説明

プロペラの単独性能測定方法及び装置

【課題】 測定精度を高める。
【解決手段】 プロペラ1をハブ2の後部に接続した後部駆動シャフトで回転させ、一様流中でハブ渦の影響がないときの性能Aを計測する。前端側よりハブ同径部17と細径部18を備えたダミーシャフト16をハブ2の後部に接続した状態で、プロペラ1を前部駆動装置11で回転させ、ハブ渦の影響がなく且つ前部駆動装置11の影響による非一様流が流入するときの性能Bを、ダミーシャフト16の排除体積の影響を抑えた状態で計測する。プロペラ1を前部駆動装置で回転させ、ハブ渦の影響が含まれ且つ前部駆動装置の影響による非一様流が流入するときの性能Cを計測する。性能Bと性能Aの対比で求まる前部駆動装置11による非一様流の影響Δを、性能Cから除去して、一様流中でハブ渦の影響が含まれるプロペラ1の単独性能を、ダミーシャフト16の排除体積の影響を低減させた状態で測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用のプロペラの単独での性能をハブ渦の影響を含めて測定するために用いるプロペラの単独性能測定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロペラの単独性能を測定することは、実船の軸馬力の推定に不可欠なものとなっている。
【0003】
プロペラの性能を測定するための手法としては、一様流中でプロペラが作動した際に入力した回転トルクに対して発生したスラスト(推力)の割合で評価する手法が広く一般的に採られている。したがって、プロペラの単独性能を測定するためには、プロペラを回転駆動させ、プロペラに入力する回転トルク及びプロペラが発生するスラストを計測する装置であるプロペラ動力計が必要となる。
【0004】
従来提案されているプロペラ動力計は、一様流中でプロペラを作動させるために、図6にその一例の概略を示す如く、プロペラ1のハブ2の後部に、駆動シャフト3の前端を接続して、該駆動シャフト3により上記プロペラ1を後方から回転駆動させることで、プロペラ1に前方より乱れのない一様流が流入するようにした構成のものが採られていた(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−117949号公報 (図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、通常、船舶の船尾でプロペラが作動すると、プロペラ後流に渦ができ、この渦が回転中心となる上記プロペラのハブの後方に集中することでハブ渦が発生し、該ハブ渦がプロペラシャフト後端側のプロペラのハブの後端面の中心部より剥離することによって該ハブの後ろ側の圧力が低下し、この圧力低下により抵抗が生じるため、プロペラのスラストやトルクに影響が生じる。
【0007】
しかし、上記図6に示した従来のプロペラ動力計では、プロペラ1のハブ2の後部に駆動シャフト3が取り付けられているため、ハブ2の後方に上記したようなハブ渦が生じることはなく、そのため、ハブ渦の影響が含まれないプロペラ性能が求まるに過ぎない。
【0008】
したがって、上記図6に示した従来のプロペラ動力計を用いて測定したプロペラ性能に基づいて、船尾に装着されるプロペラの性能を評価しても、ハブ渦の影響が含まれていないプロペラ性能の測定結果により、実際にはハブ渦が生じるプロペラの性能を評価(推定)するということになるため、誤差を含んだ評価になり、よって、実船の軸馬力の推定精度が悪化するという問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、船舶用のプロペラの単独性能を、ハブ渦の影響を含めて精度よく測定することができ、よって、実船の軸馬力を高精度で推定することが可能になるプロペラの単独性能測定方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、プロペラのハブの後部に接続した後部駆動シャフトを介してプロペラを回転させて、一様流中におけるハブ渦の影響が含まれないプロペラの性能Aを計測する計測ステップと、上記プロペラのハブの後部に、前端側に該ハブと同径のハブ同径部と該ハブの径よりも細い径の細径部を順に備えたダミーシャフトを取り付けた状態で、該プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれず且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能Bを計測する別の計測ステップと、上記プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれ且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた後の水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能Cを計測する更に別の計測ステップとを備え、且つ上記別の計測ステップで計測したプロペラの性能Bと、上記計測ステップで計測したプロペラの性能Aとの対比により、上記プロペラの前方に上記前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響を求めておき、その後、該求められた前方に上記前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響を、上記更に別の計測ステップで計測したプロペラの性能Cから除去することで、ハブ渦の影響が含まれ、且つ前方に上記前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響が除去された一様流中でのプロペラの単独性能を求めるプロペラの単独性能測定方法とする。
【0011】
又、請求項2に対応して、プロペラのハブの後部に接続した後部駆動シャフトを介してプロペラを回転させて、一様流中におけるハブ渦の影響が含まれないプロペラの性能を計測するためのプロペラ動力計と、上記プロペラのハブの後部に、前端側に該ハブと同径のハブ同径部と該ハブの径よりも細い径の細径部を順に備えたダミーシャフトを取り付けた状態で、該プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれず且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計と、上記プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれ且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた後の水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための更に別のプロペラ動力計とを備えてなる構成を有するプロペラの単独性能測定装置とする。
【0012】
更に、上記構成において、ハブ渦の影響が含まれず且つプロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計におけるダミーシャフトの細径部の長さ寸法を、少なくともプロペラのハブの直径の1.5倍以上とした構成とする。
【0013】
更に又、上記各構成において、ハブ渦の影響が含まれず且つプロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計におけるダミーシャフトの細径部の直径を、プロペラのハブの直径の1/3以下とした構成とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)プロペラのハブの後部に接続した後部駆動シャフトを介してプロペラを回転させて、一様流中におけるハブ渦の影響が含まれないプロペラの性能Aを計測する計測ステップと、上記プロペラのハブの後部に、前端側に該ハブと同径のハブ同径部と該ハブの径よりも細い径の細径部を順に備えたダミーシャフトを取り付けた状態で、該プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれず且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能Bを計測する別の計測ステップと、上記プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれ且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた後の水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能Cを計測する更に別の計測ステップとを備え、且つ上記別の計測ステップで計測したプロペラの性能Bと、上記計測ステップで計測したプロペラの性能Aとの対比により、上記プロペラの前方に上記前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響を求めておき、その後、該求められた前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響を、上記更に別の計測ステップで計測したプロペラの性能Cから除去することで、ハブ渦の影響が含まれ、且つ前