説明

ヘッドキャップ内の水分比率調整方法およびインクジェットプリンター

【課題】高価な吐出ヘッドを用いず、インクの消費が少ない方法で、ヘッドキャップ内の水分比率を適正範囲内に調整すること。
【解決手段】インクジェットプリンター1は、インクジェットヘッド3が待機位置C2のとき、キャップ14によってインクノズル面3aをキャッピングする。キャップ14の開放時間が長く、キャップ14内の水分比率が適正範囲Fよりも低下していると判断した場合には、制御部30は、キャップ14内の水分調整を行う。すなわち、水ヘッドユニット9を水供給位置D1に移動させて水ノズル面11aをキャッピングし、吸引ポンプ15を駆動制御してキャップ14内に水を供給する。続いて、キャップ14をインクノズル面3aに対峙させてインクジェットヘッド3を駆動制御し、キャップ内に所定量のインクを供給する。これにより、水供給によって上昇しすぎた水分比率が適正範囲F内に戻る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非印刷時にインクジェットヘッドのインクノズル面をキャッピングすると共に、メンテナンス時にはインクジェットヘッドから吐出されるインクを受けるためのヘッドキャップを有するインクジェットプリンターおよびそのヘッドキャップ内の水分比率調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、インクノズル内のインクの増粘によってインクノズルに目詰まりが発生することを防止するために、インクジェットヘッドが待機中の間、インクノズルが形成されているインクノズル面をヘッドキャップで覆い、インクノズルからの水分の蒸発を抑制している。また、このような目詰まりの発生を抑制するために、インクノズル面にヘッドキャップを対向させてインクを吐出させるフラッシング動作を定期的に行っている。さらに、インクノズルに目詰まりが発生した場合には、インクノズル面をキャップで覆い、ノズル面とヘッドキャップとによって形成された密閉空間に吸引ポンプによって負圧を発生させて、インクノズルからヘッドキャップ内にインクを強制的に吐出させるインク吸引動作を行い、この目詰まりを解消している。フラッシング動作およびインク吸引動作では、インクノズルから吐出されたインクはキャップの内側に収納されているフェルトなどのインク吸収材に吸収される。
【0003】
インクノズルから吐出されるインクにはグリセリンなどの保湿成分が含まれており、フラッシング動作やインク吸引動作が行われると、インク吸収材には、この保湿成分を含む廃インクが堆積されていく。ここで、インクジェットヘッドによる印刷が行われている間は、ヘッドキャップはインクノズル面を覆っておらず開放状態となっているので、インク吸収材側から水分が蒸発し、ヘッドキャップ内の廃インク中の水分量に対する保湿成分量のバランスが崩れることがある。水分量に対する保湿成分量のバランスが崩れて水分比率が低下すると、ヘッドキャップによってインクノズル面を覆ったときに保湿成分がヘッドキャップとインクノズル面とによって形成された密閉空間内の水分を奪い、インクノズルからの水分の蒸発を促進してインクの増粘を助長するので、インクノズルに目詰まりが発生し易くなってしまう。
【0004】
このような事態を防止するためには、何らかの手段でヘッドキャップ内に水分を供給して、ヘッドキャップ内の廃インク中の水分比率を上昇させる必要がある。例えば、定期的なフラッシング動作により、水分比率が低下していない新たなインクを定期的にヘッドキャップ内に供給することが考えられる。しかしながら、このような方法は、高価なインクを印刷以外の目的で無駄に消費することになり、ユーザーのコスト負担が大きくなるため、望ましいとはいえない。
【0005】
ここで、特許文献1には、フラッシング以外の手段でヘッドキャップ内に液体(洗浄液)を供給する構成が開示されている。特許文献1のプリンターは、ヘッドキャップ内に堆積したインクを洗浄するための洗浄液供給手段を備えており、キャップ部材を洗浄液供給本体(洗浄液供給用のヘッド)に当接させて吸引ポンプを駆動することにより、洗浄液供給本体の洗浄液供給口からヘッドキャップ内に洗浄液を吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−226719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、液体供給用のヘッドから吸引ポンプで液体を吸引してヘッドキャップ内に供給する手段を用いると、微量の液体を吸引することが困難であり、液体の供給量を細かく調整することができない。従って、ヘッドキャップ内への水分供給にこのような液体供給手段を用いると、ヘッドキャップ内の水分比率が必要以上に上昇してしまうおそれがある。ヘッドキャップ内の水分比率が過度に上昇すると、増粘発生時とは逆にインクノズル内のインクに含まれる保湿成分によってヘッドキャップ側から水分が奪われ、インクノズル内のインクが薄まって印刷品質が低下するという問題点が生じる。
