説明

プロトン伝導性膜、その製造方法およびこれを用いた燃料電池

本発明の課題は、安定で信頼性の高い燃料電池用プロトン伝導性膜を提供することである。また本発明は、機械的強度が高く、長期にわたって安定に作動する高効率の燃料電池を提供することである。本発明のプロトン伝導性膜(イオン伝導膜)は、少なくとも一部に酸基の結合された金属−酸素骨格を持つ架橋構造体を主成分とし、空孔(3)が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、燃料電池用プロトン伝導性膜およびその製造方法に係り、特に、長期にわたって安定的に作動する直接メタノール形燃料電池用のプロトン伝導性膜に関する。
【背景技術】
燃料電池は、発電効率が高くかつ環境特性に優れているため、近年、社会的に大きな課題となっている環境問題やエネルギー問題の解決に貢献できる次世代の発電装置として注目されている。
燃料電池は、一般に電解質の種類によりいくつかのタイプに分類されるが、この中でも液体燃料であるメタノールを電池に直接供給し、電気化学反応を起こすことで改質器を用いることなく駆動することのできる直接メタノール形電池(以下、DMFCと略称する)が注目されている。
DMFCは高エネルギー密度を有する液体燃料を使用することができ、改質器を必要としないためシステムをコンパクトにすることができる。このためリチウムイオン電池に変わる携帯機器用ポータブル電源として特に注目されている。
DMFC内では以下に示す電気化学反応に従ってアノードでメタノールが直接反応しカソードで水を生成する。
アノード:CHOH+HO→CO+6H+6e
カソード:6H+2/3O+6e→3H
ここで、プロトン伝導性膜は、アノードで生じたプロトンをカソード側に伝える役目を持つ。プロトンの移動は、電子の流れと協奏的に起こるものである。DMFCにおいて、高出力すなわち高電流密度を得るためには、十分な量のプロトン伝導を、高速に行う必要がある。従って、プロトン伝導性膜の性能はDMFCの性能を大きく左右することになる。また、プロトン伝導性膜は、プロトンを伝導するだけではなく、アノードとカソードの電気的絶縁と、アノード側に供給される燃料がカソード側に漏れないようにするための燃料バリアとの2つの役割を持つ。
従来、高機能のプロトン伝導性膜としてパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(ナフィオン(Nafion:登録商標))などのフッ素系樹脂が用いられている(特許文献1)。
これらのプロトン伝導性膜においては、スルホン酸基がいくつか凝集し、逆ミセル構造をとるものであるため、図8に、作動前と作動中のパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの構造を模式的に示すように、膨潤しやすく、メタノールのクロスオーバーを生じ易いという問題がある。すなわちパーフルオロ鎖101に結合されたスルホン酸基102で構成される逆ミセル構造部分にプロトン伝導路103が形成される。
これらフッ素系樹脂膜は、図8の左側部分と右側部分との比較で明らかなように、膨潤によってメタノールのクロスオーバーを生じ易くなり、膜中のプロトン伝導構造も変化し、メタノールを十分に利用することができず、安定的な電極反応を生起することができず、発電効率が十分でないという問題があった。
また膨潤を繰り返すことにより、機械的強度の低下を生じ易いという問題もあった。
【特許文献1】特開平7−90111号公報
【発明の開示】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、安定で信頼性の高い燃料電池用プロトン伝導性膜を提供することを目的とする。
また本発明は、機械的強度が高く、長期にわたって安定に作動する高効率の燃料電池を提供することを目的とする。
そこで本発明のプロトン伝導性膜は、少なくとも一部に酸基の結合された金属−酸素骨格を持つ架橋構造体を主成分とし、空孔が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜で構成される。
かかる構成によれば、強固な金属−酸素骨格をもつ架橋構造体で構成されているため、骨格構造自体が強固であり、膨潤することなく、空孔径を一定に維持することができ、メタノールのクロスオーバーを低減し、信頼性の高いプロトン伝導性膜を提供することができる。
また、本発明では、前記プロトン伝導性膜において、前記架橋構造体がシリコン−酸素結合を主成分とする。
かかる構成によれば、安定でかつ耐熱性の高いプロトン伝導性膜を提供することができる。
また、本発明では、前記プロトン伝導性膜において、前記架橋構造体は、前記メゾポーラスシリカ薄膜の厚さ方向に沿って円柱状の空孔が周期的に配列されている。
