説明

ヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法

【課題】ヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法であって、安定して連続的に効率よく実施可能な洗浄方法を提供する。
【解決手段】ヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法において、
ヘキサフルオロプロピレンオキシドおよび以下の一般式(X):
CFO(CFO)−R ・・・(X)
(式中、−Rは−COF、−OCOFまたは−CFCOFを示し、nは0〜50の整数を示す。)
で表わされる化合物を含む組成物をアルカリ性の水性液体により、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を添加して、洗浄中のpHを14未満として洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法、より詳細には、ヘキサフルオロプロピレンオキシドおよびフッ化カルボニルオリゴマーを含む組成物を洗浄する方法に関する。また、本発明は、かかる洗浄方法を用いたヘキサフルオロプロピレンの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロプロピレンオキシドは、例えばパーフルオロビニルエーテルの原料として用いられるなど、含フッ素化合物の製造において重要な化合物である。また、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマーは潤滑油や熱媒などとして利用されている。
【0003】
ヘキサフルオロプロピレンオキシド(以下、HFPOとも言う)の製造方法として、ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPとも言う)を酸素により酸化してHFPOを得る方法が知られている(特許文献1および2を参照のこと)。
【0004】
かかるHFPO製造方法では、目的物質であるHFPOに加えて、フッ化カルボニル(COF)が副生する(特許文献1を参照のこと)。更に、かかるHFPO製造方法では、フッ化カルボニル(COF)が重合して、フッ化カルボニルオリゴマーも副生する(特許文献2を参照のこと)。よって、HFPOを含む反応生成物からフッ化カルボニルオリゴマーなどの副生成物を分離して、製品HFPOが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭45−11683号公報
【特許文献2】特開平6−107650号公報
【特許文献3】特開平8−126801号公報
【特許文献4】特開平2−131105号公報
【特許文献5】特開平2−52007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、酸成分を含むガスの脱酸処理は、被処理ガスをアルカリ性の水性液体(通常、アルカリ水溶液)と十分に接触させる洗浄操作により行われる。
【0007】
HFPOの製造方法においては、HFPからの反応によって生成したHFPOおよびフッ化カルボニルオリゴマーなどを含む組成物を脱酸処理に付すこと、より詳細には、この組成物を気相状態(ガス)でアルカリ性の水性液体により洗浄し、フッ化カルボニルオリゴマーなどの酸成分をアルカリ性の水性液体中に分離して(よって、アルカリ性の水性液体は、脱酸処理後、フッ化カルボニルオリゴマーなどに由来する化合物をアルカリ金属塩(より詳細には電離したイオン)の形態で含む水性液体となる)、目的物質であるHFPOを含むガス状物を得ること(以下、単にHFPOの洗浄方法とも言う)が考えられる。
【0008】
かかるHFPOの洗浄方法において、脱酸処理で生じるアルカリ性の水性液体は、フッ化カルボニルオリゴマーに由来する化合物をアルカリ金属塩の形態で含み、ガスとの接触によって激しい泡立ちを起こすことが、本発明者らにより判明した。脱酸塔などの洗浄装置において、泡立ちをそのまま放置して洗浄操作を連続的に実施すると、脱酸処理後のHFPOを含むガス状物の取り出しラインにまで泡があふれ、このガス状物(製品HFPO)中に上記水性液体(ひいてはフッ化カルボニルオリゴマー)が混入するという問題があり、また、洗浄装置の圧力損失が泡立ちのために余計に増大し、洗浄装置に負荷を与えるという問題がある。かかる問題を回避するには、洗浄操作の処理速度を落とす必要があり、この結果、HFPOおよびフッ化カルボニルオリゴマーなどを含む上記組成物を脱酸処理する能力は、泡立ちが起こらない他の一般的なガス組成物を脱酸処理する場合に比べて著しく低くなる。
【0009】
よって、上記のHFPOの洗浄方法では、泡立ちが起こらないように、または泡立ちが起こっても許容可能な程度に抑えるため、洗浄操作の処理速度を遅いレベルで調整する必要があり、安定して連続的に効率よく実施することはできない。
【0010】
本発明の目的は、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法であって、安定して連続的に効率よく実施可能な洗浄方法を提供することにある。また、本発明の目的は、かかる洗浄方法を用いたヘキサフルオロプロピレンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの要旨によれば、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法であって、