【0008】
このように、ヘッドキャップ内の水分比率には適正範囲があるが、水分供給のみによって確実に適正範囲内に戻すためには、水分供給量を細かく調整可能な水分供給手段を用いる必要がある。しかしながら、上述したように吸引ポンプでは微量の吸引は困難であり、微量ずつ水分を供給するためには、インクジェットヘッドと同様の吐出ヘッドを用いなければならない。このような吐出ヘッドは高価であるため、水分供給のためだけにこのような吐出ヘッドを追加すると、装置コストの増大を招いてしまう。
【0009】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、高価な吐出ヘッドを用いることなく、また、定期的なインク吐出動作を行うよりもインクの消費が少なくて済む方法で、ヘッドキャップ内の水分比率を適正な範囲に調整することが可能な水分比率調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、
非印刷時にインクジェットヘッドのインクノズル面をキャッピングすると共に、メンテナンス時に前記インクジェットヘッドから吐出されるインクを受けるためのヘッドキャップ内の水分比率調整方法であって、
前記ヘッドキャップ内の水分比率が予め設定した目標範囲を下回った場合には、
水を吐出するための水ノズルが形成されている水ヘッドの水ノズル面を前記ヘッドキャップによって密閉して密閉空間を形成し、当該密閉空間内に負圧を形成することにより、前記水ノズルから前記ヘッドキャップ内に水を吸引する水吸引動作を行って前記ヘッドキャップ内に水を供給し、
当該水吸引動作と共に、前記インクジェットヘッドから前記ヘッドキャップ内へのインク吐出動作を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明は、このように、ヘッドキャップの吸引機能を利用して水ヘッドから水を吸引するため、水ヘッドにインクジェットヘッドと同様の吐出機構を設ける必要がなく、水ヘッドを単純で安価な構成にすることができる。また、ヘッドキャップへの水吸引動作と共にインク吐出動作も行うことにより、水吸引動作による水供給量の微調整がきかず、水吸引動作だけではヘッドキャップ内の水分比率が目標範囲を上回ってしまう場合においても、インクの吐出によって上昇しすぎた水分比率を低下させることができる。従って、確実に水分比率を目標範囲内に調整することができる。このように、微調整のきかない水吸引動作とインク吐出動作とを組み合わせて行う方法では、定期的なインク吐出動作を行うことによって水分比率を目標範囲内に維持する方法よりもインクの使用量が少なくて済む。また、水供給用に高価な吐出ヘッドを追加する必要がないため、装置コストの上昇も抑制できる。
【0012】
本発明において、前記水吸引動作を、前記インク吐出動作に先行して行うことが望ましい。ヘッドキャップで密閉空間を形成して水を吸引するとき、ヘッドキャップ内に堆積していた廃インクおよび吸引した水の一部が外部に排出される。従って、水吸引動作よりも先にインクの吐出動作を行うと、吐出したインクの一部までも排出されてしまい、インクの全てを水分調整に有効利用できないことになる。水吸引動作の後にインク吐出動作を行う場合には、新たに吐出したインクを全て水分比率の調整のために有効利用できるため、インクの無駄な消費をさらに抑制できる。
【0013】
また、本発明において、予め、前記水吸引動作に起因する前記ヘッドキャップ内の水分比率の上昇度合いを評価しておき、当該評価結果に基づき、前記ヘッドキャップ内の水分比率が前記目標範囲内となった状態を達成するための前記インク吐出動作におけるインク吐出量を予め設定しておき、前記ヘッドキャップ内の水分比率が前記目標範囲を下回った場合には、前記水吸引動作と共に、前記予め設定したインク吐出量のインクを吐出するインク吐出動作を行うように構成することができる。水吸引動作による水吸引量およびこれに対応する適正なインク吐出量は実験等によって評価できるため、事前に評価を行っておくことにより、インク吐出量を固定値に設定することができる。従って、水分比率を目標範囲内に維持するために複雑な制御を行わずに済む。
