説明

プロピレンの製造方法

【課題】C5留分を用いてプロピレンを製造する方法において、プロピレンの収率を改良することを目的とする。
【解決手段】C5留分に含まれるイソプレンの量が、C5留分に含まれる1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、0〜50重量%であるC5留分を用いて、選択的水素化反応工程、第1のオレフィンメタセシス反応工程、第1のプロピレン回収工程、1−ブテン回収工程、異性化反応工程、第2のオレフィンメタセシス反応工程、および第2のプロピレン回収工程を経て、プロピレンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C5留分を主原料とするプロピレンの製造方法に関し、さらに詳しくは、C5留分に含まれる1,3−ペンタジエンなどを選択的に水素化して2−ペンテンなどを得て、その2−ペンテンなどとエチレンとをオレフィンメタセシス反応させることによりプロピレンを製造する方法において、プロピレンの収率が改良されたプロピレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンは、エチレンの生産を主目的とするナフサなどの熱分解において副生され、従来はこのようにして得られるプロピレンにより、その需要が賄われていた。しかし、近年、ポリプロピレンや酸化プロピレンなどのプロピレン誘導体の需要が増加しており、それに伴って、プロピレンの需要が増加している。
【0003】
しかしながら、ナフサなどの熱分解において得られる成分の比率は、その原料に応じて概ね一定であり、特定の成分のみを大幅に増産することは困難である。さらに、近年では、産油国などにおいて、天然ガスに含まれるエタンを原料とするエチレンの生産設備が多く新設されており、そのような生産設備ではプロピレンが副生されないため、プロピレンの需給はひっ迫している。
【0004】
そのため、新たなプロピレンの製造方法が模索されており、その方法の一つとして、ナフサなどの炭化水素原料の熱分解により生じる留分の内、炭素数5の炭化水素を主として含む留分であるC5留分を原料として得られる2−ペンテンなどのオレフィンを、エチレンとオレフィンメタセシス反応させて、プロピレンを製造する方法が注目されている。例えば、特許文献1には、2−メチル−2−ブテンや2−ペンテンなどの内部オレフィンや、イソプレンや1,3−ペンタジエンなどの共役ジエンを含むC5留分を選択的水素化反応に付して、留分中の共役ジエンを内部オレフィンに転化させ、それにより得られる成分中のC6成分を除去した後に、その成分に含まれる内部オレフィンをエチレンとオレフィンメタセシス反応させることにより、プロピレン、イソブテンおよび1−ブテンの混合物を得て、この混合物からそれぞれの成分を単離することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2や3にも、C5留分を選択的水素化反応に付した後、2−ペンテンや2−メチル−2−ブテンなどを含む成分をエチレンとオレフィンメタセシス反応させて、プロピレン、イソブテンおよび1−ブテンの混合物を得ることが記載されている。また、特許文献2や3では、得られる混合物中の1−ブテンを2−ブテンに異性化させてから、エチレンとオレフィンメタセシス反応させて、さらにプロピレンを得ることも記載されている。
【0006】
特許文献1〜3に記載された方法において、C5留分を選択的水素化反応に付して、C5留分中の1,3−ペンタジエンを2−ペンテンに転化させる直接の目的は、オレフィンメタセシス反応を阻害する1,3−ペンタジエンやイソプレンなどの共役ジエンを反応系から除くことにあるが、共役ジエンをプロピレンを得るために必要な成分である内部オレフィンに転化させることができるので、プロピレンの収率を高くすることができる点においても利点がある。また、特許文献2および3に記載された方法では、最初のオレフィンメタセシス反応でプロピレンと共に得られる1−ブテンを原料として、さらなるプロピレンを製造する工程を採用することにより、さらにプロピレンの収率を向上させている。しかしながら、それでもなお、これらの方法では、近年特に需給がひっ迫しているプロピレンの収率が十分でなく、その収率のさらなる改良が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−92135号公報
【特許文献2】特開平8−301794号公報
【特許文献3】特開平8−301806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、C5留分に含まれる1,3−ペンタジエンなどを選択的に水素化して2−ペンテンなどを得て、その2−ペンテンなどとエチレンとをオレフィンメタセシス反応させることなどによりプロピレンを製造する方法において、簡便な手法により、プロピレンの収率を改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、ナフサなどの炭化水素原料の熱分解により生じるC5留分について、イソプレンや2−メチルブテンなどの比較的に低沸点の成分を除去する処理を行い、それにより得られるC5留分を原料として、特定の工程によりプロピレンを製造することによって、従来の手法に比較して、プロピレンの収率を大幅に改良できることを見出した。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
【0010】
かくして、本発明によれば、少なくとも1,3−ペンタジエンを含んでなるC5留分を原料とするプロピレンの製造方法であって、C5留分に含まれるイソプレンの量が、C5留分に含まれる1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、0〜50重量%であり、かつ、下記の工程(1)〜(7)を有することを特徴とするプロピレンの製造方法が提供される。
(1)C5留分を選択的水素化反応に付し、C5留分中の1,3−ペンタジエンを2−ペンテンに転化させる、選択的水素化反応工程
(2)メタセシス触媒の存在下において、工程(1)で得られた成分にエチレンを接触させることにより、工程(1)で得られた成分中の2−ペンテンをエチレンと反応させて、プロピレンおよび1−ブテンを生成させる、第1のオレフィンメタセシス反応工程
(3)工程(2)で得られた成分からプロピレンを回収する、第1のプロピレン回収工程
(4)工程(2)で得られた成分から1−ブテンを含む成分を回収する、1−ブテン回収工程
(5)工程(4)で得られた成分を異性化反応に付し、工程(4)で得られた成分中の1−ブテンを2−ブテンに転化させる、異性化反応工程
(6)メタセシス触媒の存在下において、工程(5)で得られた成分にエチレンを接触させることにより、工程(5)で得られた成分中の2−ブテンをエチレンと反応させて、プロピレンを生成させる、第2のオレフィンメタセシス反応工程
(7)工程(6)で得られた成分からプロピレンを回収する、第2のプロピレン回収工程
