説明

プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池

【課題】高プロトン伝導性を維持しつつ、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を実現するプロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】プロトン伝導性膜は、ケイ素−酸素架橋構造体からなる粒子1を含む。又、粒子1の未反応水酸基末端は、シリル化剤によって処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、発電効率が高くかつ環境特性に優れているため、近年、社会的に大きな課題となっている環境問題やエネルギー問題の解決に貢献できる次世代の発電装置として注目されている。
【0003】
燃料電池は、一般に電解質の種類によりいくつかのタイプに分類されるが、この中でも固体高分子形燃料電池(以下において、「PEFC」という。)は、他のいずれのタイプに比べても小型かつ高出力であり、小規模オンサイト型、例えば、車輌のパワーソースなどの移動体用、携帯用等の電源として次世代の主力とされている。
【0004】
このように、PEFCは、原理的に優れた長所を有しており、実用化に向けた開発が盛んに行われている。このPEFCでは、燃料として通常、水素を用いる。水素は、PEFCのアノード側に設置された触媒によりプロトン(水素イオン)と電子に分解される。このうち、電子は、外部に供給され、電気として使用され、PEFCのカソード側へと循環される。一方、プロトンはプロトン伝導性膜(電解質膜)に供給され、プロトン伝導性膜を通じてカソード側へ移動する。カソード側では、プロトン、循環されてきた電子、および外部から導入される酸素が触媒により供給され、水が生じる。すなわち、PEFC単体で見れば、PEFCは、水素と酸素から水を作る際に電気を取り出す非常にクリーンなエネルギー源である。
【0005】
近年、燃料電池の燃料としてアルコール、エーテル、炭化水素類等の水素以外の燃料を用い、触媒によりこれらの燃料からプロトンと電子とを取り出す燃料電池も検討されている。このような燃料電池の代表例はメタノール(通常、水溶液として用いる)を燃料とする直接メタノール型燃料電池(以下において、「DMFC」という。)である。DMFCは外部改質器を必要とせず、燃料の取扱いが容易なため、燃料電池の多様な種類のうちで小型、携帯用電源として最も期待されている。
【0006】
PEFCやDMFC等の燃料電池において、プロトン伝導性膜は、アノード側で生じたプロトンをカソード側へ伝導する役目を持つ。このプロトンの伝導は、電子の流れと協奏的に起こるものである。従って、燃料電池において高い出力、即ち高い電流密度を得るためには、プロトン伝導性膜を介したプロトンの伝導を充分かつ高速に行う必要がある。このように、プロトン伝導性膜は、燃料電池の性能を決めてしまうキーマテリアルといっても過言ではない。
【0007】
又、プロトン伝導性膜は、その他にもアノード側とカソード側との電気絶縁をする絶縁膜としての役割や、アノード側に供給される水素等の燃料がカソード側に漏れないようにする燃料バリア膜としての役割も併せ持つ。
【0008】
現在、DMFCにおいて使用されている主なプロトン伝導性膜は、パーフルオロアルキレンを主骨格とし、一部にパーフルオロビニルエーテル側鎖の末端にスルホン酸基を有するフッ素系樹脂膜である。このようなスルホン化フッ素系樹脂膜としては、例えば、ナフィオン(Nafion(登録商標)膜(デュポン:Du Pont社、特許文献1参照。))、ダウ(Dow膜(ダウケミカル:Dow Chemical社、特許文献2参照。))、アシプレックス(Aciplex(登録商標)膜(旭化成工業(株)社、特許文献3参照。))、フレミオン(Flemion(登録商標)膜(旭硝子(株)社))等が知られている。
【0009】
上記ナフィオン膜は、主鎖骨格にポリテトラ(又はトリ)フルオロエチレンを有し、側鎖にスルホン酸基を有している。ポリテトラ(又はトリ)フルオロエチレンは非極性・撥水性であり、側鎖のスルホン酸基は極性・親水性であるため、自発的に相分離構造を形成し、結果としてスルホン酸基が高濃度に集積した構造を形成し、プロトン伝導経路として機能する(非特許文献1参照。)。このように、プロトン伝導性膜は、高プロトン伝導性を実現するために、電解質中に非常に多くの酸基が含まれるものが提案されている。
【0010】
又、燃料用電解質膜は、上述したフッ素系樹脂膜の他、炭化水素系、無機系等、様々な種類の膜が盛んに開発されているのと同様に、燃料電池用電極の接合剤も様々な種類の電解質が用いられている。しかしながら、基準電極としては、代表的なフッ素系電極であるナフィオン電極(Nafion(登録商標)電極)が一般的に用いられているのが現状である。
【0011】
一方、有機ケイ素化合物は、強い結合エネルギーを有するケイ素−酸素結合からなるために、化学的安定性、耐熱性及び耐酸化性が高く、その組成によって多くの特異な性質を付与できるため、電気、電子、事務機器、建築、食品、医療、繊維、プラスチック、紙、パルプ、塗料ゴムといったあらゆる産業分野で使用されている。この有機ケイ素化合物を利用し、ケイ素−酸素結合からなる架橋構造を有するプロトン伝導性膜が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。ケイ素−酸素結合からなる架橋構造は、プロトン伝導性膜のように、強い酸性(プロトン存在)条件下で、高温高湿にさらされる場合でも、比較的安定であり、燃料電池膜内部の架橋構造として好適に用いることができる。
【特許文献1】英国特許第4,330,654号公報
【特許文献2】特開平4−366137号公報
【特許文献3】特開平6−342665号公報
【特許文献4】特許第3679104号公報
【非特許文献1】ジャーナルオブポリマーサイエンス ポリマーフィジクス(J,Polymer Science、Polymer Physics、第19巻、第1687頁、1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、プロトン伝導性膜は、高プロトン導電性を維持するために非常に多くの酸基を含むものが提案されている。このようなプロトン伝導性膜は、含有している酸の濃度がある一定の値を超えると、極性溶媒を大量に含むこととなる。この結果、プロトン伝導性膜は膨潤し、構造を破壊する結果としてその一部分が溶出するため、高燃料バリア性と高耐極性溶媒性を同時に実現することが難しかった。
【0013】
又、ケイ素−酸素結合からなる架橋構造を有するプロトン伝導性膜を用いた場合、湿度変化等の外部圧力に対する耐衝撃性が低いという問題があった。例えば、高温低湿下における高プロトン伝導性が要求される燃料電池用電解質として有機ケイ素化合物を用いた場合に、性能が温度変動によって大きく変化し、プロトン伝導性の性能劣化があった。
【0014】
更に、有機ケイ素化合物は熱可塑性ではないために、熱可塑性樹脂であるナフィオン電極にホットプレス(加熱プレス)で接着することができない。その結果、ナフィオン電極との接着性が低下することにより、電極間接触抵抗が増大し、高プロトン伝導性が失われる。
【0015】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑み、高プロトン伝導性を維持しつつ、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を実現するプロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の第1の特徴は、酸基とケイ素−酸素結合による架橋構造とを有する架橋性電解質(A)を含むプロトン伝導性膜であって、架橋性電解質(A)の未反応水酸基末端は、シリル化剤(B)によって処理されているプロトン伝導性膜であることを要旨とする。
【0017】
第1の特徴に係るプロトン伝導性膜によると、高プロトン伝導性を維持しつつ、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を実現することができる。
【0018】
又、第1の特徴に係るプロトン伝導性膜において、架橋性電解質(A)のケイ素−酸素結合率は、70%以上98%以下であることが好ましい。
【0019】
又、第1の特徴に係るプロトン伝導性膜において、シリル化剤(B)によって処理されることで水酸基に付加したシリル基の分子量は、150以上であることが好ましい。
【0020】
又、第1の特徴に係るプロトン伝導性膜において、シリル化剤(B)によって処理されることで水酸基に付加したシリル基は、ヘテロ原子を構成原子として含有することが好ましい。
【0021】
又、ヘテロ原子は、少なくともフッ素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれか1を含有することが好ましい。
【0022】
又、第1の特徴に係るプロトン伝導性膜において、架橋性電解質(A)は、複数のケイ素−酸素架橋と共有結合し、かつ炭素原子を含む有機無機複合構造体を含有し、当該炭素原子の重量%は、10%以上50%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の第2の特徴は、プロトン伝導性膜の両面にガス拡散電極を接合した膜−電極接合体であって、プロトン伝導性膜は、酸基とケイ素−酸素結合による架橋構造とを有する架橋性電解質(A)を含み、架橋性電解質(A)の未反応水酸基末端は、シリル化剤(B)によって処理されている膜−電極接合体であることを要旨とする。
