説明

ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法

【課題】選択性よく、高収率でヘキサフルオロプロピレンオキシドを製造できる方法を提供する。
【解決手段】一般式:RCHO(式中、Rは、一価の電子吸引性炭化水素基である)で表される電子吸引基を有するアルデヒドの存在下に、ヘキサフルオロプロピレンを分子状酸素で酸化することを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)は、各種フッ素化合物、例えばフッ素樹脂やエラストマーの中間体であるヘキサフルオロアセトン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどの原料として重要な化合物である。また、そのオリゴマーは潤滑油や熱媒油等に広く利用される。
【0003】
HFPOの製造法としては様々な方法が開発されており、その大部分はヘキサフルオロプロピレン(HFP)を原料として用い、これを酸化してHFPOとする方法である。この方法で用いる酸化剤としては、従来、過酸化水素、次亜塩素酸類等が用いられている。しかながら、これらの酸化剤を用いる場合には、いずれも原料と水溶液を十分に混合するために、水溶性の有機溶媒、多量の界面活性剤等を用いる必要があり、廃水処理などの点で工業上問題が多い。更に、過酸化水素を用いる場合には、反応温度を極低温にする必要がある。
【0004】
その他の方法として、有機過酸化物を酸化剤として用いる方法、紫外線による光酸化法、陽極酸化による方法などが知られているが、これらの方法では、危険性が高いことや複雑な装置装置が必要となること等の問題がある。
【0005】
下記特許文献1には、酸素を酸化剤として用い、1,1,2-トリクロロ-1,2,2,-トリフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、パーフルオロ(ジメチルシクロブタン)、四塩化炭素などの不活性な飽和ハロゲン化炭化水素溶媒中でHEPOを製造する方法が記載されている。しかしながら、この反応は、収率が約50~60%程度と低いために、収率の向上が望まれている。
【0006】
また、下記特許文献2には、HFPの酸化反応時に副生するポリ(パーフルオロオキシメチレン)酸フロライドを利用することにより、反応の誘導期をなくし、反応を安定化させて、収率を向上させる方法が記載されている。また、下記特許文献3には、HFPO製造時に副生するHFPOの多量体を溶媒として用いることによりHFPOの選択率が向上することが記されている。しかしながら、特許文献2及び3に記載されている方法であっても、収率が70%程度と低いために、より高い収率で目的物を製造できる方法が望まれている。
【特許文献1】特公昭45-11683
【特許文献2】特開平6-107650
【特許文献3】特開平9-52886
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、選択性よく、高収率でヘキサフルオロプロピレンオキシドを製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、電子吸引性炭化水素基を含むアルデヒドの存在下にヘキサフルオロプロピレンを分子状酸素で酸化する方法によれば、十分に高いヘキサフルオロプロピレンの転化率においても、選択性良く目的とするヘキサフルオロプロピレンオキシドを製造できることを見出し、ここ本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記のヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法を提供するものである。
1. 一般式:RCHO(式中、Rは、一価の電子吸引性炭化水素基である)で表される電子吸引基を有するアルデヒドの存在下に、ヘキサフルオロプロピレンを分子状酸素で酸化することを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
2. 電子吸引基を有するアルデヒドが、下記(1)〜(7)に示される化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1に記載の方法:
(1)一般式:X(CF2n(CH2mCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である)で表される化合物、
(2)一般式:F(CF2O)nCHO(式中、nは1〜50の整数である)で表される化合物、
(3)一般式:F(CF2O)nCF2CHO(式中、nは1〜50の整数である)で表される化合物、
(4)一般式:CF3(CF22O[CF(CF3)CF2O]nCF(CF3)CHO(式中、nは0〜4の整数である)で表される化合物、
(5)一般式:(X(CF2n(CH2m3CCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である。X(CF2n(CH2mは、同一であっても良く、互いに異なっていても良い)で表される化合物、
(6)一般式:(X(CF2n(CH2m2CFCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である。X(CF2n(CH2mは、同一であっても良く、互いに異なっていても良い)で表される化合物、
(7)下記一般式:
【0010】
【化1】

