説明

ヘモグロビン含有リポソームの製造方法および包装体

【課題】簡易な工程により脱酸素化を実施することができ、メト化率の低いヘモグロビン含有リポソームおよびその包装体を効率よく製造することができ、リポソームの外表面を親水性高分子で修飾する場合であっても、簡素な工程で、修飾のための加熱工程でのヘモグロビンのメト化を抑制しつつ表面修飾剤の使用量に対し高い導入効率を達成することができるヘモグロビン含有リポソームの製造方法およびメト化率が低く、保存時のヘモグロビンのメト化抑制効果も有するヘモグロビン含有リポソームの包装体の提供。
【解決手段】(1)ヘモグロビン含有リポソームを準備し、(2)亜硫酸塩類を1〜40mg/mL-リポソームの量で添加し、pH6.0〜8.0の条件下で、ヘモグロビン含有リポソームと亜硫酸塩類とを接触させて脱酸素化する。
【選択図面】なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビン含有リポソームの脱酸素化方法を含むヘモグロビン含有リポソームの製造方法、低メト化率のヘモグロビン含有リポソームの包装体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術、出血性ショック等の輸血を必要とする病態あるいは脳、心筋等の虚血性疾患のような局所への酸素供給を必要とする病態における血液代替物もしくは治療薬として、安全でかつ効果的な酸素供給源であるヘモグロビンの利用が検討されている。動物あるいはヒトの赤血球は、赤血球膜(ストローマ)などの膜成分を除去してストローマフリーヘモグロビン(SFH)とし、これに架橋、重合などの化学的修飾を施して人工赤血球(代用血液)として、あるいは脂質膜小胞体内に取り込んで人工酸素運搬体として利用することが検討されてきた。特に、ヘモグロビンをリポソームカプセル内に封入して製剤(ヘモグロビン含有リポソーム)化すれば、遊離ヘモグロビンに比べてヘモグロビンの生体内半減期が長く、かつ末梢への酸素運搬能が優れていることから、最近、その開発が盛んに行われている。
【0003】
ヘモグロビンの酸素運搬能は、ヘモグロビンと、酸素分子との可逆的結合(可逆的酸素化過程)によるものである。この可逆的酸素化過程では、ヘム鉄が2価に保たれているヘモグロビン(Fe2+)は酸素結合能を有するが、ヘモグロビン自体は、徐々に酸化(メト化)されて酸化型ヘモグロビン(メトヘモグロビン)となる。ヘム鉄が3価のメトヘモグロビン(Fe3+)は酸素結合能を有さない。このため、ヘモグロビン含有リポソームを生体内に投与するための人工酸素運搬体として機能させるためには、メトヘモグロビン含有率は低いことが望ましい。しかしながら、ヘモグロビン含有リポソームは、ヘモグロビンのリポソーム製剤化過程の機械的、熱的ストレスにより生成するメトヘモグロビンを含むことが知られている。
【0004】
またヘモグロビン含有リポソームは、酸素不透過性の密封容器内で冷蔵保存しても徐々に酸化され、経時的にメト化率が増加することが知られている。この原因の1つは、リポソームカプセル内に封入されるストローマフリーヘモグロビンが、天然赤血球のもつ可逆的酸素化過程によるヘモグロビンの酸化を抑制する還元機構を、赤血球からの分離・精製過程で消失することによる。このため、赤血球由来の代謝酵素系の活性を残存させた状態でストローマフリーヘモグロビン溶液を調製し、解糖系酵素の基質、補酵素等を加えてリポソームカプセル化することにより、ヘモグロビン含有リポソーム保存時のメト化を抑制することが提案されている(特許文献1〜2参照)。しかし、この方法では、ヘモグロビンのリポソーム製剤化過程で生成したメトヘモグロビンまで還元することは難しい。
【0005】
上記ヘモグロビン(Fe2+)の酸化速度は酸素分圧と相関があり、オキシ型(各ヘムがそれぞれ1個の酸素分子を結合した状態)ヘモグロビンのリポソーム製剤は冷蔵保存してもヘム鉄は徐々にメト化するが、デオキシ型(各ヘムが酸素を結合していない状態)ヘモグロビンのリポソーム製剤ではヘム鉄の酸化反応は進行しないことが知られている。 このため、ヘモグロビンのリポソーム製剤あるいは化学修飾したヘモグロビン溶液を、酸素を含まない窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスで曝気して酸素をパージする方法が提案されている。たとえばジアスピリン架橋ヘモグロビンなどの代用血液を、酸素除去条件下、常温で数日から2ヶ月貯蔵して、製造工程において生成したメトヘモグロビンをヘモグロビンに自動還元させる方法(特許文献3参照)、ヘモグロビン含有リポソームから酸素を除去し、ヘモグロビンをデオキシ型にすることが提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら不活性ガスによる酸素除去方法は、化学修飾またはリポソーム製剤形態のヘモグロビン溶液を酸素不透過性の密封性容器中に封入後、不活性ガスをバブリングするか、酸素透過膜を介して不活性ガスを外側に通気することにより酸素を除去するなど、煩雑な操作を必要する。さらに、酸素と結合しやすいヘモグロビンを脱酸素するには操作に長時間を要する上、完全な脱酸素状態を達成しにくいなど、不活性ガスによる酸素除去方法により安定した製品の供給には困難を伴う。
【0006】
また、従来、リポソーム製剤化技術として、リポソーム脂質膜の表面修飾も検討されている。なかでも、ポリエチレングリコールなどの親水性高分子鎖によるリポソーム表面の修飾は、リポソームの安定性を向上させ、リポソームの血漿中での凝集防止効果および血中滞留性を長引かせる効果をもたらすことが知られており、ヘモグロビン含有リポソームについてもその適用が提案されている(たとえば特許文献5など参照)。このような親水性高分子鎖による表面修飾では、リポソームカプセルの外表面の修飾が有効的である。リポソーム外表面の修飾は、予め作製したリポソーム製剤に、親水性高分子鎖を有する表面修飾剤、通常、親水性高分子の脂質誘導体を加えることにより達成することができる。この表面修飾剤の導入は、リポソームを構成するリン脂質の相転移温度以上に加熱すれば効率よく行うことができる。しかしながら内水相にヘモグロビン溶液を含むリポソーム製剤の加熱処理には、ヘモグロビンの熱変性およびメトヘモグロビン生成の課題が付随する。
【特許文献1】特開平6-321802号公報
【特許文献2】特開平8-3062号公報
【特許文献3】特許第2709419号公報
【特許文献4】特許第3466516号公報
【特許文献5】特開平2-149512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みて、ヘモグロビン溶液の簡便かつ効率的な脱酸素化工程、さらにはメトヘモグロビンの自動還元工程を含み、メトヘモグロビン含有量の少ないヘモグロビン含有リポソームを得ることができるヘモグロビン含有リポソームの製造方法を提供することを目的としている。
本発明は、上記ヘモグロビン含有リポソームとして、外表面に親水性修飾基をもつ態様のヘモグロビン含有リポソームを製造する場合にも、製造工程全体を簡易にかつ速やかに行うことができ、ヘモグロビンの熱変性およびメトヘモグロビンの生成を抑制することができる低メト化ヘモグロビン含有リポソームの製造方法を提供することをも目的としている。
