説明

プロトロンビン複合体組成物

【課題】高純度のプロトロンビン複合体組成物を工業的に製造する方法を提供する。
【解決手段】
a) 寒冷沈降した血漿の上清を用意する工程、
b) 前記上清を陰イオン交換樹脂に接触させ、前記複合体及び高分子量タンパク質を含む溶出液を得る工程、
c) 工程b)で得られた溶出液をハイドロキシアパタイトのカラムに供給する工程、及び
d) 前記複合体を含む溶出液を得る工程
を有するプロトロンビン複合体組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固因子II,VII,IX及びXを含むプロトロンビン複合体の組成物、又は濃縮製剤の製造方法に関する。本発明はまた、この方法により得られる組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ビタミンK依存性タンパク質の濃縮製剤、特に凝固因子II,VII,IX、及びX(PPSBとも呼ばれる)を含む濃縮プロトロンビン複合体を製造することは、1種以上の凝固因子、及び/又はある種の高分子量タンパク質の欠乏による血友病患者の出血の防止又は治療において、最も重要なことである。
【0003】
出血中、患者は、PPSBによる処置を受け、それに伴い、通常PPSBとともに同時精製された多量の血漿タンパク質も投与されるが、血漿タンパク質は、炎症反応を伴い、免疫寛容に問題があることによるアナフィラキシー・ショック等の副作用を引き起こすことがある。これは、免疫グロブリンM、並びにC3因子,C4因子及びC5因子が活性化した、アナフィラトキシンとも呼ばれるC3a因子,C4a因子及びC5a因子により特に生じ易い。C3a因子,C4a因子及びC5a因子(特にC3a因子)は、アレルギー性炎症に関係する。補体C5a及び補体C3aによる肥満細胞及び好塩基球の活性化は、ロイコトリエン及びヒスタミンの放出を促し、気管支収縮や血管拡張を引き起こす毛細血管透過性亢進の原因となる。
【0004】
ビタミンK依存性因子の精製中におけるこれらのフラグメントの形成を避けるために、それぞれの前駆体、すなわち補体系統C3因子,C4因子及びC5因子を除去することが好ましい。
【0005】
カスカジル(Kaskadil,登録商標,「ラボラトワール、フランセ、デュ、フラクショヌマン、エ、デ、ビオテクノロジ(Laboratoire Francais du Fractionnement et des Biotechnologies)」製)等の現在市販されているPPSB濃縮製剤は全て、PPSBを構成する因子II,VII,IX及びXより多く(約80%)の混入タンパク質を含んでいる。ビタミンK依存性タンパク質のうち最も高い濃度を有するのは、プロトロンビン又は因子IIである(カスカジル中の全タンパク質の濃度約35-45 Mg/mLに対し、4.5 Mg/mLのオーダーの濃度)。
【0006】
よって、活性並びに因子II,VII,IX及びXの組成割合を維持しながら、PPSBを高度に精製することができる方法が切望されている。
【0007】
EP 0,528,701 A1[出願人:アソシヤシヨン・プール・レソール・ド・ラ・トランスフユジヨン・サンギン(Association pour l'essor de la transfusion sanguine)](特許文献1)は、治療用ヒトトロンビンの製造方法であって、寒冷沈降した血漿の上清をDEAE-Sephadex(登録商標)A50樹脂を用いて精製し、PPSBを含む溶出液を再カルシウム塩化、及びウイルス不活化する連続工程を有する方法を開示している。
【0008】
US-P4,411,794 (A)(特許文献2)は、カルシウムイオンの存在下、ハイドロキシアパタイト型無機物担体上の硫酸アンモニウムにより、沈降させた血漿の上清を吸着する工程、及び引き続きコロイダルシリカ及び透析を用いて精製する工程を有する凝固因子II,VII,IX及びXの精製方法を開示している。しかし、この方法で得られたPPSB濃縮製剤は、多量の混入タンパク質を含み、かつ血液から製造した生成物の健康安全に関する現在の要求基準を満たす精製度が得られないように見受けられる。特に硫酸アンモニウムは、治療用途に適さず、比較的毒性も高い。
【0009】
US -P4,272,523 (A)(特許文献3)は、寒冷沈降した血漿の上清を用いる血漿の分画法を開示している。この特許は、透析/限外濾過のために、寒冷沈降による上清をコロイダルシリカに吸着させる工程、ハイドロキシアパタイト型のトリリン酸カルシウム塩に吸着させる工程、及びDEAE-Sephadex型陰イオン交換樹脂に吸着させる工程を有するPPSB濃縮製剤の調製について特に記載している。しかし、フィブリノゲン等の高分子量タンパク質を除去するコロイダルシリカを用いる精製工程、及びトリリン酸カルシウム塩を用いる精製工程はバッチ式吸着(バッチで行う)の形で行われ、その低い再現性及び自動化の困難性のため、工業的スケールで実施するのは困難であるように見受けられる。実際に、トリリン酸カルシウム塩は湿度の影響を受け易く、バッチにより変化するという固有の性質を有する粉末状であるので、取り扱いが難しい。よって、US-P 4,272,523 (A)の方法は、治療用PPSB濃縮製剤を大スケールで調製するには適していないといえる。
【0010】
EP ・・832・200 B1(特許文献4)は、陰イオン交換樹脂、ヘパリン樹脂、次いでハイドロキシアパタイト樹脂による連続的なクロマトグラフィー工程を用いた組換え型因子XIの組成物の精製方法を開示している。この文献は、プロトロンビン複合体の因子に関係しておらず、その出発物質は、ヒト由来ではない組換え型因子の組成物である。
【0011】
WO 2006/075664(特許文献5)は、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー工程を有する組換え型因子VIIの精製方法であって、組換え型因子VIIを含む組成物の事前処理を行わない方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0,528,701号明細書
【特許文献2】米国特許第4,411,794号明細書
【特許文献3】米国特許第4,272,523号明細書
【特許文献4】欧州特許第0,832,200号明細書
【特許文献5】国際公開第2006/075664号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、高純度のプロトロンビン複合体組成物を工業的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
驚くべきことに、出願人は、ビタミンK依存性タンパク質の濃縮製剤、特にプロトロンビン複合体の精製において、寒冷沈降した血漿の上清の調製工程と、陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィー工程と、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー工程とを組合せると、高純度PPSB濃縮製剤の工業的製造が可能となることを発見した。本発明の方法により製造されたPPSBは、実質的に混入タンパク質を含まず、これに含まれている因子II,VII,IX及びXは高い比活性を有している。本発明の方法は、精製工程が減少している点、精製工程の再現性に優れている点、並びにフィブリノゲン,フィブロネクチン,免疫グロブリン及び補体タンパク質等の高分子量タンパク質を含む溶出液をクロマトグラフ分析するためにハイドロキシアパタイトを用いる点で、現在知られている精製方法とは特に異なっている。
【0015】
本発明のプロトロンビン複合体組成物の製造方法は、
a) 寒冷沈降した血漿の上清を用意する工程、
b) 前記上清を陰イオン交換樹脂に接触させ、前記複合体及び高分子量タンパク質を含む溶出液を得る工程、
c) 工程b)で得られた溶出液をハイドロキシアパタイトのカラムに供給する工程、及び
d) 前記複合体を含む溶出液を得る工程
を有することを特徴とする。
【0016】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、追加の前溶出工程c1)を有し、前記前溶出を、0.25 MのNaClを含むリン酸ナトリウム又はリン酸カリウムの緩衝液により、好ましくはpH 6.5〜8.5で行い、より好ましくは約pH8で行う。前記緩衝液の濃度を0.005〜0.05 Mとし、好ましくは0.01〜0.05 Mとし、より好ましくは0.02〜0.05 Mとし、最も好ましくは0.03 Mとする。
【0017】
より好ましくは、溶出工程d)をリン酸カリウム緩衝液により行う。この緩衝液は、濃度が0.5 Mで、濃度0.075 MのNaClを含み、かつpHが8であるという条件を満たすのが好ましい。
【0018】
本発明の方法は、工程b)及び/又は工程d)で得られた溶出液をウイルス不活化する少なくとも1つの追加工程を有するのが好ましい。好ましい実施態様では、前記少なくとも1つのウイルス不活化工程を、工程b)で得られた溶出液を溶媒−洗浄剤混合物で処理することにより行い、好ましくはTween(登録商標)80(ポリソルベート80)及びトリn-ブチルリン酸塩(TnBP)の混合物の存在下、より好ましくは、1容積%のポリソルベート80及び0.3容積%のTnBPの存在下で行う。別の好ましい実施態様では、前記少なくとも1つのウイルス不活化工程は、UV-C(紫外線C)処理、カプリル酸イオンによる処理、及び/又は熱乾燥により行われる。好ましくは、工程d)で得られた溶出液をウイルス不活化する少なくとも1つの追加工程を、例えば1個以上のフィルタを用いた1回以上のナノ濾過により行い、例えば孔径15〜100 nmのフィルタを用い、例えば孔径15 nmの少なくとも1個のフィルタを用いるのがより好ましく、プラノバ(Planova、登録商標、旭化成メディカル株式会社)15Nフィルタを用いるのが特に好ましい。
【0019】