【0014】
ここで、前記水吸引動作と共に行う前記インク吐出動作におけるインク吐出量を、インクの種類、および/または、温度条件に基づいて補正することが望ましい。このように、水分比率や水分蒸発に影響する各種のパラメーターを考慮してインク吐出量を調整することにより、より的確に水分比率を調整できる。
【0015】
ここで、前記ヘッドキャップ内の水分比率が前記目標範囲を下回ったことを、前記ヘッドキャップの開放時間、および/または、前記ヘッドキャップの重量変化に基づいて検出することができる。ヘッドキャップ内の水分はヘッドキャップ開放時に蒸発するため、ヘッドキャップ開放時間に基づいてヘッドキャップ内の水分比率を精度良く推定できる。また、ヘッドキャップ重量は水分蒸発によって変化するため、ヘッドキャップの重量変化に基づいてヘッドキャップ内の水分比率を精度良く推定できる。これにより、ヘッドキャップ内の水分比率が目標範囲を下回った場合に速やかに水分調整を行うことができるため、インクノズルの目詰まりを効果的に抑制できる。
【0016】
次に、本発明のインクジェットプリンターは、
インクノズルが形成されているインクノズル面を備えるインクジェットヘッドと、
水を吐出するための水ノズルが形成されている水ノズル面を備える水ヘッドと、
前記インクノズル面および前記水ノズル面の一方を選択的にキャッピング可能に構成されたヘッドキャップと、
前記インクノズル面あるいは前記水ノズル面を前記ヘッドキャップによって密閉した状態で密閉空間内を吸引するための吸引手段と、
前記インクジェットヘッドによるインク吐出動作、前記ヘッドキャップによるキャッピング動作、および、前記吸引手段による吸引動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、上記の水分比率調整方法により、前記ヘッドキャップ内の水分比率を前記目標範囲内に調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ヘッドキャップの吸引機能を利用した微調整のきかない水吸引動作と、インクジェットヘッドによるインク吐出動作とを組み合わせて水分調整を行うことにより、定期的なインク吐出動作を行うことによって水分比率を目標範囲内に維持する方法よりもインクの使用量が少なくて済む。また、水供給用にインクジェットヘッドと同様の高価な吐出ヘッドを追加する必要がないため、装置コストの上昇も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】インクジェットプリンターの要部を示す斜視図である。
【図2】キャップの断面図である。
【図3】水ヘッドの斜視図および断面図である。
【図4】キャップ内の水分比率の適正範囲の説明図である。
【図5】水分比率調整のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したインクジェットプリンターおよびそのキャップ内の水分比率調整方法を説明する。
【0020】
(全体構成)
図1は本実施形態のインクジェットプリンターの要部を示す斜視図であり、プリンターケースを取り除いた状態を示している。インクジェットプリンター1(以下、プリンター1という)は、複数種類のカラーインクを用いてロール紙から繰り出される長尺状の記録紙に印刷を行うものである。プリンター1の後側部分にはロール紙装填部2が設けられており、ここに装填されたロール紙から引き出された記録紙は、インクジェットヘッド3による印刷位置を経由する記録紙搬送経路に沿って、プリンター前方(図1の矢印A方向)に向って搬送される。印刷位置は、ロール紙装填部2の前方に配置されたプラテン4によって規定されている。
【0021】
ロール紙装填部2およびプラテン4の側方にはメンテナンスユニット5が配置されている。インクジェットヘッド3はキャリッジユニット6に搭載されており、キャリッジユニット6の旋回動作(図1の矢印B方向およびその逆方向への旋回動作)に基づき、プラテン4の上方の印刷可能位置C1、および、メンテナンスユニット5の上方の待機位置C2に移動する。インクジェットヘッド3は、インクノズルが形成されているインクノズル面3aを下方に向けた状態で配置されている。
【0022】
一方、プラテン4の下方にはインクカートリッジ装着部7が設けられている。インクカートリッジ装着部7には、例えば、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの4色のインクのそれぞれを貯留するインクカートリッジ7a〜7dが装着される。インクカートリッジ装着部7にインクカートリッジを装着すると、インク供給管(図示省略)を介して、後述するインク供給用のポンプ機構8とインクカートリッジ7a〜7d内のインクタンクとが接続された状態となり、インクジェットヘッド3へのインクの供給が可能となる。
