説明

ヘッドホン装置

【課題】ノイズキャンセリング処理の精度を向上させる。
【解決手段】第1、第2のハウジングと連結されたヘッドバンドと、第1、第2のハウジング内に収納された第1、第2のヘッドホンユニットと、第1、第2のヘッドホンユニットの近傍に設置された第1、第2のマイクロホンとを備える。第1のハウジング内に収納され、外部からの入力オーディオ信号およびマイクロホン信号を処理してノイズキャンセル処理後の第1、第2のオーディオ信号を生成する信号処理部を備える。第2のマイクロホンのマイクロホン信号が低出力インピーダンスのバッファ回路に供給され、バッファ回路の出力信号がヘッドバンドに配置された第1のケーブルを通じて信号処理部に供給される。第2のハウジング内に収納された第2のヘッドホンユニットに対して、信号処理部から第2のケーブルを通じて第2のオーディオ信号が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ノイズキャンセリングヘッドホンに適用されるヘッドホン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノイズが存在する環境において、ノイズが充分に低くされたオーディオ信号を再生するノイズキャンセリングヘッドホンが知られている。ノイズキャンセリング処理は、各チャンネル毎になされる。従来のノイズキャンセリングヘッドホン装置では、左右のチャンネルのそれぞれのハウジング内にノイズキャンセリング処理回路を収納していた。
【0003】
さらに、最近では、特許文献1に記載されているように、ノイズキャンセリング機能をデジタル化したデジタルノイズキャンセリングが実用化されている。デジタルノイズキャンセリングは、ヘッドホンに内蔵されたマイクロホンで検出したノイズをデジタル化し、信号処理を施すことによって、ノイズを打ち消す効果のある逆位相の音を発生させて、ノイズを低減する方式である。アナログノイズキャンセリング方式と比較して、デジタルノイズキャンセリングソフトウェアによって高精度のノイズキャンセリング用の信号の生成が可能となる。
【0004】
通常、デジタルノイズキャンセリング処理部は、DSP(Digital Signal Processor)を使用し、IC(Integrated Circuit)化された構成を有する。DSPの処理能力、処理速度によって、2チャンネルのノイズキャンセリング処理を行うことが可能である。この場合には、デジタルノイズキャンセリング処理部を左右のチャンネル間で共通とし、デジタルノイズキャンセリング処理部を一方のチャンネル例えばL(左)チャンネルのハウジング内に収納する。
【0005】
ノイズキャンセリング処理部と他のR(右)チャンネルとの間では、Rチャンネルのヘッドホンユニットの近傍に設けられたマイクロホンからの信号(マイクロホン信号と適宜的称する)がヘッドバンドに沿って配されたケーブルを介してノイズキャンセリング処理部に供給される。ノイズキャンセリング処理部によって形成されたノイズキャンセリング後のRチャンネルのオーディオ信号がヘッドバンドに沿って配されたケーブルを介してヘッドホンユニットに供給される。
【0006】
従来のオーバーヘッド型(ヘッドバンド型とも称される)ヘッドホン装置においては、Rチャンネルのマイクロホン信号をLチャンネルに伝送する場合、シールド線を使用するのが普通であった。シールド線は、内部導線(1本または複数本の被覆付き導線)の周囲を外部導線(細い導線または金属箔)でくるんだ構造のケーブルのことである。外部導線がグラウンド電位とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−122729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
外部導線によってノイズが内部導線に入り込むことが防止され、また、内部導線からのノイズの輻射も減少させることができる。しかしながら、シールド線は、外部導線を有しないケーブルと比較して耐久性が弱い問題があった。したがって、ヘッドホン装置を折りたたみ可能な構成とするために、ヘッドバンドと左右のハウジングとの連結部を折り曲げ自在とした場合には、折り曲げ操作を繰り返した場合に、シールド線が断線するおそれがあった。シールド線に代えて外を導線を有しないケーブルを使用すると、マイクロホンで検出したノイズ成分に対してノイズが重畳されてしまい、ノイズキャンセリング処理の精度が低下する問題が生じる。
【0009】
