説明

プロパンジオールの製造方法

【課題】供給過剰が予想されるグリセリンを原料とし、これを水素化分解法によりプロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールをより高収率に製造する方法の提供。
【解決手段】グリセリンを、固体触媒の存在下にて水素化することによって1,2−プロパンジオール及び1,3−プロパンジオールの混合物を製造する方法において、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素、並びにタングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を含む固体触媒を使用することを特徴とする1,3−プロパンジオールの製造方法。
【効果】高い収率でプロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロパンジオールの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、グリセリンを原料とし、第1金属元素及び第2金属元素を含む固体触媒及び必要により溶媒の存在下にて水素化することによって、1,3−プロパンジオール収率の高いプロパンジオールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパンジオール類は、溶媒、ポリエステル原料として極めて重要である。そのため、従来から、1,2−プロパンジオールについてはプロピレンの部分酸化による製造技術、1,3−プロパンジオールについては、糖の発酵による製造技術が実用化されている。
【0003】
一方、グリセリンは油脂類のエステル交換反応によるBDF(バイオディーゼルフューエル)製造の際の副産物として世界的な供給過剰が予想されている物質である(非特許文献1参照)。したがって、グリセリンを原料としたプロパンジオールの製造方法が確立されれば、その産業的な意義は大きいと考えられる。
【0004】
現在までに知られているグリセリンからのプロパンジオールの製造方法としては、微生物を用いる発酵法(非特許文献2,3参照)と、触媒を用いる水素化分解法(非特許文献4,5及び特許文献1参照)が知られている。
【0005】
しかし、発酵法による製造においては、1,3−プロパンジオールの収率が70%近くに達するという利点はあるが、反応速度が遅いため、巨大な発酵槽が必要となる他、副生成物による阻害のため最終的な水溶液中の生成物濃度が7%程度と低いことから、水や未反応グリセリンから1,3−プロパンジオールを分離、精製するためのコストが大きくなるという問題がある。
【0006】
これに対し、触媒を用いる水素化分解法は、発酵法のように巨大な設備が必要でなく、一般に有機溶媒中で反応が行われるので、生成物の分離精製が容易である点で有利である。しかし、水素化分解法ではその一方で収率が非常に低いという問題がある。例えば、担持ロジウム触媒の場合(非特許文献1参照)、1,3−プロパンジオールの収率は最高4%である。また、担持ルテニウム触媒の場合(非特許文献1参照)、1,3−プロパンジオールの収率は最高0.6%である。ルテニウム錯体触媒の場合(特許文献1参照)、1,3−プロパンジオールの収率は4.6%である。担持ルテニウム触媒と固体酸を組み合わせた場合や、ラネーニッケルを触媒に用いた場合では1,3−プロパンジオールはほとんど得られず、1,2−プロパンジオールが主たる生成物となってしまう(非特許文献6,7参照)。

【非特許文献1】Chemical & Engineering News,2005年2月21日号,p.19
【非特許文献2】FEMS Microbiology Review,16(1995),p.143−149
【非特許文献3】Appl. Microbiol. Biotechnol.,52(1999),p.289−297
【非特許文献4】Green Chem.,2004,6,p.359−361
【非特許文献5】Catalysis Communications,6(2005),p.645−649
【非特許文献6】INDUSTRIAL & ENGINEERING CHEMISTRY RESEARCH, 44 (2005), p.8535−8537
【非特許文献7】JOURNAL OF CATALYSIS, 240(2006),p.213−221
【特許文献1】国際公開第01/98241号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、1,3−プロパンジオールは、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)の原料となるため、グリセリンからの製造が強く要請されているものであるものの、工業的に有利な接触水素化分解による製造方法では、5%以下の収率でしか得られていない。
【0008】
