとき、緑色及び赤色蛍光シグナルは葉緑体の外皮膜(envelope membrane)及び細胞質ゾルにそれぞれ分離した(図5)。この結果は、NIaプロテアーゼはキメラ基質タンパクをそのタンパク分解部位で切断し、2つのタンパク質、RFP及びAtOEP7:GFPを生成することができたことを示している。前記プロテアーゼの反応は、緑色蛍光シグナルがシグナルタンパク質の作用によって葉緑体外皮膜に移動し(図5(a))、赤色蛍光シグナルは細胞質ゾルに分散し(図5(b))、更に両蛍光シグナルのオーバーラップ画像(図5(c))を観察することによって確認することができる。
酵素反応の結果を特定する本発明の有効性は、コントロール実験と比較することによって更に明瞭に観察することができる。図4(a)及び図5(a)を比較することによって、タンパク分解切断により前記シグナルタンパク質の隠蔽トラフィッキングシグナルが活性化されることが、蛍光の分布における変化とともに観察することができる。図4(b)及び5(b)を比較することにより、シグナル隠蔽タンパク質として用いられた赤色蛍光タンパク質は、トラフィッキングシグナルの隠蔽の他に蛍光シグナルの分布の変化において役割を果たすことが観察される。
従って、シグナルタンパク質及び蛍光タンパク質を含むキメラタンパク質、並びにタンパク分解部位を含むシグナル隠蔽タンパク質を含むキメラ基質タンパク質を基質として用いて、プロテアーゼの活性を測定し、更にその阻害剤をin vivoでスクリーニングすることができることが提唱される。
【0036】
3.高処理スクリーニングアッセイ:一般的考察
本発明によって提供されるin vivoプロテアーゼ阻害剤スクリーニング方法は高処理アッセイでの使用に容易に適合させることができる。高処理スクリーニング方法は、プロテアーゼ及びそのキメラ基質タンパク質を発現するように形質転換した細胞を候補化合物と接触させ、前記形質転換細胞をインキュベートし、前記形質転換細胞の蛍光画像を入手し、前記蛍光画像をデジタルデータに変換し、更に前記デジタルデータを分析して前記候補化合物が前記プロテアーゼを阻害したか否かを決定することを含む。
本発明の高処理スクリーニングでは、等量の形質転換細胞の溶液を96ウェル又は384ウェルの標準的マイクロタイタープレートのウェル列にロードし、更に種々の候補化合物を各ウェルに加える。続いてマイクロタイタープレートの前記形質転換細胞をインキュベートしてプロテアーゼ及びそのキメラ基質タンパク質を管理環境下で(適切な温度、湿度及び空気成分下で)発現させる。予め選択したインキュベーション時間の後で、蛍光顕微鏡を用いて各ウェルの形質転換細胞の蛍光画像を得る。
前記高処理スクリーニング装置は以下から成る:(1)多数のマイクロタイタープレート中の形質転換細胞サンプル列のためのインキュベーター、(2)自動サンプリング装置、(3)XY軸平行移動サンプルステージ及び高解析デジタルカメラ搭載自動蛍光顕微鏡。予め選択したインキュベーション時間後、前記自動サンプリング装置で少量の形質転換細胞溶液を各ウェルからサンプリングし、それを観察用プレート(例えばスライドガラス)にロードする。サンプリングは、多数のチップもしくはピペットを用いて並行的に実施するか、又はただ1つのチップもしくはピペットを用いて連続的態様で実施することができる。各サンプリングの後で、チップ又はピペットを適切な洗浄溶液で洗浄する。前記形質転換細胞サンプルを予め定めた位置に並べた観察用プレートにロードする。XY軸平行移動ステージによって前記観察用プレートを保持し、これをXY方向に移動させて各サンプルを顕微鏡の対物レンズ下に位置させる。Z軸フォーカスドライブは、焦点を合わせるために顕微鏡の単物レンズを移動させるか、又は観察用プレートをZ軸方向に移動させる。各サンプルについて、デジタルカメラを用いて予め選択した蛍光波長の蛍光画像を得てPCに供給し、更にデジタルデータとして保存する。自動制御装置は、サンプリングピペット、XY軸平行移動ステージ及びZ軸フォーカスドライブの制御のために提供される。PCはディスプレー及びデータ分析ソフトを提供する。
【0037】
プロテアーゼ阻害剤として適合しているか否かは細胞内蛍光分布を調べることによって自動的に決定することができる。一般に、観察細胞サイズ内の蛍光シグナルの局在又は分散の程度をデジタル画像データから算出し、決定の基準として用いることができるであろう。いくつかの事例では、蛍光シグナル分布のパターン又は形状を決定基準に用いることができるであろう。
本発明での使用に適した高処理スクリーニングプロトコルの例は、米国特許第5,989,835号及びPCT出願WO00/79241A2に開示されている。
以下の表2及び3は本発明で使用される配列情報を提供する。
表2:PCRプライマーの配列番号

