説明

プーリ装置

【課題】支軸とプーリとの間に塗布した潤滑油を長期に亘り保持することができるプーリ装置の提供。
【解決手段】プーリ33の側面部に、底部53と、底部53から立設する壁部54と、支軸摺接部51に向けて開口する開口部55とからなる凹部52を設け、壁部54を、支軸摺接部51に近接する近接壁部54bと、支軸摺接部51から離間する離間壁部54aと、近接壁部54bと離間壁部54aとを接続する傾斜壁部54cとから形成した。支軸32にプーリ33を装着する際に掻き出される余剰の潤滑油を凹部52に溜めることができ、凹部52に溜められた潤滑油は、プーリ33の回転時に遠心力と慣性により離間壁部54a,傾斜壁部54cおよび近接壁部54bに沿って凹部52内を移動して開口部55に到達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース内に設けられる支軸と、支軸に潤滑油を介して回転自在に設けられ、径方向外側にケーブルが掛け渡されるプーリとを有するプーリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源によりケーブルを駆動して駆動対象物を移動させるものとして、例えば、自動車等の車両に搭載されたスライドドア開閉装置がある。スライドドア開閉装置は、駆動源としての電動モータと、駆動対象物としてのスライドドアと、電動モータとスライドドアとの間に設けられるケーブルと、ケーブルの移動を案内するプーリ装置とを備えている。そして、電動モータを正回転させることでケーブルによりスライドドアの前端側が引っ張られてスライドドアは閉じられ、また、電動モータを逆回転させることでケーブルによりスライドドアの後端側が引っ張られてスライドドアは開けられる。
【0003】
スライドドア開閉装置のケーブルは、車両前方側および車両後方側でプーリ装置によって折り返されるようになっており、このようなプーリ装置を備えたスライドドア開閉装置としては、例えば、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0004】
特許文献1に記載されたスライドドア開閉装置(スライドドア用の駆動装置)に用いられるプーリ装置は、車体に取り付けられるケースと、ケース内に設けられる支軸(軸)と、支軸を中心として回転自在となったプーリ(ガイドプーリ)とを備えている。そして、プーリ装置を組み立てる際には、通常、支軸の外周側またはプーリの内周側に所定量の潤滑油(グリス)を塗布することが行われ、これにより、支軸に対するプーリの円滑な回転が可能となっている。
【特許文献1】特開2003−328639号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に記載されたプーリ装置によれば、支軸の外周側とプーリの内周側とがそれぞれ全面で摺接する構造を採っているため、支軸にプーリを装着してプーリ装置を組み立てる際に、両者間に塗布した潤滑油の殆どが外部に掻き出されてしまい、支軸の外周側とプーリの内周側との間に十分な量の潤滑油を残すことができないという問題が生じ得る。そして、掻き出された潤滑油は、プーリの回転時に遠心力等によりプーリの外周側に移動して支軸側に戻ることは無く、その結果、支軸の外周側またはプーリの内周側が早期に摩耗してがたつきが発生し、ひいてはプーリ装置の作動音が早期に増大する等の問題が発生する。
【0006】
本発明の目的は、支軸とプーリとの間に塗布した潤滑油を長期に亘り保持することができるプーリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプーリ装置は、ケース内に設けられる支軸と、前記支軸に潤滑油を介して回転自在に設けられ、径方向外側にケーブルが掛け渡されるプーリとを有するプーリ装置であって、前記プーリの径方向内側に設けられ、前記支軸に摺接する支軸摺接部と、前記プーリの側面部に前記プーリの軸方向に窪むよう設けられ、底部と、前記底部から立設する壁部と、前記支軸摺接部に向けて開口する開口部とからなる凹部とを備え、前記壁部を、前記支軸摺接部に近接する近接壁部と、前記支軸摺接部から離間する離間壁部と、前記近接壁部と前記離間壁部とを接続する傾斜壁部とから形成することを特徴とする。
【0008】
本発明のプーリ装置は、前記壁部を、前記プーリの径方向外側に膨出する円弧形状に形成することを特徴とする。
【0009】
本発明のプーリ装置は、前記凹部に、前記プーリの周方向に沿って前記近接壁部から前記離間壁部に向けて徐々に深くなる傾斜面を設けたことを特徴とする。
【0010】