本発明の方法の好ましい実施態様では、工程b)及び/又は工程d)の後、少なくとも1つの追加の透析濾過−限外濾過工程を行う。好ましい実施態様では、本発明の方法における工程b)は、2種の別個の陰イオン交換樹脂を用いて行われる2つの副工程を有する。
【0020】
好ましい実施態様では、工程b)で用いる陰イオン交換樹脂は、ジエチルアミノエタン(DEAE),ポリエチレンイミン(PEI)及び第4級アミノエタン(QAE)から選択された正電荷基を有し、好ましくはDEAE型を有する。
【0021】
本発明の方法の好ましい実施態様では、工程b)又は工程d)の後、トロンビン阻害剤、好ましくはアンチトロンビンIII又はアンチトロンビンIIIとヘパリンとの混合物を添加する。
【0022】
好ましい実施態様では、本発明の方法により製造される組成物は、さらにタンパク質C,S及びZ等のその他のビタミンK依存性タンパク質を含んでいる。
【0023】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、好ましくは凍結乾燥、及び/又は薬理的に許容される補助剤もしくは担体の添加による最終の追加製剤工程を有する。
【0024】
本発明はまた、上記方法により得られるプロトロンビン複合体組成物であって、免疫グロブリン、好ましくはIgMの濃度が0.1%未満、及び/又はフィブリノゲン濃度が0.1%未満、及び/又はフィブロネクチン濃度が0.1%未満、及び/又は補体因子濃度が0.1%未満であるプロトロンビン複合体組成物に関する。
【0025】
好ましい実施態様では、本発明のプロトロンビン複合体組成物の因子IX(FIX)の平均比活性は、タンパク質1mg当たり少なくとも4IUである。
【0026】
好ましい実施態様では、本発明のプロトロンビン複合体組成物は、さらにタンパク質C,タンパク質S及びタンパク質Zを含んでいる。
【0027】
好ましい実施態様では、本発明のプロトロンビン複合体組成物は、因子II(FII),因子VII(FVII),因子IX(FIX),因子X(FX),タンパク質C,タンパク質S及びタンパク質Zを含むビタミンK依存性タンパク質を、前記組成物中の全タンパク質に対して、少なくとも80%,好ましくは85%,より好ましくは90%含んでいる。
【0028】
本発明はまた、プロトロンビン複合体組成物の医薬としての使用に関し、好ましくは、ビタミンK依存性因子の欠乏又は抗ビタミンK剤の過剰投与による出血の治療及び防止のための医薬としての使用、あるいは因子II又は因子Xの構造的又は後天的欠乏による出血の治療及び防止のための医薬としての使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】溶出液中の因子II,IX,VII及びXの収率と、ハイドロキシアパタイトカラムに導入したタンパク質負荷量との関係を示すグラフである。
【図2】ハイドロキシアパタイトカラムに保持されなかった因子II,IX,VII及びXの量と、導入したタンパク質負荷量との関係を示すグラフである。
【図3】非結合の因子II及び因子Xの割合変化と、ハイドロキシアパタイトカラムに導入したタンパク質負荷量との関係を示すグラフである。
【図4】ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーにおける前溶出中に除去されたタンパク質の量に相当するドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル(SDS・PAGE gel)による電気泳動のパターンである。濃度12%のSDS-PAGEゲル-非還元条件-導入物:セラミックハイドロキシアパタイト(Biorad社)によるクロマトグラフィーからの前溶出液及び溶出液に含まれるタンパク質の量に相当する10μgのタンパク質。ウェル1及び10:分子量標準物質,ウェル2:PI-1,ウェル3:試験3の前溶出液(0.25 MのNaClを含む),ウェル4:試験3の溶出液,ウェル5:試験5の前溶出液(0.25 MのNaCl及び30 mMのリン酸塩を含む),ウェル6:試験5の溶出液,ウェル7:PI-1,ウェル8:試験6の前溶出液(0.25 MのNaCl及び30 mMのリン酸塩を含む),ウェル9:試験6の溶出液。
【図5】濾過圧力の変化と時間との関係を示すグラフである。
【図6】濾過流速の変化と濾過重量との関係を示すグラフである。
【図7】還元剤非存在下での、濃度4〜12%のSDS-PAGEゲル[ノベックス(Novex,登録商標)]による電気泳動のパターンである(コロイダルクマシーブルー染色)。ウェル1:97 E 0801-PI-1,ウェル2:97 E 0801-非吸着ハイドロキシアパタイトセラミック,ウェル3:97 E 0801-前溶出,ウェル4:97 E 0801-溶出液,ウェル5:97 E 0801-透析した溶出液(10 kDa),ウェル6:97 E 0901-孔径15 nmのフィルタで濾過後,ウェル7:97 E 1401-孔径15 nmのフィルタで濾過後,ウェル8:97 E 1601-孔径15 nmのフィルタで濾過後,ウェル9:97 E 1601-孔径15 nmのフィルタで濾過後の最終残余物,ウェル10:ノベックス(Novex)による分子量制御。
【図8】免疫ブロットによる因子IXのキャラクタリゼーションを示す泳動パターンである。ウェル1:97 E 1106-ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーからの溶出液をナノ濾過前に透析したもの,ウェル2及び3:97 E 1106-PI-1,ウェル4:97 E 1504-孔径15 nmのフィルタで濾過したもの,ウェル 5:因子IX HP control(高純度制御)。因子IX HPは高純度の因子IXであり、すなわち100 U/mg超の比活性(タンパク質1mg当たりのFIX単位で表される)を有する因子IX濃縮製剤である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のビタミンK依存性タンパク質、特にプロトロンビン複合体の精製方法は、以下の工程を有する:
a)寒冷沈降した血漿の上清を用意する工程。好ましい実施態様では、寒冷沈降した血漿の上清は、コーン分画法により得られる。この場合、エタノールによるタンパク質変性を防止する必要があり、そのため低温で操作するか、ハイドロキシアパタイトにタンパク質を吸着させる前にアルコールを除去する。別の実施態様では、寒冷沈降した血漿の上清は、硫酸アンモニウム塩を用いた分画法により得られる。この場合、ハイドロキシアパタイトへの吸着を最適条件で行うために、透析を行う必要がある。
b)前記上清を陰イオン交換樹脂に接触させ、前記複合体及び高分子量タンパク質を含む溶出液を得る工程、
c)工程b)で得られた溶出液をハイドロキシアパタイトのカラムに供給する工程、及び
d)前記複合体を含む溶出液を得る工程。
【0031】
高分子量タンパク質は、kDaで表される分子量が300超であり、好ましくは200超、特に好ましくは160超、さらに好ましくは100超であるものである。
【0032】
本発明で使用するハイドロキシアパタイト樹脂として、セラミック・ハイドロキシアパタイト(セラミックHA)、バイオゲル(Biogel)HT等が挙げられる。
【0033】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、追加の前溶出工程c1)を有する。前記前溶出は、濃度0.25 MのNaClを含み、pHが8.0で、濃度0.01 M又は0.03 Mのリン酸カリウム緩衝液により、室温で行うのが好ましい。この前溶出用緩衝液のリン酸カリウム濃度は、0.02〜0.05 Mが好ましく、0.03 Mがより好ましい。この前溶出用緩衝液のpHは、6.5〜8.5が好ましく、8がより好ましい。
【0034】
好ましくは、溶出工程d)は、濃度0.075 MのNaClを含み、pHが8で、濃度0.5 Mのリン酸カリウム緩衝液により行う。この溶出用緩衝液のpHは6.5〜8.5が好ましく、8がより好ましい。この溶出用緩衝液のリン酸カリウム濃度は、0.1 M〜0.5 Mが好ましく、0.25 Mがより好ましい。
【0035】
ハイドロキシアパタイトカラム、好ましくはセラミックハイドロキシアパタイト(HA-Biorad)のクロマトグラフィーを用いることにより、陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィー工程b)で、ビタミンK依存性タンパク質(特にプロトロンビン複合体)とともに溶出した高分子量タンパク質を除去することができる。これらの高分子量タンパク質を除去することにより、プロトロンビン複合体溶液を治療に用いたときに一般的に生じる副作用を、減少又は好ましく除去することができる。実際に、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー中に除去される混入高分子量タンパク質は、例えば、現在市販されているプロトロンビン複合体の溶液に対する患者の耐性を直接的又は非直接的(例えばアナフィラトキシンの形に分裂した後)に減少させるある種の補体因子(例えばC4)を含んでいる。驚くべきことに、出願人は、ハイドロキシアパタイトによる単独クロマトグラフィー工程により、例えばコロイダルシリカ等を用いた精製のような予備操作を要することなく、寒冷沈降した血漿の上清に含まれている混入高分子量タンパク質の殆どを除去可能であることを発見した。フィブリノゲン、フィブロネクチン、Ig等のタンパク質もまた除去される。
【0036】
本発明の方法により得られる濃縮プロトロンビン複合体中の因子II,VII,IX及びXの比率は、元の血漿中における比率と極めて同等であるので、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーによれば、精製中におけるビタミンK依存性因子の割合を変化させないことが見込める。
【0037】
ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーで得られるプロトロンビン複合体組成物(ビタミンK依存性タンパク質の濃縮製剤)は、著しく濃縮されている。全タンパク質含有量に対する、プロトロンビン複合体を構成するタンパク質の組成物又は濃縮物の含有量は、約60%であり、好ましくは約70%であり、より好ましくは約80%であり、因子II,VII,IX及びXの比活性は、カスカジル(Kaskadil,登録商標)のような市販のプロトロンビン濃縮製剤より著しく増加している(4〜8倍大きく、好ましくは5倍以上大きい)。
【0038】
さらに、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー中に高分子量タンパク質を除去することにより、15 nmオーダーの孔径を有するフィルタを用いたナノ濾過法によるビタミンK依存性タンパク質濃縮製剤のウイルス不活化が可能となるので、今後工業的に有利である。事前に高分子量タンパク質を除去しなければ、フィルタは、濾過する溶液中の高分子量タンパク質により急速に詰まってしまうと推測される。工程b)の陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィーと、工程d)のハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーとの間に、溶媒−洗浄剤混合物を用いた処理によるウイルス不活化工程を行った場合にも、ハイドロキシアパタイトで精製することにより、ハイドロキシアパタイトに送給したタンパク質濃縮製剤に含まれる溶媒及び洗浄剤の全量を実質的に除去することができる。
【0039】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、工程b)及び/又は工程d)で得られた溶出液をウイルス不活化する少なくとも1つの追加工程を有する。好ましくは、少なくとも1つのウイルス不活化工程を、工程b)で得られた溶出液を溶媒−洗浄剤混合物で処理することにより行い、より好ましくは、Tween(登録商標)80(ポリソルベート80)、及びトリn-ブチルリン酸塩(TnBP)の混合物の存在下、さらに好ましくは、1容積%のポリソルベート80及び0.3容積%のTnBPの存在下で行う。別の好ましい実施態様では、前記少なくとも1つのウイルス不活化工程は、UV-C(紫外線C)処理、カプリル酸イオンによる処理、及び/又は熱乾燥により行われる。好ましくは、本発明の方法は、工程d)で得られた溶出液を、少なくとも1回ナノ濾過する第2のウイルス不活化工程を有する。ナノ濾過法では孔径15 nmのフィルタを用いるのが好ましく、プラノバ(Planova、登録商標、旭化成メディカル株式会社)15Nフィルタを用いるのがより好ましい。
【0040】
ウイルス不活化処理により、エンベロープウイルス及びエンベロープの無いウイルスを除去することができる。
【0041】
本発明の方法では、ウイルス学的な視点から、治療のために投薬する最終製品を安全なものとすることを目的として、少なくとも1つのウイルス不活化工程を行う。
【0042】
溶媒−洗浄剤混合物を用いて、エンベロープウイルスを不活化する第1のウイルス不活化工程は、どの段階で行ってもよいが、陰イオン交換樹脂による精製の後が好ましい。溶媒−洗浄剤混合物としては、当業者に知られた適切な混合物を用いることができるが、上記の組成物が好ましい。溶媒−洗浄剤混合物によるウイルス不活化処理は、一般的に数時間(例えば7時間)、実質的に室温(例えば25 ±1℃)で行う。
【0043】
さらに本発明の方法は、少なくとも1個の小孔径フィルタを用いるナノ濾過法による少なくとも1回の除去工程を有してもよい。小孔径フィルタは、例えば15〜100 nmの孔径を有する。このようなナノ濾過工程により、ノンエンベロープウイルス(ポリオウイルス又はパルボウイルス型のウイルス)、及び異常な伝達性を有する病原体(プリオン型等)についても、最終製品の安全を確保することができる。本発明の方法では、ナノ濾過は、孔径15 nmを有する少なくとも1つのフィルタ、好ましくはプラノバ(Planova、登録商標、旭化成メディカル株式会社)15Nフィルタにより行う。好ましい実施態様では、ナノ濾過は、異なる孔径を有する少なくとも2個のフィルタにより行い、好ましくはこれらのフィルタを孔径が小さくなる順に用いる。タンパク質中の著しい濃度の高分子量タンパク質(例えば、フィブリノゲン、フィブロネクチン又はIgM)がフィルタで抽出されてフィルタを詰まらせる場合、ナノ濾過を、好ましくはハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーの後で行うと、本方法を工業的スケールで実施する場合に一層有利である。
【0044】
上記2つのウイルス不活化工程を有する方法により得られるPPSB濃縮製剤は、血漿及びバイオテクノロジー製品に関してEMEA又はFDAにより発行された国際勧告によるエンベロープウイルス、及びノンエンベロープウイルスに対する安全基準に適合するものである。
【0045】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、工程b)及び/又は工程d)の後、少なくとも1つの追加の透析濾過−限外濾過工程を有する。
【0046】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、陰イオン交換樹脂を用いる2つのクロマトグラフィー副工程を有する。この場合、工程b)の溶出液を第2の陰イオン交換樹脂にも供給し、高分子量タンパク質を含むビタミンK依存性タンパク質濃縮製剤を溶出する追加工程b2)を行う。好ましくは、第2の陰イオン交換樹脂として、ジエチルアミノエタン(DEAE)・セファロース型樹脂、好ましくはDEAE-セファロースFF[アマシャム(Amersham)社製]を用いる。DEAE-セファロース樹脂は、ゲルを衛生的にし、かつ再生するために通常使われる水酸化ナトリウムによる処理が可能であるだけでなく、耐圧性も有するので有利である。
【0047】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、好ましくは凍結乾燥及び/又は薬理的に許容される補助剤、もしくは担体の添加による最終の追加製剤工程を有する。一実施態様では、追加製剤工程による製品は、0.13 MのNaCl、2g/Lのアルギニン、2g/Lのリシン、及び3g/Lのクエン酸ナトリウムを含み、6.9〜7.1のpHを有する。別の実施態様では、追加製剤工程による製品は、10 g/Lのアルギニン及び35 g/Lのマンニトールを含み、6.9〜7.1のpHを有する。別の実施態様では、追加製剤工程による製品は、45 g/Lのマンニトールを含み、6.9〜7.1のpHを有する。別の実施態様では、追加製剤工程による製品は、1g/Lのクエン酸ナトリウム及び35 g/Lのマンニトールを含み、6.9〜7.1のpHを有する。
【0048】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、トロンビン阻害剤、好ましくはアンチトロンビンIII又はアンチトロンビンIIIとヘパリンとの混合物を添加する工程を有する。アンチトロンビンは、ヒト血漿に由来するものでもよいし、例えばGTC Biotherapeutics社から市販されているアトリン(Atryn,登録商標)のような組換え型ヒト由来のものでもよい。この添加は、工程b)及び/又は工程d)の後に行うのが好ましい。好ましくは、トロンビン阻害剤の添加は、工程b)で得られた溶出液の溶媒−洗浄剤混合物による処理の後、又は工程d)で得られた溶出液のナノ濾過工程の前に行う。ヘパリン補因子IIもまた、トロンビン阻害剤として用いることができ、アンチトロンビンと同じ濃度範囲で使用することができる。
【0049】
トロンビン阻害剤を添加することにより、本発明の方法による精製工程中のプロトロンビン(FII)のトロンビンへの活性化を、防止又は抑制することができるという利点が得られる。本発明の方法により得られるビタミンK依存性タンパク質濃縮製剤に血栓性が無いことにより、人への治療薬又は予防薬としての使用と、この濃縮製剤の十分な保存性とを両立することができる。
【0050】
好ましくは、本発明の方法の工程b)の陰イオン交換樹脂は、ジエチルアミノエタン(DEAE),ポリエチレンイミン(PEI)及び第4級アミノエタン(QAE)から選択された正電荷基を有する。この陰イオン交換樹脂は、好ましくはGE Healthcare社から市販されているDEAE-Sephadex(登録商標)A50である。工程b)のクロマトグラフィーにより、アルブミン,免疫グロブリン(IgM等のある種のIgを除く),アンチトロンビンIII及びαアンチトリプシンにより構成されるタンパク質(著しい含有量のことがある)を除去することができる。陰イオン交換樹脂に吸着した血漿タンパク質の回収は、イオン強度を漸増させることにより行う。
【0051】
好ましい実施態様では、以下の工程d)で得られたビタミンK依存性タンパク質は、例えば親和性ゲルを用いる方法等、当業者によく知られている技術により、独立して精製することができる。
【0052】
本発明はまた、プロトロンビン因子(上記方法により得られるビタミンK依存性タンパク質)の濃縮製剤に関する。このタンパク質濃縮製剤は、好ましくは、因子II,VII,IX及びXを含み、さらに0.1%未満の濃度(濃縮製剤中の全タンパク質を基準とした割合)のIgM、0.1%未満の濃度(濃縮製剤中の全タンパク質を基準とした割合)のフィブリノゲン、0.1%未満の濃度のフィブロネクチン、及び0.1%未満の濃度の補体因子を含む。好ましくは、本発明の濃縮製剤はまた、タンパク質C,S及びZを含み、その因子IX(FIX)の平均比活性は、タンパク質1mg当たり少なくとも4IUである。
【0053】
本発明はまた、本発明の方法により得られるプロトロンビン因子の濃縮製剤の医薬としての使用に関し、特に因子II又はXの構造的欠陥等によるビタミンK依存性因子の欠乏、又は抗ビタミンK剤の過剰投与に起因する出血の治療及び防止のための医薬としての使用に関する。