ヘキサフルオロプロピレンオキシドおよび以下の一般式(X):
CFO(CFO)−R ・・・(X)
(式中、−Rは−COF、−OCOFまたは−CFCOFを示し、nは0〜50の整数を示す。)
で表わされる化合物を含む組成物をアルカリ性の水性液体により、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を添加して、洗浄中のpHを14未満として洗浄する方法が提供される。
【0012】
上記一般式(X)で表わされる化合物は、上述のフッ化カルボニルオリゴマーに相当する。かかる化合物に由来する化合物のアルカリ金属塩(より詳細には、上記一般式(X)中、−Rが、−COOM、−OCOOMまたは−CFCOOMに変更された化合物であり、Mはアルカリ金属を示す)は界面活性剤様の機能を有し、洗浄中に非常に激しい泡立ちを起こし、通常使用されるような消泡剤では泡立ちを抑制することはできない。一般式(X)で表わされる化合物(より詳細には、上記の通り、一般式(X)で表わされる化合物に由来する化合物をアルカリ金属塩の形態で、以下も同様)含み、かつ水相のpHが極めて高い系において、消泡効果を発揮し得る消泡剤は、これまで見出されていなかった。これに対して、本発明者らは、鋭意研究の結果、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を用いれば、上記化合物に起因する泡立ちを効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の上記洗浄方法では、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を添加しているので、洗浄中の水相のpH(より詳細には、上記組成物と接触しているアルカリ水溶液のpH)を14未満としつつ、上記一般式(X)で表わされる化合物に起因する泡立ちを効果的に抑制でき、洗浄操作を安定して連続的に効率よく実施することができる。
【0014】
本発明の1つの態様において、上記シリコーン系消泡剤が、フッ素を含有するシリコーン化合物を含む。上記シリコーン系消泡剤が、フッ素を含有するシリコーン化合物を含むことにより、上記一般式(X)で表わされる化合物を含み、かつ水相のpHが極めて高い系(但し、本発明ではpH14未満とする、以下も同様)において、消泡効果を持続的に発揮することができる。
【0015】
本発明の1つの態様において、上記組成物は、ヘキサフルオロアセトンを更に含む。ヘキサフルオロアセトンは、高pH(または高アルカリ濃度)条件下で、トリフルオロメタンとトリフルオロ酢酸に分解し得、この分解はpHが高いほど顕著に生じることが、本発明者らにより判明した。本発明の上記洗浄方法はpH14未満で実施されるので、かかる態様によれば、pH14以上で実施する場合よりもヘキサフルオロアセトンの分解を低減することができ、温暖化係数の高いトリフルオロメタンの発生を低減することができる。
【0016】
本発明のもう1つの要旨によれば、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法であって、
a)ヘキサフルオロプロピレンを酸素により酸化して、ヘキサフルオロプロピレンオキシドおよび以下の一般式(X):
CFO(CFO)−R ・・・(X)
(式中、−Rは−COF、−OCOFまたは−CFCOFを示し、nは0〜50の整数を示す。)
で表わされる化合物を含む組成物を得る工程、および
b)該組成物をアルカリ性の水性液体により、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を添加して、洗浄中のpHを14未満として洗浄して、前記一般式(X)で表わされる化合物をアルカリ性の水性液体中に分離し、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを含むガス状物を得る工程
を含む製造方法が提供される。
【0017】
本発明の上記製造方法は、本発明の上記洗浄方法を用いたものであり、これと同様の効果を奏し得る。
【0018】
本発明の1つの態様において、
工程a)にて得られる前記組成物が、ヘキサフルオロアセトンを更に含み、
工程b)にて、ヘキサフルオロアセトンをアルカリ性の水性液体中に分離する。ヘキサフルオロアセトンは、主に、アルカリ性の水性液体中に分離されるのに対し、ヘキサフルオロアセトンから分解して生じ得るトリフルオロメタンは、主に、ヘキサフルオロプロピレンオキシドと共にガス状物中に含まれる。本発明の上記製造方法は、ヘキサフルオロアセトンの分離がpH14未満で実施されるので、かかる態様によれば、pH14以上で実施する場合よりもヘキサフルオロアセトンの分解を低減することができ、よって、ガス状物中のトリフルオロメタンの含量を低減することができて、ヘキサフルオロプロピレンオキシドをガス状物の形態でより高純度で得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を添加しているので、洗浄中のpHを14未満としつつ、泡立ちを効果的に抑制でき、洗浄操作を安定して連続的に効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の1つの実施形態におけるヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法を説明するための概略図である。