【0024】
第2の特徴に係る膜−電極接合体によると、高プロトン伝導性を維持しつつ、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を実現することができる。
【0025】
本発明の第3の特徴は、プロトン伝導性膜の両面にガス拡散電極を接合した膜−電極接合体を備える固体高分子形燃料電池であって、プロトン伝導性膜は、酸基とケイ素−酸素結合による架橋構造とを有する架橋性電解質(A)を含み、架橋性電解質(A)の未反応水酸基末端は、シリル化剤(B)によって処理されている固体高分子形燃料電池であることを要旨とする。
【0026】
第3の特徴に係る固体高分子形燃料電池によると、高プロトン伝導性を維持しつつ、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を実現することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると高プロトン伝導性を維持しつつ、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を実現するプロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0029】
本実施形態に係る燃料電池は、正極(空気極)と負極(燃料極)と、これら2つの電極の間に配置されたプロトン伝導性膜とを備え、このプロトン伝導性膜の構造に特徴を有するものである。このプロトン伝導性膜は、ケイ素−酸素架橋構造体からなる粒子を有し、粒子の表面には酸基が付与され、かつ、粒子が連続体を構成したことを特徴とするもので、プロトンだけがこの膜を通過できるように構成されている。
【0030】
このプロトン伝導性膜の構造について各項目毎に順次説明する。
【0031】
(ケイ素−酸素架橋構造)
本発明のプロトン伝導性膜において、架橋構造は、重要な構成要素であり、膜の機械的強度、耐熱性、耐久性、寸法安定性等を担う役割を果たす。
【0032】
本実施形態に係るプロトン伝導性膜は、このように架橋構造をもつことにより、膜の機械的強度、耐熱性、耐久性、寸法安定性を得ることができる。即ち、十分な密度の架橋構造となるようにすると、湿潤状態であっても、乾燥状態であっても、大きな寸法変化が見られなくなり、強度変化も生じなくなる。
【0033】
このように、本発明のプロトン伝導性膜は、乾燥時と湿潤時の膜の寸法に大きな変化がないため、プロトン伝導性膜とガス拡散電極との接合体(一般に「膜−電極接合体」、以下において「MEA」という。)の製造が容易であるばかりではなく、燃料電池作動時にも作動状態変化による燃料電池内部の温湿度変化に応じて常に膜が伸び縮みすることがない。従って、膜の破断やMEAの破壊が生じることはない。更に、膨潤により膜が弱くなることはないため、前述の寸法変化だけではなく、燃料電池内で差圧が発生した場合などに膜の破れなどが生じる危険性を回避することができる。
【0034】
一方、従来のナフィオン膜などのフッ素系樹脂膜や、芳香族分子構造を主鎖に有する高分子材料からなるプロトン伝導性膜は、いずれも架橋構造を有していない。このため、高温ではクリープ現象などにより、膜の構造が大きく変化し、その結果、高温における燃料電池の動作が不安定となる。
【0035】
又、ケイ素−酸素結合からなる架橋構造は、燃料電池膜の様に強い酸性(プロトン存在)条件下で、高温高湿にさらされる場合でも比較的安定であり、燃料電池膜内部の架橋構造としては好適に用いることができる。更に、ケイ素−酸素結合は、容易に形成することができ、安価であるため、好適に用いることができる。
【0036】
本実施形態に係るプロトン伝導性膜は、このように、酸基とケイ素−酸素結合による架橋構造とを有する架橋性電解質(A)を含む、又、架橋性電解質(A)のケイ素−酸素結合率は、70%以上98%以下であることが好ましい。
【0037】
これに対し、このような架橋構造を形成するためには、例えばエポキシ樹脂、架橋性アクリル樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの有機高分子系材料を用いることもできるが、燃料電池膜の様に強い酸性条件下で、高温高湿にさらされる場合には長時間の安定性を得ることは困難である。
【0038】
(粒子、粒子の連続体、及び粒子の間隙)
本発明のプロトン伝導性膜は、次の要件を具備することにより、高プロトン伝導性を達成することができる。
【0039】
1)酸基が高濃度に存在。
【0040】
2)連続的に酸が存在するプロトン伝導経路の形成。
【0041】
燃料電池動作時にはアノードで生じたプロトンが膜に供給され、一方、カソードでは膜中のプロトンが消費される。プロトン伝導性膜中にはあらかじめある程度のプロトンが存在し、アノードではプロトン供給によりプロトン濃度が高まり、カソードではプロトン消費によりプロトン濃度が低くなる。このようにして膜中に生じるプロトン濃度勾配が、アノードからカソードへのプロトン拡散の駆動力である。膜中にプロトンが十分に存在しない場合、カソード側のプロトンが不足し、安定した燃料電池作動が望めない。従って、膜中には十分なプロトン濃度が必要となる。
【0042】
そこで、酸基が高濃度に存在するようにし、膜中のプロトン濃度を上昇せしめることにより、安定した燃料電池作動を達成する。
【0043】
更に、プロトン濃度勾配による拡散移動は、十分に速い速度で起こらなければ、カソードのプロトン不足が起こるため、効率的な拡散が可能なように、プロトンの移動経路が確保されている必要がある。プロトンは、通常、水和物として移動するので、水との親和性が良く、又、プロトンが安定して存在できる高濃度に酸が集積した、アノードからカソードに至る連続相すなわちプロトン伝導性膜の主表面から相対向する面に連通したプロトン伝導路を有することが好ましい。
【0044】
即ち、高温でも安定に動作するプロトン伝導性膜は、酸基が高濃度に存在し、かつ酸基が連続的に配置したプロトン伝導経路を形成している必要がある。更に、このプロトン伝導経路を形成する構造は、高温でも変形しない化学的構造を形成する必要がある。
【0045】
本発明のプロトン伝導性膜は、ケイ素−酸素架橋構造体からなる粒子を有し、当該粒子は表面に酸基を有し、かつ当該粒子が連続体を構成している。
【0046】
ここで、粒子の連続体とは、当該粒子が互いに接触部分をもつように連続して存在する構造を指す。粒子の連続体について、図1を参照して説明する。
【0047】
図1は、本発明のフロント伝導性膜の拡大模式図である。本発明のプロトン伝導性膜においては、図1に示すように、ケイ素−酸素架橋構造体からなる粒子(架橋性電解質)1が膜中に多数存在し、これが密集して連続的に存在している。このような構造をとると、幾何学的に完全に密な構造をとることは困難であり、粒子間に空隙(粒子の間隙)2が生じる。密集した粒子は、粒子間で結合を形成することが好ましく、この粒子間の結合は、粒子表面に存在する未反応ケイ素−酸素架橋基が相互に反応したケイ素−酸素結合、あるいは別途添加した架橋剤(後述)が粒子間の接着剤の役割をしても良い。このようにケイ素−酸素架橋基が相互に反応した粒子間結合をもつことにより、膜の強度が更に向上する。
【0048】
更に、粒子の表面には酸基が導入されているため、この粒子の間隙の壁面(即ち粒子と粒子の間隙の境界部)には酸基が多数存在する。即ち、この粒子の間隙は酸基が集積したプロトン伝導経路としての役割を果たす。
【0049】
この粒子の間隙は、本発明のプロトン伝導性膜の主表面から相対向する面に連通していることが好ましい。即ち、プロトン伝導路が主表面から相対向する面に連通することによりプロトンがアノードからカソードに効率的に拡散・移動することが可能である。逆に、粒子の間隙がプロトン伝導性膜の主表面から相対向する面に連通していない場合には、プロトン伝導性能は顕著に低下する。
【0050】
(粒子の詳細)
本発明のプロトン伝導性膜は、ケイ素−酸素架橋構造体からなる粒子を有し、当該粒子は表面に酸基を有している。
【0051】
なお、粒子の形態に関しては、球形である場合、若干強度が大きいという利点があるが、必ずしも真球に近い球形である必要はなく、偏平な粒状、柱状など非球形であっても良い。粒子は、明確な構造境界を有するものであれば特に制限はない。
【0052】
ケイ素−酸素結合からなる架橋構造体は、いわゆるガラス構造体であり、前述したように高温でも安定であるために、耐熱性を必要とするプロトン伝導性膜の基本構造として適している。
【0053】
本発明のプロトン伝導性膜において、粒子の表面の酸基は、スルホン酸基であることが望ましい。スルホン酸は極めて強い酸であり、酸基としてスルホン酸を用いることにより、プロトンの解離性は極めて良好となる。すなわち、スルホン酸はプロトンの拡散抑制が極めて少なく、本発明に好ましく用いることができる。スルホン酸は酸化耐久性も良好であって、又、耐熱性においても180℃まで安定であって、本発明に好ましく用いることができる。
【0054】
本発明のプロトン伝導性膜において、粒子状骨格構造となる粒子の連続体を構成する各粒子の平均粒径は、3〜200nmであることが好ましい。平均粒子径が200nmを超えるとプロトン伝導の主役を担う粒子の表面積が減少し、高い伝導度が得られなくなり、又、粒子の間隙が大きくなりすぎて脆くなり、更に燃料ガスの漏洩(いわゆるケミカルショート)の発生も危惧される。一方、3nm以下では均一層に近くなり、十分なプロトン伝導経路が確保できず、効率的なプロトン伝導が困難となる。従って粒子の好ましい平均粒径範囲は3〜200nmであり、より好ましくは5〜100nm、更に好ましくは10〜50nmである。平均粒径範囲を前述の範囲とすることにより、十分な強度を確保しつつも、プロトン伝導経路を十分に確保することができる。