(式中、R1〜R6は、同一又は異なって、H、F、Cl、Br、−NO2、又は−(CF2l(CH2mX基(但し、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、mは0〜3の整数、lは0〜20の整数である)であって、R1〜R6の少なくとも一つは、−(CF2l(CH2mCHO基(l及びmは上記に同じ)である)で表される化合物。
3. 溶媒中で反応を行う上記項1又は2に記載の方法。
4. 溶媒が、一般式:X1(CF2n2(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、H、F、Cl、Br又はIであり、nは1〜20の整数である)で表される化合物、及び一般式:Cl(CF2CFCl)nCl(式中、nは2〜30の整数である)で表される化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素溶媒である上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. 周期律表の3族〜16族の第4周期〜第7周期のいずれかに属する金属及び該金属を含む化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種からなる触媒の存在下に反応を行う上記項1〜4のいずれかに記載の方法。
【0011】
本発明の製造方法は、一般式:RCHOで表される電子吸引基を有するアルデヒドの存在下に、ヘキサフルオロプロピレンを分子状酸素で酸化して、ヘキサフルオロプロピレンオキシドとする方法である。
【0012】
一般式:RCHOで表される電子吸引基を有するアルデヒドにおいて、Rは、一価の電子吸引性炭化水素基であり、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。該炭化水素基の炭素数は、1〜50程度であることが好ましく、1〜20程度であることがより好ましい。
【0013】
該炭化水素基は、1個又は2個以上の置換基を含んでいても良い。この様な置換基としては、NO2、SO2F、CHO、ハロゲン原子、SO2Cl、SO3H、CO2H、COF等を例示できる。該炭化水素基にフッ素原子が含まれる場合には、フッ素原子の数については特に限定はなく、パーフルオロ基であってもよく、或いは、一部の炭素原子のみがフッ素原子で置換されていてもよい。
【0014】
上記一般式で表される電子吸引基を有するアルデヒドの具体例として、下記(1)〜(7)の化合物を挙げることができる。
(1)一般式:X(CF2n(CH2mCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である)で表される化合物、
(2)一般式:F(CF2O)nCHO(式中、nは1〜50の整数である)で表される化合物、
(3)一般式:F(CF2O)nCF2CHO(式中、nは1〜50の整数である)で表される化合物、
(4)一般式:CF3(CF22O[CF(CF3)CF2O]nCF(CF3)CHO(式中、nは0〜4の整数である)で表される化合物、
(5)一般式:(X(CF2n(CH2m3CCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である。X(CF2n(CH2mは、同一であっても良く、互いに異なっていても良い)で表される化合物、
(6)一般式:(X(CF2n(CH2m2CFCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である。X(CF2n(CH2mは、同一であっても良く、互いに異なっていても良い)で表される化合物、
(7)下記一般式:
【0015】
【化2】

(式中、R1〜R6は、同一又は異なって、H、F、Cl、Br、−NO2、又は−(CF2l(CH2mX基(但し、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、mは0〜3の整数、lは0〜20の整数である)であって、R1〜R6の少なくとも一つは、−(CF2l(CH2mCHO基(l及びmは上記に同じ)である)で表される化合物。
【0016】
上記した各アルデヒド化合物において、ハロゲン原子としては、F、Cl、Br、I等を例示できる。
【0017】
上記(7)の化合物では、−(CF2l(CH2mX基が二個以上含まれる場合には、それぞれの基は同一であっても良く、互いに異なっていても良い。尚、−(CF2l(CH2mCHO基以外に、これと同一又は異なる−(CH2m(CF2lX基が一個含まれ場合には、両者は、パラ位に存在することが好ましい。
【0018】
上記した電子吸引基を有するアルデヒドの内で、一般式:X(CF2n(CH2mCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である)で表される化合物が入手容易さの点で好ましく、特に、X(CF2n(CH2mCHO(式中、Xは、H又はFであり、nは1〜20の整数、mは0〜3の整数である)で表される化合物が好ましい。
【0019】
電子吸引基を有するアルデヒド化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0020】
本発明のヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法は、回分式、連続式の何れの方法で行うこともできる。特に、内部の撹拌が可能な密閉式の加圧反応器を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の方法は、無溶媒又は溶媒中で行うことができる。特に、ヘキサフルオロプロピレンと酸素とを効率良く反応させるためには、溶媒中で反応を行うことが好ましい。
【0022】
