説明

プロトン交換膜

【課題】高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも高耐久性を有するプロトン交換膜の提供。
【解決手段】イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物Aと、硫黄Bを含有することを特徴とするプロトン交換膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用に適したプロトン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で、水素、メタノール等を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを、直接、電気エネルギーに変換して取り出すものであり、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。特に、固体高分子形燃料電池は、他と比較して低温で作動することから、自動車代替動力源、家庭用コジェネレーションシステム、携帯用発電機等として期待されている。
このような固体高分子形燃料電池は、電極触媒層とガス拡散層とが積層されたガス拡散電極がプロトン交換膜の両面に接合された膜電極接合体を少なくとも備えている。ここでいうプロトン交換膜は、高分子鎖中にスルホン酸基、カルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換膜としては、化学的安定性の高いナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜が好適に用いられる。
【0003】
燃料電池の運転時においては、アノード側のガス拡散電極に燃料(例えば、水素)、カソード側のガス拡散電極に酸化剤(例えば、酸素や空気)をそれぞれ供給し、両電極間を外部回路で接続することにより作動する。具体的には、水素を燃料とした場合、アノード触媒上で水素が酸化されてプロトンが生じ、このプロトンがアノード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通った後、プロトン交換膜内を移動し、カソード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通ってカソード触媒上に達する。一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は、外部回路を通ってカソード側ガス拡散電極に到達し、カソード触媒上にて上記プロトンと酸化剤中の酸素と反応して水が生成され、このとき電気エネルギーを取り出すことができる。
【0004】
この際、プロトン交換膜は、ガスバリアとしての役割も果たす必要があり、プロトン交換膜のガス透過率が高いと、アノード側水素のカソード側へのリークおよびカソード側酸素のアノード側へのリーク、すなわち、クロスリークが発生して、いわゆるケミカルショートの状態となって良好な電圧を取り出せなくなる。
このような固体高分子型燃料電池は、高出力特性を得るために80℃近辺で運転するのが通常である。しかしながら、自動車用途として用いる場合には、夏場の自動車走行を想定して、高温低加湿条件下(運転温度100℃付近で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも燃料電池を運転できることが望まれている。
【0005】
ところが、従来のパーフルオロ系プロトン交換膜を用いて高温低加湿条件下で燃料電池を長時間運転すると、プロトン交換膜にピンホールが生じ、クロスリークが発生するという問題があり、十分な耐久性が得られていない。
パーフルオロ系プロトン交換膜の耐久性を向上させる方法として、フィブリル状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いた補強(特許文献1,2)、延伸処理したPTFE多孔膜を用いた補強(特許文献3)、無機粒子を添加した補強(特許文献4,5,6)による検討が開示されている。また、強酸性架橋基を介してパーフルオロ系プロトン交換膜を架橋して耐久性を向上させる検討も開示されている(特許文献7)。さらに、ゾルゲル反応を利用してパーフルオロ系プロトン交換膜にシリカを含有させたプロトン交換膜による耐久性向上の検討も開示されている(非特許文献1)。しかしながら、これらの方法では、上記問題を解決するに充分な耐久性を得ることは達成されていない。
【0006】
一方、パーフルオロ系プロトン交換膜に低分子量のポリプロピレングリコール等をドープさせたプロトン交換膜(特許文献8)、パーフルオロ系プロトン交換膜に窒素を含有する膜を張り合わせた膜(特許文献9)も開示されている。しかしながら、これらの方法で得られた膜は、良好なプロトン伝導性を有さず、充分な電圧を取り出せるにいたっていない。
【0007】
また、高耐熱性を有するポリベンズイミダゾールにリン酸等の強酸をドープしたプロトン交換膜(以下、強酸ドープ膜と称する)が、100℃以上の高温で燃料電池運転が可能であることが報告されている(特許文献10)。また、高耐熱性を有するポリベンズイミダゾールに低分子量の酸性ポリマーをドープした強酸ドープ膜が報告されている(特許文献11)。しかしながら、100℃未満での燃料電池運転では水が存在するため、強酸が膜から水へ溶出して出力が低下するため、高温低加湿条件下での燃料電池運転では高い電圧を長時間維持することができない。
【0008】
