説明

ヘッドホンユニット

【課題】バラツキの少ない音響抵抗値が決定できる弁構造のもとで、装着する際や取り外す際であってもイヤパッド側とハウジング側との空間領域相互間を等圧化して振動板側に過大な圧力がかからないようにしたヘッドホンユニットの提供。
【解決手段】バッフル板12の内側に配設されて内側空間部Lを形成するイヤパッド17と、バッフル板12の外側に配設されて内部に外側空間部Lを備えるハウジング19と、バッフル板12を介して配設される磁極33およびボイスコイル38付きの振動板37からなる電気音響変換器22とを少なくとも備え、バッフル板12がその周方向に備えて内側空間部Lと外側空間部Lとを連通させる各通気孔14は、バッフル板12の一方の面と他方の面とに略同じ通気量のもとでの開方向への撓み変形を可能に配設した可撓弁材15により閉止させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳介側に装着する際や耳介側から取り外す際に電気音響変換器を間に挟んだイヤパッド側の空間領域とハウジング側の空間領域との間に圧力差が生じないようにする圧力調整機能を具備させたヘッドホンユニットに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホンは、通常、使用者の耳介を覆うイヤパッド側がバッフル板の内側に、ハウジング側がバッフル板の外側にそれぞれ配設され、かつ、それぞれに必要な電気音響変換器を内蔵させた左右一対のヘッドホンユニットを備えている。特に密閉性のヘッドホンユニットについては、遮音性を高めるために耳介側に対する密着性をより高めるようにして形成されている。
【0003】
ところで、この種のヘッドホンにおける各ヘッドホンユニットは、耳介側に装着したり耳介側から取り外したりする際に、耳介側を覆うイヤパッドによる確保される内側空間部とハウジングにより確保される外側空間部との間に圧力差が生じる。
【0004】
特に、ダイナミックヘッドホンにおける各ヘッドホンユニットは、振動板に取り付けられたボイスコイルが磁極の中に入って動作することから、振動板に過大な振幅が発生すると磁極側に衝突して破損したり、ボイスコイルが磁極から飛び出して元の位置に戻らなくなって故障したりすることがある。
【0005】
このような振動板に発生する過大な振幅は、既に述べたように主にヘッドホンユニットの装脱操作時に発生する内側空間部と外側空間部との間に生じる圧力差により引き起こされることが多い。
【0006】
図3は、従来からあるヘッドホユニットにみられた上記不都合を解消すべく本願出願人が出願した特許文献1に、第2実施例としてその図4に示されているヘッドホンユニットの再掲図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−218686号公報
【0008】
図3によれば、ヘッドホンユニット51は、中央部に開口部53を有するドーナツ状のバッフル板52と、該バッフル板52の内側に配設されて使用者の一方の耳介側を覆った際に内側空間部Lを形成するイヤパッド54と、バッフル板52の外側に配設されてその内部に外側空間部Lを備えるハウジング55と、バッフル板52の開口部53を介して配設される電気音響変換器56とを備えて形成されている。
【0009】
この場合、電気音響変換器56は、中央部にバッフル板52の開口部53よりも小径な開口部58を有してバッフル板52の開口部53の開口縁部53aに支持されるベースフレーム57と、該ベースフレーム57の開口部58に嵌合配置される断面コ字形を呈するヨーク60と、該ヨーク60の内側に配置されるマグネット61およびポールピース62と、これらヨーク60とマグネット61とポールピース62とからなる磁極59に形成されている空隙内に配置されるボイスコイル64をその外側に備えてベースフレーム57の内側にその周縁部63aが固定される振動板63とで構成されている。なお、ベースフレーム57は、適宜の音響抵抗材65でその外側面が塞がれた音通孔57aを備えている。
【0010】
また、バッフル板52は、その周方向での複数箇所に通気孔52aが形成されている。そして、これらの各通気孔52aには、バッフル板52の一方の面側と他方の面側とに交互に配置され、かつ、バッフル板52に対するそれぞれの固着部位にスペーサ66を介在させて取り付けられた可撓弁材67が各別に対面配置されている。
【0011】