【0055】
又、粒径の分布については、均一な粒径の粒子の連続体であっても、不均一な粒径の粒子の連続体であってもよい。ここで、粒子の粒径分布が均一であると、粒径にもよるが幾何学的に隙間ができやすく、高いイオン伝導度を発揮できる可能性がある。一方、粒径分布に幅があると、密なパッキングが可能であり、燃料ガスバリア性の向上や膜の強度向上に寄与する。従って使用状況に応じて粒径分布を選ぶようにするのが望ましい。粒子の粒径分布はイオン伝導度、燃料ガスバリア性、膜強度を勘案して適宜決定される。粒径制御は、用いる原料の構造・分子量、溶媒種類・濃度、触媒種類・量、反応温度などの条件調整により可能である。粒径制御の詳細な方法については、後述の本発明のプロトン伝導性膜の製造方法にて示す。粒径分布は前述の小角X線散乱等から求めることが可能である。
【0056】
前述のように、本発明のプロトン伝導性膜に含まれる粒子の表面には酸基、好ましくはスルホン酸基が存在する。スルホン酸基は、スルホン酸含有化合物を粒子の間隙に注入(ドープ)された状態であっても良いが、この場合には、長期にわたって燃料電池用電解質膜として使用した場合、プロトン伝導性膜から散逸(いわゆるドープアウト)する可能性がある。
【0057】
これに対し、スルホン酸基を粒子表面に共有結合にて固定化すると、安定した性能を発揮させることが可能となる。
【0058】
又、本実施形態に係るプロトン伝導性膜において、架橋性電解質(A)の未反応水酸基末端は、シリル化剤(B)によって処理されている。
【0059】
ここで、シリル化は、水酸基を保護する方法の一つとして有機合成において広く用いられている。シリル化の一般的な方法としては、水酸基を有する化合物に対してイミダゾールなどの塩基存在下、シリルクロライドを反応させることでシリル化は速やかに起こる。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ピリジンなどが一般に用いられる。反応性が低い場合には、2,6-ルチジンやN,N-ジイソプロピルエチルアミンの存在下、シリルトリフラートを作用させて反応させる。本実施形態では、図2に示すように、プロトン伝導性膜表面付近の未半のシラノール(HO−Si)末端に、例えば、シリルクロライドを反応させることでシリル化する。
【0060】
又、シリル化剤(B)によって処理されることで水酸基に付加したシリル基の分子量は、150以上であることが好ましい。シリル基の分子量が150以上となるシリル化剤(B)としては、例えば、図3に示すように、トリフェニルシリルクロライドやt−ブチルジフェニルシリルクロライドなどが挙げられる。
【0061】
又、シリル化剤(B)によって処理されることで水酸基に付加したシリル基は、ヘテロ原子を構成原子として含有することが好ましい。このヘテロ原子は、少なくともフッ素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれか1を含有することが好ましい。シリル基がヘテロ原子を構成原子として含む原子団としては、例えば、図4に示すように、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジクロロシランや3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシランなどが挙げられる。
【0062】
又、架橋性電解質(A)は、複数のケイ素−酸素架橋と共有結合し、かつ炭素原子を含む有機無機複合構造体を含有し、当該炭素原子の重量%は、20%以下であることが好ましい。
【0063】
(粒子の間隙)
前述したように、本発明のプロトン伝導性膜は、ケイ素−酸素架橋構造からなる粒子を有し、当該粒子は表面に酸基を有し、かつ当該粒子が連続体を構成している。粒子の連続体は、前述のように幾何学的に粒子の間隙を生じる。特に、この粒子の間隙が、プロトン伝導性膜の主表面から相対向する面に連通している場合、粒子の間隙はプロトンがアノードからカソードに効率的に拡散・移動するプロトン伝導経路となる。
【0064】
粒子の間隙の間隙幅は特に限定されないが、極端に狭いとプロトン伝導が阻害され、又、広すぎると膜が脆くなるだけでなく、燃料ガスがリークして(いわゆるケミカルショート)発電効率が低下する。具体的な平均間隙幅としては、例えば、0.5nm〜500nmが好ましく、1nm〜200nmがより好ましく、更に好ましくは1〜10nmである。
【0065】
この粒子の間隙の幅を直接観察することは困難であるが、代替評価として水銀圧入法やBET法による比表面積測定より求められる細孔径分布により見積もることができる。
【0066】
ところで、前述のように、粒子の間隙の壁面(即ち粒子表面)には酸基が導入されているため、粒子の間隙は親水性となっており、水は間隙に効率的に導入することができ、間隙を水によりほぼ置換することができる。プロトン伝導の媒体である水が粒子の間隙に導入可能であることは、プロトン伝導性膜にとっては必須である。通常、燃料電池動作時には、燃料ガスの加湿水、又はカソードの反応で生じた水等により、粒子の間隙の一部あるいは全部が充填された状態となる。プロトン(水素イオン)は、これらの複数の水分子で水和された状態(ヒドロニウムイオン)の形で存在し、このヒドロニウムイオンの拡散移動によりプロトンが伝達される。すなわち、粒子の間隙は、乾燥時には周辺の大気が充満しているが、燃料電池動作時には燃料ガスの加湿水、あるいはカソードの反応で生じた水が満たされていることが好ましい。
【0067】
粒子の間隙の容積は、同様にして水銀圧入法やBET法により見積もることもできるが、の粒子の間隙を水で置換することが可能であることを利用したより簡便な方法として、含水量測定がある。即ち、プロトン伝導性膜を水に浸せきし、表面の水分を取り除いた後の湿潤質量と、プロトン伝導性膜を乾燥(例えば減圧で100度加熱)した乾燥質量を測定し、(湿潤質量−乾燥質量)/(乾燥質量)の式で算出できる含水率は間隙の体積分率と相関のある数値となる。いわば、空孔率に相当するものである。
【0068】
本発明のプロトン伝導性膜においては、上記含水率が3質量%以上であることが好ましい。これ未満の含水率では粒子の間隙、即ちプロトン伝導経路の容積が不十分であり、高い伝導度を得ることができない。一方、含水率が50質量%を超える場合には、燃料ガスが通りやすくなり、ケミカルショートを起こすと同時に膜が脆く弱くなる傾向があるため、50質量%以下であることが好ましい。このように、含水率3〜50質量%であることが好ましいが、更に5〜30質量%がより好ましい。
【0069】
又、更に、この粒子の間隙の容量(体積)は、粒子の間隙が水で満たされている状態と、乾燥して空気が存在する状態との間での体積差が、3体積%以下であることが好ましい。乾燥時と含水時で体積差(含水による膨潤)があると、膜−電極接合時に含水率調整等が必要となって、接合プロセスが煩雑となるばかりではなく、燃料電池動作時の膜の含水率変動により膜−電極接合体に大きなストレスを生じ、電極からの膜剥離や接触脱落の原因となる。
【0070】
この体積差は、乾燥状態で測定した乾燥容量と、水を満たした場合の含水率の差で求めることもできるが、簡易には、乾燥状態と湿潤状態の膜の膨潤率で求めることが可能である。この場合、粒子は高密度架橋構造を有し、含水しても膨潤しないため、膨潤はすべて粒子の間隙の体積変動に起因するものとして良い。本発明のプロトン伝導性膜では、通常、含水による膨潤率は3%以下であり、燃料電池動作時にも大きな体積変化が無く、極めて良好に用いることができる。
【0071】
更に、粒子の間隙に、親水性の材料や電解質材料を充填しても良い。ただし、一般的に粒子の間隙にこれらの材料を充填するとプロトン伝導性が低下する。しかしながら、例えば燃料ガス透過によるケミカルショートを防止する場合や、メタノールなどの直接液体燃料を燃料電池に導入する場合の燃料浸透防止には効果があるため、必要に応じてあらかじめこれら材料の充填を行うようにしても良い。
【0072】
(固体高分子形燃料電池)
上記プロトン伝導性膜とガス拡散電極とを接合することにより、膜−電極接合体を得ることができる。又、当該膜−電極接合体を単位セルとして、その外側に、燃料、酸素の通路となる一対のセパレータを設置するとともに、隣り合う複数セルを相互に連結することにより、固体高分子形燃料電池を得ることができる。
【0073】
(プロトン伝導性膜の製造方法)
次に、本実施の形態のプロトン伝導性膜の製造方法について説明する。
【0074】
ケイ素−酸素架橋構造からなる粒子であって、当該粒子の表面に酸基が導入され、かつ当該粒子が連続体を構成しているプロトン伝導性膜の製造方法は、特に限定されることはないが、例えば以下のような方法で製造することができる。
【0075】
即ち、本発明のプロトン伝導性膜は、メルカプト基を有し、かつ、メルカプト基と共有結合した縮合反応可能な加水分解性シリル基と、及び/又はシラノール基を有するメルカプト基含有化合物(D)と、極性制御剤(E)とを含有する混合物を調製する第1の工程と、それを成膜する第2の工程と、該成膜された混合物に含まれる加水分解性シリル基を加水分解及び縮合、及び/又はシラノール基を縮合させることにより、ケイ素−酸素架橋構造からなる粒子の連続体を構成する膜を形成する第3の工程と、更に膜中のメルカプト基を酸化してスルホン酸基とし、粒子の表面にスルホン酸基を導入する第4の工程とより製造することができる。