かかる構成によれば、円柱状の空孔がメゾポーラスシリカ薄膜の厚さ方向に沿って貫通するように周期的に配列されているため、プロトン伝導路がこの厚さ方向にでき、プロトン伝導路を短縮し、高速伝導を可能とすることができる。またこの空孔径を調整することができるため、適切な空孔径となるように調整すれば、メタノールクロスオーバーを抑制することができる。
また、本発明では、前記プロトン伝導性膜において、膜厚が10μm以下である。
かかる構成によれば、薄型でかつ機械的強度の高いプロトン伝導性膜を提供することができ、燃料電池のプロトン伝導性を高めることができる。
また、本発明では、前記プロトン伝導性膜において、前記酸基はスルホン酸基である。
かかる構成によれば、強酸であるスルホン酸基を備えているため、高度のプロトン伝導性を得ることができる。
また、本発明の燃料電池は、上記プロトン伝導性膜を用いて形成される。
また本発明のプロトン伝導性膜の製造方法は、金属−酸素誘導体と界面活性剤を含む前駆体溶液を調製する工程と、前記前駆体溶液を架橋し、架橋構造体を形成する架橋工程と、前記架橋工程で得られた架橋構造体から、前記界面活性剤を分解除去する工程とを含み、少なくとも一部に酸基の結合された金属−酸素骨格を持つ架橋構造体を主成分とし、空孔が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜を形成するようにしている。
かかる構成によれば、界面活性剤の量および組成を調整することにより、容易に空孔径を調整することができる。また、骨格構造自体が強固で、膨潤することなく、空孔径を一定に維持することができ、メタノールのクロスオーバーを低減し、信頼性の高いプロトン伝導性膜を容易に形成することができる。なおここで分子長の調整も有効であるがここでは分子長も組成の一部として調整する。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、基体の表面に前記前駆体溶液を供給する工程を含み、前記架橋工程は、前記基体表面で前記前駆体溶液を架橋せしめる工程を含む。
かかる構成により、特別に電極を形成することなく、集電構造を形成することができ、製造が容易で小型の燃料電池を形成することができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記多孔質導電体はポア径が10nmから10μmの範囲にある。
かかる構成によれば、燃料のメタノールを良好に通過せしめることができ、かつメゾポーラスシリカ薄膜を形成しやすくなる。また従来のフッ素系樹脂膜では薄くしすぎると温度が上がったとき、水を含んでクリープしやすくなり強度が低下するなどの問題があるが、本発明の方法で形成されるプロトン伝導性膜によればシリコン−酸素骨格を含む架橋構造体で構成しているためこのようなおそれもない。
さらに望ましくは50nmから5μmの範囲とするとよりメタノールの透過性もよく、強度も良好に維持することができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、シリカ誘導体と界面活性剤を含む前駆体溶液を調製する工程と、前記前駆体溶液を架橋し、架橋構造体を形成する架橋工程と、前記界面活性剤を分解除去する工程とを含み、少なくとも一部に酸基の結合されたシリコン−酸素骨格を持つ架橋構造体を主成分とし、空孔が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜を形成するようにしている。
かかる構成によれば、容易に架橋構造体を形成することができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記分解除去する工程は、前記架橋構造体を焼成し、界面活性剤を除去する工程を含む。
かかる構成によれば、容易に空孔が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜を形成することができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記界面活性剤の除去に先立ち、前記前駆体溶液の供給された基体をTEOS蒸気にさらし、前記シリコン−酸素骨格を高密度化する工程を含む。
かかる方法によれば、シリコン−酸素骨格を高密度化することができ、酸基の導入量を増大することができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記架橋構造体を形成する工程が、界面活性剤を酸で抽出する工程を含むようにしている。
これにより、高温工程を経ることなく界面活性剤を抽出することが可能となるため、シリル化工程で導入された酸基の脱離なしに界面活性剤の抽出を行うことができる。