つまり、内側空間部Lと側と外側空間部L側との空気圧が図3に示すようにL=Lであるヘッドホンユニット1の不使用時には、各可撓弁材67もバッフル板52との間にスペーサ66の厚さ分である隙間Sを介在させた状態のもとで対応する各通気孔52aに対面させることができる結果、各通気孔52aを介して内側空間部Lと外側空間部Lとを連通させておくことができることになる。
【0012】
したがって、内側空間部L側と外側空間部L側との空気圧がL >Lであれば、バッフル板52の内側に配置されている可撓弁材67が開方向に撓み、外側に位置する可撓弁材67が閉方向に撓んで圧力差を解消させ、L <Lであれば、逆にバッフル板52の内側に位置する可撓弁材67が閉方向に撓み、外側に位置する可撓弁材67が開方向に撓んで圧力差を解消させることができることになる。
【0013】
このため、図3に示すヘッドホンユニット1によれば、装着時やその取り外し時に内側空間部L側と外側空間部L側との間に生じる空気圧差は、バッフル板52の両面に配置されている各可撓弁材67を開閉させて解消させることができるので、振動板63が磁極59側に衝突して破損したり、ボイスコイル64が磁極59から飛び出して元の位置に戻らなくなって故障したりするという不具合の発生を防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、図3に示すヘッドホンユニット1による場合には、可撓弁材67がスペーサ66を介して取り付けられていることから、通気孔52aに対し閉じ方向に撓んだ際であっても若干の隙間ができてしまい可撓弁材67が通気孔52aを完全に閉止するには至らない。
【0015】
このため、通気孔52aに関わる音響抵抗は、可撓弁材67との関係のみを考慮して一律に決定することができず、可撓弁材67による通気孔52aの不完全な閉止状態をも加味して決定しなければならなくなる結果、それだけ判断要素が増えて音響抵抗値にバラツキが生じてしまうという不都合があった。
【0016】
また、図3に示すヘッドホンユニット1は、スペーサ66を介在させた状態で可撓弁材67をバッフル板52側に固定する必要があるので、スペーサ66の分だけ部材点数が増えるほか、そのための取り付け作業も繁雑化して製品コストを押し上げる一因になるという不具合もあった。
【0017】
本発明は、特許文献1を含む従来技術の上記課題に鑑み、バラツキの少ない音響抵抗値が決定できる弁構造のもとで、装着する際や取り外す際であってもイヤパッド側の空間領域とハウジング側の空間領域との空気圧を等圧化して振動板側に過大な圧力がかからないようにしたヘッドホンユニットを提供することに目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成すべくなされたものであり、開口部を有するバッフル板と、該バッフル板の内側に配設されて装着使用者の一方の耳介側を覆った際に内側空間部を形成するイヤパッドと、バッフル板の外側に配設されてその内部に外側空間部を備えるハウジングと、バッフル板の前記開口部を介して配設される電気音響変換器とを少なくとも備えるヘッドホンユニットにおいて、前記音響変換器は、開口部を有してバッフル板の前記開口部に支持されるベースフレームと、該ベースフレームに前記開口部を介して配置される磁極と、該磁極が備える空隙内に配置されるボイスコイルを備えて前記ベースフレームの内側に配設される振動板とで構成され、前記バッフル板がその周方向に備えて前記内側空間部と前記外側空間部とを連通させる各通気孔は、該バッフル板の一方の面と他方の面とに略同じ通気量のもとでの開方向への撓み変形を可能に配設された可撓弁材により閉止させたことことを最も主要な特徴とする。
【0019】
この場合、前記可撓弁材は、弾性音響抵抗材として機能する不織布を用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のうち、請求項1に係る発明によれば、装着する際やこれを取り外す際であっても、バッフル板の一方の面と他方の面とに略同じ通気量のもとでの開方向への撓み変形を可能に配設されている各可撓弁材を開閉させて内側空間部側と外側空間部側との間に生じる空気圧の差を瞬時に解消させることができるので、振動板が磁極側に衝突して破損したり、ボイスコイルが磁極から飛び出して元の位置に戻らなくなって故障したりするという不具合の発生を確実に防止することができる。
【0021】
また、可撓弁材が通気性のない可撓性フィルム材で形成されている場合には、内側空間部側と外側空間部側との圧力差が解消された後にバッフル板の通気孔を可撓弁材で密に閉止するできるので、該閉止部位の音響抵抗を考慮することなく設計どおりの音響抵抗と音響特性とを得ることができる。
