説明

ヘデラ苗育成システムならびに育成方法

【課題】 ヘデラの水耕栽培による緑化に必要となる、水耕栽培に適した長尺苗を、安価で大量、かつ安定的に提供する。
【解決手段】 ビニールハウスなどの温室内に設置した棚に苗栽培用のピットを設置し、ヘデラを挿し木した育苗ポットに水溶液を循環供給することにより、水耕栽培による緑化に適した水耕栽培用長尺苗を、大量かつ安定的に育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘデラの水耕栽培による緑化を行うにあたって、必要不可欠である水耕栽培手法によって育てられた水耕栽培用のヘデラ苗を、大量かつ安定的に供給するためのヘデラ苗育成システムならびに育成方法に関る。
【背景技術】
【0002】
ヘデラの水耕栽培による緑化が可能となったことで、傾斜屋根の緑化や、物が設置してある屋上でも全面緑化することが可能になった。しかし、ヘデラはもともと土壌栽培のため、本発明者が初めて水耕栽培による緑化を実現した時点では、他所ではこれまでその発想すらなく、水耕栽培を行うには従来にない技術が必要であった。特に水耕栽培に使用するヘデラ苗はと土壌栽培のそれとは同一種であっても根の性質は全く異なり、土壌栽培の苗を水耕栽培の栽培槽に移植しても根付くことはなく、さらには土壌に含まれるフザリウム菌など多くの雑菌等によって、間違いなく根腐れしてしまうことなどの理由から、ヘデラの水耕栽培による緑化は他所では行われていなかった。
【0003】
このため、ヘデラの水耕栽培をおこなうには、挿し木の段階から、定植後の育成に条件を合わせた水耕栽培苗の育成が必要不可欠であるが、これまで、水耕栽培用のヘデラ苗の供給システムが確立されておらず、安定的かつ大量の供給に問題がある。
【0004】
また、緑化施工場所において、できるだけ早く広範な緑化を実現するためには、施工後のヘデラの伸延を待つだけでは多くの時間を要することから、顧客の満足が得られにくいという問題があり、定植する苗は長くて丈夫なものであることが要求されていた。
【0005】
このような課題を解決するため、本発明では、水耕栽培用のヘデラ苗を大量かつ安価に栽培し、安定的に供給することができるシステムを可能にしたものであるが、このようなヘデラ苗育成システムはこれまでに例を見ない。しかし、本発明者が、特開2006−20542号公報において、水耕栽培でヘデラなどのつる性植物を使用して屋上緑化を行うに際して、ヘデラ苗の移植植え付けに関して言及はしているが、育苗に関してまでは提案していない。
【0006】
また、特開2008−173093号公報においては、やはり本発明者がヘデラ苗の移植に際して、植物の根が水耕栽培の栽培槽の中で浮遊状態にあると植物にストレスがかかりすぎ成長を阻害することから、ストレスを緩和するためにヘデラの根部をスポンジなどの育苗培地で覆うことについて記載している。
【0007】
本発明者は、ヘデラの水耕栽培による屋上緑化を提案した当初から、試行錯誤の結果をもとに、水耕栽培用のヘデラは水耕栽培用に育苗したものを使用しなければ、同じヘデラであっても土壌栽培と水耕栽培では根の性質が異なることから、定植し、継続的に栽培することはできないことを確認した上で、ヘデラの水耕栽培による緑化を提案しているものである。今回の、ヘデラ苗育成システムならびに育成・定植方法の提案はそのような事実に基づいてなされたものであり、本育苗技術はヘデラの水耕栽培による屋上緑化には必要不可欠なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−20542号公報
【特許文献2】特開2008−173093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ヘデラの水耕栽培を行うにあたって必要となる水耕栽培用の長尺ものの苗を、大量かつ安価に栽培し、安定的に供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ビニールハウスなどの温室内に、一段または複数段の棚を組み、これに複数本の溝状の苗栽培用ピットを設置して、ヘデラを挿し木した育苗ポットを隙間なく並べ、栽培用ピットの片端から水溶液を供給して他端から排水し、排水母管に集めた後、栽培液タンクに戻し、水溶液を循環させることにより、大量かつ長尺物の苗を安定的に育成する。
【0011】
