説明

プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスの製造方法

【課題】天然ガスなどの含炭素原料あるいは合成ガスから、炭素数2以下の成分の濃度が低くプロパンおよび/またはブタン濃度の高いLPGを製造する。
【解決手段】合成ガスから、触媒の存在下に、プロパンの沸点より低い沸点を持つ物質である低沸点成分を含み、プロパンまたはブタンを主成分とする混合ガスである低級パラフィン含有ガスを製造する低級パラフィン製造工程と、低級パラフィン含有ガスから、低沸点成分を分離し、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを得る分離工程とを有することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。さらに、含炭素原料から合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、分離された低沸点成分を合成ガス製造工程の原料としてリサイクルするリサイクル工程とを有する液化石油ガスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は合成ガスから液化石油ガスを製造する方法に関し、また天然ガス等の含炭素原料から液化石油ガスを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
液化石油ガス(LPG)は、常温常圧下ではガス状を呈する石油系もしくは天然ガス系炭化水素を圧縮し、あるいは同時に冷却して液状にしたものをいい、その主成分はプロパンまたはブタンである。液化石油ガスは家庭用や移動体用の燃料として有用である。
【0003】
メタン等の炭化水素を改質して得られる合成ガスから、LPGを製造する方法は、非特許文献1に開示されている。この文献では、メタノール合成用触媒である4wt%Pd/SiO2、Cu−Zn−Al混合酸化物[Cu:Zn:Al=40:23:37(原子比)]またはCu系低圧メタノール合成用触媒(商品名:BASF S3−85)と、SiO2/Al23=7.6の高シリカY型ゼオライトとから成るハイブリッド触媒を用い、合成ガスからメタノール、ジメチルエーテルを経由してC2〜C4のパラフィンを選択率69〜85%で製造する方法が開示されている。しかし、生成物中の炭素数2以下の成分の含有量が低いとは言えず、生成物の組成がLPG製品に適しているとは言えない。
【0004】
【非特許文献1】
”Selective Synthesis of LPG from Systhesis Gas”、Kaoru Fujimoto et.al.、Bull.Chem.Soc.Jpn,58,3059−3060(1985)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、合成ガスからプロパンおよび/またはブタンを選択性良く製造し、炭素数2以下の成分の濃度が低くプロパンおよび/またはブタン濃度の高いLPGを製造することができる方法を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、天然ガスなどの含炭素原料から、炭素数2以下の成分の濃度が低くプロパンおよび/またはブタン濃度の高いLPGを製造することができる方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明により、合成ガスから、触媒の存在下に、プロパンの沸点より低い沸点を持つ物質である低沸点成分を含み、プロパンまたはブタンを主成分とする混合ガスである低級パラフィン含有ガスを製造する低級パラフィン製造工程と、
該低級パラフィン含有ガスから、該低沸点成分を分離し、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを得る分離工程と
を有することを特徴とするプロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスの製造方法が提供される。
【0008】
また本発明により、含炭素原料から合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、合成ガスから、触媒の存在下に、プロパンの沸点より低い沸点を持つ物質である低沸点成分を含み、プロパンまたはブタンを主成分とする混合ガスである低級パラフィン含有ガスを製造する低級パラフィン製造工程と、
該低級パラフィン含有ガスから、該低沸点成分を分離し、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを得る分離工程と、
分離された該低沸点成分を、該合成ガス製造工程の原料としてリサイクルするリサイクル工程と
を有することを特徴とするプロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスの製造方法が提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】
