説明

プロトン伝導性複合電解質膜、それを用いた膜電極接合体及び燃料電池

【課題】優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立したプロトン伝導性複合電解質膜を提供する。
【解決手段】本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子と、プロトン伝導性を有する有機高分子材料とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、前記金属酸化物水和物粒子の1分子当たりの水和水量が、2.5以上であり、前記金属酸化物水和物粒子の平均凝集粒子径が、1μm以下であり、前記金属酸化物水和物粒子の含有率が、前記金属酸化物水和物粒子と前記有機高分子材料との合計重量に対して、20〜70重量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高プロトン伝導性と低燃料透過性とを両立させたプロトン伝導性複合電解質膜、それを用いた膜電極接合体及び燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代わる携帯機器用電源として、メタノールあるいは水素を燃料に使う燃料電池〔直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)及び固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)が期待されており、実用化を目指して盛んに開発が行われている。
【0003】
燃料電池の電極は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の表裏にカソード(酸素極)の触媒層及びアノード(燃料極)の触媒層をそれぞれ配した膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)から構成されている。上記触媒層は触媒担持カーボンと固体高分子電解質とが適度に混ざり合ったマトリクスとして形成されており、カーボン上の触媒と固体高分子電解質及び反応物質とが接触する三相界面において電極反応が行われる。また、カーボンの繋がりが電子の通り道となり、固体高分子電解質の繋がりがプロトンの通り道となる。
【0004】
例えば、DMFCでは、燃料極の触媒層及び酸素極の触媒層でそれぞれ下記の式(1)及び式(2)に示す反応が起き、電気を取り出すことができる。
【0005】
CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e- (1)
2 + 4H+ + 4e- → 2H2O (2)
DMFCは理論的にリチウムイオン二次電池の約10倍のエネルギー密度を持つとされている。しかし、現状ではリチウムイオン二次電池と比べて用いるMEAの出力が低く、実用化に至っていない。
【0006】
MEAの出力向上には、構成材料である触媒及び電解質膜の改良、MEAの構造の最適化といったアプローチがある。中でも電解質膜の改良がMEAの出力向上の重要な鍵を握っている。電解質膜に求められる性能としては、(1)プロトン伝導率が高いこと、(2)燃料(メタノールあるいは水素)の透過率が低いこと、の2点が挙げられる。(1)のプロトン伝導率が高いことが要求されるのは、プロトン伝導率が低くなると電解質膜の抵抗が高くなるためであり、膜抵抗の増大は出力低下に直結する。また、(2)の燃料透過率が低いことが要求されるのは、燃料透過率が高くなると燃料極側の燃料が電解質膜を透過して酸素極に達してしまう、いわゆる「クロスオーバー」が起こるためである。酸素極に達した燃料は、酸素極の触媒上で酸素と化学的に反応して熱を発する。このクロスオーバーにより、電解質膜そのものの劣化を招くだけでなく、酸素極の過電圧の増大を招き、MEAの出力低下の原因となる。
【0007】
現在、最も一般的に用いられている電解質膜は、デュポン社製の“ナフィオン”(登録商標)と呼ばれるパーフルオロスルホン酸系電解質膜である。ナフィオンは、疎水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)骨格に、末端に親水性のスルホン酸基が固定された側鎖を有し、含水状態でスルホン酸基とプロトン及び水分子とが会合して、イオンクラスターを形成する。このクラスター内はスルホン酸基の濃度が高いためにプロトンの通路となり、ナフィオンは高プロトン伝導率を発現する。しかし、ナフィオンは高プロトン伝導率を有するものの、燃料透過率が高いという問題がある。
【0008】
ナフィオン以外の電解質膜としては、炭化水素系電解質膜、芳香族炭化水素系電解質膜等があり、いずれも、スルホン酸基、ホスホン酸基あるいはカルボキシル基等のプロトン供与体を有する。ナフィオン同様、これらの電解質膜でも、含水状態にすることでプロトンが解離し、プロトン伝導性を発現する。ここで、スルホン酸基等のプロトン供与体の濃度を高くすることにより、プロトン伝導率を高くすることが可能である。しかしながら、これらの従来のプロトン伝導性電解質膜は、スルホン酸基等のプロトン供与体の濃度を高くすると、含水量が増加するために膜そのものが膨潤し、それに伴い膜に隙間が形成されるために、燃料透過率も増大してしまう。
【0009】
このように、有機高分子材料のみを用いた単一電解質膜では、プロトン伝導率と燃料透過率との間にはトレードオフの関係があり、高プロトン伝導性・低燃料透過性(低クロスオーバー)を両立する電解質膜を得るのは困難であった。
【0010】
近年、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立する電解質膜として、無機物と有機物とを複合した無機有機複合電解質膜が注目されている。例えば、非特許文献1には、有機物であるポリビニルアルコールに、無機物であるヘテロポリ酸(12タングストリン酸)を分散させた複合電解質膜が開示されている。また、非特許文献2には、有機物であるポリビニルアルコールに、無機物であるゼオライトの一種(モルデナイト)を分散させた複合電解質膜が開示されている。また、非特許文献3には、有機物であるスルホン化ポリエーテルケトンあるいはスルホン化ポリエーテルエーテルケトンに、無機物であるSiO2、TiO2、ZrO2を分散させた複合電解質膜が開示されている。
【0011】
