説明

ヘパリン修飾成分を用いた第Xa因子に基づくヘパリンアッセイ

【課題】 本発明は、凝固の診断に関係し、そしてサンプル中のヘパリン活性を測定する方法を提供する。
【解決手段】 この方法においてサンプルは、ヘパリン修飾成分と最初にインキュベートされ、次いでヘパリン依存性の第Xa因子不活性化が測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固障害の診断に関係し、そしてサンプル中のヘパリン活性を測定するインビトロの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリンは、負に荷電した種々の長さのポリ硫酸化グルコサミノグリカン鎖であり、そしてインビボ及びインビトロで即時かつ濃度依存的に凝固を阻害するとりわけ最も一般に普及した抗凝固物質である。鎖長如何により、3000ダルトンから30000ダルトンまでの間の分子量を有するいわゆる未分画(unfractionated)高分子量ヘパリン(UFH、UFヘパリン)と約4000ダルトンから9000ダルトンまでの間の分子量を有するいわゆる分画(fractionated)低分子量ヘパリン(LMWH、LMWヘパリン)との間の区別が本質的に行われる。分画ヘパリンは、酵素的切断若しくは化学的切断又はクロマトグラフィーによって未分画ヘパリンから一般に得られる。切断方法如何により、得られる産物は、物理化学的性質、例えば平均鎖長、分子量区分、硫酸化又はグリカン修飾の程度が異なり、これは、これらの産物の生物学的活性に影響を及ぼす。ヘパリン誘導体及びヘパリノイド(heparinoid)は、酵素的及び/又は化学的に修飾されたグルコサミノグリカン鎖であり、この抗凝固性質は、グリカン鎖長、硫酸化パターン及びアセチル化パターンの標的化作用を通じて又は異なるグルコサミノグリカンの混合を通じて生物工学的に修飾され得、これは例えば、ダナパロイド(danaparoid)ナトリウムの場合、主にヘパラン硫酸並びに少ない比率のデルマタン硫酸及びコンドロイチン硫酸からなるグリコサミノグリカンの混合物であることが挙げられる。
【0003】
すべてのヘパリンの抗凝固効果は、活性化凝固因子の最も重要な血漿インヒビターであるアンチトロンビン(AT、アンチトロンビンIII)との複合体の形成に由来する。アンチトロンビンは、セリンプロテアーゼインヒビター(セルピン)群に属し、そして凝固因子トロンビン(第IIa因子、FIIa)及び第Xa因子(FXa)並びに少ない程度でまた他のセリンプロテアーゼFIXa、FXIa、FXIIa、カリクレイン及びプラスミンを阻害する。アンチトロンビンとのヘパリンの結合は、アンチトロンビンのコンホメーション変化をもたらし、この変化は、アンチトロンビンの阻害効果を何倍も増強する。アンチトロンビンとの結合を担うヘパリン分子の結合部位は、特徴的な五糖配列からなる。この五糖の完全なる合成形態(フォンダパリヌクス(fondaparinux))は、凝固性の医学的な阻害としてUFH又はLMWHとまさしく同様に利用される。
【0004】
未分画ヘパリン及び分画ヘパリン、ヘパリン誘導体、ヘパリノイド並びに五糖は、それらの抗凝固効果が異なる。UFHは、トロンビン及びFXaを等しく阻害するのに対して、LMWHは主にFXaの阻害効果を示し、トロンビンの阻害効果はわずかな程度しか示さない。五糖、例えばフォンダパリヌクスは、FXaを選択的に阻害し、トロンビン阻害はまったく示さない。
【0005】
適応症如何により、ヘパリンは予防的又は治療的に利用され、例えば、手術若しくは固定化の間のような危機的状況における血栓塞栓症の予防として、明らかな血栓塞栓性事象の治療として、又は体外治療法、例えば血液透析、心肺バイパス若しくは心臓カテーテル検査において利用される。ヘパリンの抗凝固効果は、多くの個々の影響性変数、例えば、体重又は肝機能及び腎機能の影響下におかれ、そして誤った投薬量は、出血性合併症又は血栓塞栓性合併症を誘発し得るので、すべての患者においてはUFH、及び危険にさらされる(腎不全、肥満、妊娠)患者においてはLMWHに対する治療のモニタリングが指示される。
【0006】
ヘパリン治療をモニターし、そしてヘパリンレベルを測定する種々の方法が当該分野で公知である。
【0007】