また本発明は、長期にわたり低メト化率を保持しうるヘモグロビン含有リポソームの製品形態として低メト化ヘモグロビン含有リポソームの包装体、さらにはその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ヘモグロビン含有リポソームの脱酸素化工程を簡易に実施しうるものとして、亜硫酸塩類を用いる脱酸素化方法に着目して検討したところ、ヘモグロビン含有リポソームに、1〜40mg/mL-リポソームの量の亜硫酸塩類を添加し、かつpH6.0〜8.0の条件下で両者を接触させることにより、ヘモグロビン含有リポソームの脱酸素効果が飛躍的に向上するという知見を得た。具体的には、酸素分圧を10torr以下に低下させることができ、好ましくは実質的にほぼ完全脱酸素が可能であるだけでなく、これを無加熱でも30分以内に実現することもできることが確認できた。なお亜硫酸塩類は、従来脱酸素剤として公知であるが、たとえば亜硫酸ナトリウムの水溶液(40mg/mLの水溶液でpH8.6)あるいは亜硫酸水素ナトリウムの水溶液(40mg/mLの水溶液でpH4.5)を添加したままでpH調整せずヘモグロビン含有リポソームと接触させた場合には、500分を要しても、酸素分圧を20torr程度まで低下させるのが限界である。亜硫酸塩類を添加する前のヘモグロビン含有リポソームは、外水相が通常生理食塩水(pH7.4)であるため、予め亜硫酸塩類の水溶液をpH6.0〜8.0に調整して使用すれば、ほぼ上記接触系のpHとすることができる。
【0009】
また上記特定pHに調整された亜硫酸塩類を含むヘモグロビン含有リポソームは、加熱すれば、メトヘモグロビンの自動還元反応が促進されることも確認することができた。したがってこのメトヘモグロビンの自動還元促進のための加熱工程を、親水性高分子によるリポソーム外表面修飾のための加熱工程として利用すれば、外表面が親水性高分子により修飾された形態のヘモグロビン含有リポソームを意図する場合であっても、加熱工程を増加することなく製造工程全体を効率よく実施することができるとともに、加熱によるメトヘモグロビンの生成を回避し、またヘモグロビンの熱変性を極力避けることができる。またこの加熱により、ヘモグロビン含有リポソームの親水性高分子による表面修飾を効率よく行うことができることから、表面修飾剤の使用量に対する高い導入効率を達成することができる。これらにより、上記課題を一挙に解決しうることを見出して、以下に列挙する本発明を完成した。
【0010】
本発明の第1の態様として、下記工程を含む脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソームの製造方法を提供する。
(1)ヘモグロビン溶液をリポソームカプセルの内水相として含ませたヘモグロビン含有リポソームを準備し、
(2)前記ヘモグロビン含有リポソームに、亜硫酸塩類を1〜40mg/mL-リポソームの量で添加し、pH6.0〜8.0の条件下で、ヘモグロビン含有リポソームと亜硫酸塩類とを接触させることにより、前記ヘモグロビン含有リポソームを脱酸素化する。
【0011】
上記亜硫酸塩類を含み、かつpH6.0〜8.0のヘモグロビン含有リポソーム系は、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸およびリン酸などの酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸塩およびアンモニウム塩などのアルカリ類から選ばれる1または2以上のpH調整剤を含む。これらのうちでも、通常、クエン酸、塩酸、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムまたはこれらの組み合わせが用いられる。
【0012】
上記工程(2)の接触は、予めpH6.0〜8.0に調整した20mg/mL〜800mg/mLの亜硫酸塩類の水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに添加して行われる上記ヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【0013】
上記工程(2)において、酸素濃度10torr以下に脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソームを得る上記ヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【0014】
上記工程(2)後のヘモグロビン含有リポソームに、0.001〜2mg/mLの亜硫酸塩類の水溶液を添加し、脱酸素状態でヘモグロビン含有リポソームの外水相を置換することにより、ヘモグロビン含有リポソームの亜硫酸塩類濃度を0.01〜1mg/mL-リポソームに低下させる、外水相の濃度調整工程(4)をさらに含む上記ヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【0015】
上記工程(2)で脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソームを、55〜80℃で加熱し、ヘモグロビン含有リポソーム中に含まれるメトヘモグロビンの自動還元を加速する工程(3)をさらに含む上記ヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【0016】
上記工程(3)の後に、メト化率10%以下のヘモグロビン含有リポソームを得る上記ヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【0017】
上記工程(3)後のヘモグロビン含有リポソームに、0.001〜2mg/mLの亜硫酸塩類の水溶液を添加し、脱酸素状態でヘモグロビン含有リポソームの外水相を置換することにより、ヘモグロビン含有リポソームの亜硫酸塩類濃度を0.01〜1mg/mL-リポソームに低下させる、外水相の濃度調整工程(4)をさらに含む上記ヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【0018】
上記工程(3)に先だって、脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソームに、親水性修飾基を含む表面修飾剤を加え、リポソーム外表面を親水性修飾基で修飾し、脱酸素状態で、かつ外表面が親水性修飾基で修飾されたヘモグロビン含有リポソームを前記工程(3)に供する上記ヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【0019】
上記親水性修飾基は、好ましくは親水性高分子鎖であり、通常、親水性高分子の脂質誘導体の形態でリポソームカプセルの脂質膜に導入することができる。親水性高分子鎖は、分子量500〜10,000のポリエチレングリコールからなることが好ましい。
【0020】
本発明の第2の態様として、上記いずれかの製造方法で得られるヘモグロビン含有リポソームを、酸素透過性容器に充填し、酸素吸収剤とともに酸素不透過性容器で密封包装した後、55℃〜80℃で加熱するヘモグロビン含有リポソーム包装体の製造方法。
【0021】
本発明の第3の態様として、0.01〜1mg/mL-リポソームの亜硫酸塩類、および該亜硫酸塩類を含むヘモグロビン含有リポソームのpHをpH6.0〜8.0に調整するpH調整剤を含み、酸素濃度10torr以下であって、かつリポソームカプセルの内水相としてメト化率10%以下のヘモグロビン溶液を含むヘモグロビン含有リポソームを充填した酸素透過性容器と、酸素吸収剤とを酸素不透過性容器内に密封包装したヘモグロビン含有リポソームの包装体を提供する。
【0022】
上記pH調整剤は、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸塩、アンモニウム塩から選ばれる1または2以上の化合物である上記包装体。pH調整剤は、上記のうちでも、通常、クエン酸、塩酸、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムまたはこれらの組み合わせである。
【0023】
前記ヘモグロビン含有リポソームは、その外表面が親水性修飾基好ましくは親水性高分子鎖で表面修飾されたものである上記包装体。