【0011】
上記のプロピレンの製造方法では、C5留分が、炭化水素原料の熱分解により生じる炭素数5の炭化水素を主成分とする留分から、イソプレンの含有量を低減させる処理を行って得られるものであることが好ましい。
【0012】
上記のプロピレンの製造方法では、C5留分のイソプレンの含有量を低減させる処理が蒸留であることが好ましい。
【0013】
上記のプロピレンの製造方法では、C5留分のイソプレンの含有量を低減させる処理が、炭化水素原料の熱分解により生じる炭素数5の炭化水素を主成分とする留分から、沸点38℃以下の留分を除く処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、C5留分に含まれる1,3−ペンタジエンなどを選択的に水素化して2−ペンテンなどを得て、その2−ペンテンなどとエチレンとをオレフィンメタセシス反応させることなどによりプロピレンを製造する方法において、C5留分に含まれる1,3−ペンタジエンなどを選択的に水素化して2−ペンテンなどを得て、その2−ペンテンなどとエチレンとをオレフィンメタセシス反応させることによりプロピレンを製造する方法において、簡便な手法により、プロピレンの収率を改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例および比較例で用いた連続反応−蒸留装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のプロピレンの製造方法では、少なくとも1,3−ペンタジエンを含んでなるC5留分を原料とする。本発明で用いるC5留分は、1,3−ペンタジエンを含むものである限りにおいて、その由来は特に限定されるものではないが、ナフサや重質油などの炭化水素原料を熱分解して生じる留分であって、炭素数5の炭化水素を主成分とする留分が好適に用いられる。但し、通常の原料および方法を用いて得られる、炭素数5の炭化水素を主成分とする留分は、1,3−ペンタジエンよりもイソプレンが多く含まれるものであるので、そのような留分については、後述するようなイソプレンの含有量を低減させる処理を行ってから、反応に供する必要がある。
【0017】
本発明のプロピレンの製造方法において、C5留分中の1,3−ペンタジエンは、選択的水素化反応により2−ペンテンに転化され、得られる2−ペンテンは、エチレンとのオレフィンメタセシス反応により、プロピレンと1−ブテンを生じる。なお、C5留分に含有される1,3−ペンタジエンは、シス−1,3−ペンタジエンであっても良いし、トランス−1,3−ペンタジエンであっても良いし、これらを任意の比で含む異性体混合物であっても良い。炭化水素原料を熱分解して生じるC5留分では、通常、シス−1,3−ペンタジエンおよびトランス−1,3−ペンタジエンの両方が含有される。本発明で用いるC5留分における1,3−ペンタジエンの含有量は、通常10〜100重量%であり、好ましくは20〜90重量%である。
【0018】
本発明で用いるC5留分は、イソプレンを含んでいても良い。本発明のプロピレンの製造方法において、C5留分中のイソプレンは、選択的水素化反応により2−メチル−2−ブテンに転化され、得られる2−メチル−2−ブテンは、エチレンとのオレフィンメタセシス反応により、プロピレンとイソブテンを生じる。したがって、C5留分中に含まれるイソプレンはプロピレンの原料として用いることができる。但し、オレフィンメタセシス反応により生じるイソブテンは、オレフィンメタセシス反応系中で重合してしまい、不要な重合体を生じる上に、その重合体がメタセシス触媒の活性低下を引き起こす。しかも、イソプレンはそれ自体が有用性の高い化合物であるから、エチレンを消費してまでプロピレンに転化させることは経済性に欠ける。
【0019】
したがって、本発明で用いるC5留分では、含まれるイソプレンの量が、含まれる1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、0〜50重量%である必要があり、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.1〜10重量%であることがより好ましい。1,3−ペンタジエンの量に対してイソプレンの量が多すぎるC5留分を用いると、プロピレンの収率が低下するおそれがある。
【0020】
C5留分のイソプレンの含有量を低減させる処理は、特に限定されないが、蒸留によるものであることが好ましい。蒸留によって、C5留分のイソプレンの含有量を低減させるには、常圧における沸点38℃以下の留分を除けば良い。なお、沸点38℃以下の留分を除くに当っては、それより沸点の高い留分を併せて除いても構わないが、必要成分を失わせない観点からは、通常、常圧における沸点が40℃以上、好ましくは、39℃以上の留分については、反応に用いるC5留分として採取することが望ましい。なお、蒸留によって得られる沸点38℃以下の留分については、有用なイソプレンが多く含まれているので、さらに蒸留することなどによって、イソプレンを回収し、他の用途に用いることが望ましい。
【0021】
C5留分のイソプレンの含有量を低減させるための蒸留は、バッチ式、連続式のいずれの形態でも実施し得るが、プロセス全体の効率を向上させる観点からは、連続式が好ましい。
【0022】
用いる蒸留装置は、特に限定されないが、分離能の高い精留装置を用いることが望ましい。精留装置としては棚段式蒸留装置や充填式蒸留装置など従来公知の蒸留装置を用いることが出来る。用いる蒸留装置の分離能力は、理論段数で、10段以上であることが好ましく、20段以上であることがより好ましく、30段以上であることが特に好ましい。また、蒸留装置は、塔頂の凝縮液の一部を蒸留塔内に還流させ、凝縮液の残部を蒸留装置外に抜き出すための還流装置を備えるものであることが好ましい。
【0023】
充填式蒸留装置を用いる場合における塔内充填物としては、ラシヒリング、レッシングリング、スルザーパッキンなどの公知の充填物を用いれば良く、その材質にも特に制限はなく、磁器や各種金属製の充填物を用いることができる。
【0024】
蒸留装置の塔頂圧力にも、特に制限はないが、−0.1〜10MPaGの範囲が好ましく、−0.05〜5MPaGの範囲がより好ましく、−0.02〜3MPaGの範囲が特に好ましい。圧力が低すぎると、蒸留塔頂の凝縮器を低温にする必要があり装置運転上のコストを増大させるおそれがある。一方、圧力が高すぎると、塔内温度を上げるために装置に供給するエネルギー量が増大する上、高耐圧の蒸留装置が必要となり、設備のコストが増大するおそれがある。
【0025】