育成した苗は、専用のヘデラ梱包ボックスにより運搬し、緑化施工場所に設置した水耕栽培用の栽培槽に定植して、ヘデラの水耕栽培による緑化を行う。基本的に、育苗も緑化も、水溶液を循環させる水耕栽培により行われることとなり、これにより、極めて順調な屋上緑化が実現できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、狭い場所で大量のヘデラ水耕苗を栽培、供給できることから、経済性に優れるとともに、外部の環境に左右されることなく、安定的な苗の供給を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の育苗ハウス内での育苗状況を示す正面図である。
【図2】本発明の育苗ハウス内の断面図である。
【図3】本発明の育苗システムの水溶液を循環させための水管系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による水耕栽培用のヘデラ苗を育成するためのシステムは、一般的なビニールハウスなど、雨風に直接さらされることのない栽培ハウスの中に、単管パイプや垂木などで、一段または複数段の棚を構築し、これの各段に一列または複数列の栽培用の溝(育苗ピット)を平行に並べて苗の栽培槽とする。
【0015】
この育苗ピットは、150分の1程度の勾配を持たせて設置し、一方の端から水溶液を供給して、他方の端に設けた排水口から排水し水溶液タンクに戻し、水溶液を循環させることにより常時一定水位レベルを保ちながら、循環的に水溶液を供給できるように構成する。
【0016】
育苗ポットは、その形は問わないが、苗を2500mm程度の長さまで育苗可能なように、直径100mm程度の丸型ポットか、それと同等の断面積を有する大きさのものを使用する。育苗ポットには日向軽石などの充填剤を底部に充てんし、挿し木する苗は切れ味のよい刃物で、ヘデラの葉を付け根から1枚カットし、その位置から2〜3cm程度下を斜め切りしたものをポットの中央になるように、ポットの上端付近まで日向軽石を充てんする。
【0017】
ヘデラの挿し木された育苗ポットを、育苗ピットに隙間なく並べ、水溶液を育苗ピットに供給すると、育苗ポットの底部は水溶液で満たされ、水溶液は時間の経過とともに水位レベルより上にある日向軽石へも浸透することになるが、最良の状態としては、育苗ピット内の水位レベルが、育苗ポットの底部から三分の一乃至二分の一程度に保たれていることが好ましい。
【0018】
育苗ピットへの育苗ポットの配置は、できるだけ隙間なく並べるのが望ましいが、隙間部分を皆無にはできないため、ピットの水溶液の蒸散、アオコ等の発生による水溶液の汚染防止などを目的として、ピットの両上端に遮光性のビニールシート(ピットカバー)を貼り付け、育苗ピットに挿し木されたヘデラ苗だけを残して育苗ピットを包み込むと都合がよい。
【0019】
ヘデラの育苗は、水温が概ね20℃以下で行うのがよいので、挿し木は秋から春先に行うのが望ましいが、時期を選ばす実施する必要がある場合は、水溶液タンクまたは水管系統のいずれかに、年間を通じて育苗ポットの水温を0〜25℃程度に保つための温室設備ならびに水温調整機能を有する水温調整装置を備えてもよい。また、育苗ピットは溝状のものでなく塩ビ管に育苗ポットの据え付け穴をあけたものであってもよい。
【実施例】
【0020】
本発明を図示された実施例によって、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の育苗ハウス1内での育苗状況を示す正面図である。見やすくするために育苗棚、ピットカバーなどは省略しているが、この図に示すように育苗ピット3の中に、ヘデラを挿し木した育苗ポット2をぎっしりと並べ、塩ビパイプなどの給水管4に設けられた給水穴5から育苗ピット3に水溶液が供給されている。
【0022】
本実施例では、育苗ピット3は2段2列で構成しているが、給水穴5から供給される給水量は、該給水穴5の位置と給水ポンプ21との距離関係、高さ関係で変わることから、給水穴5の穴の大きさを、遠い位置の穴は近い位置の穴より大きく、また、高い位置の穴は低い位置の穴より大きくなるよう、穴の大きさを変えることで各育苗ピットに供給される水溶液の量を調整している。
【0023】