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響が除去された一様流中でのプロペラの単独性能を求めるようにするプロペラの単独性能計測方法、及び、プロペラのハブの後部に接続した後部駆動シャフトを介してプロペラを回転させて、一様流中におけるハブ渦の影響が含まれないプロペラの性能を計測するためのプロペラ動力計と、上記プロペラのハブの後部に、前端側に該ハブと同径のハブ同径部と該ハブの径よりも細い径の細径部を順に備えたダミーシャフトを取り付けた状態で、該プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれず且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計と、上記プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれ且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた後の水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための更に別のプロペラ動力計とを備えてなる構成を有するプロペラの単独性能測定装置としてあるので、上記別の計測ステップでプロペラの性能Bを計測する際に用いるダミーシャフトの排除体積の影響を最小限に抑えた状態で、一様流中で且つハブ渦の影響が含まれる条件下でのプロペラの単独性能を測定することができる。よって、実船の軸馬力をより精度よく推定することが可能になる。
(2)更に、一様流中で且つハブ渦の影響が含まれる条件下でのダミーシャフトの排除体積の影響を最小限に抑えたプロペラの単独性能の測定結果を、上記計測ステップで計測した一様流中におけるハブ渦の影響が含まれないプロペラの性能Aと比較することで、ハブ渦の影響量を定量的に評価することが可能になる。
(3)ハブ渦の影響が含まれず且つプロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計におけるダミーシャフトの細径部の長さ寸法を、少なくともプロペラのハブの直径の1.5倍以上とした構成とすることにより、ダミーシャフトの長手方向においてプロペラ後方の流場に影響を及ぼす部分の排除体積のみを効果的に低減させることができる。
(4)ハブ渦の影響が含まれず且つプロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計におけるダミーシャフトの細径部の直径を、プロペラのハブの直径の1/3以下とした構成とすることにより、細径部における排除体積を、ハブと同様の直径寸法を備えた円柱(シャフト)の排除体積に比して、少なくとも約一桁低減させることができる。よって、プロペラ後方の流場に影響を及ぼすダミーシャフトの排除体積を効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のプロペラの単独性能測定方法及び装置の実施の一形態として、一様流中で且つハブ渦の影響が含まれない条件の下での上記プロペラの性能を計測する計測ステップで用いるプロペラ動力計を示す概略側面図である。
【図2】本発明の方法において、ハブ渦の影響が含まれず、且つプロペラに流入する水の流れが前部駆動装置の影響により一様流ではない条件の下での上記プロペラの性能を、ダミーシャフトの排除体積による影響を低減させた状態で計測する計測ステップで用いるプロペラ動力計を示すもので、(イ)は概略側面図、(ロ)はダミーシャフトの部分を拡大して示す側面図である。
【図3】本発明の方法において、ハブ渦の影響を含み、且つプロペラに流入する水の流れが前部駆動装置の影響により一様流ではない条件の下での上記プロペラの性能を計測する計測ステップで用いるプロペラ動力計を示す概略側面図である。
【図4】プロペラ後方の流場計測結果として、プロペラ回転方向流速成分を除いた軸方向及び径方向流速のベクトル図である。
【図5】本発明の実施の他の形態を示すもので、(イ)はプロペラのハブを本来の長さよりも短くする場合におけるダミーシャフトの変形例を示す概略側面図、(ロ)は比較としてプロペラのハブの長さが本来の寸法の場合におけるダミーシャフトを示す概略側面図である。
【図6】従来提案されているプロペラ動力計の一例の概略を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1乃至図4は本発明のプロペラの単独性能測定方法及び装置の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0018】