本発明で用いるC5留分は、1,3−ペンタジエンおよびイソプレン以外の鎖状C5炭化水素を含んでいても良い。そのような鎖状C5炭化水素としては、1,2−ペンタジエン、2,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエンなどの非共役ジエン;2−ペンテン、2−メチル−2−ブテンなどの内部オレフィン;1−ペンテンなどの末端オレフィン;n−ペンテン、イソペンテンなどのアルカン;を例示することができる。これらの内、2−ペンテン、2−メチル−2−ブテンなどの内部オレフィンは、オレフィンメタセシス反応工程において、エチレンと反応することにより、プロピレンを生じさせることができる。但し、2−メチル−2−ブテンについては、オレフィンメタセシス反応において前述の問題を引き起こすので、そのC5留分における含有量は、20重量%以下とすることが好ましく、10重量%以下とすることがより好ましい。また、本発明で用いるC5留分では、含まれるイソプレンおよび2−メチル−2−ブテンの合計量が、含まれる1,3−ペンタジエン、イソプレンおよび2−メチル−2−ブテンの合計量に対して、0〜50重量%であることが好ましく、0.01〜20重量%であることがより好ましく、0.1〜10重量%であることが特に好ましい。なお、2−メチル−2−ブテンは、イソプレンと近い沸点を有するので、イソプレンの含有量を低減させるための蒸留において、イソプレンとともに低沸点成分として取除くことができる。
【0026】
本発明で用いるC5留分は、さらに、環状C5炭化水素を含んでいても良い。そのような環状C5炭化水素としては、シクロペンタジエン、シクロペンテン、1−メチルシクロブテン、3−メチルシクロブテン、メチレンシクロブタン、メチルシクロブタジエンを例示することができる。これらのうち、シクロペンテン、および選択的水素化反応によりシクロペンテンに転化されるシクロペンタジエンが存在すると、オレフィンメタセシス反応工程においてエチレンを消費して、有用性の低い1,6−へプタジエンを生じるので、エチレンの供給量に対するプロピレンの収率を押し下げる要因となる。したがって、C5留分中のシクロペンテンおよびシクロペンタジエンの含有量は少ない方が好ましく、これらの含有量が多い場合には、オレフィンメタセシス反応工程の前までに、その除去をする処理を行うことが好ましい。
【0027】
C5留分中のシクロペンタジエンは二量化させてジシクロペンタジエンとすれば、蒸留などの手法によって容易にC5留分から分離することができる。したがって、本発明では、予め、シクロペンタジエンを二量化させてジシクロペンタジエンを分離することにより、シクロペンタジエン含量を低減させたC5留分を用いることが好ましい。
【0028】
C5留分中のシクロペンテンは、その沸点が、C5留分中の有用な成分である1,3−ペンタジエンの沸点と近いために、選択的水素化反応に付す前のC5留分からシクロペンテンを除くことは困難である。しかし、C5留分を選択的水素化反応に付し、1,3−ペンタジエンを2−ペンテンに転化させれば、2−ペンテンとシクロペンテンの沸点差が十分あるので、シクロペンテンを容易に分離することができる。このシクロペンテンの分離については、後述する。
【0029】
本発明で用いるC5留分は、上記したような鎖状C5炭化水素および環状C5炭化水素以外の成分を含んでいても良く、例えば、炭素数5以外の炭化水素成分などを含んでいても良い。
【0030】
本発明では、以上述べたようなC5留分をそのまま用いても良いが、任意の処理を行ってから選択的水素化反応に付しても良い。特に、C5留分中に、選択的水素化反応に悪影響を与える成分(例えば、含硫黄化合物や含窒素化合物)が含まれる場合には、そのような成分を除去する処理を行うことが好ましい。含硫黄化合物や含窒素化合物などをC5留分から除去する処理としては洗浄処理や吸着処理を例示することができる。洗浄処理の例としては、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、純水などによる洗浄を挙げることできる。また、吸着処理に用いる吸着剤の例としては、活性白土、酸性白土、活性炭、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミノシリケート、ハイドロタルサイト、モレキュラーシーブを挙げることでき、これらは単独で、または複数組み合わせて使用することができる。
【0031】
本発明のプロピレンの製造方法では、まず、上記のようなC5留分を選択的水素化反応に付し、C5留分中の1,3−ペンタジエンを2−ペンテンに転化させる。選択的水素化反応は一般に用いられる方法を採用して行えば良く、通常、触媒の存在下で1,3−ペンタジエンと水素とを反応させることにより行われる。選択的水素化反応に用いる触媒は、1,3−ペンタジエンを2−ペンテンに転化させることができるものであれば特に限定されず、液相状態の反応原料中に溶解した状態で作用する均一系触媒を用いても良いし、イオン性液体、パーフルオロアルカンあるいは水のように反応原料および生成物と分離が容易な液体に触媒を溶解させた液相多相系触媒を用いても良いし、固相の不均一系触媒を用いても良い。これらのなかでも、反応後の触媒と反応物との分離の効率の観点から、液相多相系または固相不均一系触媒を用いるのが好ましく、経済性の観点から、固相不均一系触媒を用いるのが特に好ましい。
【0032】
選択的水素化反応に用いる触媒における活性成分の種類は特に限定されないが、少なくとも1種の遷移金属元素を活性成分として含む触媒を用いることが好ましい。触媒活性の観点からは、これらのなかでも、8〜10族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含むことが好ましく、そのなかでも、10族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含む触媒を用いることが好ましい。
【0033】
選択的水素化反応に用いる触媒は、活性成分に加えて、助触媒成分を含有していても良い。助触媒成分を用いることにより、触媒の活性、反応選択性、寿命などを向上させることができる。助触媒の種類は、目的に応じて選択すればよく、無機物、有機物のどちらであっても良く、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0034】
固相不均一系の触媒を用いる場合において、触媒は、活性成分のみ、または活性成分および助触媒成分のみからなる固体として用いても良いし、適当な担体に担持させて用いても良いが、触媒の扱いやすさの観点からは、担体に担持させて用いるのが好ましい。担体の種類は特に限定されず、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、アルミノシリケート、ハイドロタルサイト、モレキュラーシーブなど工業的に一般に用いられる触媒用担体を使用することができる。これらの担体は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
担体に触媒の成分を担持させる手法は特に限定されないが、触媒の成分またはその前駆体の溶液に担体を浸漬して、それを乾燥させた後、必要に応じて活性化処置を施すなどの一般的な手法を採用することができる。担体は粉状であっても成型されていても良いが、後述するような連続流通式反応を行う場合には、反応器の圧力損失を低減するために、球状、円筒状、円柱状、円盤状などの形状に成型されていることが望ましい。