溶媒としては、無極性溶媒及び極性溶媒の何れを用いても良い。極性溶媒としては、n−ヘキサン、四塩化炭素、パーフルオロジメチルシクロブタン、フルオロトリクロロメタン、クロロホルム、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(トリフルオロメチル)シクロペンタン等の環状含フッ素化合物;一般式:X1(CF2n2(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、H、F、Cl、Br又はIであり、nは1〜20の整数である)で表される化合物、一般式:Cl(CF2CFCl)nCl(式中、nは2〜30の整数である)で示される化合物等を例示できる。極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、アジポニトリル、水等を例示できる。その他に、CO2、CHF3、水等を超臨界流体として用いることもできる。無極性溶媒、極性溶媒及び超臨界流体溶媒は単独で用いても良いし、混合溶媒として用いても良い。
【0023】
上記した溶媒のうちで、酸素及びヘキサフルオロプロピレンの溶解度が高い点で、無極性溶媒及び超臨界流体が好ましい。特に、一般式:X1(CF2n2(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、H、F、Cl、Br又はIであり、nは1〜20の整数である)で表される化合物、及び一般式:Cl(CF2CFCl)nCl(式中、nは2〜30の整数である)で示される化合物は、フッ素化合物との親和性の高く、入手容易な点で好ましい。
【0024】
溶媒の使用量は、特に限定的ではないが、通常、反応容器の容量の0.01〜80%程度とすることが好ましい。特に、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの収率を高くするためには、0.1〜60%程度とすることが好ましい。
【0025】
溶媒中のヘキサフルオロプロピレンの濃度は特に限定的ではないが、通常、0.01〜70000モル/l程度とすることが好ましく、0.05〜7000モル/l程度とすることがより好ましい。
【0026】
本発明方法は、例えば、ヘキサフルオロプロピレンとアルデヒドを仕込んだ反応容器中に、酸素ガスを導入することによって行うことができる。
【0027】
ヘキサフルオロプロピレンの仕込方法は、特に限定的ではないが、溶媒を用いる場合には、溶媒を入れた反応容器中に、気相部分又は液相部分からヘキサフルオロプロピレンを導入すればよい。無溶媒で反応を行う場合には、反応容器中に直接ヘキサフルオロプロピレンを導入すればよい。
【0028】
電子吸引基を有するアルデヒドの使用量は、ヘキサフルオロプロピレン1モルに対して0.01〜50モル程度とすることが好ましく、0.1〜20モル程度とすることがより好ましい。
【0029】
本発明では、分子状酸素は、そのまま用いても良く、或いは、不活性ガスで希釈した状態で用いても良い。例えば、窒素で希釈した酸素、空気などを用いても良い。
【0030】
酸素の仕込み方法としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレンとアルデヒドを仕込んだ反応容器中に、気相又は液相部分から酸化ガスを導入すればよい。特に、安全性が高く、ヘキフルオロプロピレンとの接触効率が良い点で、液相から仕込むことが好ましい。
【0031】
酸素は、分割で仕込んでも良く、或いは連続で仕込んでも良いが、ヘキサフルオロプロピレンと酸素の爆発限界に入らないように気相部分の酸素分圧を一定以下に保ちながら、分割で酸素を仕込む方法が安全である。分割で酸素を仕込む場合には、反応容器の気相部分の酸素濃度が0.01〜40モル%程度となるようにすることが好ましく、0.1〜30モル%程度となるようにすることがより好ましい。
【0032】
本発明方法で用いる全酸素量は、ヘキサフルオロプロピレン1モルに対して0.001モル〜10モル程度とすることが好ましく、0.01〜5モル程度とすることがより好ましい。
【0033】
本発明の製造方法では、周期律表の3族〜16族の第4周期〜第7周期のいずれかに属する金属及び該金属を含む化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種を触媒として用いることができる。この様な金属の具体例としては、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Sb、Ce、Sm、Eu、Yb、Ta、Pt、Os、Ir、Au、Hg、Pb、Bi、Zn等を挙げることができ、入手容易な点でCu、Fe、Ni、Pt、Pd、Rh、Ru、Mn等が好ましい。これらの金属は、単独で用いても良く、或いは、ゼオライト、活性炭等の担体に担時した状態で用いても良い。含フッ素化合物を溶媒として用いる場合には、含フッ素溶媒に対する溶解性が良好である点から、含フッ素化合物を配位子とする上記金属の錯化合物を触媒として用いることが好ましい。配位子として用いる含フッ素化合物としては、フッ素置換された、或いは含フッ素置換基を有するトリフェニルホスフィン、β−ジケトン、ポルフィリン、カルボン酸、シクロオクタジエン、2,2'−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1.1’−ビナフチル等の一般的な配位子の含フッ素化合物を挙げることができる。
【0034】
上記した金属及び金属化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0035】
触媒を用いる場合には、その使用量は、ヘキサフルオロプロピレン1モルに対して、0.0001モル〜0.5モル程度、好ましくは0.001モル〜0.2モル程度とすればよい。