さらに、特許文献1には、有機高分子材料に金属酸化物水和物を分散させた電解質膜が開示されている。また、無機物・有機物の複合電解質膜ではないが、特許文献2には、メタノール及び水に対して実質的に膨潤しない多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有するポリマーを充填させた電解質膜が開示されている。
【非特許文献1】Materials Letters、第57巻、p.1406、2003年
【非特許文献2】AIChE Journal、第49巻、p.991、2003年
【非特許文献3】J.Membrane Science、第203巻、p.215、2002年
【特許文献1】特開2003−331869号公報
【特許文献2】国際公開第00/54351号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立した電解質膜として、無機材料と有機材料との複合電解質膜が注目されている。しかしながら、前述の金属酸化物水和物及び有機高分子材料からなる複合電解質膜について、本来備えていると考えられる特性を十分引き出すためには、さまざまな条件が必要である。中でも、分散させる金属酸化物水和物の特性や粒径のみならず、膜中における配置、分散状態等を最適化する必要がある。
【0013】
現在の金属酸化物水和物粒子を複合化させた電解質膜では、プロトン伝導率、燃料透過率等の特性が改善される傾向にあることがわかっているが、金属酸化物水和物粒子の分散状態が最適化されていないために、高プロトン伝導性と低燃料透過性の点では未だ十分な性能を発揮できないのが現状である。
【0014】
本発明は、上記問題を解決したもので、高プロトン伝導性と低燃料透過性(低クロスオーバー)の両立を目指した無機有機複合電解質膜において、金属酸化物水和物粒子の分散状態を最適化することで、これまでの分散状態が最適化されていないものと比較し、より高い性能を引き出した複合電解質膜を供給することを目的とする。また、本発明は、その複合電解質膜を用いた高出力の燃料電池用MEA及びそのMEAを用いた燃料電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子と、プロトン伝導性を有する有機高分子材料とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、前記金属酸化物水和物粒子の1分子当たりの水和水量が、2.5以上であり、前記金属酸化物水和物粒子の平均凝集粒子径が、1μm以下であり、前記金属酸化物水和物粒子の含有率が、前記金属酸化物水和物粒子と前記有機高分子材料との合計重量に対して、20〜70重量%であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に配置された上記本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを備えることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立したプロトン伝導性複合電解質膜を提供することができる。また、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
前述の金属酸化物水和物粒子の一次粒子径が大きい場合や、凝集などにより分散粒子径が大きくなった場合、また、分散が不十分であるためにそれらの粒子の膜中における分布が不均一であったり、膜の空隙率が高い場合には、その金属酸化物水和物粒子同士の隙間を通って燃料が透過したり、膜全体を見た場合に有機物のみで構成される部位が増加するために含水による膨潤が起こりやすくなるため、クロスオーバーを十分に抑制することができない。また、これらの無機粒子が可視光を阻害するほどの粗大な凝集体あるいはサブミクロンサイズ以上の粒子径を持つ場合には、プロトン伝導性にはそれほど悪影響を及ぼさない場合でも、悪くすれば、金属酸化物水和物粒子を分散させることで、逆にクロスオーバーが増大する場合すらある。よって、分散させる金属酸化物水和物粒子の粒子径及び分散粒子径は、ある程度以下にする必要があり、さらにそれらの粒子は、膜骨格を形成して膨潤を防ぐために、膜全体にわたって均一に分布していることが必要であると考えられる。
【0020】
さらに、本来優れたプロトン伝導性を有する無機粒子を分散させることで、膜全体のプロトン伝導性を向上させることができるが、この際には、無機粒子同士が接触しているか、あるいは、ホッピング伝導やトンネル伝導が可能な程度に近い距離に存在することが必要となる。分散が不均一であったり、凝集径が大きいなどの理由で、有機物あるいは空隙のみで構成される部分が多くなり、無機粒子同士のつながりが不連続となれば、ホッピング伝導やトンネル伝導ではない、いわば直流回路のように、無機粒子−有機物−無機粒子というように、有機物を介してプロトンが伝導することとなり、本来の無機粒子の持つ高いプロトン伝導性を効果的に発揮することができない。また、膜中に空隙が存在する場合には、その部分は全くプロトン伝導性を有しないため、膜特性はさらに低下する結果となる可能性がある。以上の理由から、プロトン伝導性を向上させる場合には、特に無機粒子の有機高分子材料に対する含有率を高くし、膜全体に対して均一に含有させることで、より良い特性を引き出し得ることが期待される。
【0021】
本発明は、以上の点を鑑みて成されたものであり、以下、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
(実施形態1)
先ず、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子と、プロトン伝導性を有する有機高分子材料とを含む。また、上記金属酸化物水和物粒子の1分子当たりの水和水量は、2.5以上であり、上記金属酸化物水和物粒子の平均凝集粒子径は、1μm以下であり、上記金属酸化物水和物粒子の含有率は、上記金属酸化物水和物粒子と上記有機高分子材料との合計重量に対して、20〜70重量%である。
【0023】
上記構成により、高いプロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子を、有機高分子材料中に均一に且つ高い含有率で含有させることができ、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立したプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。