【0036】
選択的水素化反応に用いる水素源としては水素ガス、ボラン、ヒドラジン、金属水素化物、ギ酸、ギ酸アンモニウムなどの水素化反応に用いられる公知の水素源を用いることができる。これらのなかでも、水素ガスが特に好適に用いられる。水素源の量は、特に限定されないが、通常、理論上必要な水素量の1.0〜100倍の量の水素が供給されるように設定される。
【0037】
選択的水素化反応は、C5留分、水素源、および必要に応じて添加される触媒のみが存在する状態で行っても良く、これらの成分を希釈するための溶媒またはガスが存在する状態で行っても良い。また、反応の転化率、選択性、触媒寿命などを改良するなどの目的で、さらに他の成分が存在する状態で行っても良い。
【0038】
選択的水素化反応は、C5留分が気相状態であるような条件下で行っても良いし、液相状態であるような条件下で行っても良いし、気相および液相の混合状態であるような条件下で行っても良い。また、C5留分が超臨界状態であるような条件下で行うこともできる。
【0039】
選択的水素化反応の反応温度は、特に限定されないが、通常0〜500℃、好ましくは10〜400℃、より好ましくは20〜300℃である。また、反応圧力も、特に限定されないが、通常−0.1〜20MPaG、好ましくは−0.05〜10MPaG、より好ましくは0〜5MPaGである。
【0040】
選択的水素化反応は、バッチ式で行っても良いし、連続流通式で行っても良いが、反応器効率の面からは連続流通式が望ましい。バッチ式で反応を行う場合は、水素源の使用量の全てを反応器に加えてから反応を開始してもよく、反応の進行に応じて水素源を逐次加えても良い。また、連続流通式で反応を行う場合は、予め水素源の使用量の全てを反応器に加えてからC5留分を反応器に連続的に供給しても良いし、反応器に水素源供給経路を設けて反応の進行に応じた量の水素源連続的に供給しても良い。
【0041】
選択的水素化反応は、十分な水素化が行えることができれば1回の反応で行っても良く、必要に応じて、複数回の反応を行っても良い。複数回の反応を行う場合、触媒の種類、温度、圧力などの条件は、各回で同一であっても異なっていても良い。
【0042】
オレフィンメタセシス反応において、モノオレフィン以外の不飽和化合物が反応系に多く存在すると、目的のオレフィンメタセシス反応が阻害されるおそれがある。したがって、選択的水素化反応において十分な水素化を行うことにより、選択的水素化反応の生成物におけるモノオレフィン以外の不飽和化合物の含有量を十分に低減させることが望ましい。具体的には、選択的水素化反応の生成物におけるモノオレフィン以外の不飽和化合物の含有量が、100重量ppm未満であることが好ましく、50重量ppm未満であることがより好ましい。
【0043】
以上のようにC5留分を選択的水素化反応に付すことにより、C5留分中の1,3−ペンタジエンを2−ペンテンに転化させることができる。なお、得られる2−ペンテンは、原料である1,3−ペンタジエンと同様に、シス体であっても良いし、トランス体であっても良いが、通常は、これらを任意の比で含む異性体混合物である。
【0044】
本発明のプロピレンの製造方法では、以上のようにして得られる2−ペンテンを含む選択的水素化反応の生成物(成分)を、そのままオレフィンメタセシス反応(第1のオレフィンメタセシス反応工程)に供しても良いが、前述したように、シクロペンテンを分離する処理を行っても良い。選択的水素化反応の生成物から、シクロペンテンを分離する手法は特に限定されないが、蒸留による分離が好適に用いられる。なお、選択的水素化反応の生成物に、シクロペンタンなどの、シクロペンテン以外の環状C5炭化水素が含まれる場合には、この蒸留により、それらの環状C5炭化水素も2−ペンテンを含む成分から分離することができる。
【0045】
選択的水素化反応の生成物からシクロペンテンを分離するための蒸留は、バッチ式、連続式のいずれの形態でも実施し得るが、プロセス全体の効率を向上させる観点からは、連続式が好ましい。
【0046】
用いる蒸留装置は、特に限定されないが、分離能の高い精留装置を用いることが望ましい。精留装置としては棚段式蒸留装置や充填式蒸留装置など従来公知の蒸留装置を用いることが出来る。用いる蒸留装置の分離能力は、理論段数で、10段以上であることが好ましく、20段以上であることがより好ましく、30段以上であることが特に好ましい。また、蒸留装置は、塔頂の凝縮液の一部を蒸留塔内に還流させ、凝縮液の残部を蒸留装置外に抜き出すための還流装置を備えるものであることが好ましい。
【0047】
充填式蒸留装置を用いる場合における塔内充填物としては、ラシヒリング、レッシングリング、スルザーパッキンなどの公知の充填物を用いれば良く、その材質にも特に制限はなく、磁器や各種金属製の充填物を用いることができる。
【0048】
蒸留装置の塔頂圧力にも、特に制限はないが、−0.1〜10MPaGの範囲が好ましく、−0.05〜5MPaGの範囲がより好ましく、−0.02〜3MPaGの範囲が特に好ましい。圧力が低すぎると、蒸留塔頂の凝縮器を低温にする必要があり装置運転上のコストを増大させるおそれがある。一方、圧力が高すぎると、塔内温度を上げるために装置に供給するエネルギー量が増大する上、高耐圧の蒸留装置が必要となり、設備のコストが増大するおそれがある。
【0049】
本発明のプロピレンの製造方法において、用いるC5留分に例えば1−ペンテンなどの末端オレフィンが含有される場合には、その末端オレフィンを、2−ペンテンなどの内部オレフィンに異性化させる工程を設けても良い。この工程を設けることにより、C5留分中の末端オレフィンを、オレフィンメタセシス反応におけるプロピレンの原料となる内部オレフィンに変換することができるので、第1のオレフィンメタセシス反応工程における、C5留分の使用量に対するプロピレンの収率を改良することができる。但し、本発明のプロピレンの製造方法は、後述するように、第1のオレフィンメタセシス反応工程の後に、異性化工程を有するものであるので、その異性化工程においてC5留分に元来含まれる末端オレフィンを異性化させることができる。したがって、本発明のプロピレンの製造方法では、後述する異性化工程以外の異性化工程は設けなくても構わない。
【0050】
本発明のプロピレンの製造方法では、以上のようにして得られる選択的水素化反応の生成物(成分)を、メタセシス触媒の存在下においてエチレンと接触させることにより、2−ペンテンをエチレンと反応させて、プロピレンおよび1−ブテンを生成させる(第1のオレフィンメタセシス反応工程)。なお、反応させる成分に、2−ペンテン以外の内部オレフィンが含まれる場合には、その内部オレフィンもオレフィンメタセシス反応させてプロピレンを得るための原料として用いることができる。2−ペンテンをエチレンと反応させるにあたっては、選択的水素化反応の生成物をそのまま用いても良いし、その成分に処理を加えたものを用いても良い。特に、用いる成分中に、オレフィンメタセシス反応の触媒毒となる成分(例えば、含酸素化合物、含硫黄化合物、水分など)が含まれる場合には、そのような触媒毒となる成分を除去する処理を行うことが好ましい。触媒毒となる成分を除去する処理としては、吸着剤による吸着処理が挙げられる。吸着処理に用いる吸着剤の例としては、活性白土、酸性白土、活性炭、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミノシリケート、ハイドロタルサイト、モレキュラーシーブを挙げることでき、これらは単独で、または複数組み合わせて使用することができる。