【0076】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0077】
5.1 第1の工程
第1の工程では、メルカプト基を有し、かつ、メルカプト基と共有結合した縮合反応可能な加水分解性シリル基と、及び/又はシラノール基を有するメルカプト基含有化合物(D)と、極性制御剤(E)とを含有する混合物を調製する。
【0078】
5.1.1 メルカプト基含有化合物(D)
メルカプト基含有化合物(D)はメルカプト基を有し、かつ、メルカプト基と共有結合した縮合反応可能な加水分解性シリル基、及び/又はシラノール基を有していれば特に制限はない。
【0079】
このメルカプト基含有化合物(D)として、以下に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0080】
メルカプト基含有化合物(D)として、例えば、次式(1)で示されるメルカプト基含有化合物(G)があげられる。
【化1】

【0081】
(式中、R7はH、CH3、C25、C37、又はC49のいずれかの基を表し、R1は炭素数20以下の炭化水素基を表し、R2はCH3、C25、C37、又はC65のいずれかの基を表し、nは1〜3の整数を表す。nが1のとき、R2は異なる置換基の混合体でもよい。)
ここで、R1は、炭素数20以下の炭化水素基であれば特に制限はないが、芳香族環や分岐を含まないメチレン鎖(−CH2−の連鎖)が酸や酸化に対して安定であり好ましく用いることができる。特に、炭素数が3(即ち、R1が−CH2CH2CH2−)のものは安価かつ入手が容易で好ましく用いることができる。R1に分岐構造や芳香族環が含まれていても、燃料電池作動条件下で安定であれば特に問題はない。
【0082】
又、R7がHの場合には、ポットライフが短くなるため、注意して扱う必要がある。R7がアルキル基の場合には、ポットライフも長く、反応制御も容易であり、好適に用いることができる。とくに、R7はCH3、C25のものが安価かつ入手も容易であり、好適に用いることができる。
【0083】
アルキレン基(R2)は式(1)中にあげられた各置換基を用いることができるが、R2がCH3のものが安価かつ入手容易であり、好ましく用いることができる。
【0084】
架橋基(OR7)とアルキル基(R2)の比率は、架橋基が多い程粒子に安定して固定化可能であるが、一方、アルキル基を導入することにより、プロトン伝導性膜の可撓性が付与できる。他の架橋剤との組み合わせも含め、物性と安定性のバランスの上で、架橋基とアルキル基の比率は適宜選択可能であるが、好ましくは架橋基の数は2、又は3であり、架橋基が3あるものがより安定して固定化できるため、より好ましい。
【0085】
この式(1)で示される原料としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリプトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエキトキシシラン、2−メルカプトエチルトリプロポキシシラン、2−メルカプトエチルトリプトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジブトキシシラン、3−メルカプトプロピルエチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルブチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルフェニルジメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン等が例示されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0086】
この中でも3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)社製)が大量且つ安価に入手することができ、好ましく用いることができる。
【0087】
又、メルカプト基含有化合物(D)の例として、次式(2)で表されるメルカプト基含有縮合体(H)があげられる。
【化2】

【0088】
(式中、R7はH、CH3、C25、C36、又はC49のいずれかの基を表し、R1は炭素数20以下の炭化水素基を表し、R2はOH、OCH3、OC26、OC36、OC49、CH3、C26、C37、C49、C65のいずれかの基を表し、mは1〜100の整数を表す。又、R7が−Si、又はR2がO−Si結合となった環状構造、分岐構造となっても良い)
これは、メルカプト基含有化合物(G)の縮合体であり、例えばメルカプト基含有化合物(G)を縮合することにより得ることができる。このような縮合体を用いると、酸の連続性が高まり、より高い伝導度が得られると同時に、1分子内の架橋基が増加することにより粒子との結合安定性も向上し、より高い耐久性能を実現することができる。
【0089】
R1、R2、及びR7はメルカプト基含有化合物(G)に準ずるが、このうち、R7が−Si、又はR2がO−Si結合となった環状構造、分岐構造を含んでいても良い。
【0090】
又、重合度(m+1)は2以下であると縮合による酸の連続化、架橋基増加等の効果が見られず、100を超えるとゲル化等が起こり、原料として用いることが困難となる。
【0091】
更に、メルカプト基含有化合物(D)の例として、次式(3)で表されるメルカプト基含有縮合体(I)があげられる。
【化3】

【0092】
(式中、R7はH、CH3、C25、C36、又はC49のいずれかの基を表し、R1は炭素数20以下の炭化水素基を表し、R2、R8、R9はそれぞれ独立にOH、OCH3、OC26、OC36、OC49、CH3、C26、C37、C49、C65のいずれかの基を表し、n、mはそれぞれ独立に1〜100の整数を表す。又、R7が−Si結合、又はR2、R8、R9が−O−Si結合となった環状構造、分岐構造となっても良い)
これは、メルカプト基含有化合物(G)と、後に詳述する架橋剤(J)の共縮合物である。架橋剤(J)の実例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラプトキシシラン等が挙げられる。このうち、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランは汎用品であり、安価であり、大量かつ容易に入手可能であるため、特に好ましく用いることができる。又、更に、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−ウンデシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン等のメトキシ体、及びこれらのエトキシ体、イソプロポキシ体、ブトキシ体等との共重合体であっても良い。本発明はこれに限定されるものではなく、式(3)で表される化合物であれば限定はない。
【0093】
R1、R2、及びR7はメルカプト基含有化合物(G)に準じ、R8、R9は架橋剤(J)の基本構造に準ずるが、このうち、R7が分子内のSiと結合して環状構造、又はR2、R8、R9が−O−Si結合となった環状構造、分岐構造を含んでいても良い
又、重合度(m+n)は2未満であると縮合による酸の連続化、架橋基増加等の効果が見られず、200を超えるとゲル化等が起こり、原料として用いることが困難となる。メルカプト基含有縮合体(I)は、メルカプト基含有縮合体(H)にくらべて置換基の調整範囲が大であるため、より高重合度までゲル化せずに原料化できる。
【0094】
このメルカプト基含有縮合体(I)は、構造設計上自由度が高く、架橋性の高い構造を導入して、粒子との固定化をより強固とし、安定したプロトン伝導性を発揮させたり、架橋度をむしろ低下させて膜に可撓性を付与したり、種々の物性調整が可能となる。
【0095】
これらのメルカプト基含有縮合体(H)、(I)は公知の方法で合成することができ、これらの方法は、例えば、特開平9−40911号公報、特開平8−134219号公報、特開2002−30149号公報、ジャーナルオブポリマーサイエンス パートA:ポリマーケミストリ(Journal of Polymer Science:PartA:Polymer Chemistry、第33巻、第751−754頁、1995)、ジャーナルオブポリマーサイエンス パートA:ポリマーケミストリ(Journal of Polymer Science:PartA:Polymer Chemistry、第37巻、第1017−1026頁、1999)などに開示されている。
【0096】
これらメルカプト基含有化合物(D)は、あらかじめ後述の第4の工程で用いる酸化剤によりあらかじめ酸化してから用いても良い。この場合には、第4の工程を省略することが可能となる。
【0097】
更に、第1の工程において、次式(4)で表される架橋剤(J)を加える。架橋剤(J)は、架橋性電解質(A)に含有されるテトラ分子量当たりより多くのシラノールを発生することのできる架橋剤である。
【化4】

【0098】
(式中、R3は炭素原子20以下のアルキル基を表し、R10はOH、OCH3、OC25、OC25、OC49、OCOCH3、又はClを表し、nは2〜4の整数である。)
