説明

ヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法

【課題】
ヘマトコッカス藻色素の安定化、特に耐光性を向上させる方法を提供する。
【解決手段】
ビタミンC並びに酵素処理イソクエルシトリン、ミリシトリン、クロロゲン酸、ルチン、イソクエルシトリン、ロスマリン酸、ロスマノール、カルノソール、カテキン類、酵素処理ルチン、没食子酸からなる群の1種以上を添加することにより、飲食品中のヘマトコッカス藻色素の耐光性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法に関する。詳細には、ビタミンC並びに酵素処理イソクエルシトリン、ミリシトリン、クロロゲン酸、ルチン、イソクエルシトリン、ロスマリン酸、ロスマノール、カルノソール、カテキン類、酵素処理ルチン、没食子酸からなる群の1種以上を添加することにより、ヘマトコッカス藻色素の耐光性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘマトコッカス藻色素は、Haematococcus pluvialis(別名:H.lacustris)から採取されるカロテノイド系色素であり、主成分はアスタキサンチンである。近年ではアスタキサンチンを生産する方法として、アグロバクテリウム属細菌(特許文献1)、ファフィア属酵母(特許文献2、特許文献3等)、ゴードニア属放線菌(特許文献4)等の菌を培養し採取する方法が開示されている。ヘマトコッカス藻色素が有する生理活性として、従来は養殖魚類の肉色向上剤として利用されていたが、最近では癌細胞の活動の低下(特許文献5)、抗酸化能(特許文献6)、血圧降下剤(特許文献7)、目の健康(特許文献8)等の効果が報告されており、現在最も注目されている食品素材の一つである。
【0003】
アスタキサンチンとは、水酸基を持つカロテノイド即ちキサントフィルの一種であり、ヘマトコッカスなどの藻類をはじめ、オキアミ、エビ、カニなどの甲殻類、サケ、タイ、コイ、金魚などの魚類、ファフィア酵母などに多く存在する天然の赤橙色の色素である。近年アスタキサンチンがビタミンEの100〜1000倍ともいわれる強力な抗酸化作用を持ち、活性酸素除去能、免疫賦活化、化学発ガン抑制作用を有することが報告されたことから、栄養補助食品、化粧品、食品などの幅広い分野で機能性素材として注目されつつある。
【0004】
しかしながら、ヘマトコッカス藻色素は上述のようにカロテノイド色素の一種であることから、その色調の変化が生じやすいことが問題となっている。係る色調の変化を防止し、ヘマトコッカス藻色素を含有する食品の商品価値を維持するために、様々な方法が検討されている。具体的には、アスタキサンチン含有物に、アラバノールとこうじ酸を作用させて魚肉練製品等の色を安定化させる方法(特許文献9)、ヒマワリ種子抽出物及び茶抽出物を有効成分として配合することによるカロチノイド系色素褪変色防止剤(特許文献10)、有機酸及び有機酸塩の少なくとも1種と没食子酸を有効成分とする製剤(特許文献11)、ファフィア色素油、ゼイン及び/又はグルテン、並びに溶媒の均一な混合物を調整し、その混合物から溶媒を除去して粉末化するアスタキサンチンを主要成分とするファフィア色素油の安定な粉末化物(特許文献12)、有機酸及び有機酸塩の少なくとも一種と没食子酸を有効成分として含有するアスタキサンチン色素含有食品の変色防止方法(特許文献13)等が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−58216号
【特許文献2】特開平4−228064号
【特許文献3】特開2004−208504号
【特許文献4】特開2004−89015号
【特許文献5】特開2005−513009号
【特許文献6】特開2005−21098号
【特許文献7】特開2004−520374号
【特許文献8】特開2003−238442号
【特許文献9】特開平8−332052号
【特許文献10】特開平10−94381号
【特許文献11】特開2002−218940号
【特許文献12】特開平7−99924号公報
【特許文献13】特開2002−218940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ヘマトコッカス藻色素の色調の変化、特に日光や蛍光灯の照射により生じる光による劣化を防止する方法については、未だに満足のいく解決策が開示されていないのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願出願人は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、本発明を得るに至った。即ち本発明は、ビタミンC並びに酵素処理イソクエルシトリン、ミリシトリン、クロロゲン酸、ルチン、イソクエルシトリン、ロスマリン酸、ロスマノール、カルノソール、カテキン類、酵素処理ルチン、没食子酸からなる群の1種以上の特定量をヘマトコッカス藻色素と混合することにより、ヘマトコッカス藻色素の耐光性を向上させる方法を提案するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、様々な食品に添加したヘマトコッカス藻色素の耐光性を向上させ、食品をヘマトコッカス藻色素により赤色に着色した際に、太陽光や蛍光灯の照射を受けることによる色調の劣化、即ちヘマトコッカス藻色素量の減少を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明で利用する各成分について詳細に説明する。
【0010】
本発明における主要成分としてのヘマトコッカス藻色素は、合成品又は天然品の何れであってもよく、ヘマトコッカス藻色素を含有する天然油の形態であってもよい。合成品には、化学合成品の他、微生物等によって製造されるものも包含される。天然品とは、ヘマトコッカス藻色素を含有する天然油から公知の方法、例えば圧搾、溶剤抽出、水蒸気蒸留、分子蒸留、超臨界流体抽出、カラムクロマトグラフィー等の方法によって抽出精製されたものを意味する。本発明における活性成分は、純品でも粗製品でもよい。より好ましくは、オレオレジンを超臨界流体抽出法、水蒸気蒸留法、分子蒸留法等による脱臭処理を行ったものを使用するほうが、製造直後及び保存後に匂いの発生が少なく有効である。これらの脱臭処理条件に格別の指定はなく、通常採用される超臨界抽出脱臭法、水蒸気蒸留による脱臭法、分子蒸留法による脱臭法をとることができる。超臨界流体抽出による脱臭方法の一例をあげると、温度20〜60℃、圧力80〜400気圧の範囲内で、超臨界状態の二酸化炭素を供給して抽出処理を行う。処理時間は適宜調節すればよく、通常1〜50時間、好ましくは5〜20時間が例示できる。
【0011】