〔合成ガス製造工程〕
含炭素原料としては、炭素を含む物質であって、H2O、O2およびCO2から選ばれる少なくとも一種と反応してH2およびCOを生成可能なものを用いることができ、合成ガスの原料として公知のものを用いることができる。例えば、メタンやエタン等の低級炭化水素を用いることができる。また、天然ガス、ナフサ、石炭などを用いることも可能である。
【0010】
本発明では触媒を用いるため、含炭素原料としては、硫黄等の触媒被毒物質の含有量が少ないものが好ましい。また、含炭素原料に触媒被毒物質が含まれる場合には、必要に応じて脱硫等、触媒被毒物質を除去する工程を採用することができる。
【0011】
合成ガスは水素と一酸化炭素とを含む混合ガスであり、水素および一酸化炭素からなる混合ガスであってもよく、また天然ガスを改質して得られる改質ガスのように水素と一酸化炭素に加えて二酸化炭素や水蒸気を含む混合ガスであってもよい。あるいは石炭ガス化により得られる石炭ガスであってもよい。
【0012】
合成ガス製造工程は、含炭素原料から上記合成ガスを製造する工程であり、公知の方法によって行うことができる。例えば、天然ガスを原料とした場合には、水蒸気改質法や自己熱改質法など、公知の改質方法によって行うことができる。水蒸気改質に必要な水蒸気や自己熱改質に必要な酸素などは必要に応じて供給することができる。また石炭を原料とする場合には、空気吹きガス化炉などを用いて合成ガスを製造することができる。
【0013】
さらに、例えば改質器の下流にシフト反応器を設け、シフト反応によって合成ガスの組成を調整することができる。
【0014】
本発明にとって合成ガス製造工程から製造される好ましい合成ガスの組成は、低級パラフィン製造のための化学量論から言えば水素/COのモル比は7/3=2.3であるが、合成ガスからLPGへの転換反応で生成する水によるシフト反応によって水素が生成するため、合成ガス中の水素濃度は、一酸化炭素を好適に反応させるためには、一酸化炭素1モルに対して1.5モル以上が好ましく、1.8モル以上がより好ましく、一酸化炭素が好適に反応し主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを得ることのできる量があればよく、余剰の水素は原料ガスの全圧を不必要に上げることになり技術の経済性を低下させるため、水素濃度は一酸化炭素1モルに対して3.0モル以下が好ましく、2.3モル以下がより好ましい。
【0015】
上記好ましい組成の合成ガスを製造するには、含炭素原料とスチーム、酸素、二酸化炭素の供給量比や、合成ガス製造触媒の種類、反応の操作条件を適宜選択すればよい。たとえば、天然ガスの改質器の原料ガスとして、スチーム/メタンモル比が1.0、二酸化炭素/メタンモル比が0.4となるような組成のガスを用いて、RuないしRh/焼結低表面積化マグネシア触媒が充填された外熱式多管反応管型の装置にて、反応温度(触媒層出口温度)800〜900℃、圧力1〜4MPa、ガス空間速度(GHSV)2000hr-1等の操作条件にて行うことができる。
【0016】
合成ガス製造においてスチームを用いて改質する場合、エネルギー効率の観点からスチーム原料カーボン比(S/C)は1.5以下とすることが好ましく、0.8〜1.2とすることがより好ましいが、このような低い値にすると、炭素析出発生の可能性が無視できなくなる。一方、分離工程で得られる低沸点成分を合成ガス製造工程にリサイクルした場合、この成分中に含まれるメタンはもちろんのことエタンないしエチレンも含炭素原料となりまたこの成分中に含まれているはシフト反応によって生成した二酸化炭素ガスもCO2リフォーミング反応によって合成ガスに戻すことができるので原料原単位を低減させることかでき、かつS/Cを上記のような低い値にしてもCO2リフォーミング反応によって炭素析出発生の可能性を低下させることができる。上記リサイクルを行い、かつ低S/Cで合成ガス製造を行う場合には、例えばWO98/46524号公報、特開2000−288394号公報あるいは特開2000−469号公報に記載されるような、良好な合成ガス化反応の活性を有しつつも炭素析出活性が抑えられた触媒を用いることが好ましい。以下、これら触媒について述べる。
【0017】
WO98/46524号公報に記載されている触媒は、金属酸化物からなる担体にロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム及び白金の中から選ばれる少なくとも1種の触媒金属を担持させた触媒であって、該触媒の比表面積が25m2/g以下で、かつ該担体金属酸化物中の金属イオンの電気陰性度が13.0以下であり、該触媒金属の担持量が金属換算量で担体金属酸化物に対して0.0005〜0.1モル%である触媒である。さらに、炭素析出防止の観点から、上記電気陰性度は4〜12が好ましく、上記触媒の比表面積は0.01〜10m2/gが好ましい。
【0018】
なお、前記金属酸化物中の金属イオンの電気陰性度は、次式により定義される。
Xi=(1+2i)Xo