【0051】
オレフィンメタセシス反応におけるエチレンの使用量は、特に限定されないが、通常、反応させる内部オレフィンの量に対して、0.5〜100倍モルであり、好ましくは、1〜10倍モルである。エチレンの使用量が少なすぎると、C5留分の使用量に対するプロピレンの収率が不十分となり、一方、エチレンの使用量が多すぎると、未反応のエチレンを回収する労力が大きくなる。なお、オレフィンメタセシス反応に用いるエチレンは、特に限定されず、一般にポリマーグレードなどと呼ばれる高純度品を用いても良いし、触媒毒となる成分を含まない限りにおいて、例えばメタンなどの不純物を含むものを用いても良い。
【0052】
オレフィンメタセシス反応に用いるメタセシス触媒は、2−ペンテンをエチレンとオレフィンメタセシス反応させて、プロピレンおよび1−ブテンを生成させるものであれば特に限定されず、固相不均一系触媒、均一系触媒、液相多相系触媒などのいずれであっても良いが、反応生成物からの触媒分離の容易さの観点からは、固相不均一系触媒または液相多相系触媒であることが好ましく、経済性の観点から、固相不均一系触媒を用いるのが特に好ましい。
【0053】
メタセシス触媒における活性成分の種類は特に限定されないが、少なくとも1種の遷移金属元素を活性成分として含む触媒を用いることが好ましい。6〜8族の金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を活性成分として含む触媒を用いることが好ましい。なかでも、モリブデン、レニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属元素を活性成分として含む触媒が好適である。
【0054】
メタセシス触媒は、活性成分に加えて、助触媒成分を含有していても良い。助触媒成分を用いることにより、触媒の活性、反応選択性、寿命などを向上させることができる。助触媒の種類は、目的に応じて選択すればよく、無機物、有機物のどちらであっても良く、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0055】
メタセシス触媒は、活性成分のみ、または活性成分および助触媒成分のみからなる固体として用いても良いし、適当な担体に担持させて用いても良いが、触媒の扱いやすさの観点からは、担体に担持させて用いるのが好ましい。担体の種類は特に限定されず、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、アルミノシリケート、ハイドロタルサイト、モレキュラーシーブなど工業的に一般に用いられる触媒用担体を使用することができる。これらの担体は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0056】
担体に触媒の成分を担持させる手法は特に限定されないが、触媒の成分またはその前駆体の溶液に担体を浸漬して、それを乾燥させた後、必要に応じて活性化処置を施すなどの一般的な手法を採用することができる。担体は粉状であっても成型されていても良いが、後述するような連続流通式反応を行う場合には、反応器の圧力損失を低減するために、球状、円筒状、円柱状、円盤状などの形状に成型されていることが望ましい。
【0057】
オレフィンメタセシス反応は、選択的水素化反応の生成物、エチレン、および必要に応じて添加される触媒のみが存在する状態で行っても良く、これらの成分を希釈するための溶媒またはガスが存在する状態で行っても良い。また、反応の転化率、選択性、触媒寿命などを改良するなどの目的で、さらに他の成分が存在する状態で行っても良い。
【0058】
オレフィンメタセシス反応は、選択的水素化反応の生成物およびエチレンの混合物が気相状態であるような条件下で行っても良いし、液相状態であるような条件下で行っても良いし、気相および液相の混合状態であるような条件下で行っても良い。また、この混合物が超臨界状態であるような条件下で行うこともできる。
【0059】
オレフィンメタセシス反応の反応温度は、特に限定されないが、通常−100〜500℃、好ましくは0〜400℃、より好ましくは20〜350℃である。また、反応圧力も、特に限定されないが、通常−0.1〜30MPaG、好ましくは−0.05〜25MPaG、より好ましくは0〜20MPaGである。
【0060】
オレフィンメタセシス反応は、バッチ式で行っても良いし、連続流通式で行っても良いが、反応器効率の面からは連続流通式が望ましい。
【0061】
本発明のプロピレンの製造方法では、イソプレンの含有量が比較的少ないC5留分を用いるものであるので、オレフィンメタセシス反応の反応系における、2−メチル−2−ブテンの存在量が少なく、その結果として、イソブテンの生成量が少なくなる。そのため、本発明のプロピレンの製造方法では、オレフィンメタセシス反応の反応系において、メタセシス触媒の活性低下を引き起こすイソブテンの重合体が生成し難くなる。したがって、本発明のプロピレンの製造方法によれば、プロピレンの収率が改良される。
【0062】
本発明のプロピレンの製造方法では、以上のようにして得られるオレフィンメタセシス反応(第1のオレフィンメタセシス反応工程)の生成物から、目的の成分であるプロピレンを回収する(第1のプロピレン回収工程)。プロピレンを回収する手法は特に限定されないが、蒸留による分離が好適に用いられる。オレフィンメタセシス反応の生成物を蒸留することにより、生成物中のプロピレンと1−ブテンなどの炭素数4の成分とを異なる留分として容易に分離して回収することができる。また、生成物中に、未反応エチレン、炭素数5の成分、炭素数6以上の成分などが含まれる場合には、これらもそれぞれ異なる留分として分離して回収することができる。プロピレンを回収するために用いられる、蒸留装置および蒸留条件は特に限定されず、例えば、シクロペンテンの分離で用いるものとして例示した蒸留装置および蒸留条件を用いることができる。なお、プロピレンを回収する工程において、未反応エチレンが得られる場合には、そのエチレンは、再度、オレフィンメタセシス反応で用いるエチレンとして用いることができる。また、プロピレンを回収する工程において、未反応の2−ペンテンなどの内部オレフィンを含む炭素数5の成分が得られる場合には、その成分をオレフィンメタセシス反応の反応成分として用いることができる。
【0063】