【0054】
本発明の方法を、以下実施例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明の具体的態様についてのものであり、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【0055】
実施例
実施例1:ビタミンK依存性タンパク質濃縮製剤の精製条件
A−寒冷沈降した血漿の上清の調製
凍結した新鮮な血漿を凍結・解凍し、かつ0〜3℃の温度で遠心分離することにより得られた、寒冷沈降した血漿の上清を出発物質として用いる。
【0056】
因子VIII,フィブロネクチン及びフィブリノゲンを主成分とし、4℃未満の温度で不溶の寒冷沈降物を除去するために、血漿分画の上流において、2℃未満の温度で寒冷沈降を行う。
【0057】
+4℃に近い温度で持続的に遠心分離することにより、上記上清から寒冷沈降物を分離する。遠心分離で得られた上清をクリオ上清と呼ぶ。
【0058】
クリオ上清は、プロトロンビン(因子II),因子VII,因子IX,因子X,タンパク質C,タンパク質S及びタンパク質Zで構成されるビタミンK依存性因子を含む凝固因子とともに、本質的にアルブミン及び免疫グロブリンを含んでいる。
【0059】
B−陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィー
以下、弱い陰イオン交換ゲルDEAE Sephadex A-50(ジエチルアミノエチル・セファデックス)で吸着処理することにより、ビタミンK依存性因子濃縮画分を調製する工程について説明する。
【0060】
クリオ上清を、+10℃の最低温度から加熱する(+16℃〜+18℃が適している)。必要に応じて、DEAE-Sephadexゲルによる精製の前に、孔径1μmのフィルタ、次いで孔径0.5μmのフィルタにより、このクリオ上清を濾過処理してもよい。
【0061】
精製したクリオ上清の量は、通常2,000〜3,000リットルである。精製したクリオ上清1リットル当たり、約1.5 gの乾燥DEAE-Sephadexを使用する。
【0062】
精製の前に、DEAE-Sephadexの粉末を膨潤させる(3回洗浄)。これは、各洗浄の後、ステンレス鋼の網の上にゲルを載置しながら行う。DEAE-Sephadexの膨潤及び平衡化による準備は、攪拌羽根及び底網(篩:液体は逃がすが、DEAE-Sephadexのビーズを保持するために用いる)を具備する容器中、0.075 Mの塩化ナトリウム溶液を用いて行う。DEAE-Sephadexの膨潤操作は室温(15〜25℃)で行う。
【0063】
ゲルの最終的な平衡は、流出液のモル浸透圧濃度を測定することにより制御する。
【0064】
供給流速が平衡化した後、好ましい温度である17±1℃で、クリオ上清を、1時間当たり400 kgの流速で、膨潤し平衡化したDEAE-Sephadexに持続的に送給する。
【0065】
攪拌しながら、クリオ上清の全量をDEAE-Sephadexに接触させ、ゲルにビタミンK依存性因子を結合させる。
【0066】
0.2 MのNaCl及び10 Mmのクエン酸を含むpH7の緩衝液で、ゲルを3回洗浄する。2,200 Lの精製クリオ上清に対して、140 Lの量の緩衝液を用いる。
【0067】
ビタミンK依存性タンパク質(共に精製された高分子量タンパク質を含む)の溶出は、2MのNaCl及び10 mMのクエン酸を含むpH7の緩衝液を用いて行う。2,200 Lの精製クリオ上清に対して、75 Lの量の緩衝液を用いる。
【0068】
溶出により得られたタンパク質画分は、慣用手段により脱塩処理する。すなわち、10キロダルトン、任意で30キロダルトンのカットオフ閾値を有するカセットを用いて限外濾過し、0.15 MのNaCl及び10 mMのクエン酸を含むpH7の緩衝液に対して透析する。
【0069】
本願明細書においては、DEAE-Sephadexによる精製で得られたタンパク質溶出液を、《PPSB中間製品1》又は《PPSB-PI-1》と呼ぶ。
【0070】
この段階でDEAE-Sephadexから得られた溶出液のその他の精製工程を行っている間に、精製方法のこの段階でのPPSB-PI-1を凍結してもよい。
【0071】
C−溶媒−洗浄剤混合物によるウイルス不活化処理
PPSB-PI-1は、溶媒−洗浄剤混合物によりウイルス不活化処理する。具体的には、1容積%のポリソルベート80及び0.3容積%のトリn-ブチルリン酸塩(TnBP)で処理する。ウイルス不活化処理は、24〜25℃の温度で、少なくとも6時間行う。
【0072】
ポリソルベートの代わりに、TnBPの存在下、15〜30℃の温度、好ましくは約25℃で、濃度0.5〜2%のコール酸塩又はオクトキシノール(Triton X100)等のその他の洗浄剤を用いてもよい。ウイルス不活化のための最短保温時間は4時間であるが、保温時間は12時間まで延長してもよい。一般的にpHは6〜8の範囲であり、全タンパク質濃度は10〜40 g/Lである。
【0073】
D−ハイドロキシアパタイトHAによるクロマトグラフィー
D.1−ゲルのパッケージ
粒径40μmのマクロプレップ(Macro prep)セラミックハイドロキシアパタイト(Biorad社)をクロマトグラフィーゲルとして用いる。乾燥ゲルを、0.4 Mのリン酸塩緩衝液(pH 6.8)中に懸濁させ、カラム(Pharmacia社製K50/30)に入れた。流入は、100 cm/hの流速で行う。30 gの乾燥ゲルを用い、50 mLの充填ゲルを有するカラムを得る。カラムを、カラム容積の5倍の2MのNaOH溶液でリンスし、2MのNaOH溶液で保管する。
【0074】
D.2−カラムに注入するPPSB-PI-1の調製
PPSB-PI-1は、必要に応じて解凍し、1%のポリソルベート80と0.3%のTnBPとの混合物の存在下3時間ウイルス不活化処理する。ウイルス不活化したPPSB-PI-1は、任意で、0.1 MのNaOHでpHを8に調整した20 mMのベンズアミジン溶液を用いて、半分に希釈する。
【0075】
D.3−クロマトグラフィー
カラムを、工業用検出セルとして供給されているPharmacia社のUV検出器に接続し、溶出液の光学濃度を280 nmの紫外線を用いて記録する。2MのNaOH中に保管されたゲルを、5倍体積量の事前に平衡化した緩衝液(0.4 Mのリン酸カリウム;pH 6.8)で洗浄する。
【0076】
カラムを、15倍体積量の平衡緩衝液[0.01 Mのリン酸カリウム;0.075 MのNaCl;10 mMのベンズアミジン(任意);pH8]で平衡化する。次いで、PPSB溶液を100 cm/hの流速で注入し、ベースラインに戻るまで、カラムを平衡緩衝液で洗浄する。
【0077】
前溶出用緩衝液[0.01 Mのリン酸カリウム;0.25 MのNaCl;10 mMのベンズアミジン;pH8、又は0.03 Mのリン酸カリウム;0.25 MのNaCl;10 mMのベンズアミジン(任意);pH8]を用いて、同流速で前溶出を行い、カラム容積の5倍の前溶出液を捕集する。ゲルを15倍体積量の同緩衝液で洗浄する。
【0078】
溶出は、溶出用緩衝液[0.5 Mのリン酸カリウム;0.075 MのNaCl;10 mMのベンズアミジン(任意);pH8]を用いて、同流速で行い、カラム容積の5倍の溶出液を捕集する。ゲルは、カラム容積の5倍の2MのNaOH溶液で再生し、2MのNaOH溶液中に保管する。
【0079】
E−限外濾過及び透析
ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーで得られた溶出液を、10 kDaのカットオフ閾値を有するザルトリウス(Sartorius)社製0.1 mイのウルトラザルト・スライス・ポリスルホン・カセット(ultrasart slice polysulfone cassette)を用いて限外濾過する。
【0080】
溶出液を3回濃縮し、70 Ωの抵抗値が得られるまで、注射用精製水(pwi)に対して一定量を透析し(カセットの入口圧力:0.5 bar,限外濾過の流速:45 mL/min)、5倍体積容量の透析用緩衝液(3g/Lのトリクエン酸ナトリウム;0.13 MのNaCl;2g/Lのリシン;2g/Lのアルギニン;pH7)に対して一定量を透析する。生成物を再び2回濃縮し、カセットを、初期容積の80%の容積が得られるまで透析用緩衝液で洗浄する。生成物を、必要に応じて孔径15 nmのフィルタで濾過した後、凍結し、−40℃で保存する。
【0081】
F−分析
プロトロンビン複合体(PPSB)を構成する凝固因子II(FII),因子VII(FVII),因子IX(FIX)及び因子X(FX)の量、並びに/又は濃度を分析し(凝固誘発性の測定による)、トロンビン活性を測定する。
【0082】
またスタゴ(Stago)社から市販されているキット《Asserachrom(登録商標) Total Protein S》及び《Asserachrom(登録商標) Protein C》を用いてタンパク質C及びSの量及び/又は濃度を分析する。
【0083】
因子VII,IX,X及びタンパク質Zの抗原分析を以下のELISAキット[スタゴ(Stago)社製]を用いて行う。
《Asserachrom(登録商標) VII:Ag》,《Asserachrom(登録商標) IX:Ag》,《Asserachrom(登録商標) X:Ag》,《Asserachrom(登録商標) タンパク質Z》
【0084】
ポリソルベート80及びTnBPの量及び/又は濃度を分析する。
【0085】
実施例2:実験結果
A−カラム容量の測定
ハイドロキシアパタイトカラムの容量を、上記と同じ実験条件下、ゲル1mL当たり3,5,7及び9mLのウイルス不活化PPSBを用いて測定した。
【0086】
各ファクターについて算出した収率は、PPSB-PI-1中の凝固ユニットの全量に対する、ハイドロキシアパタイトからの溶出液中の凝固ユニットの全量の比に対応している。負荷量に対して得られた収率を、下記表Iに詳細に示す。
【0087】
表I−ゲルへの負荷量に対するファクターII,IX,VII及びXの溶出収率