したがって、本開示は、マイクロホンの検出した信号にノイズが重畳されることを防止して、高精度のノイズキャンセリング処理を多能とするヘッドホン装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本開示は、第1および第2のハウジングと、
第1および第2のハウジングと連結されたヘッドバンドと、
第1および第2のハウジング内に収納された第1および第2のヘッドホンユニットと、
第1および第2のヘッドホンユニットの近傍に設置された第1および第2のマイクロホンと、
第1のハウジング内に収納され、外部からの入力オーディオ信号および第1および第2のマイクロホンによって検出されたマイクロホン信号を処理して第1および第2のヘッドホンユニットに供給されるノイズキャンセル処理後の第1および第2のオーディオ信号を生成する信号処理部とを備え、
第2のハウジング内に収納された第2のマイクロホンのマイクロホン信号が低出力インピーダンスのバッファ回路に供給され、バッファ回路の出力信号がヘッドバンドに配置された第1のケーブルを通じて信号処理部に供給され、
第2のハウジング内に収納された第2のヘッドホンユニットに対して、信号処理部からヘッドバンドに配置された第2のケーブルを通じて第2のオーディオ信号が供給されるヘッドホン装置である。
好ましくは、第1のケーブルは、導線の周りに外部導体を持たないケーブルである。
【発明の効果】
【0011】
本開示では、マイクロホン信号をヘッドバンドに配置された第1のケーブルを介して伝送する場合に、低出力インピーダンスのバッファ回路を介してマイクロホン信号を送り出す。したがって、マイクロホン信号に対してノイズが重畳することを防止することができ、高精度のノイズキャンセリング処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本開示に適用できるフィードバック方式のノイズキャンセリングヘッドホンの一例を示すブロック図である。
【図2】本開示に適用できるフィードフォワード方式のノイズキャンセリングヘッドホンの一例を示すブロック図である。
【図3】本開示によるヘッドホンの外観を示す正面図である。
【図4】本開示によるヘッドホンをヘッドホンケースに収納する場合の説明に使用する略線図である。
【図5】従来のノイズキャンセリングヘッドホンの接続関係を示すブロック図である。
【図6】本開示によるノイズキャンセリングヘッドホンの接続関係を示すブロック図である。
【図7】本開示によるノイズキャンセリングヘッドホンのより具体的な接続関係を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する実施の形態は、この発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、この発明の範囲は、以下の説明において、特にこの発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施の形態に限定されないものとする。
【0014】
「本開示に使用できるノイズキャンセリング装置」
本開示に使用できるノイズキャンセリングシステムの一例を説明する。ノイズキャンセリングシステムには、フィードバック方式とフィードフォワード方式とがある。
【0015】
「フィードバック方式のノイズキャンセリングシステム」
まず、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムについて説明する。図1は、このフィードバック方式のノイズキャンセリング機能を搭載したヘッドホン装置の構成例を示すブロック図である。
【0016】
図1においては、説明の簡単のため、ヘッドホン装置のリスナ(聴取者)1の右耳側の部分のみについての構成を示している。これは、後述するフィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムを説明する場合も同様である。
【0017】
図1では、リスナ1がヘッドホン装置を装着したことにより、リスナ1の右耳が右耳用ハウジング2により覆われている状態を示している。ハウジング2の内側には、電気信号であるオーディオ信号を音響再生するヘッドホンドユニット(ドライバーユニットとも称される)3が設けられている。
【0018】
入力端子4からの入力オーディオ信号、例えば音楽信号がイコライザ回路5および加算回路6を通じてパワーアンプ7に供給され、このパワーアンプ7の出力音楽信号がヘッドホンユニット3に供給されて再生される。これにより、リスナ1の右耳に対して音楽信号の再生音が放音される。
【0019】