本発明は、かかる実状を背景に、供給過剰が予想されているグリセリンを原料とし、これを水素化分解法によりプロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールをより高収率に製造するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして、本発明者は、このような課題に対して、水素化触媒作用を有する金属(第1金属)と酸化物として酸性を有する金属(第2金属)の2種の金属を担持した触媒の利用を試みた。すなわち、オートクレーブを用いて、白金及び酸化タングステンを担持したジルコニア触媒、及び溶媒からなる触媒系の存在下で、グリセリンを水素化分解させた。すると、その反応液中に1,2−プロパンジオール、n−プロパノールとともに、1,3−プロパンジオールが高収率で生成していることが判明した。しかも、これはほぼ同量の白金を含む白金担持活性炭触媒と固体酸を用いた系でグリセリンを水素化分解した反応に比べて高い収率でプロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールを生成していた。本発明者らは、これは、白金とタングステンが担体上に高分散されることと、グリセリンを活性化するサイトとグリセリンおよび反応中間体を水素化するサイトの両方が同一触媒上に存在するためと考えているが、もしそうでないとしても、本発明の構成を備えている限り本発明に包含される。本発明はこの知見に基づいて完成させたものであり、水素化用の第1金属元素とグリセリンを活性化する第2金属元素を含む触媒を用いることによって、グリセリンの活性化能及び水素化能が向上し、プロパンジオール類を高収率で得るものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の製造方法及び触媒に係るものである。
項1.白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素、並びにタングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を含む固体触媒の存在下でグリセリンを水素化することを特徴とするプロパンジオールの製造方法。
項2.固体触媒が担体を有する触媒であって、該担体がアルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナ及び活性炭からなる群から選択される少なくとも1種である項1に記載のプロパンジオールの製造方法。
項3.担体を有する触媒が、担体に第2金属元素を担持させ、次いで第1金属元素を担持させて得られる触媒である項2に記載のプロパンジオールの製造方法。
項4.プロパンジオールが1,3−プロパンジオールである項1〜3のいずれかに記載のプロパンジオールの製造方法。
項5.白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素、並びにタングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を含む、グリセリンの水素化によるプロパンジオール製造用水素化触媒。
項6.水素化触媒が、アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナ及び活性炭からなる群から選択される少なくとも1種に担持されたものである項5に記載の触媒。
項7.プロパンジオールが1,3−プロパンジオールである項5又は6に記載の触媒。
項8.アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナ及び活性炭からなる群から選択される少なくとも1種の担体に、タングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を担持させ、次いで白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素を担持させることを特徴とする、グリセリンの水素化によるプロパンジオール製造用水素化触媒の製造方法。
項9.プロパンジオールが1,3−プロパンジオールである項8に記載の製造方法。
【0011】
グリセリンの水素化分解によるプロパンジオールの製造は公知であり、その反応機構は下記のスキームにより示される。この一段の反応により、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、及びn−プロパノールが生成する。
【0012】
【化1】

【0013】
従来のグリセリンを水素化分解してプロパンジオールを製造する方法では水素化分解のためグリセリンに加え常温で固体の酸、水素化触媒及び溶媒が必須であり、これによりプロパンジオールを生成するものであるが、得られる1,3−プロパンジオールの収率は非常に低いものであった。本発明では、常温で固体の酸と水素化触媒の混合物に代えて、第1金属元素と第2金属元素を含む固体触媒を用いることを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法では、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素、並びにタングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を含む固体触媒の存在下でグリセリンを水素化することを特徴とする。
【0014】