【0023】
メンテナンスユニット5の上端には、メンテナンスユニット5の上面部分に沿って水ヘッドユニット9を移動させるための水ヘッド移動機構10が設けられている。水ヘッド移動機構10は、プリンター前後方向に延びるレール10aを備えている。水ヘッドユニット9は、このレール10aに沿って、メンテナンスユニット5の前端側の水供給位置D1、および、メンテナンスユニット5の後端側の待機位置D2に移動する。水ヘッドユニット9の上部には、上述したインクジェットヘッド3へのインク供給用のポンプ機構8が搭載されている。
【0024】
水ヘッドユニット9の下部には水ヘッド11が設けられている。水ヘッド11は矩形の板状に形成されており、水を吐出するための水ノズル12(図3参照)が形成された水ノズル面11aを下方に向けて配置されている。水ヘッド11への水の供給は、インクカートリッジ装着部7の前方に装着された水カートリッジ13から行われる。
【0025】
(メンテナンスユニット)
メンテナンスユニット5は、上端開口を備える箱型のキャップ14(ヘッドキャップ)と、キャップ14に接続された吸引ポンプ15(吸引手段)を備えている。図2はキャップの断面図である。キャップ14は、上端開口の縁に設けられたブチルゴムなどからなる枠状のリップ14aを備えている。キャップ14の内側にはフェルトなどからなるインク吸収材14bが収納されている。
【0026】
キャップ14は、インクジェットヘッド3が待機位置C2のとき、インクノズル面3aに形成された各インクノズル列と対峙するように配置されている。また、このキャップ14の配置は、水ヘッドユニット9が水供給位置D1のとき、水ノズル面11aに形成された水ノズル12の各配列と対峙する配置となっている。キャップ14は、メンテナンスユニット5内に設けられている昇降機構(図示省略)により、インクノズル面3aあるいは水ノズル面11aをキャッピング可能なキャッピング位置、および、その下側の待避位置に移動する。キャッピング位置では、インクノズル面3aあるいは水ノズル面11aにリップ14aが圧接されることにより、インクノズル面3aあるいは水ノズル面11aとキャップ14との間に密閉空間が形成される。
【0027】
(水ヘッド)
図3(a)は水ヘッド11を斜め上方から見た斜視図であり、図3(b)は水ヘッド11を斜め下方から見た斜視図である。また、図3(c)は、水ヘッド11の断面図(図3(a)のX−X断面図)である。水ヘッド11は矩形の板部20を有している。板部20の内部には、水ノズル12に水を供給するための水路21が形成されている。水路21は、板部20の下面に近い部位において板部20の長手方向に延びる幹線21aと、板部20の上面に近い部位において、板部20の幅方向に延びる複数の支線21bと、支線21bの先端から下方に向って延びる溝21cを備えている。
【0028】
図3(a)に示すように、板部20の上面には、水カートリッジ13からの水供給管(図示省略)が接続される流入管22が形成されており、この流入管22は水路21の幹線21aに連通している。また、図3(b)に示すように、板部20の下面には直方体形状の8つの凸部23が形成されており、この凸部23の下端面は、水ノズル12の配列が形成された水ノズル面11aとなっている。水ノズル12は、溝21cを介して支線21bに連通している。
【0029】
水路21の幹線21aと支線21bの間には、上下方向に延びてこれら幹線21aと支線21bを連通させる弁室24が形成されている。弁室24には弾性体からなるパラソル型の弁体25が配置されている。弁体25は、水カートリッジ13に貯留されている水の水頭圧に抗して水路21を閉鎖している。弁体25よりも水ノズル12の側に所定以上の負圧が発生すると、弁体25が駆動されて水路21が開放状態となるため、水ノズル12から水が吐出される。水カートリッジ13から供給される水は、微量の防腐剤などを含有しており、常温で長期間にわたって入れ替えることなく適正に使用できるように成分調整がなされている。
【0030】
ここで、水ノズル12から水を吐出させる際には、メンテナンスユニット5に設けられたキャップ14により水ヘッド11の水ノズル面11aを覆った状態として、吸引ポンプ15を駆動し、キャップ14と水ノズル面11aの間の密閉空間に負圧を発生させる。すなわち、水カートリッジ13、水路21、およびこれらを接続する水供給管(図示省略)からなる水供給路、弁体25および吸引ポンプ15は、キャップ14内に水を供給するための水供給機構を構成している。