オーディオ信号入力端子4は、携帯型音楽再生装置のヘッドホンジャックに差し込まれるヘッドホンプラグから構成されるものである。このノイズキャンセリングシステムにおいては、オーディオ信号入力端子4と、左右の耳用のヘッドホンユニット3との間のオーディオ信号伝送路中には、イコライザ回路5、加算回路6、パワーアンプ7の他、ノイズキャンセリング処理部10が設けられる。
【0020】
このノイズキャンセリング処理部10は、マイクロホン11、マイクロホンアンプ12、ノイズ低減用のフィルタ回路13などを備える。図示しないが、ノイズキャンセリング処理部10と、ヘッドホンユニット3、マイクロホン11、また、オーディオ信号入力端子4を構成するヘッドホンプラグとの間は、接続ケーブルで接続されている。10a,10b,10cは、ヘッドホン装置に対してケーブルが接続される接続端子部である。
【0021】
この図1に示すノイズキャンセリングシステムでは、リスナ1の音楽聴取環境において、ハウジング2の外のノイズ源8から、ハウジング2内のリスナ1の音楽聴取位置に入り込むノイズをフィードバック方式で低減する。これにより、リスナ1は、音楽を良好な環境で聴取することができるようにされる。
【0022】
フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおいては、リスナ1の音楽聴取位置であるところの、ノイズとノイズキャンセル用オーディオ信号の音響再生音とを合成する音響合成位置でのノイズをマイクロホン11で収音するものである。
【0023】
したがって、このフィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおいては、ノイズ収音用のマイクロホン11は、ハウジング(ハウジング部)2の内側となるノイズキャンセルポイントPcに設けられる。このマイクロホン11の位置の音が制御点となるため、ノイズ減衰効果を考慮し、ノイズキャンセルポイントPcは、通常耳に近い位置、つまりヘッドホンユニット3の振動板前面とされ、この位置に、マイクロホン11が設けられる。
【0024】
ノイズキャンセリングシステムにおいては、そのマイクロホン11で収音したノイズの逆相成分を、ノイズキャンセル用オーディオ信号生成部(以下、ノイズキャンセリング用オーディオ信号生成部という)で、ノイズキャンセル用オーディオ信号(以下、ノイズキャンセリング用オーディオ信号)として生成する。そして、その生成したノイズキャンセリング用オーディオ信号をヘッドホンユニット3に供給して音響再生することで、外部からハウジング2内に入ってきたノイズを低減させる。
【0025】
ここで、ノイズ源8におけるノイズと、ハウジング2内に入り込んだノイズ8´とは同じ特性ではない。しかし、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムにおいては、ハウジング2内に入り込んだノイズ8´、すなわち、キャンセル対象のノイズ8´を、マイクロホン11で収音することになる。
【0026】
したがって、フィードバック方式では、ノイズキャンセリング用オーディオ信号生成部は、マイクロホン11によりノイズキャンセルポイントPcで収音したノイズ8´をキャンセルするように、ノイズ8´の逆相成分を生成すればよい。
【0027】
フィードバック方式のノイズキャンセリング用オーディオ信号生成部として、デジタルフィルタ回路13を用いる。デジタルフィルタ回路13は、DSP(Digital Signal Processor)15と、その前段に設けられるA/D変換回路14と、その後段に設けられるD/A変換回路16とで構成される。
【0028】
マイクロホン11で収音された得られたアナログオーディオ信号は、マイクアンプ12を通じてデジタルフィルタ回路13に供給され、A/D変換回路14によりデジタルオーディオ信号に変換される。そして、そのデジタルオーディオ信号がDSP15に供給される。
【0029】
DSP15には、フィードバック方式のデジタルノイズキャンセリング用オーディオ信号を生成するためのデジタルフィルタが構成される。このデジタルフィルタは、これに入力されるデジタルオーディオ信号から、これに設定されるパラメータとしてのフィルタ係数に応じた特性の前記デジタルノイズキャンセリング用オーディオ信号を生成する。DSP15のデジタルフィルタに設定されるフィルタ係数は、予め、所定のフィルタ係数が設定されるようにされる。
【0030】