表3:シグナルタンパク質の配列番号

【0038】
以下は本発明で使用される核酸及びタンパク質の配列情報の実例である。プロテアーゼ及びそれらの切断部位の例は配列番号:45−50、55−74及び77−120で提供される。前記の例には以下が含まれる:NIaプロテアーゼ(配列番号:45及び46)及びその切断部位(配列番号:47−50)、HIV−1プロテアーゼ(配列番号:55及び56)及びその切断部位(配列番号:57−74)、HCVNS3プロテアーゼ(配列番号:77及び78)及びその切断部位(配列番号:79−84)、HSV−1プロテアーゼ(配列番号:85及び86)及びその切断部位(配列番号:87−90)、HTLV−1プロテアーゼ(配列番号:91及び92)及びその切断部位(配列番号:93−96)、HCMVプロテアーゼ(配列番号:97及び98)及びその切断部位(配列番号:99−102)、APPβ−セクレターゼ(配列番号:103及び104)及びその切断部位(配列番号:105−106)、カスパーゼ3(配列番号:107及び108)及びその切断部位(配列番号:113−114)、カスパーゼ3の大サブユニット(配列番号:109及び110)、カスパーゼ3の小サブユニット(配列番号:111及び112)、ヒト血液凝固第II因子(配列番号:115及び116)及びその切断部位(配列番号:117−118)、並びにヒト血液凝固第XI因子(配列番号119及び120)。
2つのNIaプロテアーゼ基質タンパク質の核酸及びタンパク質配列は配列番号:51−54で提供され、HIV-1プロテアーゼ基質タンパク質の核酸及びタンパク質配列は配列番号:75−76で提供される。
【0039】
以下の考察は、本発明のまた別の使用及び利点が開示されている韓国特許出願第10-2001-00481213号に関する。
前記に提供されているように、本発明は、in vivoでプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングするために用いることができる重要なキメラ基質タンパク質を提供する。前記で特に開示されているように、本発明はプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする系に関し、以下を提供する:(i)プロテアーゼの特異的機能によって蛍光の細胞内局在及び分布の変化を誘発するように構築されたキメラ基質タンパク質、(ii)細胞内でキメラ基質タンパク質を発現させるために用いることができるキメラ基質タンパク質をコードする核酸配列を含むリコンビナント遺伝子、(iii)前記プロテアーゼ及びキメラ基質タンパク質が一緒に細胞内に存在し、それによって前記プロテアーゼによるタンパク分解切断が前記細胞内で生じる環境下で細胞内蛍光の局在及び分布を検出することによって前記プロテアーゼの活性を特定する方法、及び(iv)前記キメラ基質タンパク質及び上記の方法を用いてin vivoでプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする方法。
より具体的には、前記韓国特許出願第10-2001-00481213号では、細胞内で発現されたときに前記シグナルタンパク質が細胞内小器官への通行(トラフィッキング)を誘導する前記のようなキメラ基質タンパク質を1個の細胞内で使用できることが開示されている。更に詳しくは、特定の細胞内小器官に向かう前記トラフィッキングシグナル(前記シグナルタンパク質に包含されている)は、シグナル隠蔽タンパク質を前記シグナルタンパク質のN−末端又はC−末端に連結することによって不活化することができる。本発明では、シグナルタンパク質は、あるプロテアーゼのタンパク分解切断部位を含むシグナル隠蔽タンパク質と連結され、それによって前記シグナルタンパク質のトラフィッキングが、前記タンパク分解部位での切断に応じて活性化されたり不活化されたりすることができる。換言すれば、前記キメラ基質タンパク質のトラフィッキング(この場合前記シグナルタンパク質及びシグナル隠蔽タンパク質はタンパク分解部位で連結されている)は、前記シグナル隠蔽タンパク質が前記プロテアーゼによって切断されるまで生じない。そのような切断によって前記シグナルタンパク質の正常なトラフィッキングが誘発される。本発明では、シグナルタンパク質及び/又はシグナル隠蔽タンパク質は蛍光タンパク質で標識され、それによってプロテアーゼの活性は、蛍光シグナルの局在及び分布の特徴における変化を測定することによって決定することができる。従って、本発明でプロテアーゼの基質として用いられるキメラタンパク質は以下の特徴を有する:
(1)本キメラタンパク質は、特定の細胞内小器官への輸送を誘導するトラフィッキングシグナルを有する少なくとも1つのシグナルタンパク質を含む。
(2)本キメラ基質タンパク質は、特定のプロテアーゼに対する少なくとも1つのタンパク分解切断部位を含む。
(3)(1)で規定されたシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルは、前記タンパク分解切断部位をシグナルタンパク質に連結するか、又はシグナル隠蔽タンパク質をタンパク分解切断部位を介してシグナルタンパク質に連結することによって不活化される。
(4)シグナルタンパク質の不活性なトラフィッキングシグナルは、前記タンパク分解部位での切断が前記プロテアーゼによって惹起されたときに活性化される。
(5)前記キメラ基質タンパク質は少なくとも1つの蛍光タンパク質で標識され、前記細胞から発する蛍光シグナルは前記プロテアーゼによるタンパク分解切断に応じて変化する。
【0040】
韓国特許出願第10-2001-00481213号で考察されたように、本発明は更に、本明細書に記載した前記キメラ基質タンパク質を用いてin vivoでプロテアーゼ活性を測定する方法を提供する。更にまた提供されるものは、前記プロテアーゼ活性を測定する方法を用いたプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする方法である。
韓国特許出願第10-2001-00481213号で更に開示されているように、in vivoでプロテアーゼ活性を測定するために、プロテアーゼ及び前記プロテアーゼに特異的なキメラ基質タンパク質は細胞内で同時に存在する必要がある。
更にまた、本発明の特徴の1つであるキメラ基質タンパク質のためのリコンビナント遺伝子が細胞内に導入され、細胞内で前記キメラタンパク質が発現される。プロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする標的プロテアーゼは前記細胞内に存在する内因性プロテアーゼであっても、リコンビナント遺伝子による形質転換又はウイルスによる感染で発現される外因性プロテアーゼでもよい。しかしながら、内因性プロテアーゼが標的である場合は、例えば前記プロテアーゼの発現の調節及び低レベルのプロテアーゼ発現の検出の難しさのために、スクリーニングの正確さ及び効率は低下するであろう。従って本発明は、in vivoでプロテアーゼ活性をより効率的に決定する系を提供する。前記の系では、細胞をリコンビナント遺伝子で形質転換するか、又はウイルスで細胞を感染させることによって特定のプロテアーゼを過剰に発現させるか、又は調節された態様で発現させることができる。ウイルスプロテアーゼの場合にはウイルス感染を用いることができる。しかしながら、ウイルスプロテアーゼ発現の調節は完全には理解されていないので、プロテアーゼをコードするリコンビナント遺伝子で細胞を形質転換させることによって発現されたプロテアーゼを用いることがより好ましい。前記発現されたプロテアーゼは細胞質ゾルに局在するので、キメラ基質タンパク質も同様に細胞質ルに局在させることが必要である。従って、in vivoで効率的にプロテアーゼ活性を測定する系は、本発明の第一の特徴のキメラ基質タンパク質を用いることによって構築することができる(この場合、キメラタンパク質に包含されるシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルは隠蔽されている)。
【0041】
更にまた、プロテアーゼ阻害剤は蛍光シグナルの局在及び分布の変化を検出することによって選別することができる。前記変化は、プロテアーゼ及びキメラ基質タンパク質が細胞内で発現される前、後又は発現と同時に候補化合物で細胞を処理することによって惹起される。
多くの酵素反応において、反応物質を完全に生成物に変換することはできない。前記反応物質が阻害剤によって阻害される場合、前記反応物質はまた完全に阻害されるのではなく部分的に阻害されるであろう。更にまた、多数の細胞を観察するとき、各細胞におけるプロテアーゼ活性レベルは大きく変動するであろう。従って、プロテアーゼ活性の決定に用いられる方法の感度又はコントラストが低い場合、前記プロテアーゼ阻害剤の阻害活性の決定には相当なあいまいさが存在するであろう。そのようなあいまいさを回避するために、キメラ基質タンパク質の構築において、蛍光シグナルの細胞内局在及び分布における明瞭に識別可能な変化をタンパク分解切断に応じて誘発することができるシグナルタンパク質を選択することは重要である。更に、阻害活性決定効率は、異なる蛍光波長を有する2つ又は3つ以上の蛍光タンパク質を用いて強化することができる。本発明の実施例2では、GFP及びRFPをキメラ基質タンパク質の構築に用い、それによって前記をタンパク分解切断に際して異なる細胞内小器官に局在させることができる。
【0042】
上記で考察したように、本発明のある種のシグナルタンパク質は場合によって隠蔽される。この実施態様では、本発明によって提供されるキメラ基質タンパク質に含まれる前記シグナルタンパク質は、前記タンパク分解部位又は前記シグナルタンパク質に連結されたシグナル隠蔽タンパク質によるシグナル隠蔽のために不活化され、従って前記キメラ基質タンパク質は細胞質ゾルに存在する。前記シグナルタンパク質はタンパク分解切断によって活性化され、細胞内小器官へのその通行を誘導することができる。そのトラフィッキングシグナルがキメラ基質タンパク質で不活化されてあるシグナルタンパク質の選択では、シグナルタンパク質の種々の特徴が考慮されなければならない。エンドソームトラフィッキングタンパク質は、合成されると直ちにゴルジ小体、溶解小胞、貯蔵小胞又は小胞体の中に包まれた細胞質膜に移される。エンドソームトラフィッキングタンパク質のトラフィッキングシグナルは翻訳過程の最中に認識される。従って、シグナル隠蔽タンパク質があろうとなかろうと、単純にタンパク分解部位を連結及び除去することによってエンドソームトラフィッキングタンパク質のトラフィッキングシグナルを不活化及び活性化することは可能ではないかもしれない。従って、これらエンドソームトラフィッキングタンパク質は、そのトラフィッキングシグナルが不活化されてあるシグナルタンパク質として本発明で使用するにはあまり適切ではない。細胞質ゾルで発現され、細胞内小器官に直接輸送されるタンパク質は、それらのトラフィッキングシグナルが本発明に従って隠蔽することができるのでシグナルタンパク質として用いることができる。後者のシグナルタンパク質の中では、核占有シグナル(nuclear location signal, NLS)を有するシグナルタンパク質はN−末端又はC−末端に従属していないので、従って、シグナル隠蔽タンパク質の存在にかかわらずタンパク分解部位を連結及び除去することによってこれらシグナルタンパク質の通行を制御することは困難である。従って、ミトコンドリア、葉緑体又はペルオキシソームに誘導するトラフィッキングシグナルを有するシグナルタンパク質を選択するのが望ましい。植物細胞の場合、葉緑体は比較的大きく、従ってその形状及び分布をより容易に検出できるので葉緑体誘導シグナルタンパク質を用いるのがより好ましい。