ここでXi:金属イオンの電気陰性度、Xo:金属の電気陰性度、i:金属イオンの荷電子数である。金属酸化物が複合金属酸化物の場合は、平均の金属イオン電気陰性度を用い、その値は、その複合金属酸化物中に含まれる各金属イオンの電気陰性度に複合酸化物中の各酸化物のモル分率を掛けた値の合計値とする。金属の電気陰性度(Xo)はPaulingの電気陰性度を用いる。Paulingの電気陰性度は、「藤代亮一訳、ムーア物理化学(下)(第4版)、東京化学同人,P707(1974)」の表15.4記載の値を用いる。なお、金属酸化物中の金属イオンの電気陰性度については、例えば、「触媒学会編、触媒講座、第2巻、P145(1985)」に詳述されている。
【0019】
この触媒において、前記金属酸化物には、Mg、Ca、Ba、Zn、Al、Zr、La等の金属を1種又は2種以上含む金属酸化物が包含される。このような金属酸化物としては、例えばマグネシア(MgO)が挙げられる。
【0020】
メタンとスチームとを反応させる方法(スチームリフォーミング)の場合、その反応は次式で示される。
【0021】
【化1】

【0022】
メタンと二酸化炭素(CO2)とを反応させる方法(CO2リフォーミング)の場合、その反応は次式で示される。
【0023】
【化2】

【0024】
メタンとスチームと二酸化炭素(CO2)とを反応させる方法(スチーム/CO2混合リフォーミング)の場合、その反応は次式で示される。
【0025】
【化3】

【0026】
上記触媒を用いてスチームリフォーミングを行う場合、その反応温度は好ましくは600〜1200℃、より好ましくは600〜1000℃であり、その反応圧力は、好ましくは0.098MPaG〜3.9MPaG、より好ましくは0.49MPaG〜2.9MPaG(Gはゲージ圧であることを示す)である。また、この反応を固定床方式で行う場合、そのガス空間速度(GHSV)は好ましくは1,000〜10,000hr-1、より好ましくは2,000〜8,000hr-1である。含炭素原料に対するスチーム使用割合を示すと、含炭素原料(リサイクル原料を含めCO2を除く)の炭素1モル当り、好ましくはスチーム(H2O)0.5〜2モル、より好ましくは0.5〜1.5モル、さらに好ましくは0.8〜1.2モルの割合である。
【0027】
上記触媒を用いてCO2リフォーミングを行う場合、その反応温度は好ましくは500〜1200℃、より好ましくは600〜1000℃であり、その反応圧力は、好ましくは0.49MPaG〜3.9MPaG、より好ましくは0.49MPaG〜2.9MPaGである。また、上記触媒を用いてCO2リフォーミングを固定床方式で行う場合、そのガス空間速度(GHSV)は1,000〜10,000hr-1、好ましくは2,000〜8,000hr-1である。含炭素原料に対するCO2の使用割合を示すと、含炭素原料(リサイクル原料を含めCO2を除く)中の炭素1モル当り、好ましくはCO220〜0.5モル、好ましくは10〜1モルの割合である。
【0028】
上記触媒を用いて、含炭素原料にスチームとCO2の混合物を反応させて合成ガスを製造する(スチーム/CO2混合リフォーミングを行う)場合、スチームとCO2との混合割合は特に制約されないが、一般的には、H2O/CO2モル比で、0.1〜10で、その反応温度は好ましくは550〜1200℃、より好ましくは600〜1000℃であり、その反応圧力は、好ましくは0.29MPaG〜3.9MPaG、より好ましくは0.49MPaG〜2.9MPaGである。また、この反応を固定床方式で行う場合、そのガス空間速度(GHSV)は好ましくは1,000〜10,000hr-1、より好ましくは2,000〜8,000hr-1である。含炭素原料(リサイクル原料を含めCO2を除く)に対するスチーム使用割合を示すと、含炭素原料(リサイクル原料を含めCO2を除く)の炭素1モル当り、好ましくはスチーム(H2O)0.5〜2モル、より好ましくは0.5〜1.5モル、さらに好ましくは0.5〜1.2モルの割合である。
【0029】
特開2000−288394号公報に記載される触媒は、下記式で表される組成を有する複合酸化物からなり、MおよびCoが該複合酸化物中で高分散化されていることを特徴とするリホーミング用触媒である。
aM・bCo・cMg・dCa・eO
(この式中、a,b,c,d,eはモル分率であり、a+b+c+d=1、0.0001≦a≦0.10、0.0001≦b≦0.20、0.70≦(c+d)≦0.9998、0<c≦0.9998、0≦d<0.9998、e=元素が酸素と電荷均衡を保つのに必要な数である。また、Mは周期律表第6A族元素、第7A族元素、Coを除く第8族遷移元素、第1B族元素、第2B族元素、第4B族元素およびランタノイド元素の少なくとも1種類の元素である。)
特開2000−469号公報に記載される触媒は、下記式で表わされる組成を有する複合酸化物からなり、MおよびNiが該複合酸化物中で高分散化されていることを特徴とするリホーミング用ニッケル系触媒である。
aM・bNi・cMg・dCa・eO