更に、イオン交換基を有する炭化水素系ポリマーにイオン交換基を有さないパーフルオロカーボン重合体をブレンドして得た膜をプロトン交換膜に用いること(特許文献12)、イオン交換基を有する炭化水素系ポリマーとしてスルホン化芳香族ポリエーテルケトンあるいはスルホン化芳香族ポリアミドと塩基性ポリマーをブレンドして得た膜をプロトン交換膜に用いること(特許文献13,14)、非プロトン性溶媒の存在下にイオン交換基を有する炭化水素系ポリマーと塩基性ポリマーとをブレンドした後にキャストして得たプロトン交換膜を用いることも検討されているが(特許文献15,16)、化学的安定性が不十分であり、充分な耐久性を達成するにいたっていない。
【0009】
【特許文献1】特開昭53−149881号公報
【特許文献2】特公昭63−61337号公報
【特許文献3】特開平8−162132号公報
【特許文献4】特開平6−111827号公報
【特許文献5】特開平9−219206号公報
【特許文献6】米国特許第5523181号明細書
【特許文献7】特開2000−188013号公報
【特許文献8】特開2001−236973号公報
【特許文献9】特開2001−167775号公報
【特許文献10】特表平11−503262号公報
【特許文献11】特表2000−517462号公報
【特許文献12】特開2002−294087号公報
【特許文献13】特表2002−529546号公報
【特許文献14】米国特許第5290884号明細書
【特許文献15】特表2002−512285号公報
【特許文献16】特表2002−512291号公報
【非特許文献1】K.A.Mauritz, R.F.Storey and C.K.Jones, in Multiphase Polymer Materials: Blends and Ionomers, L.A.Utracki and R.A.Weiss, Editors, ACS Symposium Series No. 395, p. 401, American Chemical Society, Washington, DC (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも高耐久性を有するプロトン交換膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物Aと、硫黄Bとを含有することを特徴とするプロトン交換膜が、高温低加湿下でも高耐久性を有することを見出した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)と、硫黄(B)を含有することを特徴とするプロトン交換膜。
(2)イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)と、硫黄(B)との質量比(A/B)が50/50〜99.99/0.01であることを特徴とする前記(1)に記載のプロトン交換膜。
(3)前記(1)又は(2)に記載のプロトン交換膜を備えた膜電極接合体。
(4)前記(3)に記載の膜電極接合体を備えた固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプロトン交換膜は、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当)において、燃料電池運転を長期間行ってもクロスリークが発生せず、優れた耐久性を示す。
また、本発明により得られるプロトン交換膜は、ダイレクトメタノール型燃料電池、クロルアルカリ、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられるイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物Aとしては、パーフルオロカーボンのスルホン酸ポリマーをはじめカルボン酸ポリマー、リン酸ポリマー、もしくはこれらのアミン塩、金属塩等が好適に用いられ、代表例として一般式(1)で表される重合体が挙げられる。
−[CFCX−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− (1)
(式中、X,XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、bは0以上8以下の整数、cは、0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の整数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基であり、Xは、COOZ、SOZ、PO、POHZ(Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アミン類(NH、NHR、NH、NHR、NR(Rはアルキル基、またはアレーン基))
【0014】
中でも、一般式(2)或いは(3)で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーもしくはその金属塩が特に好ましい。
−[CFCF−[CF−CF(−O−CF−CF(CF))−O−(CF−SOX]]− ・・・(2)
(式中、0≦a<1、0≦d<1、a+d=1、bは1以上8以下の整数、cは0以上10以下の整数、Xは水素原子またはアルカリ金属原子)
−[CFCF−[CF−CF(−O−(CF−SOY)]− ・・・(3)
(式中、0≦e<1、0≦g<1、e+g=1、fは0以上10以下の整数、Yは水素原子またはアルカリ金属原子)
【0015】