すなわち、図1は、一様流中におけるハブ渦の影響が含まれないプロペラ1の性能Aを計測するためのプロペラ動力計4aを示すもので、水槽5の上部に配置されたレール等のガイド6に沿って図示しない駆動装置により走行可能な台車7と、該台車7の下面に吊下部材9を介して取り付けられた後部駆動装置8と、後部駆動装置8より前方に延びる後部駆動シャフト10とを備えて、該後部駆動シャフト10の前端にプロペラ1のハブ2の後部を取り付ける。
【0019】
更に、上記後部駆動装置8を、上記吊下部材9の下端に取り付けたケース8a内に、上記後部駆動シャフト10を回転駆動するための図示しないモータと、上記後部駆動シャフト10に作用するスラスト(推力)及びトルクを個別に検出するためのロードセル等の図示しないセンサを設けてなる構成とする。
【0020】
したがって、図1に示した構成としてあるプロペラ動力計4aによれば、プロペラ1を回転駆動しても、該プロペラ1のハブ2の後部に後部駆動シャフト10が取り付けられているため、ハブ渦は生じない。よって、上記プロペラ動力計4aにて、台車7のガイド6に沿う走行により上記後部駆動装置8を水槽5内で所定速度で前進させると共に、該後部駆動装置8により後部駆動シャフト10と一体に上記プロペラ1を所定の回転数で回転駆動させ、この際、上記プロペラ1より後部駆動シャフト10に作用するスラスト及びトルクの上記図示しない各センサによる検出結果を基に、一様流中で且つハブ渦の影響が含まれない条件の下での上記プロペラ1の性能Aを計測することができるようにしてある。
【0021】
図2(イ)(ロ)は、ハブ渦の影響が含まれず、且つプロペラ1の前方に設ける前部駆動装置11の影響を受けて一様流ではなくなる水の流れがプロペラ1に流入するようになる場合における該プロペラ1の性能Bを計測するためのプロペラ動力計4bを示すもので、水槽5の上部に配置されたレール等のガイド6に沿って図示しない駆動装置により走行可能な台車7と、該台車7の前部下面に前部吊下部材12を介して取り付けられた前部駆動装置11と、該前部駆動装置11から後方に延びる前部駆動シャフト13と、上記台車7の後部下面に後部吊下部材14を介して取り付けられた後部支持部材15と、該後部支持部材15から前方に上記前部駆動シャフト13と同軸となるように延びるダミーシャフト16とを備えて、上記前部駆動シャフト13の後端にプロペラ1のハブ2の前部を取り付けると共に、該ハブ2の後部に上記ダミーシャフト16の前端を接続する。
【0022】
更に、上記前部駆動装置11を、上記前部吊下部材12の下端に取り付けた前部ケース11a内に、上記前部駆動シャフト13を回転駆動するための図示しないモータと、上記前部駆動シャフト13に作用するスラスト(推力)及びトルクを個別に検出するためのロードセル等の図示しないセンサを設けてなる構成とする。
【0023】
更に又、上記ダミーシャフト16を、前端部に上記ハブ2と同径の短い円柱形状としてあるハブ同径部17を備え、且つ該ハブ同径部17の後側にハブ2の径よりも細い径寸法の細径部18を備えてなる構成とする。
【0024】
詳述すると、上記ダミーシャフト16の細径部18は、該細径部18の部分における排除体積が十分に小さくなるように、強度が保てる範囲内で断面積をできるだけ小さく設定するようにしてある。たとえば、上記細径部18の直径を、上記プロペラ1のハブ2の直径Dbの1/3に設定することで、断面積を、上記ハブ2の断面積に比して約一桁小さく設定((1/3)倍に設定)できるようにし、これにより、該細径部18における排除体積を、ハブ2と同様の直径寸法とした場合の円柱(シャフト)の排除体積に比して、約一桁低減させることができるようにしてある。
【0025】
更に、上記ダミーシャフト16における細径部18の長さ寸法は、少なくとも上記プロペラ1のハブ2の直径Dbの1.5倍(1.5Db)以上に設定するようにしてある。なお、上記細径部18の長さ寸法を少なくとも1.5Db以上に設定したのは、以下の理由による。
【0026】
すなわち、図4にプロペラ後方の流場計測結果として、プロペラ回転方向成分を除いた軸方向及び径方向流速のベクトル図を示す。横軸x/Dはプロペラ1のジェネレーターラインを原点とするプロペラ直径Dpに対する軸方向位置であり、縦軸r/Rはプロペラ1の半径に対する径方向位置である。又、図4中の一点鎖線は、プロペラ1とそのハブ2を示しており、ハブ2の直径は0.24Dp、該ハブ2の後端位置はプロペラ1のジェネレーターラインより0.26Dp後方となる位置に設定してある。
【0027】