実際的な複数種の再生音響環境に応じたフィルタ係数をメモリに記憶しておき、ユーザが、そのときの再生音響環境に応じてメモリから選択して、デジタルフィルタに設定するようにしてもよい。例えば航空機内の騒音をキャンセルするためのフィルタ係数、電車やバス車内の騒音をキャンセルするためのフィルタ係数、オフィス、勉強部屋などのOA機器や空調機器の騒音キャンセルするためのフィルタ係数等を選択的に設定可能としても良い。
【0031】
DSP15で生成されたデジタルノイズキャンセリング用オーディオ信号は、D/A変換回路16においてアナログノイズキャンセリング用オーディオ信号に変換される。そして、このアナログノイズキャンセリング用オーディオ信号が、デジタルフィルタ回路13の出力信号として加算回路6に供給される。この加算回路6には、入力オーディオ信号(音楽信号など)が入力端子4およびイコライザ回路5を通じて供給される。イコライザ回路5は、入力オーディオ信号の音特補正を行なう。
【0032】
加算回路6の加算結果のオーディオ信号は、パワーアンプ7を通じてヘッドホンユニット3に供給されて、音響再生される。この音響再生されてヘッドホンユニット3により放音される音声には、デジタルフィルタ13において生成されたノイズキャンセリング用オーディオ信号による音響再生成分が含まれる。このヘッドホンユニット3で音響再生された放音された音声のうちの、ノイズキャンセリング用オーディオ信号による音響再生成分とノイズ8´とが、音響合成されることにより、ノイズキャンセルポイントPcでは、ノイズ8´が低減(キャンセル)される。
【0033】
なお、図1の構成において、イコライザ回路5および加算回路6の処理をデジタル信号処理で行うようにしても良い。例えばDSP15がこれらの処理を行うことができる。好ましくは、他方のチャンネルのノイズキャンセリング処理も、ノイズキャンセリング処理部10が行うようになされる。ノイズキャンセリング処理部10を左右のチャンネルで共用することによって、軽量化、コストの低減が可能となる。
【0034】
「フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステム」
図2は、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムを説明するためのブロック図である。図2において、図1における場合と同様の部分については、同一参照符号を付してある。この図2の例におけるノイズキャンセリング処理部20は、マイクロホン21、マイクアンプ22、ノイズ低減用のデジタルフィルタ回路23を備える構成とされている。
【0035】
ノイズキャンセリング処理部20は、前述したフィードバック方式のノイズキャンセリング処理部10と同様に、ヘッドホンユニット3、マイクロホン21、オーディオ信号入力端子4を構成するヘッドホンプラグと接続ケーブルで接続されている。20a,20b,20cは、ノイズキャンセリング処理部23に対して接続ケーブルが接続される接続端子部である。
【0036】
図2の例では、リスナ1の音楽聴取環境において、ハウジング2の外のノイズ源8から、ハウジング2内のリスナ1の音楽聴取位置に入り込むノイズをフィードフォワード方式で低減して、音楽を良好な環境で聴取することができるようにする。
【0037】
フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムは、基本的には、図2に示すように、ハウジング2の外部にマイクロホン21が設置されている。そして、このノイズキャンセリングシステムでは、このマイクロホン21で、収音したノイズ8に対して適切なフィルタリング処理をしてノイズキャンセル用オーディオ信号を生成する。そして、この生成したノイズキャンセル用オーディオ信号を、ハウジング2の内部のヘッドホンユニット3にて音響再生し、リスナ1の耳に近いところで、ノイズ(ノイズ8´)をキャンセルするようにする。
【0038】
マイクロホン21で収音されるノイズ8と、ハウジング2内のノイズ8´とは、両者の空間的位置の違い(ハウジング2の外と内の違いを含む)に応じた異なる特性となる。したがって、フィードフォワード方式では、マイクロホン21で収音したノイズ源8からのノイズと、ノイズキャンセルポイントPcにおけるノイズ8´との空間伝達関数の違いを見込んで、ノイズキャンセリング用オーディオ信号を生成するようにする。
【0039】
フィードフォワード方式のノイズキャンセリング用オーディオ信号生成部として、デジタルフィルタ回路23を用いる。デジタルフィルタ回路23は、デジタルフィルタ回路13と同様に、DSP(Digital Signal Processor)25と、その前段に設けられるA/D変換回路24と、その後段に設けられるD/A変換回路26とで構成される。