本発明において使用される触媒は、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素、並びにタングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を含むものである。第2金属元素を含む金属又は金属化合物(例えば酸化物)はグリセリンを活性化する作用を有する。第1金属元素を含む金属又は金属化合物(例えば酸化物)は反応中間体を水素化する作用を有すると考えられる。
【0015】
第1金属元素のなかで好ましいものは、白金、ロジウムであり、第2金属元素のなかで好ましいものは、タングステン、モリブデン、マンガンである。
【0016】
本発明の触媒は第1金属元素及び第2金属元素を含むものであるが、代表的には、第1金属元素を含む金属又は金属化合物と第2金属元素を含む金属又は金属化合物を含むものである。
【0017】
第1金属元素を含む金属としては、第1金属元素からなる金属単体、第1金属元素を含む合金などが挙げられる。第1金属元素を含む金属化合物としては、金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、硫化物、硼化物、水酸化物、シアン化物、アセチルアセトネート、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩等が挙げられる。第1金属元素を含む金属又は金属化合物としてより具体的には、白金金属、白金ブラック、白金(II)アセチルアセトネート、白金(II)ビス(ベンゾニトリル)ジクロリド、白金(II)ブロミド、白金(IV)ブロミド、白金(II)クロリド、白金(IV)クロリド、白金(II)シアニド、白金(II)ヨージド、酸化(IV)白金、酸化(IV)白金水和物、白金ロジウム合金、白金パラジウム合金、白金イリジウム合金、白金(IV)スルフィド;ロジウム金属、ロジウムブラック、ロジウム(II)酢酸塩、ロジウム(II)アセチルアセトネート、ロジウム(II)ブロミド水和物、ロジウム(III)クロリド、ロジウム(III)クロリド水和物、ロジウム(II)ヘキサフルオロブタン酸塩、ロジウム(II)ヘキサン酸塩、ロジウム(III)ヨージド水和物、硝酸ロジウム(III)、酸化ロジウム(III)、酸化ロジウム(III)水和物、リン酸ロジウム(III)、硫酸ロジウム(III)、ロジウム(II)トリフルオロ酢酸塩;パラジウム金属、パラジウムブラック、パラジウム(II)酢酸塩、パラジウム(II)アセチルアセトネート、パラジウム(II)ビス(ベンゾニトリル)ジクロリド、パラジウム(II)ブロミド、パラジウム(II)クロリド、パラジウム(II)シアニド、水酸化パラジウム(II)、パラジウム(II)ヨージド、硝酸パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)水和物、酸化パラジウム(II)、酸化パラジウム(II)水和物、パラジウム(II)プロピオン酸塩、硫酸パラジウム(II)、パラジウム(II)スルフィド、パラジウム(II)トリフルオロ酢酸塩;ニッケル金属、ラネーニッケル、硼化ニッケル、酸化ニッケル(II);ルテニウム金属、ルテニウムブラック、ルテニウム(III)アセチルアセトネート、ルテニウム(III)ブロミド、ルテニウム(III)ブロミド水和物、ルテニウム(III)クロリド、ルテニウム(III)クロリド水和物、ルテニウム(III)ヨージド、ルテニウム(III)ニトロシルクロリド水和物、硝酸ルテニウム(III)ニトロシル、酸化ルテニウム(IV)、酸化ルテニウム(IV)水和物;イリジウム金属、イリジウム(III)アセチルアセトネート、イリジウム(III)ブロミド水和物、イリジウム(III)クロリド、イリジウム(III)クロリド塩酸塩、イリジウム(IV)クロリド水和物、酸化イリジウム(IV)、酸化イリジウム(IV)水和物;レニウム金属、レニウム(III)クロリド、レニウム(V)クロリド、レニウム(IV)フルオリド、酸化レニウム(IV)、酸化レニウム(VI)、酸化レニウム(VII)、レニウム(VII)スルフィド等が挙げられる。好ましくは、酸化白金、酸化パラジウム、プラチナブラック、パラジウムブラック、ラネーニッケル、硼化ニッケル等が挙げられる。第1金属元素を含む金属又は金属化合物として好ましいのは白金金属、ロジウム金属である。第2金属元素を含む金属としては、第2金属元素からなる金属単体、第2金属元素を含む合金などが挙げられる。第2金属元素を含む金属化合物としては、金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、硫化物、硼化物、水酸化物、シアン化物、アセチルアセトネート、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩等が挙げられる。