【0022】
さらに、可撓弁材は、従来例のようなスペーサを介在させることなくバッフル板に固定できるので、その分だけ部材点数を少なくして取り付け作業の簡素化と低廉化とに寄与させることができる。
【0023】
請求項2に係る発明によれば、バッフル板の通気孔を塞ぐ可撓弁材が弾性音響抵抗材として機能する不織布により形成されているので、通気孔の口径と不織布の単位面積当たりの音響抵抗値のみで音響抵抗が定まるので、より安定した音響抵抗を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一例についての断面構造を示す説明図。
【図2】図1の例についての弁作用状態を(A)〜(C)と場合分けして示す説明図。
【図3】従来例についての断面構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一例についての断面構造を示す図1によれば、ヘッドホンユニット11は、中央部に開口部13を有するドーナツ状のバッフル板12と、該バッフル板12の内側に配設されて使用者の一方の耳介側を覆った際に内側空間部Lを形成するイヤパッド17と、バッフル板12の外側に配設されてその内部に外側空間部Lを備えるハウジング19と、バッフル板12の開口部13を介して配設される電気音響変換器22とを備えて形成されている。
【0026】
この場合、電気音響変換器22は、中央部にバッフル板12の開口部13よりも小径な開口部24を有してバッフル板12の開口部13の開口縁部13aに支持されるベースフレーム23と、該ベースフレーム23の開口部24に嵌合配置される断面コ字形を呈するヨーク34と、該ヨーク34の内側に配置されるマグネット35およびポールピース36と、これらヨーク34とマグネット35とポールピース36とからなる磁極33に設けられている空隙内に配置されるボイスコイル37をその外側に備えてベースフレーム23の内側にその周縁部37aが固定される振動板37とで構成されている。
【0027】
また、ベースフレーム23は、周方向での複数箇所に適宜口径の音通孔25を備えており、これらの各音通孔25は、音響抵抗材26により外側から塞がれている。
【0028】
一方、内側空間部Lと外側空間部Lとを仕切るようにして配置されるバッフル板12は、その周方向での複数箇所に穿設された通気孔14を備えており、これらの通気孔14を介して内側空間部Lと外側空間部Lとが連通している。
【0029】
また、バッフル板12に設けられた各通気孔14には、バッフル板12の一方の面である内側面12a側と他方の面である該側面12b側とに交互に位置する配置関係のもとで、可撓弁材15が対応する通気孔14の開口面14aを密に覆うことができるように接着剤16を用いて部分的に接合固着されている。
【0030】
この場合、可撓弁材15は、バッフル板12の通気孔14を完全に覆うことができ、かつ、接着剤16による接合固着位置を支点として開方向に撓むことができるものでさえあれば、円形、方形等を含むその具体的な面形状は特に問わない。
【0031】
また、可撓弁材15としては、通気性のない可撓性フィルム材を用いたり、バネ性のある音響抵抗材料である不織布、例えばバイリーン社の「JH−1004」等の不織布を用いることができる。
【0032】
次に、上記構成からなる本発明の作用を図2(a)〜(c)を参酌して説明すれば、ヘッドホンユニット11は、その不使用時や装着を終えた後の状態にあっては、図2(a)に示すように内側空間部L内と外側空間部L内との空気圧がL=Lとなり、各可撓弁材15もバッフル板52の各通気孔14の開口面14aの全体を塞ぐようにして密に接触させておくことができる。
【0033】
このため、ヘッドホンユニット11におけるバッフル板52の各通気孔14に依拠する音響抵抗は、通気孔14の口径と可撓弁材15の単位面積当たりの音響抵抗値のみに基づいて画一的に決定することができるので、バラツキの少ない安定した状態のもとで設計することができる。
【0034】
また、耳介側に装着する際のヘッドホンユニット11は、内側空間部L側が外側空間部L側よりもその内部圧力が高まってL >Lとなるので、図2(b)に示すように、バッフル板52の外側面12b側に配置されている可撓弁材15が開方向に撓み、バッフル板52の内側面12a側に配置されている可撓弁材15が通気孔14に押し当たるようにして塞ぐ結果、L=Lとなるように圧力調整して圧力差を解消させることができる。
【0035】