【0043】
本発明のキメラ基質タンパク質に含まれるシグナル隠蔽タンパク質は、シグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルをタンパク分解部位を介してシグナルタンパク質に連結することによって前記シグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルを不活化する。前記シグナル隠蔽タンパク質は、タンパク分解部位を介してシグナルタンパク質に連結されたアミノ酸、ペプチド又はタンパク質であろう。いくつかの事例では、前記シグナルタンパク質にタンパク分解部位だけを連結することによってシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルを不活化することができるであろう。前記シグナル隠蔽タンパク質とタンパク分解部位は基質とプロテアーゼの結合を妨害してはならない。前記単純なシグナル隠蔽の他に、シグナル隠蔽タンパク質はまた、キメラ基質タンパク質の全体的な特徴を変化させるために、又は更に別のトラフィッキングシグナルもしくは蛍光標識を結合させるために用いてもよい。例えば、別のシグナルタンパク質がシグナル隠蔽タンパク質として選択される場合は、このシグナルタンパク質は、プロテアーゼによって切断されたときその標的小器官へ移動するであろう。そのような事例では、このシグナルタンパク質がまた蛍光標識で標識されている場合は、2つの異なる蛍光シグナルを検出することによって基質タンパク質の切断をより明瞭に特定することが可能であろう。別の例では、蛍光タンパク質をシグナル隠蔽タンパク質として用いることができる。この場合には、タンパク分解切断によって生成された蛍光タンパク質は細胞質ゾルに留まるであろう。従って、細胞質ゾル由来の蛍光シグナルとタンパク分解切断によって生成されたシグナルタンパク質が移動した細胞内小器官由来の蛍光シグナルが別個に観察されることによって、プロテアーゼ活性の測定又はプロテアーゼ阻害剤の阻害活性の検出効率を高めることが可能である。
【0044】
標準的な遺伝子組換え方法の1つ又はそれらを組み合わせて用いて、本明細書に開示したキメラ基質タンパク質を作製することができる。すなわち、キメラ基質タンパク質を構築する本方法はその拡張性を特徴とする。例えば、少なくとも2つのタンパク分解部位をプロテアーゼのキメラ基質タンパク質に包含させる場合は、2つ又は3つ以上のシグナルタンパク質のトラフィッキングを観察することができる。2つ又は3つ以上の異なるプロテアーゼのためのタンパク分解部位が導入される場合は、2つ又は3つ以上のプロテアーゼの活性を同時に調べることができる。
シグナルタンパク質及びシグナル隠蔽タンパク質を選択する詳細な方法、並びにキメラ基質タンパク質を構築する詳細な方法は以下のとおりである。−//−で表した記号はプロテアーゼのタンパク分解部位を示し、Mはシグナル隠蔽タンパク質を示している。
(1)シグナルタンパク質のN−末端にトラフィッキングシグナルが存在する場合(nS)には、シグナル隠蔽タンパク質はシグナルタンパク質のN−末端側に配置される:(M−//−nS)。
(2)トラフィッキングシグナルがシグナルタンパク質のC−末端に存在する場合(Sc)には、シグナル隠蔽タンパク質は前記シグナルタンパク質のC−末端に配置される:
(Sc−//−M)。
(3)別のシグナルタンパク質S’がシグナル隠蔽タンパク質として用いられる場合には、S’はSのそれと比較してトラフィッキングシグナルを反対側に持つように選択される。2つのシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルは、前記2つのシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナル部分が連結されるように前記キメラ基質タンパクを構築することによって同時に隠蔽することができる:(Sc−//−nS’又はS’c−//−nS)。
(4)(3)のような構築で、2つのタンパク分解部位が導入される場合は、前記シグナル隠蔽タンパク質は2つのシグナルタンパク質の間に配置されねばならない:(Sc−//−M−//−nS’又はS’c−//−M−//−nS)。
(5)シグナルタンパク質(S)及びシグナル隠蔽タンパク質として作用する他のシグナルタンパク質(S’)のトラフィッキングシグナルが同じ側に存在する場合、S’のトラフィッキングシグナルを隠蔽する別のシグナル隠蔽タンパク質が連結されねばならない:(M−//−nS’−//−nS又はSc−//−Sc’−//−M)。
上記に記載した(1)から(5)の構築物を拡大することによって、キメラ基質タンパク質は3つ又は4つ以上のタンパク分解部位を含むように構築することができる:(Scm−//−......−//−Sc2−//−Sc1−//−M−//−nS1−//−nS2−//−......−//−nSn)。
上記に記載した構築方法は可能な構築方法の代表的な例である。
【0045】
上記に記載した事例の他に、キメラ基質タンパク質に含まれる全てのシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルが隠蔽される場合は、そのタンパク分解切断が細胞質ゾルで出現するキメラ基質タンパク質を提供できる。キメラ基質タンパク質に含まれるただ1つのシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルが活性を維持し、更に残りのシグナルタンパク質の全てのトラフィッキングシグナルが隠蔽されている場合は、前記キメラ基質タンパク質は、前記活性なシグナルタンパク質の標的である細胞内小器官に移動するであろう。ここでは、前記移動したキメラ基質タンパク質が細胞内小器官の膜上に存在する場合は、少なくとも1つのタンパク分解部位及び少なくとも1つの不活性なシグナルタンパク質が細胞質ゾルに露出され、それによってシグナルタンパク質の全てのトラフィッキングシグナルが隠蔽されているキメラ基質タンパク質を用いた場合と同じ効果を達成できるように前記キメラ基質タンパク質を構築することができる。活性を維持するただ1つのシグナルタンパク質を有するこのキメラタンパク質が基質として用いられる場合は、前記タンパク分解反応は、前記タンパク分解部位が細胞質ゾルに露出しているので細胞質ゾルに存在するプロテアーゼによって生じることができるが、ただし前記キメラ基質タンパク質は細胞質ゾルで自由に拡散することはない。この場合には、細胞質ゾルに露出された前記不活性なシグナルタンパク質はタンパク分解切断によって活性化する。従って、この活性化されたシグナルタンパク質を含むフラグメントタンパク質は、前記キメラ基質タンパク質が存在する細胞内小器官とは異なる固有の細胞内小器官に移動し、前記活性化されたシグナルタンパク質に結合させた蛍光シグナルの局在及び分布に変化をもたらす。
【0046】
活性を維持するただ1つのシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルを有するキメラ基質タンパク質を構築するまた別の可能な方法は、トラフィッキングシグナルをもたない蛍光タンパク質(例えばGFP又はRFP)を、シグナルタンパク質を連結する代わりに細胞質ゾルに露出されたタンパク分解部位に連結することである。この場合には、タンパク分解切断によって生成された蛍光タンパク質は細胞質ゾルに分散され、蛍光シグナルの分布は固有の細胞内小器官から細胞質ゾルへと変化する。しかしながらこの場合には、蛍光シグナルが膜に局在するか細胞質ゾルに局在するかの識別は、酵素反応の不完全さのためにあまり明瞭ではない。更にまた、ただ1つのシグナルタンパク質が活性を維持するキメラ基質タンパク質の構築は、詳細な情報が、前記シグナルタンパク質が移動する細胞内小器官についてだけでなく、移動するシグナルタンパク質の向き及び位置についても要求されるために相当困難であろう。
ミトコンドリア、葉緑体及び核の外膜、ペルオキシソーム膜、並びに細胞質膜へ誘導するシグナルタンパク質は、キメラ基質タンパク質で活性を維持するシグナルタンパク質として用いることができる。リン脂質と特異的に結合することができるシグナルタンパク質もまた用いることができる。前記の例には、プレックストリン(Pleckstrin)相同ドメイン(PH)(図2(h)に示されるようにホスファチジルイノシトール4,5−ジホスフェート(PI(4,5)P2)と結合する)、及びFAPP(ファミリーA(ホスホイノシチド結合特異的)メンバー3)のプレックストリン相同ドメイン(ホスホチジルイノシトール4−ホスフェート(PI(4)P)と結合する)が含まれる。
【0047】
実施例2では、プロテアーゼ及び本発明に従って構築したキメラ基質タンパク質を発現させるために形質転換した細胞でウェスタンブロット分析を実施し、前記プロテアーゼ反応が正確に生じることが確認された。細胞を溶解し、粗抽出物を電気泳動し、更に抗体を用いて確認されるウェスタンブロット分析と比較した場合、本発明によって提供される系(前記の確認は細胞自体を単に観察することによって実施することができる)は時間と経費に関してより効率的である。
本発明の実施例1では、タンパク質の通行(トラフィッキング)及び分布を細胞内の観察によって決定できる系が構築された。キメラタンパク質は、細胞内小器官に向かうトラフィッキングシグナルを有するシグナルタンパク質を選択し、蛍光タンパク質で標識することによって移動後に前記タンパク質の局在を可視化することができるように構築された。キメラタンパク質の局在は、前記キメラタンパク質のリコンビナント遺伝子を含むリコンビナントプラスミドで形質転換した細胞の蛍光画像を観察することによって確認することができる。
これらのキメラタンパク質の中で、AtOEP7:GFPを選択し、あるプロテアーゼのタンパク分解部位を連結してキメラ基質タンパク質を構築した。前記タンパク質を用いてin vivoでプロテアーゼ阻害剤のスクリーニングに使用することができる。AtOEP7は、シロイヌナズナ葉緑体の外皮膜へ誘導するタンパク質であり、前記を植物細胞で葉緑体誘導タンパク質として選択するのが好ましいことは既に述べた。AtOEP7はN−末端にそのトラフィッキングシグナルを有するので、シグナル隠蔽タンパク質はAtOEP7:GFPのN−末端に連結した。シグナル隠蔽タンパク質として、赤色蛍光タンパク質(RFP)を選択した。従って、基質キメラタンパク質は、タンパク分解切断の後で、緑色蛍光が葉緑体の外皮膜に局在し、赤色蛍光が細胞質ゾルに分布するように構築された。
【0048】
一般的に、本発明の融合分子の製造には、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、プラスミドDNAの作製、DNAの制限酵素による切断、オリゴヌクレオチドの調製、DNAの連結、mRNAの単離、DNAの適切な細胞内への導入及び前記細胞の培養を必要とする通常の遺伝子組換え工程が含まれる。更にまた、本明細書に記載したキメラタンパク質は、標準的な電気泳動、遠心分離及びクロマトグラフィーによる操作を含む方法を含む周知の技術に従って単離及び精製することができる。これらの方法に関しては一般的には例えば上掲書(Sambrook et al.; Ausubel et al.)を参照されたい。