第2金属元素を含む金属又は金属化合物として、より具体的には、タングステン金属、ホウ化タングステン、炭化タングステン、塩化タングステン、二けい化タングステン、ヘキサカルボニルタングステン、酸化タングステン、リン化タングステン、硫化タングステン、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム;モリブデン金属、酢酸モリブデン、ホウ化モリブデン、炭化モリブデン、塩化モリブデン、二けい化モリブデン、ヘキサカルボニルモリブデン、酸化モリブデン、窒化モリブデン、リン化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸、モリブドリン酸水和物;クロム金属、酢酸クロム、ホウ化クロム、炭化クロム、塩化クロム、二けい化クロム、ヘキサカルボニルクロム、酸化クロム、リン化クロム、硫化クロム、臭化クロム、二フッ化クロム、硝酸クロム、クロム酸;マンガン金属、酢酸マンガン、炭酸マンガン、塩化マンガン、酸化マンガン、リン化マンガン、リン酸マンガン、次亜リン酸マンガン、よう化マンガン、硫化マンガン、臭化マンガン、フッ化マンガン、硝酸マンガン、過塩素酸マンガン、硫酸マンガン;鉄金属、酢酸鉄、炭酸鉄、塩化鉄、酸化鉄、リン化鉄、リン酸鉄、よう化鉄、硫化鉄、臭化鉄、フッ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、硫酸鉄、窒化鉄;バナジウム金属、ホウ化バナジウム、酢酸バナジウム、炭化バナジウム、塩化バナジウム、酸化バナジウム、リン化バナジウム、リン酸バナジウム、よう化バナジウム、硫化バナジウム、臭化バナジウム、フッ化バナジウム、窒化バナジウム;ハフニウム金属、ホウ化ハフニウム、塩化ハフニウム、酸化ハフニウム、リン化ハフニウム、リン酸ハフニウム、よう化ハフニウム、硫化ハフニウム、臭化ハフニウム、フッ化ハフニウム、硝酸ハフニウム、過塩素酸ハフニウム、硫酸ハフニウム、窒化ハフニウム;タンタル金属、ホウ化タンタル、炭化タンタル、塩化タンタル、酸化タンタル、リン化タンタル、リン酸タンタル、よう化タンタル、硫化タンタル、臭化タンタル、フッ化タンタル、窒化タンタル;ニオブ金属、ホウ化ニオブ、炭化ニオブ、塩化ニオブ、酸化ニオブ、リン化ニオブ、フッ化ニオブ、窒化ニオブ等が挙げられる。第2金属元素を含む金属又は金属化合物として好ましいのは、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化マンガンである。
【0018】
本発明の触媒は、触媒活性、再現性、保存安定性、操作性、リサイクルの容易さ等の観点から、第1金属元素及び第2金属元素が担体に担持された形態であることが好ましい。担体としては、アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナ及び活性炭からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。シリカの中ではメソポーラスシリカが好ましい。好ましい担体は、ジルコニア、アルミナ、シリカアルミナである。担体の平均粒子径は、所望の効果を達成できる限り特に制限されないが、通常は0.01〜100mmである。触媒の形態としては、担体(好ましくは粉末状)に第1金属元素を含む金属又は金属化合物及び第2金属元素を含む金属又は金属化合物を分散させた形態が好ましく、担体上に第2金属元素を担持させた後に第1金属元素を担持させた形態がより好ましい。
【0019】
本発明における、第1金属元素を含む金属又は金属化合物と、第2金属元素を含む金属又は金属化合物と、担体との好ましい組み合わせはとしては、白金−酸化タングステン−アルミナ、白金−酸化タングステン−シリカアルミナ、白金−酸化タングステン−酸化ジルコニウム、白金−酸化モリブデン−酸化ジルコニウム、白金−酸化マンガン−酸化ジルコニウム、白金パラジウム合金−酸化タングステン−酸化ジルコニウム、白金ロジウム合金−酸化タングステン−酸化ジルコニウム、白金ルテニウム合金−酸化タングステン−酸化ジルコニウム、白金イリジウム合金−酸化タングステン−酸化ジルコニウム;ロジウム−酸化タングステン−アルミナ、ロジウム−酸化タングステン−シリカアルミナ、ロジウム−酸化タングステン−酸化ジルコニウム、ロジウム−酸化モリブデン−酸化ジルコニウム、ロジウム−酸化マンガン−酸化ジルコニウム;パラジウム−酸化タングステン−アルミナ、パラジウム−酸化タングステン−シリカアルミナ、パラジウム−酸化タングステン−酸化ジルコニウム、パラジウム−酸化モリブデン−酸化ジルコニウム、パラジウム−酸化マンガン−酸化ジルコニウム;ルテニウム−酸化タングステン−アルミナ、ルテニウム−酸化タングステン−シリカアルミ、ルテニウム−酸化モリブデン−酸化ジルコニウム、ルテニウム−酸化マンガン−酸化ジルコニウム;イリジウム−酸化タングステン−アルミナ、イリジウム−酸化タングステン−シリカアルミナ、イリジウム−酸化タングステン−酸化ジルコニウム、イリジウム−酸化モリブデン−酸化ジルコニウム、イリジウム−酸化マンガン−酸化ジルコニウム等が挙げられる。より好ましくは、白金−酸化タングステン−酸化ジルコニウム、白金−酸化モリブデン−酸化ジルコニウム、ロジウム−酸化タングステン−酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0020】
本発明の触媒における第1金属元素の含有量はプロパンジオールが製造できる限り特に制限されないが、0.5〜5重量%が好ましく、1〜3重量%がより好ましい。また、本発明の触媒における第2金属元素の含有量はプロパンジオールが製造できる限り特に制限されないが、2〜35重量%が好ましく、3〜30重量%がより好ましい。
【0021】
本発明の触媒は、触媒分野の通常の手法によって製造することができる。