ヘパリンを用いた治療及び予防は、慣用の全体的な凝固試験、例えばPT、APTT及びトロンビン時間を利用して血液の凝固性を検査することによって第一に間接的にモニターされ得る。ヘパリン化された患者サンプルの測定された凝固時間を、規定されたヘパリン濃度の標準血漿に基づく対応する基準値と比較することはまた、患者サンプルのヘパリンレベルの定量化を可能にする。凝固時間に基づくヘパリンの測定方法の例は、例えば、特許US4,067,777及びEP 217 768 B1に記載されている。
【0008】
凝固時間に基づくヘパリン測定の特定の型は、EP 259 463 B1に記載されている。この方法において、凝固時間は、患者サンプルの1つのアリコートに対して測定され、一方サンプルの第2のアリコートは、まず、サンプル中に存在するヘパリンを完全に分解するためにヘパリナーゼで処理され、次いで凝固時間が測定される。これら2つの凝固時間の差異が、サンプル中に存在するヘパリン量の尺度であり、これは、適切な検量線から読み取られ得る。しかし文献において、全体的な凝固試験は、LMWHの測定には不適切だとみなされている。なぜならこのアンチトロンビン効果の減少は、測定結果(凝固時間、INR)に対する効果が線形ではなく濃度依存的であることを意味するからである(例えば、Harenberg,J.(2004) Is laboratory monitoring of low−molecular−weight heparin therapy necessary? Yes.J.Thromb.Haemost.2;547〜550ページを参照のこと)。
【0009】
第二に、ヘパリン治療又は予防は、いわゆるアミド分解(amidolytic)又は発色性ヘパリンアッセイを利用してモニターされ得、このアッセイは、ヘパリン活性の正確かつ高感度な測定を可能にする。これらの方法は実質的に、ヘパリン化サンプルを外因性のFXa又はトロンビン(FIIa)及び適切な因子特異的発色性基質とインキュベートすること、並びに基質の転換からこの酵素的なFXa又はトロンビン活性であるヘパリン依存性不活性化を測定することに基づく。遊離した発色性の切断産物の量は、ヘパリン活性に反比例する。既知のヘパリン含有量を含む血漿の測定値から作成された軟正曲線を利用して、患者サンプル中のヘパリン量の正確な定量化が可能である。通常の血漿形態又はそうでなければ精製形態のいずれかのさらなるアンチトロンビンの反応混合物への添加は、過剰状態を引き起こすことによって、第一に異なる患者サンプル中の異なるアンチトロンビン濃度を相殺し、そして第二に、特に低いヘパリン濃度範囲の試験の感受性を増大する効果を有する。このようなアミド分解ヘパリンアッセイの多様な変形版が市販されている。例は、特許EP 004 271 A2及びEP 034 320 B1に記載されている。従来技術に従って、この型の発色性抗FXa試験は、好ましくはLMWHの測定に利用されるはずである(例えばこれに関してもHarenberg,J.(2004)を参照のこと)。
【0010】
ヘパリンは、1ミリリットル当たりの国際単位(IU/ml)で通常定量化される。抽出された生物学的物質としてのヘパリンは、とりわけ生物、組織、抽出条件に大きく左右され、そして測定可能な凝固効果は、間接的にしか検出されることができないので、効果の物理化学的定義(単位)は、実用的だと証明されていない。この理由のために、適切な計量基本単位が定義されており、そして産物の測定及び公表並びに新規な基本単位として使用される。最も一般的なものは、WHOに支持され、そしてNational Institute for Biological Standards and Controls(NIBSC、UK)によって管理される国際単位(IU)系である(概説については、例えば、Mulloy,B.ら(2000) Characterization of unfractionated heparin:Comparison of materials from the last 50 years.Thromb.Haemost.84、1052〜1056及びNIBSCのホームページ、 HYPERLINK “http://www.nibsc.ac.uk” www.nibsc.ac.uk上の生物学的な基本単位に対する最も最近の公表を参照のこと)。
【0011】