超臨界流体抽出処理又はこれらの処理方法を適宜組み合わせて行うこともでき、ヘマトコッカス藻色素を含有する天然物に由来する臭気成分を効果的に除去することができるため、ヘマトコッカス藻色素の組成物を調製した際、及び該組成物を食品に添加しても、臭気による組成物及び飲食品などの価値の低減を防止することができる。
【0012】
さらに、本発明に用いられるヘマトコッカス藻色素は、ヘマトコッカス藻色素を安定に保持するための天然物由来の油中分散・溶解された状態のものを使用してもよい。具体的には、海藻、微生物、動物、植物等のあらゆる起源に由来するもの、例えば魚油(例えばイカ油、イワシ油、オキアミ油、カツオ油、サバ油、サケ油、サンマ油、タラ油、マグロ油等)、卵黄油、藻類由来の油等が挙げられる。
【0013】
次いで、本発明で使用するビタミンCは、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸塩、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等を概念として含み、これらの化合物の1種以上からなる、一般に入手可能な製剤を利用することができる。
【0014】
ビタミンCと併用する酵素処理イソクエルシトリン、ミリシトリン、クロロゲン酸、ルチン、イソクエルシトリン、ロスマリン酸、ロスマノール、カルノソール、カテキン類、酵素処理ルチン、没食子酸は、いずれも市販されているものを制限無く利用することができる。カテキン類の例としては、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン−3−ガレート、エピガロカテキン−3−ガレートが挙げられ、これらを適宜組み合わせて利用できる。簡便には、茶葉からの抽出物を利用することができる。特に好ましいのは酵素処理イソクエルシトリンであり、これはポリフェノールの1種であるイソクエルシトリンを酵素処理して得られるものである。簡便には一般に入手可能な製剤である三栄源エフ・エフ・アイ(株)製のサンメリンAO−1007(酵素処理イソクエルシトリン含量15%)及びサンメリンパウダーC−10(酵素処理イソクエルシトリン含量15%)を利用することができる。
【0015】
酵素処理イソクエルシトリン、ミリシトリン、クロロゲン酸、ルチン、イソクエルシトリン、ロスマリン酸、ロスマノール、カルノソール、カテキン類、酵素処理ルチン、没食子酸の他に、これらを含有することが知られている各種の抽出物を利用してもよい。具体的には、エンジュ抽出物、ヤマモモ抽出物、水溶性ローズマリー抽出物、油溶性ローズマリー抽出物、シソ抽出物、ダッタンソバ抽出物、コメヌカ油抽出物、コメヌカ酵素分解物、生コーヒー豆抽出物、ヒマワリ種子抽出物、南天の葉、サツマイモ、小豆、ナス、茶葉、桑の葉、カカオ豆、五倍子、大麦などの天然物から抽出したエキス類を挙げることができる。
【0016】
ビタミンCは、ヘマトコッカス藻色素を含有する飲料、ゼリー、菓子類、畜肉水産加工品等の飲食品や医薬品等の対象物に対し、50ppm以上添加すればよい。一方の酵素処理イソクエルシトリンなどは、対象物に対し0.001〜0.1質量%の範囲で、ヘマトコッカス藻色素とともに対象物に添加すればよい。係る範囲以外の添加量とすると、ヘマトコッカス藻色素の光による劣化を十分に抑制することができず、本発明の効果を得ることができない。
【0017】
ビタミンCと酵素処理イソクエルシトリンなどを上記配合割合で予め混合しておき、本発明の効果を奏する製剤としてもよい。係る製剤は、ビタミンCと酵素処理イソクエルシトリンなどの粉末、水溶液を混合したものなど、公知の技術により製剤としたものが例示できる。
【0018】
そして、ビタミンCと酵素処理イソクエルシトリンなどを上記配合割合で含む製剤をヘマトコッカス藻色素を含む飲食品などに添加することにより、本発明の効果が享受できる。即ち本発明の効果を享受するためには、ビタミンCと酵素処理イソクエルシトリンなどを含む製剤或いはそれぞれの成分を、ヘマトコッカス藻色素を含有する飲食品などの製造原料の一つとして加え、通常の工程に従って飲食品などを製造すればよく、特定の製造設備等を設ける必要がないため、工業的にも容易に実施することができる。
【0019】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「質量%」を意味するものとする。
【実施例】
【0020】
下記の処方に基づき、ヘマトコッカス藻色素含有飲料を調製し、ヘマトコッカス藻色素の主成分であるアスタキサンチンの残存量の測定を行った。
【0021】
尚、処方で使用したヘマトコッカス藻色素は、アスタキサンチン含量が0.5質量%であるアスタレッドNO.35324(EM)を使用し、酵素処理イソクエルシトリンは含量15質量%の三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製サンメリンAO−1007を使用した。処方中の添加量は、いずれもアスタキサンチン、酵素処理イソクエルシトリンの添加量である。
【0022】
飲料の処方 (部)
果糖ブドウ糖液糖 8
クエン酸(無水) 0.1
クエン酸三ナトリウム 0.04
ビタミンC 所定量
酵素処理イソクエルシトリン 所定量
ヘマトコッカス藻色素 0.1
イオン交換水にて全量 100
【0023】
上記処方により得られた飲料を200ml容ペットボトルに充填し、次の条件に曝してアスタキサンチンの残存率を測定した。
【0024】
実験1では、ビタミンCのみを添加した際の光照射によるアスタキサンチンの残存率を測定し、実験2ではビタミンCの有無と酵素処理イソクエルシトリンを添加した際の光照射によるアスタキサンチンの残存率を測定した。
【0025】
実験1 ビタミンC添加の影響
VC添加量 : 0,50,100,250,500, 1000(ppm)
光照射装置 : キセノンフェードメーターXWL-75R(スガ試験機(株)製)
照射エネルギー : 265Langley、533Langley
【0026】
実験2 酵素処理イソクエルシトリンの添加効果
VC添加量 : 0,100 (ppm)
酵素処理イソクエルシトリン添加量 : 500,1000 (ppm)
光照射装置 : キセノンフェードメーターXWL-75R(スガ試験機(株)製)
照射エネルギー : 265Langley、533Langley
【0027】
<評価方法>
・アスタキサンチン含量測定方法
飲料約30gを精密に秤取り、これに飽和食塩水50gを加え、n−ヘキサンにて抽出した。この操作を下層が透明になるまで(2〜3回)繰り返し、n−ヘキサン層を集めて水にて2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、ナスフラスコに入れ、エバポレータにて濃縮乾固した。これをアセトンにて50mlにメスアップして試験液とし、アセトンを対照として液層の長さ10mmで473nm付近の極大吸収波長における吸光度(A)を測定し、次式によりビタミンC添加によるアスタキサンチンの残存率を算出した。