一方、耳介側に装着していたヘッドホンユニット11を取り外す際には、イヤパッド17が耳介側から引き離されて内側空間部L側が外側空間部L側よりも内部圧力が低くなってL <Lとなるので、図2(c)に示すように、バッフル板52の外側面12b側に配置されている可撓弁材15が開方向に撓み、バッフル板52の内側面12a側に配置されている可撓弁材15が通気孔14に押し当たるようにして塞ぐ状態のもとでL=Lとなるように圧力調整して圧力差を解消させることができる。
【0036】
したがって、本発明によれば、装着する際やこれを取り外す際であっても、バッフル板12の内側面12aと外側面12bとに配置されている各可撓弁材15を、図2(b)や図2(c)に示すように開閉させて内側空間部L側と外側空間部L側との間に生じる空気圧の差を瞬時に解消させることができるので、振動板37が磁極33側に衝突して破損したり、ボイスコイル38が磁極33から飛び出して元の位置に戻らなくなって故障したりするという不具合の発生を確実に防止することができる。
【0037】
また、可撓弁材15が通気性のない可撓性フィルム材で形成されている場合には、内側空間部L側と外側空間部L側との圧力差が解消された後にバッフル板12の通気孔14を可撓弁材15で密に閉止するできるので、該閉止部位の音響抵抗を考慮することなく設計どおりの音響抵抗と音響特性とを得ることができる。
【0038】
さらに、可撓弁材15は、図3に従来例として示すスペーサを介在させることなくバッフル板12に固定できるので、その分だけ部材点数を少なくして取り付け作業の簡素化と低廉化とに寄与させることができる。
【0039】
また、バッフル板12の通気孔14を塞ぐ可撓弁材15が弾性音響抵抗材として機能する不織布により形成されている場合には、通気孔14の口径と不織布の単位面積当たりの音響抵抗値のみで音響抵抗が定まるので、該閉止部位の音響抵抗値をバラツキのない安定したものとすることで、音響特性や音質をより安定化することができる。
【0040】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その具体的な構成はこれに限定されるものではない。例えば、可撓弁材15は、バッフル板12の内側面12aと他側面12bとに交互に位置する配置関係のもとで、それぞれが開方向への撓み変形を可能に配設された例が示されているが、L >LとL <Lとのいずれの場合においても略同じ通気量のもとでの開方向への撓み変形を可能に配設されてさえいれば、交互とすることなく配設するものであってもよい。
【符号の説明】
【0041】
11 ヘッドホンユニと
12 バッフル板
12a 内側面
12b 外側面
13 開口部
13a 開口縁部
14 通気孔
14a 開口面
17 イヤパッド
15 可撓弁材
16 接着剤
19 ハウジング
22 電気音響変換器
23 ベースフレーム
24 開口部
25 音通孔
26 音響抵抗材
33 磁極
34 ヨーク
35 マグネット
36 ポールピース
37 振動板
37a 周縁部
38 ボイスコイル
内側空間部
外側空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するバッフル板と、該バッフル板の内側に配設されて装着使用者の一方の耳介側を覆った際に内側空間部を形成するイヤパッドと、バッフル板の外側に配設されてその内部に外側空間部を備えるハウジングと、バッフル板の前記開口部を介して配設される電気音響変換器とを少なくとも備えるヘッドホンユニットにおいて、
前記音響変換器は、開口部を有してバッフル板の前記開口部に支持されるベースフレームと、該ベースフレームに前記開口部を介して配置される磁極と、該磁極が備える空隙内に配置されるボイスコイルを備えて前記ベースフレームの内側に配設される振動板とで構成され、
前記バッフル板がその周方向に備えて前記内側空間部と前記外側空間部とを連通させる各通気孔は、該バッフル板の一方の面と他方の面とに略同じ通気量のもとでの開方向への撓み変形を可能に配設された可撓弁材により閉止させたことを特徴とするヘッドホンユニット。
【請求項2】
前記可撓弁材は、弾性音響抵抗材として機能する不織布である請求項1に記載のヘッドホンユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−155331(P2011−155331A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13832(P2010−13832)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】