【0088】
これらのデータを図1にグラフで示す。負荷量の増加に対し、因子X(FX)の結合は明らかに減少していることが分かる。
【0089】
各ファクターについて算出した非結合因子の割合は、当初のPPSB-PI-1中の凝固ユニットの全量に対する非結合画分中の凝固ユニットの全量の比に相当する。非結合因子の割合を表IIに示す。
【0090】
表II:負荷量に対する、ゲルに保持されなかった因子 II,IX,VII及びXの量

【0091】
これらのデータを図2にグラフで示す。因子II及びXは、ハイドロキシアパタイトカラムに、比較的結合し難いことは明らかである。
【0092】
さらに図3は、これらの因子(FII及びFX)の両方について、非結合因子の割合が負荷量に対して直線的に変化していることを示している。ゲル1mLに対する5mLまでのPPSB-PI-1負荷量の場合、比較的保持されるので許容できる。
【0093】
B−前溶出の影響
混入タンパク質を可能な限り除去することを目的として、30 mMのリン酸塩緩衝液を用いて前溶出の影響を調べた。このような前溶出は、濃度50 mMのリン酸塩緩衝液から、因子II及びVIIの溶出が観測されるように、好ましくは20〜40 mM、より好ましくは30 mMのリン酸塩緩衝液を用いて行う。操作条件は、上記と同じであり、タンパク質の負荷量としては、ゲル1mL当たり5mLのPPSB-PI-1を用いた。
【0094】
前溶出液からは、凝固因子は検出されなかった。下記の結果から明らかなように、この前溶出により収率は影響されない。
【0095】
表III:前溶出のタイプに対する溶出液中の因子II,XII,VII及びXの量