すなわち、先にシリル化をした場合、焼成により界面活性剤を除去しようとするとメルカプト基が脱落する可能性があるが、酸で抽出することにより容易に界面活性剤を除去することができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記界面活性剤の除去に先立ち、前記前駆体溶液の供給された基体をMPTMS(メルカプトプロメトキシシラン)蒸気にさらし、前記シリコン−酸素骨格をシリル化する工程を含む。
かかる方法によれば、シリコン−酸素骨絡のマイクロポアにも酸基を導入することができ、プロトン伝導性の高いプロトン伝導性膜を形成することができ、酸基(スルホン酸基)の導入量を増大することができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記基体を多孔質カーボンで構成する。
かかる構成によれば、良好な導電性を具備し、酸素−シリコン架橋構造体との密着性も良好である。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記基体を多孔質シリコンで構成する。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、水とエタノールと塩酸と界面活性剤と、TEOSとを含む前駆体溶液を調製する工程と、前記前駆体溶液を基体に塗布する工程と、前記界面活性剤を除去しシリコン−酸素骨格を持つ架橋構造体を形成する工程と、前記架橋構造体をシリル化し、シリコン−酸素骨格にメルカプト基をもつ架橋構造体を形成する工程と、前記架橋構造体のメルカプト基を酸化し、スルホン酸基を持つ架橋構造体を形成する工程とを含む。
この方法によれば、前駆体溶液の組成比や、シリル化、酸化の条件を制御することにより、空孔率をはじめプロトン伝導路の形成を制御することができる。これにより、メタノールとプロトンの透過性を制御することが可能となる。また、一旦メルカプト基を導入してこれを酸化することにより、スルホン酸基の導入密度を高めることができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記シリル化工程は、メルカプトアルキルメトキシシラン((SH)(CHSi(CHO)4−n;n=1〜3、m=0,1,2、・・)蒸気にさらす工程であるものを含む。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記シリル化工程が、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)蒸気にさらす工程であるものを含む。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記シリル化工程は、メルカプトメトキシシラン((SH)Si(CHO)4−n;n=1〜3)蒸気にさらす工程であるものを含む。
この方法によれば、イオン伝導性の高い架橋構造体を得ることができる。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、水とエタノールと塩酸と界面活性剤と、TEOSとを含む前駆体溶液を調製する工程と、前記前駆体溶液を基体に塗布する工程と、前記界面活性剤を除去しシリコン−酸素骨格を持つ架橋構造体を形成する工程と、前記架橋構造体を燐酸処理化し、シリコン−酸素骨格に燐酸基をもつ架橋構造体を形成する工程とを含む。
この方法によれば、酸化処理工程が不要となるため、構造が破壊されにくい。また、MPTMS処理に比べて、再現性も良好であり、より安定したイオン伝導性を得ることができる。イオン伝導性は最大0.02S/cmであった
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記燐酸処理工程が、燐酸エチル((CO)3−n(OH)PO;n=0,1,2)蒸気にさらす工程であるものを含む。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記燐酸処理工程が、亜燐酸エチル((CO)3−n(OH)P;n=0,1,2)蒸気にさらす工程であるものを含む。
また本発明は、前記プロトン伝導性膜の製造方法において、前記燐酸処理工程が、亜燐酸エチル((CO)(OH)P)である蒸気にさらす工程であるものを含む。
また望ましくは、基体に前駆体溶液を供給する工程は、基体を前記前駆体溶液に浸せきし、所望の速度で引き上げる工程を含むことを特徴とする。
また望ましくは、前記供給する工程は、前記前駆体溶液を基体上に順次繰り返し塗布する工程であることを特徴とする。
更に望ましくは、前記供給する工程は、前記前駆体溶液を基体上に滴下し、前記基板を回転させる回転塗布工程であることを特徴とする。
上記方法によれば、膜厚や空孔径を調整することにより、メタノール透過性およびプロトン伝導性を容易に調整可能であり、生産性よくプロトン伝導性膜を形成することが可能となる。
また本発明の方法では、シリカ誘導体を選択することにより、さらなる空孔度の調整を図ることが可能となる。
