説明

プロペントフィリンI型結晶の選択的製造方法

【課題】 脳血管障害に伴う意欲低下、情緒障害の改善薬等の医薬品原料として有用性の高い、高純度のプロペントフィリンI型結晶を選択的に製造する技術の提供。
【解決手段】 プロペントフィリンを、好ましくは40℃以上に加熱したアセトンまたはエタノールから選ばれる溶媒に溶解した後、室温でプロペントフィリン結晶を析出させ、溶媒を留去するプロペントフィリンI型結晶の選択的製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、脳血管障害に伴う意欲低下、情緒障害の改善薬として知られるプロペントフィリンの医薬原末として有用なI型結晶の選択的製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プロペントフィリンは、脳血管障害に伴う意欲低下、情緒障害の有効な改善薬として広く利用されている薬剤である。このプロペントフィリンには、その融点の相違により、I型結晶からIV型結晶までの4種類の結晶が存在するが、医薬品用原末として用いられるものはI型結晶である。
【0003】現在、プロペントフィリンの調製に関しては、多くの報告や、特許出願がなされている。 例えば、特開平5−246850号やCzech,CS 270,545号他)には、イソプロピルエーテルやtertブチルメチルエーテル等の結晶化溶媒を用いてプロペントフィリン結晶を得る技術が開示されており、当該文献中に記載の結晶の融点は69〜70℃で、これらはどれもI型結晶と推定されていた。
【0004】しかしこれらの溶媒について本発明者が追試を行ったところ、下記表1に示すようにIII 型結晶を主成分とする複数の結晶の混合物で、中には再現性の無いものもあり、前記文献に開示の方法では選択的にI型結晶を調製することは困難であった。
【0005】


(注) 表中、溶媒の欄で「/」は、結晶化溶媒として混合溶媒を用いたことを 示す。 また、結晶型の欄で、「+」は、前が主型で、後ろが少量含まれ た混合物として得られたことを示し、「?」は、推定の結晶型であること を示す。 なお、表中の「再現性無し」は実験ごとに異なる結晶型または 混合物が析出したことを示す。
【0006】更に、後で比較例として説明するように、他の溶媒を再結晶溶媒としてプロペントフィリンを結晶化させた場合でも、I型結晶を選択的に得ることは困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って、プロペントフィリンを医薬品として利用する場合には、医薬品原料として有用性の高い、高純度のI型結晶を選択的に製造する技術の開発が望まれていた。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記実状に鑑み、プロペントフィリンのI型結晶の選択的結晶化方法の検討を重ねた結果、溶媒として特定のものを選択し、しかも結晶析出を温和な条件で行うことによりI型結晶を選択的に得ることが出来ることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】すなわち、本発明はプロペントフィリンを、加熱したアセトンまたはエタノールから選ばれる溶媒に溶解した後、室温でプロペントフィリン結晶を析出させ、溶媒を留去することを特徴とするプロペントフィリンI型結晶の選択的製造方法である。
【0010】本発明において再結晶化溶媒として使用される溶媒は、アセトンおよびエタノールである。 これらの溶媒は、単独であっても、あるいはその作用を妨げない範囲において他の溶媒と混合して用いても良い。 また、これらの溶媒の温度は、プロペントフィリンを溶解するに当り、例えば、40℃程度〜それらの沸点程度に加熱して使用することが望ましい。 更に使用する再結晶化溶媒の量は、プロペントフィリン1gに対し、1〜3ml程度とすることが好ましい。
【0011】本発明のプロペントフィリンI型結晶の選択的製造方法(以下、「選択製造方法」という)においては、上記の様にして再結晶化溶媒に溶解されたプロペントフィリンは、室温で静置または攪拌し、結晶が析出後、溶媒を除き得られた結晶を減圧乾燥することにより、I型結晶として選択的に得ることができる。これらの撹拌操作、溶媒除去操作、結晶の減圧乾燥操作等は、公知の方法から適宜選択することができる。
【0012】かくして、目的とするプロペントフィリンのI型結晶を得ることができるが、得られた結晶形の決定には、文献(Scientia Pharmaceutica;58,55〜67(1990))を参考に熱分析(DSC)により判断することが好ましい。 この理由は、I型結晶とII型結晶は融点が非常に近く、融点で結晶形を判別するのは困難である上、結晶型の混在割合や不純物等の混入により測定した融点に差が生じるためである。
【0013】
【発明の効果】本発明の選択的製造方法によれば、入手が容易で、安価な溶媒を使用し、また簡便な操作手段により、しかも温和な条件で選択的に医薬原料として有用なプロペントフィリンのI型結晶を得ることができるので、工業的にも、また経済的にも優れているものである。
【0014】
【実施例】次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例になんら制約されるものではない。
【0015】実 施 例 1プロペントフィリン 50.8gをアセトン 51.0mlに加え、56℃まで加熱して溶解した。 この溶液を室温で約2時間攪拌すると結晶が析出した。 これに同温でヘキサン 500.0mlを約40分かけて加えた後、約2時間攪拌した。 結晶をろ取し、五酸化二りん存在下室温で減圧乾燥すると、プロペントフィリンのI型結晶 48.3g(回収率 95.1%)を得た。
【0016】実 施 例 2プロペントフィリン 2.0gをエタノール 2.0mlに加え、78℃まで加熱し、溶解した。 この溶液を室温で静置すると結晶が析出した。 減圧下室温でエタノールを留去し、残渣を五酸化二りん存在下室温で減圧乾燥すると、プロペントフィリンのI型結晶 1.98g(回収率 99.0%)を得た。
【0017】実 施 例 3プロペントフィリン 200.0gをアセトン 200.0mlに加え、56℃まで加熱溶解した。 この溶液を室温で攪拌すると結晶が析出した。 減圧下室温でアセトンを留去し、残渣を五酸化二りん存在下室温で減圧乾燥すると、プロペントフィリンのI型結晶 199.8g(回収率 99.9%)を得た。
【0018】比 較 例 1各種の溶媒、および析出条件により、プロペントフィリンを再結晶し、その回収率および結晶型を調べた。 この結果を表2に示す。
【0019】


表中、溶媒の欄の「/」、結晶型の欄の、「+」および「?」は表1の注 で記載した意味を有する。 また、析出条件の欄の(有)は種結晶を加えたこ とを、(無)は種結晶を加えなかったことを示す。
【0020】上記結果から明らかなようにエタノールおよびアセトン以外を再結晶溶媒として用いた場合には良い結果が得られなかった。
以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プロペントフィリンを、加熱したアセトンまたはエタノールから選ばれる溶媒に溶解した後、室温でプロペントフィリン結晶を析出させ、溶媒を留去することを特徴とするプロペントフィリンI型結晶の選択的製造方法。
【請求項2】 溶媒の温度が40℃〜沸点である請求項第1項記載のプロペントフィリンI型結晶の選択的製造方法。