【0096】
表IV:リン酸塩による前溶出で共に除去された精製タンパク質の量

注(1):リン酸塩による前溶出なし
【0097】
ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル(SDS・PAGE gel)電気泳動の結果(図4参照)により示すように、30 mMのリン酸塩緩衝液により行われる前溶出により、さらに多量のタンパク質、特に高分子量タンパク質(100〜200 kD)の除去も可能である。
【0098】
E−アンチトロンビン及びヘパリンの添加の影響
精製中における抽出タンパク質の低トロンビン活性を維持するために、限外濾過の前に、濃度0.5 U/mLの精製したアンチトロンビン(好ましくは、FIX単位当たり、濃度0.1〜0.04単位のアンチトロンビン)及び2U/mLのヘパリンを、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー溶出液に添加する。実験条件は上記と同じであり、30 mMのリン酸塩緩衝液による前溶出を行う。カラムへの負荷量としては、ゲル1mL当たり5mLのPPSBを用いる。
【0099】
E1−ハイドロキシアパタイトによる精製後に透析した溶出液中のFII,FX,FVII及びXの活性
【0100】
表V:ハイドロキシアパタイトによる精製後の溶出液中のFII,FX,FVII及びXの活性並びにトロンビン活性

【0101】
これらの試験結果は再現性があり、かつ6時間及び24時間測定したトロンビン活性ほぼ0である。従って、ビタミンK依存性タンパク質の濃縮製剤は、治療用途に適している(6時間及びそれ以上のトロンビン活性は、非常に少量のトロンビンに該当し、0.001 NIH単位より著しく小さい)。
【0102】
E2−ハイドロキシアパタイトによる精製後に透析した溶出液中のFII,FX,FVII及びXの活性
【0103】
表VI:ハイドロキシアパタイトによる精製後に透析又は限外濾過した溶出液中のFII,FX,FVII及びXの収率並びにトロンビン活性

【0104】
因子II及びIXの収率は70%のオーダーであり、因子VII及びXの収率は平均で60及び64%のオーダーであった。
【0105】
表VII:ハイドロキシアパタイトによる溶出液の限外濾過後の因子II,IX,VII及びXの収率

【0106】
限外濾過後の因子全体の収率は70〜80%のオーダーであった。
【0107】
表VIII:ハイドロキシアパタイトによる溶出液の透析後の因子II,X,VII及びIXの比活性

【0108】
各ファクターについて算出した比活性は、本発明のハイドロキシアパタイトの代わりに陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィーを用いて得られたFII,FVII,FIX及びFXの濃縮製剤に対して、約5倍に増加していた。
【0109】
F−ハイドロキシアパタイトによる精製工程についての結論
ビタミンK依存性凝固因子の結合は、イオン交換ゲルの表面に比べて、リン酸カルシウム塩(ハイドロキシアパタイト型)の表面に対して、より特異的に表れる。このことは、得られた生成物の純度により説明することができる。ハイドロキシアパタイトゲルを用いた溶出後に回収したタンパク質の分析により、タンパク質濃縮製剤中に含まれるタンパク質は、興味深いことに75〜50 kDaの分子量を有し、それはビタミンK依存性タンパク質の分子量、特にプロトロンビン複合体を構成する異なる凝固因子の分子量に相当している。
【0110】
下記表IXは、ウイルス不活化の後、陰イオン交換樹脂による精製(本発明のハイドロキシアパタイトによる精製の代わりに行ったものである)により得られたタンパク質の濃縮製剤中に存在するタンパク質のリストである。そのような濃縮製剤中には、ビタミンK依存性タンパク質(FII,FVII,FIX,FX,タンパク質C,タンパク質S及びタンパク質Z)が、合計で全タンパク質の17%存在していることに注意すべきである。
【0111】
表IX:本発明のハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーの代わりに、陰イオン交換樹脂による1回の精製、又は第1の陰イオン交換樹脂及び第2の陰イオン交換樹脂を用いた精製により得られた濃縮製剤中に存在するタンパク質のリスト並びに相対的割合

【0112】
逆に、本発明の方法により得られた、特にハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー工程後に得られたタンパク質の濃縮製剤は、全タンパク質の90〜95%のオーダーの割合のビタミンK依存性タンパク質(FII,FVII,FIX,FX,タンパク質C,タンパク質S及びタンパク質Z)を含んでいる。
【0113】
このハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーにより得られた濃縮製剤は、陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィーにより得られた中間生成物1に比べて、5〜7倍高い比活性を有する。追加測定により、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーにより、さらにウイルス不活化工程で用いたポリソルベート80及びTnBPの十分な除去も可能であることが示された。
【0114】
ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー溶出液へのアンチトロンビンIII及びヘパリンの添加は、24時間トロンビン活性の無い生成物がシステマチックに得られるポテンシャルを与える。
【0115】
殆どの混入タンパク質、特に混入高分子量タンパク質の除去は、許容できる濾過表面を用いることにより、孔径15 nmの膜による生成物の濾過を可能にする(膜1m2当たりの約10リットルの生成物)。
【0116】
G−ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーにより得られた濃縮製剤のナノ濾過
G.1−ナノ濾過の実験操作
使用したフィルタは、プラノバ(Planova、登録商標、旭化成メディカル株式会社)15Nを基準とした。使用したフィルタは、親水性の銅・アンモニウムセルロース製の中空繊維で構成されており、その定格孔径は15±2 nmである。
【0117】
フィルタ用の平衡緩衝液は、0.13 Mの塩化ナトリウム,3g/Lのトリクエン酸ナトリウム・2H2O,2g/Lのリシン・HCl,2g/Lのアルギニン・HCl及び精製した注射用精製水(pwi)を含んでいる。緩衝液は、pHを7.0±0.05に、抵抗を75Ω・cmに、モル浸透圧濃度(水1kg当たり)を314 mosmolに、温度を20〜25℃にそれぞれ調整した。
【0118】
フィルタは、500 mbarのオーダーの圧力下、精製した注射用精製水(pwi)でそれぞれリンスすることによりそれぞれ準備した。精製した注射用精製水(pwi)でリンスした後、使用前にフィルタの状態を制御した。ジャケット中1,000±50 mbarの空気圧下で、空気漏れ試験又は《漏れ試験》を行うことにより、繊維を透過する空気が無いことをチェックした(アサヒ・プラノバフィルタ用完全性試験の標準作業手順に準拠)。溶液を濾過する前に、フィルタを製剤化緩衝液で平衡化した。好ましい実施態様では、製剤化緩衝液は、0.13 MのNaCl,2g/Lのアルギニン,2g/Lのリシン及び3g/Lのクエン酸ナトリウムを含み、6.9〜7.1のpHを有する。別の実施態様では、製剤化緩衝液は、10 g/Lのアルギニン及び35 g/Lのマンニトールを含み、6.9〜7.1のpHを有する。別の実施態様では、製剤化緩衝液は、45 g/Lのマンニトールを含み、6.9〜7.1のpHを有する。別の実施態様では、製剤化緩衝液は、1g/Lのクエン酸ナトリウム及び35 g/Lのマンニトールを含み、6.9〜7.1のpHを有する。
【0119】
pH及び孔径15 nmのフィルタの濾過抵抗をチェックした(pH 7.0±0.1 - モル浸透圧濃度314±10 mosmol/kg H2O)。
【0120】
上記セラミックハイドロキシアパタイトによる精製で得られ、任意に透析した溶出液のフラスコを、37℃±2℃の湯浴で解凍した。孔径15 nmのフィルタ(プラノバ15N)による濾過の前に、任意で、0.2μmのセルローストリアセテートフィルタ[ザルトリウス(Sartorius)社製Sartolab P]により前濾過を行ってもよい。
【0121】
溶出液の濾過は、500±50 mbarの一定の圧縮空気圧下で行った。圧力の測定は、デジタル圧力計を用いて孔径15 nmのフィルタの入り口で行った。孔径15 nmのフィルタによる濾過で得られた溶出液は、フィルタの出口から、秤上に配置したフラスコに捕集した。濾過流速を決定するために、一定時間毎に濾過重量を測定した。行った濾過は、再循環していない段階でのものである。
【0122】
濾過の最後で、膜の状態をチェックし、濾過工程を検証するために、ジャケット中で空気漏れ試験又は《漏れ試験》を行う。
【0123】
ナノ濾過工程の再現性をテストするために、表Xに示す標準操作条件に従ってテストを行う。
【0124】
表X:孔径15 nmのフィルタによるナノ濾過に用いた操作条件及びパラメータ