以上説明してきたように、本発明によれば、強固な金属−酸素骨格をもつ架橋構造体で構成されているため、骨格構造自体が強固であり、膨潤することなく、空孔径を一定に維持することができ、メタノールのクロスオーバーを低減し、信頼性の高いプロトン伝導性膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態の方法で形成したプロトン伝導性膜の構造を示す模式図である。
図2は、同プロトン伝導性膜の要部拡大説明図である。
図3は、本発明の実施の形態1におけるプロトン伝導性膜を用いた燃料電池の製造工程を示す図である。
図4は、本発明の実施の形態1におけるプロトン伝導性膜の形成工程を示すフローチャートである。
図5は、本発明の実施の形態1における電気泳動法を示す構造説明図である。
図6は、本発明の実施の形態2のプロトン伝導性膜の形成工程を示すフローチャートである。
図7は、本発明の実施の形態3におけるプロトン伝導性膜を用いた燃料電池の製造工程を示す図である。
図8は、従来例のプロトン伝導性膜の膨潤を示す図である。
なお、図中の符号1はパーフルオロ基、2はスルホン酸基、3はプロトン伝導路である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係るプロトン伝導性膜の一実施の形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。
実施の形態1
本実施の形態のプロトン伝導性膜は、図1に模式図を示すように、少なくとも一部に酸基の結合された金属−酸素骨格を持つ架橋構造体を主成分とし、円柱状の空孔が膜の厚さ方向に沿って配列され、プロトン伝導路3を構成するメゾポーラス薄膜で構成されたことを特徴とする。
図2は図1の要部拡大図であり、プロトン伝導路3となる円柱状の空孔内にスルホン酸基が導入されており、プロトン伝導性を高めている。
次にこのプロトン伝導性膜を用いた燃料電池の電極−電解質接合体(MEA)を形成する方法について説明する。図3(a)乃至(f)はその工程説明図、図4はプロトン伝導性膜を形成する工程のフローチャートである。
まず、図3(a)に示すように、比抵抗5×1018cm−3の(100)面を主表面とするn型シリコン基板11を用意する。
続いて、図3(b)に示すように、このシリコン基板11の裏面側にセル形成領域に開口を有するレジストパターンを形成し、83℃のTMAH溶液を用いた異方性エッチングにより所望の深さまでエッチングし、肉薄部を形成するための開口12を形成する。
この後、図3(c)に示すように、シリコンの陽極酸化を行い肉薄部となったシリコン基板11の全体を細孔径10nm〜5μmの多孔質シリコン13とする。
さらに、この多孔質シリコン13上に、シリコン基板表面に垂直となるように円柱状の空孔が周期的に配列されたメゾポーラスシリカ薄膜(プロトン伝導性膜)を形成する。
すなわち、まず界面活性剤として陽イオン型のセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(C16TAB:C1633(CHBr)と、シリカ誘導体としてTEOS(テトラエトキシシラン)と、酸触媒としての塩酸(HCl)とを、HO/Et−OH(水−アルコール)混合溶媒に溶解し、混合容器内で、前駆体(プレカーサー)溶液を調整する。この前駆体溶液の仕込みのモル比を、HO:Et−OH:HCl:C16TAB:TEOS=100:76:5:0.5:3として混合し、この混合溶液を図3(b)に示すように多孔質シリコン13の形成されたシリコン基板表面にスピナを用いて塗布し(図4ステップ101)、90℃で5分乾燥する(図4ステップ102)ことによりシリカ誘導体を加水分解重縮合反応で重合させて(予備架橋工程)、界面活性剤の周期的な自己凝集体を形成する。
この自己凝集体はC1633(CHBrを1分子とする複数の分子が凝集してなる棒状のミセル構造体を形成し、高濃度化により凝集度が高められるにつれてメチル基の脱落した部分が空洞化し、空孔が配向してなる架橋構造体が形成される。
そして、水洗、乾燥を行った後、500℃の窒素雰囲気中で6時間加熱・焼成し(図4ステップ103)、鋳型の界面活性剤を完全に熱分解除去して純粋なメゾポーラスシリカ薄膜を形成する。そして180℃のMPTMS蒸気で4時間処理し(図4ステップ104)、メルカプト基を結合せしめられたシリコン−酸素架橋構造体を形成する。こののち30%の過酸化水素中で30分の熱処理を行い(図4ステップ105)乾燥する(図4ステップ106)。
このようにして、図3(d)に示すようにプロトン伝導性膜14が形成される。このプロトン伝導性膜は、膜の厚さ方向に沿って円柱状の空孔が配列された構造を形成している。
図2はこの状態での断面状態を示す構造説明図である。この図からあきらかなように空孔が円柱状に形成され、かつ多数の空孔を含む骨格構造を有するポーラスな薄膜が形成されていることがわかる。