本明細書に開示したDNA及びタンパク質配列は、前記の特に記載したものを含む公開情報源から入手できる。好ましい供給源は、国立医学図書館のNational Center for Biotechnology Information(NCBI)−Genetic Sequence Data Bank(GenBank)(38A, 8N05, Rockville Pike, Bethesda, MD20894)である。GneBankはまたインターネットでも利用できる。GenBankについては一般的には以下を参照されたい:D.A. Benson et al., Nucl. Acids Res. 25:1(1997)。
実施例で用いられた他の試薬、例えば抗体、細胞及びウイルスは公知の販売元又は公的供給源(例えば、Linscott's Directory(40 Glen Drive, Mill Valley, California 94941)及びアメリカ菌培養収集所(ATCC; 12301 Parklawn Drive, Rockville, MD 20852))から入手できる。
本明細書に記載した全ての文書は参照により本明細書に含まれる。
本発明は以下の実施例によって更に実証されるであろう。これら実施例は本発明の理解を容易にするために提供され、本発明を制限するものと解してはならない。
【0049】
実施例1:キメラタンパク質の検出及び細胞内小器官への誘導
(a)キメラタンパク質発現用リコンビナントプラスミドの構築
シロイヌナズナ(Arabidopsis)の外皮膜(outer envelope membrane)タンパク質、AtOEP7(前記はエンドウマメのOEP14の相同体である)のコード領域を、その天然の末端コドンを除くようにデザインした下記の2つの固有プライマーを用いてシロイヌナズナ(Arabidopsis)のゲノムDNAからポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅させた:
5’−GACGACGACGCAGCGATG及び
5’−GGATCCCCAAACCCTCTTTGGATGT。
続いて、前記を緑色又は赤色蛍光タンパク質のコード領域の5’末端にインフレームで連結して、それぞれAtOEP7:GFP及びAtOEP7:RFPのためのプラスミドを構築した。前記連結遺伝子をリコンビナントプラスミド内で35Sプロモーターの調節下に置いた。同じ方法を用いて以下に記載した他のリコンビナントプラスミドを構築した。
ルビスコ(ルビロースビスホスフェートカルボキシラーゼ;Rubisco)複合タンパク質のキメラタンパク質を発現させる場合は、ルビスコ複合体の小サブユニットのトランシットペプチドのコード領域を以下の2つの固有プライマーを用いてλZAPIIcDNAライブラリーからPCRによって増幅させた:
5’−CCTCAGTCACACAAAGAG及び
5’−ACTCGAGGGAATCGGTAAGGTCAG。
得られたPCR生成物をpBluescriptでサブクローニングし、続いてGFP又はRFPのコード領域の5’末端にインフレームで連結し、それぞれRbcS:GFP又はRbcS:RFPのためのリコンビナントプラスミドを構築した。
【0050】
葉緑素a/b結合タンパク質を発現させる場合は、対応する遺伝子を以下の2つの固有プライマーを用いてλZAPIIcDNAライブラリーからPCRによって増幅させてCab:GFPのためのリコンビナントプラスミドを構築した:
5’−TAGAGAGAAACGATGGCG及び
5’−GGATCCCGTTTGGGAGTGGAACTCC。
ルビスコアクチヴァーゼ(RA)のトランシットペプチドのコード領域を以下の2つの固有プライマーを用いてλZAPIIcDNAライブラリーからPCRによって増幅させ、更にGFPのコード領域の5’末端に連結してRA:GFPのためのリコンビナントプラスミドを構築した:
5’−TCTAGAATGGCCGCCGCAGTTTCC及び
5’−GGATCCATCTGTCTCCATCGGTTTG。
F1−ATPアーゼ(アクセッション番号:D88374)のトランシットペプチドのコード領域を以下の2つの固有プライマーを用いてλZAPIIcDNAライブラリーからPCRによって増幅させ、更にGFPのコード領域の5’末端に連結してF1−ATPアーゼ:GFPのためのリコンビナントプラスミドを構築した:
5’−CTTTAATCAATGGCAATG及び
5’−CCATGGCCTGAACTGCTCTAAGCTT。
ペルオキシソーム誘導タンパク質のリコンビナントプラスミド、GFP:SKLは以下の2つの固有プライマーを用い鋳型として326GFP(S.J. Davis and R.D. Viestra, 1998)を使用してPCR増幅で構築した:
5’−CCGTATGTTACATCACC及び
5’−TTATAGCTTTGATTTGTATAGTTCATCCAT。
完全長のH+−ATPアーゼ(シロイヌナズナのAHA2)は上記の方法により2つの固有プライマーを用いて増幅させ、更にGFPのコード領域の5’末端に連結してH+−ATPアーゼ:GFPのためのリコンビナントプラスミドを構築した:
5’−GAGATGTCGAGTCTCGAA及び
5’−CTCGAGCACAGTGTAGTGACTGG。
PHドメイン(プレックストリン相同ドメイン)のキメラタンパク質のリコンビナントプラスミド、GFP:PHは文献(B. Kost et al. 1998)に記載された方法に従って構築した。
上記方法に従って構築されたリコンビナントプラスミドから発現されるキメラタンパク質の模式的構造は図1に示されている。
【0051】
(b)プロトプラストの調製
温室内の土壌で生育させた3−4週齢のシロイヌナズナの葉の組織を小さな立方体(5−10mm2)に新しいカミソリの刃で切り出し、50mLの酵素溶液(0.25%マセロザイムR-10、1.0%セルラーゼR-10、400mMのマンニトール、8mMのCaCl2、5mMのMes-KOH、pH5.6)中で22℃で穏やかに攪拌しながら(50から75rpm)インキュベートした。インキュベーションの後で、プロトプラスト懸濁液を100μmのメッシュでろ過し、プロトプラストを46xgで5分遠心して採集した。沈澱させたプロトプラストを5から10mLのW5溶液(154mMのNaCl、125mMのCaCl2、5mMのKCl、5mMのグルコース、1.5mMのMes-KOH、pH5.6)に再度懸濁させ、20mLの21%ショ糖の上に重層して78xgで10分遠心分離した。境界面の完全なプロトプラストを20mLのW5溶液に移した。前記プロトプラストを55xgで5分再び沈澱させ、更に20mLのW5溶液に再度懸濁し、続いて氷上で30分インキュベートした。
(c)リコンビナントプラスミドの単離及びプロトプラストの形質転換
リコンビナントプラスミドをキアゲン(Qiagen)カラム(Valencia, CA)を用い製造元のプロトコルに従って精製した。前記DNAでプロトプラストを形質転換するために、前記プロトプラストを46xgで再び5分遠心し、MaMg溶液(400mMのマンニトール、15mMのMgCl2、5mMのMes-KOH、pH5.6)に5x106プロトプラスト/mLの濃度で再懸濁した。前記リコンビナントプラスミド構築物をシロイヌナズナプロトプラストにPEG(ポリエチレングリコール)仲介形質転換法によって導入した(Jin et al. 2001)。約20から50μgのプラスミドDNA(濃度2μg/μL)を300μLのプロトプラスト懸濁液と混合し、更に325μLのPEG(ポリエチレングリコール)溶液(400mMマンニトール、100mMのCa(NO3)2、40%のPEG400)を加えて穏やかに混合した。前記混合物を30分室温でインキュベートした。インキュベーション後、混合物を10mLのW5溶液で希釈した。50xgで5分遠心してプロトプラストを回収し、3mLのW5溶液に再度懸濁し、暗所で22℃でインキュベートした。
【0052】
d)キメラタンパク質の発現及びそれらの細胞内局在の観察
実施例1(a)で構築したリコンビナントプラスミドDNAを用い、実施例1(c)で述べた方法に従ってプロトプラストを形質転換した。形質転換の後、キメラタンパク質の発現は、充電装置付き冷却カメラを搭載した(cooled charge-coupled device camera)蛍光顕微鏡(アキシオプラン蛍光顕微鏡、Zeiss, Germany)を用いて画像を時間の関数として捕捉することによってモニターした。使用したフィルターセットは、GFP、RFP及び葉緑素の自家蛍光についてそれぞれ、XF116(エキサイター:474AF20、ジクロイック:500DRLP、エミッター:510AF23)、XF33/E(エキサイター:535DF35、ジクロイック:570DRLP、エミッター:605DF50)、及びXF137(エキサイター:540AF30、ジクロイック:570DRLP、エミッター:585ALP)(Omega, Inc., Brattleboro, VT)であった。続いてデータをアドーブフォトショップソフト(Mountain View, CA)を用いて加工し、擬似カラーフォーマットで提示した。
AtOEP7:GFPのキメラタンパク質の緑色蛍光は葉緑体の外皮膜で観察された(図2(a))。この結果は、葉緑体外皮誘導シグナルペプチド及び蛍光タンパク質標識を含むキメラタンパク質は正確に葉緑体の外皮膜に誘導されることを示している。
キメラタンパク質、Rb:GFP、Cab:GFP及びRA:GFPの緑色蛍光の局在は図2の(b)、(c)及び(d)に示されている。図に示されているように、RbcS:GFPは葉緑体の間質に局在し、更にCab:GFP及びRA:GFPもまた葉緑体内で蛍光を放出した。これらの結果は、RbcS、Cab又はRAのシグナルペプチド及び蛍光タンパク質標識を含むキメラタンパク質は葉緑体に誘導されることを示した。
【0053】
キメラタンパク質、F1−ATPアーゼ:GFP、GFP:SKL、及びH+−ATPアーゼ:GFPの緑色蛍光シグナルは、ミトコンドリア、ペルオキシソーム及び細胞質膜でそれぞれ観察された(図2(e)から(g))。これらの結果で見られる赤色蛍光は葉緑体の自家蛍光であった。
GFP:PH(リン脂質と特異的に結合するPHドメイン(プレックストリン相同ドメイン)を含む)の緑色蛍光は、ホスファチジル4,5−ジフォスフェート(PI(4,5)P2)が存在する細胞質膜上に分布していた(図2(h))。図7(a)から(j)は以下のようにより詳細に解説される。この図は、図1に示した融合タンパク質の発現に用いられたリコンビナントプラスミドのマップを示している。これらのリコンビナントプラスミドを構築する方法は本実施例に記載されている。これらの融合タンパク質に含まれるシグナルタンパク質の核酸配列及びタンパク質配列は配列番号:29−42に示されている。更にまた、FAPP(ファミリーA(ホスホイノシチド結合特異的)メンバー3)の部分的プレックストリン相同ドメインの核酸配列及びタンパク質配列は配列番号:43及び44に示されている。
これらのシグナルタンパク質は、本発明の不活性なシグナルタンパク質又は活性なシグナルタンパク質として用いることができるシグナルタンパク質の例である。AtOEP7、RbcS、Cab、RA、F1−ATPアーゼ及びSKL(ペルオキシソーム誘導配列)は、キメラ基質タンパク質内で隠蔽によって不活化されてあるシグナルタンパク質の例である。AtOEP7、H+−ATPアーゼ、PH及びFAPPは、キメラ基質タンパク質内で活性を維持するシグナルタンパク質の例である。