(この式中、a、b、c、d、eはモル分率であり、a+b+c+d=1、0.0001≦a≦0.10、0.0001≦b≦0.10、0.80≦(c+d)≦0.9998、0<c≦0.9998、0≦d<0.9998、e=元素が酸素と電荷均衡を保つのに必要な数であり、Mは周期律表第3B族元素、第4A族元素、第6B族元素、第7B族元素、第1A族元素およびランタノイド元素の少なくとも1種類の元素である。)
これらの触媒も、WO98/46524号公報に記載の触媒と同様にして用いることができる。
【0030】
〔低級パラフィン製造工程〕
低級パラフィン製造工程で得られる低級パラフィン含有ガスは、プロパンまたはブタンを主成分とする。液化特性の観点から、低級パラフィン含有ガス中のプロパンとブタンの合計の含有量は、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。
【0031】
さらに、燃焼性および蒸気圧特性の観点から、ブタンよりプロパンが多いことが好ましく、低級パラフィン含有ガス中のプロパンの含有量は、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましい。
【0032】
本発明では、低級パラフィン含有ガスにはプロパンの沸点より低い沸点を有する低沸点成分が含まれる。低沸点成分の例としてはエタンが挙げられる。低沸点成分にメタンやエチレンが含まれていてもよい。低沸点成分の含有量は、本発明の効果を好適に得るために、5モル%以上30モル%以下が好ましく、10モル%以上20モル%以下がより好ましい。
【0033】
本発明の低級パラフィン製造工程には、合成ガスから上記低級パラフィン含有ガスを得る反応を促進することのできる触媒を用いることができる。例えば、メタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分とを含有する触媒を用いることができる。ここで、メタノール合成触媒成分とは、CO+2H2→CH3OHの反応において触媒作用を示すものを指す。また、ゼオライト触媒成分とは、メタノールの炭化水素への縮合反応および/またはジメチルエーテルの炭化水素への縮合反応において触媒作用を示すゼオライトを指す。
【0034】
上記触媒として、たとえば、メタノール合成用触媒である4質量%Pd/SiO2、Cu−Zn−Al混合酸化物[Cu:Zn:Al=40:23:37(原子比)]およびCu系低圧メタノール合成用触媒(商品名:BASF S3−85)から選ばれる少なくとも一種と、SiO2/Al23=7.6の高シリカY型ゼオライトとを混合した混合触媒を用いることができる。前者と後者の混合比は、例えば質量比で1:1程度とすることができる。
【0035】
また、ゼオライト触媒成分に対するメタノール合成触媒成分の含有比率(質量基準)は、0.5以上[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]であることが好ましく、1.0以上[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]であることがより好ましい。また、ゼオライト触媒成分に対するメタノール合成触媒成分の含有比率(質量基準)は、3.0以下[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]であることが好ましく、2.0以下[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]であることがより好ましい。ゼオライト触媒成分に対するメタノール合成触媒成分の含有比率を上記の範囲にすることにより、より高選択率、高収率でプロパンを製造することができる。
【0036】
メタノール合成触媒成分は、メタノール合成触媒としての機能を有し、ゼオライト触媒成分は、メタノールおよび/またはジメチルエーテルの炭化水素への縮合反応に対して酸性が調整された固体酸ゼオライト触媒としての機能を有する。そのため、ゼオライト触媒成分に対するメタノール合成触媒成分の含有比率は、触媒の持つメタノール合成機能とメタノールからの炭化水素生成機能の相対比に反映される。また、本発明において一酸化炭素と水素を反応させて主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造するにあたって、一酸化炭素と水素をメタノール合成触媒成分によってメタノールに十分転化させることが望まれ、かつ、生成したメタノールをゼオライト触媒成分によって十分に主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスに転化させることが望まれる。ゼオライト触媒成分に対するメタノール合成触媒成分の含有比率(質量基準)を0.5以上[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]とすることにより、一酸化炭素と水素をメタノール合成触媒成分によってメタノールに好適に転化させることができる。この観点から、さらには、上記含有比率が0.8以上[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]であることがより好適である。