こののち、白金担持カーボン、5質量%のナフィオン(登録商標)溶液、エタノールを混合し超音波で分散し懸濁液Aを作成した。上記多孔質シリコン13の裏面側にこの懸濁液を接触させて、他方の側に0.1M過塩素酸水溶液Bを配し電圧を印加し、図5に示すように電気泳動法により触媒層15を形成する。このとき懸濁液中において、ナフィオン(登録商標)は多孔質シリコン13表面に付着し分散剤として働き、白金を含む触媒層15が形成される。
さらに、図3(e)に示すように、前記プロトン伝導性膜14の表面側にも同様にして触媒層16を形成する。
そして、図3(f)に示すように、電極層17を形成する。
このようにしてMEAが形成される。このMEAに拡散電極(図示しない)を装着しDMFC形燃料電池が形成される。
この構造では、プロトン伝導性膜が円柱状の空孔が規則的に配列されたシリコン−酸素架橋構造体で構成されているため、機械的強度が高く、膨潤を生じることもない。また、膨潤を生じないため、メタノールクロスオーバーもほとんどなく高効率で信頼性の高いものとなる。
なお焼結に先立ちTEOS蒸気処理を行い、焼成時の体積収縮を低減しシリカ骨格を強固にすることにより、より機械的強度を高めることができる。
また、前記実施の形態では、シリコン−酸素結合を含む架橋構造体を主成分とする無機構造体でプロトン伝導性膜を構成したが、シリコン−酸素骨格中に有機基を含む有機−無機ハイブリッド構造の架橋構造体を用いても良い。
実施の形態2
なお、前記実施の形態1では、焼成後にシリル化を行ったが、本実施の形態では、図6にフローチャートを示すように、焼結による界面活性剤の抽出に先立ち、シリル化を行いシリコン−酸素骨格中も酸基(メルカプト基)を導入し、この後塩酸で界面活性剤を抽出するようにしたことを特徴とするものである。
図6にフローチャートを示すように、まず界面活性剤として陽イオン型のセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(C16TAB:C1633(CHBr)と、シリカ誘導体としてTEOS(テトラエトキシシラン)と、酸触媒としての塩酸(HCl)とを、HO/Et−OH(水−アルコール)混合溶媒に溶解し、混合容器内で、前駆体(プレカーサー)溶液を調整する。この前駆体溶液の仕込みのモル比を、HO:Et−OH:HCl:C16TAB:TEOS=100:76:5:0.5:3として混合し、この混合溶液を図3(b)に示すように多孔質シリコン13の形成されたシリコン基板表面にスピナを用いて塗布し(図6ステップ201)、90℃で5分乾燥する(図6ステップ202)ことによりシリカ誘導体を加水分解重縮合反応で重合させて(予備架橋工程)、界面活性剤の周期的な自己凝集体を形成する。
この自己凝集体はC1633(CHBrを1分子とする複数の分子が凝集してなる球状のミセル構造体を形成し、高濃度化により凝集度が高められるにつれてメチル基の脱落した部分が空洞化し、空孔が配向してなる架橋構造体が形成される。
そして、MPTMS蒸気にさらし、シリコン−酸素骨格中にも酸基を導入し(図6ステップ203)、水洗、乾燥を行った後、塩酸で界面活性剤を抽出し(図6ステップ204)、鋳型の界面活性剤を完全に分解除去して純粋なメゾポーラスシリカ薄膜を形成する。そして再度180℃のMPTMS蒸気で4時間処理し(図6ステップ205)、メルカプト基を結合せしめられたシリコン−酸素架橋構造体を形成する。こののち30%の過酸化水素中で30分の熱処理を行い(図6ステップ206)乾燥する(図6ステップ207)。
この方法により、前記実施の形態1の効果に加え、界面活性剤の除去に先立ち酸基を導入することにより、より酸基を多く含有するようにすることができ、反応性の高いプロトン伝導性膜を得ることができる。
なお、前駆体溶液の組成については、前記実施の形態の組成に限定されることなく、溶媒を100として、界面活性剤0.01から0.1、シリカ誘導体0.01から0.5、酸触媒0から5とするのが望ましい。かかる構成の前駆体溶液を用いることにより、筒状の空孔を有する膜を形成することが可能となる。
また、前記実施の形態では、界面活性剤として陽イオン型のセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB:C1633(CHBr)を用いたが、これに限定されることなく、他の界面活性剤を用いてもよいことは言うまでもない。
ただし、触媒としてNaイオンなどのアルカリイオンを用いると半導体材料としては、劣化の原因となるため、陽イオン型の界面活性剤を用い、触媒としては酸触媒を用いるのが望ましい。酸触媒としては、HClの他、硝酸(HNO)、硫酸(HSO)、燐酸(HPO)、HSO等を用いてもよい。