本発明のイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物Aは、例えば、化学式(4)に示される前駆体ポリマーを重合した後、アルカリ加水分解、酸処理等を行って製造することができる。
−[CFCX−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− ・・・(4)
(式中、X、XおよびXは、それぞれ独立に、ハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、bは、0以上8以下の整数、cは、0または1、d、eおよびfは、それぞれ独立に、0以上6以下の整数(但し、d+e+fは、0に等しくない)、RおよびRは、それぞれ独立に、ハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、Xは、COOR,CORまたはSO(Rは、炭素数1〜3の炭化水素系アルキル基、Rは、ハロゲン元素))
【0016】
本発明に用いることが可能な前駆体ポリマーは、フッ化オレフィン化合物とフッ化ビニル化合物とを共重合させることにより製造される。
具体的なフッ化オレフィン化合物としては、CF=CF,CF=CFCl,CF=CCl等が挙げられる。
また、具体的なフッ化ビニル化合物としては、
CF=CFO(CF−SOF,CF=CFOCFCF(CF)O(CF−SOF,CF=CF(CF−SOF,CF=CF(OCFCF(CF))−(CF−1−SOF,CF=CFO(CF−COR,CF=CFOCFCF(CF)O(CF−COR,CF=CF(CF−COR,CF=CF(OCFCF(CF))−(CF−COR(Zは1〜8の整数、Rは炭素数1〜3の炭化水素系アルキル基を表す)等が挙げられる。
【0017】
前駆体ポリマーの重合方法としては、フッ化ビニル化合物をフロン等の溶媒に溶解した後、フッ化オレフィン化合物のガスと反応させ重合する溶液重合法、フロン等の溶媒を使用せずに重合する塊状重合法、フッ化ビニル化合物を界面活性剤とともに水中に仕込んで乳化させた後、フッ化オレフィン化合物のガスと反応させ重合する乳化重合法等の一般的な重合方法が挙げられる。
尚、本発明では、フッ化ビニル化合物、フッ化オレフィン化合物に加え、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のパーフルオロオレフィン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の第3成分を含む共重合体であってもよい。
【0018】
本発明に用いることが可能な前駆体ポリマーの、JIS K−7210に基づいた270℃、荷重21.2N、オリフィス内径2.09mmで測定されるメルトインデックスMI(g/10分)は、0.001以上1000以下が好ましく、より好ましくは0.01以上100以下、最も好ましくは0.1以上10以下である。
【0019】
本発明に用いることが可能な前駆体ポリマーは、次に、塩基性反応液体に浸漬させてアルカリ加水分解処理を行う。反応液体は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の含有率は、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。上記反応液体は、ジメチルスルホキシド、メタノール等の膨潤性有機化合物を含有するのが好ましい。膨潤性有機化合物の含有率としては、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
前駆体ポリマーをアルカリ加水分解処理した後、さらに必要に応じて塩酸等で酸処理を行うことにより、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物Aが製造される。
【0020】
次に、本発明に用いられる硫黄Bとしては、いずれの同位体、同素体でも好適に用いることが可能である。
同位体組成としては、32S、33S、34S、36Sなどがある。
同素体としては、固体の硫黄は環状硫黄と鎖状のカテナ硫黄(無定形硫黄)とに大別される。環状硫黄としては、斜方晶系硫黄や単斜晶系硫黄などがある。無定形硫黄としては、ゴム状硫黄、白色硫黄、沈降硫黄、コロイド状硫黄などがある。その他、固体の硫黄としては、硫黄華も含まれる。
【0021】
また、人為的に合成されたシクロ−S6、シクロ−S7、シクロ−S9、シクロ−S10、シクロ−S11、シクロ−S12、シクロ−S18、シクロ−S20等もある。
固体以外に、液体硫黄、気体硫黄も本発明に好適に用いることが可能である。
次に、本発明のプロトン交換膜の組成比について説明する。イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物Aと、硫黄Bとの質量比(A/B)は50/50〜99.99/0.01であることが好ましく、より好ましくは70/30〜99.95/0.05、さらに好ましくは80/20〜99.9/0.1、最も好ましくは90/10〜99/1である。
【0022】
高分子化合物Aの混合比が50wt%以上であれば、十分なプロトン導電性が得られ良好な電池特性を得ることが出来る。一方、硫黄Bの混合比が0.01wt%以上であれば、高温低加湿条件での電池運転における耐久性に有意な差が見られる。
本発明のプロトン交換膜については、必要に応じて酸化防止剤や老化防止剤、難燃剤等の各種添加剤を添加することが出来る。本発明のプロトン交換膜と添加剤との質量比(電解質組成物/添加剤)は80/20〜99.999/0.001であることが好ましく、より好ましくは90/10〜99.99/0.01、さらに好ましくは95/5〜99.9/0.1である。