【0031】
(制御系)
プリンター1は、図1に示すように、ホストコンピューターなどからの印刷命令に基づいて記録紙への印刷動作を行う制御部30(制御手段)を備えている。制御部30は、記録紙搬送機構を駆動制御して、ロール紙から繰り出した記録紙を搬送するとともに、この搬送動作に同期してポンプ機構8およびインクジェットヘッド3を駆動制御して、記録紙への印刷を行う。
【0032】
また、制御部30は、上述したキャリッジユニット6を旋回させるための機構、水ヘッド移動機構10、キャップ14の昇降機構などを駆動制御することにより、インクジェットヘッド3の印刷可能位置C1および待機位置C2への位置決め、水ヘッドユニット9の水供給位置D1および待機位置D2への位置決め、キャップ14のキャッピング位置および待避位置への位置決めを行う。
【0033】
制御部30は、インクジェットヘッド3の待機中にはキャップ14によるインクノズル面3aのキャッピング状態を形成し、インクノズルからの水分の蒸発を抑制する。また、インクノズルの目詰まりの抑制あるいは解消のために、所定のタイミングでインクノズル面3aのキャッピング状態を形成してインクジェットヘッド3を駆動制御し、キャップ14内へのインクの吐出動作(フラッシング)を行う。あるいは、インクノズルの目詰まりの抑制あるいは解消のために、所定のタイミングでインクノズル面3aのキャッピング状態を形成して吸引ポンプ15を駆動制御することにより、キャップ14とインクノズル面3aとの間の密閉空間に負圧を形成し、キャップ14内へインクを強制的に吐出させるインク吸引動作を行う。
【0034】
(キャップ内の水分比率調整)
図4は、キャップ14内の水分比率の適正範囲の説明図である。この図に示すように、本実施形態では、キャップ14内の水分比率について、予め設定した下限値E1および上限値E2の間を適正範囲F(目標範囲)として設定している。下限値E1は、キャップ14内の保湿成分がインクノズル内のインクから水分を奪ってしまうことに起因する目詰まりを発生させないための下限値である。また、上限値E2は、インクノズル内のインクがキャップ14側から水分を奪い、インクが薄まることに起因する印刷品質の低下を発生させないための上限値である。
【0035】
本実施形態では、キャップ14がインクノズル面3aあるいは水ノズル面11aをキャッピングしていない開放状態のときは、キャップ内に吐出された廃インクからの水分の蒸発が進行することを考慮して、制御部30によってキャップ14の開放時間を監視し、開放時間に基づいてキャップ14内の水分比率の低下を推定している。そして、キャップ14の開放時間が予め設定した基準開放時間を超えた場合は、キャップ14内の水分比率、すなわち、キャップ14に吐出され堆積している廃インクの水分比率が適正範囲Fを下回ったと判断し、キャップ14内の水分比率を適正範囲F内に戻すための水分比率調整を行う。
【0036】
図5は、水分比率調整のフローチャートである。制御部30は、キャップ14の開放時間が予め設定した基準開放時間を超えた場合、すなわち、図4において符号T1で示した状態になったと推定される場合に、この処理を開始する。まず、ステップS1において、水ヘッド11の水ノズル12からキャップ14内へ水を吐出させるための水吸引動作を行う。具体的には、制御部30は、水ヘッドユニット9の水供給位置D1への位置決め、および、キャップ14のキャッピング位置への位置決めを行うことによってキャップ14と水ノズル面11aの間に密閉空間を形成する。そして、予め決めた設定(強度、時間など)に従って吸引ポンプ15を駆動制御することにより、密閉空間内を負圧状態とする。これにより、水ノズル12からキャップ14内に水が強制的に吐出され、キャップ14内に所定量の水が供給される。
【0037】
続いて、制御部30は、インクジェットヘッド3のインクノズルからキャップ14内へインクを吐出させるためのインク吐出動作を行う。具体的には、制御部30は、キャップ14を一旦待避位置に下げたのち、水ヘッドユニット9を待機位置D2に移動させ、代わりにインクジェットヘッド3を待機位置C2に位置決めする。そして、再びキャップ14のキャッピング位置への位置決めを行うことによってキャップ14とインクノズル面3aの間に密閉空間を形成する。そして、インクジェットヘッド3を予め決めた設定で駆動制御することにより、キャップ14内に所定量のインクを吐出する。