すでに上記の通り、異なるヘパリンによる第Xa因子の酵素活性の阻害強度の差異が存在する。この理由のために、第Xa因子に基づくアッセイを軟正するために、患者サンプル中で定量化されるべきヘパリンを異なる濃度で用いることによって、測定されるべき各ヘパリンに対して別個の軟正曲線を作成する必要がある。ともかくサンプル中でヘパリンの正確な測定を実施し得るために、従ってどのヘパリン産物が患者の治療に使用されるかを知る必要があり、その結果、測定値が正確な軟正曲線を用いて定量化され得る。この方法の不利な点は、異なる軟正曲線の作成が労力と物質の負担を引き起こすこと、患者に使用されるヘパリン産物に対する誤った情報の危険性が常に存在し、これにより定量化の際に誤った軟正曲線を使用し、その結果として試験結果の誤った解釈をもたらすこと、及び患者の治療に用いられる産物の情報が与えられない場合は信頼性の高いヘパリン測定が不可能であることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って本発明は、ヘパリン産物特異的な軟正曲線の生成を伴わず、そしてすべてのヘパリンに対して万能の軟正曲線を使用することを可能にするヘパリンの測定方法を提供する目的に基づいた。本発明の目的の達成は、特許請求の範囲に記載されている条項及び方法の提供からなる。
【0013】
本発明は、液体サンプル中、特に体液サンプル、例えば血液、血漿、血清又は尿中のヘパリン、すなわちUFヘパリン、LMWヘパリン、ヘパリン誘導体、ヘパリノイド及び五糖を測定するインビトロの方法に関し、これにおいてヘパリン活性は、ヘパリン依存性の第Xa因子の不活性化から測定される。驚くべきことに、未分画ヘパリン若しくは分画ヘパリン、ヘパリン誘導体、ヘパリノイド又は合成五糖を含むヘパリン化サンプルのヘパリン修飾成分とのインキュベーションは、異なるヘパリンのFXa阻害効果の差異の相殺を導くが、残存するFXa阻害効果は、サンプル中に本来存在するヘパリン含有量となお相関し、従って1つの軟正曲線による定量化が可能であることがここで見出されている(また図3を参照のこと)。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ヘパリン修飾成分は、本発明の文脈において、オリゴ糖単位をヘパリンから除去し得、そしてFXaに基づくヘパリンアッセイに使用されるときに、サンプル物質又は他の添加試薬の構成成分に対して不利な効果を及ぼさない物質又は物質の混合物を意味し、その結果ヘパリン依存性のFXa阻害の定量的測定が、この物質の存在下でなお可能である。本発明の方法におけるヘパリン修飾成分としての使用に対する物質の適合性は、例えば、調べられる物質の存在下及び同時にこの物質の非存在下でFXaに基づくヘパリンアッセイを行うことによって確認され得る。この物質の存在下においてUFHを含むサンプル中で測定される絶対的な抗FXa活性は、この物質の非存在下の場合よりも低いが、この物質の存在下において残存する抗FXa活性は、このサンプル中に本来存在するヘパリン活性となお相関し、従ってヘパリン活性の正確な定量化を可能にするという事実によって好適な物質が認められ得る。
【0015】
本発明の方法に好適なヘパリン修飾成分は、特に酵素である。なぜならこれらは、特異的に作用し、そして穏やかな事実上生理学的条件下で作用するので、従ってそれ自体でこの試験方法に対する不利な二次的効果を最小化又は除外し得る。グリコサミノグリカン鎖の切断及び修飾を可能にするグルクロニダーゼ群由来の酵素及びヘパリナーゼ群由来の酵素が特に好適である。グルクロニダーゼは、多様な起源、例えば大腸菌、ウシ肝臓又は軟体動物由来のヘパリン加水分解酵素であり、これは、化学修飾を伴わずにグルコサミノグリカン鎖を切断する。ヘパリンリアーゼとも呼ばれるヘパリナーゼは、微生物、例えばFlavobacterium heparinumによって天然に合成されるヘパリン特異的酵素であり、そして脱離反応機構を有し、すなわちまた切断反応において末端の糖群を化学的に修飾する。本発明の方法におけるヘパリン修飾成分としての使用に特に好適なものは、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII及びヘパリナーゼIIIであり、これらは、例えばF.heparinum培地から直接得られ得るか、又はそうでなければ、例えば大腸菌において組換え発現され得るかのいずれかである。ヘパリン修飾成分として同様に好適なものは、種々のヘパリナーゼ及び/又はグルクロニダーゼの混合物である。F.heparinumから内因性ヘパリナーゼを得る方法、及び遺伝子操作による酵素の産生方法は、従来技術、例えばUS 5,714,376及びEP 670 892 B1並びにこれらの中に引用される刊行物に記載されている。
【0016】