【0036】
本発明方法は、反応温度−30℃〜200℃程度で行うことができる。特に、反応温度を50〜160℃程度とする場合には、適度な反応速度とすることができる。
【0037】
反応時の全圧力は、ヘキサフルオロプロピレンの仕込量、溶媒の種類、温度などの反応条件によって異なるので、特に限定されないが、通常、0.01MPa〜5MPa程度である。
【0038】
反応時間については、反応速度が溶媒の種類、アルデヒドの種類、ヘキサフルオロプロピレンの仕込量、温度等の反応条件に依存するので特に限定されないが、通常、0.01〜50時間程度とすればよく、十分に反応を進行させるためには、0.1〜15時間程度とすることが好ましい。
【0039】
上記した方法によって得られたヘキサフルオロプロピレンオキシドは、蒸留操作などの一般的なガスの単離方法によって分離回収することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の製造方法によれば、ヘキサフルオロプロピレンの転化率が高い場合においても、選択性よく、高収率でヘキサフルオロプロピレンオキシドを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0042】
実施例1
撹拌翼、加熱用電気ヒーター、ガスの仕込み口、気相部・液相部の抜き出し口、バルブ、圧力ゲージおよび温度計を備えた100ml容量のSUS316製オートクレーブに、溶媒としてCF3(CF2)7Brを30ml仕込み、次いでH(CF2CF2)3CHOを51.4g仕込んだ。
【0043】
オートクレーブを−40℃まで冷却した後、系内を減圧し、ガスの仕込み口からからヘキサフルオロプロピレンを10.5g仕込んだ。
【0044】
系内温度を60℃まで昇温させ、系内温度を60℃に制御しながら、電磁弁を用いて酸素ガスを液相部から反応容器中に導入し、反応容器の気相部分の酸素圧が0.05MPa(気相中の酸素濃度:25モル%)となるまで仕込んだ。更に、反応系の圧力低下が停止するごとに、反応容器の気相部分の酸素分圧が0.05MPaとなるように酸素ガスを導入した。
【0045】
ヘキサフルオロプロピレン(HFP)の転化率、およびヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)の選択率をモニタリングしつつ反応させた。転化率と選択率の確認は、系中の気相部の抜き出し口から反応混合物の一部を数回抜き出した上で、ガスクロマトグラフィー分析によって行った。ヘキサフルオロプロピレンの転化率が80.2%に到達したところで反応を終了した。その結果、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの選択率は95.3%であり、副生成物としてCF3COF及びCOF2が合わせて4.7%生成していた。
【0046】
実施例2
反応温度を120℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ヘキサフルオロプロピレンの酸化反応を行った。但し、酸素ガスについては、反応容器の気相部分の酸素圧が0.1MPa(気相中の酸素濃度:14.3モル%)となるまで仕込み、反応系の圧力低下が停止するごとに、反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPaとなるように酸素ガスを導入した。
【0047】
生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、ヘキサフルオロプロピレンの転化率:56.1%の時点で、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの選択率は97.4%であり、副生成物として、CF3COFとCOF2が合計2.6%生成していた。
【0048】
実施例3
反応温度を120℃に変更し、溶媒として、CF3(CF2)6CF3を30ml使用し、触媒として、Ni(C7F15COCH2COC7F15)2を1.17gを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でヘキサフルオロプロピレンの酸化反応を行った。但し、酸素ガスについては、反応容器の気相部分の酸素圧が0.1MPa(気相中の酸素濃度:14.3モル%)となるまで仕込み、反応系の圧力低下が停止するごとに、反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPaとなるように酸素ガスを導入した。
【0049】
実施例1と同様にして、生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、ヘキサフルオロプロピレンの転化率:29.1%の時点で、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの選択率は94.4%であり、副生成物として、CF3COFとCOF2が合計5.6%生成していた。
【0050】
実施例4
反応温度を120℃に変更し、溶媒としてCF3(CF2)6CF3を30ml使用し、電子吸引基を有するアルデヒドとしてH(CF2CF2)2CHOを13.6g使用し、触媒としてNi(C7F15COCH2COC7F15)2を1.17g使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でヘキサフルオロプロピレンの酸化反応を行った。但し、酸素ガスについては、反応容器の気相部分の酸素圧が0.1MPa(気相中の酸素濃度:14.3モル%)となるまで仕込み、反応系の圧力低下が停止するごとに、反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPaとなるように酸素ガスを導入した。