上記親水性高分子鎖は、通常、親水性高分子の脂質誘導体の形態でリポソームカプセルの脂質膜に導入されている。親水性高分子鎖は、分子量500〜10,000のポリエチレングリコールからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
上記のような本発明によれば、簡易な工程により脱酸素化を実施することができ、メト化率の低いヘモグロビン含有リポソームおよびその包装体を効率よく製造することができる。また、ヘモグロビン含有リポソームの外表面を親水性高分子で修飾する場合であっても、簡素な工程で、修飾のための加熱工程でのヘモグロビンのメト化を抑制しつつ表面修飾剤の使用量に対し高い導入効率を達成することができる。
本発明で提供するヘモグロビン含有リポソームの包装体は、メト化率の低いヘモグロビン含有リポソーム製品として提供されるだけでなく、その保存時のヘモグロビンのメト化抑制効果も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
リポソームは、リン脂質二重膜からなり、脂質の疎水性基と親水性基との極性に基づいて生ずる膜により外界から隔てられた空間を形成する構造を有する閉鎖小胞(リポソームカプセル)の水性分散液である。膜を隔てて閉鎖小胞内外の水相は、それぞれ内水相、外水相と称される。ヘモグロビン含有リポソームは、リポソームカプセル内にヘモグロビンを取り込んだリポソーム製剤である。
本発明に係るヘモグロビン含有リポソームの製造方法では、(1)ヘモグロビン含有リポソームを準備し、これに(2)脱酸素化処理を加える。
【0026】
(1)ヘモグロビン含有リポソームの調製工程
ヘモグロビン含有リポソームは、リン脂質を含む膜成分からリポソーム(分散液)を調製する常法により、内水相としてヘモグロビン溶液を含ませることにより調製することができる。
リポソームの膜基材であるリン脂質は、生体膜の主要構成成分であり、分子内に長鎖アルキル基から構成される疎水性基とリン酸基より構成される親水性基のグループを持つ両親媒性物質である。リン脂質は、上記構造のリポソームを形成しうるものであれば、天然または合成のいずれのものでも使用可能であり、たとえば、フォスファチジルコリン(レシチンと称することもある)、フォスファチジルエタノールアミン(略称PE)、フォスファチジン酸、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルグリセロール、さらにスフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質、カルジオリピンなどの天然あるいは合成のリン脂質もしくはこれらの誘導体、糖類を結合させた誘導体(糖脂質)およびこれらの水素添加物(飽和リン脂質)などを挙げることができる。
これらのうちでも、飽和リン脂質が好ましく、その具体例として、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジン酸、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリンなどの水素添加物が挙げられ、特に、これらが卵黄あるいは大豆由来であって、水素添加率が50%以上のものが好ましい。
【0027】
膜基材のリン脂質として、上記の単一種を用いてもよく、複数種を用いてもよい。たとえば、飽和リン脂質とともに、荷電性のフォスファチジン酸、フォスファチジルグリセロール、ジセチルフォスフェートなどを用いてもよい。
リポソームは、保存時にあるいは血液などの生体中で内水相が容易に漏出しないようにするため、相転移点が生体内温度(35〜37℃)より高い膜基材を用いることが好適である。膜基材の相転移点は、通常50〜60℃であることが好ましい。なおリポソーム形成時に高温に曝すことは、内包するヘモグロビンに変成などのダメージを与える可能性があるため、リポソーム形成工程の温度は45〜55℃程度が好ましい。
【0028】
また上記膜基材のリン脂質とともに、上記膜構造を保持しうるものであって、リポソームに含むことができる他の膜成分を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜に併用することができる。他の膜成分としては、リン酸基を分子内に含まない脂質、たとえばグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、コレステロールおよびコレスタノール類などのステロール類、これらの水素添加誘導体、脂肪酸などを挙げることができる。
リン脂質と他の脂質との混合脂質をリポソームの膜成分とすることも好ましく、たとえばリン脂質、コレステロールおよび脂肪酸の混合脂質を好ましく挙げることができる。混合比は、リポソームカプセル形態を損なわない範囲で適宜に選択することができる。これらをリン脂質と混合することで、上記リン脂質の相転移温度を下げることが可能であり、60℃以下でも効率よくリポソームを形成することが可能となる。
【0029】
本発明では、上記脂質膜の表面修飾剤、特に親水性基を含む表面修飾剤を用いることもできる。たとえば親水性高分子鎖を有する表面修飾剤;グルクロン酸、シアル酸、デキストラン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどの水溶性多糖類などが挙げられる。
これらのうちでも、親水性高分子鎖を有する表面修飾剤が好ましく使用される。特に、親水性高分子鎖を有する表面修飾剤である場合には、予めヘモグロビン含有リポソームを作製した後表面修飾剤を添加することにより、リポソーム(カプセル)の脂質膜の外表面から外水相側に親水性高分子鎖を延在させることが好ましい。親水性高分子鎖によるリポソーム膜外表面の修飾は、リポソームの安定性を向上させ、リポソームの血漿中での凝集防止効果および血中滞留性を長引かせる効果をもたらす。またリポソーム膜の外表面を選択的に修飾すれば、膜の内外両側を表面修飾する場合に比べて、少ない量の親水性高分子の効果を得ることができる。親水性高分子鎖を有する表面修飾剤は、リポソーム表面への蛋白吸着抑制剤としても知られている(特開平2-149515号参照)。なお、リポソーム膜の内外両方の膜に親水性高分子の脂質誘導体を導入する場合には、親水性高分子の脂質誘導体を脂質と混合してリポソームを作製すればよい。
親水性高分子鎖を有する表面修飾剤としては、親水性高分子の脂質誘導体が好ましい。
【0030】
親水性高分子鎖部分としては、特に限定されないがポリエチレングリコール、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアスパルトアミド、合成ポリアミノ酸などが挙げられる。
これらの中でも、ポリエチレングリコール(PEG)は、血中滞留性を向上させる効果があり、好ましい。PEGの分子量は、特に限定されないが、通常、500〜10,000程度である。なお「血中滞留性」とは、薬剤担体を投与した宿主において、担体に担持された状態の薬剤が血液中に存在する性質を意味する。
【0031】
親水性高分子脂質誘導体の脂質(疎水性部分)としては、上記リポソーム膜の形成脂質と同様なものが例示され、特に限定されないが、リン脂質、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。たとえば、親水性高分子がポリエチレングリコール(PEG)である場合の汎用品として入手容易な親水性高分子の脂質誘導体を例示すると、ポリエチレングリコール-フォスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)、ポリエチレングリコール-コレステロール、ポリエチレングリコール-ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)などが挙げられる。