【0024】
上記金属酸化物水和物粒子の1分子当たりの水和水量は、2.5以上であり、好ましくは4以上である。これにより、金属酸化物水和物粒子自体のプロトン伝導性を高めることができる。上記水和水量の上限は特に限定されないが、通常は10程度となる。
【0025】
上記金属酸化物水和物粒子は、その一次粒子が凝集して二次粒子を形成し、その平均凝集粒子径は1μm以下である。平均凝集粒子径が1μmを超えると金属酸化物水和物粒子間の隙間が大きくなり、燃料透過率が高くなるからである。なお、平均凝集粒子径の下限値は、後述する平均一次粒子径の値程度である。
【0026】
上記金属酸化物水和物粒子の含有率は、金属酸化物水和物粒子と有機高分子材料との合計重量に対して、20〜70重量%である。20重量%未満では、金属酸化物水和物粒子の添加の効果が発現せず、70重量%を超えると、金属酸化物水和物粒子の平均凝集粒子径を1μm以下にすることが困難となるか、又は自立膜化が困難となるからである。
【0027】
本発明において、上記金属酸化物水和物粒子の1分子当たりの水和水量は、上記粒子を水に分散させた後、濾過し、その後、空気中において60℃で6時間乾燥させた後に測定した数値であり、平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真から観察される100個の粒子の直径又は長軸長さの算術平均から求めた値である。
【0028】
また、上記プロトン伝導性複合電解質膜の断面において、上記金属酸化物水和物粒子の占める面積の割合は、上記断面の全断面積に対して、90%以上であることが好ましい。これにより、さらに優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを有するプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。
【0029】
また、上記プロトン伝導性複合電解質膜は、その膜厚25μmにおける全光線透過率が80%以上であり、ヘイズ値が50%以下であることが好ましい。全光線透過率とヘイズ値は、上記金属酸化物水和物粒子の分散性の評価基準となるものであり、上記範囲の全光線透過率とヘイズ値とを有することにより、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを有するプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。本発明において、全光線透過率は、可視光の透過率をいい、ヘイズ値は、日本工業規格(JIS)K7105に規定する曇価である。なお、全光線透過率の上限値は理想的には100%であり、ヘイズ値の下限値は理想的には0%である。
【0030】
また、上記金属酸化物水和物粒子の平均一次粒子径は、1〜10nmであることが好ましく、1〜5nmがより好ましい。これにより、金属酸化物水和物粒子の1分子当たりの水和水量をより多くすることができる。
【0031】
上記金属酸化物水和物としては、酸化ジルコニウム水和物、酸化タングステン水和物、酸化スズ水和物、ニオブをドープした酸化タングステン水和物、酸化ケイ素水和物、酸化リン酸水和物、ジルコニウムをドープした酸化ケイ素水和物、タングストリン酸、モリブドリン酸等を用いることができる。また、これらの金属酸化物水和物を複数混合して用いることができる。特に、高温作動型PEFC用電解質膜に分散させる金属酸化物水和物としては、結晶水によるプロトン伝導が起こりやすい酸化ジルコニウム水和物又は酸化スズ水和物が望ましい。これらの金属酸化物水和物粒子の作製方法としては、微粒子が得られればいずれの作製方法でもよく、共沈法、ゾル−ゲル法等の公知の作製方法が適用できる。
【0032】
特に、上記金属酸化物水和物粒子は、一般式ZrO2・nH2O(n≧2.5)で表される酸化ジルコニウム水和物粒子であることが好ましい。酸化ジルコニウム水和物粒子は、粒子自体のプロトン伝導率が高いからである。上記一般式中のnは、前述のとおり、酸化ジルコニウム水和物粒子を水に分散させた後、濾過し、その後、空気中において60℃で6時間乾燥させた後に示差熱熱重量同時分析(TG/DTA)により測定した数値である。これは、酸化ジルコニウム水和物粒子の水和水量、特に吸着水量は乾燥条件により変化するものであり、酸化ジルコニウム水和物粒子の結晶水と吸着水との総和としての水和水量を相互に比較するための基準を明確にするためである。また、示差熱熱重量同時分析において、酸化ジルコニウム水和物における水和水量変化は、吸着水、結晶水を含めて連続的なものであり、全ての水和水が完全に抜けると、不連続な結晶構造変化が起こるために、約400〜500℃の範囲において発熱ピークが観測される。本発明における水和水量は、示差熱熱重量同時分析において、この発熱ピークが観測される点までの水分量変化から求めたものである。
【0033】
上記有機高分子材料としては、パーフルオロカーボンスルホン酸、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、その他のエンジニアリングプラスチック材料に、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基等のプロトン供与体をドープあるいは化学的に結合、固定化したものを用いることができる。また上記材料において、架橋構造にすること、あるいは部分フッ素化することにより材料安定性を高めることも望ましい。
【0034】
次に、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法について説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法では、先ず、上記金属酸化物水和物粒子、上記有機高分子材料及び有機溶媒を混合して、有機溶媒に有機高分子材料を溶解させると共に、金属酸化物水和物粒子を分散させて分散体を作製する。
【0035】