【図2】本発明を説明するための実験例1の結果を示すグラフであって、オリゴマーを含有する調製液を泡立たせ、これに消泡剤溶液を少量ずつ添加したときの、消泡剤溶液の添加量(g)と泡立ち体積(mL)の関係を示すグラフである。
【図3】本発明を説明するための実験例2の結果を示すグラフであって、洗浄後のアルカリ水溶液(水相)のpH(−)と、洗浄後に得られるガス状物中のトリフルオロメタン含量(mol%)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法およびこれを用いたヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法について、図1を参照しながら詳述する。
【0022】
・工程a)
まず、ヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)および以下の一般式(X):
CFO(CFO)−R ・・・(X)
(式中、−Rは−COF、−OCOFまたは−CFCOFを示し、nは0〜50の整数を示す。)
で表わされる化合物を含む組成物を準備する。
【0023】
かかる組成物は、本発明の洗浄方法を限定するものではないが、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)を酸素により酸化するという反応工程を経て得ることができる。
【0024】
具体的には、予め溶媒を仕込んだ反応器(図示せず)にHFPおよび酸素(O)を供給し、反応器にてHFPを酸素により酸化(液相反応)してHFPOを生成させる。
【化1】

【0025】
溶媒には、この酸化反応に不活性な飽和ハロゲン炭素、例えば1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、パーフルオロ(ジメチルシクロブタン)、四塩化炭素などを用い得る。
【0026】
上記酸化反応では、本発明の製造方法の目的物質であるHFPOに加えて、以下の一般式(X):
CFO(CFO)−R ・・・(X)
(式中、−Rは−COF、−OCOFまたは−CFCOFを示し、nは0〜50の整数、好ましくは0〜15の整数を示す。)
で表わされる化合物(以下、一般式(X)で表わされるオリゴマーとも言う)が副生する。
【0027】
この一般式(X)で表わされるオリゴマーは、1種の化合物であってもよいが、通常は、末端基−Rおよび/またはn数の異なる複数種類の化合物が混在した混合物であり得る。
【0028】
上記一般式(X)において、隣接する2つのCFO繰返し単位の間の結合は、
−CF−O−CF−O−
−CF−O−O−CF
−O−CF−CF−O−
−O−CF−O−CF
のうち、いずれであってもよい。−CF−O−CF−O−および−O−CF−O−CF−の場合にはエーテル結合を形成し、−CF−O−O−CF−の場合には過酸化エーテル結合を形成する。
【0029】
一般式(X)で表されるオリゴマーにおける過酸化エーテル結合の割合は、ヨード滴定法で測定した活性酸素濃度が0.01〜25重量%となるような割合であることが好ましい。一般式(X)で表されるオリゴマーがこの条件を充たす限り、一般式(X)における末端基−Rが−COF、−OCOFまたは−CFCOFである化合物の割合については制限がない。
【0030】
この反応工程において、HFPOの一部、例えばその1〜2重量%程度が、ヘキサフルオロアセトン(CF−CO−CF)に転位し得る。
【0031】
生成したHFPO、一般式(X)で表わされるオリゴマーおよびヘキサフルオロアセトンは、例えば気相状態で反応器より抜き出され得る。抜き出された気相は、通常、HFPO、一般式(X)で表わされるオリゴマーおよびヘキサフルオロアセトンに加えて、未反応のHFP、副生したアセチルフルオライド(CFCOF)およびフッ化カルボニル(COF)なども含み得る。
【0032】
反応条件は、最終的なHFPO回収量が大きくなるように、使用する反応器および溶媒などに応じて適宜設定され得、例えば以下の通りであり得るが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
反応器に溶媒を容量の30〜50%仕込み、HFPを溶媒に対して1〜40%、好ましくは5〜35%仕込み、90〜150℃に加熱する。
そこに酸素ガスを分注圧0.02〜0.5MPa(ゲージ圧力)、好ましくは0.05〜0.1MPa(ゲージ圧力)の分圧で分注して反応を行う。酸素のトータル仕込み量は原料のHFPの転化率を分析することによって決定できるが、おおよそ理論量の1.3〜1.7倍量である。
また、このときの全反応圧は溶媒種、HFP仕込み比、温度条件等によって変動するため、特に規定はないが、一般的には1.5〜4MPa(ゲージ圧力)である。
反応時間(平均滞留時間)は、例えば1〜10時間である。
【0033】
かかる反応操作は、回分式でも密閉容器中で連続式でも行うことができる。反応器は液の撹拌および加熱が可能な金属製容器が好適である。
【0034】
反応器より抜き出した気相は、HFPOおよび一般式(X)で表わされるオリゴマーに加えて、ヘキサフルオロアセトン、未反応のHFP、副生したアセチルフルオライド(CFCOF)およびフッ化カルボニル(COF)なども含み得、適宜、常法の分離操作(例えば蒸留、蒸発など)に付してよい。これらのうち、少なくともHFPOおよび一般式(X)で表わされるオリゴマーが、工程b)に付される組成物中に含まれていればよく、工程b)の前に、HFPOおよび/または一般式(X)で表わされるオリゴマーは部分的に分離されていてもよい。