また、生成したメタノールがプロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスに選択的に転化するには0.8以上[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]であることが好ましい。また、ゼオライト触媒成分に対するメタノール合成触媒成分の含有比率(質量基準)を3.0以下[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]とすることにより、生成したメタノールをゼオライト触媒成分によって好適に主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスに転化することができる。この観点から、さらには、上記含有比率が2.0以下[メタノール合成触媒成分/ゼオライト触媒成分]であることがより好適である。
【0037】
そのような触媒の組成としてのメタノール合成触媒成分は、一酸化炭素と水素からメタノールが合成できる触媒としての機能を持つものであればよい。一般にメタノール合成触媒と知られる市販のものでも、文献等に明らかにされているものでも良い。そのようなものとしては、Cu−Zn系、Cu−Zn−Cr系、Cu−Zn−Al系、Cu−Zn−Ag系、Cu−Zn−Mn−V系、Cu−Zn−Mn−Cr系、Cu−Zn−Mn−Al−Cr系などいずれもCu−Zn系およびそれに第三成分が加わったもの、あるいは、Ni−Zn系のもの、Mo系のもの、Ni−炭素系のもの、さらにはPdなど貴金属系のものなどが挙げられる。
【0038】
上記触媒の組成としてのゼオライト触媒成分は、生成したメタノールをプロパンまたはブタンが主成分である液化石油ガスに選択的に転化できる触媒としての機能をもつものであればよい。そのようなものとしては、メタノールおよび/またはジメチルエーテルの炭化水素への縮合反応に対して酸性が調整された固体酸ゼオライト触媒としての機能を有するものから選ばれる。そのような触媒のゼオライト触媒成分の構造、物性としては、一般にメタノールおよび/またはジメチルエーテルから低級オレフィン炭化水素への縮合反応に高い選択性を示すSAPO−34などの小細孔ゼオライトないしモルデナイトなどのような細孔内での反応分子の拡散が3次元でないゼオライトよりも、一般にメタノールおよび/またはジメチルエーテルからアルキル置換芳香族炭化水素への縮合反応に高い選択性を示すZSM−5、MCM−22などの中細孔ゼオライトないしベータやY型などの大細孔ゼオライトなどの細孔内での反応分子の拡散が3次元であるゼオライトが好ましい。そのときSiO2/Al23モル比が10〜50の値を有するいわゆる高シリカゼオライトが好ましく、そのようなものとして例えばUSYや高シリカタイプのベータなどの金属イオン交換などによって酸性が調整された固体酸ゼオライトが用いられる。
【0039】
本発明の低級パラフィン製造工程は、上記のような触媒を用いて一酸化炭素と水素とを反応させ、液化石油ガス、好ましくは主成分がプロパンである液化石油ガスを製造するには、次のような操作条件にて行うことが好ましい。
【0040】
反応温度は、メタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分各々が優れた活性を示すのに好適な温度として、270℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。また、反応温度は、触媒の使用制限温度の観点から、また平衡規制と反応熱除去回収の容易さの観点から、400℃以下が好ましく、370℃以下がより好ましい。
【0041】
反応圧力は、メタノール合成触媒成分が優れた活性を示す圧力として、1.0MPa以上が好ましく、2.0MPa以上がより好ましい。また、反応圧力は、メタノール合成触媒成分が優れた活性を示すのに好適で、それを超えると圧縮機の動力として余分なエネルギーを用いることとなり本発明の技術の経済性が低下するので、10MPa以下が好ましく、5MPa以下がより好ましい。
【0042】
ガス空間速度はメタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分各々が優れた転化率を示す接触時間を与えればよく、それ未満では製造されるLPG生産量に対して必要以上に大きな反応器を用意することとなり本発明の技術の経済性が低下するので、500hr-1以上が好ましく、2000hr-1以上がより好ましい。また、ガス空間速度は、メタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分各々が優れた転化率を示す接触時間を与えるために、10000hr-1以下が好ましく、5000hr-1以下がより好ましい。
【0043】
低級パラフィン製造のための反応器に送入されるガス中の一酸化炭素の濃度は、原料ガス一酸化炭素と水素が反応するのに好適な一酸化炭素の圧力すなわち分圧を確保するとともに原料原単位向上のため、20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。また、反応器に送入されるガス中の一酸化炭素の濃度は、一酸化炭素の転化率の観点から、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