ここで、架橋剤(J)は、Si−O結合を形成する構造体であれば特に制限はなく、(4)式に表される構造であれば用いることができる。架橋剤(J)の実例としては、イミダゾール、ベンゾトリアゾール、ピラジン、(3−(4−ピリジニル)プロピル)トリメトシシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。このうち、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランは汎用品であり、安価であり、大量かつ容易に入手可能であるため、特に好ましく用いることができる。又更に、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−ウンデシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン等のメトキシ体、及びこれらのエトキシ体、イソプロポキシ体、ブトキシ体等であっても良い。
【0099】
又、これと類似した役割を担う材料として、チタン、ジルコニウムを含む加水分解性化合物を用いてもよい。具体例としては、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンi−プロポキシド、チタンn−プトキシド、チタンi−プトキシド、チタンt−プトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムi−プロポキシド、ジルコニウムn−プトキシド、ジルコニウムi−プトキシド、ジルコニウムt−プトキシド、及びそれらのアセチルアセトン、アセト酢酸エステル、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン錯体等が挙げられる。
【0100】
この架橋剤(J)を用いると、粒子の架橋密度や粒子間結合強度を調整することが可能であり、強度、可撓性を適宜制御することができる。
【0101】
又、更に、第一の工程において、次式(5)で表される橋かけ架橋剤(K)を加えても良い。
【化5】

【0102】
(式中、R10はOH、OCH3、OC25、OC36、OC49、OCOCH3、又はClを表し、R5は炭素数1〜30の炭素原子含有分子鎖基を表し、R4はCH3、C25、C37、C49、又はC65から選ばれたいずれかの基であり、nは0、1又は2のいずれかの整数である。)
ここで、式(5)中のR5は、炭素数1〜30の炭素原子含有分子鎖基を表すが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0103】
式(5)の構造を有する架橋剤(K)の具体例としては、例えば、イミダゾール、ベンゾトリアゾール、ピラジン、(3−(4−ピリジニル)プロピル)トリメトシシシラン等が挙げられる。又、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,9−ビス(トリエトキシシリル)ノナンが該当するが、これらはゲレスト(Gelest)社より市販されている。これ以外の鎖長のもの、あるいはこれ以外の加水分解性基を有する有機無機複合架橋剤(F)も、両末端が不飽和結合となっている直鎖状炭化水素、例えば、1,3−ブタジエンや1,9−デカジエン、1,12−ドデカジエン、1,13−テトラデカジエン、1,21−ドコサジエンなどに白金錯体触媒を用いて各種アルコキシシランとヒドロシリル化反応を行うことにより、対応する架橋性化合物である化合物を得ることができる。
【0104】
この架橋剤(K)を用いると、粒子状構造体の架橋密度を調整することが可能であり、強度、可撓性を適宜制御することができる。
【0105】
5.1.2 極性制御剤(E)
極性制御剤(E)は、粒子を形成するための構造制御剤であって、本発明において好適に用いることができる。
【0106】
本発明のプロトン伝導性膜においては、物質(水素イオンあるいはその水和体)が拡散、移動できることが必須であるため、膜の内部にイオンを輸送するプロトン伝導経路を形成することが好ましく、粒子の間隙がその役割を担うことは、前述した。
【0107】
本発明のプロトン伝導性膜においては、この粒子及び粒子の間隙の効率的な形成のため、極性制御剤(E)を用いる。
【0108】
通常、テトラエトキシシランのような無機材料などを同様にして加水分解・縮合し、十分な加熱(例えば800℃)を行えば、ガラス状の緻密な架橋体が得られ、イオンチャネルに相当する微細孔は形成されない。このようなアルコキシシランの加水分解、縮合、ゲル化過程(sol−gel反応)は詳細に検討されており、例えばブリンカー(Brinker)らのゾルゲルサイエンス(SOL−GEL SCIENCE)(Academic press,Inc.1990)、作花の「ゾル−ゲル法の化学」(アグネ承風社、1988)等にまとめられている。sol−gel反応では粒子成長、粒子結合、緻密化が順に起こる。典型的なアルコキシシラン材料についてはそれらの詳細な解析がなされ、反応条件等も明らかになっている。
【0109】
本発明のプロトン伝導性膜においては、置換基を有するアルコキシシラン材料を原料とし、更に、粒子の粒径制御、粒子間の結合制御、それに伴う粒子の間隙の制御が必要であり、これを達成するために種々の検討を行った結果、極性制御剤(E)を加えることにより、粒子の連続体形成とそれに伴う粒子の間隙制御が可能であることを見いだした。
【0110】
極性制御剤(E)は有機液体であって、水溶性であることが望ましい。水溶性であると、第1の工程で溶媒を用いる場合(後述)、メルカプト基含有化合物(D)の溶媒への溶解性を調整することが可能であり、適度な粒子の粒径、及び粒子の間隙制御が可能となる。又更に、作製後の膜から水洗にて容易に抽出できるという利点もある。
【0111】
又、極性制御剤(E)は、沸点100℃以上であり、融点が25℃以上であることが好ましい。
【0112】
極性制御剤(E)の沸点が低すぎると、膜を形成する際に行う縮合反応時(主として加熱条件にて行う)に揮発してしまい、粒子の粒径制御、及び粒子の間隙制御が不十分になって十分な伝導度が確保できない。従って、極性制御剤(E)の沸点としては、最低でも第1の工程において溶媒が用いられる場合には溶媒の沸点以上であることが好ましく、特に沸点100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは200℃以上である。
【0113】
又、極性制御剤(E)の分子間相互作用が大きすぎる場合には極性制御剤(E)が固化して粒子の間隙以外に大きなドメインを形成する可能性があり、この場合膜の強度が低下したり、膜の燃料ガスバリア性が低下する可能性がある。極性制御剤(E)の分子間相互作用の大きさは、融点とほぼ相関があり、融点を指標とすることができる。本発明で用いる極性制御剤(E)の融点は、25℃以下であることが好ましい。融点25℃以下であると適度な分子間相互作用が期待でき、好ましく用いることができ、より好ましくは15℃以下である。
【0114】
このような有機物としては、水酸基、エーテル基、アミド基、エステル基などの極性置換基を有しているもの、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸基又はその塩を有しているもの、アミン等の塩基基又はその塩を有しているものなどが挙げられる。このうち、酸、塩基及びその塩類は、加水分解・縮合の際に触媒を用いる場合には、これら触媒との相互作用に気を付ける必要があるため、より好ましくは非イオン性のものが好ましく用いることができる。
【0115】
具体的には、グリセリン及びその誘導体、エチレングリコール及びその誘導体、エチレングリコール重合体(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、各種分子量のポリエチレングリコールなど)、グルコース、フルクトース、マンニット、ソルビット、スクロースなどの糖類、ペンタエリスリトールなどの多価水酸基化合物、ポリオキシアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリル酸などの水溶性樹脂、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸エステル類、ジメチルスルホキシド等のアルキル硫黄酸化物、ジメチルホルムアミド等のアミド類、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類、等があげられるが本発明はこれに限定されるものではない。
【0116】
又、これらのエチレングリコール類の末端OHの一部又は全部が、アルキルエーテルとなったエチレングリコール(モノ/ジ)アルキルエーテル類も好ましく用いることができる。この例としては、エチレングリコール類のモノメチルエーテル、ジメチルエーテル、モノエチルエーテル、ジエチルエーテル、モノプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジプチルエーテル、モノペンチルエーテル、ジペンチルエーテル、モノジシクロペンテニルエーテル、モノグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、モノフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、モノビニルエーテルジビニルエーテルがあげられる。又、エチレングリコール類の末端OHの一部又は全部がエステルとなっていても良い。この例としては、エチレングリコール類のモノアセテート、ジアセテートがあげられる。
【0117】