【0035】
以上により、HFPOおよび一般式(X)で表わされるオリゴマー、ならびに分離されていない場合にはヘキサフルオロアセトンを含む組成物が得られる。
【0036】
・工程b)
次に、上記で得られた組成物を脱酸処理するために、本発明の洗浄方法を適用して、洗浄操作を実施する。具体的には、上記で得られた組成物を、アルカリ性の水性液体、通常はアルカリ水溶液(以下、本実施形態においては説明を簡素化するため、単にアルカリ水溶液と言う)により、消泡剤を添加して、洗浄中のpHを14未満として洗浄する。これにより、該組成物から酸成分(一般式(X)で表わされるオリゴマーおよびヘキサフルオロアセトンなど)が除去され、本発明の製造方法の目的物質であるHFPOに着目すれば、HFPOが洗浄される。
【0037】
かかる洗浄操作は、回分式でも連続式でも行うことができるが、例えば図1に示す洗浄装置11を用いて連続的に実施できる。洗浄装置11は、脱酸塔10およびその付属設備より構成される。脱酸塔10は、塔部10aとその下部に連結された缶部10bとを含んで成り、塔部10aには、好ましくは任意の適切な充填物が充填される。付属設備には、図示する組成物供給ライン1、アルカリ水溶液供給ライン3、ガス状物排出ライン5、ポンプ7、アルカリ水溶液排出ライン9a、廃液ライン9b、循環ライン9cなどが含まれる。
【0038】
図1を参照して、上記工程a)で得られた組成物を気相状態(ガス)で組成物供給ライン1より脱酸塔10の塔部10aへ、好ましくはその下方に位置する供給口より供給する。
【0039】
他方、アルカリ水溶液をアルカリ水溶液供給ライン3より脱酸塔10の塔部10aへ、好ましくはその上方に位置する供給口より供給する。
【0040】
アルカリ水溶液は、アルカリ性の水性液体であればよく、例えばアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニアなどの少なくとも1種のアルカリ性物質を水性媒体中に含むものであり得る。アルカリ金属水酸化物には、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどを用い得る。アルカリ土類金属水酸化物には、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどを用い得る。これらは少なくとも1種以上で用いられ得、このうち、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムのいずれかまたは双方を用いることが好ましい。アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物は、水溶液の形態で用い得る。アンモニアは、アンモニア水の形態で用い得る。
【0041】
供給するアルカリ水溶液のpH(またはアルカリ濃度、より詳細にはアルカリ水溶液中のアルカリ性物質の濃度)は、使用する消泡剤、処理するガス量などにより異なり得るが、洗浄中のアルカリ水溶液(より詳細には、上記組成物と接触しているアルカリ水溶液)のpHを14未満に維持するように選択される。
【0042】
図1に示す洗浄装置11を用いる場合、具体的には、缶部10bからアルカリ水溶液排出ライン9aを通じて排出されるアルカリ水溶液(洗浄後のアルカリ水溶液)のpHが14未満となるように、アルカリ水溶液のpHの維持管理を行い得る。pHは、洗浄装置11への組成物の供給量やアルカリ水溶液の供給量、供給するアルカリ水溶液のpH(またはアルカリ濃度)などを、単独でまたは組み合わせて調節することにより調整可能である。
【0043】
更に、洗浄系に対して消泡剤を添加する。消泡剤は、アルカリ水溶液に予め添加しても、脱酸塔10に別途、例えば塔部10a、アルカリ水溶液排出ライン9a、循環ライン9cなどに設けた供給口より、供給してもよい。
【0044】
消泡剤には、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を用いる。
【0045】
消泡剤による破泡については、Rossの破泡理論によって説明されている。泡沫の崩壊が始まるためには、泡膜の表面に吸着した消泡剤の液滴が素早く泡膜内部に侵入することが必要であり、次に液滴の侵入に伴い不安定になった泡膜が崩壊するためには、液滴が泡膜上に拡張する必要があり、この拡張が進むに連れて侵入部が薄くなり、ついには破泡に至る。
【0046】
シリコーン系消泡剤は、消泡剤の消泡効果を担う有効成分(消泡成分)としてシリコーン化合物(シロキサン結合を基本骨格とし、ケイ素の側鎖にメチル基などの有機基を有する有機ケイ素樹脂を言う)を含み、必要に応じて他の成分(例えば溶媒、無機物、添加物など)を含み得る。
シリコーン化合物として、代表的にはジメチルポリシロキサンが挙げられる。ジメチルポリシロキサンの特性は以下の通りである。
1)表面張力が小さい。
2)拡張性、浸透性が良い。
3)表面への配向性が良い。
4)耐熱性に優れ、不揮発性である。
5)耐酸化性に優れ、化学的に安定である。
6)気体溶解性・透過性に優れている。
7)気泡性溶液への溶解性が小さい。
8)生理活性がなく、安定性が高い。
シリコーン化合物は、基本的に、かかる特性を有する。よって、一般的に、シリコーン系消泡剤は、消泡能力、化学的安定性、耐熱性に優れている。
【0047】
シリコーン系消泡剤は、現在のところ、オイル型、オイルコンパウンド型、溶液型、自己乳化型およびエマルジョン型のものが知られている。