上記図4の軸方向及び径方向流速のベクトル図から明らかなように、0.38x/Dの位置では、径方向の内側へ巻き込む方向のベクトルが見られるが、0.66x/Dの位置より後方では、内側へ巻き込む方向のベクトルは見られず、後方へほぼ真っ直ぐな流れとなっている。このことから、プロペラ後方の流場がハブ2の後側に接続してあるダミーシャフト16に影響する範囲は、0.66x/D以下であると考えられる。この0.66x/Dの位置は、ハブ2の後端位置(プロペラ1のジェネレーターラインより0.26Dp後方位置)より1.67Db(≒(0.66−0.26)/0.24)に相当する距離後方へ離れた位置である。
【0028】
以上の点に鑑みて、本発明では、上記ダミーシャフト16における細径部18の長さ寸法を、少なくとも1.5Db以上に設定することで、該ダミーシャフト16の長手方向において、上記プロペラ後方の流場に影響を及ぼす部分の排除体積を低減させることができるようにしてある。
【0029】
なお、上記ダミーシャフト16におけるハブ同径部17と、細径部18の前端部とを繋ぐ個所は、後方へ向けて縮径するテーパ形状とし、又、上記細径部18の後端部と、ダミーシャフト16の後端寄りの部分とを繋ぐ個所は、後方へ向けて緩い角度で拡径するテーパ形状とすることで、強度を高めると共に、プロペラ後方の流場における上記ダミーシャフト16の周りの水の流れを円滑なものとすることができるようにしてある。
【0030】
したがって、図2(イ)(ロ)に示した構成としてあるプロペラ動力計4bによれば、プロペラ1を回転駆動しても、該プロペラ1のハブ2の後部にダミーシャフト16が接続されているため、ハブ渦は生じない。よって、上記プロペラ動力計4bにて、上記台車7のガイド6に沿う走行により上記前部駆動装置11を水槽5内で所定速度で前進させると共に、該前部駆動装置11により前部駆動シャフト13と一体に上記プロペラ1を所定の回転数で回転駆動させ、この際、上記プロペラ1より前部駆動シャフト13に作用するスラスト及びトルクの上記図示しない各センサによる検出結果を基に、ハブ渦の影響が含まれず、且つ上記プロペラ1の前方に上記前部駆動装置11が存在していることに起因して上記プロペラ1に流入する水の流れが一様流ではなく上記前部駆動装置11の前進速度よりも遅い条件の下での上記プロペラ1の性能Bを、ダミーシャフト16の排除体積による影響を低減させた状態で計測することができるようにしてある。
【0031】
図3は、プロペラ1の前方に設ける前部駆動装置19の影響を受けて一様流ではなくなる水の流れがプロペラ1に流入し、且つハブ渦20の影響が含まれる場合における該プロペラ1の性能Cを計測するためのプロペラ動力計4cを示すもので、水槽5の上部に配置されたレール等のガイド6に沿って図示しない駆動装置により走行可能な台車7と、該台車7の下面に吊下部材21を介して取り付けられた前部駆動装置19と、該前部駆動装置19から後方に延びる前部駆動シャフト22とを備えて、該前部駆動シャフト22の後端にプロペラ1のハブ2の前部を取り付ける。
【0032】
更に、上記前部駆動装置19を、上記吊下部材21の下端に取り付けたケース19a内に、上記前部駆動シャフト22を回転駆動するための図示しないモータと、上記前部駆動シャフト22に作用するスラスト(推力)及びトルクを個別に検出するためのロードセル等の図示しないセンサを設けてなる構成とする。
【0033】
なお、上記前部駆動装置19は、図2(イ)(ロ)に示したプロペラ動力計4bの前部駆動装置11と同様の形状としてあるものとする。
【0034】
したがって、図3に示した構成としてあるプロペラ動力計4cによれば、プロペラ1を回転駆動すると、該プロペラ1のハブ2の後部は、シャフトが取り付けられておらず露出されているため、実機(実船)と同様に、ハブ2の後方にハブ渦20が生じるようになる。よって、上記プロペラ動力計4cにて、上記台車7のガイド6に沿う走行により上記前部駆動装置19を水槽5内で所定速度で前進させると共に、該前部駆動装置19により前部駆動シャフト22と一体に上記プロペラ1を所定の回転数で回転駆動させ、この際、上記プロペラ1より前部駆動シャフト22に作用するスラスト及びトルクの上記図示しない各センサによる検出結果を基に、プロペラ1のハブ2の後端面の中心部より剥離するハブ渦20の影響を含み、且つ上記プロペラ1の前方に上記前部駆動装置19が存在していることに起因して上記プロペラ1に流入する水の流れが一様流ではなく上記前部駆動装置19の前進速度よりも遅い条件の下での上記プロペラ1の性能Cを計測することができるようにしてある。
【0035】
以上の構成としてある各プロペラ動力計4a,4b,4cを用いて本発明のプロペラの単独性能測定方法及び装置を実施する場合は、先ず、図1に示したプロペラ動力計4aを用いて、一様流中で且つハブ渦の影響が含まれない条件の下でのプロペラ1の性能Aを計測する計測ステップを行う。