これら疎水性部分のアルコール性残基と、前記PEGとが、エーテル、エステル、カルバメート、ウレタン結合したPEG付加型非イオン界面活性剤、PEGとリン脂質とが共有結合したPEG結合リン脂質が特に好ましい。
【0032】
上記脂質膜からなるリポソームカプセル内に内水相として取込むヘモグロビン溶液は、ヒトまたは動物血液由来のヘモグロビンを利用して調製することができる。またこれらのヘモグロビンと同等の遺伝子組換え等のバイオテクノロジー技術により生産したヘモグロビンを利用することもできる。
ヘモグロビン原料が天然血液である場合には、赤血球膜(ストローマ)の破壊すなわち溶血後、ストローマおよび血液型物質などの赤血球細胞基質を分離除去し、ストローマフリーヘモグロビン(SFH)とした後、精製、濃縮などの処理を行って、リポソーム製剤化に適切な安全で高純度のストローマフリーヘモグロビン溶液(SFH溶液)を調製する。以下では、リポソームカプセル内に取込むストローマフリーヘモグロビン溶液を、単にヘモグロビン溶液とも称する。
【0033】
溶血処理は、ヘモグロビンを変質させない条件であれば特に限定されない。たとえば、従来一般的に実施されている浸透圧法により行うことができる。
浸透圧法による溶血を含むSFH溶液の調製工程は、代表的には、1)採取した天然血液全血から血小板、白血球、血漿成分を除去して赤血球のみを分離・洗浄し、2)蒸留水または低張緩衝液(たとえばリン酸緩衝液)を多量に添加してストローマを破壊(溶血)し、3)ストローマおよび血液型物質などの赤血球細胞基質を除去することにより、高純度ヘモグロビン溶液(SFH溶液)を得た後、4)該溶液の電解質濃度を正常な生体レベルに調整する工程を順次に含む。これら工程の詳細はたとえば特開平2-178233号公報に記載されており、そこに記載された説明を引用して本明細書の記載とすることができる。
【0034】
上記のような天然由来のヘモグロビン溶液をリポソーム製剤化するにあたっては、公知のろ過ないし加熱方法を適用して無菌性を保証するとともに、ウィルス除去・不活化により製剤を安全性を保証することが望まれる。
ウィルスの除去または不活化方法は、ヘモグロビンたんぱく質を実質上変性させない方法であれば公知の方法を広く利用することができる。たとえば限外ろ過膜あるいはウィルス除去膜によるウイルス除去処理、加熱処理、マイクロウエーブ照射による短時間熱処理、紫外線照射処理、ジメチルメチレンブルー(DMMB)などの光増感物質を利用する光増感作用を利用した処理、ソルベント・デタージェント(Solvent Detergent:SD)法などの不活化処理がある。
本発明では、これらのうちでも、ヘモグロビン溶液の65℃以上で10時間の加熱もしくはソルベント・デタージェント法によるウイルス不活化処理、分画分子量が10〜30万程度の限外ろ過膜あるいはウィルス除去膜(旭化成 BMM-15,35等)によるウイルス除去処理が好ましく行われる。
【0035】
精製後のヘモグロビン溶液は、通常30〜60%の濃度でリポソームカプセル内に取り込むことが望ましく、好ましくは45%〜50%である。この濃度とするための濃縮には、分画分子量1万程度の限外ろ過フィルターを用いた限外濃縮、ダイアライザーなどを使用することができる。
また、このヘモグロビン溶液は、通常pH6.5〜8.0である。
【0036】
上記ヘモグロビン溶液には、ヘモグロビンの酸化抑制を目的とする物質を含ませることができる。この目的で添加される物質は、特に制限を受けるものではないが、天然赤血球の有する解糖系、ペントースリン酸回路等の糖代謝系中間体、ヌクレオチド代謝系中間体などが挙げられる。特に、ウィルス膜処理後にも保持されているヌクレオチド代謝経路を有効的に利用してメトヘモグロビン還元機構を構築しうる成分の添加が好ましい。このような成分として、たとえば、イノシン、イノシン酸、グリセルアルデヒド-3-リン酸、リボース-1-リン酸、グアノシンなどの解糖系酵素の基質が用いられる。これらとヌクレオチド代謝系中間体との併用も例示される。ヌクレオチド代謝系中間体は、NAD、NADH、NADPHなどの補酵素である。これらの添加量は、通常、ヘモグロビンに対する適宜の量比で用いることができる。ヘモグロビン濃度および用いられる物質などによってその使用量も異なるが、たとえば、補酵素は、45%ヘモグロビン溶液(=ヘモグロビン7mmol/L溶液)のヘモグロビン7mmolに対して、通常0.05〜1mmol、好ましくは0.1〜0.2mmolの量で、上記解糖系酵素の基質は通常2〜12mM、好ましくは4〜8mMの量で用いることができる。
また、2,3-ジフォスフォグリセレート(2,3-DPG)、ピリドキサールリン酸(PLP)、イノシトールヘキサリン酸(IHP)などのリン酸化合物をアロステリックエフェクターとして添加してもよい。
【0037】
上記のような成分の添加により、リポソームカプセル内に取込まれるヘモグロビン溶液のpHは、通常pH6.5〜8.0程度である。
ヘモグロビン溶液のリポソームカプセル内への取込みは、常法にしたがえばよいが、たとえば膜成分の脂質を水和させ、ヘモグロビン溶液と高速撹拌機で撹拌すればリポソームカプセルの分散した懸濁液を得ることができる。この懸濁液を遠心分離して取込まれなかったヘモグロビン溶液を上澄みとして除去した後、生理食塩水で洗浄し、ろ過による滅菌後、生理食塩水などの等張液を外水相として、通常、ヘモグロビン濃度4〜10%の分散液を得る。
【0038】
上記のように準備されるヘモグロビン含有リポソームのメトヘモグロビン(MetHb)含有率(ヘモグロビンのメト化率)は、通常1〜10%程度である。なお、ヘモグロビンのメト化率は、分光法を用いて後述の実施例に示す式により求めることができる。
【0039】
本発明では、外表面が親水性高分子鎖で表面修飾されたヘモグロビン含有リポソームを好ましい形態として製造するが、この態様では、表面修飾工程として以下の脱酸素化工程(2)および自動還元工程(3)を利用することが好ましい。この際には、脱酸素剤を添加するに先立って、ヘモグロビン含有リポソームに、前述した親水性高分子鎖を含む表面修飾剤を加えることが可能である。あるいは脱酸素化処理したヘモグロビン含有リポソームに、表面修飾剤を加えてもよい。後者の場合には、表面修飾剤を予め脱酸素剤を含ませて脱酸素化した溶液として、脱酸素化ヘモグロビン含有リポソーム製剤に添加すれば、脱酸素状態で表面修飾を行うことができ、好ましい。また工程(2)に次いで予め工程(4)を行った後のヘモグロビン含有リポソームに表面修飾剤を加え、工程(3)に供してもよい。この表面修飾剤のヘモグロビン含有リポソームへの添加量は、特に限定されないが、表面修飾されたヘモグロビン含有リポソームが凝集したり、血液中で凝集することなく安定化して、十分な血中滞留時間を達成される濃度以上の添加量が好ましく、通常0.01〜10mass%、好ましくは0.1〜5mass%程度である。
【0040】
(2)脱酸素化工程
本発明では、上記ヘモグロビン含有リポソームに、脱酸素剤としての亜硫酸塩類を、1〜40mg/mL-リポソームの量で加える。なお本明細書において、「/mL-リポソーム」の表記は、ヘモグロビン含有リポソーム分散液1mLあたりを意味する。亜硫酸塩類とは、亜硫酸、亜硫酸水素、ピロ亜硫酸、亜ニチオン酸などの亜硫酸類の塩である。この亜硫酸塩類は、アルカリ金属塩であることが好ましく、具体的には、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜ニチオン酸ナトリウムなどが挙げられる。これら混合物であってもよい。亜硫酸塩類は、通常、水溶液で使用され、具体的には20mg/mL〜800mg/mL、好ましくは40mg/mL〜400mg/mLの濃度の水溶液に調製され、使用される。
【0041】