【0054】
実施例2:キメラ基質タンパク質のプロテアーゼによる切断の検出
(a)リコンビナントプラスミドの構築
pUCベクターにNIaプロテアーゼのコード領域を35Sプロモーターの制御下に配置することによって、NIaプロテアーゼのリコンビナントプラスミドを構築した。
326GFPベクター(シロイヌナズナ=バイオロジカルリソース=センター、Ohio, University, USA)内の緑色蛍光タンパク質のコード領域の5’末端に、終了コドンを含まないAtOEP7のコード領域を連結することによって、シロイヌナズナの外皮膜タンパク質:緑色蛍光タンパク質のためのリコンビナントプラスミド(AtOEP7:GFP)を構築した。以下の2つのプライマーを用いて前記プラスミドをPCR増幅することによって、プロテアーゼの切断部位、VRFQをAtOEP7:GFPのN−末端に連結した:
5’−CCCGGGGTGTGCGCTTCCAGGGAAAAACTTCGGGAGCG(5’プライマー)及び5’−GAGCTCTTATTTGTATAGTTCATC(3’プライマー)。続いて前記PCR生成物(SmaI及びXhoIフラグメント)を326RFP-ntベクターのHindIII(一本鎖部分充填(filled-in))及びXhoI部位に連結し、キメラ基質タンパク質RFP:VRFQ:AとEP7:GFPのためのリコンビナントプラスミドを構築した(図3(a))。
【0055】
(b)リコンビナントプラスミドによる形質転換
形質転換は実施例1の(b)及び(c)のように実施した。
(c)蛍光顕微鏡による蛍光タンパク質の検出
蛍光タンパク質の検出を実施例1(d)のように実施した。キメラ基質タンパク質RFP:VRFQ:AtOEP7:GFPの発現のための最終的なリコンビナントプラスミドをプロトプラストに導入し、形質転換後24から36時間の間細胞内通行を調べた。図4に示すように、前記キメラ基質タンパク質はプロトプラスト内に大きな斑点又は集合物として局在したが、葉緑体には誘導されなかった。赤色及び緑色蛍光シグナルの両方が同じ斑点内で観察された。
次ぎの実験では、NIaプロテアーゼがキメラ基質タンパク質の切断部位を切断することができるか否かを調べた。前記プロトプラストをNIaプロテアーゼのリコンビナントプラスミドで同時に形質転換したとき、前記緑色蛍光シグナルは葉緑体の外皮膜で観察されたが、一方、赤色蛍光シグナルは、図5に示されているように不均一に細胞質ゾルに拡散されているのが観察された。更にまた、赤色及び緑色蛍光シグナルはもはや互いにオーバーラップせず、NIaプロテアーゼはin vivoで前記キメラ基質タンパク質を切断することを強く示唆した。
【0056】
(d)ウェスタンブロット分析
形質転換プロトプラストを採集し、50μLの細胞溶解緩衝液(50mMトリス−HCl(pH7.5)、1mMのDTT、1mMのEDTA、50mMのNaCl)に溶解した。キメラ基質タンパク質RFP:VRFQ:AtOEP7:GFPの発現及びNIaプロテアーゼによるキメラ基質タンパク質のRFPとAtOEP7:GFPへの切断を、モノクローナル抗体抗GFP抗体(Clontech, Inc.)及びECLキット(Amersham)を用いてウェスタンブロット分析によって確認した。
図6に示すように、NIaプロテアーゼで同時に形質転換しなかったときは、キメラ基質タンパク質RFP:VRFQ:AtOEP7:GFPは70kDaの予想サイズでは検出されなかった。対照的に、NIaプロテアーゼで同時形質転換したときは、抗GFP抗体によって35kDa(AtOEP7:GFPの予想されるサイズ)のタンパク質が検出された。この結果は、キメラ基質タンパク質RFP:VRFQ:AtOEP7:GFPは2つのタンパク質(RFP及びAtOEP7:GFP)に切断されたことを示している。従ってこの結果は、NIaプロテアーゼはin vivoでキメラ基質タンパク質を切断することができ、更に前記切断反応は、葉緑体外皮膜における緑色蛍光シグナルの局在及び赤色蛍光シグナルの細胞質ゾルにおける拡散分布を検出することによって容易に調べることができることを明瞭に示している。
図8(a)−(b)はより詳細に以下のように解説される。図は、本実施例でNIaプロテアーゼ及びそのキメラ基質タンパク質RFP:VRFQ:AtOEP7:GFPをそれぞれ発現させるために用いたリコンビナントプラスミドのプラスミドマップを示す。NIaプロテアーゼ及びその切断部位の核酸配列及びタンパク質配列は配列番号:45−50に示されている。本キメラ基質タンパク質の完全な核酸配列及びタンパク質配列はそれぞれ配列番号:51及び52に示されている。
【0057】
実施例3:HIV−1プロテアーゼ阻害剤のためのin vivoスクリーニング系
ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)プロテアーゼの阻害剤検出のために便利なin vivoスクリーニング系を以下のように実施した。
(a)HIV−1プロテアーゼ発現のためのリコンビナントプラスミドの構築
HIV−1プロテアーゼのリコンビナントプラスミドを構築するために、HIV−1プロテアーゼのコード領域を以下の2つのプライマーを用い、鋳型としてpHX-2BΔRTを用いPCRで増幅した:
5’−TCTAGAATGCCTCAGGTCACTCTTTGG−3’及び
5’−CTCGAGTCAAAAATTTAAAGTGCAACC−3’。
pHX-2BΔRTは、HX2B(GenBankアクセッション番号K03455)を含み、逆転写酵素のコード領域をもたないプラスミドクローンである。前記増幅生成物をpBluescript-Tベクターでサブクローニングし、続いて35Sプロモーターの制御下でpUCベクターのXbaI及びXhoI部位でクローニングした。
HIV−1プロテアーゼのプラスミドマップは図9(a)に示されている。更にその核酸配列及びタンパク質配列は、それぞれ配列番号:55及び56に提示されている。
【0058】
(b)HIV−1プロテアーゼ用キメラ基質タンパク質の発現のためのリコンビナントプラスミドの構築
9つのキメラ基質タンパク質の全てのためのリコンビナントプラスミドを構築した。
使用したプライマーは以下のとおりであった。順方向プライマーは以下のとおりである:
5’−CCCGGGTAGCCAAAATTACCCTATAGTGGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’、
5’−CCCGGGTGCAAGAGTTTTGGCTGAAGCAGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’、
5’−CCCGGGTGCTACCATAATGATGCAGAGAGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’、
5’−CCCGGGTAGACAGGCTAATTTTTTAGGGGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’、
5’−CCCGGGTCCAGGGAATTTTCTTCAGAGCGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’、
5’−CCCGGGTAGCGTGCCTCAAATAGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’、
5’−CCCGGGTACTTTAAATTTTCCCATTAGCGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’、
5’−CCCGGGTGCAGAAACCTTCTATGTAGATGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’、及び
5’−CCCGGGTAGGAAAGTACTATTTTTAGATGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’。
使用した共通の逆方向プライマーは、5’−CTCGAGTTATTTGTATAGTTCATC−3’であった。これらのプライマーはHIV−1のタンパク分解部位を含むようにデザインした。順方向プライマーの下線領域はタンパク分解部位配列と一致する(配列番号:57、59、61、63、65、67、69、71及び73)。PCR増幅は、上記に記載した順方向プライマーの1つ及び共通の逆方向プライマーを用い、鋳型としてNIaプロテアーゼ基質タンパク質のためのプラスミド(配列番号:51)を使用して実施した。PCR生成物は、SmaI及びXhoIで制限消化を実施し、HindIII(一本鎖部分充填(filled-in))及びXhoIで消化した326RFT-ntベクターでサブクローニングした。従って、得られた9つのプラスミドの各々は、HIV−1プロテアーゼのタンパク分解部位配列の1つであるPS(HIV−1)を有する組成物RFP:PS(HIV−1):AtOPE7:GFPのキメラ基質タンパク質の1つをコードするDNA配列を含む。これらキメラ基質タンパク質の1つの核酸配列及びタンパク質配列はそれぞれ配列番号:75及び76に提示されている。
【0059】
(c)HIV−1プロテアーゼ阻害剤のin vivoスクリーニング
シロイヌナズナの葉の組織のプロトプラストの調製及び形質転換は実施例1(b)及び(c)に記載した方法に従って実施した。形質転換されたプロトプラストの蛍光画像の検出は実施例1(d)に記載したように実施した(ただし同じタイプのフィルターセットを使用しニコンE800蛍光顕微鏡を用いた)。
in vivoでHIV−1プロテアーゼの阻害を検出する実際の作業例として、プロトプラストをHIV−1プロテアーゼ基質タンパク質RFP:PS(HIV−1):AtOPE7:GFPのためのリコンビナントプラスミドで形質転換した。前記キメラ基質タンパク質に含まれるタンパク分解部位配列はRQANFLG(配列番号:64)であった。前記形質転換プロトプラストをW5溶液中で18から48時間22℃でインキュベートして前記キメラ基質タンパク質を発現させ、発現されたキメラ基質タンパク質に由来する蛍光シグナルの細胞内局在を、蛍光顕微鏡を用いてモニターした。
図11に示したように、緑色及び赤色の両蛍光が大きな斑点又は集合体として細胞質ゾル中の同じ位置で観察されたが、葉緑体には誘導されなかった。この結果は、前記キメラ基質タンパク質は切断されず、従ってそれらは未切断形として細胞質ゾルに存在することを示している。このデータはHIV−1プロテアーゼの完全な阻害が発生したときの結果と一致する。
【0060】
HIV−1タンパク分解活性の検出は以下のように実施した。プロトプラストをHIV−1プロテアーゼのリコンビナントプラスミド及びHIV−1プロテアーゼ基質タンパク質RFP:PS(HIV−1):AtOPE7:GFPのリコンビナントプラスミドで同時形質転換した。前記キメラ基質タンパク質に含まれるタンパク分解部位配列はRQANFLG(配列番号:64)であった。発現されたキメラ基質タンパク質に由来する蛍光シグナルの局在は、蛍光顕微鏡を用いて形質転換後18時間から48時間モニターした。図12に示されたように、赤色蛍光シグナルは細胞質ゾルに均質に拡散され、一方、緑色蛍光の大半は葉緑体周辺に認められた。これらの結果は、キメラ基質タンパク質はHIV−1プロテアーゼによって切断されたことを示している。