ヘパリン修飾酵素又はヘパリン分解酵素は、完全な分解によってヘパリンを無力化するように当該分野において使用されるが、本発明の方法においてはこのヘパリン修飾成分は、サンプル中に存在するヘパリンを完全には分解せず、サンプル中に存在するヘパリンが単に修飾され、その結果アンチトロンビン活性化性質の定量化がなお可能であるような様式で利用される。この目的のために、ヘパリン修飾成分は、混合物中で好ましくは0.05U/ml〜5.0U/mlの濃度、特に好ましくは0.25U/ml〜1.25U/mlの濃度で、FXaが添加される前にサンプルとインキュベートされる。これに関して、1単位は、30℃及びpH7.0で1分間につきヘパリン(ブタ粘膜由来;約109IU/mg)から不飽和オリゴ糖1μmolを脱離するのに必要とされる酵素量に相当する。
【0017】
本発明の方法において、サンプルは、第Xa因子が添加される前に規定の間ヘパリン修飾成分とインキュベートされる。このサンプルは、FXaの添加前に好ましくは10秒間〜900秒間、特に好ましくは15秒間〜90秒間、極めて特に好ましくは20秒間〜60秒間ヘパリン修飾成分とインキュベートされる。より短いインキュベーション時間及びより長いインキュベーション時間が可能であり、このインキュベーション時間を使用されるヘパリン修飾成分の濃度及び選択される反応温度に第一に釣り合わせることが必要である。通常は37℃の反応温度が、凝固の診断において生理学的に関連したパラメーターの測定に好ましい。当業者が、認識している熱力学的効果、例えば生化学的反応の速度論に対する熱力学的効果を考慮に含める限りは、より低い反応温度又はより高い反応温度も同様に使用され得る。
【0018】
本発明の方法の好ましい実施態様において、クエン酸血漿サンプルが、アンチトロンビンを含む試薬と最初に混合される。これは、例えば正常な血漿形態又はそうでなければ精製されたアンチトロンビンの形態をとり得る。アンチトロンビンは、好ましくは過剰に添加され、その結果、FXaを阻害するのに必要な量よりも多くのアンチトロンビンが混合物中に存在する。このサンプルがアンチトロンビン試薬で前処理される場合、ヘパリン修飾成分は、好ましくはこの試薬中に存在し得る。
【0019】
ヘパリン修飾成分とのサンプルのインキュベーション及びしかるべき場合のアンチトロンビンとのサンプルのインキュベーションの後に、反応混合物への第Xa因子の添加が続く。この第Xa因子は、ヒト、ウシ又はそれらの組換え変異体であり得る。特に好ましい実施態様において、このFXa試薬は、硫酸デキストランをさらに含み得る。FXa試薬とは別に、サンプルに硫酸デキストランを添加することも同様に可能である。
【0020】
添加された第Xa因子が、このサンプル中に存在するヘパリンすなわち本発明に従って修飾されるヘパリン誘導体の機能として不活性化されるインキュベーション時間の後に、基質が反応混合物に添加される。第Xa因子への曝露の際に色素を解放する発色性基質が好ましくは使用される。この色素は、スペクトルの可視領域で測定され得る色素、蛍光色素、又はUV領域で測定され得る色素であり得る。アミド結合によってアルギニン残基のカルボキシ基に結合した色素残基を有するペプチドが好ましくは使用される。この目的に特に好適なものは、p−ニトロアニリド基(pNA)及び5−アミノ−2−ニトロ安息香酸誘導体(ANBA)、並びに置換によってそれらから誘導され、そしてペプチド位置が解放された後、405nmの波長での測光法によって定量化され得る色素である。好適な基質の例は、Bz−Ile−Glu−Gly−Arg−pNA及びZ−D−Leu−Gly−Arg−ANBA−メチルアミドである。
【0021】
この方法は、動力学的測定又はエンドポイント(endpoint)測定として評価され得る。動力学的方法において、この反応、すなわち残存する第Xa因子の活性は、発色性基質の転換速度に基づいて、存在するヘパリン活性の尺度として定量化される。エンドポイント測定においては、この反応は、酸、例えば酢酸の添加によって所定の測定時間後に停止され、そして解放された色素量が測定される。
【0022】