上記有機溶媒は、上記有機高分子材料を溶解し、その後に除去し得るものであれば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒;i−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール等を用いることができる。有機溶媒は用いる有機高分子材料に合わせて適宜選択するが、その溶解度は15重量%以上であることが好ましい。この際の溶解度は作製する分散体の固形分量に影響を及ぼすが、この固形分量が少なすぎると、製膜する際に十分な厚みのものが得られにくいために好ましくない。十分な厚みのものを得るために重層塗布するなどの手段もあり、必ずしも利用できないわけではないが、均一な膜を得るためには高い塗布技術と複雑な工程が必要となるため、好ましくない。
【0036】
上記金属酸化物水和物粒子の含有率は、金属酸化物水和物粒子と有機高分子材料との合計重量に対して、20〜70重量%とする。金属酸化物水和物粒子の含有率が20重量%未満では、プロトン伝導性及び低燃料透過性を向上させる効果がほとんど得られない。また、上記含有率が70重量%を超えると、このような高含有率において、自立膜化のための有機高分子材料同士の繋がりを得て、空隙を減少させようとすれば、必然的に被吸着物である金属酸化物水和物粒子の比表面積を減少させなければならない。このことは即ち、金属酸化物水和物粒子がより大きな粒子径を持つか、あるいは、凝集により粗大な分散粒子径を持つこととなり、最終的に得られる電解質膜において優れた特性を得ることができない。ここで、低燃料透過性に関しては、金属酸化物水和物粒子がいかに均一に分散して膜の骨格を形成しているかということが重要な点であり、20〜70重量%の範囲内であれば含有率にはそれほど大きく影響を受けない。一方で、プロトン伝導性に関しては、前述のように金属酸化物水和物粒子同士の接点が多いほどプロトン伝導性により良い影響を及ぼすため、20〜70重量%の範囲内であっても含有率が低い場合には飛躍的なプロトン伝導性の向上は期待できない。プロトン伝導性と低燃料透過性に関し、40重量%より少ない範囲では、低燃料透過性については変わらず飛躍的な性能の向上が見られるが、プロトン伝導性については向上するもののその上昇率は多大ではない。金属酸化物水和物粒子間のプロトン伝導は主にホッピングあるいはトンネル効果により起こると考えられるが、これらの種類の電気伝導には、それが可能となる粒子間距離が存在し、それ以上の粒子間距離ではほとんど粒子間の直接的な伝導は起こらず、金属酸化物水和物粒子間にある有機高分子材料中をプロトンが伝導することとなる。従って、いかに微粒子の凝集体を形成し分散状態が良い場合でも、金属酸化物水和物粒子の含有率が低い場合には必然的に粒子間距離が開き、膜としてのプロトン伝導率は急激に低下すると考えられる。よって、金属酸化物水和物の含有率は20〜70重量%であることが必要であり、特にプロトン伝導性と低燃料透過性の両者の特性を向上させるという意味では40〜60重量%がより好ましい。
【0037】
上記分散体の作製方法は特に限定されない。例えば、金属酸化物水和物粒子を、有機高分子材料を溶解させた溶液中に混合し、分散機を用いて分散することができる。分散法としては、スターラ法、ボールミル法、ジェットミル法、ナノミル法、超音波法等を用いることができる。この際、最終的に得られる電解質膜内部における金属酸化物水和物粒子の凝集粒子径が、TEM写真の目視により測定して1μm以下となるまで分散させる。凝集粒子径が1μmより大きいと、膜中で金属酸化物水和物粒子が全体にわたって十分に充填されにくくなり、大きな隙間が発生し、有機高分子材料あるいは空隙のみからなる空間の面積が増大し、結果的に電解質膜としての性能向上が得られにくくなる。
【0038】
次に、上記分散体を基板に塗布し、有機溶媒を蒸発させることで、無機有機複合電解質膜を得ることができる。その後、水に浸漬することで、基板から複合電解質膜を剥がし取ることにより、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜が得られる。上記分散体の基板への塗布方法は特に限定されるものではなく、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等を用いることができる。上記基板は、上記分散体を塗布した後に膜を剥がすことができれば特に制限はなく、ガラス板、テフロンシート、ポリイミドシート等を用いることができる。
【0039】
以下、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の実施形態を従来のプロトン伝導性複合電解質膜と共に図面を用いて説明する。
【0040】
先ず、従来のプロトン伝導性複合電解質膜について説明する。図2に従来のプロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子と有機高分子材料とで構成される複合電解質膜の模式断面図を示す。図2において、21がスルホン酸基等のプロトン供与体を有する有機高分子材料であり、22がプロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子であり、図2では、金属酸化物水和物粒子22の具体例として酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・nH2O)を用いた例を示した。有機高分子材料は、含水状態においてプロトン伝導性を示す。これは、含水状態においてスルホン酸基等のプロトン供与体からプロトンが解離して伝導するためである。この有機高分子材料を単体で電解質膜に用いた場合、含水量の増加により膜の膨潤が起こり、それに伴ってメタノールあるいは水素などの燃料も有機高分子材料内を透過してしまう。一方、金属酸化物水和物粒子においては、結晶内及び表面に吸着した水和水を介してプロトンが伝導していく。さらに、これらの無機粒子が高い含有率で存在することによって、無機粒子による骨格を形成すると共に、これらの無機粒子同士を繋ぐ役割をする有機高分子材料もまた、その動きが抑制されるために、含水による膜の膨潤が抑制され、同時に燃料のクロスオーバーも抑制される。また、金属酸化物水和物は無機物としては比較的高いプロトン伝導率を有する。例えば、25℃におけるプロトン伝導性は、酸化ジルコニウム水和物(ZrO2・nH2O)では2.8×10-3S/cm、酸化スズ水和物(SnO2・nH2O)では4.7×10-3S/cmである。さらに、金属酸化物水和物の特性上、水和水を吸着・保持する能力があるために、比較的湿度の低い環境においても、これらの粒子が持つ水分により膜そのもののプロトン伝導性を維持することができる可能性がある。
【0041】