オイル型とは、ジメチルポリシロキサン(シリコーンオイル)、または、ジメチルポリシロキサンのメチル基を他のアルキル基やポリオキシアルキレン基で一部置換した変性シリコーンオイルを言う。
オイルコンパウンド型とは、上記オイル型消泡剤中に、シリカ、アルミナなどの微粉末を均一分散させたものを言う。
溶液型とは、上記オイル型またはオイルコンパウンド型消泡剤を、炭化水素系、芳香族系、塩素系などの溶剤に希釈したものを言う。
自己乳化型とは、上記オイルコンパウンド型消泡剤に、自己乳化性を付与する添加剤を配合したものを言う。かかる添加剤は、ジメチルポリシロキサンのメチル基をポリオキシアルキレン基のような親水基で一部置換した変性シリコーンオイルであってよく、この変性シリコーンオイルは、シリコーンオイルに対して優れた乳化力を示す。特に、シリコーンオイルコンパウンドに、ポリオキシアルキレン変性シリコーンを配合した消泡剤は、耐熱性、機械安定性、耐酸性、耐アルカリ性、耐電解質性に優れる。
エマルジョン型とは、上記オイルコンパウンド型消泡剤を、界面活性剤(または乳化剤)を用いてO/W(水中油)型エマルジョンとしたもので、オイルコンパウンド(より詳細には消泡成分)の水系への分散性が改良されている。
【0048】
種々の消泡剤のうち、本発明においては、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を用いる。シリコーン系消泡剤は、高い消泡能力を有することに加え、その化学的安定性および耐熱性により、水相のpHが極めて高い系においても安定して存在でき、および中和による部分的な発熱にも耐えることができると考えられる。更に、自己乳化型および/またはエマルジョン型のシリコーン系消泡剤は、水系への分散性が高いため、水系での消泡に効果的である。消泡は、処理対象液が水系またはオイル系であるかに加え、泡立ちをもたらす主な成分およびこれと共存している成分、泡立ちが生じるメカニズムなど、さまざまな要因により影響を受けるため、どのような消泡剤が有効であるかを予測することは困難である。本発明者らは、上記一般式(X)で表わされる化合物を含み、かつ水相のpHが極めて高い系(但し、本発明ではpH14未満)において、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤が消泡効果を発揮し得ることを見出した。自己乳化型のシリコーン系消泡剤は、ジメチルポリシロキサンのメチル基を一部置換することによって変性して、耐アルカリ性の性質を高めることができ、更に、親水的性質を発現させることができる。また、エマルジョン型のシリコーン系消泡剤は、界面活性剤によって、本発明の洗浄対象である組成物のアルカリ水溶液中での分散性を高めることができる。
【0049】
本発明に用いるシリコーン系消泡剤は、フッ素を含有するシリコーン化合物を含むことが好ましい。シリコーン化合物がフッ素を含有していることにより、上記一般式(X)で表わされる化合物を含み、かつ水相のpHが極めて高い系において、消泡効果を持続的に発揮することができる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、上記一般式(X)で表わされる化合物は、アルカリ金属水酸化物を含むアルカリ水溶液中で、これに由来する化合物のアルカリ金属塩(より詳細には、上記一般式(X)中、−Rが、−COOM、−OCOOMまたは−CFCOOMに変更された化合物となり、Mはアルカリ金属を示す)の形態で溶解し、含フッ素系の界面活性剤様の機能を有するため、表面張力が低く、安定な泡を形成していると考えられるものの、フッ素を含有するシリコーン系消泡剤は、更に表面張力が低く、かかる泡の破泡に効果的であると考えられる。このことは、上記のRossの破泡理論に沿うものである。
【0050】
本発明を限定するものではないが、かかるフッ素を含有するシリコーン化合物を含むシリコーン系消泡剤としては、例えば特許文献3〜5に記載されているような消泡剤などを使用できる。
【0051】
脱酸塔10に供給された組成物およびアルカリ水溶液は、その内部にて互いに十分接触し、図示する態様では塔部10aを流れる間に向流接触する。接触後の組成物は、ガス状物として、好ましくは塔部10aの上方に位置する排出口より、ガス状物排出ライン5を通じて排出される。他方、接触後のアルカリ水溶液は、塔部10aの下部に連結された缶部10bにて受けられた後、ポンプ7によって、缶部1bよりアルカリ水溶液排出ライン9aを通じて排出される。
【0052】
組成物およびアルカリ水溶液が接触している間、組成物中の酸成分はアルカリ水溶液中に移動し、換言すれば、アルカリ水溶液により組成物が(本発明の製造方法の目的物質に着目すればHFPOが)洗浄される。この間、液相であるアルカリ水溶液のpHは14未満に維持される。洗浄後の組成物、すなわち、ガス状物排出ライン5を通じて排出されるガス状物には、HFPOが含まれる。
【0053】
かかる洗浄操作においては、上述した消泡剤を使用しているので、pHが14未満であっても、脱酸塔10の塔部10aおよび缶部10bにおいて、上記一般式(X)で表わされるオリゴマーに起因する泡立ちを効果的に抑制することができる。よって、洗浄後のガス状物中にアルカリ水溶液(ひいては一般式(X)で表わされるオリゴマー)が混入したり、脱酸塔10の圧力損失が泡立ちのために増大したりすることを防止できる。この結果、洗浄操作の処理速度を上げることができ、安定して連続的に効率よく実施することができる。また、本発明者らの独自の知見によれば、pHを14以上とすれば消泡剤を必ずしも要することなく泡立ちを抑制し得ることが判明したが、かかる場合に比べて、アルカリ消費量を低減することができる。