【0038】
ここで、本実施形態では、ステップS1の水吸引動作を予め決めた設定で実施するものとしており、この設定で行った水吸引動作によるキャップ14内のへの水供給量、および、供給された水に起因するキャップ14内の水分上昇の度合いを予め評価している。そして、その結果、適正範囲Fを下回ったあたり(図4において符号T1で示した状態)で水吸引動作を行うと、キャップ14内の水分比率が一旦適正範囲Fを上回る状態(図4において符号T2で示した状態)になるとの評価を得ている。これは、吸引ポンプ15の駆動制御によって水の吸引量を微調整することは難しく、多くの水が吸引されてしまうためである。
【0039】
そこで、水ヘッド11からの水供給によって適正範囲Fを上回った水分比率を再び適正範囲F内に下げるために、ステップS2のインク吐出動作を行っている。ステップS2におけるインク吐出量は、事前の実験等により、水分比率を適正範囲F内に下げるのに必要十分な量を予め評価し、評価結果に従って予め設定しておくことができる。従って、設定量のインクのみを吐出することにより、上がりすぎた水分比率を適正範囲F内に戻した状態(図4において符号T3で示した状態)を達成することができる。
【0040】
以上のように、本実施形態では、キャップ14の吸引機能を利用して水ヘッド11から水を吸引するため、水ヘッド11を単純で安価な構成にすることができる。また、キャップ14への水吸引動作と共にインクジェットヘッド3からのインク吐出動作も行うことにより、水吸引動作による水供給量の微調整がきかず、水吸引動作だけではキャップ14内の水分比率が目標範囲を上回ってしまう場合においても、インクの吐出によって上昇しすぎた水分比率を低下させることができる。従って、確実に水分比率を目標範囲内に調整することができる。また、事前の評価によって必要十分なインク吐出量を決定しているため、複雑な制御も必要としない。このように、微調整のきかない水吸引動作とインク吐出動作とを組み合わせて行う方法では、定期的なインク吐出動作によって水分比率を維持する場合よりもインクの使用量が少なくて済む。また、水供給用に高価な吐出ヘッドを追加する必要がないため、装置コストの上昇も抑制できる。
【0041】
また、本実施形態では、先に水吸引動作を行った後、インク吐出動作を行って上昇し過ぎた水分比率を調整している。この順序を逆にすることもできるが、この場合には、水吸引動作に伴って水分調整のために吐出したインクの一部が排出されてしまうため、吐出したインクの一部が水分調整のために有効利用されないことになる。これに対し、先に水吸引動作を行う場合には、吐出したインクの全てを水分調整のために有効利用することができる。従って、インクの消費量が最も少なくて済む。但し、順序を逆にした場合であっても、定期的なインク吐出動作のみで水分比率の調整を行う場合に比べると、インクの使用量は格段に少なくて済む。
【0042】
(改変例)
(1)キャップ14内の水分比率を、キャップ14の開放時間を監視する以外の手段で判定することもできる。例えば、キャップ14の重量変化(水分蒸発に起因する重量変化)を監視することにより判定することもできる。また、キャップ14の開放時間を監視する場合には、温度条件によって水分蒸発の速度が異なることを考慮して、温度条件に基づく補正を行うことが望ましい。
【0043】
(2)水分調整のためのインク吐出量を、吐出するインクの種類によって補正することが望ましい。例えば、最も使用量が少ない色のインクを水分調整に用いるようにした場合には、インクの種類によって水分含有量が異なるため、インクの種類による吐出量の補正を行うことが望ましい。あるいは、温度条件によってノズル内のインクの状態や水分蒸発の状況が異なることを考慮して、温度条件によるインク吐出量の補正を行っても良い。
【0044】
(3)上記実施形態では、水吸引動作とインク吐出動作をセットで行っているが、例えば、インクジェットヘッド3のキャッピングを行う際に、それまでのキャップ開放時間を評価して水分調整の要否を判定する場合には、キャップ開放時間が長く続いた場合などに、水分比率が適正範囲Fを大きく下回っていることなども考えられる。そこで、このような場合に水吸引動作後の水分比率がどうなるかを予め評価しておき、水分比率が適正範囲F内に収まることが予測される状況では、インク吐出動作を行わず、水吸引動作のみを行うように制御することもできる。