以上のように、有機高分子材料と金属酸化物水和物粒子とを組み合わせた複合電解質膜により、燃料の膜透過をブロックしつつ、プロトンは通すことのできる電解質膜を得ることが可能になると考えられる。即ち、有機高分子材料の単一電解質膜に見られるプロトン伝導性と、燃料のクロスオーバーとのトレードオフの関係を改善することができると期待される。
【0042】
しかしながら、実際の複合電解質膜の特性は、金属酸化物水和物粒子の分散状態により大きく変わる。本発明は、金属酸化物水和物粒子と有機高分子材料からなる複合電解質膜において、金属酸化物水和物粒子の分散状態に関して鋭意研究を行い、より優れた性能を引き出せるように最適化したものである。
【0043】
次に、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜について説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の厚みは特に制限はないが、10〜200μmが好ましい。実用に耐える膜の強度を得るには10μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減、即ち発電性能向上のためには200μmより薄い方が好ましい。特に、20〜100μmが好ましい。溶液キャスト法により製膜した場合、膜厚は溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。また、溶融材料を用いて製膜する場合、膜厚は溶融プレス法あるいは溶融押し出し法などで得た所定厚さのフィルムを、所定の倍率に延伸することで膜厚を制御できる。
【0044】
この際、膜は半透明〜透明であり、その光学的特性値は、膜厚25μmにおける全光線透過率が80%以上、ヘイズ値が50%以下の条件を満たすことが好ましい。このうち、全光線透過率及びヘイズ値は、両者合わせて膜中の金属酸化物水和物粒子の分散状態を表す指標である。本発明においては、TEM写真による目視からも凝集粒子径や粒子面積比などによって分散状態の評価を行うが、これらはあくまでも部分的な領域に関する評価であり、併せて光学特性を評価することで、より全体的な分散均一性を確認することができるため、分散状態を表す物性値として全光線透過率とヘイズ値は重要なものである。
【0045】
例えば、図3に示すような場合には、金属酸化物水和物粒子同士の膜中における凝集粒子径が大きく形状も不均一であれば、TEMによる目視でも確認できると共に、可視光の透過を阻害することになるため全光線透過率が低下する結果となり、さらに膜表面に現れる粒子の形状が均一ではないために光散乱が生じてヘイズ値が上昇する。図3において、31が有機高分子材料、32が金属酸化物水和物粒子、33が透過光、34が散乱光を示す。図3では、プロトンは金属酸化物水和物粒子32から有機高分子材料31を介して伝導する。
【0046】
また、図4に示すように、平均値では凝集粒子径が小さい場合でも、その粒子径分布や位置分布に大きなばらつきがあれば、その中の粗大粒子により光透過が疎外され、部分的に生じる有機物あるいは空隙のみからなる空間や膜表面に現れる無機粒子形状が均一ではなくなるために光散乱が多くなり、ヘイズ値が上昇する。一方、図4では、膜全体としては凝集粒子が占める割合が小さいため、全光線透過率は高くなる。図4において、41が有機高分子材料、42が金属酸化物水和物粒子、43が透過光、44が散乱光を示す。図4では、プロトンは金属酸化物水和物粒子42から有機高分子材料41を介して伝導する。
【0047】
このような全体としての不均一性は、TEM写真による目視のみでは、どうしても数視野の観測になるため、見逃しがちである。これら金属酸化物水和物粒子の膜中での大きな凝集体形成や不均一化は、プロトンの伝導パスをスムーズにする上では無い方が好ましく、またそれと同時に、膜中に有機高分子材料のみで形成される部位が生じることで、膜の膨潤・劣化を招くこととなる。従って、膜の特性は、これらの粗大な凝集体の存在がなく、且つ、膜中の金属酸化物粒子の存在形態が均一であるために、全光線透過率が80%以上であるだけではなく、ヘイズ値も50%以下という光学特性を満足することが好ましい。これと同様の意味において、膜中における平均凝集粒子径は、下限値を金属酸化物水和物粒子の平均一次粒子径程度とし、1μm以下の範囲であることが好ましい。なお、金属酸化物水和物粒子の一次粒子径が10nmより大きい場合には、分散特性等に対する影響が即座に現れるということはないが、吸着水量が減少するために全体として得られる水和水量が減少し、一分子当たりの水和水量が2.5未満となるため良好なプロトン伝導性が得られなくなる。このため、金属酸化物水和物粒子の平均粒子径は10nm以下であることが好ましい。また、先に述べた、分散体における分散粒子径が数〜数十μmなど大きな凝集体を形成している場合には、膜化した場合にもこの影響が残り、可視光の散乱が大きくなり、全光線透過率も低下し、白色不透明、あるいは擦りガラス状半透明の膜が得られる場合が多い。このように全光線透過率の低い膜は、分散が不十分であることを示し、この場合でもプロトン伝導率の高い無機粒子を分散させているためプロトン伝導性は改善される場合があるが、特に燃料透過率は増大してしまう恐れがあるため、好ましくない。
【0048】
一方、無機粒子の含有率が低く、均一の分散状態を持つ場合には、当然、全光線透過率・ヘイズ値共により良い数値を示す。さらには、図5に示すように、分散状態が非常に悪く粗大粒子が多数存在する場合でも、無機粒子の含有率が十分に低ければ、本発明の光学特性を満たす場合がある。しかしながら、この場合には、必ずしも分散状態が向上したことを示すわけではなく、ただ単に有機高分子材料のみの空間が増加し、有機高分子材料そのものが持つ全光線透過率・ヘイズ値に近づいただけであると考えられ、無機材料を添加・複合化したことによる性能の向上が見られない。図5において、51が有機高分子材料、52が金属酸化物水和物粒子、53が透過光、54が散乱光を示す。図5では、プロトンは金属酸化物水和物粒子52から有機高分子材料51を介して伝導すると共に、金属酸化物水和物粒子52の間でのホッピング伝導又はトンネル伝導により伝導する。
【0049】