【0051】
生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、ヘキサフルオロプロピレンの転化率:25.3%の時点で、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの選択率は91.2%であり、副生成物として、CF3COFとCOF2が合計8.8%生成していた。
【0052】
比較例1
H(CF2CF2)3CHOを用いることなく、それ以外は実施例1と同様にしてヘキサフルオロプロピレンの酸化反応を行った。但し、酸素ガスについては、反応容器の気相部分の酸素圧が0.1MPa(気相中の酸素濃度:14.3モル%)となるまで仕込み、反応系の圧力低下が停止するごとに、反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPaとなるように酸素ガスを導入した。
【0053】
ガスクロマトグラフィーにより分析した結果、ヘキサフルオロプロピレンの転化率は0%であり、ヘキサフルオロプロピレンオキシドおよび副生成物の生成は認められなかった。
【0054】
比較例2
反応温度を120℃に変更し、H(CF2CF2)3CHOを用いることなく、溶媒としてCF3(CF2)6CF3を30ml用い、それ以外は実施例1と同様にしてヘキサフルオロプロピレンの酸化反応を行った。但し、酸素ガスについては、反応容器の気相部分の酸素圧が0.1MPa(気相中の酸素濃度:14.3モル%)となるまで仕込み、更に、反応系の圧力低下が停止するごとに、反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPaとなるように酸素ガスを導入した。
【0055】
生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、ヘキサフルオロプロピレンの転化率:64.7%の時点で、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの選択率は57.3%であり、副生成物として、CF3COFとCOF2が合計42.6%生成していた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:RCHO(式中、Rは、一価の電子吸引性炭化水素基である)で表される電子吸引基を有するアルデヒドの存在下に、ヘキサフルオロプロピレンを分子状酸素で酸化することを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【請求項2】
電子吸引基を有するアルデヒドが、下記(1)〜(7)に示される化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1に記載の方法:
(1)一般式:X(CF2n(CH2mCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である)で表される化合物、
(2)一般式:F(CF2O)nCHO(式中、nは1〜50の整数である)で表される化合物、
(3)一般式:F(CF2O)nCF2CHO(式中、nは1〜50の整数である)で表される化合物、
(4)一般式:CF3(CF22O[CF(CF3)CF2O]nCF(CF3)CHO(式中、nは0〜4の整数である)で表される化合物、
(5)一般式:(X(CF2n(CH2m3CCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である。X(CF2n(CH2mは、同一であっても良く、互いに異なっていても良い)で表される化合物、
(6)一般式:(X(CF2n(CH2m2CFCHO(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、nは0〜20の整数、mは0〜3の整数である。X(CF2n(CH2mは、同一であっても良く、互いに異なっていても良い)で表される化合物、
(7)下記一般式:
【化1】

(式中、R1〜R6は、同一又は異なって、H、F、Cl、Br、−NO2、又は−(CF2l(CH2mX基(但し、Xは、H、ハロゲン原子、−NO2、−SO2F又は−CHOであり、mは0〜3の整数、lは0〜20の整数である)であって、R1〜R6の少なくとも一つは、−(CF2l(CH2mCHO基(l及びmは上記に同じ)である)で表される化合物。
【請求項3】
溶媒中で反応を行う請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒が、一般式:X1(CF2n2(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、H、F、Cl、Br又はIであり、nは1〜20の整数である)で表される化合物、及び一般式:Cl(CF2CFCl)nCl(式中、nは2〜30の整数である)で表される化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素溶媒である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
周期律表の3族〜16族の第4周期〜第7周期のいずれかに属する金属及び該金属を含む化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種からなる触媒の存在下に反応を行う請求項1〜4のいずれかに記載の方法。