本発明では、上記ヘモグロビン含有リポソームと亜硫酸塩類とを接触させて脱酸素化するが、この接触は、pH6.0〜8.0、好ましくはpH6.5〜7.5の条件下で行う。 上記亜硫酸塩類を含み、かつpH6.0〜8.0のヘモグロビン含有リポソーム系は、脱酸素化剤に応じたpH調整剤を含む。具体的には、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸およびリン酸などの酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸塩およびアンモニウム塩などのアルカリ類から選ばれる1または2以上のpH調整剤を含む。これらのうちでも、通常、クエン酸、塩酸、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムまたはこれらを適宜に組み合わせて用いることができる。
pH調整剤の添加時期は特に制限されないが、予め亜硫酸塩類の水溶液中に含ませ、亜硫酸塩類とともにヘモグロビン含有リポソームに添加することができる。この際、上記pHに調整した亜硫酸塩類の水溶液を添加したヘモグロビン含有リポソームは、ほぼ亜硫酸塩類の水溶液のpHに等しく、作業が簡便である。
【0042】
次に、上記亜硫酸塩類を含み、pH6.0〜8.0に調整された系で、亜硫酸塩類とヘモグロビン含有リポソームとを接触させ、ヘモグロビン含有リポソームを脱酸素化、すなわちヘモグロビンをデオキシ型とする。
この工程において、ヘモグロビン含有リポソームの酸素濃度(溶存酸素濃度)を10torr以下、好ましくは大気圧に対し1%に相当する約7.6torr以下、より好ましくは5torr以下まで脱酸素することが望ましい。
溶存酸素濃度は、クラーク式酸素電極をヘモグロビン含有リポソーム(分散液)に浸して酸素分圧をモニターする方法、ヘモグロビン含有リポソームを含む容器内の気相を採取してガスクロマトグラフィーで測定する方法、または容器内のヘモグロビンおよびヘムの特徴ある可視もしくは近赤外スペクトルの測定から、オキシ型とデオキシ型の比率を算出する方法により知ることもできる。
【0043】
(3)自動還元加速工程
本発明では、上記脱酸素工程(2)の後のヘモグロビン含有リポソームを、リポソームの膜基材の相転移点以上の温度で加熱し、ヘモグロビン含有リポソーム中に含まれるメトヘモグロビンの自動還元反応を加速することが望ましい。
ヘモグロビン含有リポソームの膜基材(リン脂質)は、内包されたヘモグロビンのメト化を促進することなく、また安定なリポソームを構成するために、上記したように、一般的にDSPC、水素添加大豆リン脂質、水素添加卵黄リン脂質が好適に使用されている。これらリン脂質の相転移点は約55℃であることが知られている。また、リポソーム膜脂質にコレステロールを含む場合には、一般的に明確な相転移を示さなくなるといわれているが、実際には、リン脂質の相転移点以上の温度で、PEG結合リン脂質などの表面修飾剤を明確に取り込みやすい状態になる(特許第2766691号参照)。一方、80℃以上の加熱処理は、リン脂質、PEG結合リン脂質などの構成成分の加水分解を引き起こす可能性、およびヘモグロビンに何らかの熱的変成を引き起こす可能性がある。このため、上記加熱温度は、好ましくは55〜80℃、より好ましくは55℃〜70℃で行われるが、特にこの工程に於いて速やかなメトヘモグロビンの自動還元を必要としない場合には、30℃〜40℃での1時間〜4時間の加熱処理を行ってもよい。
【0044】
上記脱酸素状態での加熱により、メト化率10%以下、好ましくは5%以下のヘモグロビン含有リポソームを得ることができる。
また加熱により、表面修飾剤を効率よく導入することができ、上記加熱温度であれば、使用した表面修飾剤が実質的にすべて導入されるとみなすことができる。
【0045】
このようにして得られたメト化率が低く、かつデオキシ型ヘモグロビン溶液を内水相として含むリポソームは、酸素を遮断して保存することにより、ヘモグロビンおよびヘムの酸化、また脂質などその他の成分の酸素酸化を抑制することができる。
【0046】
(4)外水相の濃度調整工程
上記工程(2)または(3)後の脱酸素化ヘモグロビン含有リポソームは、1〜40mg/mL-リポソームの亜硫酸塩類を含む。しかしながら、高濃度の亜硫酸塩類を含んだ状態で、ヘモグロビン含有リポソームを生体に投与した場合に、亜硫酸塩類が問題となる可能性がある。このため本発明では、脱酸素化処理に用いる亜硫酸塩類の濃度を極力低く調整するか、脱酸素化後のヘモグロビン含有リポソームに希薄な亜硫酸塩類の水溶液を添加し、その外水相を置換して、生体に投与するに至適である低濃度の亜硫酸塩類濃度に調整することが望ましい。具体的には、上記工程(2)の後、場合によっては工程(3)後のヘモグロビン含有リポソームに、低濃度の亜硫酸塩類の水溶液を添加し、脱酸素状態でヘモグロビン含有リポソームの外水相を置換することにより、ヘモグロビン含有リポソームの亜硫酸塩類濃度を0.01〜1mg/mL-リポソームに低下させる。
【0047】
この外水相置換は、遠心洗浄、限外ろ過法を用いた加水ろ過等の方法を用いることができる。詳しくは、予め窒素置換等により脱酸素化した生理食塩水等の等張液など水性溶媒に低濃度の亜硫酸塩類を添加し、この生理食塩水等の等張液など水性溶媒により外水相を必要回数交換した後、この水性溶媒と同様の手法で調製した低濃度の亜硫酸塩類含有生理食塩水等の等張液で置換することにより、生体に投与するに至適な濃度の亜硫酸塩類を含みかつ脱酸素化状態であるヘモグロビン含有リポソーム(分散液)を得ることが可能となる。理論的には不活性ガスにより完全に脱酸素化した生理食塩水等の等張液を用いることで、亜硫酸塩類を全く含まないヘモグロビン含有リポソームの分散液も製造可能であるが、実際の製造工程中には若干であるが酸素の混入が避けられないため、生理食塩水等の等張液に添加する亜硫酸塩類の濃度は、好ましくは0.001〜2mg/mL、より好ましくは0.01〜1mg/mLである。
【0048】
上記得られたヘモグロビン含有リポソームは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの酸素透過性容器に無菌的に充填して密封する。無菌的充填は、通常リポソームは透過するが、指標菌として用いられるBrevundimonas diminuta(サイズ、約0.3×0.8μm)はろ過されないフィルター(0.2μm)によるろ過滅菌法が行われる。酸素透過性容器の密封の際、容器内のヘッドスペースは極力小さくし、さらに該ヘッドスペースは窒素ガス等の不活性ガスで形成されていることが好ましい。
【0049】
上記密封された酸素透過性容器は、さらに酸化珪素、酸化アルミ、アルミニウム等を蒸着したフィルム、アルミ箔、またポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニル共重合体、ポリビニルアルコール等の樹脂フィルムを層成分として含む酸素不透過性容器で真空密封包装した後、温浴あるいは空気浴中55℃〜80℃の範囲で、目的に応じて設定した適切な温度を選択しで加熱してヘモグロビン含有リポソーム包装体を製品として得る。この酸素不透過性容器には、水酸化鉄、酸化鉄、炭化鉄などの鉄化合物を有効成分とするものを利用できる。その市販品としては、エージレス(三菱ガス化学(株)製)、モジュラン(日本化薬(株)製)およびセキュール(日本曹達(株)製)などが挙げられる。酸素透過性容器とともに酸素吸収剤を含ませることが好ましい。このような二重包装とすることで、内部に残存した酸素を完全に除去し、さらに外部からの酸素の侵入を防止する。
【0050】
本発明のヘモグロビン含有リポソーム包装体は、投与経路次第で医薬的に許容される添加物をさらに含むものであってもよい。
本発明で提供されるヘモグロビン含有リポソーム包装体は、通常のリポソーム保存方法、たとえば0〜8℃での冷蔵あるいは1〜30℃の室温で保存することができる。