またシリカ誘導体としては、ハイドロジェンシロセスコクサン(HSQ:Hydrogen silosesquioxane)やメチルシルセスキオキサン(MSQ:Methyl silsesquioxane)に限定されることなく、4員環以上のシロキサン骨格を有する材料であればよい。
また溶媒としては水HO/アルコール混合溶媒を用いたが、水のみでもよい。
さらにまた、焼成雰囲気としては窒素雰囲気を用いたが、減圧下でもよく、大気中でもよい。望ましくは窒素と水素の混合ガスからなるフォーミングガスを用いることにより、耐湿性が向上し、リーク電流の低減を図ることが可能となる。
また、界面活性剤、シリカ誘導体、酸触媒、溶媒の混合比については適宜変更可能である。
さらに、予備重合工程は、30から150℃で1時間乃至120時間保持するようにしたが、望ましくは、60から120℃、更に望ましくは90℃とする。
また、焼成工程は、500℃6時間としたが、250℃から500℃で1乃至8時間程度としてもよい。望ましくは350℃から450℃6時間程度とする。
なお同じ処理をしても界面活性剤があるときとないときとでは結果が異なる。つまりMPTMS処理を界面活性剤の除去に先立ちおこなう工程(ステップ203)ではマイクロポア(孔)に界面活性剤が存在するのでシリル化剤はシリカ内部に浸透し、修飾する。一方界面活性剤除去後のMPTMS処理工程(ステップ205)ではシリル化剤は孔を拡散し細孔表面を修飾する。)
実施の形態3
なお、前記実施の形態1では、触媒層の形成を電気泳動法により、行ったが、本実施の形態では、図7(a)乃至(g)に工程図を示すように、めっきにより、行っても良い。
図7(a)乃至(c)に示すように、シリコン基板11を肉薄化して多孔質シリコン13を形成する工程までは前記実施の形態1と同様に処理する。
この後、図7(d)に示すように、多孔質シリコン13上に、めっき法により白金を含む金属からなる触媒層25を形成する。
この後、図7(e)に示すように、前記実施の形態1と同様にして、シリコン基板表面に垂直となるように円柱状の空孔が周期的に配列されたメゾポーラスシリカ薄膜(プロトン伝導性膜)24を形成する。
さらにこの後、図7(f)に示すように、プロトン伝導性膜24上に、めっき法により白金を含む金属からなる触媒層26を形成する。
この触媒層の上層に図7(g)に示すように、カーボン粒子を含むペーストを塗布し、焼成することにより電極層27を形成する。
このようにしてMEAが形成される。
実施の形態4
なお、前記実施の形態1では、メゾポーラスシリカ薄膜の形成は、スピンコート法によって形成したが、スピンコート法に限定されることなく、浸漬法を用いてもよい。
すなわち、まず界面活性剤として陽イオン型のセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB:C1633(CHBr)と、シリカ誘導体としてハイドロジェンシロセスコクサン(HSQ:Hydrogen silosesquioxane)と、酸触媒としての塩酸(HCl)とを、HO/アルコール混合溶媒に溶解し、混合容器内で、前駆体(プレカーサー)溶液を調整する。この前駆体溶液の仕込みのモル比は、溶媒を100として、界面活性剤0.5、シリカ誘導体0.01、酸触媒2として混合し、この混合溶液内に多孔質シリコン13の形成されたシリコン基板11を浸漬し、混合容器を密閉したのち、30から150℃で1時間乃至120時間保持することによりシリカ誘導体を加水分解重縮合反応で重合させて(予備架橋工程)、界面活性剤の周期的な自己凝集体を形成する。
この自己凝集体はC1633(CHBrを1分子とする複数の分子が凝集してなる球状のミセル構造体を形成し、高濃度化により凝集度が高められるにつれてメチル基の脱落した部分が空洞化し、空孔が配向してなる架橋構造体が形成される。
そして基板を引き上げ、水洗、乾燥を行った後、400℃の窒素雰囲気中で3時間加熱・焼成し、鋳型の界面活性剤を完全に熱分解除去して純粋なメゾポーラスシリカ薄膜を形成する。
実施の形態5
なお、前記実施の形態1では、メゾポーラスシリカ薄膜の形成は、スピンコート法によって形成したが、スピンコート法に限定されることなく、ディップコート法を用いてもよい。
すなわち、調整された前駆体溶液の液面に対して基板を垂直に1mm/s乃至10m/sの速度で下降させて溶液中に沈め、1秒間乃至1時間静置する。
そして所望の時間経過後再び、基板を垂直に1mm/s乃至10m/sの速度で上昇させて溶液から取り出す。
そして最後に、前記第1の実施の形態と同様に、焼成することにより、界面活性剤を完全に熱分解、除去して純粋なデュアルポーラスシリカ薄膜を形成する。
また本発明の実施の形態では、円柱状の空孔が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜を用いたが、空孔の径、配列については前記実施の形態に限定されることなく変更可能である。
その他触媒としてはC16TABのほかBrij30(C1225(OCHCHOH)等も適用可能である。