本発明のプーリ装置は、前記プーリの径方向に対する前記支軸摺接部の前記離間壁部と対応する箇所に、前記プーリの軸方向に延びる溝部を設けることを特徴とする。
【0011】
本発明のプーリ装置は、前記近接壁部および前記傾斜壁部を、前記離間壁部を中心に前記プーリの周方向に対称に設けることを特徴とする。
【0012】
本発明のプーリ装置は、前記凹部を、前記プーリの周方向に複数設けることを特徴とする。
【0013】
本発明のプーリ装置は、前記凹部を、前記プーリの軸方向両側の側面部に設けることを特徴とする。
【0014】
本発明のプーリ装置は、前記支軸摺接部に、前記各凹部を連通する連通路を設けることを特徴とする。
【0015】
本発明のプーリ装置は、前記プーリは、車両に設けられる開閉体を開閉するケーブルの導出方向を転換するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プーリの側面部にプーリの軸方向に窪むよう、底部と、底部から立設する壁部と、支軸摺接部に向けて開口する開口部とからなる凹部を設け、壁部を、支軸摺接部に近接する近接壁部と、支軸摺接部から離間する離間壁部と、近接壁部と離間壁部とを接続する傾斜壁部とから形成するので、支軸にプーリを装着する際に掻き出される余剰の潤滑油を凹部に溜めることができる。凹部に溜められた潤滑油は、プーリの回転時に遠心力と慣性により離間壁部,傾斜壁部および近接壁部に沿って凹部内を移動して開口部に到達する。したがって、プーリの回転に応じて、凹部内の潤滑油を支軸とプーリとの間に供給することができ、支軸とプーリとの間に長期に亘り潤滑油を保持させることができる。
【0017】
本発明によれば、壁部を、プーリの径方向外側に膨出する円弧形状に形成するので、凹部内における潤滑油の移動をスムーズに行わせることができる。
【0018】
本発明によれば、凹部に、プーリの周方向に沿って近接壁部から離間壁部に向けて徐々に深くなる傾斜面を設けたので、プーリの回転によって凹部内を近接壁部側に移動してきた潤滑油が支軸と接触すると、潤滑油を傾斜面から直接支軸摺接部に潜り込むように供給させることができる。
【0019】
本発明によれば、プーリの径方向に対する支軸摺接部の離間壁部と対応する箇所に、プーリの軸方向に延びる溝部を設けるので、当該溝部に潤滑油を保持させることができる。
【0020】
本発明によれば、近接壁部および傾斜壁部を、離間壁部を中心にプーリの周方向に対称に設けるので、プーリの正回転時および逆回転時のいずれの場合においても、凹部内の潤滑油を開口部に向けて移動させることができる。
【0021】
本発明によれば、凹部を、プーリの周方向に複数設けるので、プーリの回転時に支軸とプーリとの間に供給される凹部内の潤滑油を、周方向にバランス良く分散させることができる。
【0022】
本発明によれば、凹部を、プーリの軸方向両側の側面部に設けるので、プーリの回転時に支軸とプーリとの間に供給される凹部内の潤滑油を、軸方向にバランス良く分散させることができる。
【0023】
本発明によれば、支軸摺接部に、各凹部を連通する連通路を設けるので、一方側の凹部内に偏って掻き出された余剰の潤滑油を、他方側の凹部内に供給することができる。
【0024】
本発明によれば、プーリは、車両に設けられる開閉体を開閉するケーブルの導出方向を転換するものであるので、開閉体を駆動する駆動装置の作動音低減や長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明のプーリ装置を備えたスライドドア開閉装置を説明する説明図を、図2は図1の開閉装置の詳細を示す斜視図を、図3は図2の開閉装置の駆動ユニットを一部断面で示す部分断面図をそれぞれ表している。
【0026】
図1に示すように、車両10はワンボックスタイプの乗用車を示しており、車両10を形成する車体11の側部12(車体左側)には、側部12に形成された開口部12aを開閉するスライドドア(開閉体)13が設けられている。
【0027】
スライドドア13はローラアッシー14を備えており、ローラアッシー14は、車体11の車両前後方向に延びて設けられたガイドレール15に案内されるようになっている。ガイドレール15の車両前方側には、車室内側(図中下側)に向けて曲がる曲部15aが設けられており、これにより、スライドドア13は、図中二点鎖線の全閉位置と図中実線の全開位置との間でスライドするようになっている。
【0028】