この系は、分散する赤色蛍光シグナル及び葉緑体に誘導される緑色シグナルを減少させ、従って前記プロトプラスト内でHIV−1プロテアーゼ活性を阻止又は阻害する分子を検出するために使用することができる。
図9(a)及び(b)はより詳細に以下のように解説される。図は、HIV−1プロテアーゼ及びそのキメラ基質タンパク質RFP:PS(HIV−1):AtOEP7:GFPのリコンビナントプラスミドのプラスミドマップを示す。これらリコンビナントプラスミドを用いて、HIV−1プロテアーゼ及びキメラ基質タンパク質を植物細胞(例えばアラビドプシス=タリアーナ(Arabidopsis thaliana)、タバコなど)で発現させることができる。HIV−1プロテアーゼ及びその切断部位の核酸配列及びタンパク質配列は配列番号:55−74に示されている。実施例3で用いたキメラ基質タンパク質の完全な核酸配列及びタンパク質配列はそれぞれ配列番号:75及び76に示されている。
【0061】
実施例4:1つのシグナルタンパク質が活性を維持している場合によって隠蔽されたキメラタンパク質の調製及び使用
上記で考察されたように、シグナルタンパク質の少なくともいくつかが少なくとも1つの適切なアミノ酸配列で隠蔽されてあるリコンビナントキメラタンパク質を提供することは本発明の目的である。例えば、本発明の特定のキメラタンパク質の全てのシグナルタンパク質を隠蔽することが可能であり、また必要に応じてそれらの隠蔽を解除することができる。また別には、キメラタンパク質のシグナル成分の一部分の隠蔽を解除し、残りのシグナルを隠蔽することもできる。そのような“場合によって隠蔽された”キメラタンパク質は本発明に顕著な融通性を提供し、広範囲の重要な用途を示す。
例えば、キメラタンパク質の1つ又は2つ以上の蛍光シグナルの細胞内局在の変化によって、in vivoでプロテアーゼ活性を検出するスクリーニングにそのようなキメラタンパク質を用いることができる。そのようなスクリーニングは、換言すれば、キメラタンパク質の空間的分布におけるわずかな変化を記録することができるので高度に鋭敏である。対象のキメラ分子内に含まれる1つ又は2つ以上のシグナルタンパク質を隠蔽するか隠蔽しないかの選択は本発明の目的とする用途によって決定されるであろう。
【0062】
図10は“場合によって隠蔽された”キメラタンパク質の実例を集めたものである。より具体的には、前記の図は、1つのシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルが活性を維持しているキメラ基質タンパク質をコードするリコンビナント遺伝子の模式図を示している。H+−ATPアーゼが、そのトラフィッキングシグナルがキメラ基質タンパク質内で隠蔽されていない活性なシグナルタンパク質の例として用いられる。活性なシグナルタンパク質として用いることができる他の例には、AtOEP7、PH及びFAPPが含まれる。AtOEP7は、そのトラフィッキングシグナルがタンパク分解切断部位との連結又はタンパク分解切断部位を介するシグナル隠蔽タンパク質との連結によって隠蔽された不活化されてあるシグナルタンパク質の例として用いられる。不活性なシグナルタンパク質として用いることができる他の例には、RbcS、Cab、RA、F1−ATPアーゼ及びSKLが含まれる。これらのキメラ基質タンパク質は、タンパク分解切断に際して細胞内蛍光シグナル分布の変化を誘発するようにデザインされる。本明細書に開示したほぼいずれのプロテアーゼ切断配列も、図10に示したキメラタンパク質の切断部位(PS)を提供するために用いることができる。従って、そのような場合によって隠蔽されたキメラタンパク質を用いて、多様なプロテアーゼ阻害剤分子を検出することができる。もちろんのこと、本明細書に開示したほぼいずれのプロテアーゼ切断配列も、図10に示したキメラタンパク質の切断部位(PS)を提供するために用いることができる。
図10は以下のように更に詳細に解説される。図10(a)は、蛍光シグナル(FP−1)がタンパク分解切断に際して細胞質膜から細胞質ゾルに移動する構築物を示す。図10(b)の事例では、1つの蛍光シグナル(FP−2)は図10(a)と同じ態様で移動するが、他の蛍光シグナル(FP−1)は細胞質膜に残留する。図10(c)の事例では、蛍光シグナル(FP−1)はタンパク分解切断に際して細胞質膜から葉緑素に移動する。図10(d)の場合には、1つの蛍光シグナル(FP−2)は図10(c)と同じ態様で移動するが、他の蛍光シグナル(FP−1)は細胞質膜に残留する。
【0063】
(a)1つのシグナルタンパク質が活性を維持するキメラ基質タンパク質を発現させるリコンビナントプラスミドの構築
図10に示したリコンビナントプラスミドの例は以下のように構築した。
タンパク分解切断部位配列がVRFQ(配列番号:48)及びRQANFLG(配列番号:64)を有するH+−ATPアーゼ:PS:GFPをコードする2つのリコンビナントプラスミド(図10(a))を以下のように構築した。
順方向プライマー5’−CTCGAGPSATGAGTAAAGGAGAAGAA−3’(PSはNIa切断部位VRFQのためのGTGCGCTTCCAG、又はHIV−1切断部位RQANFLGのためのAGACAGGCTAATTTTTTAGGGである)及び逆方向プライマー5’−GAGCTCTTATTTGTATAGTTCATC−3’を326GFPベクターのPCR増幅に用いた。NIa又はHIV−1プロテアーゼのための切断部位、サブクローニング用制限部位(XhoI及びSacI)及びGFPのC−末端に終止コドンを含むこれらのPCR生成物をpBluescript-Tベクターでサブクローニングした。これらのサブクローンのXhoI/SacIフラグメントをXhoI及びSacIで消化したpH+ATPアーゼ−Gベクターに連結した(図7(i))。
【0064】
タンパク分解切断部位配列がVRFQ(配列番号:48)及びRQANFLG(配列番号:64)を有するH+−ATPアーゼ:GFP:PS:RFPをコードする2つのリコンビナントプラスミド(図10(b))を以下のように構築した。
終止コドンをもたないGFPを調製するために、プライマー5'−CTCGAGATGGTAAAGGAGAAGAACTT−3'及び5'−GAGCTCTTTGTATAGTTCATCCAT−3'を用いてPCR増幅を実施した。XhoI及びSacI部位を含むPCR生成物をpBluescript-Tベクターでサブクローニングし、続いてXhoI及びSacIで制限消化を実施した。このXhoI/SacIフラグメントをXhoI及びSacIで消化したpH+ATPアーゼ−Gベクター(図7(i))でサブクローニングした。
RFPの上流にタンパク分解切断部位を配置するために、順方向プライマー5'−GAGCTCPSATGGTGCGCTCCTCCAAG−3'(PSはNIa切断部位VRFQのためのGTGCGCTTCCAG、又はHIV−1切断部位RQANFLGのためのAGACAGGCTAATTTTTTAGGGである)及び逆方向プライマー5'−GAGCTCCTACAGGAACAGGTGGTG−3'を326RFPベクターのPCR増幅に用いた。PS:RFPを含む構築物(これもまたSacI部位を含む)をSacIで制限消化し、これらSacIフラグメントを上記のように調製したH+−ATPアーゼ:GFP(終止コドンをもたない)サブクローンのSacI部位でサブクローニングし、H+−ATPアーゼ:GFP:PS:RFPのためのリコンビナントプラスミドを作製した。
【0065】
そのタンパク分解切断部位がVRFQ(配列番号:48)及びRQANFLG(配列番号:64)であるH+−ATPアーゼ:PS:AtOEP7:GFP(図10(c))をコードする2つのリコンビナントプラスミドを以下のように構築した。
PSub-Nia1ベクター(図8(b))を、プライマー5’−CTCGAGPSGGAAAAACTTCGGGAGCG−3’(PSはNIa切断部位VRFQのためのGTGCGCTTCCAG、又はHIV−1切断部位RQANFLGのためのAGACAGGCTAATTTTTTAGGGである)及び5’−GAGCTCTTATTTGTATAGTTCATC−3’を用いてPCRで増幅した。従ってPCR生成物はXhoI及びSacI部位を含んでいた。これらサブクローンのXhoI/SacIフラグメントをXhoI及びSacIで消化したpH+ATPアーゼ−Gベクター(図7(i))に連結し、H+−ATPアーゼ:PS:AtOEP7:GFPのためのリコンビナントプラスミドを作製した。
タンパク分解切断部位配列がVRFQ(配列番号:48)及びRQANFLG(配列番号:64)であるH+−ATPアーゼ:RFP:PS:AtOEP7:GFPをコードする2つのリコンビナントプラスミド(図10(d))を以下のように構築した。
プライマー5’−CTCGAGATGGTGCGCTCCTCCAAG−3’及び5’−GAGCTCTTATTTGTATAGTTCATC−3’を用いてPSub-Nia1ベクター(図8(b))及びPSub-HIV4ベクター(図9(b))をPCRで増幅した。従ってこれらPCR生成物はXhoI及びSacI部位を含んでいた。これらサブクローンのXhoI/SacIフラグメントをXhoI及びSacIで消化したpH+ATPアーゼ−Gベクター(図7(i))に連結し、H+−ATPアーゼ:RFP:PS:AtOEP7:GFPのためのリコンビナントプラスミドを作製した。
【0066】
(b)図10(a)で示されるリコンビナントプラスミドを用いる作業例
シロイヌナズナの葉の組織のプロトプラストの調製及び形質転換は実施例1(b)及び(c)に記載した方法に従って実施した。形質転換されたプロトプラストの蛍光画像の検出は実施例1(d)に記載したように実施した(ただし同じタイプのフィルターセットを使用しニコンE800蛍光顕微鏡を用いた)。
NIaプロテアーゼの阻害を検出する実際の作業例として、プロトプラストを基質タンパク質H+−ATPアーゼ:PS:GFPをコードするリコンビナントプラスミドで形質転換した。前記キメラ基質タンパク質に含まれるタンパク分解部位配列はVRQF(配列番号:48)であった。前記形質転換プロトプラストをW5溶液中で18から48時間22℃でインキュベートして前記キメラ基質タンパク質を発現させ、蛍光顕微鏡を用いて発現されたキメラ基質タンパク質に由来する蛍光シグナルの細胞内局在をモニターした。図13(a)に示されるように、緑色蛍光シグナルは細胞質膜に局在した。この結果は、予想したように前記キメラ基質タンパク質は切断されず、従って結合させた緑色蛍光シグナルはH+−ATPアーゼのトラフィッキングシグナルによって細胞質膜に誘導されたことを示している。このデータはプロテアーゼの完全な阻害が発生したときの結果と一致する。
NIaタンパク分解活性の検出は以下のように実施した。NIaプロテアーゼのためのリコンビナントプラスミド(配列番号:45)及びキメラ基質タンパク質H+−ATPアーゼ:PS:GFP(配列番号:53)のためのリコンビナントプラスミドでプロトプラストを同時に形質転換した。前記キメラ基質タンパク質に含まれるタンパク分解部位配列はVRQF(配列番号:48)であった。蛍光顕微鏡を用いて発現されたキメラ基質タンパク質に由来する蛍光シグナルの局在を形質転換後18時間から48時間モニターした。図13(c)に示されたように、緑色蛍光シグナルは細胞質ゾルに観察されたが細胞質膜には誘導されなかった。この結果は、GFPはキメラ基質タンパク質から切断されたことを示している。
本明細書に記載した全ての参考文献は参照により本明細書に含まれる。以下の参考文献は特に参照により本明細書に含まれる。
【0067】
(参考文献)