【0054】
この洗浄操作において、液相のpHは14未満であればよい。pH測定器はpH14未満であれば正確に測定可能であるので、かかるpHの維持管理は、市販のpH測定器を用いて、アルカリ水溶液(水相)のpHを測定することによって簡便に行うことができる。pH測定器で測定されるpHの実測値は、通常、pH14以下であれば、中和滴定により測定されるアルカリ性物質のモル濃度の値から求められるpHの理論値とほぼ等しい。市販のpH測定器には、pH14以上の値を表示し得るものもあるが、pH14以上では誤差が大きくなることが知られている。
【0055】
洗浄中のpHの下限値は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜設定してよく、例えばpH12以上としてよいが、pH13以上とすることがより好ましい。pH13以上とすることにより、オリゴマーが加水分解して生成するHFおよびCOを、更に、中和反応によってアルカリ水溶液中にトラップすることができ、それぞれFおよびCO2−としてアルカリ水溶液中に分離することができる(よって、ガス状物排出ライン5を通じて排出されるガス状物のHFPO純度を向上させることができる)。
【0056】
アルカリ水溶液中に分離される酸成分には、一般式(X)で表わされるオリゴマーおよび存在する場合にはヘキサフルオロアセトンが含まれる。一般式(X)で表わされるオリゴマーは、これに由来する化合物のアルカリ金属塩(より詳細には、上記一般式(X)中、−Rが、−COOM、−OCOOMまたは−CFCOOMに変更され化合物であって、Mはアルカリ金属を示す)の形態でアルカリ水溶液に溶解する。ヘキサフルオロアセトンは、三水和物として、アルカリ水溶液に溶解する。
【0057】
ヘキサフルオロアセトン(CF−CO−CF)は、高pH(またはアルカリ濃度)条件下で、特にpH14以上の条件下では高い反応速度で、トリフルオロメタン(CFH)とトリフルオロ酢酸(CFCOOH)に分解し得る。トリフルオロ酢酸は、酸成分としてアルカリ水溶液中に含まれ得るが、トリフルオロメタンはガス状物排出ライン5から排出されるガス状物にHFPOと共に含まれ得る。この場合、製品HFPOを得るにはガス状物を精製してトリフルオロメタンを分離する必要があるが、洗浄中のアルカリ水溶液(または液相)のpHを14未満に維持することにより、ヘキサフルオロアセトンの分解、すなわちトリフルオロメタンの生成自体を低減することができて、ガス状物中のトリフルオロメタンの含量を効果的に低減することができる。
【0058】
よって、アルカリ水溶液排出ライン9aを通じて排出される(洗浄後の)アルカリ水溶液には、一般式(X)で表わされるオリゴマーに由来する化合物および存在する場合にはヘキサフルオロアセトンが含まれる。
【0059】
このようにして脱酸塔10から排出されたアルカリ水溶液は、その全部または一部が廃液ライン9bを通じて、必要に応じて任意の後処理がなされた後に、廃棄される。一般的には中和処理を行った上で廃棄されるが、洗浄後のpHが14未満となっているので、より高いpHである場合に比べて中和に要するコストを削減できる。なお、ヘキサフルオロアセトン三水和物は中性状態で安定であるため、洗浄後のアルカリ水溶液を中和した後、別途、ヘキサフルオロアセトン三水和物を(例えば抽出、膜分離、吸着などにより)安定的に取り出して、任意の目的に利用してもよい。
【0060】
また、上記のようにして排出されたアルカリ水溶液は、洗浄効果を未だ有し得るため、その一部を循環ライン9bに通じて脱酸塔10の塔部10aに戻し、アルカリ水溶液供給ライン3を通じて新たに供給されるアルカリ水溶液と一緒に用いてよい。これにより、アルカリの消費量を削減できる。
【0061】
洗浄条件は、最終的なHFPO回収量が大きくなるように、使用する洗浄装置ならびにアルカリ水溶液およびシリコーン系消泡剤の種類などに応じて適宜設定され得、例えば以下の通りであり得るが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
脱酸塔10に上記組成物を、気相状態で、例えば0〜50℃および0〜0.6MPa(ゲージ圧力)で供給する。
脱酸塔10にアルカリ水溶液を、液体状態で、例えば0〜30℃で供給する。
脱酸塔10に循環するアルカリ水溶液の割合は、特に限定されないが、例えば、外部から新たに供給するアルカリ水溶液の供給流量に対して、0〜5000倍とし得る。
アルカリ水溶液の供給流量は、上記組成物の供給流量1m/hrに対して、2〜20L/hrとし得る。
シリコーン系消泡剤の添加量は、アルカリ水溶液の供給流量に対して、有効成分10重量ppm〜10重量%とし得る。かかる消泡剤は、そのままで、または水もしくはアルカリ水溶液などで希釈して添加してよい。
脱酸塔10から排出されるガス状物は、供給される組成物およびアルカリ水溶液の各熱量や、脱酸塔10の圧力損失などにもよるが、例えば0〜50℃および0〜0.6MPa(ゲージ圧力)であり得る。
排出されるアルカリ水溶液は、供給される組成物およびアルカリ水溶液の各熱量や、脱酸塔10の圧力損失などにもよるが、例えば0〜50℃である。
洗浄中のアルカリ水溶液のpH(より詳細には、外部から供給されるアルカリ水溶液と、循環されるアルカリ水溶液とを合わせたアルカリ水溶液であって、気相状態で供給される組成物と接触しているアルカリ水溶液(または液相)のpH、便宜的には、洗浄後のアルカリ水溶液のpHにほぼ等しいと考えて差し支えない)は14未満であり、例えば、pH12以上14未満であり得る。