【0023】
次に、本発明のプロトン交換膜を作製するために必要な高分子電解質組成物の作製方法について説明する。本発明に用いる高分子電解質組成物を得る方法は特に限定されず、一般的な高分子組成物の混合方法が好適に適用できる。
例えば、パーフルオロカーボン高分子化合物Aまたはその前駆体ポリマーと硫黄Bを熱溶融して、混練押出機、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等で混練する方法が挙げられる。但し、硫黄Bは250℃以上で発火する恐れがあるため、溶融する際は、窒素雰囲気下にするなどの対策が必要である。パーフルオロカーボン高分子化合物Aの代わりにその前駆体ポリマーを用いた場合は、混練後にアルカリ加水分解処理および酸処理を行ってイオン交換基を有する形態に変換することで本発明に用いる高分子電解質組成物を得ることが出来る。この場合も同様に、溶融する際は、窒素雰囲気下にするなどの対策が必要である。
【0024】
また、パーフルオロカーボン高分子化合物Aまたはその前駆体ポリマーと硫黄Bをそれぞれ適当な溶媒に溶解してから両者を混合して溶液を作成した後に、溶媒を除去する方法も挙げられる。この場合も、高分子化合物Aの代わりにその前駆体ポリマーを用いた場合は、溶媒を除去した後、アルカリ加水分解処理および酸処理を行ってイオン交換基を有する形態に変換することで本発明に用いる高分子電解質組成物を得ることが出来る。
【0025】
次に、本発明のプロトン交換膜の作製方法について説明する。製膜手段は特に限定されず、一般的な高分子組成物の製膜方法が好適に適用できる。例えば、カレンダー成形、プレス成形、Tダイ押出、インフレーション押出などの公知の製膜方法が挙げられる。但し、硫黄Bは250℃以上で発火するため、溶融する際は、窒素雰囲気下にするなどの対策が必要である。また、パーフルオロカーボン高分子化合物Aの前駆体ポリマーと硫黄Bとからなる高分子組成物を、前述の製膜方法を用いて製膜した後に、適当な後処理、例えばアルカリ加水分解処理や酸処理を行ってイオン交換基を有する形態に変換することで、本発明のプロトン交換膜を得ることも出来る。この場合も同様に、溶融する際は、窒素雰囲気下にするなどの対策が必要である。
【0026】
また、パーフルオロカーボン高分子化合物Aと硫黄Bをそれぞれ適当な溶媒に溶解してからそれぞれを混合して溶液を作成し、その溶液をキャストした後、溶媒を除去することによってプロトン交換膜を得ることができる。但し、硫黄Bを液体として用いる場合は、溶媒に溶解する必要はなく、パーフルオロカーボン高分子化合物Aのみを溶媒に溶解すればよい。
キャスト方法としては、シャーレに流し込み製造する方法をはじめ、グラビアロールコータ−、ナチュラルロールコータ、リバースロールコータ、ナイフコータ−、ディップコータ−等の公知の塗工方法を用いることができる。キャスト法に用いる基材は、一般的なポリマーフィルム、金属箔、アルミナ、ケイ素等の基板、特許文献3に記載のPTFE膜を延伸処理した多孔質膜、特許文献1および特許文献2に示されるフィブリル化繊維等を用いることができる。
【0027】
溶媒を除去する方法として、室温〜200℃で熱処理、減圧処理等の方法を用いることができる。また熱処理をする場合、段階的に昇温させ溶媒を除去することも可能である。
本発明のプロトン交換膜の製造において、上記記載の製法と併せて、ガラス繊維等の無機粒子を添加することによる補強や、架橋による補強等を施すこともできる。
また、横1軸延伸や同時2軸延伸、逐次2軸延伸を実施することによって延伸配向を付与することもできる。
また、本発明のプロトン交換膜において、空気中あるいは酸素雰囲気下にて例えば160℃以上で加熱処理することによって力学物性を向上させることも出来る。
【0028】
本発明により製造されるプロトン交換膜の当量質量EW(プロトン交換基1当量あたりのプロトン交換膜の乾燥質量グラム数)には、250以上2000以下が好ましく、より好ましくは400以上1200以下、最も好ましくは500以上1000以下である。より低いEW、つまりプロトン交換容量の大きいプロトン伝導性ポリマーを用いることにより、高温低加湿条件下においても優れたプロトン伝導性を示し、燃料電池に用いた場合、運転時に高い出力を得ることができる。
本発明により製造されるプロトン交換膜の厚みは、1μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましく0は2μm以上100μm以下、最も好ましくは5μm以上50μm以下である。
【0029】
本発明により製造されるプロトン交換膜の乾湿寸法変化は、好ましくは0%以上100%以下、より好ましくは0%以上50%以下、最も好ましくは0%以上10%以下である。ここでいう乾湿寸法変化とは、25℃20RH%で1時間放置した時の寸法に対する80℃水中で1時間放置した時の寸法の変化の割合のことをいう。寸法とは、プロトン交換膜の縦方向または横方向の長さのことであり、共に上記範囲を満たすことが好ましい。
【0030】
本発明のプロトン交換膜の耐久性は燃料電池として評価するため、以下その評価方法について説明する。
(膜電極接合体)
本発明により得られるプロトン交換膜を固体高分子型燃料電池に用いる場合、アノードとカソード2種類の電極触媒層が接合した膜電極接合体(以下「MEA」と略称する)として使用される。電極触媒層のさらに外側に一対のガス拡散層を対向するように接合したものもMEAと呼ぶ。