車体11には、スライドドア13を開閉駆動するためのスライドドア開閉装置(駆動装置)16が搭載されている。スライドドア開閉装置16は、図2に示すようにローラアッシー14に接続される一対のケーブル17,18と、ガイドレール15の車両後方側および車両前方側で各ケーブル17,18の移動を案内する一対のプーリ装置19,20と、各ケーブル17,18を駆動する駆動ユニット21とを備えている。駆動ユニット21は、ガイドレール15の長手方向の略中央部分に位置し、車体11を形成するアウターパネル11a(図1参照)の車室内側に固定されている。
【0029】
駆動ユニット21は、図3に示すように駆動源としての電動モータ22を備えており、電動モータ22の出力は、減速機構(図示せず)を介して出力軸23に伝達されるようになっている。出力軸23には、略円筒形状に形成されたドラム24が固定されており、このドラム24は、電動モータ22を回転駆動することにより減速機構および出力軸23を介して回転するようになっている。
【0030】
ドラム24には、各ケーブル17,18の一方側の端部が固定されている。ドラム24の外周には、駆動ユニット21に導かれた各ケーブル17,18の一方側が互いに逆向きになるよう複数回巻き付けられている。
【0031】
ドラム24が図中時計回り方向に回転すると、開側のケーブル17がドラム24に巻き取られ、閉側のケーブル18がドラム24から引き出される。これにより、スライドドア13は開側のケーブル17に引っ張られて自動的に開動作する。一方、ドラム24が図中反時計回り方向に回転すると、閉側のケーブル18がドラム24に巻き取られ、開側のケーブル17がドラム24から引き出される。これにより、スライドドア13は閉側のケーブル18に引っ張られて自動的に閉動作する。
【0032】
ここで、電動モータ22としては、例えば、ブラシ付きの直流モータ等、正逆方向に回転可能なものが用いられ、電動モータ22は、CPUやメモリ等を備えた制御ユニット25によって回転制御されるようになっている。
【0033】
図2に示すように、ガイドレール15の車両後方側には、リヤ側のプーリ装置19が設けられており、プーリ装置19は、図示しない締結ボルト等によりアウターパネル11a(図1参照)に固定されるようになっている。プーリ装置19は、開側のケーブル17の導出方向を略180°転換するようになっており、車両後方側から折り返されたケーブル17の一方側を駆動ユニット21に導き、ケーブル17の他方側をローラアッシー14に導くようになっている。
【0034】
一方、ガイドレール15の車両前方側には、フロント側のプーリ装置20が設けられており、プーリ装置20は、図示しない締結ボルト等によりアウターパネル11a(図1参照)に固定されるようになっている。プーリ装置20は、閉側のケーブル18の導出方向を略90°転換するようになっており、車両前方側から折り返されたケーブル18の一方側を駆動ユニット21に導き、ケーブル18の他方側をローラアッシー14に導くようになっている。ここで、各ケーブル17,18としては、表面に樹脂材(図示せず)をコーティングして防錆処理を施したものが用いられる。
【0035】
駆動ユニット21と各プーリ装置19,20との間には、各ケーブル17,18をそれぞれ摺動自在に被覆する一対のアウターチューブ26,27が設けられている。各アウターチューブ26,27は、可撓性を有する樹脂材料によって形成されており、各アウターチューブ26,27の一端側は、各プーリ装置19,20にそれぞれ固定されている。
【0036】
各アウターチューブ26,27の他端側には、図3に示すように樹脂製のスライドキャップ28,29が固定されており、各スライドキャップ28,29は、駆動ユニット21のユニットケース21aに対して進退自在に設けられている。各スライドキャップ28,29は、ユニットケース21a内に設けられたスプリング30により、ユニットケース21a内から押し出される方向に付勢されている。これにより、各アウターチューブ26,27は、ユニットケース21aから押し出されて駆動ユニット21と各プーリ装置19,20との間で湾曲するようになっている。
【0037】
各アウターチューブ26,27が湾曲することにより、駆動ユニット21と各プーリ装置19,20との間の各ケーブル17,18の移動経路が伸張され、各ケーブル17,18に所定の張力が付与されるようになっている。つまり、スプリング30により各アウターチューブ26,27を湾曲させることで、各ケーブル17,18の弛みを除去するようにしている。
【0038】
次に、リヤ側のプーリ装置19の構造について詳細に説明する。ここで、フロント側のプーリ装置20は、リヤ側のプーリ装置19に比してケースの形状のみが異なっており、本発明の要諦部分である支軸およびプーリの構成は、各プーリ装置19,20とも同じである。したがって、リヤ側のプーリ装置19の構造についてのみ説明する。