また、本発明のプロピレンの製造方法では、以上のようにして得られるオレフィンメタセシス反応(第1のオレフィンメタセシス反応工程)の生成物から、1−ブテンを含む炭素数4の成分も回収する。この1−ブテンを含む成分は、後述する異性化反応に付することにより、1−ブテンなどの末端オレフィンを2−ブテンなどの内部オレフィンに異性化させた後、エチレンとのオレフィンメタセシス反応(第2のオレフィンメタセシス反応工程)に付すことができる。なお、1−ブテンを含む成分を回収するにあたり、炭素数4の成分のみを回収する必要はなく、例えば、炭素数5の成分や炭素数6以上の成分を併せて回収して、異性化反応に付すことができる。このようにすることにより、さらに、プロピレンの収率を改良させることができる。1−ブテンを含む成分を回収する手法は特に限定されないが、蒸留による分離が好適に用いられる。蒸留装置および蒸留条件は特に限定されず、プロピレンを回収するための蒸留と同様で良い。
【0064】
本発明のプロピレンの製造方法では、以上のようにして回収される1−ブテンを含む成分を、異性化反応に付し、成分中の1−ブテンを2−ブテンに転化させる。なお、1−ブテンを含む成分に、他の末端オレフィンが存在する場合には、その末端オレフィンも併せて内部オレフィンに転化させて、プロピレンの原料として用いることができる。
【0065】
末端オレフィンを内部オレフィンに異性化させる方法は特に限定されず公知の方法を採用できるが、触媒を用いる方法が一般的である。末端オレフィンを内部オレフィンに異性化させるために用いうる触媒としては、金属酸化物を活性成分とする触媒が挙げられ、具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、アルミナを例示することができる。また、選択的水素化工程の触媒としても用いることができる異性化触媒として、ニッケル、パラジウムおよび白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属触媒元素を活性成分として含む触媒が挙げられる。これらの触媒は、そのまま用いても良いし、担体に担持させて用いても良い。なお、選択的水素化工程の触媒としても用いることができる異性化触媒を用いる場合には、1−ブテンなどのモノオレフィンが水素化されるのを防ぐために、水素/モノオレフィンのモル比を1/10以下とすることが好ましい。
【0066】
異性化反応の反応温度は、特に限定されず、通常−100〜500℃、好ましくは0〜400℃、より好ましくは20〜300℃である。反応圧力も特に限定されず、通常0〜20MPaGの範囲である。
【0067】
1−ブテンを2−ブテンに転化させる工程(異性化工程)は、第1のオレフィンメタセシス反応工程より後であって、後述する第2のオレフィンメタセシス反応工程より後でなければいつ行っても良く、例えば、1−ブテン回収工程と同時、1−ブテン回収工程と第2のオレフィンメタセシス反応工程との間、または第2のオレフィンメタセシス反応工程と同時に行うことができる。また、異性化は、1つの工程で行っても良いし、複数の工程において行っても良い。
【0068】
異性化反応工程により得られる2−ブテンを含む成分は、そのまま第2のオレフィンメタセシス反応工程に供しても良いし、必要に応じて、任意の処理を行ってから第2のオレフィンメタセシス反応工程に供しても良い。特に、異性化反応工程により得られる成分にイソブテンが含有される場合には、第2のオレフィンメタセシス反応工程の前にイソブテンを分離する工程を設けることが好ましい。イソブテンを分離する手法は、特に限定されないが、2−ブテン(トランス体およびシス体)の沸点と、イソブテンの沸点とは十分に離れていることから、蒸留による分離が好適である。イソブテンを分離するために用いられる、蒸留装置および蒸留条件は特に限定されず、例えば、シクロペンテンの分離で用いるものとして例示した蒸留装置および蒸留条件を用いることができる。なお、イソブテンの分離を蒸留で行う場合においては、その蒸留と同時に1−ブテンを2−ブテンに転化させる異性化反応を行うことができる。蒸留と同時に異性化反応を行うためには、蒸留装置内、具体的には蒸留塔内の充填物などに異性化触媒を混合すれば良い。
【0069】
本発明のプロピレンの製造方法では、以上のようにして得られる異性化反応工程の生成物(成分)を、メタセシス触媒の存在下においてエチレンと接触させることにより、2−ブテンをエチレンと反応させて、プロピレンを生成させる(第2のオレフィンメタセシス反応工程)。この反応では、2−ブテンおよびエチレンの各1当量に対して、2当量のプロピレンが得られる。なお、反応させる成分に、2−ブテン以外の内部オレフィンが含まれる場合には、その内部オレフィンもオレフィンメタセシス反応させてプロピレンを得るための原料として用いることができる。第2のオレフィンメタセシス反応工程における、メタセシス触媒および反応形式は、第1のオレフィンメタセシス反応工程と同様で良い。第2のオレフィンメタセシス反応工程におけるオレフィンメタセシス反応の反応温度は、特に限定されないが、通常−100〜500℃、好ましくは0〜400℃、より好ましくは50〜350℃である。また、反応圧力も、特に限定されないが、通常−0.1〜30MPaG、好ましくは−0.05〜25MPaG、より好ましくは0〜20MPaGである。なお、第1のオレフィンメタセシス反応工程と第2のオレフィンメタセシス反応工程とは、異なる反応器で行っても良いし、同一の反応器において、同時に、または別々に行うこともできる。
【0070】
本発明のプロピレンの製造方法では、以上のようにして得られるオレフィンメタセシス反応(第2のオレフィンメタセシス反応工程)の生成物から、目的の成分であるプロピレンを回収する(第2のプロピレン回収工程)。プロピレンを回収する手法などは、第1のオレフィンメタセシス反応工程と同様とすれば良い。
【0071】
以上のような本発明のプロピレンの製造方法では、イソプレンの含有量が比較的少ないC5留分を用いることにより、触媒活性低下の原因となるイソブテンの生成量が少なくさせ、しかも、第1のオレフィンメタセシス反応工程で生じる1−ブテンをも、プロピレンの原料として用いるものである。したがって、本発明のプロピレンの製造方法によれば、プロピレンの収率が改良される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
〔装置構成〕