【0040】
マイクロホン21で収音された得られたアナログオーディオ信号は、マイクアンプ22を通じてデジタルフィルタ回路23に供給され、A/D変換回路24によりデジタルオーディオ信号に変換される。そして、そのデジタルオーディオ信号がDSP25に供給される。
【0041】
DSP25には、フィードフォワード方式のデジタルノイズキャンセリング用オーディオ信号を生成するためのデジタルフィルタが構成される。このデジタルフィルタは、これに入力されるデジタルオーディオ信号から、これに設定されるパラメータとしてのフィルタ係数に応じた特性の前記デジタルノイズキャンセリング用オーディオ信号を生成する。DSP25のデジタルフィルタに設定されるフィルタ係数は、前述のDSP15の場合と同様にして設定される。DSP25のデジタルフィルタでは、設定されたフィルタ係数に応じたデジタルノイズキャンセル用オーディオ信号を生成する。
【0042】
DSP25で生成されたデジタルノイズキャンセル用オーディオ信号は、D/A変換回路26においてアナログノイズキャンセリング用オーディオ信号に変換される。そして、このアナログノイズキャンセリング用オーディオ信号が、デジタルフィルタ回路23の出力信号として加算回路6に供給される。
【0043】
この加算回路6には、ヘッドホンによりリスナ1が聴取したいとされる入力オーディオ信号(音楽信号など)が入力端子4およびイコライザ回路5を通じて供給される。イコライザ回路5は、入力オーディオ信号の音特補正を行なう。
【0044】
加算回路6の加算結果のオーディオ信号は、パワーアンプ7を通じてヘッドホンユニット3に供給されて、再生される。この再生されてヘッドホンユニット3により放音される音声には、デジタルフィルタ23において生成されたノイズキャンセリング用オーディオ信号による音響再生成分が含まれる。このヘッドホンユニット3で音響再生された放音された音声のうちの、ノイズキャンセリング用オーディオ信号による音響再生成分とノイズ8´とが、音響合成されることにより、ノイズキャンセルポイントPcでは、ノイズ8´が低減(キャンセル)される。
【0045】
デジタルフィルタ回路23の構成は、デジタルフィルタ回路13と同様であるが、DSP15、DSP25で構成されるデジタルフィルタに供給するフィルタ係数が、フィードバック方式のものであるか、フィードフォワード方式のものであるかの点が異なっている。
【0046】
なお、図2の構成において、イコライザ回路5および加算回路6の処理をデジタル信号処理で行うようにしても良い。例えばDSP25がこれらの処理を行うことができる。好ましくは、他方のチャンネルのノイズキャンセリング処理も、ノイズキャンセリング処理部20が行うようになされる。ノイズキャンセリング処理部20を左右のチャンネルで共用することによって、軽量化、コストの低減が可能となる。
【0047】
「ヘッドホン装置の外観」
図3は、ノイズキャンセリングヘッドフォンの外観を示す正面図である。図3に示すように、ノイズキャンセリングヘッドフォン41は、ヘッドバンド43、2つのスライダ45L,45R、2つのハンガ47L,47R、2つのハウジング2L,2R、2つのイヤパッド55L,55Rから構成される。イヤパッド55L,55Rは、ウレタンなどの柔軟性を有する素材とそれを被覆する合成皮革などにより高い気密性および柔軟性を有するように構成されている。イヤパッド55L,55Rの略中央の開口部を覆うようにネットが設けられている。
【0048】
ヘッドバンド43はユーザの頭部に沿うように湾曲状に形成されており、ヘッドホン装着状態においてユーザの頭頂部に接することによりヘッドホン41全体を支持するものである。ヘッドバンド43はプラスチックなどの合成樹脂、金属などを用いて構成されており、所定の剛性および弾性を有することにより可撓性を備えている。これにより、装着時にはハウジング2L,2Rおよびイヤパッド55L、55Rをユーザの側頭部方向に押圧してヘッドホン1の装着状態を維持することができる。
【0049】
スライダ45L,45Rは、ヘッドバンド43の両端に設けられている。そして、スライダ45L,45Rには、ハンガ47L,47Rが設けられている。スライダ45L,45Rは、ヘッドバンド43内部において摺動可能に構成されている。スライダ45L,45Rが摺動することにより、ハンガ47L,47Rをヘッドバンド43に対して下方または上方に移動させることができる。
【0050】