【実施例】
【0051】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、特にことわりのない限り、以下に示す各工程は、冷却下(4℃)で、無菌的環境での操作とした。ヘモグロビン含有リポソーム調製のための試薬、器具類は、全て滅菌処理されたものを使用し、重金属イオン、パイロジェンフリーの超純水を使用した。
【0052】
<測定方法>
ヘモグロビン含有リポソームの酸素濃度およびヘモグロビンのメト化率の測定方法を下記に示す。
(1)酸素濃度:血液ガス分析装置(ABL555:ラジオメーター社製)を用いて、ヘモグロビン含有リポソーム(0.5mL)の酸素分圧(PO2:torr)として測定した。
【0053】
(2)ヘモグロビンのメト化率:ヘモグロビン含有リポソーム200μLと、10%Triton X-100を含む20mMリン酸緩衝液(pH7.2) 8.0mLとの懸濁液に、フレオン2.0mLを添加した後、3000rpmで10分間遠心し、上清にヘモグロビン溶液(Hb溶液)を得た。
この上清3mLをそれぞれ装入した2つのキュベット(A),(B)について、20mMリン酸緩衝液 (pH7.2)を対照として、以下のように波長630nmの吸光度A、B、A、Bを測定した。
:上清3mLをそのまま測定したときの吸光度(キュベット(A))。
:上清3mLに、5% KFe(CN)を30μL添加し、直ちに撹拌し、5分後に測定した吸光度(キュベット(B))。
,B:上記キュベット(A),(B)両方に、5%KCNを30μL添加し、直ちに撹拌し、2分後に測定した各吸光度。
上記A、B、A、Bの値から、ヘモグロビンのメト化率:MetHb(%)を下記の式にて算出した。
【数1】

【0054】
(調製例1)
脱酸素化処理を施すヘモグロビン含有リポソームは、以下のように調製した。
(1)ヘモグロビン溶液の調製
生理食塩水にて洗浄した赤血球1Lを、ヘモグロビン濃度が5%になるよう蒸留水を加えて溶血し、遠心分離(2000G,15分)して、赤血球膜を除去した。回収した上澄みのストローマフリーヘモグロビン(SFH)溶液に、孔径0.2μmのフィルターを用いる微粒子除去処理、次いで分画分子量100kDの限外ろ過膜を用いるウィルス除去処理を施した後、ダイアライザーにてヘモグロビン濃度を45%に濃縮した。このときのpHは6.8〜7.2であった。
ここに、ヘモグロビンと等モル比のイノシトールヘキサリン酸(IHP)を添加した。さらにNADおよびイノシンを、それぞれ液中濃度で0.1mMおよび6mMとなる量で添加して、ヘモグロビン溶液を得た。このヘモグロビン溶液のpHは7.2〜7.6の範囲にあった。
【0055】
(2)ヘモグロビン含有リポソームの調製
水素添加大豆レシチン、コレステロール、ステアリン酸(モル比、1:1:1)の均一混合脂質粉末に、重量等量の蒸留水を加えて80℃、30分の水和処理を行い、水和脂質を得た。
この水和脂質と、水和脂質に対し4重量倍の上記で得られたヘモグロビン溶液とを、高速撹拌機(クレアミックス:Mテクニック社製)にて撹拌処理した。得られた懸濁液を生理食塩水で10倍に希釈して、高速遠心機(10万G,30分)により遠心分離し、リポソームに取り込まれなかったヘモグロビンおよび微小粒子を含む上澄みを除去した。この生理食塩水による遠心洗浄を、上澄みにヘモグロビンの赤色が見られなくなるまで繰り返した。その後、0.45μmのフィルターを用いて、ろ過滅菌および粒子制御を行った。限外ろ過膜により濃縮し、最終的にヘモグロビン濃度6%のヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水分散液を得た。
上記で調製したヘモグロビン含有リポソームのメトヘモグロビン含有率(メト化率:MetHb%)は、4.2%であった。
【0056】
(調製例2)
脱酸素化工程で使用する亜硫酸塩類は、以下の水溶液を使用した。
(1)40mg/mL亜硫酸ナトリウム水溶液
亜硫酸ナトリウム4gを蒸留水100mLに溶解し、40mg/mLの亜硫酸ナトリウム水溶液を調製した。この亜硫酸ナトリウム水溶液は、pH8.6であった。
(2)400mg/mL亜硫酸ナトリウム水溶液
亜硫酸ナトリウム40gを蒸留水100mLに溶解し、400mg/mLの亜硫酸ナトリウム水溶液を調製した。この亜硫酸ナトリウム水溶液は、pH8.8であった。
(3)40mg/mL亜硫酸水素ナトリウム水溶液
亜硫酸水素ナトリウム4gを蒸留水100mLに溶解し、40mg/mLの亜硫酸水素ナトリウム水溶液を調製した。この亜硫酸ナトリウム水溶液は、pH4.5であった。
(4)脱酸素化0.1mg/mL亜硫酸ナトリウム/生理食塩水
10分間窒素バブリングした生理食塩水1Lに対して、亜硫酸ナトリウムの濃度が0.1mg/mLになるように上記(1)の亜硫酸ナトリウム水溶液を加え、脱酸素化した0.1mg/mLの亜硫酸ナトリウム/生理食塩水を調製した。
【0057】
(実施例1)
<ヘモグロビン含有リポソームの脱酸素化>
クエン酸4gを蒸留水100mLに溶解して40mg/mLのクエン酸水溶液を調製した。このクエン酸水溶液を用いて、調製例2の(1)で得た40mg/mLの亜硫酸ナトリウム水溶液のpHを7.0に調整した。
調製例1で得られたヘモグロビン含有リポソーム4mLをバイアル瓶に入れ、密閉した後、pHを7.0に調整した亜硫酸ナトリウム水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに対する亜硫酸ナトリウムの濃度で1mg/mL、2mg/mL、3mg/mLとなる量で加えて、バイアル瓶を転倒撹拌した。バイアル瓶を室温にて静置し、15min、30min、60min、120min、240min経過後、空気に触れないように0.5mLサンプリングし、ヘモグロビン含有リポソームの酸素分圧(PO2:torr)を測定した。各測定時の酸素濃度を図1に示す。
【0058】
(実施例2)
<ヘモグロビン含有リポソームの脱酸素化>
0.5N塩酸を用いて、調製例2の(1)で得た40mg/mLの亜硫酸ナトリウム水溶液をpH7.0に調整した以外は、実施例1と同様にヘモグロビン含有リポソームを脱酸素化した。すなわち、調製例1で得られたヘモグロビン含有リポソーム4mLをバイアル瓶に入れ、密閉した後、pHを7.0に調整した亜硫酸ナトリウム水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに対する亜硫酸ナトリウムの濃度で1mg/mL、2mg/mL、3mg/mLとなる量で加えて、バイアル瓶を転倒撹拌した。バイアル瓶を室温にて静置し、15min、30min、60min、120min、240min経過後、空気に触れないように0.5mLサンプリングし、ヘモグロビン含有リポソームの酸素分圧(PO2:torr)を測定した。各測定時の酸素濃度を図1に示す。
【0059】
(比較例1)
調製例2の(1)で得た亜硫酸ナトリウム水溶液(pH8.6)をそのまま使用した以外は、実施例1と同様にヘモグロビン含有リポソームを脱酸素化した。すなわち、調製例1で得られたヘモグロビン含有リポソーム4mLをバイアル瓶に入れ、密閉した後、40mg/mLの亜硫酸ナトリウム水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに対する亜硫酸ナトリウムの濃度で1mg/mL、2mg/mL、3mg/mLとなる量で加えて、バイアル瓶を転倒撹拌した。亜硫酸ナトリウム添加後の各ヘモグロビン含有リポソームは、いずれもpH8.3であった。バイアル瓶を室温にて静置し、15min、30min、60min、120min、240min経過後、空気に触れないように0.5mLサンプリングし、ヘモグロビン含有リポソームの酸素分圧(PO2:torr)を測定した。各測定時の酸素濃度を図1に示す。