又、酸及びその塩を用いても良い場合には、酢酸、プロビオン酸、ドデシル硫酸、ドデシルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の酸及びその塩類があげられ、塩基及びその塩を用いても良い場合には塩化トリメチルベンジルアンモニウムなどのアンモニウム塩類、N,N−ジメチルベンジルアミン等のアミン類及びその塩類があげられる。更に、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸類などの両性イオン化合物も使用することができる。
【0118】
又、極性制御剤(E)として無機塩等も用いることは可能ではあるが、一般的に無機塩は凝集力が強く(融点が高く)、メルカプト基含有化合物(D)を含む混合物に添加しても分子レベルの微細分散は困難で、大きな結晶やアモルファス固体となり、膜物物理性やガスバリア性に不利な大きな凝集体を形成する可能性が高い。
【0119】
又、本発明においは、その他のイオン界面活性剤も好適に用いることができ、更に触媒との相互作用を勘案してアニオン、カチオン、両性の各界面活性剤なども用いることができる。
【0120】
この中でも、液状の水溶性有機物であり、メルカプト基含有化合物(D)に対して適度な相溶性(あるいは適当な非相溶性)を有するポリオキシアルキレンが好ましく、その中でも特にエチレングリコールの重合体が好ましく用いることができる。このポリオキシアルキレン類は以下のような一般式で示すことができる。
【化6】

【0121】
このようなエチレングリコールの重合体は、2量体(ジエチレングリコール)から各種分子量のポリエチレングリコールまで幅広く市販されており、相溶性、粘度、分子サイズなど、適宜選択可能であり、好ましく用いることができる。特に本発明においては、分子量が約100のジエチレングリコールから平均分子量600のポリエチレングリコールがより好ましく用いることができ、更に、分子量が200前後のテトラエチレングリコールあるいはポリエチレングリコールが特に好ましく用いることができる。
【0122】
粒子、及び粒子の間隙のサイズは、メルカプト基含有化合物(D)との相溶性と、溶媒や添加剤を含めた膜形成原料系全体との相溶性バランス、及び、極性制御剤(E)の分子量、及び配合量により決定される。本発明の場合、極性制御剤(E)の平均分子量と粒子の間隙の径に相関が見られ、分子量600を超えるポリエチレングリコールを用いた場合には大きな径となってガスバリア性や物性が低下したり、膜が脆くなったりし、一方、分子量100未満であると、小さな径となって、緻密な膜となりすぎて、十分な粒子の間隙が形成されない傾向がある。
【0123】
なお、極性制御剤(E)の添加量は用いる極性制御剤(E)の種類や分子量、あるいは膜の構造に依存するために一概に言うことは難しいが、一般的にはメルカプト基含有化合物(D)100重量部に対して3〜150重量部添加する。3重量部未満では、粒子径、及び粒子の間隙制御の効果がほとんど認められず、150重量部を超えると粒子の間隙が大きくなりすぎ、膜が脆くなったり、ガス透過が顕著になったりする可能性が高い。
【0124】
以上のように、本発明のプロトン伝導性膜は、極性制御剤(E)を用いることにより、粒子の間隙、即ちプロトン伝導経路の構造をオーダーメイドで設計、形成することができるため、燃料ガス透過性や膜強度などの各種膜物性とバランスの良い膜を形成することができる。これが従来のスルホン酸化フッ素樹脂膜のように、分子構造により一義的にプロトン伝導経路が決定されるものとは大きく異なる点である。
【0125】
又、このように制御されたプロトン伝導経路は、高温・高湿環境下においても変形しないため、燃料電池を高温で作動させても安定した運転が可能となる。
【0126】
5.1.3 混合方法
今まで述べてきたように、メルカプト基含有化合物(D)、極性制御剤(E)、更に任意成分である架橋剤(J)、(K)を適宜調整して用いることにより、プロトン伝導性、耐熱性、耐久性、膜強度など、種々の物性を調整することが可能である。
【0127】
ここで、任意成分である架橋剤(J)、(K)を加える場合、その添加量は各材料の配合、プロセスにより変動するため一概に言えないが、代表的な値としては、メルカプト基含有化合物(D)100重量部に対して(J)、(K)の合計添加量は900重量部以下である。
【0128】
これを超える配合量の架橋剤を添加すると、粒子の表面酸基濃度が低下し、プロトン伝導性が低下するおそれがある。
【0129】
これらの混合物を調製する場合には、溶媒を用いてもよい。用いる溶媒は、それぞれの材料が均一に混合可能であれば良く、特に制限はない。一般的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−プタノールなどのアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒などが好適に用いることができる。
【0130】
溶媒の比率については特に制限はないが、通常、固形分濃度が90〜10重量%程度の濃度が好ましく用いることができる。
【0131】
更に、後述するが、触媒(F)をこの工程で同時に混合してもよい。
【0132】
又、加水分解に必要な水を投入してもよい。水は、通常、加水分解性シリル基に対して等mol量加えるが、反応を加速するために多く加えても良く、又、反応を抑制するために少量加えてもよい。
【0133】
混合には、撹拌、振動など公知の方法を用いて良く、十分な混合が可能であれば特に限定されない。又、必要に応じて加熱や加圧、脱泡、脱気等を行ってもよい。
【0134】
更に、第1の工程において、本発明の目的を損なわない範囲内で、補強材、柔軟化剤、分散剤、反応促進剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、無機又は有機充填材などの他の任意成分を添加することができる。
【0135】
5.2 第2の工程
本発明のプロトン伝導性膜の製造方法において、第2の工程は、第1の工程で得た混合物を膜状に成形(成膜)する工程である。
【0136】
第1の工程で得られた混合物を膜状に成形するためには、キャスト、コート、注型など、公知の方法を用いることができる。膜状に成形する方法としては、均一な膜を得ることができる方法であれば特に制限はない。膜の厚みは特に制限されないが、10μmから1mmの間の任意の厚みとなるように形成することができる。燃料電池用のプロトン伝導性膜は、プロトン伝導性、燃料バリア性、膜の機械的強度から膜厚は適宜決定され、通常、膜厚が20〜300μmのものが好ましく用いることができるため、本発明のプロトン伝導性膜の膜厚もこれに準じて製造する。
【0137】
又、この成膜工程を行う際に、繊維、マット、フィプリルなどの支持体、補強材を添加してもよいし、又、これら支持体に含浸させてもよい。これら支持体、補強材は耐熱性と耐酸性を勘案してガラス材料、シリコーン樹脂材料、フッ素樹脂材料、環状ポリオレフィン材料、超高分子量ポリオレフィン材料等から適宜選択し、用いることができる。含浸する方法としては、ディップ法、ポッティング法、ロールプレス法、真空プレス法など、限定されることなく、公知の方法を用いることができ、又、加熱、加圧等を行ってもよい。
【0138】
5.3 第3の工程
本発明のプロトン伝導性膜の製造方法において、第3の工程は、第2の工程で成膜した膜状物に含まれる加水分解性シリル基を加水分解及び縮合、及び/又はシラノール基を縮合させることにより、ケイ素−酸素架橋構造からなる粒子の連続体を有する膜を形成する工程である。
【0139】
本発明におけるプロトン伝導性膜は、アルコキシシリル基等の加水分解、縮合により、架橋構造を形成し、高温においても安定的にプロトン伝導性を発揮し、形状変化等も少ないことを特徴とする。このようなアルコキシシリル基等の加水分解、縮合によるSi−O−Si結合の生成はゾルゲル(sol−gil)反応としてよく知られている。
【0140】
sol−gel反応においては、反応加速及び制御のために、触媒が用いられるのが普通である。触媒は、通常、酸又は塩基が用いられる。
【0141】
5.3.1 触媒(F)
本発明のプロトン伝導性膜の製造方法において用いる触媒(F)は、酸であっても塩基であってもよい。
【0142】
酸触媒を用いる場合には、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸などのプレンステッド酸を用いる。酸の種類、濃度等は特に限定されず、入手可能な範囲のものであればよい。この中でも酢酸は反応後、酸の残留等が比較的少なく、好適に用いることができる。塩酸を用いた場合、特に濃度等には制限はないが、通常0.01〜12Nのものが用いられる。
【0143】
一般的に、酸を用いた場合には加水分解と縮合が競争することにより、分岐の少ない直鎖状の架橋構造となることが知られている。
【0144】
一方、塩基を触媒とした場合には、加水分解が一気に起こるために分岐の多い樹状構造となることが知られている。本発明においては、膜物性を勘案していずれの方法もとることが可能であるが、粒子、及びその連続体の形成という本発明の特徴を際だたせるためには、塩基触媒が好ましく用いることができる。
【0145】
塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができる。この中でも、残留塩が生じないアンモニアは好適に用いることができる。更に、メルカプト基含有化合物(D)との相溶性等を勘案して、有機アミン類も好ましく用いることができる。
【0146】