【0125】
ナノ濾過の後、凝固因子II,VII,IX及びXの量及び/又は濃度を、当業者に知られた慣用の方法で測定した。全タンパク質のレベルを決定するために繰り返した。
【0126】
G.2−ハイドロキシアパタイトにより得られた溶出液のナノ濾過による結果
G.2.1−ナノ濾過法のパラメータのトラッキング
濾過圧力は、濾過試験中平均で500±100 mbarに維持した(図5参照)。
【0127】
濾過流速の変化は、ナノ濾過中に測定した(図6参照)。濾過重量に依存して、濾過流速の規則的な減少が見られた。全ての試験について、同様な傾向であった。
【0128】
表XI:ナノ濾過流速のトラッキング

【0129】
供給業者アサヒ・フィルタの推奨に従い、最終濾過流速は初期流速より10%超大きくすべきである。流速比が10%未満だと、特に孔径が小さい場合、フィルタは詰まってしまうと考えられる。濾過の継続は、膜の比較的大きい孔を、ウイルスが通過することを事実上促進する可能性がある。
【0130】
ナノ濾過流速の最終/初期比は、全ての試験について、上記条件を満たしている。
【0131】
表XII:濾過パラメータのトラッキング

【0132】
平均濾過時間は2時間のオーダーであった。平均容積容量は、膜1m2当たり10 L/のオーダーであり、これは1m2当たり約47.9±4.7 gのタンパク質の容量に相当する。
【0133】
G.2.2−ナノ濾過後の全タンパク質及び凝固因子のバランス
【0134】
表XIII:全タンパク質バランス

【0135】
ナノ濾過による良好な全タンパク質収率は90%超と良好であった。
【0136】
試験は、異なるバッチの原料を用いて行い、完全に再現性があった。
【0137】
表XIV:孔径15 nmのフィルタによるナノ濾過工程前後での凝固因子バランス

【0138】
全ての凝固因子について、異なる試験の再現性は良好であった。
【0139】
セラミックハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー工程は、ビタミンK依存性因子の全体の良好な回収を可能にする。孔径15 nmのフィルタによるナノ濾過の前後での濃度は非常に近く、4種の凝固因子に対する高い濾過収率が示された。
【0140】
表XV:孔径15 nmのフィルタによるナノ濾過中の比活性の経時変化

【0141】
全ての凝固因子の比活性は、ナノ濾過の前後で、全ての試験について同じオーダーであった。因子IXに対する比活性は、全ての試験について5超であった。
【0142】
表XVI:孔径15 nmのフィルタによるナノ濾過後の凝固因子の収率

【0143】
各試験について、全ての凝固因子に対する収率は同じオーダー(90%超)であった。
【0144】
G.2.3−トロンビン活性の測定
トロンビン活性の測定は、サンプルの不透明化を伴う血塊の発生を検出する自動装置により行った。
【0145】
行った分析は凝固試験に該当し、その感度は、サンプル中の少量の残留トロンビンを検出することができるものである。これは、37℃での6時間の試験後、及び24℃での24時間の試験後に凝固が無いか否かを調べるものである。
【0146】
ハイドロキシアパタイトによる溶出液のナノ濾過中には、トロンビンの発生は観測されなかった。トロンビン活性の測定結果は、37℃での6時間の凝固がないことを示唆していた。しかし、水浴中で従来の方法により行った24時間後の試験結果では、血塊形成が認められた。
【0147】
アンチトロンビンIIIのようなタンパク質分解酵素からなる阻害剤の添加により、24時間で観測される残留トロンビン活性を阻害できるか否かを確かめるために、実験を行った。
【0148】
タンパク質分解酵素の活性測定は、特定の発色基質を用いた吸光度測定法により行った。タンパク質分解酵素による特定の発色基質の加水分解により、405 nmで検出される黄色い分子が生成し、その生成速度は試験溶液の酵素濃度に比例する。
【0149】
表XVII:発色基質S 2238を用いたトロンビン活性の測定

【0150】
基質S 2238はトロンビンの特定基質である。阻害剤の非存在下では、トロンビン型の残留活性が全ての試験サンプルで見られたことは特記すべきである。この活性は、アンチトロンビンIII(AT-III)及びヘパリンの混合物の存在下と同じく、トロンビン阻害剤i 2581の添加により実質的に阻害された。よって、トロンビンは、ヘパリンの存在下、その生理的阻害剤AT-IIIにより、効果的に中和される。
【0151】
発色基質によるトロンビン活性の試験により測定される残留トロンビン活性は、孔径15 nmのフィルタによる濾過液中での0.1 IU/mL未満の活性に相当する。
【0152】
アプロチニンはまた、残留タンパク質分解酵素に対して良好な阻害性を示す。しかし、ウシ由来のこの阻害剤は、人間の治療に供される生成物の精製には使用することができない。
【0153】
G.2.4−SDS Page電気泳動によるタンパク質の濃縮製剤のキャラクタリゼーション
図7から明らかなように、高分子量タンパク質の大部分は、HAセラミックハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーの非吸着画分から除去されている。孔径15 nmのフィルタによる濾過液は、全てのポイントでナノ濾過前のタンパク質の濃縮製剤と同様であり、15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタを用いたナノ濾過工程では、著しい組成物の違いは見られなかった。
【0154】
主な66 kDaのバンドは、タンパク質の濃縮製剤中の全タンパク質の約60%存在するプロトロンビンに、本質的に相当する。
【0155】
G.2.5−免疫ブロットによる因子IXのキャラクタリゼーション
免疫ブロットは、いかなる還元剤も用いずに、濃度10%の均一なSDS Pageゲルによる電気泳動後に行う。ニトロセルロースへの移送及びアルブミンによる飽和の後、抗IX因子モノクローナル一次抗体[シグマ(Sigma)Ref. F1020]に接触する。ペルオキシダーゼ(BioRad)でマークされた抗マウス二次抗体によるマーキングは、オートラジオグラフィーフィルム(Pierce)によるECL法による測定の前に行った。結果を図8に示す。非特異的バンドの存在は、PI-1に相当するウェル中に観測された。
【0156】
一方、セラミックハイドロキシアパタイトカラムにより得られ、かつ透析した溶出液は、単一の均一なバンドのみを示す。さらに目に見える違いは、15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタを用いたナノ濾過工程の後にも、高純度に制御した因子IXにも見られなかった。
【0157】
G.2.6−結論
セラミックハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーで得られ、かつ透析した溶出液の、プラノバ(Planova、登録商標、旭化成メディカル株式会社)15Nフィルタを用いたナノ濾過は、標準操作条件に準拠しながら再現可能な方法により行った。
【0158】
濾過重量に比例する流速減少が、再現可能であることが観測された。フィルタの平均容積容量は、膜1m2当たり10 Lのオーダーであり、これは試験に供したタンパク質の約47.9±4.7 gの平均容量に相当する。
【0159】
全タンパク質バランスは、平均収率91.1±14.0%を与え、第II因子に対して99.4±22.2で,第VII因子に対して91.5±18.2で,第IX因子に対して95.8±16.1で、及び第X因子に対して90.5±15.1である凝固因子の収率に匹敵する。
【0160】
それぞれの因子の比活性は、ナノ濾過の前後で同じオーダーであった。
【0161】
15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタを用いた濾過の前後で、SDS Page電気泳動によるキャラクタリゼーションによる著しい違いは見られなかった。
【0162】
H−操作中の溶液安定性の最適化試験
ハイドロキシアパタイトにより得られ、15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタで濾過されてもよい溶出液であって、非常に低いか、存在しないトロンビン活性を有する溶出液を得ることを目的として、異なるパラメータを変えることにより、補足的なテストを行った。
【0163】
表XVIII:セラミックハイドロキシアパタイト溶出液を安定化するために行った試験のリスト