【0062】
以上により、HFPO、より詳細にはHFPOと一般式(X)で表わされるオリゴマーを含む組成物が洗浄され、洗浄後のガス状物の形態でHFPOが製造される。得られるガス状物中のHFPOの含量は、例えば80mol%以上、代表的には90〜100mol%である。また、得られるガス状物中のトリフルオロメタンの含量は、例えば2mol%以下、好ましくは1mol%以下である。
【実施例】
【0063】
以下、実験例を通じて本発明をより詳細に説明する。
【0064】
(実験例1)
種々の消泡剤について、上記一般式(X)で表わされる化合物を含み、かつ水相のpHが極めて高い系において、消泡効果を発揮し得るかどうかを調べた。
【0065】
・調製液Q’の準備
上述の工程a)に従って、HFPを酸素により酸化してHFPOを生成させ、これにより得られた気相から、常法により、COF、CFCOFなどを適宜除去して、組成物Pを得た。
【0066】
この組成物Pの成分をフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、核磁気共鳴スペクトル(19F−NMR、13C−NMR)およびガスクロマトグラフィーにより分析した。結果を表1に示す。組成物Pは、HFPOおよび上述の一般式(X)で表わされるオリゴマーを含んでおり、微量のヘキサフルオロアセトン(CFCOCF)も含んでいた。
【0067】
【表1】

【0068】
次に、この組成物Pを、図1に示す洗浄装置11を用いて洗浄して、洗浄後の洗浄液サンプルQを採取した。洗浄操作は、消泡剤を添加せずに実施し、具体的な条件は次の通りとした。
図1に示す洗浄装置11の脱酸塔10に、上記組成物Pを気相状態で、組成物供給ライン1から連続的に供給すると共に、アルカリ水溶液として水酸化カリウム水溶液をアルカリ水溶液供給ライン3から連続的に供給し、洗浄後のガス状物およびアルカリ水溶液をガス状物排出ライン5およびアルカリ水溶液排出ライン9aからそれぞれ連続的に排出させた。アルカリ水溶液供給ライン3から供給したアルカリ水溶液は、約15℃およびアルカリ濃度5.4mol/L(pH=14.7(理論値))とした。脱酸塔10に循環ライン9cより循環するアルカリ水溶液の割合は、アルカリ水溶液供給ライン3から供給するアルカリ流量に対して1000倍とした。廃液ライン9bから得られたアルカリ水溶液は、約20℃およびアルカリ濃度2.9mol/L(pH=14.4(理論値))であった。
かかる条件下で廃液ライン9bから得られたアルカリ水溶液を洗浄液サンプルQとして採取した。
【0069】
採取した洗浄液サンプルQを水で希釈して(希釈率 4倍)、pH=約13.8となるように調製した。これにより得られた調製液Q’を19F−NMRで測定したところ、調製液Q’は、一般式(X)で表わされるオリゴマーに由来する化合物を0.3重量%で含有していた。
【0070】
以上により、pH14未満で、かつ、一般式(X)で表わされるオリゴマーを含む調製液Q’を準備した。
【0071】
・消泡剤水溶液Rの準備
下記に示す種々の消泡剤を水で希釈して、消泡剤の有効成分を0.1重量%で含む消泡剤水溶Rを調製した。使用した消泡剤A〜Cのうち、消泡剤Aがエマルジョン型シリコーン系消泡剤で、消泡剤Bが自己乳化型シリコーン系消泡剤であり、本発明に使用可能な消泡剤である。また、使用した消泡剤A〜Cのうち、消泡剤Bがフッ素を含有するシリコーン化合物を用いたものである。
【0072】
【表2】

【0073】
・消泡効果確認実験(模擬洗浄操作)
模擬洗浄操作として、上記の通り準備した調製液Q’と消泡剤水溶液Rとを用いて、気液接触(バブリング)実験を行い、これにより、各消泡剤の消泡効果を調べた。
【0074】
具体的には、バブラーとしてPFA製チューブを底部まで挿入した100mLメスシリンダーに、上記の通り準備した調製液Q’を30mLの高さまで入れた。そして、バブラーから窒素ガスを供給してバブリングし、泡立ち体積が100mLとなるように調整した。このようにしてバブリングさせた調製液Q’に、上記の通り準備した消泡剤溶液Rを少量ずつ添加し、消泡剤溶液Rの添加量(g)を計量しつつ、泡立ち体積(mL)の変化を調べた。結果を図2に示す。
【0075】
図2を参照して、消泡剤A〜Cのいずれを添加した場合にも泡立ちが抑制されることが分かった。これは、上述したシリコーン系消泡剤に含まれるシリコーン化合物の特性(より詳細にはジメチルポリシロキサンの特性)によるものと推察される。しかしながら、消泡剤Cは、消泡剤Aおよび消泡剤Bをそれぞれ添加した場合に比べて泡立ちを抑制する効果が劣っていた。これにより、オイル型のシリコーン系消泡剤に比べて、自己乳化型およびエマルジョン型のシリコーン系消泡剤は、上記一般式(X)で表わされるオリゴマーを含み、かつ水相のpHが極めて高い系(但し、pH14未満とする)において、高い消泡効果を発揮することが確認された。また、消泡剤Aを添加した場合よりも、消泡剤Bを添加した場合のほうが、泡立ち体積をより小さくできた。これにより、エマルジョン型のシリコーン系消泡剤よりも、自己乳化型のシリコーン系消泡剤が、特に特にフッ素を含有するものが、好ましいことが確認された。
【0076】
(実験例2)
洗浄中のアルカリ水溶液のpHが、洗浄後に得られるガス状物中のトリフルオロメタンの含量に及ぼす影響を調べた。
【0077】