【0039】
図4はリヤ側のプーリ装置を拡大して示す斜視図を、図5は図4のプーリ装置の分解斜視図を、図6は図5のプーリ装置のプーリを示す斜視図を、図7は図6のA−A線に沿う部分拡大断面図をそれぞれ表している。
【0040】
プーリ装置19は、図4に示すように樹脂材料により所定形状に形成されたケース31と、ケース31の内部に設けられる金属製の支軸32と、支軸32に潤滑油(図示せず)を介して回転自在に設けられ、外周側にケーブル17が掛け渡されるプーリ33とを備えている。
【0041】
ケース31は、図5に示すようにプーリ33の径方向車室外側(図中下側)を覆うプラスチック製の第1ケース部材34と、プーリ33の径方向車室内側(図中上側)を覆うプラスチック製の第2ケース部材35と、第2ケース部材35を覆うように設けられ、ケーブル17の移動方向をローラアッシー14側に案内するゴム製のカバー部材36とから形成されている。
【0042】
第1ケース部材34,第2ケース部材35およびカバー部材36には、複数の係合爪T1,T2,T3がそれぞれ設けられており、各係合爪T1,T2,T3を係合させることで、図4に示すように第1ケース部材34,第2ケース部材35およびカバー部材36は一体化されるようになっている。
【0043】
第1ケース部材34には、合計3箇所の取付部34aが一体に設けられており、各取付部34aを締結ネジ(図示せず)によってアウターパネル11aに固定することで、プーリ装置19は車体11に固定される。このとき、第2ケース部材35およびカバー部材36は、アウターパネル11aの車室内側に配置され、したがって、プーリ装置19はアウターパネル11aに形成された開口部11bを跨ぐよう配置される。
【0044】
第1ケース部材34の本体部34bには、車両前方側に向けて開口するケーブル孔34cが形成されており、ケーブル孔34cには、アウターチューブ26の一端側が固定されるようになっている。また、第1ケース部材34には、図中上下方向に対向するようにして一対の装着孔34dが設けられている。各装着孔34dには、支軸32にプーリ33を回転自在に装着した状態のもとで、支軸32の両端側がそれぞれ装着されるようになっている。
【0045】
第2ケース部材35には、図中上下方向に対向するようにして一対の押さえ爪35aが設けられている。各押さえ爪35aは、第2ケース部材35を第1ケース部材34に装着した状態のもとで、支軸32の両端側をその軸方向に向けて押さえるようになっており、これによりケース31内に支軸32を固定するようになっている。また、第2ケース部材35の本体部35bには、ケーブル挿通孔35cが設けられており、ケーブル挿通孔35cには、本体部35b内からカバー部材36に向けてケーブル17が挿通されるようになっている。
【0046】
カバー部材36の本体部36aには、車両前方側に向けて開口するケーブル孔36bが形成されている。これにより、第1ケース部材34のケーブル孔34c,プーリ33,カバー部材36のケーブル孔36bを介してケーブル17の導出方向が略180°転換されるようになっている。
【0047】
プーリ33は、図6に示すようにプラスチック等の樹脂材料により略円板形状に形成されており、プーリ本体40とボス部50とを備えている。プーリ本体40の径方向外側には、ケーブル17が掛け渡されるプーリ溝41が形成され、ボス部50の径方向内側には、支軸32に摺接する支軸摺接部51が形成されている。
【0048】
プーリ33の軸方向両側の側面部は、図7に示すように図中上下側で対称となるよう形成されている。プーリ本体40とボス部50との間には、プーリ33の径方向に延びて複数の補強リブRB(図示では6つ)が設けられており、各補強リブRBは、薄肉に形成して軽量化されたプーリ33を補強するようになっている。
【0049】
ボス部50の側面部、つまりプーリ33の側面部には、プーリ33の軸方向に窪むよう3つの凹部52が設けられている。各凹部52は、略半円形状に形成されており、プーリ33の周方向に向けて支軸摺接部51を囲むよう等間隔で設けられている。各凹部52は、底部53と、底部53から立設する壁部54と、支軸摺接部51に向けて開口する開口部55とを備えている。
【0050】
底部53は、ボス部50の側面部からの距離が最も長くなるよう設定され、平坦面Fとなった第1底部53aと、第1底部53aから図7中左右側に向けてボス部50の側面部からの距離が徐々に短くなるよう設定され、傾斜面Sとなった一対の第2底部53bとを備えている。つまり、凹部52の深さ寸法は、プーリ33の周方向に沿って、後述する近接壁部54bから離間壁部54aに向けて徐々に深くなるよう設定されている。凹部52の最も深い部分の深さ寸法はd1に設定され、各凹部52の最も浅い部分の深さ寸法はd2に設定されている(d1>d2)。