【0060】
図1に示すように、亜硫酸ナトリウム水溶液をpH調整せずに用い、亜硫酸ナトリウムを含むヘモグロビン含有リポソームのpHが6.0〜8.0の中性域に調整されていない場合には、亜硫酸ナトリウムのいずれの添加量においても、ヘモグロビン含有リポソームの溶存酸素濃度を充分に下げることができず、500min経過後も20torr以下にすることは困難であった。これに対して、亜硫酸ナトリウムを含み、かつpHが中性域に調整されている場合には、pH未調整の場合と同量添加で、ほぼ完全に脱酸素化が可能であることが分かった。具体的には240min経過後では1mg/mLであっても脱酸素化が完了し、2mg/mLでは30min経過後には脱酸素化が完了し、3mg/mLでは添加後まもなく脱酸素化が完了していた。
【0061】
(実施例3)
<ヘモグロビン含有リポソームの脱酸素化>
重炭酸ナトリウム4gを蒸留水100mLに溶解して40mg/mLの重炭酸ナトリウム水溶液を調製した。この重炭酸ナトリウム水溶液を用いて、調製例2の(3)で得た40mg/mLの亜硫酸水素ナトリウム水溶液のpHを7.0に調整した。
調製例1で得られたヘモグロビン含有リポソーム4mLをバイアル瓶に入れ、密閉した後、pHを7.0に調整した亜硫酸水素ナトリウム水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに対する亜硫酸水素ナトリウムの濃度で1mg/mL、2mg/mL、3mg/mLとなる量で加えて、バイアル瓶を転倒撹拌した。バイアル瓶を室温にて静置し、15min、30min、60min、120min、240min経過後、空気に触れないように0.5mLサンプリングし、ヘモグロビン含有リポソームの酸素分圧(PO2:torr)を測定した。各測定時の酸素濃度を図2に示す。
【0062】
(比較例2)
調製例2の(3)で得た亜硫酸水素ナトリウム水溶液(pH4.5)をそのまま使用した以外は、実施例3と同様にヘモグロビン含有リポソームを脱酸素化した。すなわち、調製例1で得られたヘモグロビン含有リポソーム4mLをバイアル瓶に入れ、密閉した後、40mg/mLの亜硫酸水素ナトリウム水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに対する亜硫酸水素ナトリウムの濃度で1mg/mL、2mg/mL、3mg/mLとなる量で加えて、バイアル瓶を転倒撹拌した。亜硫酸水素ナトリウム添加後の各ヘモグロビン含有リポソームは、いずれもpH4.8であった。バイアル瓶を室温にて静置し、15min、30min、60min、120min、240min経過後、空気に触れないように0.5mLサンプリングし、ヘモグロビン含有リポソームの酸素分圧(PO2:torr)を測定した。各測定時の酸素濃度を図2に示す。
【0063】
図2に示すように、亜硫酸水素ナトリウム水溶液をpH調整せずに用い、亜硫酸水素ナトリウムを含むヘモグロビン含有リポソームのpHが6.0〜8.0の中性域に調整されていない場合には、亜硫酸水素ナトリウムのいずれの添加量においても、ヘモグロビン含有リポソームの溶存酸素濃度を充分に下げることができず、500min経過後も20torr以下にすることは困難であった。これに対して、亜硫酸水素ナトリウムを含み、かつpHが中性域に調整されている場合には、pH未調整の場合と同量添加で、ほぼ完全に脱酸素化が可能であることが分かった。具体的には240min経過後では1mg/mLであっても脱酸素化が完了し、2mg/mLでは30min経過後には脱酸素化が完了し、3mg/mLでは添加後まもなく脱酸素化が完了していた。
【0064】
(実施例4)
<ヘモグロビン含有リポソームの脱酸素化>
クエン酸40gを蒸留水100mLに溶解して400mg/mLのクエン酸水溶液を調製した。このクエン酸水溶液を用いて、調製例2の(2)で得た400mg/mLの亜硫酸ナトリウム水溶液(pHを8.8)のpHを7.0に調整した。
調製例1で得られたヘモグロビン含有リポソームの分散液36mLをバイアル瓶に入れ、密閉した後、pHを7.0に調整した亜硫酸ナトリウム水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに対する亜硫酸ナトリウムの濃度で40mg/mLとなるように4mL加えて、バイアル瓶を転倒撹拌した。バイアル瓶を室温にて30分間静置し、空気に触れないように0.5mLサンプリングし、ヘモグロビン含有リポソームの酸素分圧(PO2:torr)を測定した。その結果、酸素分圧は0torrであった。
【0065】
次に、上記の脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソームを、窒素雰囲気下で遠心分離(10万G、30分)し、上清を除去し、これに上記の脱酸素化した0.1mg/mL亜硫酸ナトリウム/生理食塩水を窒素雰囲気下で加え、再分散したのちさらに窒素雰囲気下で遠心分離(10万G、30分)して上清を除去した。この操作を3回繰り返すことによりヘモグロビン含有リポソームを0.1mg/mLの亜硫酸ナトリウム/生理食塩水に置換した。
【0066】
このヘモグロビン含有リポソームを空気に触れないように0.5mLサンプリングし、ヘモグロビン含有リポソームの酸素分圧(PO2:torr)を測定した。その結果、酸素分圧は1.5torrであった。
以上のことから、まずヘモグロビン含有リポソームを脱酸素するのに十分量の亜硫酸塩類を加え脱酸素化し、その後低濃度の亜硫酸塩類を含む脱酸素化した生理食塩水で置換することにより、亜硫酸塩類の濃度を生体に投与するのに至適である濃度まで低下させ、かつ脱酸素状態を保ったヘモグロビン含有リポソームをこの方法で製造できることが分かった。
【0067】
(実施例5)
<メトヘモグロビン含有リポソームの脱酸素化およびメトヘモグロビンの自動還元>
この実施例では、メトヘモグロビン量を増加させたヘモグロビン含有リポソームを用い、本発明によるメトヘモグロビンの自動還元能力を検証した。
実施例1と同様の40mg/mLのクエン酸水溶液を用いて、調製例2の(1)で得た40mg/mLの亜硫酸ナトリウム水溶液のpHを調整し、pH6.0、7.0、8.0の3種類の亜硫酸ナトリウム水溶液を調製した。
生産設備のスケールアップなどによる製造環境の変化を想定して、調製例1で得られたヘモグロビン含有リポソームの所定量を37℃で24時間加熱してメトヘモグロビン含量(MetHb%)を13%程度まで増加させた。このヘモグロビン含有リポソーム4mLを、バイアル瓶に入れ、密閉した後、上記各pHに調整した亜硫酸ナトリウム水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに対する亜硫酸ナトリウムの濃度で2mg/mLとなる量で加えて、バイアル瓶を転倒撹拌した。バイアル瓶を60℃の水浴中で加熱し、1、2、4、6、8、10時間経過後、空気に触れないように0.5mLサンプリングし、ヘモグロビン含有リポソームの酸素分圧(PO2:torr)およびメトヘモグロビン含量(MetHb%)を測定した。各測定時の酸素濃度を図3に、メトヘモグロビン含量を図4に示す。
【0068】
図3および4より、亜硫酸ナトリウム水溶液のpHを6.0〜8.0の範囲で調整した場合には、いずれのpHの水溶液を添加しても、短時間で酸素分圧を充分に下げることができることが確認できた。また60℃に加熱しても酸素分圧の上昇はみられず、3torr以下に10時間まで保たれた(図3)。
またメトヘモグロビン含量を増加させたヘモグロビン含有リポソームに、脱酸素剤であるpH6.0〜8.0に調整した亜硫酸ナトリウム水溶液を加えた後60℃で加熱することにより、1時間程度でメトヘモグロビン含量を5%以下に低下させることが可能であった。
【0069】
(実施例6)