【0068】
これまで本発明をその好ましい実施態様を参考に詳細に記載してきた。しかしながら、本発明の開示から当業者が本発明の範囲内で改変及び改善を実施できることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】細胞内小器官へのトラフィッキングシグナルを有し、更に蛍光タンパク質で標識されているシグナルタンパク質の模式図を示す。
【図2】(a)−(h)は、蛍光タンパク質で標識されたシグナルタンパク質の、それらが正確に細胞内で発現されたときの局在分布を示す蛍光写真である。 (a):緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識されたシロイヌナズナ外皮タンパク質(AtOEP7)は葉緑体エンベロープに局在する; (b)、(c)及び(d):GFPで標識したルビスコ小サブユニット(RbcS)、葉緑素a/b結合タンパク質(Cab)及びルビスコアクチヴァーゼ(RA)は葉緑体間質に局在する; (e):GFPで標識したF1−ATPアーゼはミトコンドリアに局在する; (f):GFPで標識したペルオキシソーム誘導モチーフ(SKL)はペルオキシソームに局在する; (g)及び(h):GFPで標識したH+−ATPアーゼ及びプレックストリン相同ドメイン(PH)は細胞質エンベロープに局在する。
【図3】NIaプロテアーゼ及びNIaプロテアーゼのin vivo基質RFP:PS(NIa):AtOEP7:GFPのためのリコンビナント遺伝子の模式図を示す。 (a):本発明の実施例2でNIaプロテアーゼのin vivo基質として用いられるキメラタンパク質RFP:PS(NIa):AtOEP7:GFPを発現させるために構築されたリコンビナント遺伝子の構造。RFP、GFP、PS(NIa)、AtOEP7及び35Sは、それぞれ赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、プロテアーゼのタンパク分解切断部位、シロイヌナズナの外皮(outer envelope)タンパク質及びCaMV35Sプロモーターを示す。 (b):実施例2で用いられるNIaプロテアーゼを発現させるために構築されたリコンビナント遺伝子の構造。NIaはTVMVのNIaプロテアーゼのコード領域を示す。
【図4】図3(a)に示したリコンビナント遺伝子で形質転換したシロイヌナズナのプロトプラストでキメラタンパク質RFP:PS(NIa):AtOEP7:GFPを発現させた後で観察された蛍光写真である。 (a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれ緑色蛍光シグナル画像、赤色蛍光シグナル画像並びに緑色及び赤色蛍光シグナルのオーバーラップ画像、及び明視野で捕捉された画像である。葉緑体で観察される赤色蛍光シグナルは葉緑体の自家蛍光シグナルであり、細胞質ゾルで観察される赤色蛍光シグナルは赤色蛍光タンパク質から発する。
【図5】図3(a)及び3(c)に示したリコンビナント遺伝子で形質転換したシロイヌナズナのプロトプラストでキメラタンパク質RFP:PS(NIa):AtOEP7:GFP及びNIaプロテアーゼを同時発現させた後で観察された蛍光画像である。前記蛍光写真には以下のようなNIaプロテアーゼによるRFP:PS(NIa):AtOEP7:GFPの切断が示されている: (a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれ緑色蛍光シグナル画像、赤色蛍光シグナル画像並びに緑色及び赤色蛍光シグナルのオーバーラップ画像、及び明視野で捕捉された画像である。葉緑体で観察される赤色蛍光シグナルは葉緑体の自家蛍光シグナルであり、細胞質ゾルで観察される赤色蛍光シグナルは赤色蛍光タンパク質から発する。
【図6】NIaプロテアーゼによるキメラタンパク質RFP:PS(NIa):AtOEP7:GFPの切断はシロイヌナズナのプロトプラストで生じることを示すウェスタンブロットである。 図3(a)に示したRFP:PS(NIa):AtOEP7:GFP及び図3(b)に示したNIaプロテアーゼを同時発現させた事例(+)が、RFP:PS(NIa):AtOEP7:GFPのみを発現させた事例(−)と比較されている。70kD及び35kDで観察されるタンパク質バンドは、完全なキメラタンパク質RFP:PS(NIa):AtOEP7:GFP及びタンパク分解切断によって生じたフラグメントタンパク質AtOEP7:GFPにそれぞれ一致する。
【図7(a)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(a)AtOEP7:GFPを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(b)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(b)AtOEP7:RFPを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(c)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(c)RbcS:GFPを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(d)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(d)RbcS:RFPを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(e)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(e)Cab:GFPを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(f)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(f)RA:GFPを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(g)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(g)F1−ATPアーゼ:GFPを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(h)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(h)GFP:SKLを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(i)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(i)H+−ATPアーゼ:GFPを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図7(j)】図1に示した融合タンパク質を発現させるために(j)GFP:PHを用いたプラスミドマップを示す図である。
【図8(a)】は、NIaプロテアーゼのためのプラスミドマップを示す。
【図8(b)】NIaプロテアーゼのキメラ基質タンパク質RFP:PS(NIa):AtOEP7:GFPのためのプラスミドマップを示す。前記キメラ基質タンパク質の核酸配列の重要な部分が示されている。
【図9(a)】HIV−1プロテアーゼのためのプラスミドマップを示す。
【図9(b)】HIV−1プロテアーゼのキメラ基質タンパク質RFP:PS(HIV−1):AtOEP7:GFPのためのプラスミドマップを示す。タンパク分解切断部位の核酸配列及びタンパク質配列(配列番号:57−74)が示されている。
【図10】1つのシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルが活性を維持している、場合によって隠蔽されたキメラ基質タンパク質例をコードするリコンビナント遺伝子の模式図を示す。PSはタンパク分解切断部位配列を示す。FP−1及びFP−2は異なる蛍光波長を有する蛍光タンパク質のコード配列を示す。
【図11】図9(b)に示したリコンビナントプラスミドの1つで形質転換したシロイヌナズナのプロトプラストでキメラ基質タンパク質RFP:PS(HIV−1):AtOEP7:GFPを発現させた後で観察された蛍光画像である。図11(a)、(b)及び(c)は、それぞれ緑色蛍光シグナル画像、赤色蛍光シグナル画像並びに緑色及び赤色蛍光シグナルのオーバーラップ画像である。緑色蛍光画像中に認められる弱い赤色蛍光シグナルは葉緑体の自家蛍光である。
【図12】図9(a)及び(b)に示したリコンビナント遺伝子で形質転換したシロイヌナズナのプロトプラストでキメラ基質タンパク質RFP:PS(HIV−1):AtOEP7:GFP及びHIV−1プロテアーゼを同時発現させた後で観察された蛍光画像を示す。図12(a)、(b)及び(c)は、それぞれ緑色蛍光シグナル画像、赤色蛍光シグナル画像並びに緑色及び赤色蛍光シグナルのオーバーラップ画像である。緑色蛍光画像中に認められる弱い赤色蛍光シグナルは葉緑体の自家蛍光である。
【図13】(a)及び(b)はキメラ基質タンパク質H+−ATPアーゼ:PS(NIa):GFPを発現させた後で観察された画像を示す。(c)及び(d)はNIaプロテアーゼ及びキメラ基質タンパク質H+−ATPアーゼ:PS(NIa):GFPを同時発現させた後で観察された画像を示す。図13(a)及び(c)は緑色蛍光シグナル画像であり、図13(b)及び(d)は明視野下で得られた画像である。緑色蛍光画像中に認められる弱い赤色蛍光は葉緑体の自家蛍光である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内小器官へ誘導するトラフィッキングシグナルを有する少なくとも1つのシグナルタンパク質及び1つのプロテアーゼに対する少なくとも1つのタンパク分解切断部位を含むキメラタンパク質であって、以下の(a)−(c)のように構築される前記キメラタンパク質:
(a)前記全てのシグナルタンパク質の前記トラフィッキングシグナルが、前記シグナルタンパク質のN−又はC−末端に前記タンパク分解部位を、又はシグナル隠蔽タンパク質を前記タンパク分解部位を介して連結することによって不活化されており、従って前記キメラタンパク質が細胞質ゾルに存在し、
(b)少なくとも1つのシグナルタンパク質の前記トラフィッキングシグナルが、前記タンパク分解切断部位が前記プロテアーゼによって切断されたときに活性化され、その結果、前記活性化されたシグナルタンパク質を含む少なくとも1つのフラグメントタンパク質が細胞内小器官に輸送され、更に
(c)前記キメラタンパク質が少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列で標識され、前記検出可能なアミノ酸配列の細胞内の位置及び強度分布が前記プロテアーゼの前記切断に応じて変化する。
【請求項2】
細胞内小器官へ誘導するトラフィッキングシグナルを有する少なくとも2つのシグナルタンパク質及び1つのプロテアーゼに対する少なくとも1つのタンパク分解切断部位を含むキメラタンパク質であって、以下の(a)−(d)のように構築される前記キメラタンパク質:
(a)1つのシグナルタンパク質の前記トラフィッキングシグナルが活性を維持し、前記シグナルタンパク質の残りのトラフィッキングシグナルは、前記シグナルタンパク質のN−又はC−末端に前記タンパク分解部位を、又はシグナル隠蔽タンパク質を前記タンパク分解部位を介して連結することによって不活化されており、従って前記キメラタンパク質は、前記活性なシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルによって誘導されて特定の細胞内小器官に輸送され、
(b)前記キメラタンパク質が前記細胞内小器官に輸送された後、少なくとも1つのタンパク分解部位及び少なくとも1つの不活化されたシグナルタンパク質が細胞質ゾルに露出され、
(c)前記タンパク分解切断部位がプロテアーゼによって切断されたときに、細胞質ゾルに露出された少なくとも1つの不活化されたシグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルが活性化され、その結果、前記活性化されたシグナルタンパク質を含むフラグメントタンク質が、前記キメラタンパク質が輸送された細胞内小器官とは異なる細胞内小器官に輸送され、更に
(d)前記キメラタンパク質が少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列で標識され、前記検出可能なアミノ酸配列の細胞内の位置及び強度分布は前記プロテアーゼの切断に応じて変化する。
【請求項3】
細胞内小器官へ誘導するトラフィッキングシグナルを有する1つのシグナルタンパク質及び1つのプロテアーゼのタンパク分解切断部位を介して前記シグナルタンパク質に連結された検出可能なアミノ酸配列を含むキメラタンパク質であって、以下の(a)−(c)のように構築される前記キメラタンパク質:
(a)前記シグナルタンパク質のトラフィッキングシグナルが前記キメラタンパク質で活性を維持し、従って前記キメラタンパク質は細胞内小器官に輸送され、
(b)前記キメラタンパク質が前記細胞内小器官に輸送された後、前記タンパク分解切断部位及び前記検出可能なアミノ酸配列が細胞質ゾルに露出され、更に
(c)その結果、細胞質ゾルに露出された前記タンパク分解切断部位が前記プロテアーゼによって切断されるとき、細胞質ゾルに露出された前記検出可能なアミノ酸配列が細胞質ゾルに遊離される。
【請求項4】
細胞内で前記キメラタンパク質を発現させるために構築されてある、請求項1〜3のいずれかに記載のキメラタンパク質をコードする核酸配列を含むリコンビナント遺伝子。
【請求項5】
請求項4に記載のリコンビナント遺伝子で形質転換された細胞。
【請求項6】
in vivoでプロテアーゼの活性を分析する方法であって、以下の工程、
(a)細胞を請求項14のリコンビナント遺伝子で形質転換する工程、
(b)工程(a)の前、後又は工程(a)と同時に、前記細胞を形質転換して、前記プロテアーゼを発現させる工程、
(c)前記形質転換細胞をインキュベートして前記タンパク質を発現させる工程、
(d)前記インキュベート細胞の検出可能なアミノ酸配列の分布を観察する工程、及び
(e)工程(d)で観察される前記検出可能なアミノ酸配列の分布を工程(b)を実施されていないコントロール形質転換細胞の蛍光像と比較することによって前記プロテアーゼの活性を決定する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
in vivoでプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする方法であって、以下の工程、
(a)細胞を請求項14のリコンビナント遺伝子で形質転換する工程、
(b)工程(a)の前、後又は工程(a)と同時に前記細胞を形質転換して、前記プロテアーゼを発現させる工程、
(c)工程(b)の前、後又は工程(b)と同時に、前記形質転換細胞を薬剤候補物質で処理して、前記プロテアーゼを阻害する工程、
(d)前記形質転換細胞をインキュベートして前記タンパク質を発現させる工程、
(e)前記インキュベート細胞の検出可能なアミノ酸配列の分布を観察する工程、及び
(f)工程(e)で観察される前記検出可能なアミノ酸配列の分布を、工程(b)を実施しないで調製したコントロール形質転換細胞、工程(c)を実施しないで調製したコントロール形質転換細胞、及び工程(b)及び(c)を実施しないで調製したコントロール形質転換細胞の前記検出可能なアミノ酸配列の分布の少なくとも1つと比較することによって前記薬剤のプロテアーゼ阻害活性を決定する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
共有結合で連結された成分として以下の1)−3)を含むキメラタンパク質を含む、細胞内のプロテアーゼを検出する系。
1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質
2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位、及び
3)少なくとも1つの検出することができるアミノ酸配列。
【請求項9】
共有結合で連結された成分として以下を含む実質的に純粋なキメラタンパク質、1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位、及び3)少なくとも1つの検出することができるアミノ酸配列。
【請求項10】
細胞内のプロテアーゼ活性を検出するためのキメラタンパク質をコードする配列を含む核酸であって、前記キメラタンパク質が共有結合で連結された成分として以下を含む前記核酸、1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位、及び3)少なくとも1つの検出することができるアミノ酸配列。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸を含むベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のベクターで形質転換された細胞。
【請求項13】
細胞内のプロテアーゼを検出するためのキットであって、
a)共有結合で連結された成分として、i)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、ii)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位、及びiii)少なくとも1つの検出することができるアミノ酸配列を含むキメラタンパク質、及び
b)前記キメラタンパク質をコードする配列を含む核酸を含むベクター、
の少なくとも1つを含むことを特徴とするキット。
【請求項14】
細胞内又は組織内のプロテアーゼを検出する方法であって、以下の工程、
a)対象の細胞又は組織に、共有結合で連結された成分として、1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位、及び3)少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列を含むキメラタンパク質をコードする核酸を含む第一のベクターを導入する工程、
b)前記第一のベクターによってコードされたキメラタンパク質を発現させることができる条件下で前記細胞又は組織をインキュベートする工程、及び
c)前記キメラタンパク質の細胞内局在の変化を、前記細胞内プロテアーゼの存在の指標として検出する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
プロテアーゼ阻害剤をin vivoで検出する方法であって、以下の工程、
a)対象の細胞又は組織に、共有結合で連結された成分として、1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位、及び3)少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列を含むキメラタンパク質をコードする核酸を含む第一のベクターを導入する工程、
b)前記細胞又は組織に対象のプロテアーゼをコードするベクターを導入する工程、
c)前記細胞又は組織を候補化合物と接触させる工程、
d)前記第一のベクターによってコードされたキメラタンパク質及び前記第二のベクターによってコードされた前記プロテアーゼを発現させることができる条件下で前記細胞又は組織をインキュベートする工程、及び
c)前記キメラタンパク質の細胞内局在の変化を、前記プロテアーゼ阻害剤の存在の指標として検出する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
プロテアーゼ阻害剤をin vivoで検出する方法であって、以下の工程、
a)対象の細胞又は組織に、共有結合で連結された成分として、1)少なくとも1つの場合によって隠蔽されたシグナルタンパク質、2)少なくとも1つのプロテアーゼ特異的切断部位、及び3)少なくとも1つの検出可能なアミノ酸配列を含むキメラタンパク質をコードする核酸を含む第一のベクターを導入する工程、
b)前記細胞又は組織を候補化合物と接触させる工程、
c)前記第一のベクターによってコードされたキメラタンパク質及び対象のプロテアーゼを発現させることができる条件下で前記細胞又は組織をインキュベートする工程、及び
d)前記キメラタンパク質の細胞内局在の変化を、前記プロテアーゼ阻害剤の存在の指標として検出する工程、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7(a)】
image rotate

【図7(b)】
image rotate

【図7(c)】
image rotate

【図7(d)】
image rotate

【図7(e)】
image rotate

【図7(f)】
image rotate

【図7(g)】
image rotate

【図7(h)】
image rotate

【図7(i)】
image rotate

【図7(j)】
image rotate

【図8(a)】
image rotate

【図8(b)】
image rotate

【図9(a)】
image rotate

【図9(b)】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−100754(P2009−100754A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2047(P2009−2047)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【分割の表示】特願2003−519510(P2003−519510)の分割
【原出願日】平成14年8月8日(2002.8.8)
【出願人】(504053391)アーラム バイオシステムズ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】