また界面活性剤をプルオニック(Pluronic F127:商標)とすることにより3次元細孔構造の薄膜を形成することも可能である。
また、前記実施の形態ではシリコン−酸素結合を持つ架橋構造体について説明したが、この他チタン−酸素架橋構造体、ジルコン(Zr)−酸素架橋構造体、アルミニウム(Al)−酸素架橋構造体などの金属−酸素架橋構造体を含むものも適用可能である。
さらにまた、シリコン−酸素架橋構造体に結合され、プロトン伝導(イオン伝導)を担う酸基としては、スルホン酸の他、燐酸(HPO)、過塩素酸(HClO)を用いても良い。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年9月12日出願の日本特許出願No.2003−320969、に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
以上説明してきたように、本発明は、DMFC形燃料電池への適用に有効であり、携帯電話、ノートパソコンなどの小型機器用の電源として有効利用が可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に酸基の結合された金属−酸素骨格を持つ架橋構造体を主成分とし、空孔が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜からなるプロトン伝導性膜。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載のプロトン伝導性膜であって、前記架橋構造体はシリコン−酸素結合を主成分とするプロトン伝導性膜。
【請求項3】
請求の範囲第1項または第2項に記載のプロトン伝導性膜であって、前記架橋構造体は、前記メゾポーラスシリカ薄膜の厚さ方向に沿って円柱状の空孔が周期的に配列されているプロトン伝導性膜。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項のいずれかに記載のプロトン伝導性膜であって、膜厚が10μm以下であるプロトン伝導性膜。
【請求項5】
請求の範囲第1項乃至第4項のいずれかに記載のプロトン伝導性膜であって、前記酸基はスルホン酸基であるプロトン伝導性膜。
【請求項6】
請求の範囲第1項乃至第5項に記載のプロトン伝導性膜を用いた燃料電池。
【請求項7】
金属−酸素誘導体と界面活性剤を含む前駆体溶液を調製する工程と、
前記前駆体溶液を架橋し、架橋構造体を形成する架橋工程と、
前記架橋工程で得られた架橋構造体から、前記界面活性剤を分解除去する工程とを含み、
少なくとも一部に酸基の結合された金属−酸素骨格を持つ架橋構造体を主成分とし、空孔が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜を形成するようにしたことを特徴とするプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項8】
請求の範囲第7項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
基体の表面に前記前駆体溶液を供給する工程を含み、
前記架橋工程は、前記基体表面で前記前駆体溶液を架橋せしめる工程を含むプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
シリカ誘導体と界面活性剤を含む前駆体溶液を調製する工程と、
前記前駆体溶液を架橋し、架橋構造体を形成する架橋工程と、
前記界面活性剤を分解除去する工程とを含み、
少なくとも一部に酸基の結合されたシリコン−酸素骨格を持つ架橋構造体を主成分とし、空孔が周期的に配列されたメゾポーラス薄膜を形成するようにしたことを特徴とするプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項10】
請求の範囲第9項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記分解除去する工程は、
前記架橋構造体を焼成し、界面活性剤を除去する工程であることを特徴とするプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項11】
請求の範囲第10項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記界面活性剤の除去に先立ち、前記前駆体溶液の供給された基体をテトラエトキシシラン(TEOS)蒸気にさらし、前記シリコン−酸素骨格を高密度化する工程を含むプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項12】