ヘッドホン41の装着時には、ユーザの頭部の大きさや耳と頭頂部との距離などに合わせてスライダ45L,45Rの伸縮度合いを調整することにより、ハウジング2L,2Rおよびイヤパッド55L、55Rをユーザの耳に対向する位置に合わせることができる。これにより、ユーザは自らの身体的特徴や嗜好に応じた装着感を得ることができる。一方、ヘッドホン41を使用しない場合には、スライダ45L,45Rを縮めた状態にすることにより、保管スペースを節約することができる。
【0051】
ハンガ47L,47Rは、スライダ43の両端に設けられており、ハウジング2L,2Rを回動自在に支持するものである。本開示においては、ハンガ47L,47Rとスライダ45L,45Rとがヒンジを介して接続されている。これにより、ハンガ47L,47Rが折り曲げ可能となっている。さらに、ハンガ47L,47Rの先端が二股状とされ、ハウジング2L,2Rが回動自在に支持される。さらに、ハンガ47L,47Rが分割構成とされ、互いに回転軸を介して接続されていることにより、回転可能に構成されている。
【0052】
ハウジング2Lおよび2Rには、それぞれヘッドホンユニット3およびマイクロホン11(または21)が収納されている。一方のチャンネル例えばLチャンネルのハウジング2Lの内部にノイズキャンセリング処理部10(または20)が配置されている。さらに、ハウジング2L内にヘッドホン装置の全体を制御するコントローラとしてのマイクロコンピュータが配置されている。マイクロホンとしては、例えばコンデンサ型マイクロホンが使用される。さらに、ハウジング2L内に電源としての電池(例えば充電可能電池)が格納されている。
【0053】
一対のハウジング2Lから接続コード48が導出されている。接続コード48は、内部にLチャンネル用導線、Rチャンネル用導線、グランド線などが挿通しており、ヘッドホン41に音声信号を伝送するためのものである。接続コード48の他端にはプラグ(図示せず。)が設けられている。そのプラグがMP3プレーヤなどの音声再生装置(図示せず。)に接続されることにより、ヘッドホン41が音声再生装置に接続される。
【0054】
接続コード48が接続されてない他方のハウジング2R内のユニットを駆動するために、ハウジング2Lと、ハウジング2Rとの間には、例えばヘッドバンド43の溝または内部空間を通って接続コード(図示せず)が設けられている。この接続コードは、ハウジング2R内のヘッドホンユニットに接続される。さらに、ハウジング2R内のマイクロホンのマイクロホン信号がハウジング2Rからハウジング2L内のノイズキャンセリング処理部に対して伝送される。このハウジング2Lおよび2R間に渡されるコードとしては、折り曲げによる破断を防止するために、外部導線を有しないケーブル(すなわち、シールド線ではないケーブル)が使用される。
【0055】
上述したヘッドホン装置を例えば収納ケースに対して収納する場合には、図4Aに示すように、最初にハウジング2L,2Rをほぼ90度回転させ、図4Bに示すように、イヤパッド55L、55Rによって囲まれた音放射面が上方を向くようにする。
【0056】
次に、図4Cに示すように、ハウジング2L,2Rとハンガ47L,47Rとの連結部分を折り曲げてハウジング2L,2Rがヘッドバンド43の内側の空間内に配置されるようにする。そして、図4Dに示すように、箱状のヘッドホンケース51の収納空間内に収納される。ヘッドホンケース51は、ヘッドホン収納部を覆う蓋52を有している。
【0057】
「ノイズキャンセリングヘッドホンの接続関係」
図5を参照して従来のノイズキャンセリングヘッドホンの接続について説明する。一例としてフィードバック方式のノイズキャンセリングヘッドホンについて説明する。上述したように、デジタルフィルタ回路13を有するノイズキャンセリング処理部10がLチャンネルのハウジング2L内に設けられている。ノイズキャンセリング処理部10に対して入力端子4Lおよび4Rからそれぞれ左右の入力オーディオ信号が供給される。
【0058】
LチャンネルおよびRチャンネルのそれぞれにおいてノイズキャンセリング処理がなされる。ノイズキャンセリング処理のために、マイクロホン11Lからのマイクロホン信号がノイズキャンセリング処理部10に供給され、マイクロホン11Rからのマイクロホン信号がノイズキャンセリング処理部10に供給される。各マイクロホン信号から形成された信号によって入力オーディオ信号中のノイズ成分が低減され、ノイズ低減後のオーディオ信号がヘッドホンユニット3Lおよび3Rにそれぞれ供給される。
【0059】