以上の意味で、本発明の目的を達成するためには、TEM写真による目視での粒子分散状態の確認と、光学特性の評価との両者が必要であり、図1に示すように、十分に無機粒子が充填された分散状態及び高い光学特性を示すようにすることが必要である。そのためには、金属酸化物水和物粒子の平均凝集粒子径は1μm以下であり、金属酸化物水和物粒子の含有率は、金属酸化物水和物粒子と有機高分子材料との合計重量に対して、20〜70重量%であることが必要であり、さらに、プロトン伝導性複合電解質膜の断面において、金属酸化物水和物粒子の占める面積の割合は、上記断面の全断面積に対して、90%以上であることが好ましい。図1において、11が有機高分子材料、12が金属酸化物水和物粒子、13が透過光、14が散乱光を示す。図1では、プロトンは金属酸化物水和物粒子12の間でのホッピング伝導又はトンネル伝導により伝導する。
【0050】
(実施形態2)
次に、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池を説明する。本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、上記酸素極と上記燃料極との間に配置された実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを備える。また、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を備えている。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
【0051】
以下、本発明の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池の一例を図面に基づき説明する。
【0052】
図6は、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池の一例を示す模式断面図である。図6において、燃料電池60は、膜電極接合体61を備え、膜電極接合体61は、酸素極1、燃料極2及びプロトン伝導性複合電解質膜3から構成されている。
【0053】
酸素極1及び燃料極2は、それぞれ、触媒層1b、2bとガス拡散層1a、2aとを備えているが、酸素極1及び燃料極2は、それぞれ触媒層1b、2bのみで構成されていてもよい。また、酸素極1のガス拡散層1a及び燃料極2のガス拡散層2aは、多孔性の電子伝導性材料等で構成することができ、例えば、撥水処理を施した多孔質炭素シート等を用いることができる。プロトン伝導性複合電解質膜3は、実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜である。
【0054】
また、燃料電池60は、酸素極1のガス拡散層1a及び燃料極2のガス拡散層2aの外側に、それぞれ集電板5、6を備えている。酸素極1側の集電板5には、酸素(空気)を取り込むための孔9が設けられており、さらにリード体5aが接続されている。また、燃料極2側の集電板6には、燃料経路8から燃料(水素等)を取り込むための孔7が設けられており、さらにリード体6aが接続されている。膜電極接合体61は集電板5、6により挟まれ、シール材4で封止されることにより燃料電池60が構成される。
【0055】
集電板4、5としては、例えば、白金、金等の貴金属や、ステンレス鋼等の耐食性金属、又は炭素材料等で構成することができる。また、それらの材料に耐食性向上のために、表面にメッキや塗装が施されていてもよい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
金属酸化物水和物粒子として、一次粒子の平均粒子径2nmの酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・6H2O)を用い、有機高分子材料として、ポリエーテルスルホンにスルホン酸基を導入したSM−PES(Sulfonated Methyl−Poly Ether Sulfone)を用いた。SM−PESの乾燥重量当たりのイオン交換容量は、1.25meq/gとした。
【0058】
先ず、SM−PESを有機溶媒であるジメチルスルホキシドに溶解させ、溶質濃度25重量%の溶液を準備した。次に、この溶液に下記重量割合で、ジメチルスルホキシドと酸化ジルコニウム水和物粒子とを加えて、ボールミル法を用いて60時間混合し、酸化ジルコニウムを分散させた分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(溶質濃度:25重量%) 400重量部
(3)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0059】
次に、この分散体を、アプリケータによりガラス板上に塗布し、真空乾燥機により60℃で3時間乾燥することで、ジメチルスルホキシドを蒸発させて製膜した。その後、得られた膜を水に浸漬することで、ガラス板上から剥がし取った。続いて、その膜を1Mの硫酸水溶液に浸漬することでプロトン化し、酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させたプロトン伝導性複合電解質膜とした。得られた複合電解質膜は全体的に均一な白色透明膜であり、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有率は50重量%であり、厚さは25μmであった。
【0060】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について、日本分光社製の分光光度計“V−570”を用いて光学特性を測定したところ、全光線透過率は83.6%、ヘイズ値は26.6%であった。また、10万倍で撮影した断面TEM写真から求めた酸化ジルコニウム水和物粒子の平均凝集粒子径は65nmであり、同領域の50万倍で撮影した断面TEM写真から求めた酸化ジルコニウム粒子が占める面積の割合は、96.4%であった。この50万倍の断面TEM写真を図7に示す。
【0061】
なお、平均凝集粒子径は、100個の凝集体の直径から求めた平均値であり、酸化ジルコニウム粒子が占める面積の割合は、撮影した断面TEM写真5視野の平均値から求めた。
【0062】
(実施例2)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(溶質濃度:25重量%) 933重量部