以下に述べる実施例および比較例では、図1に示す構成を有する連続反応−蒸留装置を用いて、プロピレンの製造を行った。図1において、R1は選択的水素化反応の反応器を表し、R2は第1のオレフィンメタセシス反応の反応器を表し、R3は異性化反応の反応器を表し、R4は第2のオレフィンメタセシス反応の反応器を表し、D1〜3は蒸留塔を表す。選択的水素化反応の反応器(R1)は、内径23mm、長さ600mmのSUS316製の管内に水素化触媒を充填したものである。水素化触媒は2重量%パラジウム/γ−アルミナ触媒(粒径2mm)である。第1のオレフィンメタセシス反応の反応器(R2)は、内径23mm、長さ600mmのSUS316製の管内の出口側にグラスウールを厚さ30mm充填し、次いで7.5重量%酸化タングステン/シリカ触媒(球状・平均粒径1.5mm)18gと7重量%酸化マグネシウム・1重量%酸化ナトリウム/アルミナ触媒(球状・平均粒径1.5mm)54gを混合した触媒を充填し、更にグラスウールを厚さ30mm充填して、残りの空間にモレキュラーシーブ13Xを充填することにより構成したものである。異性化反応の反応器(R3)は、内径23mm、長さ300mmのSUS316製反応管に、選択的水素化反応の反応器(R1)と同一の触媒を充填したものである。第2のオレフィンメタセシス反応の反応器(R4)は、内径23mm、長さ300mmのSUS316製反応管に、第1のオレフィンメタセシス反応の反応器(R2)と同様にグラスウール、触媒、グラスウール、モレキュラーシーブ13Xを順に充填したものである。但し、触媒の使用量は(R2)の1/2である。なお、各反応器は加熱手段として電気ヒーターを設け、また、反応器下流には背圧弁を設けて、反応器の圧力を一定に維持しうる構成とした。また、各反応器の上流には、電気ヒーターを備える予熱器(図示省略)を設置した、反応器(R2)および(R4)は、550℃に加熱下一酸化炭素ガスを流通させてメタセシス触媒を活性化した後、窒素ガスで一酸化炭素ガスを置換してから用いた。
【0074】
〔反応条件〕
以下に述べる実施例および比較例において、図1に示す構成を有する連続反応−蒸留装置を用いてプロピレンを製造するにあたり、各反応器の温度、圧力は次のように設定した。即ち、反応器(R1)、(R2)、(R3)、(R4)の(温度−圧力)は、それぞれ、(140℃−0MPaG)、(300℃−3.0MPaG)、(100℃−1.0MPaG)、(300℃−3.0MPaG)とした。また、各反応器の上流の予熱器の温度は、対応する反応器と同じ温度となるように設定し、反応器入口では、供給される成分がガス化されるようにした。
【0075】
〔C5留分〕
以下に述べる実施例および比較例では、1,3−ペンタジエンおよびイソプレン以外の成分による影響を排除して各例の比較を行うために、以下のようにして得られる精製1,3−ペンタジエンと精製イソプレンとを混合して得られる試料を、原料であるC5留分として用いた。ここで、精製1,3−ペンタジエンおよび精製イソプレンは、ナフサを熱分解して得られる炭素数5の炭化水素を主として含む留分に、特公昭47−41322号公報および特公昭47−41323号に記載された方法を適用して得られたものである。具体的には、次のように得られる精製1,3−ペンタジエンおよび精製イソプレンを用いた。ナフサを熱分解した際に生じる炭素数5の炭化水素を主として含む留分を100℃に加熱してシクロペンタジエンの大部分を二量化させてジシクロペンタジエンとした後、蒸留によりジシクロペンタジエンを除去し、ジメチルホルムアミドを用いた抽出蒸留により鎖状アルカン、鎖状モノオレフィンを塔頂留分として除去し、塔底留分から放散塔でジメチルホルムアミドを除去し、主としてイソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、シクロペンテン、シクロペンタン、および炭素数6の炭化水素からなる留分を得た。次いで、この留分の主たる成分の内、最も沸点の低いイソプレンを蒸留分離し、分離されたイソプレンをさらに精製して、純度99重量%以上の精製イソプレンを得た。また、イソプレンを分離した後の残りの留分を100℃に加熱して、シクロペンタジエンの大部分を二量化させてジシクロペンタジエンとした後、蒸留により沸点50℃以上の留分(ジシクロペンタジエンおよび炭素数6の炭化水素)を除去した。また、さらに、n−ペンタンとの共沸蒸留により残りのシクロペンタジエンを除き、次いで、ジメチルホルムアミドを用いて抽出蒸留を行うことによりシクロペンテンおよびシクロペンタンを除去し、最後に放散塔でジメチルホルムアミドと分離して、純度95重量%(シス体およびトランス体の合計量)の精製1,3−ペンタジエンを得た。
【0076】
〔実施例1〕
精製1,3−ペンタジエンおよび精製イソプレンを、混合物におけるイソプレンの含有量が、含有される1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、9重量%となるように混合した。この混合物(C5留分)をガスクロマトグラフィーにより組成分析した結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
以上のようにして得た、C5留分を、前述の連続反応−蒸留装置に417.5g/hの流速(表1に各成分毎の供給速度を示した)で供給することにより、プロピレンの製造を行った。なお、選択的水素化反応の反応器(R1)の上流での水素の供給量は17.8g/hとし、第1のオレフィンメタセシス反応の反応器(R2)の上流でのエチレンの供給量は446.4g/hとし、異性化反応の反応器(R3)の上流での水素の供給量は0.4g/hとし、第2のオレフィンメタセシス反応の反応器(R4)の上流でのエチレンの供給量は262.4g/hとした。
【0079】
以上のようにプロピレンの製造を行うにあたり、選択的水素化反応の反応器(R1)の下流で未反応の水素を回収し、蒸留塔D1では搭頂成分を回収し、蒸留塔D2では搭底成分を抜き出し、蒸留塔D3では未反応の水素とイソブテンを含む留分を塔頂から抜き出し、第2のオレフィンメタセシス反応の反応器(R4)からの留出分については全量を回収した。それぞれの成分について、ガスクロマトグラフィーにより組成分析することにより求めた、各構成成分の流出量を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
以上の結果より、実施例1におけるエチレン消費量は167.9g/h(=446.4+262.4−342.2−198.7)であり、プロピレン生成量は351.3g/hr(=157.4+193.9)であるといえる。したがって、実施例1におけるエチレン消費量に対するプロピレンの生成効率(プロピレン生成量(モル)/エチレン消費量(モル))は、1.40(=351.3/42.1)/(167.9/28.1))であった。また、炭素数6以上の重質分の生成量は、20.7g/hr(=20.6+0.1)であり、原料として用いたC5留分に対する生成割合は、5.0重量%(=20.7/417.5)であった。
【0082】
〔実施例2〕
精製1,3−ペンタジエンおよび精製イソプレンを、混合物におけるイソプレンの含有量が、含有される1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、46重量%となるように混合した。この混合物(C5留分)をガスクロマトグラフィーにより組成分析した結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