*クロマトグラフィーの前の溶媒−洗浄剤混合物による処理時にAT-IIIを添加した。
**限外濾過の前にAT-IIIを添加した。
配合 a:0.13 MのNaCl - 0.010 Mのクエン酸ナトリウム,2.0 g/Lのリシン HCl,2.0 g/Lのアルギニン HCl,pH 7.0±0.1.
配合 b:0.13 MのNaCl,0.010 Mのクエン酸ナトリウム,pH 7.0±0.1.
【0164】
互いの試験結果を対比できるようにするために、ナノ濾過工程におけるパラメータは修正した。
【0165】
97 E 1806の試験において、15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタを用いたナノ濾過工程の前に、50 mMのベンズアミジンを緩衝液に添加し、2IU/mLのヘパリンを添加した。15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタを用いたナノ濾過で得られたタンパク質の濃縮製剤は、トロンビン活性を全く示さなかった。
【0166】
97 E 1007の試験の間、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーの前の溶媒−洗浄剤混合物による処理時に、5IU/mLのヘパリン及び2U/mLのAT-IIIを添加した。12.5 L/m2の良好な濾過性、及び凝固(トロンビン活性)がないことが観測された。
【0167】
97 E 2312及び97 E 3012の試験において、2IU/mLのヘパリン及び0.5 IU/mLのAT-IIIを、限外濾過工程前のハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーによる溶出液に直接添加した。これらの両方のケースで、15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタを用いたナノ濾過で得られたタンパク質の濃縮製剤は、トロンビン活性を全く示さなかった。
【0168】
98 E 0801及び98 E 1301の試験において、限外濾過工程前のハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーによる溶出液であって、ヘパリンを含まない溶出液に、0.5 IU/mLのAT-IIIを添加した。これらの両方のケースで、15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタを用いたナノ濾過で得られたタンパク質の濃縮製剤は、トロンビン活性を全く示さなかった。
【0169】
従って、アンチトロンビンIIIは、本発明のプロトロンビン複合体を含むタンパク質の濃縮製剤のトロンビン活性の良好な阻害剤を形成する。ヘパリンさらに、AT-IIIの補因子として働き、後者の阻害活性を可能にすると考えられる。アンチトロンビンの最も良い効果は、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーによる溶出液に後者を添加したときに得られる。確かに、アンチトロンビンは、ハイドロキシアパタイトには非常に僅かしか結合しないように見受けられる。
【0170】
I−本発明の方法により得られたタンパク質の濃縮製剤と、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーの代わりに陰イオン交換樹脂によるクロマトグラフィーを含む方法により得られた濃縮製剤との対比
【0171】
表XIX:ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーの代わりにイオン交換樹脂により精製したPPSBの組成物と、本発明による15 nmのオーダーの孔径を有するフィルタを用いたナノ濾過で得られた濃縮製剤との対比

【0172】
表XIXに示すように、本発明の範囲で行ったセラミックハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーにより、本発明のハイドロキシアパタイトの代わりに第2の陰イオン交換樹脂を用いた場合に比較して、著しく高いビタミンK依存性タンパク質の精製レベルが得られるポテンシャルがある。さらに,ビタミンK依存性因子は全体で、本発明の方法により得られたナノ濾過された濃縮製剤の全タンパク質の70〜80%を占め、一方ハイドロキシアパタイトの代わりに第2の陰イオン交換樹脂を用いて製造された濃縮製剤の15〜17%のみを占める。
【0173】
プロトロンビン複合体を構成する凝固因子の組成比は、上述の両方法により得られた濃縮製剤で同等であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a) 寒冷沈降した血漿の上清を用意する工程、
b) 前記上清を陰イオン交換樹脂に接触させ、前記複合体及び高分子量タンパク質を含む溶出液を得る工程、
c) 工程b)で得られた溶出液をハイドロキシアパタイトのカラムに供給する工程、及び
d) 前記複合体を含む溶出液を得る工程
を有することを特徴とするプロトロンビン複合体組成物の製造方法。
【請求項2】
追加の前溶出工程c1)を有し、前記前溶出を、リン酸ナトリウム又はリン酸カリウムの緩衝液により、好ましくはpH 6.5〜8.5で行い、より好ましくはpH8で行い、前記緩衝液の濃度を0.005〜0.05 Mとし、好ましくは0.01〜0.05 Mとし、より好ましくは0.02〜0.05 Mとし、最も好ましくは0.03 Mとし、かつ前記緩衝液は好ましくはNaClを含み、その濃度は、好ましくは0.25 Mであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶出工程d)をリン酸カリウム緩衝液により行い、好ましくは、この緩衝液は、濃度が0.5 Mで、濃度0.075 MのNaClを含み、かつpHが8であるという条件を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)及び/又は工程d)で得られた溶出液をウイルス不活化する少なくとも1つの追加工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのウイルス不活化工程を、工程b)で得られた溶出液を溶媒−洗浄剤混合物で処理することにより行い、好ましくはTween(登録商標)80(ポリソルベート80)及びトリn-ブチルリン酸塩(TnBP)の混合物の存在下、より好ましくは1容積%のポリソルベート80及び0.3容積%のTnBPの存在下で行うことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程d)で得られた溶出液をウイルス不活化する少なくとも1つの追加工程をナノ濾過法により行い、好ましくは孔径15〜100 nmのフィルタを用い、より好ましくは孔径15 nmのフィルタを用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
工程b)及び/又は工程d)の後、少なくとも1つの追加の透析濾過−限外濾過工程を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)は、2種の別個の陰イオン交換樹脂を用いて行われる2つの副工程を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程b)の陰イオン交換樹脂は、ジエチルアミノエタン(DEAE),ポリエチレンイミン(PEI)及び第4級アミノエタン(QAE)から選択された正電荷基を有し、前記陰イオン交換樹脂は、好ましくはDEAE型であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)又は工程d)の後、トロンビン阻害剤、好ましくはアンチトロンビンIII又はアンチトロンビンIIIとヘパリンとの混合物を添加することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物は、タンパク質C,S及びZ等のその他のビタミンK依存性タンパク質を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
好ましくは凍結乾燥、及び/又は補助剤もしくは薬理的に許容される担体の添加による最終の追加製剤工程を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法により得られるプロトロンビン複合体組成物であって、免疫グロブリン、好ましくはIgMの濃度が0.1%未満、及び/又はフィブリノゲン濃度が0.1%未満、及び/又はフィブロネクチン濃度が0.1%未満、及び/又は補体因子濃度が0.1%未満であることを特徴とするプロトロンビン複合体組成物。
【請求項14】
因子IX(FIX)の平均比活性は、タンパク質1mg当たり少なくとも4IUであることを特徴とする請求項13に記載のプロトロンビン複合体組成物。
【請求項15】
さらにタンパク質C,タンパク質S及びタンパク質Zを含むことを特徴とする請求項13又は14に記載のプロトロンビン複合体組成物。
【請求項16】
因子II(FII),因子VII(FVII),因子IX(FIX),因子X(FX),タンパク質C,タンパク質S及びタンパク質Zを含むビタミンK依存性タンパク質を、前記組成物中の全タンパク質に対して、少なくとも80%,好ましくは85%,より好ましくは90%含むことを特徴とする請求項15に記載のプロトロンビン複合体組成物。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか1項に記載のプロトロンビン複合体組成物からなることを特徴とする医薬。
【請求項18】
請求項13〜16のいずれか1項に記載のプロトロンビン複合体組成物からなり、ビタミンK依存性因子の欠乏又は抗ビタミンK剤の過剰投与による出血の治療及び防止のための医薬。
【請求項19】
請求項13〜16のいずれか1項に記載のプロトロンビン複合体組成物からなり、因子II又は因子Xの構造的又は後天的欠乏による出血の治療及び防止のための医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−528850(P2012−528850A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513730(P2012−513730)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052497
【国際公開番号】WO2010/140140
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(500280870)ラボラトワール、フランセ、デュ、フラクショヌマン、エ、デ、ビオテクノロジ (12)
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRE FRANCAIS DU FRACTIONNEMENT ET DES BIOTECHNOLOGIES
【Fターム(参考)】