電極触媒層は、触媒金属の微粒子とこれを担持した導電剤とから構成され、必要に応じて撥水剤が含まれる。電極に使用される触媒としては、水素の酸化反応および酸素による還元反応を促進する金属であれば良く、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、これらの合金等が挙げられ、その中では、主として白金が用いられる。
MEAの製造方法としては、例えば、次のような方法が行われる。まず、イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にする。これをPTFEシートに一定量塗布して乾燥させる。次に、PTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間に本発明のプロトン交換膜を挟み込み、100℃〜200℃で熱プレスにより転写接合してMEAを得ることができる。
【0031】
(燃料電池)
上記で得られたMEA、場合によってはMEAを介して一対のガス拡散電極が対向した構造のものは、さらにバイポーラプレート、バッキングプレート等の一般的な固体高分子型燃料電池に用いる構成成分と組み合わせて固体高分子型燃料電池を構成する。
バイポーラプレートは、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイトまたは樹脂との複合材料、金属製のプレート等のことであり、電子を外部負荷回路へ伝達する他に、燃料や酸化剤を電極触媒近傍に供給する流路としての機能を持っている。こうしたバイポーラプレートの間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池が製造される。
以上、本発明の燃料電池製造用の溶液から得られたプロトン交換膜の耐久性の評価方法について説明した。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
尚、本発明に用いられる評価法および測定法は以下のとおりである。
(燃料電池評価)
(1)燃料電池の製造
まず、台紙上に塗布したガス拡散電極2枚の間にプロトン交換膜を挟み込み、180℃、圧力10MPaでホットプレスすることにより、プロトン交換膜にガス拡散電極を転写接合させてMEAを製造する。
ガス拡散電極としては、田中貴金属工業(株)製白金担持触媒、商品名、TEC10E40E(白金担持率40wt%)に、パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(ポリマー質量比5wt%、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)を12wt%に濃縮した溶液とエタノールを添加し、混合、攪拌してインク状にしたものをPTFEシート上に塗布した後、大気雰囲気中、150℃で乾燥・固定化したものを使用する。このガス拡散電極の白金担持量は0.4 mg/cm、ポリマー担持量は0.5mg/cmである。
このMEAの両側に撥水処理したカーボンペーパーまたはカーボンクロスを配置し、評価セルに組み込んで評価装置にセットする。燃料として水素ガス、酸化剤として空気ガスを用い、セル温度100℃、0.1MPaにて単セル特性試験を行う。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに50℃で加湿してセルへ供給する。
【0033】
(2)フッ素溶出速度の測定
単セル特性試験中のアノード排ガスおよびカソード排ガスと共に排出される排水を、それぞれ所定時間捕捉回収した後、秤量する。メディトリアル(株)製ベンチトップ型pHイオンメーター920Aplus(商品名)に同フッ素複合電極9609BNionplus(商品名)を取り付け、アノード排水中およびカソード排水中のフッ素イオン濃度を測定し、以下の式からフッ素溶出速度Gを導出する。
G=(Wa×Fa+Wc×Fc)/(T×A)
G:フッ素溶出速度(μg/Hr/cm
Wa:捕捉回収したアノード排水の質量(g)
Fa:アノード排水中のフッ素イオン濃度(ppm)
Wc:捕捉回収したカソード排水の質量(g)
Fc:カソード排水中のフッ素イオン濃度(ppm)
T:排水を捕捉回収した時間(Hr)
A:MEAの電極面積(cm
【0034】
(3)クロスリーク量の測定
単セル特性試験中のカソード排ガスの一部を、ジーエルサイエンス製マイクロガスクロマトグラフMicro GC CP−4900(商品名)に導入し、カソード排ガス中の水素ガス濃度を測定し、以下の式から水素ガス透過率を導出する。
L=(X×V×T)×(5−U/100)/(3×A×P)×10−8
L:水素ガス透過率(ml・cm/cm/sec/Pa)
X:カソード排ガス中の水素ガス濃度(ppm)
V:カソードガス流量(ml/min)
T:プロトン交換膜の膜厚(cm)
U:カソードガス利用率(%)
A:プロトン交換膜の水素透過面積(cm
P:カソード−アノード間の水素分圧差(Pa)
【0035】
[実施例1]
パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(ポリマー質量比5wt%、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)をイソプロピルアルコールで溶媒置換し、なおかつ9wt%に濃縮した溶液に、ブタノールにポリマー比5wt%の斜方晶系硫黄を溶解させたものを混ぜて十分撹拌した後に、シャーレに流し込み、最終的に160℃で乾燥させて、厚み50μmのキャスト膜を得た。次に60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥してプロトン交換膜を得た。