有機アミン類は、特に制限無く用いることができるが、通常、沸点が50℃以上のものが好ましく用いられ、この範囲の入手容易な有機アミン類の具体例としては、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、イソブチルアミン、ジエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ピペラジン又はテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、いずれも好適に用いることができる。
【0147】
又、縮合触媒としてフッ化カリウム、フッ化アンモニウム、テトラメチルアンモニウムフロリド、テトラエチルアンモニウムフロリドなどフッ化物を用いても良い。
【0148】
触媒の添加量は、任意に設定することが可能で、反応速度、膜原料との相溶性などを懸案して適宜決定する。
【0149】
触媒を導入する工程は、第1の工程から第3の工程のいずれのタイミングでもよい。最も簡便なのは第1の工程で混合物を調製する際に導入する方法であるが、この場合には第2の工程である成膜におけるポットラインやセット時間を勘案する必要がある。
【0150】
5.3.1 縮合反応
縮合反応は室温でも可能であるが、反応時間を短縮し、より効率的な硬化を行うためには加熱を行う方がよい。加熱は公知の方法で良く、オーブンによる加熱やオートクレープによる加圧加熱、遠赤外線加熱、電磁誘導加熱、マイクロ波加熱などが使用できる。加熱は室温から300℃までの任意の温度で行うことができ、100〜250℃で行うことが好ましい。この際、減圧下、窒素下、あるいはアルゴン下等、不活性ガス等の元で加熱しても良い。
【0151】
又、加熱は室温である程度時間をかけて硬化させてから、高温に徐々に昇温するなど、急激な環境変化を避ける方法を採用してもよい。
【0152】
又、加水分解で必要な水を補給するために水蒸気下で行っても良く、又、急激な膜の乾燥を防ぐため、溶媒蒸気下で行ってもよい。
【0153】
第3の工程を経た膜は、必要に応じて水洗により未反応物や効果触媒を取り除き、更に硫酸などでイオン交換を行ってもよいる
5.4 第4の工程
本発明のプロトン伝導性膜の製造方法において、第4の工程は、膜中のメルカプト基を酸化してスルホン酸基とし、粒子の表面にスルホン酸基を導入する工程である。
【0154】
前述したように、酸化に先立ち、膜を水洗してもよく、又更に、触媒として有機アミン類を用いた場合には、酸化に先立って、塩酸、硫酸等の酸に膜を接触させ、触媒を取り除いてもよい。
【0155】
洗浄する際に用いる水は、蒸留水、イオン交換水など、金属イオンを含まないものが好ましい。水洗においては、加熱しても良く、加圧や振動を与えてより水洗を効率化してもよい。更に、膜中への浸透を促進するために、水にメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン等を加えた混合溶剤を用いてもよい。
【0156】
本発明で用いるメルカプト基酸化方法としては、特に制限されないが、一般的な酸化剤を用いることができる。具体的には、例えば、新実験化学講座(丸善、第3版、第15巻、1976)において述べられているように、硝酸、過酸化水素、酸素、有機過酸(過カルボン酸)、臭素水、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸などの酸化剤を用いることができる。
【0157】
この中でも過酸化水素及び有機過酸(過酢酸、過安息香酸類)が比較的取り扱いが容易で酸化収率も良好であることから好適に用いる事ができる。
【0158】
更に、酸化により得られた膜中スルホン酸基のプロトン化のため、塩酸、硫酸等の強酸と接触させてもよい。この場合の酸濃度、浸せき時間、浸せき温度等のプロトン化条件は、膜中のスルホン酸基含有濃度、膜の多孔質度、酸との親和性などにより適宜決定される。代表例としては、1N硫酸中50℃1時間、膜を浸せきする方法などが挙げられる。
【0159】
又、酸化後の膜は水洗して、膜中の酸化剤を取り除くことが好ましい。
【0160】
更に、酸化後の膜を塩酸、硫酸等による酸処理を行ってもよい。酸処理により、膜中の不純物や不要な金属イオンが洗い流されることが期待できる。酸処理の後、更に水洗を行うことが好ましい。
【0161】
以上、述べてきた製造方法は一例であって、例えば、あらかじめ好ましい平均粒径を有するシリカ、あるいは金属酸化物粒子を用意し、これらの表面にメルカプト基含有化合物(D)をシランカップリング剤として表面処理した後酸化する方法なども可能である。ただし、このような表面処理法では安定した性能を得にくく、又、高濃度に表面処理することが困難であり、本発明で述べた方法を用いる方がプロトン伝導性膜の製造方法としては好ましい。
【0162】
(作用及び効果)
本実施形態に係るプロトン伝導性膜は、酸基とケイ素−酸素結合による架橋構造とを有する架橋性電解質(A)を含み、架橋性電解質(A)の未反応水酸基末端は、シリル化剤(B)によって処理されている。このため、意図的にシラノール基の数を増やし、即ち、シリル化されるポイントを増やしている。
【0163】
このように、プロトン伝導性膜表面付近の未反応シラノール(HO−Si)末端に、シリル化剤を反応させることでシリル化することにより、表面改質を行い、プロトン伝導性膜に様々な性質を付与することができる。具体的には、立体障害が大きく、疎水性の強いシリル基を付与することで、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性が向上する。
【0164】
又、従来、有機ケイ素化合物は熱可塑性ではないために、熱可塑性樹脂であるナフィオン電極にホットプレス(加熱プレス)で接着することができない。その結果、ナフィオン電極との接着性が低下することにより、電極間接触抵抗が増大し、高プロトン伝導性が失われていた。又、電解質を電極間に入れて接着性を向上させることが試みられているが、高プロトン伝導性を維持することができなかった。
【0165】
本発明では、シリル化で電解質表面を、例えばフッ素系シランなどによって修飾することにより、ホットプレスによる十分な接着性を実現でき、高プロトン伝導性を維持することができる。
【0166】
従って、本実施形態に係るプロトン伝導性膜によると、高プロトン伝導性、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を実現することができる。
【0167】
又、架橋性電解質(A)のケイ素−酸素結合率は、70%以上98%以下であることが好ましい。ケイ素−酸素結合率が70%以上であることにより、強い結合エネルギーを有し、化学的安定性、耐熱性及び耐酸化性を向上させることができる。又、ケイ素−酸素結合率が98%以下であることにより、導入されたシリル基の効果が充分顕著に現れ、高温における柔軟性を付与することができる。
【0168】
又、シリル化剤(B)によって処理されることで水酸基に付加したシリル基の分子量は、150以上であることが好ましい。水酸基に付加したシリル基の分子量が150以上であることにより、シリル化による高プロトン伝導性、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を更に向上させることができる。
【0169】
又、第1の特徴に係るプロトン伝導性膜において、シリル化剤(B)によって処理されることで水酸基に付加したシリル基は、ヘテロ原子を構成原子として含有することが好ましい。又、ヘテロ原子は、少なくともフッ素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれか1を含有することが好ましい。
【0170】
又、第1の特徴に係るプロトン伝導性膜において、架橋性電解質(A)は、複数のケイ素−酸素架橋と共有結合し、かつ炭素原子を含む有機無機複合構造体を含有し、当該炭素原子の重量%は、10%以上50%以下であることが好ましい。炭素原子の重量%が10%以上であるため、高温における柔軟性が付与されるとともに、導入したシリル基によって電極に対する接着性をより効果的に向上することができる。又、炭素原子の重量%が50%以下であるために、高い化学的安定性、耐熱性及び耐酸化性を維持しつつ、極性溶媒による膨潤を抑制することができる。
【実施例】
【0171】
本発明を更に詳しく説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0172】
(実施例1)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン53.0g、テトラエトキシシラン131.2g及びメタノール26.5gをフラスコに計量し、0℃で10分撹拌した。そこに、0.01N塩酸15.6gとメタノール20.8gとを混合した溶液を添加し、0℃で1時間撹拌し、40℃に昇温後、更に2時間撹拌した。次いで、フッ化カリウム0.114gとメタノール29.7gとを混合した溶液を添加し、40℃で1時間撹拌し、80℃に昇温後、更に2時間撹拌した。混合溶液を0℃に冷却し、その後、40℃真空にてアルコールを分留した。得られた溶液を0℃に冷却し、ジエチルエーテル200mLを加えて、0℃で10分撹拌した後、メンブレンフィルター(MILLIPORE社製、オムニポアメンブレン孔径0.2μm)を用いて濾過した。得られた濾液から40℃真空にてジエチルエーテルを分留し、図2に示すようなイオン架橋性メルカプト基含有シランオリゴマーを得た。
【0173】