本発明の方法の好ましい実施態様において、サンプルのヘパリン活性は、すべてのヘパリン変異体に適した万能の軟正曲線によって、サンプル中に存在するヘパリンの性質とは関係なく定量化される。この評価は、規定量のヘパリンを含むキャリブレーター溶液を利用して、及び/又はこのキャリブレーター溶液の希釈を利用して生成されている基準曲線に基づいて行われる。当該分野で公知の方法とは対照的に、本発明の方法においては、この軟正に使用されるヘパリン調製物は患者サンプル中で測定されるべき調製物と同じである必要はない。本発明の方法により、任意のヘパリン、未分画ヘパリン若しくは分画ヘパリン又は五糖が軟正に使用され得、そして任意の患者サンプルのヘパリン活性が、投与される調製物とは関係なくこの生成された軟正曲線を用いて定量化され得る。例えば、ブタ粘膜由来の未分画高分子量ヘパリンであるLiquemin(登録商標)(Roche、Basle、Switzerland)又は分画低分子量ヘパリンであるFragmin(登録商標)(Pharmacia、Kalamazoo、USAを用いて、すべてのヘパリン変異体に適した万能の軟正曲線を生成し得る。UFヘパリン又はLMWヘパリンが、等張の食塩水で10IU/mlに希釈され、そして最終的にヘパリンを含まないプール血漿、すなわち標準血漿で希釈されることが好ましく、その結果本発明の方法によって、基準曲線が治療範囲全体について生成され得る。
【0023】
本発明の方法は、手動での実施及び自動分析器での使用の両方に好適である。
【0024】
本発明の方法は、本発明の方法を実施するために使用されるヘパリン修飾成分を阻害する物質をさらに含むサンプル中でヘパリン活性を測定することにのみ条件付きで好適である。特許文書WO 01/46385 A1は、例えば、ヘパリナーゼインヒビターとして作用し、そして治療用途に好適らしい化合物、CRM646−A及びCRM646−Bを記載している。このヘパリン修飾効果は、使用されるヘパリン修飾成分を阻害する物質を含むサンプル中での本発明のヘパリン活性の本発明に従う測定の際に損なわれ得る。本発明の方法を利用してあらかじめ作成された軟正曲線を用いてこのようなサンプルのヘパリン含有量を定量化することは、誤った測定をおそらく大いに導くことになる。従って本発明の方法は、好ましくは、この方法において使用されるヘパリン修飾成分を阻害する物質を含まない液体サンプル中でのヘパリン活性の測定に好適である。好ましい実施態様において、このサンプルは、グルクロニダーゼインヒビターを含まず、そして/又は例えばCRM646−A及びCRM646−B(WO 01/46385 A1)のようなヘパリナーゼインヒビターを含まない。本発明の趣旨の範囲内のヘパリナーゼインヒビター及び/又はグルクロニダーゼインヒビターを含まないサンプルは、例えば、インビボでこのようなインヒビターを用いて治療的に処置されてもおらず、インビトロでこのようなインヒビターと混合されてもいない1つ又はそれ以上のヒト又は動物由来の体液サンプルである。
【0025】
本発明のさらなる局面は、本発明のFXaに基づくヘパリンアッセイを実施するための試験キットに関し、ここでこの試験キットは、一方はヘパリン修飾成分を含み、そして他方はFXaを含む少なくとも2つの試薬を含む。これらの試薬は、防腐剤をさらに含み得、そして液体試薬又は凍結乾燥物のいずれかとして提供され得る。
【0026】
ヘパリン修飾成分を含む試薬は、FXaに基づくヘパリンアッセイの実施に必要とされるさらなる成分、例えばアンチトロンビン又は基質をさらに含み得る。試験設計如何により、サンプルへの個々の成分の添加の順序は異なり得る。ある場合では、検出反応は、基質の添加によって開始されることになり、そして他の場合では、FXaの添加によって開始されることになる。FXaを添加する前にサンプルと混合される試薬中に存在しているヘパリン修飾成分に注意を払わなければならない。本発明の試験キットの特に好ましい実施態様は、アンチトロンビンとともにヘパリン修飾成分を含む試薬を備える。
【0027】
ヘパリン修飾成分を含む試薬及びFXaを含む試薬に加えて、本発明の試験キットは、例えば第Xa因子の基質を含む試薬及び/又はアンチトロンビンを含む試薬のようなさらなる試薬をさらに含み得る。好ましいFXa試薬は、硫酸デキストランをさらに含み得る。別の好ましい試薬は、硫酸デキストランとともに、アンチトロンビンを含み得る。
【0028】
本発明の試験キットの試薬は、液体又は凍結乾燥形態で提供され得る。この試験キットの試薬のいくつか又はすべてが凍結乾燥物の形態である場合、この試験キットは、凍結乾燥物を溶解するのに必要な溶媒、例えば蒸留水、好適な緩衝液及び/又は標準ヒト血漿をさらに含み得る。
【0029】
以下の実施例は、本発明の方法を例示するのに役立ち、そして限定的とみなされるべきではない。
【0030】
〔実施例〕
実施例1