アスタキサンチン含量(ppm)=(吸光度(A)× 500.000/2,100×飲料秤取量(g))×0.98

その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
*表中数値 : アスタキサンチン残存率(%)
【0030】
表1の結果より、ビタミンCを50ppm以上添加することで、無添加の場合よりもアスタキサンチンの残存率は向上するが、ビタミンCの添加量が増加するにつれてアスタキサンチンの残存率が低下していくことが認められ、ビタミンC単独の添加では十分なアスタキサンチンの残存率の向上は図れなかった。
【0031】
次いで、ビタミンCの添加量が0及び100ppmの場合における酵素処理イソクエルシトリンを500ppm、1000ppm添加した場合のアスタキサンチンの残存率を測定した。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
*表中数値 : アスタキサンチン残存率(%)
残存率(%) = 照射後飲料のアスタキサンチン含量/未照射飲料のアスタキサンチン含量 ×100
【0034】
表2の結果より、ビタミンCと酵素処理イソクエルシトリンを併用することにより、両者による相乗効果から、飲料中に含まれるアスタキサンチンの残存率を、飛躍的に向上させることが可能となることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンC並びに、酵素処理イソクエルシトリン、ミリシトリン、クロロゲン酸、ルチン、イソクエルシトリン、ロスマリン酸、ロスマノール、カルノソール、カテキン類、酵素処理ルチン、没食子酸からなる群の1種以上を添加することを特徴とするヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法。
【請求項2】
ビタミンCの配合量が50ppm以上で、酵素処理イソクエルシトリン、ミリシトリン、クロロゲン酸、ルチン、イソクエルシトリン、ロスマリン酸、ロスマノール、カルノソール、カテキン類、酵素処理ルチン、没食子酸からなる群の1種以上の添加量が0.001〜0.1質量%である、請求項1記載のヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法。
【請求項3】
ヘマトコッカス藻色素を含有する組成物に対し、ビタミンCを50ppm以上含有し、かつ、酵素処理イソクエルシトリン、ミリシトリン、クロロゲン酸、ルチン、イソクエルシトリン、ロスマリン酸、ロスマノール、カルノソール、カテキン類、酵素処理ルチン、没食子酸からなる群の1種以上を0.001〜0.1質量%含有することを特徴とする、ヘマトコッカス藻色素の耐光性向上剤。

【公開番号】特開2008−131888(P2008−131888A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320296(P2006−320296)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】