説明

プロピレンの製造方法

【課題】新規なプロピレン製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプロピレンの製造方法は、ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群より選択される少なくとも1つの元素が非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカまたはゼオライトに含有されてなる触媒に、エチレンを接触させて、プロピレンを製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンの製造方法に関するものである。より具体的には、エチレン、またはエチレンおよびn−ブテンを原料としてプロピレンを製造する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレンを選択的に製造する方法としては、例えば、シリカに担持した酸化モリブデン触媒または酸化タングステン触媒を用いて、エチレンとn−ブテンとの混合物から製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】米国特許第4754098号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の製造方法によりプロピレンを製造する場合には、原料としてエチレンおよびn−ブテンの2種類のオレフィンが必要となる。そのため、一方の原料の入手が困難なコンビナートにおいては、プロピレンを合成することが困難であった。さらにこの反応においては、水分が触媒毒となるため、反応系から水分を高度に除去する必要がある。
【0004】
かかる現状において、新たな触媒を用いてエチレン単独からプロピレンを製造する方法の開発が強く要求されていた。
【0005】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、エチレンからプロピレンを製造する新規なプロピレンの製造方法を提供することにある。
【0006】
また、別の目的は、エチレンとn−ブテンとの混合物からプロピレンを製造する新規なプロピレンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るプロピレンの製造方法は、上記の問題を解決するために、ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群より選択される少なくとも1つの元素が、非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカまたはゼオライトに含有されてなる触媒に、エチレンを接触させてプロピレンを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な触媒を用いてエチレンからプロピレンを製造する新規なプロピレンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(反応触媒)
まず本発明に使用する触媒について説明する。
【0010】
本発明に係るプロピレンの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)において使用する触媒は、ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群より選択される少なくとも1つの元素(以下、「チタンなどの金属」ともいう)が非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカまたはゼオライトに含有されてなる触媒である。
【0011】
触媒の担体材料としては、非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカまたはゼオライトを用いている。
【0012】
なお、本明細書において、「担体材料」とは、活性点となる金属を担持するための物質、または同型置換により金属を骨格内に取り込み当該金属を保持するための物質である。
【0013】
非規則性メソポーラス多孔体とは、規則性のないナノ孔を有する無機物質であり、そのナノ孔の平均細孔径が1nm〜10nmのものを意図する。
【0014】
触媒の担体材料として用いる非規則性メソポーラス多孔体を構成する骨格の主成分としては、シリカであることが好ましい。
【0015】
ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群より選択される少なくとも1つの元素(以下、「チタンなどの金属」)を骨格に含有する非規則性メソポーラス多孔体の製造方法としては、例えば従来公知の方法が用いることができる。例えば、チタンを含有する非規則性メソポーラス多孔体の製造方法としては、特開2000−107605号公報に開示されているチタン含有珪素酸化物の製造方法を用いることができる。また、チタン以外の金属を含有する非規則性メソポーラス多孔体を製造する場合には、上記製造方法において、チタンをチタン以外の金属に変更することにより、製造できる。
【0016】
チタンなどの金属を非規則性メソポーラス多孔体に含有させて触媒を調製した後、この触媒を反応に使用する前に、この触媒に対して、空気中などにおいて、焼成処理を施すことが好ましい。焼成温度は、300℃〜600℃であることが好ましく、450℃〜550℃であることがより好ましい。
【0017】
無定形シリカの調製法は、様々な方法が従来公知である。本発明に用いる無定形シリカを調製する方法としては、例えば、従来公知のいかなる方法も採用される。例えば、元素別触媒便覧(昭和53年第4版、地人書館)161ページ〜171ページに記載された方法を用いて調製することができる。
【0018】
チタンなどの金属を無定形シリカに含有させて触媒を調製した後、この触媒を反応に使用する前に、この触媒に対して、空気中などにおいて、焼成処理を施すことが好ましい。焼成温度は、300℃〜600℃であることが好ましく、450℃〜550℃であることがより好ましい。
【0019】