得られたイオン架橋性メルカプト基含有シランオリゴマー5.86gとテトラエトキシシラン0.51gとを混合した液に、水0.11gとトリエチルアミン0.05gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、フッ素樹脂フィルム上でこの溶液をポリエチレン製多孔質膜に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚が50μmになるようにレベリングした。フッ素樹脂フィルムを被せたまま室温で80時間養生した後、フィルムを剥がし更に室温で24時間養生した。養生後の膜を2枚のガラス板でフッ素樹脂フィルムを介して挟み、この状態でガラス製の容器に水500mLとともに入れ、ギアオーブンを用いて80℃で24時間加熱硬化させた。
【0174】
焼成して得られた膜を、酢酸125mL、30%過酸化水素水100mLを混合して作製した過酢酸に膜を浸漬し、ホットプレートにて60℃で1時間加熱した。得られた膜を過酢酸溶液から取り出し、80℃の水に各1時間、2回浸漬して過酢酸溶液を充分に除いて、半透明の膜を得た。
【0175】
得られた膜を3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン5g、N,N-ジイソプロピルエチルアミン10g、ジメチルホルムアミド100mLを混合した溶液に膜を浸漬し、ホットプレートにて60℃で1時間加熱した。
【0176】
室温下、1M硫酸溶液で洗浄した後、精製水で洗浄し、半透明の膜を得た。これをプロトン伝導性膜とした。
【0177】
(比較例1)
実施例1において3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン53.0g、テトラエトキシシラン131.2gのみからメルカプト基含有シランオリゴマーを同様に合成し、そのオリゴマー4.37gを用いて、以下シリル化工程を経ないこと以外は同様にして、図1に示すような、プロトン伝導性膜を作成した。
【0178】
(比較例2)
図5に示すような、市販のNafion117(デュポン社製)をプロトン伝導性膜とした。
【0179】
(評価)
(1)プロトン伝導性評価
本発明の製造方法により得られたプロトン伝導性膜を通例の電気化学セル(例えば特開2002−184427号公報中、図3に記載されたものと同一のもの)にセットし、プロトン伝導性膜と白金板とを密着させた。この白金板に、電気化学インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製、1260型)を接続し、周波数0.1Hz〜100kHzの領域でインピーダンス測定し、イオン伝導性膜のプロトン伝導度を評価した。
【0180】
なお、上記測定では、サンプルは、電気的に絶縁された密閉容器中に支持され、水蒸気雰囲気(95〜100%RH)で、温度コントローラーによりセル温度を室温から160℃まで変化させ、それぞれの温度でプロトン伝導度の測定を行った。
【0181】
(2)メタノール透過性評価
メタノール透過係数(以下、「MCO」という。)を、以下の方法により測定した。
【0182】
まず、直径2cmの円形の窓を有する円形セル2つを用い、窓の部分でゴムパッキンを介してプロトン伝導性膜を挟み込み、一方のセルに純メタノールを、他方のセルに純水を入れ、25℃にて1時間、スターラーで攪拌した。その後、純水側に透過したメタノールの濃度X(重量%)をガスクロマトグラフィーにより測定し、下式によりMCOを算出した。
【数1】

【0183】
(3)耐衝撃性評価
プロトン伝導性膜を1辺が10cmの正方形に切断し、これを純メタノール中に浸漬して、25℃において12時間放置した。その後、60℃で1時間加熱し、再び25℃まで冷却して12時間放置した。プロトン伝導性膜を純メタノールから取り出し、表面の液体を取り除いた後、すばやく寸法を測定し、浸漬後寸法を浸漬前寸法で割った値から1をひいて100をかけた値の4辺の平均値を寸法膨潤率として表した。
【0184】
(4)耐極性溶媒性評価
プロトン伝導性膜を1辺が5cmの正方形に切断し、それぞれサンプル瓶に満たされた100mLの純メタノール中に浸し、60℃に保って放置した。100h後、浸漬したプロトン伝導性膜を取り出した。乾燥した後、浸漬による重量減少量を浸漬前の重量で割ってメタノール重量減少率を算出し、1からメタノール重量減少率をひいて100をかけた値を耐メタノール重量保持率と定め、耐メタノール性の指標として表した。
【0185】
(5)Nafion電極接着性
プロトン伝導製膜を1辺が5cmの正方形に切断し、充分に水で濡らして含水させた後、膜を1辺が2.5cm角のNafion電極で挟み、精密プレス機を用いて、140℃、1kNの条件下、3分間プレスを行い、膜−電極接合体を得た。
【0186】
片側電極を両面テープで固定し、90°剥離試験機を使って電解質膜の側部75mmを1cm/secの速度で引き剥がし、その電極-膜間の接着強度を同条件のNafion膜−Nafion電極接合体で得られた強度で割った比をNafion電極接着性の指標とした。
【0187】
(結果)
結果を表1に示す。
【表1】

【0188】
表1に示すように、実施例1で得られたプロトン伝導性膜は、比較例1及び比較例2と比べて、高プロトン伝導性を維持していることが分かった。又、実施例1で得られたプロトン伝導性膜が非常に低いメタノール透過係数を示したのに対し、比較例2のプロトン伝導性膜では比較的高いメタノール透過係数であった。
【0189】
又、実施例1で得られたプロトン伝導性膜は、比較例1及び比較例2と比べて、高耐衝撃性を有することが分かった。又、実施例1で得られたプロトン伝導性膜は、比較例1と同等であり、比較例2と比べて高耐局性溶媒性を有することが分かった。又、実施例1で得られたプロトン伝導性膜は、比較例2と同等であり、比較例1と比べて強い電極接着性を有することが分かった。このように、実施例1に係るプロトン伝導性膜は、高プロトン伝導性を維持しつつ、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性を実現することが分かった。更に、実施例1に係るプロトン伝導性膜は、非常に低いメタノール透過係数を示し、強い電極接着性を有することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】本実施形態に係るプロトン伝導性膜の構造を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係るプロトン伝導性膜表面を説明するための図である。
【図3】本実施形態に係るシリカ化剤(B)の構造式の一例である。
【図4】本実施形態に係るヘテロ原子を構成原子として含有するシリル基の構造式の一例である。
【図5】比較例2に係るプロトン伝導性膜の構造式である。
【符号の説明】
【0191】
1 ケイ素−酸素架橋構造体からなる微粒子
2 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基とケイ素−酸素結合による架橋構造とを有する架橋性電解質(A)を含むプロトン伝導性膜であって、
前記架橋性電解質(A)の未反応水酸基末端は、シリル化剤(B)によって処理されていることを特徴とするプロトン伝導性膜。
【請求項2】
前記架橋性電解質(A)のケイ素−酸素結合率は、70%以上98%以下であることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項3】
前記シリル化剤(B)によって処理されることで水酸基に付加したシリル基の分子量は、150以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項4】
前記シリル化剤(B)によって処理されることで水酸基に付加したシリル基は、ヘテロ原子を構成原子として含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項5】
前記ヘテロ原子は、少なくともフッ素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれか1つを含有することを特徴とする請求項4に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項6】
前記架橋性電解質(A)は、複数のケイ素−酸素架橋と共有結合し、かつ炭素原子を含む有機無機複合構造体を含有し、当該炭素原子の重量%は、10%以上50%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項7】
プロトン伝導性膜の両面にガス拡散電極を接合した膜−電極接合体であって、
前記プロトン伝導性膜は、酸基とケイ素−酸素結合による架橋構造とを有する架橋性電解質(A)を含み、
前記架橋性電解質(A)の未反応水酸基末端は、シリル化剤(B)によって処理されていることを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項8】
プロトン伝導性膜の両面にガス拡散電極を接合した膜−電極接合体を備える固体高分子形燃料電池であって、
前記プロトン伝導性膜は、酸基とケイ素−酸素結合による架橋構造とを有する架橋性電解質(A)を含み、
前記架橋性電解質(A)の未反応水酸基末端は、シリル化剤(B)によって処理されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−140665(P2008−140665A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326140(P2006−326140)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】