凍結乾燥され、そして再構成されたヒトのクエン酸血漿を、UFヘパリンであるLiquemin(登録商標)(Roche、Basle、Switzerland)1IU/ml又はLMWヘパリンであるFragmin(登録商標)(Pharmacia、Kalamazoo、USA)1IU/mlでスパイクした。血漿サンプル20μlを、ヘパリナーゼI(Dade(登録商標)Hepzyme(登録商標)、Dade Behring Marburg GmbH、Marburg、Germany)0.55U/ml(図1A)又は1.4U/ml(図1B)をさらに含んだアンチトロンビン試薬(AT試薬;凍結乾燥され、そして再構成されたもの、1IU/ml)20μlと37℃で20秒間〜900秒間インキュベートした。次いでこの反応混合物を、第Xa因子試薬[凍結乾燥され、そしてTRIS(6g/l)、EDTA(0.74g/l)及び塩化ナトリウム(12g/l)を添加することにより再構成されたヒトFXa]170μlと混合し、そして37℃で1分間インキュベートした。この反応を、基質試薬(Z−D−Leu−Gly−Arg−ANBA−メチルアミド、4mM)40μlの添加によって開始し、そしてANBAの形成を、自動測定器Sysmex(登録商標)CA−1500(Dade Behring Marburg GmbH、Marburg、Germany)において405nmの波長及び37℃で検出した。AT−ヘパリナーゼ試薬との血漿の種々のインキュベーション時間に対する1分間当たりの吸光度変化(ΔOD/分)を図1に示す。
【0031】
図1は、UFH(Liquemin(登録商標))及びLMWH(Fragmin(登録商標))を含む血漿の混合物において、2つの異なるヘパリナーゼ活性に対応してインキュベーション時間に渡って測定されたシグナル(ΔOD/分)の変化を示す。ヘパリンを含まない標準ヒト血漿(SHP)を、コントロールとして各場合測定した。ヘパリンを含まないこの血漿は、AT−ヘパリナーゼ試薬とのサンプルのインキュベーション時間の関数として吸光度変化を示さなかった。ヘパリンを含む血漿の場合、インキュベーション時間の増加とともに吸光度変化が増大した。約300秒後、吸光度変化はプラトーに達し、これはヘパリンを含まない血漿の値よりも明らかに低かった。ヘパリナーゼとのサンプルのインキュベーションを900秒に延長しても、調べられたヘパリンの抗FXa活性を完全に排除することはできなかった。ここで利用されるヘパリナーゼ含有量は、達したプラトーの絶対的高さをわずかな程度だけ調節した。図1A(FXaの添加前に混合物中でヘパリナーゼ0.275U/ml)及び図1B(FXaの添加前に混合物中でヘパリナーゼ0.7U/ml)を比較のこと。
【0032】
実施例2
凍結乾燥され、そして再構成されたヒトのクエン酸血漿を、Liquemin(登録商標)(図2A)又はFragmin(登録商標)(図2B)各々0.24IU/ml、0.48IU/ml、0.72IU/ml、1IU/ml及び1.2IU/mlでスパイクした。AT試薬(凍結乾燥され、そして再構成されたもの、1IU/ml)を、0U/ml〜5.5U/mlまでの漸増濃度のヘパリナーゼI(Dade(登録商標)Hepzyme(登録商標))と混合した。血漿サンプル20μlを、AT−ヘパリナーゼ試薬20μlと各々混合し、そして37℃で20秒間インキュベートした。次いでこの反応混合物を、第Xa因子試薬(実施例1を参照のこと)170μlと混合し、そして37℃で1分間インキュベートした。この反応を、基質試薬(実施例1を参照のこと)40μlの添加によって開始し、そしてANBAの形成を、実施例1にすでに記載されるように自動で検出した。AT−ヘパリナーゼ試薬との血漿の種々の反応混合物に対する1分間当たりの吸光度変化(ΔOD/分)を図2に示す。異なるヘパリナーゼ活性を用いた軟正曲線を、このようにシミュレートした。
【0033】
図2は、クエン酸血漿の種々のヘパリン濃度に対応して測定されたシグナル(ΔOD/分)の変化を示す。異なる曲線は、FXaの添加前の混合物中の異なるヘパリナーゼ活性を反映した。血漿を、図2AではUFH(Liquemin(登録商標))、及び図2BではLMWH(Fragmin(登録商標))でスパイクした。これらの図は、ヘパリナーゼ含有量が増大するにつれて、UFH及びLMWHの両方の軟正曲線は緩やかな勾配になるが、一方、等しいヘパリン含有量、すなわち等しいLiquemin(登録商標)又はFragmin(登録商標)活性に関して、分解の初速度は、LMWヘパリン(Fragmin(登録商標))よりもUFヘパリン(Liquemin(登録商標))の方が大きいことを示した。本実施例に示された最も高いヘパリナーゼ濃度を用いても、この軟正線は、ヘパリンの初期濃度に依存して線形の単調コースを示した。ヘパリンの抗FXa活性は、ヘパリナーゼを37℃で20秒間インキュベーションしても本実施例で選択された最も高いヘパリナーゼ活性により完全に排除することはできなかった。