本発明に用いるゼオライトとしては、International Zeolite Association(IZA)が規定する記号で、MCM−68、BEA、CFI、FAU、FER、MEI、MEL、MFI、MFS、MOR、MTT、MTW、MWW、NES、TONおよびVETで表されるゼオライトからなる群より選択される少なくとも1つのゼオライトであることが好ましい。これらの構造は一義的に決められるものである。これらのゼオライトは、Si/Al比が高く、本発明の製造方法に好適に使用し得る。
【0020】
本発明に用いるゼオライトとしては、Si/Al比が3以上であることが好ましく、Si/Al比が5以上であることがより好ましい。
【0021】
チタンなどの金属をゼオライトに含有させて触媒を調製した後、この触媒を反応に使用する前に、この触媒に対して、空気中などにおいて、焼成処理を施すことが好ましい。焼成温度は、300℃〜600℃であることが好ましく、450℃〜550℃であることがより好ましい。
【0022】
非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカおよびゼオライトに含有されている金属元素は、上述のように、ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群より選択される少なくとも1つの元素である。
【0023】
担体材料である非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカおよびゼオライトにチタンなどの金属を含有させる方法としては、例えば、従来公知の方法により含有させればよい。担体材料にチタンなどの金属を含有させる方法としては、例えば、担体材料の形成と同時に、担体材料の骨格にチタンなどの金属を取り込む方法が挙げられる。この場合には、担体材料を調製する際に、チタンなどの金属を同時に加えることにより、担体材料の骨格に取り込ませることができる。また担体材料にチタンなどの金属を含有させる別の方法としては、チタンなどの金属を取り込ませずに担体材料を形成し、担体材料を形成した後に、チタンなどの金属を担体材料に担持する方法が挙げられる。この場合には、担体材料を形成した後に、含浸担持する方法、イオン交換担持する方法、平衡吸着担持する方法、およびWO2005/023420号明細書に開示されているテンプレート存在下にイオン交換するテンプレートイオン交換法を挙げることができ、中でもテンプレートイオン交換法が好ましい。
【0024】
担体材料である非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカおよびゼオライトにチタンなどの金属を含有させる際に用いる金属の形態としては、含有させる方法により異なるものであり、適宜選択できる。
【0025】
担体材料の形成と同時に金属を加えて、担体材料の骨格にチタンなどの金属を取り込ませる方法においては、金属のアルコキシド、硝酸塩、塩化物、酢酸塩および硫酸塩を用いることが好ましく、金属のアルコキシドを用いることがより好ましい。
【0026】
担体材料の骨格を形成した後に、含浸法、イオン交換法、平衡吸着法またはテンプレートイオン交換法などによりチタンなどの金属を担持する方法においては、金属の硝酸塩、塩化物、酢酸塩および硫酸塩を用いることが好ましい。
【0027】
担体材料に含有されるチタンなどの金属の比率は、担体材料が非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカおよびゼオライトの何れであっても、担体材料に対する金属元素の質量比として、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることが好ましい。金属元素の含有比率が0.1質量%以上であれば、触媒の活性点が増加する。金属元素の含有比率が10質量%以下であれば、金属酸化物の凝集が起こる割合が減少する。
【0028】
(原料ガス)
本発明に係るプロピレンの製造方法は、上述した触媒の存在下において、エチレンからプロピレンを製造する製造方法である。
【0029】
原料となるエチレン中にアセチレン類およびアレン類などの不純物が含まれる場合には、これらは触媒毒として作用する。そのため、プロピレンの収率が低下する。したがって、原料におけるこれら不純物の割合は、5ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1ppm以下である。
【0030】
原料となるエチレン中に、エタンなどの不活性成分が共存していても反応に支障はない。しかしながら、エチレンをリサイクルさせるプロセスを採用する場合には、高純度のエチレンを使用することが好ましい。そのため、上記プロセスを採用する場合においては、原料における不活性成分の割合が、2%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下である。
【0031】
また、本発明に係るプロピレンの別の製造方法は、上記触媒の存在下において、エチレンとn−ブテンとの混合物からプロピレンを製造する製造方法である。
【0032】
エチレンとn−ブテンとの混合物を原料とする場合、n−ブテンとしては、1−ブテン、シス−2−ブテンおよびトランス−2−ブテンの各異性体を反応に供することができる。なお、混合物中に含まれるn−ブテンは、上記異性体のうちの何れか一種のみでもよく、または複数の異性体を混合したものであってもよい。
【0033】
原料となるn−ブテン中にブタジエンなどの不純物が含まれる場合に、これらは触媒毒として作用する。そのため、プロピレンの収率が低下する。したがって、エチレンとn−ブテンとを含む原料における不純物の割合は、100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは10ppm以下である。
【0034】
原料となるn−ブテン中に、n−ブタンおよびイソブタンなどの不活性成分が共存していても反応に支障はない。
【0035】
原料としてエチレンとn−ブテンとの混合物を用いる場合に、その混合比率に特に制限はない。エチレンとn−ブテンとの混合物であれば、自由な比率で反応させることができる。
【0036】