【0044】
低級パラフィン製造のための原料ガスにおいて一酸化炭素と水素の濃度は、一酸化炭素を好適に反応させるためには、一酸化炭素1モルに対して1.5モル以上が好ましく、1.8モル以上がより好ましい。また、この原料ガスにおいて水素の濃度は、一酸化炭素が好適に反応し主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを得ることのできる量があればよく、余剰の水素は原料ガスの全圧を不必要に上げることになり技術の経済性を低下させるため、一酸化炭素1モルに対して3.0モル以下が好ましく、2.3モル以下がより好ましい。
【0045】
反応器に挿入されるガスは、低級パラフィン製造の原料である一酸化炭素および水素に、二酸化炭素を加えたものであってもよい。また、その二酸化炭素としては、反応器から排出される二酸化炭素をリサイクルするあるいはそれに見合う量を用いることによって、反応器の中で一酸化炭素からのシフト反応による二酸化炭素の生成を実質的に軽減ないしさせなくすることも出来る。また、反応器に挿入されるガスには水蒸気を含有させることもできる。また、反応器に挿入されるガスは分割して挿入して反応温度の制御に用いることも出来る。
【0046】
反応は固定床、流動床、移動床などで行うことができるが、反応温度の制御と触媒の再生方法の両面から選定することが好ましい。たとえば、固定床としては、内部多段クエンチ方式などのクエンチ型反応器、多管型反応器、複数の熱交換器を内包するなどの多段型反応器、多段冷却ラジアルフロー方式や二重管熱交換方式や冷却コイル内蔵式や混合流方式などその他の反応器、などを用いることが出来る。
【0047】
また、触媒は、温度制御を目的として、シリカ、アルミナなどあるいは不活性で安定な熱伝導体で希釈して、あるいは、熱交換器表面に塗布して用いることもできる。
【0048】
〔分離工程〕
分離工程において、上記低級パラフィン含有ガスから、水分などを必要に応じて分離したのち、低沸点成分を分離する。これによってプロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを得ることができる。適宜、高沸点パラフィンガス(ブタンより沸点の高い成分)を分離することもできる。液化石油ガスを得るために、必要に応じて加圧および/または冷却を行っても良い。
【0049】
この分離は、例えば気液分離、吸収分離、蒸留など公知の方法によって行うことができる。より具体的には、加圧常温での気液分離や吸収分離、冷却しての気液分離や吸収分離あるいはその組み合わせによることができる。あるいは膜分離や吸着分離によることも、これらと気液分離、吸収分離、蒸留との組み合わせによることもできる。低沸点成分を分離するには、製油所で通常用いられるガス回収プロセス(「石油精製プロセス」石油学会/編、講談社サイエンティフィク、1998年、p28〜p32記載)を適用することができる。上記低沸点成分の分離方法としては、上記高沸点パラフィンガス(ブタンより沸点の高い成分)あるいはガソリンなどを吸収液として用い、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを吸収させる吸収プロセスが好ましい。
【0050】
民生用としては、使用時の安全性の観点から、例えば、分離によってLPG中の上記低沸点成分の含有量を5モル%以下とする。
【0051】
〔リサイクル工程〕
分離された低沸点成分は、改質工程の原料として再利用することができる物質を含む。従って、この残ガスは改質工程にリサイクルされる。リサイクルするためには、適宜リサイクルラインに昇圧手段を設けるなど、リサイクルに係る公知の技術を採用することができる。
【0052】
【実施例】
図1に本発明の方法を実施するに好適なLPG製造装置の一例を示す。
【0053】
含炭素原料としてメタンがライン11および12を経て改質器1に供給される。ここでは水蒸気改質を行うため、図示しないが水蒸気がライン12に供給される。また、改質器は改質のために必要な熱を供給するための加熱手段も備えるが、図では省略する。
【0054】
改質器内に備えられた改質触媒1aの存在下にメタンが改質され、水素、一酸化炭素、二酸化炭素および水蒸気を含む合成ガスが得られる。
【0055】
この合成ガスは反応器2に供給され、反応器内に備えられた触媒2aの存在下に合成ガスからエタン、プロパン、ブタンを含む生成ガスが得られる。
【0056】
この生成ガスは分離器3に供給される。常温加圧蒸留により、塔底からプロパンの沸点以上の沸点を持つ物質が得られ、塔頂からプロパンの沸点より低い沸点を持つ物質が残ガスとして得られる。こうしてライン15から製品となるLPGが得られ、リサイクルライン16により残ガスがリサイクルされる。
【0057】
図示しないが、昇圧機、熱交換器、バルブ、計装制御装置などは、必要に応じて設けられる。