【0036】
又、図2(イ)(ロ)に示したプロペラ動力計4bを用いて、ハブ渦の影響が含まれず、且つ上記プロペラ1の前方に前部駆動装置11が存在していることに起因して上記プロペラ1に流入する水の流れが一様流ではなく上記前部駆動装置11の前進速度よりも遅い条件の下での上記プロペラ1の性能Bを、ダミーシャフト16の排除体積による影響を低減させた状態で計測する計測ステップを別途行う。
【0037】
そして、少なくとも、上記した各計測ステップによりプロペラ1の性能Aと性能Bの計測が行われた後、上記プロペラ1の性能Bと性能Aとを対比する(差を求める)ことで、上記前部駆動装置11の存在によりプロペラ1に流入する水の速度が一様流ではなく該前部駆動装置11の前進速度よりも遅くなることに伴うプロペラ性能に対する影響Δを求める。
【0038】
更に、図3に示したプロペラ動力計4cを用いて、ハブ渦20の影響を含み、且つ上記プロペラ1の前方に上記前部駆動装置19が存在していることに起因して上記プロペラ1に流入する水の流れが一様流ではなく上記前部駆動装置19の前進速度よりも遅い条件の下での上記プロペラ1の性能Cを計測する計測ステップを別途行う。
【0039】
その後、上記プロペラ1の性能Cより、上記影響Δを除去する、すなわち、上記性能Cから、前部駆動装置19の存在によりプロペラ1に流入する水の速度が一様流ではなく該前部駆動装置19の前進速度よりも遅くなることに伴うプロペラ性能に対する影響Δを除去する。これにより、プロペラ1の前方に前部駆動装置19が存在することに起因してプロペラ1に流入する水の速度が一様流ではなく該前部駆動装置19の前進速度よりも遅くなることに伴うプロペラ性能に対する影響Δが相殺されるため、一様流中で且つハブ渦20の影響が含まれる条件下でのプロペラ1の単独性能が求められるようになる。
【0040】
しかも、上記プロペラ1の単独性能の導出に用いた性能Bについては、前記したように、ダミーシャフト16の排除体積による影響が低減されたものとなっているため、最終的に求められるプロペラ1の単独性能の測定結果においても、上記ダミーシャフト16の排除体積による影響による誤差が低減されるようになる。
【0041】
このように、本発明のプロペラの単独性能測定方法及び装置によれば、図2(イ)(ロ)のプロペラ動力計4bで用いるダミーシャフト16の排除体積の影響を最小限に抑えた状態で、一様流中で且つハブ渦20の影響が含まれる条件下でのプロペラ1の単独性能を測定することができる。
【0042】
よって、実船の軸馬力をより精度よく推定することが可能になる。
【0043】
更に、上記のようにして求めた、一様流中で且つハブ渦20の影響が含まれる条件下でのダミーシャフト16の排除体積の影響を最小限に抑えたプロペラ1の単独性能の測定結果を、図1のプロペラ動力計4aで計測したプロペラ1の性能A、すなわち、一様流中で且つハブ渦の影響が含まれない条件下でのプロペラ性能と比較することで、ハブ渦20の影響量を定量的に評価することも可能になる。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、図2(イ)(ロ)に示したプロペラ動力計4bのダミーシャフト16は、たとえば、図5(イ)に示すように、プロペラ1の単独性能の測定の際に用いるプロペラ1側のハブ2の長さ寸法が、図5(ロ)に比較として示す如き実際のプロペラ1のハブ2に対応する本来の長さ寸法よりも短く設定してある場合は、該ダミーシャフト16における前端部のハブ同径部17の長さ寸法を長く設定することで、該ハブ同径部17の後端位置が、本来の長さ寸法のハブ2(図5(ロ)参照)に取り付けるダミーシャフト16のハブ同径部17の後端位置に揃うようにしてもよい。
【0045】
更に、上記ダミーシャフト16におけるハブ同径部17の後端位置、すなわち、細径部18の前端位置は、本来のプロペラ1のハブ2の後端位置近傍に設定できるが、ハブ渦の影響がプロペラ1に到達し得る範囲で前後方向に位置を多少ずらすようにしてもよい。
【0046】
上記ダミーシャフト16の細径部18の径寸法は、排除体積を低減させるためには強度が保てる範囲で出来るだけ細く設定することが望ましく、排除体積を約一桁低減させる観点からすると径寸法を1/3Db以下に設定することが好ましい。なお、該ダミーシャフト16に必要とされる強度と、ダミーシャフト16の材質、形状、プロペラ後方の流場の影響等を考慮して径寸法を1/3Dbより大きく設定してもよい。
【0047】