【0051】
壁部54は、離間壁部54aと、一対の近接壁部54bと、一対の傾斜壁部54cとから形成されており、壁部54の外形形状(外郭形状)は、プーリ33の径方向外側に膨出する円弧形状に形成されている。
【0052】
離間壁部54aは、第1底部53aに対応する箇所でかつ支軸摺接部51から径方向外側に最も離間した位置に設けられている。各近接壁部54bは、各第2底部53bに対応する箇所でかつ支軸摺接部51に近接して配置され、離間壁部54aを中心にプーリ33の周方向に対称となるよう設けられている。各傾斜壁部54cは、各第2底部53bに対応する箇所でかつ離間壁部54aと各近接壁部54bとを接続するよう配置され、離間壁部54aを中心にプーリ33の周方向に対称となるよう設けられている。
【0053】
プーリ33の径方向に対する支軸摺接部51の離間壁部54aと対応する箇所には、プーリ33の軸方向に延びるよう潤滑油保持溝51aが設けられている。潤滑油保持溝51aは、プーリ33の周方向に沿って等間隔で3つ設けられており、各潤滑油保持溝51aは、支軸32とプーリ33との間に塗布される潤滑油(図示せず)を保持する機能を備えている。各潤滑油保持溝51aの軸方向両端側は、プーリ33の軸方向両側の側面部に設けられた各凹部52の各第1底部53aを互いに連通するようになっている。
【0054】
ここで、各潤滑油保持溝51aは、それぞれ微小空間を形成するようその断面積が設定され、また、潤滑油としては所定の粘度を有するシリコングリス等を用いている。これにより、潤滑油が各潤滑油保持溝51aから漏出することを抑制している。なお、各潤滑油保持溝51aは、本発明における溝部および連通路を構成している。
【0055】
次に、以上のように構成したプーリ装置19の動作について、図面を用いて詳細に説明する。図8(a),(b),(c)は凹部内における潤滑油の移動(第1,第2段階)を説明する説明図を、図9(a),(b)は凹部および潤滑油保持溝における潤滑油の移動(第3,第4段階)を説明する説明図をそれぞれ表している。
【0056】
[第1段階]
図8(a)に示すように、まず、プーリ装置19の組み立てに先立ち、支軸32の外周側またはプーリ33の内周側(支軸摺接部51)に所定量の潤滑油Gを塗布する。その後、支軸32にプーリ33を装着してプーリ装置19を組み立てる。すると、図中(1)に示すように各潤滑油保持溝51aに潤滑油G1が保持されるとともに、余剰の潤滑油G2が各凹部52内に掻き出される。
【0057】
[第2段階]
図8(b)に示すように、車室内等に設けられる操作スイッチ(図示せず)を操作することにより、図3に示す駆動ユニット21が作動してケーブル17が移動し、ケーブル17の移動に伴って、プーリ33が図中実線矢印Rの方向に正回転する。すると、潤滑油G2が遠心力およびその場に止まろうとする慣性によって、図中破線矢印(2)に示すように各凹部52内を移動する。具体的には、第1底部53aの開口部55側にある潤滑油G2が、開口部55側から離間壁部54aに向かって移動するとともに、離間壁部54a,一方側の傾斜壁部54cおよび一方側の近接壁部54bに沿って一方側の第2底部53bを登るように移動する。一方、図8(c)に示すように、プーリ33の回転によって凹部52内を離間壁部54aから近接壁部54bに向けて移動してきた潤滑油G2が支軸32と接触すると、潤滑油G2は図中破線矢印(3)に示すように、第2底部53bから直接支軸摺接部51に潜り込むように供給される。
【0058】
[第3段階]
図9(a)に示すように、プーリ33の実線矢印Rの方向への正回転に伴い、図中破線矢印(4)に示すように潤滑油G2が近接壁部54bに沿って第2底部53bを登りきり、その後、潤滑油G2は各凹部52の開口部55を介して支軸32に接触するようになる。潤滑油G2が支軸32に接触した状態のもとで、プーリ33が正回転を続けることによって、支軸32と支軸摺接部51との間に潤滑油G2が供給される。これにより、プーリ33は円滑な回転が可能となる。また、プーリ33の回転に伴い各潤滑油保持溝51aから微少量漏出された分を補うことができる。
【0059】
[第4段階]