本発明に用いる触媒の調製法としては、従来の触媒調製法(例えば含浸法)が適用可能であり、例えば、第1金属元素及び第2金属元素を含む塩の水溶液や塩酸を加えた水溶液を担体に含浸させた後、乾燥させ、空気中で焼成する方法がある。必要により水素等で還元して使用する。好ましくは、担体に第2金属元素を担持させ、次いで第1金属元素を担持させる工程、より具体的には、第2金属元素を含む水溶液に担体を含浸させた後、第1金属元素を含む水溶液に該担体を含浸させる工程、を含む製造方法である。この製造方法で得られる触媒は活性が高い。
【0022】
本発明のプロパンジオールの製造方法は、上記の本発明の触媒を使用し、特に1,3−プロパンジオールの製造に有利である。例えば、オートクレーブ内に所定量のグリセリン、触媒、必要に応じて溶媒を仕込み、加熱することによって製造できる。触媒(担体含む)の使用量は、特に制限されないが、グリセリン1重量部に対して0.0001重量部〜5重量部、好ましくは0.1重量部〜1重量部である。
【0023】
本発明において、溶媒は必須ではないが、少量であれば有用である。溶媒はグリセリンの水素化によるプロパンジオールの製造において使用されていた溶媒であれば特に制限なく使用でき、そのような溶媒を1種単独でも2種以上組み合わせても使用できる。好ましい溶媒の例は、環状アミド、スルホラン、DMSO等である。溶媒は、沸点が150℃以上のものが好ましく、250℃以上のものがより好ましい。好ましい溶媒は環状アミドであり、その例としては、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリジノンなどが挙げられる。環状アミドの中でも、環を構成する元素のうちの一つ以上が窒素である環状アミドが好ましい。
【0024】
上記溶媒の使用量は、グリセリン1重量部に対して0〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部、よりいっそう好ましくは1〜3重量部である。溶媒が上記の範囲にある場合、プロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールの収率の点で有利である。また、上記の範囲ではグリセリン、溶媒、酸及び触媒はスラリー状態になることが多い。
【0025】
本発明の製造方法において、水素化反応は水素の存在下で行えばよく、水素圧は特に限定されないが、好ましくは10〜150気圧、より好ましくは50〜100気圧である。また、反応温度は、好ましくは100〜300℃、より好ましくは160〜220℃であり、反応時間は、好ましくは1〜48時間、より好ましくは10〜24時間である。
【0026】
また、本発明の製造方法においては、本発明の触媒を利用するため反応系に酸は存在していなくても良いが、酸を併用することも可能であり、併用によって、プロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールの収率がより向上する。酸は1種単独でも2種以上組み合わせても使用でき、特に、常温で固体の酸(固体酸)を使用することが好ましい。酸の例は、モリブデン酸、タングステン酸、タングストリン酸、バナジン酸、ニオブ酸などのヘテロポリ酸、五酸化バナジウム、アルミナ、ゼオライト、シリカなどが挙げられる。好ましい酸はタングステン酸、タングストリン酸である。
【0027】
また、本発明の製造方法では、反応中に生成物を連続的に系外に排出して回収することが好ましい。目的物であるプロパンジオールの沸点がグリセリンの沸点より低いため、プロパンジオールを系外に排出することによって、二次生成物であるn−プロパノールの生成が抑制され、プロパンジオールの収率が向上するためである。
【0028】
上記のグリセリン、触媒、溶媒を加圧及び加熱可能な反応器に仕込み、加熱することによってプロパンジオールを製造できる。例えばオートクレーブ中に触媒、溶媒及びグリセリンを仕込み、反応条件を例えば水素初圧80気圧、反応温度170℃に設定し、スラリー状の反応物を攪拌しながら所定時間反応させる。反応後、得られる生成物から所望のプロパンジオールを分離する。
【0029】
グリセリンの水素化によって生成したプロパンジオールは1,2−プロパンジオールと1,3−プロパンジオールの混合物である。1,2−プロパンジオールと1,3−プロパンジオールとを分離する場合、蒸留、各種クロマトグラフィー分離などの公知の方法により分離精製することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、グリセリンを触媒により水素化してプロパンジオールを生成する方法において、第1金属元素及び第2金属元素を含む触媒を利用することによって、従来より相対的に非常に高い収率でプロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施例等により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
<触媒の調製>
塩化酸化ジルコニウム八水和物25gを50〜60℃の温水500mlに溶解、撹拌しながら25%のアンモニア水溶液をおよそ15ml滴下、pHを8にする。約6時間水浴上で静置する間に250mlの温水で2〜3回洗浄し、吸引ろ過後100℃で24時間以上乾燥し水酸化ジルコニウム(Zr(OH)4)を得た。
規定量のメタタングステン酸アンモニウム塩を溶解した水溶液にZr(OH)4を加え、蒸発乾固させた後、空気中、500℃において3時間焼成し、酸化タングステン(20重量%)をジルコニアに担持した触媒(WO3/ZrO2)を得た。