(3)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0063】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有率が30重量%、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0064】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして各特性を測定したところ、全光線透過率は85.8%、ヘイズ値は14.9%であり、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均凝集粒子径は82nmであり、酸化ジルコニウム粒子が占める面積の割合は、93.8%であった。
【0065】
(実施例3)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を40時間混合して分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(溶質濃度:25重量%) 400重量部
(3)ジメチルスルホキシド 500重量部
【0066】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有率が50重量%、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0067】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして各特性を測定したところ、全光線透過率は82.7%、ヘイズ値は33.4%であり、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均凝集粒子径は115nmであり、酸化ジルコニウム粒子が占める面積の割合は、84.1%であった。
【0068】
(比較例1)
酸化ジルコニウム水和物粒子を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、厚さ30μmのプロトン伝導性電解質膜を作製した。
【0069】
このようにして得られたプロトン伝導性電解質膜について実施例1と同様にして光学特性を測定したところ、全光線透過率は89.3%、ヘイズ値は0.3%であった。
【0070】
(比較例2)
ボールミル法による混合時間を25時間とした以外は、実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有率が50重量%、厚さが25μmであり、白色不透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0071】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして光学特性を測定したところ、全光線透過率は74.6%、ヘイズ値は65.9%であった。また、2千倍で撮影した断面走査型電子顕微鏡(SEM)写真から求めた酸化ジルコニウム水和物粒子の平均凝集粒子径は3.1μmであり、同じ断面SEM写真から求めた酸化ジルコニウム粒子が占める面積の割合は、22.0%であった。この断面SEM写真を図8に示す。
【0072】
(比較例3)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(溶質濃度:25重量%) 133重量部
(3)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0073】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有率が75重量%、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色のプロトン伝導性複合電解質膜を作製したが、機械的強度が非常に弱く、ひび割れが多く発生し、自立膜の形状保持が困難であった。
【0074】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜については、自立膜化が困難であったため、全光線透過率及びヘイズ値は測定不可能であった。しかし、上記分散体をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、自立膜化させずに製膜した膜の断面TEM写真を10万倍で撮影した結果、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均凝集粒子径は110nmであり、同領域の50万倍で撮影した断面TEM写真から求めた酸化ジルコニウム粒子が占める面積の割合は、84.7%であった。
【0075】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜3の電解質膜のプロトン伝導率及びメタノール透過率を測定した。
【0076】
<プロトン伝導率の測定>
各電解質膜のプロトン伝導率をインピーダンス法により測定した。具体的には、二本の白金線を電解質膜に押し当て、それらの白金線間のインピーダンスを測定することにより、その値からプロトン伝導率を算出した。測定時の雰囲気は温度40℃、相対湿度100%の条件とした。その結果を表1に示す。
【0077】
<メタノール透過率の測定>
各電解質膜のメタノール透過率をガスクロマトグラフィー法により測定した。具体的には、メタノール透過量測定用セルとして、中央を電解質膜で仕切ったセルを用い、そのセルの片側に10%のメタノール水溶液を入れ、他方の片側に純水を入れて用いた。このセルを40℃のウォーターバスに入れ、片側の純水を10分毎にサンプリングし、サンプルに含まれるメタノール量をガスクロマトグラフィー法により測定することにより、メタノール水溶液側から電解質膜を通って純水側に透過したメタノール量を算出した。その単位はkg・μm/m2・hであり、1時間当たりに透過したメタノール量を、膜の厚さ及び面積で規格化したものである。その結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示したように、実施例1〜3では、電解質膜中の平均凝集粒子径が1μm以下と小さく、無機粒子の含有率も高く、且つ、全光線透過率も向上しヘイズ値は低下していることがわかる。実施例1〜3においては、比較例1の無機粒子を分散しない膜よりも、メタノール透過率は10分の1以下にも低下するなど、低燃料透過性(低クロスオーバー)における性能の著しい向上が見られる。これは、電解質膜中で無機粒子である酸化ジルコニウム水和物粒子が均一に分散しているために、粒子の分布に偏りがなく有機高分子材料であるSM−PESのみが存在する領域の体積が小さく、結果として、膜の膨潤を防ぐことができたためと考えられる。