また、インク吐出動作を行う場合においても、インク吐出量を固定値とせず、キャップ開放時間等から推定したキャップ14内の水分比率に基づいてその都度決定することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1…インクジェットプリンター(プリンター)、2…ロール紙装填部、3…インクジェットヘッド、3a…インクノズル面、4…プラテン、5…メンテナンスユニット、6…キャリッジユニット、7…インクカートリッジ装着部、7a〜7d…インクカートリッジ、8…ポンプ機構、9…水ヘッドユニット、10…水ヘッド移動機構、10a…レール、11…水ヘッド、11a…水ノズル面、12…水ノズル、13…水カートリッジ、14…キャップ(ヘッドキャップ)、14a…リップ、14b…インク吸収材、15…吸引ポンプ(吸引手段)、20…板部、21…水路、21a…幹線、21b…支線、21c…溝、22…流入管、23…凸部、24…弁室、25…弁体、30…制御部(制御手段)、C1…印刷可能位置、C2…待機位置、D1…水供給位置、D2…待機位置、E1…下限値、E2…上限値、F…適正範囲(目標範囲)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非印刷時にインクジェットヘッドのインクノズル面をキャッピングすると共に、メンテナンス時に前記インクジェットヘッドから吐出されるインクを受けるためのヘッドキャップ内の水分比率調整方法であって、
前記ヘッドキャップ内の水分比率が予め設定した目標範囲を下回った場合には、
水を吐出するための水ノズルが形成されている水ヘッドの水ノズル面を前記ヘッドキャップによって密閉して密閉空間を形成し、当該密閉空間内に負圧を形成することにより、前記水ノズルから前記ヘッドキャップ内に水を吸引する水吸引動作を行って前記ヘッドキャップ内に水を供給し、
当該水吸引動作と共に、前記インクジェットヘッドから前記ヘッドキャップ内へのインク吐出動作を行うことを特徴とするヘッドキャップ内の水分比率調整方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記水吸引動作を、前記インク吐出動作に先行して行うことを特徴とするヘッドキャップ内の水分比率調整方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
予め、前記水吸引動作に起因する前記ヘッドキャップ内の水分比率の上昇度合いを評価しておき、
当該評価結果に基づき、前記ヘッドキャップ内の水分比率が前記目標範囲内となった状態を達成するための前記インク吐出動作におけるインク吐出量を予め設定しておき、
前記ヘッドキャップ内の水分比率が前記目標範囲を下回った場合には、
前記水吸引動作と共に、前記予め設定したインク吐出量のインクを吐出する前記インク吐出動作を行うことを特徴とするヘッドキャップ内の水分比率調整方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項において、
前記水吸引動作と共に行う前記インク吐出動作におけるインク吐出量を、インクの種類、および/または、温度条件に基づいて補正することを特徴とするヘッドキャップ内の水分比率調整方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項において、
前記ヘッドキャップ内の水分比率が前記目標範囲を下回ったことを、前記ヘッドキャップの開放時間、および/または、前記ヘッドキャップの重量変化に基づいて検出することを特徴とするヘッドキャップ内の水分比率調整方法。
【請求項6】
インクノズルが形成されているインクノズル面を備えるインクジェットヘッドと、
水を吐出するための水ノズルが形成されている水ノズル面を備える水ヘッドと、
前記インクノズル面および前記水ノズル面の一方を選択的にキャッピング可能に構成されたヘッドキャップと、
前記インクノズル面あるいは前記水ノズル面を前記ヘッドキャップによって密閉した状態で密閉空間内を吸引するための吸引手段と、
前記インクジェットヘッドによるインク吐出動作、前記ヘッドキャップによるキャッピング動作、および、前記吸引手段による吸引動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、請求項1ないし5のいずれかの項に記載のヘッドキャップ内の水分比率調整方法により、前記ヘッドキャップ内の水分比率を前記目標範囲内に調整することを特徴とするインクジェットプリンター。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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