さらに、規定量のヘキサクロロ白金酸塩六水和物を溶解した水溶液にWO3/ZrO2を加え、蒸発乾固させた後、空気中、500℃で3時間焼成し、白金(2重量%)及び酸化タングステン(19.6重量%)を逐次的にジルコニアに担持した触媒(Pt/WO3/ZrO2)が得られた。
【0033】
別途、規定量のメタタングステン酸アンモニウム塩とヘキサクロロ白金酸塩六水和物を溶解した水溶液にZr(OH)4を加え、蒸発乾固させた後、空気中、500℃において3時間焼成し、白金(2重量%)及び酸化タングステン(20重量%)を同時にジルコニアに担持した触媒(Pt-WO3/ZrO2)が得られた。
【0034】
実施例2
<プロパンジオールの製造1>
10mL容のオートクレーブ中に、グリセリン約3mmol(0.216mL)、0.2mLの溶媒である1,3−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、実施例1で調製した触媒(100mg)を仕込んで、オートクレーブの蓋を閉めた後、水素ガス(室温で80気圧)加圧下、170℃で18時間反応を行った。オートクレーブ内に生成している1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール及びn−プロパノールをガスクロマトグラフィーで定量分析し、原料グリセリンに対する収率(%)を測定した。また、反応溶液を液体クロマトグラフィーで分析し、未反応のグリセリン量を分析した。白金と酸化タングステンを逐次的に含浸したPt/WO3/ZrO2を用いた場合には、原料グリセリン基準で1,3−プロパンジオール0.74mmol(24.2%)、1,2−プロパンジオール0.38mmol(12.5%)、n−プロパノール0.84mmol(27.5%)が生成していた。また、反応溶液を液体クロマトグラフィーにより分析したところ、0.44mmol(14.2%)のグリセリンが未反応であることが分かった。さらに、白金と酸化タングステンを同時に含浸したPt-WO3/ZrO2を用いた場合には、1,3−プロパンジオール0.20mmol(6.5%)、1,2−プロパンジオール0.21mmol(6.7%)、n−プロパノール0.20mmol(6.4%)が生成し、2.43mmol(78.8%)のグリセリンが未反応であった。表1に得られた収率を示す。表中、PDOはプロパンジオール、n-PrOHはn−プロパノールを示す。
【0035】
【表1】

【0036】
比較例1
<他の触媒によるプロパンジオールの製造>
白金(2重量%)担持ジルコニア触媒(Pt/ZrO2:100mg)、酸化タングステン(20重量%)担持ジルコニア触媒(WO3/ZrO2:100mg)、白金(2重量%)担持アルミナ触媒(Pt/Al2O3:100mg)を用意した。実施例2における触媒に代えて、Pt/ZrO2(100mg)とWO3/ZrO2(100mg)を併用した場合、Pt/ZrO2(100mg)を使用した場合、WO3/ZrO2(100mg)を使用した場合、Pt/Al2O3(100mg)を使用した場合の反応後の各成分を定量し、収率を表2に示した。
【0037】
【表2】

【0038】
表1及び2に示されるように、白金と酸化タングステンを同一担体上に担持した触媒を使用しない場合には、プロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールの収率が低いことが確認された。特に白金と酸化タングステンを同一担体上に逐次的に担持した触媒を使用した場合と比較すると、プロパンジオール、特に1,3−プロパンジオールの収率が顕著に低い。また、1,3−プロパンジオールの収率と1,2−プロパンジオールの収率とを比較すると、ほとんどの触媒で1,2−プロパンジオールの収率の方が高いのに対し、Pt/WO3/ZrO2 触媒では1,3−プロパンジオールの比率が高いことから、第2金属元素、第1金属元素の順に担持した本発明の触媒を使用すると1,3−プロパンジオールの選択性が高くなることが確認された。
Pt/Al2O3のような白金を固体酸に担持した触媒や、白金とタングステンを系内に含んでいても、白金とタングステンが同一担体上に担持されていない場合には高いプロパンジオール収率、特に1,3−プロパンジオール収率は得られなかったことから、白金とタングステンを同一担体上に担持することに意味があると思われる。
【0039】
実施例3
<酸化タングステン担持量の変更>
白金担持量は同一(2重量%)で酸化タングステン担持量(4.9、9.8、14.7、19.6、24.5、29.4重量%)の異なる触媒を、実施例1の方法に準じて調製した。また、酸化タングステン担持量が0の触媒としてPt/ZrO2(白金担持量2重量%)を用意した。触媒をこれらの触媒に変更した以外は実施例2と同様な方法で反応を行い、生成物の定量を行った。結果を図1に示す。
【0040】
1,3−プロパンジオールの収率はタングステン担持量によって大きく変化した。グリセリンの転化率もタングステン担持量によって変化し、グリセリンの活性化に担持したタングステンが関与していることが明らかである。また、19.6重量%以上酸化タングステンを担持してもそれ以上の効果は得られず、グリセリン活性化金属の担持量に最適量が存在することも明らかである。また、1,3−プロパンジオールの収率とは対照的に、1,2−プロパンジオールの収率はタングステン担持量にそれほど影響されなかった。