ノイズキャンセリング処理部10は、左右のチャンネルで共用され、例えばLチャンネルのハウジング2L内に設けられている。したがって、Rチャンネルのマイクロホン11Rの出力信号がケーブル28を介してノイズキャンセリング処理部10に供給され、ノイズ低減後のRチャンネルのオーディオ信号がケーブル27を介してヘッドホンユニット3Rに対して供給される。ケーブル26および27は、外部導線26を有するシールド線が使用される。外部導線26がグラウンドに接続され、ノイズの影響を受けないようにされている。
【0060】
上述したように、ハウジング2L,2Rとハンガ47L,47Rとの間が折り曲げ自在とされていると、シールド線が断線するおそれがあり、耐久性の点で問題があった。そこで、本開示では、シールド線を使用しないで、図6に示すように、外部導線を有しないケーブル31および32によって、ノイズキャンセリング処理部10からヘッドホンユニット3Rに対してRチャンネルのオーディオ信号を伝送すると共に、マイクロホン11Rからのマイクロホン信号をノイズキャンセリング処理部10に対して伝送する。
【0061】
シールド線を使用しないと、ノイズ成分がRチャンネルのマイクロホン信号に重畳され、ノイズキャンセリング処理の精度が低下する。この問題を解決するために、バッファ回路33Rが設けられ、マイクロホン11Rのマイクロホン信号がバッファ回路33Rを介してケーブル32に送出される。設けないでも良いが、左右のバランスを保つために、Lチャンネルのマイクロホン11Lの出力信号がバッファ33Lを介してノイズキャンセリング処理部10に供給される。
【0062】
マイクロホン11Rの出力インピーダンスが高いので、バッファ回路33Rは、出力インピーダンスを低いものにする。その結果、マイクロホン信号が低出力インピーダンスでケーブル32に送出され、ノイズキャンセリング処理部10に受け取られ、ノイズが重畳されにくくできる。高出力インピーダンスでケーブル32に送出されると、ノイズの影響を受けやすくなる。ヘッドホンユニット3Rに対するRチャンネルのオーディオ信号の場合、ノイズキャンセリング処理部10の出力インピーダンスが低く、また、ゲインが比較的大きいので、ノイズの影響を受けないようにできる。さらに、ノイズの影響によって、ノイズキャンセリング処理の精度の低下が生じることがない。
【0063】
図7に示すように、バッファ回路33Rは、例えばトランジスタ34を使用したエミッタフォロワ回路の構成とされる。トランジスタ34のベースに対してマイクロホン11Rの出力信号がコンデンサ35を介して供給される。マイクロホン11Rは、例えばコンデンサ型マイクロホンである。なお、図7においては、簡単のため、Lチャンネル側の構成については省略されている。
【0064】
Lチャンネル側からケーブル38を介して電源36の電源電圧が電源回路(レギュレータ)37に供給される。電源回路37によって形成された直流電圧がマイクロホン11Rに対してバイアス電圧として供給されると共に、トランジスタ34のコレクタに供給される。トランジスタ34のエミッタから取り出されたマイクロホン信号がケーブル32aを通じてノイズキャンセリング処理部10に伝送される。ケーブル32bは、マイクロホン信号のグラウンド側のケーブルである。ヘッドホンユニット3Rに対してもケーブル31aおよび31bを通じて右チャンネルのオーディオ信号が供給される。
【0065】
なお、本開示は、以下のような構成も取ることができる。
(1)
第1および第2のハウジングと、
前記第1および第2のハウジングと連結されたヘッドバンドと、
前記第1および第2のハウジング内に収納された第1および第2のヘッドホンユニットと、
前記第1および第2のヘッドホンユニットの近傍に設置された第1および第2のマイクロホンと、
前記第1のハウジング内に収納され、外部からの入力オーディオ信号および前記第1および第2のマイクロホンによって検出されたマイクロホン信号を処理して前記第1および第2のヘッドホンユニットに供給されるノイズキャンセル処理後の第1および第2のオーディオ信号を生成する信号処理部とを備え、
前記第2のハウジング内に収納された前記第2のマイクロホンのマイクロホン信号が低出力インピーダンスのバッファ回路に供給され、前記バッファ回路の出力信号が前記ヘッドバンドに配置された第1のケーブルを通じて前記信号処理部に供給され、
前記第2のハウジング内に収納された前記第2のヘッドホンユニットに対して、前記信号処理部から前記ヘッドバンドに配置された第2のケーブルを通じて前記第2のオーディオ信号が供給されるヘッドホン装置。
(2)
前記第1のケーブルは、導線の周りに外部導体を持たないケーブルである(1)に記載のヘッドホン装置。
(3)