【0034】
実施例3
例示的な試験設計を、UFH及びLMWHの均一な修飾能力、すなわち共通の軟正曲線の可能性を説明するためにここで選択した。
凍結乾燥され、そして再構成されたヒトのクエン酸血漿を、Liquemin(登録商標)又はFragmin(登録商標)各々0.24IU/ml、0.48IU/ml、0.72IU/ml、1.00IU/ml及び1.20IU/mlでスパイクした。AT試薬(凍結乾燥され、そして再構成されたもの、1IU/ml)を、ヘパリナーゼI(Dade(登録商標)Hepzyme(登録商標))(1.4U/ml)と混合し、一方ヘパリナーゼを添加されないAT試薬は、コントロールの役割をした。血漿サンプル20μlを、AT試薬20μlと各々混合し、そして37℃で20秒間インキュベートした。次いでこの反応混合物を、第Xa因子試薬(実施例1を参照のこと)170μlと混合し、そして37℃で1分間インキュベートした。この反応を、基質試薬(実施例1を参照のこと)40μlの添加によって開始し、そしてANBAの形成を、実施例1にすでに記載されるように自動で検出した。AT−ヘパリナーゼ試薬との血漿の種々の反応混合物に対する1分間当たりの吸光度変化(ΔOD/分)を図3に示す。
【0035】
図3は、クエン酸血漿の異なるヘパリン濃度に対して測定されたシグナル(ΔOD/分)の変化を示す。各場合の曲線は、ヘパリン(UFH又はLMWH)の組み合わせ及び選択されたヘパリナーゼ活性(従来技術に対応した基礎的試験として0U/ml、及び本明細書中に記載されている発明に対応して0.7U/ml)を記載している。図3は、Liquemin(登録商標)及びFragmin(登録商標)の例に関してヘパリナーゼを添加しない場合のUFH及びLMWHの軟正曲線からの逸脱を示す(黒符号)。ヘパリナーゼを含むAT試薬での軟正の実施は、種々のヘパリンの軟正曲線を互いに近づけさせる(白符号)。ヘパリン修飾成分の使用を通じて示される例においては、軟正曲線の勾配はより小さくなるが、測定されたシグナルと血漿中のヘパリン濃度との間に明白な線形関連がなお存在し、これにより、これらの軟正曲線に基づいて、血漿サンプル中のヘパリン濃度の正確な測定を可能にする。
【0036】
当業者は、一般的な専門知識を通じて、試験手順の型通りの変更によって(例えば、サンプル量を変化させることによって、FXa不活性化時間を変化させることによって、反応温度、pH、イオン強度又は他のパラメーターを変化させることによって)軟正曲線の勾配を変化させ得、そしてこれを試験の要件に適応させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1A】UFH(Liquemin(登録商標))及びLMWH(Fragmin(登録商標))を含む血漿の混合物において、FXaの添加前に混合物中でヘパリナーゼ0.275U/mlとしたヘパリナーゼ活性に対応してインキュベーション時間に渡って測定されたシグナル(ΔOD/分)の変化を示す。
【図1B】UFH(Liquemin(登録商標))及びLMWH(Fragmin(登録商標))を含む血漿の混合物において、FXaの添加前に混合物中でヘパリナーゼ0.7U/mlとしたヘパリナーゼ活性に対応してインキュベーション時間に渡って測定されたシグナル(ΔOD/分)の変化を示す。
【図2A】クエン酸血漿の種々のヘパリン濃度(UFH(Liquemin(登録商標))を用いた)に対応して測定されたシグナル(ΔOD/分)の変化を示す。
【図2B】クエン酸血漿の種々のヘパリン濃度(LMWH(Fragmin(登録商標))を用いた)に対応して測定されたシグナル(ΔOD/分)の変化を示す。
【図3】クエン酸血漿の異なるヘパリン濃度に対して測定されたシグナル(ΔOD/分)の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加された第Xa因子のヘパリン依存性不活性化が定量化され、第Xa因子の添加の前に、このサンプルをヘパリン修飾成分とインキュベートすることを包含する、液体サンプル中のヘパリン活性を測定する方法。