原料としてn−ブテンを含まない場合には、エチレンを含む原料におけるエチレンの濃度が20%以上であることが好ましい。
【0037】
原料となるエチレンまたはエチレンとn−ブテンとの混合物は、そのまま反応器に導入される。
【0038】
なお、本発明の製造方法においては、原料ガス中に水分を共存させることができる。
【0039】
(反応条件)
本発明に係るプロピレンの製造方法において反応様式に特に制限はなく、流動層反応方式、固定床反応方式および固定床流通反応方式など様々な反応方式を用いることができる。中でも、設備費が安価であるという観点から、固定床流通反応方式が好ましく用いられる。
【0040】
本発明の製造方法における反応温度は、200℃〜600℃であることが好ましく、300℃〜500℃であることがより好ましい。反応温度が200℃以上であると、反応速度および反応活性が高いという利点がある。また、反応温度が600℃以下であると、触媒の活性劣化を防ぐという利点がある。
【0041】
本発明の製造方法における反応圧力は、常圧から高圧までの広い範囲の中から適宜選択することができるが、常圧から3.0MPaの範囲内であることが好ましい。3.0MPa以下であれば、設備費を抑制できる。
【0042】
本発明の製造方法において、触媒に対する原料ガスの供給量は、触媒質量をW(g)、ガス供給量をF(l/min)で表したときに、25℃、1ataに換算したW/Fとして、W/F=1からW/F=500の範囲内で反応がおこなわれることが好ましい。W/Fが1以上であれば、エチレンおよびn−ブテンの転化が充分に進行するという利点がある。また、W/Fが500以下であれば、好ましくない副反応を抑制し、プロピレンの選択率を高くすることができる。
【0043】
上述したように、本発明によれば、原料としてエチレン単独またはエチレンとn−ブテンとの混合物を用いることができる。原料はコンビナートの立地によって適宜決定することができる。例えば、ナフサ分解炉を中心としたコンビナートではエチレンもn−ブテンも入手可能であるため、エチレン単独またはエチレンとn−ブテンとの混合物の何れをも原料として利用できる。また、例えばエタン分解炉を中心としたコンビナートでは、n−ブテンを入手することが困難である。この場合には、エチレン単独を原料としてプロピレンを製造すればよい。本発明によれば、エチレン単独からもプロピレンを製造することができる。したがって、原料としてn−ブテンの入手困難な地域においても、本発明によりプロピレンを製造できるので、有利である。
【0044】
(酸化タングステン触媒接触工程)
本発明の製造方法においては、エチレンまたはエチレンとn−ブテンとの混合物である原料ガスを、チタンなどの金属が非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカまたはゼオライトに含有されてなる触媒(以下、「第1の触媒」ともいう)に接触させた後に、酸化タングステン触媒に接触させてもよい。この場合には、原料ガスを第1の触媒に接触させたときのエチレンの転化率が低くても、その後に、酸化タングステン触媒に接触させることにより、エチレンの転化率が向上する。その結果、プロピレンの収率を向上させることができる。また、ヘキセンなどの副生物が生成されることを抑えることができる。
【0045】
酸化タングステン触媒としては、メタセシス反応を起こす触媒であればよく、いずれの触媒でも採用できる。例えば、上記特許文献1に記載されている触媒を用いることができる。好ましくは、シリカに担持した酸化タングステン触媒が用いられる。
【0046】
第1の触媒に接触させた後のガスを、酸化タングステン触媒に接触させて反応させるときの反応条件は、反応温度、反応圧力、ガス供給量および反応様式の何れについても、第1の触媒における説明を準用することができる。
【0047】
本発明に係るプロピレンの製造方法において、酸化タングステンと接触させる工程を含める場合には、原料となるエチレン中にはアセチレン類およびアレン類などの不純物が含まれていないことが好ましい。同様に、原料中に含まれる水分は5ppm以下であることが好ましい。
【0048】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る製造方法によれば、エチレンのみからプロピレンを製造することができる。プロピレン系石油化学製品の需要は増加しているため、本発明に係る製造方法は石油化学産業において非常に有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群より選択される少なくとも1つの元素が非規則性メソポーラス多孔体、無定形シリカまたはゼオライトに含有されてなる触媒に、エチレンを接触させる、プロピレンの製造方法。
【請求項2】
上記エチレンにn−ブテンを混合した混合物を上記触媒に接触させる、請求項1に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項3】
上記エチレンを含む原料における上記エチレンの濃度が20%以上であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項4】
上記ゼオライトが、MCM−68、BEA、CFI、FAU、FER、MEI、MEL、MFI、MFS、MOR、MTT、MTW、MWW、NES、TONおよびVETの記号により表されるゼオライトからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記触媒における上記元素の含有量が、0.1質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記非規則性メソポーラス多孔体の平均細孔径が1nm〜10nmであることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−13365(P2010−13365A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172434(P2008−172434)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】