実施例4で得られた脱酸素化したヘモグロビン含有リポソーム10mLを、窒素雰囲気下でバイアル瓶に入れ、調製例2の(4)で調製した脱酸素化0.1mg/mLの亜硫酸ナトリウム/生理食塩水に、DSPE-PEG5000(日本油脂社製)を5mass%で溶解させておき、このDSPE−PEG5000溶液をヘモグロビン含有リポソーム(分散液)中濃度が1.0mass%となる量で窒素雰囲気下で添加した。このときの溶液の酸素濃度は1.5torrであった。
バイアル瓶を25℃、37℃、60℃、70℃の水浴中で加熱し、15分、30分、1、2、4時間経過後、空気に触れないように2mLサンプリングした。サンプリングしたヘモグロビン含有リポソームを遠心分離(10万G、30分)した後、上清を1mLデカンテーションし、上清に含まれるDSPE-PEG5000含量を液体クロマトグラフィーにより測定した。
【0070】
DSPE-PEG5000添加量から、上清中に残ったDSPE-PEG5000含量を差し引いた量をリポソーム表面に固定化されたDSPE-PEG5000量とし、固定化された量の使用量に対する割合を、リポソーム表面(外表面)への固定化率として求めた。結果を図5に示す。
図5に示されるとおり、加熱温度がリポソーム膜構成脂質の相転移温度以下である25℃では、DSPE-PEG5000のリポソーム表面(外表面)に60%以上の固定化率で固定化するには4時間以上を要した。また37℃では、80%以上固定するには1時間以上の加熱が必要であった。しかし、リポソーム膜構成脂質の相転移温度以上である60℃、70℃の条件では、30分以上で80%以上のDSPE-PEG5000がリポソーム表面に固定化できることが確認された。
【0071】
また、遠心より下層として分離された各ヘモグロビン含有リポソーム(ペレット)に、生理食塩水2mLを加え、転倒撹拌により再分散させた後、メトヘモグロビン含量を測定したところ、各ヘモグロビン含有リポソームのメトヘモグロビン含量は、すべて5%以下であることが確認された。つまり、試験されたどの温度による処理でもメトヘモグロビン生成は認められなかった。
【0072】
(実施例7)
<ヘモグロビン含有リポソーム包装体>
実施例4で得られた脱酸素化したヘモグロビン含有リポソーム10mLを窒素雰囲気下で軟質ポリエチレン製酸素透過性容器に入れ、調製例2の(4)で調製した脱酸素化0.1mg/mLの亜硫酸ナトリウム/生理食塩水にDSPE−PEG5000(日本油脂社製)を5mass%で溶解させておき、このDSPE−PEG5000溶液をヘモグロビン含有リポソームの分散液中濃度が1.0mass%となる量で窒素雰囲気下で添加し、容器開口をヒートシールして密封した。この酸素透過性容器を、窒素雰囲気下、脱酸素剤(三菱ガス化学(株)製、商品名 エージレス)と共にガス不透過性包材(アルミ蒸着フィルム、大日本印刷(株)製)にて密封包装し、これを60℃の水浴中で1時間加熱した。得られた包装体中のヘモグロビン含有リポソームは、実施例6と同様、実用上十分な性能を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ヘモグロビン含有リポソームの亜硫酸ナトリウム各水溶液による脱酸素化効果を経過時間に対に対する酸素分圧で示す図である。
【図2】ヘモグロビン含有リポソームの亜硫酸水素ナトリウム各水溶液による脱酸素化効果を経過時間に対に対する酸素分圧で示す図である。
【図3】pH調整した亜硫酸ナトリウム水溶液によるヘモグロビン含有リポソームの脱酸素効率を加熱時間に対する酸素分圧で示す図である。
【図4】pH調整した亜硫酸ナトリウム水溶液によるヘモグロビン含有リポソームのヘモグロビンメト化処理における加熱時間とメトヘモグロビン含量との関係を示す図である。
【図5】ヘモグロビン含有リポソームの加熱時間と表面修飾剤の固定化率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソームの製造方法:
(1)ヘモグロビン溶液をリポソームカプセルの内水相として含ませたヘモグロビン含有リポソームを準備し、
(2)前記ヘモグロビン含有リポソームに、亜硫酸塩類を1〜40mg/mL-リポソームの量で添加し、pH6.0〜8.0の条件下で、ヘモグロビン含有リポソームと亜硫酸塩類とを接触させることにより、前記ヘモグロビン含有リポソームを脱酸素化する。
【請求項2】
前記工程(2)の前記接触は、予めpH6.0〜8.0に調整した20mg/mL〜80mg/mLの亜硫酸塩類の水溶液を、ヘモグロビン含有リポソームに添加して行われる請求項1に記載のヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【請求項3】
(3)前記工程(2)で脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソームを、55〜80℃で加熱し、ヘモグロビン含有リポソーム中に含まれるメトヘモグロビンの自動還元を加速する工程をさらに含む請求項1または2に記載のヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【請求項4】
(4)請求項1に記載の前記工程(2)または請求項3に記載の前記工程(3)後のヘモグロビン含有リポソームに、0.001〜2mg/mLの亜硫酸塩類の水溶液を添加し、脱酸素状態でヘモグロビン含有リポソームの外水相を置換することにより、ヘモグロビン含有リポソームの亜硫酸塩類濃度を0.01〜1mg/mL-リポソームに低下させる、外水相の濃度調整工程をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載のヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【請求項5】
前記工程(3)に先だって、脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソームに、親水性修飾基を含む表面修飾剤を加え、リポソーム外表面を前記親水性修飾基で修飾し、脱酸素状態で、かつ外表面が前記親水性修飾基で修飾されたヘモグロビン含有リポソームを前記工程(3)に供する請求項3または4に記載のヘモグロビン含有リポソームの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られるヘモグロビン含有リポソームを、酸素透過性容器に充填し、酸素吸収剤とともに酸素不透過性容器で密封包装した後、55℃〜80℃で加熱するヘモグロビン含有リポソーム包装体の製造方法。
【請求項7】
0.01〜1mg/mL-リポソームの亜硫酸塩類、および該亜硫酸塩類を含むヘモグロビン含有リポソームのpHをpH6.0〜8.0に調整するpH調整剤を含み、酸素濃度10torr以下であって、かつリポソームカプセルの内水相としてメト化率10%以下のヘモグロビン溶液を含むヘモグロビン含有リポソームを充填した酸素透過性容器と、酸素吸収剤とを酸素不透過性容器内に密封包装したヘモグロビン含有リポソームの包装体。
【請求項8】
前記pH調整剤が、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸塩およびアンモニウム塩から選ばれる1または2以上の化合物である請求項7記載の包装体。
【請求項9】
前記ヘモグロビン含有リポソームが、その外表面に親水性修飾基をもつ請求項7または8に記載の包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−104069(P2006−104069A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288513(P2004−288513)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】