このプロトン交換膜の燃料電池評価を行ったところ、開始時から200時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は0.048(μg/Hr/cm2)と非常に低い値を示しており、また、200時間後のクロスリーク量が8.3×10−13 (ml×cm/cm2/sec/Pa)で、開始時のクロスリーク量(6.8×10−13(ml×cm/cm2/sec/Pa))とほとんど変わらず、優れた耐久性を示すことが判明した。
【0036】
[実施例2]
パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(ポリマー質量比5wt%、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)をイソプロピルアルコールで溶媒置換し、なおかつ9wt%に濃縮した溶液に、ブタノールにポリマー比1wt%のゴム状硫黄を溶解させたものを混ぜて十分撹拌した後に、シャーレに流し込み、最終的に160℃で乾燥させて、厚み50μmのキャスト膜を得た。次に60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥してプロトン交換膜を得た。
このプロトン交換膜の燃料電池評価を行ったところ、開始時から200時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は0.051(μg/Hr/cm)と非常に低い値を示しており、また、200時間後のクロスリーク量が8.5×10−13 (ml×cm/cm/sec/Pa)で、開始時のクロスリーク量(6.5×10−13(ml×cm/cm/sec/Pa))とほとんど変わらず、優れた耐久性を示すことが判明した。
【0037】
[実施例3]
パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(ポリマー質量比5wt%、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)をイソプロピルアルコールで溶媒置換し、なおかつ9wt%に濃縮した溶液に、ポリマー比3wt%の液体硫黄を混ぜて十分撹拌した後に、シャーレに流し込み、最終的に160℃で乾燥させて、厚み50μmのキャスト膜を得た。次に60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥してプロトン交換膜を得た。
このプロトン交換膜の燃料電池評価を行ったところ、開始時から200時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は0.040(μg/Hr/cm)と非常に低い値を示しており、また、200時間後のクロスリーク量が7.5×10−13 (ml×cm/cm/sec/Pa)で、開始時のクロスリーク量(6.0×10−13(ml×cm/cm/sec/Pa))とほとんど変わらず、優れた耐久性を示すことが判明した。
【0038】
[比較例1]
パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(ポリマー質量比5wt%、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)をイソプロピルアルコールで溶媒置換し、なおかつ9wt%に濃縮した溶液をシャーレに流し込み、最終的に160℃で乾燥させて、厚み50μmのキャスト膜を得た。次に60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥してプロトン交換膜を得た。
このプロトン交換膜の燃料電池評価を行った結果、開始時から200時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値が0.506(μg/Hr/cm)と高く、また、200時間後のクロスリーク量が2.1×10−11(ml×cm/cm/sec/Pa)で開始時のクロスリーク量(6.0×10−13 (ml×cm/cm/sec/Pa)の30倍以上に増加しており、十分な耐久性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、高温下でも高耐久性を有するプロトン交換膜であり、イオン交換膜、燃料電池の分野に好適である。本発明により得られるプロトン交換膜は、クロルアルカリ、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)と、硫黄(B)を含有することを特徴とするプロトン交換膜。
【請求項2】
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物(A)と、硫黄(B)との質量比(A/B)が50/50〜99.99/0.01であることを特徴とする、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプロトン交換膜を備えた膜電極接合体。
【請求項4】
請求項3に記載の膜電極接合体を備えた固体高分子型燃料電池。

【公開番号】特開2007−146124(P2007−146124A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274202(P2006−274202)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】