前記第1および第2のハウジングと前記ヘッドバンドとが可動に連結される(1)に記載のヘッドホン装置。
(4)
前記第1および第2のハウジングと前記ヘッドバンドとが回転、折り曲げまたは伸縮自在に連結される(3)に記載のヘッドホン装置。
(5)
前記第1のマイクロホンのマイクロホン信号がバッファ回路に供給され、前記バッファ回路の出力信号が前記信号処理部に供給される(1)に記載のヘッドホン装置。
(6)
前記信号処理部は、前記入力オーディオ信号、並びに前記第1および第2のマイクロホンによって検出されたマイクロホン信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号処理部によって、前記第1および第2のオーディオ信号を生成する(1)に記載のヘッドホン装置。
【0066】
「変形例」
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、上述の各実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、バッファ回路としては、エミッタフォロワ回路に限らず、演算増幅器等を使用しても良い。さらに、フィードバック方式に限らず、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングを使用しても良い。
【0067】
また、上述の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1・・・リスナ
2、2L、2R・・・ハウジング
3、3L、3R・・・ヘッドホンユニット
10、20・・・ノイズキャンセリング処理部
11、11L、11R、21・・・マイクロホン
15・・・DSP
33L,33R・・・バッファ回路
34・・・トランジスタ(エミッタフォフロワ回路)
41・・・ノイズキャンセリングヘッドホン
43・・・ヘッドバンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2のハウジングと、
前記第1および第2のハウジングと連結されたヘッドバンドと、
前記第1および第2のハウジング内に収納された第1および第2のヘッドホンユニットと、
前記第1および第2のヘッドホンユニットの近傍に設置された第1および第2のマイクロホンと、
前記第1のハウジング内に収納され、外部からの入力オーディオ信号および前記第1および第2のマイクロホンによって検出されたマイクロホン信号を処理して前記第1および第2のヘッドホンユニットに供給されるノイズキャンセル処理後の第1および第2のオーディオ信号を生成する信号処理部とを備え、
前記第2のハウジング内に収納された前記第2のマイクロホンのマイクロホン信号が低出力インピーダンスのバッファ回路に供給され、前記バッファ回路の出力信号が前記ヘッドバンドに配置された第1のケーブルを通じて前記信号処理部に供給され、
前記第2のハウジング内に収納された前記第2のヘッドホンユニットに対して、前記信号処理部から前記ヘッドバンドに配置された第2のケーブルを通じて前記第2のオーディオ信号が供給されるヘッドホン装置。
【請求項2】
前記第1のケーブルは、導線の周りに外部導体を持たないケーブルである請求項1に記載のヘッドホン装置。
【請求項3】
前記第1および第2のハウジングと前記ヘッドバンドとが可動に連結される請求項1に記載のヘッドホン装置。
【請求項4】
前記第1および第2のハウジングと前記ヘッドバンドとが回転、折り曲げまたは伸縮自在に連結される請求項3に記載のヘッドホン装置。
【請求項5】
前記第1のマイクロホンのマイクロホン信号がバッファ回路に供給され、前記バッファ回路の出力信号が前記信号処理部に供給される請求項1に記載のヘッドホン装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記入力オーディオ信号、並びに前記第1および第2のマイクロホンによって検出されたマイクロホン信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号処理部によって、前記第1および第2のオーディオ信号を生成する請求項1に記載のヘッドホン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−42218(P2013−42218A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176059(P2011−176059)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】