【請求項2】
サンプルが、第Xa因子の添加の前にヘパリナーゼ群由来の酵素、又はグルクロニダーゼ群由来の酵素、又はこれらの群のうちの1つ由来の異なる酵素の混合物、又は両方の群由来の異なる酵素の混合物とインキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルが、第Xa因子の添加の前にヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII又はそれらの混合物とインキュベートされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
サンプルが、第Xa因子の添加の前に混合物中で、0.05U/ml〜5.0U/mlの濃度、特に好ましくは0.25U/ml〜1.25U/mlの濃度でヘパリン修飾成分とインキュベートされる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
サンプルが、第Xa因子の添加の前にヘパリン修飾成分と10秒間〜900秒間、好ましくは15秒間〜90秒間、特に好ましくは20秒間〜60秒間インキュベートされる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
添加された第Xa因子のヘパリン依存性不活性化が、添加されたアンチトロンビンの存在下で定量化される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アンチトロンビンが、ヘパリン修飾成分と同時にサンプルに添加される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
さらに、硫酸デキストランがサンプルに添加される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
硫酸デキストランが、第Xa因子と同時にサンプルに添加される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ヘパリン活性が、体液サンプル中、好ましくは血液、血漿、血清又は尿中で測定される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
さらにサンプル中のヘパリン活性が、すべてのヘパリン変異体に好適であり、そして任意のヘパリンを用いてあらかじめ作成されている一般的な校正曲線によって、このサンプル中に存在するヘパリンの性質に関係なく定量化される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ヘパリン修飾成分を含む試薬及び第Xa因子を含む試薬を備える、請求項1に記載の方法を実施するための試験キット。
【請求項13】
第Xa因子の基質を含む試薬をさらに備える、請求項12に記載の試験キット。
【請求項14】
アンチトロンビンを含む試薬をさらに備える、請求項12または13に記載の試験キット。
【請求項15】
ヘパリン修飾成分及びアンチトロンビンを含む試薬を備える、請求項12または13に記載の試験キット。
【請求項16】
第Xa因子を含む試薬が硫酸デキストランをさらに含む、請求項12〜15のいずれか1項に記載の試験キット。
【請求項17】
アンチトロンビンを含む試薬が硫酸デキストランをさらに含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の試験キット。
【請求項18】
1つ又はそれ以上の試薬が凍結乾燥される、請求項12〜17のいずれか1項に記載の試験キット。
【請求項19】
請求項1に記載の方法を実施するための請求項12〜18のいずれか1項に記載の試験キットの使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−52020(P2007−52020A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219297(P2006−219297)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(398032751)デイド・ベーリング・マルブルク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (36)
【Fターム(参考)】