【0058】
上記構成の装置を用い、LPGを製造した。条件および結果を以下に記す。
【0059】
(低級パラフィンの製造)
メタノール合成触媒成分として市販のCu−Zn系メタノール合成触媒(日本ズードヘミー社製)を機械的に粉末にしたものを用意した。別途、ゼオライト触媒成分として、SiO2/Al23モル比が14.5の値を有するプロトン型ZSM−5ゼオライト粉末を調製した。このメタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分とを質量基準で同量均一混合して、加圧成型・整粒したのち、水素気流中にて300℃、3時間還元して触媒を得た。
【0060】
この調製した触媒を反応管に充填して、組成が水素62.0モル%、一酸化炭素31.0モル%、二酸化炭素5.0モル%、メタン2.0モル%の原料ガスを流通させた。反応条件は、反応温度325℃、反応圧力2.0MPa、ガス空間速度3000hr-1とした。生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、一酸化炭素の転化率は71%であった。一酸化炭素の二酸化炭素へのシフト反応転化率は35%、炭化水素への転化率は37%であった。また、生成した炭化水素ガスの炭素基準で75%がプロパンおよびブタンであり、そのプロパンおよびブタンの内訳は炭素基準でプロパンが56%、ブタンが44%であった。
【0061】
(低沸点成分の分離、リサイクル)
LPGの製造からの反応ガスを気液分離ののち、モレキュラーシーブにて乾燥後、0℃付近に保持されたオクタン溶液にバブルさせる方法でメタン3.7モル%、エタンおよびエチレン1.2モル%、二酸化炭素21.1モル%、未反応一酸化炭素12.0モル%および水素62.0モル%の組成のガスを低沸点分として分離して、圧縮機にて2.5MPaまで昇圧して、合成ガス製造工程に原料ガスの一部67モル%として送入した。
【0062】
(合成ガス製造)
LPGの製造工程からの低沸点分リサイクルガス67.0モル%、天然ガス14.7モル%、スチーム14.8モル%、二酸化炭素3.5モル%の組成の原料ガスを、WO98/46524号公報触媒調製例9に従って調製したRu/焼結低表面積化マグネシア触媒が充填された外熱式反応管型の装置にて、触媒を予め水素気流中900℃で1hr還元処理を行ったのち、反応温度870℃、圧力2.1MPa、GHSV2000hr-1の操作条件にて改質して水素58モル%、一酸化炭素29モル%、二酸化炭素6モル%、メタン7モル%の組成の合成ガスを得た。この組成からこの合成ガスは低級パラフィンの製造で原料として使うことができる。
【0063】
【発明の効果】
本発明により、天然ガスなどの含炭素原料あるいは合成ガスからプロパンおよび/またはブタンを選択性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するに好適なLPG製造装置の一例について、主要な構成を示すプロセスフロー図である。
【符号の説明】
1 改質器
1a 改質触媒
2 反応器
2a 触媒
3 分離器
11、12、13、14、15 ライン
16 リサイクルライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成ガスから、触媒の存在下に、プロパンの沸点より低い沸点を持つ物質である低沸点成分を含み、プロパンまたはブタンを主成分とする混合ガスである低級パラフィン含有ガスを製造する低級パラフィン製造工程と、
該低級パラフィン含有ガスから、該低沸点成分を分離し、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを得る分離工程と
を有することを特徴とするプロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスの製造方法。
【請求項2】
含炭素原料から合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、
合成ガスから、触媒の存在下に、プロパンの沸点より低い沸点を持つ物質である低沸点成分を含み、プロパンまたはブタンを主成分とする混合ガスである低級パラフィン含有ガスを製造する低級パラフィン製造工程と、
該低級パラフィン含有ガスから、該低沸点成分を分離し、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを得る分離工程と、
分離された該低沸点成分を、該合成ガス製造工程の原料としてリサイクルするリサイクル工程と
を有することを特徴とするプロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−182646(P2006−182646A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−49587(P2003−49587)
【出願日】平成15年2月26日(2003.2.26)
【出願人】(503065494)日本ガス合成株式会社 (18)
【Fターム(参考)】