【0080】
次に、実施例2においては無機粒子の含有率を30重量%と低めにしたことで、クロスオーバーを顕著に抑えることができる一方で、プロトン伝導率は向上するものの飛躍的な向上はしないことがわかる。一方、実施例1においては酸化ジルコニウム水和物という本来高いプロトン伝導率を持つ材料を、膜中になるべく隙間無く高い含有率で充填したことにより、酸化ジルコニウム粒子間の接点が多くなることでプロトン伝導することが可能となり、全体としてのプロトン伝導率は従来のフッ素系電解質膜と同等の性能にまで向上している。なお、全光線透過率は無機粒子の含有率にも依存するため、実施例1は実施例2と比べてより平均凝集粒子径が小さいが、含有率が高いために全光線透過率がやや低い結果となっている。
【0081】
また、実施例3では、酸化ジルコニウム粒子が占める面積の割合が90%を下回ったため、酸化ジルコニウム粒子の含有率は実施例1と同一であっても、プロトン伝導率は実施例2と同程度に留まった。
【0082】
一方で、比較例2は、同様に酸化ジルコニウム水和物粒子を50重量%という高い含有率で分散させているにも関わらず、その凝集粒子径が大きいために、メタノール透過率及びプロトン伝導率共に大きな性能向上が見られず、無機粒子を添加していない比較例1と比べても、メタノール透過率及びプロトン伝導率共に飛躍的な性能の向上が見られない。これは、凝集粒子径が大きいために、酸化ジルコニウム水和物粒子の膜中での分布が偏り、有機高分子材料のみで充填された空間が大きな体積を占めるようになった結果、無機粒子は思うように膜の骨格としての効果を発現できず、膜膨潤を効率的に防ぐことができなくなっているためであると考えられる。また、本来であれば、無機粒子が50重量%と高い含有率であるため、分散性が良く充填率が高ければより優れたプロトン伝導率が得られることが期待されるが、無機粒子が多く存在している場合であっても、それらが大きな凝集体を形成しているために無機粒子の充填率が下がり、粒子同士の接触によるプロトン伝導が起こりにくくなり、実施例1と比べてごくわずかなプロトン伝導率の向上しか見られない。
【0083】
また、比較例3では、比較的分散状態が良く、同時に無機粒子含有率が高いために、無機粒子の表面積に足るだけの有機高分子材料が存在せず、結果的に空隙の存在率が高くなり、自立膜を形成することができなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを有するので、これを用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の複合電解質膜を示す模式断面図である。
【図2】従来の複合電解質膜を示す模式断面図である。
【図3】目視による分散状態も悪く、光学特性も悪い場合の複合電解質膜を示す模式断面図である。
【図4】目視による分散状態は良いが、光学特性が悪い場合の複合電解質膜を示す模式断面図である。
【図5】目視による分散状態は悪いが、光学特性は良い場合の複合電解質膜を示す模式断面図である。
【図6】本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池の一例を示す模式断面図である。
【図7】実施例1で得られた複合電解質膜の50万倍のTEM写真を示す図である。
【図8】比較例3で得られた複合電解質膜の2千倍のSEM写真を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1 酸素極
2 燃料極
3 プロトン伝導性複合電解質膜
11 有機高分子材料
12 金属酸化物水和物粒子
13 透過光
14 散乱光
60 燃料電池
61 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子と、プロトン伝導性を有する有機高分子材料とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、
前記金属酸化物水和物粒子の1分子当たりの水和水量が、2.5以上であり、
前記金属酸化物水和物粒子の平均凝集粒子径が、1μm以下であり、
前記金属酸化物水和物粒子の含有率が、前記金属酸化物水和物粒子と前記有機高分子材料との合計重量に対して、20〜70重量%であることを特徴とするプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項2】
前記プロトン伝導性複合電解質膜の断面において、前記金属酸化物水和物粒子の占める面積の割合が、前記断面の全断面積に対して、90%以上である請求項1に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項3】
膜厚25μmにおける全光線透過率が80%以上であり、ヘイズ値が50%以下である請求項1又は2に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項4】
前記金属酸化物水和物粒子の平均一次粒子径が、1〜10nmである請求項1〜3のいずれかに記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項5】
前記金属酸化物水和物粒子は、一般式ZrO2・nH2O(n≧2.5)で表される酸化ジルコニウム水和物粒子である請求項1〜4のいずれかに記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項6】
酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に配置された請求項1〜5のいずれかに記載のプロトン伝導性複合電解質膜とを備えることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項7】
請求項6に記載の膜電極接合体を備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−104895(P2009−104895A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275542(P2007−275542)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】