各プロペラ動力計4a,4b,4cの各駆動装置8,11,19をガイド6に沿う台車7の走行により水槽5内で移動させることに代えて、回流水槽等の一様流を形成可能な施設にて、上記プロペラ動力計4a,4b,4cにおける各駆動装置8,11,19を、移動させることなく一様流中に配置させた状態で、プロペラ1の性能A、性能B、性能Cの計測をそれぞれ行うようにしてもよい。
【0048】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 プロペラ
2 ハブ
8 後部駆動装置
10 後部駆動シャフト
11 前部駆動装置
13 前部駆動シャフト
16 ダミーシャフト
17 ハブ同径部
18 細径部
19 前部駆動装置
20 ハブ渦
22 前部駆動シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラのハブの後部に接続した後部駆動シャフトを介してプロペラを回転させて、一様流中におけるハブ渦の影響が含まれないプロペラの性能Aを計測する計測ステップと、上記プロペラのハブの後部に、前端側に該ハブと同径のハブ同径部と該ハブの径よりも細い径の細径部を順に備えたダミーシャフトを取り付けた状態で、該プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれず且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能Bを計測する別の計測ステップと、上記プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれ且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた後の水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能Cを計測する更に別の計測ステップとを備え、且つ上記別の計測ステップで計測したプロペラの性能Bと、上記計測ステップで計測したプロペラの性能Aとの対比により、上記プロペラの前方に上記前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響を求めておき、その後、該求められた前方に上記前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響を、上記更に別の計測ステップで計測したプロペラの性能Cから除去することで、ハブ渦の影響が含まれ、且つ前方に上記前部駆動装置が存在することに起因するプロペラの性能への影響が除去された一様流中でのプロペラの単独性能を求めることを特徴とするプロペラの単独性能測定方法。
【請求項2】
プロペラのハブの後部に接続した後部駆動シャフトを介してプロペラを回転させて、一様流中におけるハブ渦の影響が含まれないプロペラの性能を計測するためのプロペラ動力計と、上記プロペラのハブの後部に、前端側に該ハブと同径のハブ同径部と該ハブの径よりも細い径の細径部を順に備えたダミーシャフトを取り付けた状態で、該プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれず且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計と、上記プロペラをその前方に位置する前部駆動装置に接続した前部駆動シャフトを介して回転させて、ハブ渦の影響が含まれ且つ上記プロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた後の水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための更に別のプロペラ動力計とを備えてなる構成を有することを特徴とするプロペラの単独性能測定装置。
【請求項3】
ハブ渦の影響が含まれず且つプロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計におけるダミーシャフトの細径部の長さ寸法を、少なくともプロペラのハブの直径の1.5倍以上とした請求項2記載のプロペラの単独性能測定装置。
【請求項4】
ハブ渦の影響が含まれず且つプロペラ前方の前部駆動装置の影響を受けた水が上記プロペラに流入する場合の上記プロペラの性能を計測するための別のプロペラ動力計におけるダミーシャフトの細径部の直径を、プロペラのハブの直径の1/3以下とした請求項2又は3記載のプロペラの単独性能測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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