図2は、本発明の育苗ハウス1の断面図である。この図では、中央通路の左右に、単管パイプなどで2段に育苗棚11が組まれ、その上に育苗ピットが設置されており、その中に育苗ポット2が並べられている。育苗ポット2で育成されているヘデラ8は、たとえば下垂性のヘデラカナリエンシスであって、最初は上に伸びていくが、成長するにつれ自重により図のように垂れ下がった状態で伸びていくことになる。
【0024】
もちろん、育苗棚11を1段として、その上に複数列の育苗ピット3を設けてもよいが、多段にした場合には、早く苗の育成を始め、長く育ったものを高い棚に置き、後に育苗を開始したものを低い棚に置くことで、苗の順序よい取り出しが可能となるので好都合である。
【0025】
図3は、育苗システムの水溶液を循環させる水管系統を示しており、水溶液タンク20から水中ポンプ21で送り出された水溶液は給水管4で、それぞれの給水穴5を介して育苗ピットの給水側の端に供給されており、育苗ピットの他端に設けられた排水口7から出た水溶液は排水母管6に集められたのち、排水管9により水溶液タンク20に戻され、る。水溶液タンク20の水溶液が一定レベル以下になると、レベルセンサー22で補給水バルブ23を作動させ補給管24から水が供給される。また、育苗開始時には水溶液の肥料濃度は薄目のほうがよく、市販のメネデールなどの発根促進液等を添加のみとし、3週間程度後に発根後は、徐々に水性肥料の濃度を増していくとよい。
【0026】
このようにして育成した長尺苗の一本一本を、育苗ポットごと防水性の袋でカバーし、スポンジ等の緩衝材を備えた梱包ボックスに横置きで伸ばしたまま収納・運搬する。こうすることにより、大量の長尺苗を苗にダメージを与えることなく運搬し、移植を行うことができるため、早期に広範囲の緑化を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、まったく新しい緑化方法である、ヘデラの水耕栽培による緑化を実現するために必要不可欠な、水耕栽培で育成した水耕栽培用の長尺苗を供給するものであり、経済性に優れており、かつ、早期に大量の苗を安定的に供給できるものであることから、極めて有用性が高い。
【符号の説明】
【0028】
1…育苗ハウス、2…育苗ポット、3…育苗ピット、4…給水管 、5…給水穴、6…排水母管、7…排水口 、8…ヘデラ、9…排水管、10…育苗棚、20…水溶液タンク、21…水中ポンプ、23…補給水バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水耕栽培に用いる水耕栽培用のヘデラ苗を育成するためのシステムであって、栽培ハウス内において、ヘデラ苗栽培用の育苗ピットを所定の高さで設置し、これに育苗ポットにヘデラ苗を挿し木したものを並置し、育苗ピットに一定の水位レベルを保ちながら水溶液を供給・循環させることによりヘデラ苗の発根、発芽を促し育成することを特徴とする、水耕栽培用ヘデラ苗育成システムならびに育成方法。
【請求項2】
前記育成システムは、育苗ピットの一方の端と他方の端に適切な勾配を有し、高い方の端(始端)に設置した水溶液供給管からピットに供給した水溶液が、ピット内で一定の水位レベルを保ちながら低い方の端(終端)に緩やかに移動し、ピット終端カバーに設置された排水口から出た後、排水母管に集められ、水溶液タンクに戻ることにより水溶液が循環することを特徴とする、請求項1に記載の水耕栽培用ヘデラ苗育成システムならびに育成方法。
【請求項3】
前記育成システムの育苗ピットは、ピットの水溶液の蒸散、アオコ等の発生による水溶液の汚染防止などを目的として、苗ポット全体をカバーする遮光性のピットカバーを付属することを特徴とする請求項1乃至2に記載の水耕栽培用ヘデラ苗育成システムならびに育成方法。
【請求項4】
前記育成システムの水溶液タンクまたは水管系統のいずれかに、年間を通じて育苗ポットの水温を0〜25℃に保つための温室設備ならびに水温調整機能を有する水温調整装置を備えているとことを特徴とする請求項1乃至3に記載の水耕栽培用ヘデラ苗育成システムならびに育成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−263808(P2010−263808A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116343(P2009−116343)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(592130149)
【Fターム(参考)】