プーリ33の実線矢印Rの方向への正回転に伴って、支軸摺接部51には常に潤滑油G2が供給され続けて、支軸摺接部51の潤滑油G1が過剰になると、過剰となった潤滑油G2は潤滑油保持溝51aによって支軸摺接部51から掻き出されるとともに、図9(b)中の破線矢印(5)に示すように、潤滑油保持溝51a内の潤滑油G1は過剰となった潤滑油G2に押し出されるように潤滑油保持溝51a内を支軸32の軸方向に移動し、凹部52の第1底部53aに戻される。
【0060】
ここで、上述した[第1段階]から[第4段階]までの潤滑油G2の移動は、プーリ33の反対側の側面部においても同様に行われており、各潤滑油保持溝51aにより、プーリ33の軸方向両側の側面部の各凹部52間でバランス良く潤滑油G2が行き来するようになっている。また、プーリ33の回転によって、上述のように潤滑油G2を移動させ、各凹部52内で潤滑油G2が循環するようになっている。さらに、上記とは逆に、プーリ33を逆回転させた場合には、潤滑油G2は、離間壁部54a,他方側の傾斜壁部54cおよび他方側の近接壁部54bに沿って他方側の第2底部53bを登るように移動して、開口部55に到達するようになっている。
【0061】
以上詳述したように、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、プーリ33の側面部にプーリ33の軸方向に窪むよう、底部53と、底部53から立設する壁部54と、支軸摺接部51に向けて開口する開口部55とからなる凹部52を設け、壁部54を、支軸摺接部51に近接する近接壁部54bと、支軸摺接部51から離間する離間壁部54aと、近接壁部54bと離間壁部54aとを接続する傾斜壁部54cとから形成している。
【0062】
これにより、支軸32にプーリ33を装着する際に掻き出される余剰の潤滑油G2を凹部52に溜めることができる。凹部52に溜められた潤滑油G2は、プーリ33の回転時に遠心力と慣性により離間壁部54a,傾斜壁部54cおよび近接壁部54bに沿って凹部52内を移動して開口部55に到達する。したがって、プーリ33の回転に応じて、凹部52内の潤滑油G2を支軸32とプーリ33との間に供給することができ、支軸32とプーリ33との間に長期に亘り潤滑油G(G1)を保持させることができる。
【0063】
また、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、壁部54を、プーリ33の径方向外側に膨出する円弧形状に形成したので、凹部52内における潤滑油G2の移動をスムーズに行わせることができる。
【0064】
さらに、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、凹部52に、プーリ33の周方向に沿って近接壁部54bから離間壁部54aに向けて徐々に深くなる傾斜面S(第2底部53b)を設けたので、プーリの33回転によって凹部52内を近接壁部54b側に移動してきた潤滑油G2が支軸32と接触すると、潤滑油G2は第2底部53bから直接支軸摺接部51に潜り込むように供給されるので、グリスアップ等のメンテナンス作業を減らすことが可能となる。
【0065】
また、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、プーリ33の径方向に対する支軸摺接部51の離間壁部54aと対応する箇所に、プーリ33の軸方向に延びる潤滑油保持溝51aを設けたので、潤滑油保持溝51aに潤滑油を保持させて、支軸32に対するプーリ33の円滑な回転を長期に亘り保持することができる。
【0066】
さらに、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、近接壁部54bおよび傾斜壁部54cを、離間壁部54aを中心にプーリ33の周方向に対称に設けたので、プーリ33の正回転時および逆回転時のいずれの場合においても、凹部52内の潤滑油G2を開口部55に向けて移動させることができる。
【0067】
また、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、凹部52を、プーリ33の周方向に複数設けたので、プーリ33の回転時に支軸32とプーリ33との間に供給される凹部52内の潤滑油G2を、周方向にバランス良く分散させることができる。
【0068】
さらに、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、凹部52を、プーリ33の軸方向両側の側面部に設けたので、プーリ33の回転時に支軸32とプーリ33との間に供給される凹部52内の潤滑油G2を、軸方向にバランス良く分散させることができる。
【0069】