以上のようにして得た、イソプレンの含有量が、含有される1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、46重量%であるC5留分を、前述の連続反応−蒸留装置に417.6g/hの流速で供給することにより、プロピレンの製造を行った。なお、選択的水素化反応の反応器(R1)の上流での水素の供給量は17.8g/hとし、第1のオレフィンメタセシス反応の反応器(R2)の上流でのエチレンの供給量は444.9g/hとし、異性化反応の反応器(R3)の上流での水素の供給量は0.3g/hとし、第2のオレフィンメタセシス反応の反応器(R4)の上流でのエチレンの供給量は164.2g/hとした。
【0085】
以上のような実施例2のプロピレンの製造方法においても、選択的水素化反応の反応器(R1)の下流で未反応の水素を回収し、蒸留塔D1では搭頂成分を回収し、蒸留塔D2では搭底成分を抜き出し、蒸留塔D3では未反応の水素とイソブテンを含む留分を塔頂から抜き出し、第2のオレフィンメタセシス反応の反応器(R4)からの留出分については全量を回収した。それぞれの成分について、ガスクロマトグラフィーにより組成分析することにより求めた、各構成成分の流出量を表4に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
実施例2におけるエチレン消費量に対するプロピレンの生成効率(プロピレン生成量(モル)/エチレン消費量(モル))は、1.28であり、原料として用いたC5留分に対する炭素数6以上の重質分の生成割合は、6.6重量%であった。
【0088】
〔比較例〕
精製1,3−ペンタジエンおよび精製イソプレンを、混合物におけるイソプレンの含有量が、含有される1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、67重量%となるように混合した。この混合物(C5留分)をガスクロマトグラフィーにより組成分析した結果を表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
以上のようにして得た、イソプレンの含有量が、含有される1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、67重量%であるC5留分を、前述の連続反応−蒸留装置に418.7g/hの流速で供給することにより、プロピレンの製造を行った。なお、選択的水素化反応の反応器(R1)の上流での水素の供給量は17.8g/hとし、第1のオレフィンメタセシス反応の反応器(R2)の上流でのエチレンの供給量は445.7g/hとし、異性化反応の反応器(R3)の上流での水素の供給量は0.3g/hとし、第2のオレフィンメタセシス反応の反応器(R4)の上流でのエチレンの供給量は102.9g/hとした。
【0091】
以上のような比較例のプロピレンの製造方法においても、選択的水素化反応の反応器(R1)の下流で未反応の水素を回収し、蒸留塔D1では搭頂成分を回収し、蒸留塔D2では搭底成分を抜き出し、蒸留塔D3では未反応の水素とイソブテンを含む留分を塔頂から抜き出し、第2のオレフィンメタセシス反応の反応器(R4)からの留出分については全量を回収した。それぞれの成分について、ガスクロマトグラフィーにより組成分析することにより求めた、各構成成分の流出量を表6に示す。
【0092】
【表6】

【0093】
比較例におけるエチレン消費量に対するプロピレンの生成効率(プロピレン生成量(モル)/エチレン消費量(モル))は、1.19であり、原料として用いたC5留分に対する炭素数6以上の重質分の生成割合は、9.9重量%であった。
【0094】
以上のように、含まれる1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対するイソプレンの量が、特定の割合であるC5留分を用いることを特徴とする本発明のプロピレンの製造方法では、エチレン消費量に対するプロピレンの生成効率に優れ、また、不要成分である炭素数6以上の重質分の生成割合が小さいといえる。一方、含まれる1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対するイソプレンの量が、本発明で用いるものよりも大きいC5留分を用いると、エチレン消費量に対するプロピレンの生成効率が劣り、また、不要成分である炭素数6以上の重質分の生成割合が大きくなるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1,3−ペンタジエンを含んでなるC5留分を原料とするプロピレンの製造方法であって、C5留分に含まれるイソプレンの量が、C5留分に含まれる1,3−ペンタジエンおよびイソプレンの合計量に対して、0〜50重量%であり、かつ、下記の工程(1)〜(7)を有することを特徴とするプロピレンの製造方法。
(1)C5留分を選択的水素化反応に付し、C5留分中の1,3−ペンタジエンを2−ペンテンに転化させる、選択的水素化反応工程
(2)メタセシス触媒の存在下において、工程(1)で得られた成分にエチレンを接触させることにより、工程(1)で得られた成分中の2−ペンテンをエチレンと反応させて、プロピレンおよび1−ブテンを生成させる、第1のオレフィンメタセシス反応工程
(3)工程(2)で得られた成分からプロピレンを回収する、第1のプロピレン回収工程
(4)工程(2)で得られた成分から1−ブテンを含む成分を回収する、1−ブテン回収工程
(5)工程(4)で得られた成分を異性化反応に付し、工程(4)で得られた成分中の1−ブテンを2−ブテンに転化させる、異性化反応工程
(6)メタセシス触媒の存在下において、工程(5)で得られた成分にエチレンを接触させることにより、工程(5)で得られた成分中の2−ブテンをエチレンと反応させて、プロピレンを生成させる、第2のオレフィンメタセシス反応工程
(7)工程(6)で得られた成分からプロピレンを回収する、第2のプロピレン回収工程
【請求項2】
C5留分が、炭化水素原料の熱分解により生じる炭素数5の炭化水素を主成分とする留分から、イソプレンの含有量を低減させる処理を行って得られるものである、請求項1に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項3】
C5留分のイソプレンの含有量を低減させる処理が蒸留である、請求項2に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項4】
C5留分のイソプレンの含有量を低減させる処理が、炭化水素原料の熱分解により生じる炭素数5の炭化水素を主成分とする留分から、沸点38℃以下の留分を除く処理である、請求項2または3に記載のプロピレンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−98923(P2011−98923A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255286(P2009−255286)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】