実験例1で得た組成物Pを、図1に示す洗浄装置11を用いて洗浄した。洗浄操作は、消泡剤を添加し、かつ、アルカリ水溶液供給ライン3から供給するアルカリ水溶液のpH(具体的には水酸化カリウム濃度)を段階的に下げていったこと以外は、実験例1と同様とした。消泡剤には、実験例1で用いた消泡剤B(自己乳化型シリコーン系消泡剤)を用い、かかる消泡剤を、アルカリ水溶液の供給流量に対して、消泡剤の有効成分が0.1重量%となるように添加した。
【0078】
洗浄操作を連続的に実施しながら、アルカリ水溶液供給ライン3から供給するアルカリ水溶液のpH(水酸化カリウム濃度)を段階的に下げていった。
【0079】
開始後60時間までの範囲で、ガス状物排出ライン5から排出されるガス状物Sのサンプルをいくつか採取し、その成分をガスクロマトグラフィーにより分析した。また、廃液ライン9bから得られた洗浄後のアルカリ水溶液のサンプルをいくつか採取し、そのpH(水酸化カリウム濃度)をpH測定器により測定した。これらの結果を図3に合わせて示す。
【0080】
図3を参照して、洗浄後のアルカリ水溶液のpH(水酸化カリウム濃度)は、開始時にpH約15であり、その後ほぼ直線的に低下して、開始後20時間過ぎでpH14未満となり、開始後50時間程度まで低濃度を維持した。他方、ガス状物中のトリフルオロメタン含量は、開始後約10時間以内では増加傾向にあるが、これは、脱酸塔10の缶部10bにあるアルカリ水溶液が置換されるために必要な時間がタイムラグとして現れているものと考えられる。その後、ガス状物中のトリフルオロメタン含量は徐々に減少し、開始後約20〜50時間の範囲では約1mol%以下であった。
【0081】
この間、脱酸塔10において、十分に消泡(抑泡)されており、問題なく連続運転することができた。よって、自己乳化型のシリコーン系の消泡剤を添加することによって、アルカリ水溶液のpHを14未満としても泡立ちを防止できることが確認された。
【0082】
更に、図3の結果から、アルカリ水溶液(液相)のpHを低くすることにより、ヘキサフルオロアセトンの分解によるトリフルオロメタンの生成を低減することができることも確認された。
【0083】
また、消泡剤Aに代えて、実験例1で用いた消泡剤A(エマルジョン型シリコーン系消泡剤)を用いて同様の実験を行ったところ、脱酸塔10において、十分に消泡(抑泡)されており、問題なく連続運転することができた。よって、エマルジョン型のシリコーン系の消泡剤を添加することによって、アルカリ水溶液のpHを14未満としても泡立ちを防止できることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の洗浄方法は、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを洗浄するためだけでなく、上記式(X)で表わされる化合物またはこれと類似した構造を有する化合物、例えば陰イオン界面活性剤に起因する泡立ちを抑制するために広範に使用され得る。本発明の製造方法によって得られるヘキサフルオロプロピレンオキシドは、例えばパーフルオロビニルエーテルの原料として用いられ得る。
【符号の説明】
【0085】
1 組成物供給ライン
3 アルカリ水溶液供給ライン
5 ガス状物排出ライン
7 ポンプ
9a アルカリ水溶液排出ライン
9b 廃液ライン
9c 循環ライン
10 脱酸塔
10a 塔部
10b 缶部
11 洗浄装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサフルオロプロピレンオキシドの洗浄方法であって、
ヘキサフルオロプロピレンオキシドおよび以下の一般式(X):
CFO(CFO)−R ・・・(X)
(式中、−Rは−COF、−OCOFまたは−CFCOFを示し、nは0〜50の整数を示す。)
で表わされる化合物を含む組成物をアルカリ性の水性液体により、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を添加して、洗浄中のpHを14未満として洗浄する方法。
【請求項2】
前記シリコーン系消泡剤が、フッ素を含有するシリコーン化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、ヘキサフルオロアセトンを更に含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法であって、
a)ヘキサフルオロプロピレンを酸素により酸化して、ヘキサフルオロプロピレンオキシドおよび以下の一般式(X):
CFO(CFO)−R ・・・(X)
(式中、−Rは−COF、−OCOFまたは−CFCOFを示し、nは0〜50の整数を示す。)
で表わされる化合物を含む組成物を得る工程、および
b)該組成物をアルカリ性の水性液体により、自己乳化型およびエマルジョン型から選択される少なくとも1種のシリコーン系消泡剤を添加して、洗浄中のpHを14未満として洗浄して、前記一般式(X)で表わされる化合物をアルカリ性の水性液体中に分離し、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを含むガス状物を得る工程
を含む製造方法。
【請求項5】
工程a)にて得られる前記組成物が、ヘキサフルオロアセトンを更に含み、
工程b)にて、ヘキサフルオロアセトンをアルカリ性の水性液体中に分離する、請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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