【0041】
実施例4
<担体の変更>
担体を下記表3に示すものに代え、実施例1と同様にして触媒を調製した。なお、HYはHYゼオライト、AlMCM-41はAl含有のメソポーラスシリカMCM-41、SiO2Al2O3はシリカアルミナを示す。実施例2の触媒をこれらの触媒に代えたこと以外は実施例2と同様にしてグリセリンの水素化反応を行い、生成物及び未反応グリセリンの定量を行った。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
担体によってグリセリンの反応性は大きく変化した。担体としてジルコニアを用いた触媒は、1,3−プロパンジオールの収率、グリセリンの転化率ともに高く、グリセリンの水素化反応に用いる触媒の担体としてジルコニアが特に適していることが明らかとなった。
【0044】
実施例5
<第2金属元素の変更>
第2金属元素を下記表4に示すものに代え、実施例1と同様にして触媒を調製した。白金担持量は2重量%、酸化タングステンおよび酸化モリブデン担持量は19.6重量%とした。実施例2の触媒をこれらの触媒に代えたこと以外は実施例2と同様にしてグリセリンの水素化反応を行い、生成物及び未反応グリセリンの定量を行った。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
第2金属元素としてモリブデンを使用した場合も、従来技術と比較して優れたプロパンジオールの収率及び1,3−プロパンジオールの収率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、プロパンジオールを製造する分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例3にて得られた各生成物の原料グリセリンに対する収率を示す。横軸は酸化タングステン担持量(重量%)を示し、縦軸は収率(%)を示している。また、棒グラフは下から順に1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール及びn−プロパノールを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素、並びにタングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を含む固体触媒の存在下でグリセリンを水素化することを特徴とするプロパンジオールの製造方法。
【請求項2】
固体触媒が担体を有する触媒であって、該担体がアルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナ及び活性炭からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のプロパンジオールの製造方法。
【請求項3】
担体を有する触媒が、担体に第2金属元素を担持させ、次いで第1金属元素を担持させて得られる触媒である請求項2に記載のプロパンジオールの製造方法。
【請求項4】
プロパンジオールが1,3−プロパンジオールである請求項1〜3のいずれかに記載のプロパンジオールの製造方法。
【請求項5】
白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素、並びにタングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を含む、グリセリンの水素化によるプロパンジオール製造用水素化触媒。
【請求項6】
水素化触媒が、アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナ及び活性炭からなる群から選択される少なくとも1種に担持されたものである請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
プロパンジオールが1,3−プロパンジオールである請求項5又は6に記載の触媒。
【請求項8】
アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナ及び活性炭からなる群から選択される少なくとも1種の担体に、タングステン、モリブデン、クロム、マンガン、鉄、バナジウム、ハフニウム、タンタル及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種の第2金属元素を担持させ、次いで白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の第1金属元素を担持させることを特徴とする、グリセリンの水素化によるプロパンジオール製造用水素化触媒の製造方法。
【請求項9】
プロパンジオールが1,3−プロパンジオールである請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−143798(P2008−143798A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329913(P2006−329913)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】