請求の範囲第9項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記分解除去する工程は、界面活性剤を酸で抽出する工程を含むプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項13】
請求の範囲第12項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記酸で抽出する工程に先立ち、前記前駆体溶液の供給された基体をメルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)蒸気にさらし、前記架橋構造体をシリル化する工程を含むプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項14】
請求の範囲第7項乃至第13項のいずれかに記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
水とエタノールと塩酸と界面活性剤と、TEOSとを含む前駆体溶液を調製する工程と、
前記前駆体溶液を基体に塗布する工程と、
前記界面活性剤を除去しシリコン−酸素骨格を持つ架橋構造体を形成する工程と、
前記架橋構造体をシリル化し、シリコン−酸素骨格にメルカプト基をもつ架橋構造体を形成する工程と、
前記架橋構造体のメルカプト基を酸化し、スルホン酸基を持つ架橋構造体を形成する工程とを含むプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項15】
請求の範囲第14項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記シリル化工程は、メルカプトアルキルメトキシシラン((SH)Si(CH(CHO)4−n;n=1〜3、m=0,1,2・・・)蒸気にさらす工程であるプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項16】
請求の範囲第15項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記シリル化工程は、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)蒸気にさらす工程であるプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項17】
請求の範囲第15項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記シリル化工程は、メルカプトメトキシシラン((SH)Si(CHO)4−;n=1〜3)蒸気にさらす工程であるプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項18】
請求の範囲第7項乃至第13項のいずれかに記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
水とエタノールと塩酸と界面活性剤と、TEOSとを含む前駆体溶液を調製する工程と、
前記前駆体溶液を基体に塗布する工程と、
前記界面活性剤を除去しシリコン−酸素骨格を持つ架橋構造体を形成する工程と、
前記架橋構造体を燐酸処理化し、シリコン−酸素骨格に燐酸基をもつ架橋構造体を形成する工程とを含むプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項19】
請求の範囲第18項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記燐酸処理工程は、燐酸エチル((CO)3−n(OH)PO;n=0,1,2)蒸気にさらす工程であるプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項20】
請求の範囲第18項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記燐酸処理工程は、亜燐酸エチル((CO)3−n(OH)P;n=0,1,2)蒸気にさらす工程であるプロトン伝導性膜の製造方法。
【請求項21】
請求の範囲第19項に記載のプロトン伝導性膜の製造方法であって、
前記燐酸処理工程は、亜燐酸エチル((CO)(OH)P)である蒸気にさらす工程であるプロトン伝導性膜の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/027250
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513971(P2005−513971)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013578
【国際出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】