また、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、支軸摺接部51に、各凹部52を連通する潤滑油保持溝51aを設けたので、一方側の凹部52内に偏って掻き出された余剰の潤滑油G2を、他方側の凹部52内に供給することができる。
【0070】
さらに、本実施の形態に係るプーリ装置19によれば、プーリ33は、車両10に設けられるスライドドア13を開閉する各ケーブル17,18の導出方向を転換するものとしたので、スライドドア13を駆動するスライドドア開閉装置16の作動音低減や長寿命化を図ることができる。
【0071】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。上記実施の形態においては、離間壁部54aを中心に、その両側にプーリ33の周方向に対称となるよう一対の近接壁部54bおよび傾斜壁部54cを設けたものを示したが、本発明はこれに限らない。例えば、プーリ33の回転方向が、上記実施の形態のように双方向回転では無く一方向回転である場合には、離間壁部54aの周方向片側のみに近接壁部54bおよび傾斜壁部54cを設けることもできる。
【0072】
また、上記実施の形態においては、凹部52の底部53を、図7に示すように平坦面Fとなった第1底部53aと、傾斜面Sとなった第2底部53bとから形成したものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、底部53を平坦面のみで形成することもできる。この場合も、凹部52に溜められた潤滑油G2は、プーリ33の回転時に遠心力と慣性により離間壁部54a,傾斜壁部54cおよび近接壁部54bに沿って凹部52内を移動して開口部55に到達する。したがって、プーリ33の回転に応じて、凹部52内の潤滑油G2を支軸32とプーリ33との間に供給することができ、支軸32とプーリ33との間に長期に亘り潤滑油G(G1)を保持させることができ、上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0073】
さらに、上記実施の形態においては、壁部54を、プーリ33の径方向外側に膨出する円弧形状に形成したものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、離間壁部54a,近接壁部54bおよび傾斜壁部54cを、それぞれ直線状に形成して接続するようにしても良い。
【0074】
また、上記実施の形態においては、潤滑油保持溝51aを、プーリ33の軸方向両側の側面部に設けた各凹部52をそれぞれ連通するようにしたものを示したが、本発明はこれに限らず、潤滑油保持溝51aをプーリ33の軸方向に向けて2つに分離しても良い。この場合、一方側の凹部52から他方側の凹部52への潤滑油G2の過剰な移動を抑制することができる。
【0075】
さらに、上記実施の形態においては、プーリ33の周方向に3つの凹部52を設け、プーリ33の軸方向両側の側面部に対称となるよう凹部52を設けたものを示したが、本発明はこれに限らず、プーリ33の周方向に2つ以下または4つ以上の凹部52を設けても良いし、プーリ33の軸方向両側の側面部で非対称となるようにしても良い。
【0076】
また、上記実施の形態においては、支軸32を車体11の垂直方向に延びるよう設け、プーリ33を車体11に水平状態で回転するものを示したが、本発明はこれに限らず、支軸32を車体11の水平方向に延びるよう設け、プーリ33を車体11に垂直状態で回転するものにも適用することができる。要は、支軸32の車体11への設置角度(プーリ33の設置角度)は任意に設定することができる。
【0077】
さらに、上記実施の形態においては、プーリ装置19,20を、車両10のスライドドア13を開閉するスライドドア開閉装置16に用いられるケーブル17,18の導出方向を転換する部材として用いたものを示したが、本発明はこれに限らず、ケーブル19,20に張力を発生させるテンション機構に用いられるプーリ装置等、ケーブルを駆動するとともに、当該ケーブルの導出方向を転換する必要がある他の駆動装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明のプーリ装置を備えたスライドドア開閉装置を説明する説明図である。
【図2】図1の開閉装置の詳細を示す斜視図である。
【図3】図2の開閉装置の駆動ユニットを一部断面で示す部分断面図である。
【図4】リヤ側のプーリ装置を拡大して示す斜視図である。
【図5】図4のプーリ装置の分解斜視図である。
【図6】図5のプーリ装置のプーリを示す斜視図である。
【図7】図6のA−A線に沿う部分拡大断面図である。
【図8】(a),(b),(c)は、凹部内における潤滑油の移動(第1,第2段階)を説明する説明図である。
【図9】(a),(b)は、凹部および潤滑油保持溝における潤滑油の移動(第3,第4段階)を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0079】
10 車両
11 車体
11a アウターパネル
11b 開口部
12 側部
12a 開口部
13 スライドドア(開閉体)
14 ローラアッシー
15 ガイドレール
15a 曲部
16 スライドドア開閉装置
17,18 ケーブル
19,20 プーリ装置
21 駆動ユニット
21a ユニットケース
22 電動モータ
23 出力軸
24 ドラム
25 制御ユニット
26,27 アウターチューブ
28,29 スライドキャップ
30 スプリング
31 ケース
32 支軸
33 プーリ
34 第1ケース部材
34a 取付部
34b 本体部
34c ケーブル孔
34d 装着孔
35 第2ケース部材
35a 押さえ爪
35b 本体部
35c ケーブル挿通孔
36 カバー部材
36a 本体部
36b ケーブル孔
T1〜T3 係合爪
40 プーリ本体
41 プーリ溝
50 ボス部
51 支軸摺接部
51a 潤滑油保持溝(溝部,連通路)
52 凹部
53 底部
53a 第1底部
53b 第2底部(傾斜面)
54 壁部
54a 離間壁部
54b 近接壁部
54c 傾斜壁部
55 開口部
F 平坦面
S 傾斜面
RB 補強リブ
G,G1 潤滑油
G2 余剰の潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に設けられる支軸と、前記支軸に潤滑油を介して回転自在に設けられ、径方向外側にケーブルが掛け渡されるプーリとを有するプーリ装置であって、
前記プーリの径方向内側に設けられ、前記支軸に摺接する支軸摺接部と、
前記プーリの側面部に前記プーリの軸方向に窪むよう設けられ、底部と、前記底部から立設する壁部と、前記支軸摺接部に向けて開口する開口部とからなる凹部とを備え、
前記壁部を、前記支軸摺接部に近接する近接壁部と、前記支軸摺接部から離間する離間壁部と、前記近接壁部と前記離間壁部とを接続する傾斜壁部とから形成することを特徴とするプーリ装置。
【請求項2】
請求項1記載のプーリ装置において、前記壁部を、前記プーリの径方向外側に膨出する円弧形状に形成することを特徴とするプーリ装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のプーリ装置において、前記凹部に、前記プーリの周方向に沿って前記近接壁部から前記離間壁部に向けて徐々に深くなる傾斜面を設けたことを特徴とするプーリ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプーリ装置において、前記プーリの径方向に対する前記支軸摺接部の前記離間壁部と対応する箇所に、前記プーリの軸方向に延びる溝部を設けることを特徴とするプーリ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のプーリ装置において、前記近接壁部および前記傾斜壁部を、前記離間壁部を中心に前記プーリの周方向に対称に設けることを特徴とするプーリ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプーリ装置において、前記凹部を、前記プーリの周方向に複数設けることを特徴とするプーリ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のプーリ装置において、前記凹部を、前記プーリの軸方向両側の側面部に設けることを特徴とするプーリ装置。
【請求項8】
請求項7記載のプーリ装置において、前記支軸摺接部に、前記各凹部を連通する連通路を設けることを特徴とするプーリ装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のプーリ装置において、前記プーリは、車両に設けられる開閉体を開閉するケーブルの導出方向を転換するものであることを特徴とするプーリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−250391(P2009−250391A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101253(P2008−101253)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】