説明

ヘモグロビンA1cの測定方法及びヘモグロビンA1c測定用キット

【課題】簡易かつ迅速に、ヘモグロビンA(HbA)に対するヘモグロビンA1c(HbA1c)の比率を高い精度で測定可能なHbA1cの測定方法及びキットの提供。
【解決手段】HbA及びHbA1cを含む測定試料に対して、HbA及びHbA1cと特異的に結合する抗HbA抗体が結合又は吸着した担体粒子(A)、及び、HbA1cと特異的に結合する抗HbA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)を加えて、(A)−HbA1c−(B)複合体を形成させ、前記複合体の磁性量を測定することによりHbAに対するHbA1cの比率を測定するヘモグロビンA1cの測定方法であって、前記(B)の平均粒子径は、前記(A)の平均粒子径よりも小さいものであり、前記(A)の粒子径と(B)の粒子径との差を利用して、(A)−HbA1c−(B)複合体と未反応の前記(B)とを分離し、前記複合体を捕集する工程を有するHbA1cの測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易かつ迅速に、ヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を高い精度で測定することが可能なヘモグロビンA1cの測定方法及びヘモグロビンA1c測定用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
抗原−抗体反応、リガンド−レセプター反応、糖−レクチン反応等の生物学的測定方法は、極めて特異性が高い反応であり、このような生物学的反応を利用した測定は、薬物、細菌、疾病等の検査等の医療分野を中心に食品、工業製品、環境試料中の微量物質検出等に広く応用されつつある。なかでも、抗原−抗体反応を利用した生物学的測定方法は、極めて広い分野において利用されている。
生物学的測定方法の最大の利点は、生体の高度な物質間相互作用を利用して、これまで物理化学的な方法ではなし得なかった選択性を有する目的物質の検出、定量等ができることにあり、医療、食品、飲料水、下水、環境試料等の様々な試料中の低分子化合物から生体高分子まで広範囲な物質を検出できる可能性を有している。
【0003】
近年、このような生物学的反応を利用した自動測定装置が数多く提案されている。例えば、現在最も広く利用されている方法の一つは、酵素結合抗体法(Enzyme−linked Immunosorbent assay)を利用して、被測定物質の検出を自動化するものである。酵素結合抗体法では、通常、固相として96穴ミクロプレート上に抗原又は抗体質を固定し、固定した抗原又は抗体と特異的に結合する酵素標識物質を試料に加えて反応させた後、プレート上の酵素活性から試料中の未知物質の有無や未知濃度を決定する方法である。現在では、酵素標識のみならず蛍光や放射性等の標識も利用されている。この方法は簡便で多検体を一度に分析できる簡便性に優れる。
【0004】
更に近年では、より簡便かつ迅速であることから、免疫クロマト法が多用されるようになってきている。免疫クロマト法では、通常、少なくとも2種類の抗体を利用したサンドイッチ法が採用されている。即ち、標識された抗体を含む試薬と測定試料とを反応させ、被検物質と標識抗体とを結合し、これをもう一つの抗体が固定化されたクロマト担体に流すことにより、クロマト担体中に標識された抗体が結合した被検物質を捕捉するというものである。このようなサンドイッチ法を採用した免疫クロマト法としては、種々の変法が提案されており、例えば、特許文献1〜5に開示されている。
【0005】
サンドイッチ法を採用した免疫クロマト法では、標識された抗体が結合した被検物質と、未反応の標識された抗体とをクロマト法を用いて分離している。しかしながら、この方法では、クロマト担体に固定できる抗体の量自体に限界があることから、一度に測定可能な測定試料の量に限界があるという問題があった。また、担体に結合した抗体量が少ない場合には、測定試料中の被検物質とが接触できる機会が少なくなり、測定感度も減少してしまうという問題もあった。
【0006】
また、血中のヘモグロビンに糖が結合したグリコヘモグロビンは、その濃度が過去1〜2ケ月間の平均的な血中糖濃度を反映するために、糖尿病の診断や、糖尿病の経過観察等に適した指標として広く利用されている。このようなグリコヘモグロビンは、全体のヘモグロビン量を対照とした際のグリコヘモグロビン量の比率で示される。ヘモグロビンの種類としては、ヘモグロビンA、S、C、Eがあるが、通常、臨床試験では、これらのなかでもヘモグロビンA(以下、HbAともいう)中の特定の糖化ヘモグロビンであるヘモグロビンA1c(以下、HbA1cともいう)の割合を指標として用いることが一般化されている。なお、HbA量に対するHbA1c量の比率は、通常約4〜6%がその目安とされている。
【0007】
従来より、HbA1cを含む糖化ヘモグロビンの測定法としては、電気泳動法、ボロン酸アフィニティクロマトグラフィー法、イオン交換クロマトグラフィー法、免疫アッセイ法等が知られているが、現在では所要時間や分離性等の点からイオン交換クロマトグラフィー法が主流となっている。しかしながら、イオン交換クロマトグラフィー法は大型で高価な装置が必要であるため、最近では特異性の高い抗体を用いた免疫アッセイ法を用いた測定方法が行われている。
しかしながら、これらの方法は何れも凝集反応を利用しているため、非特異的な凝集反応が生じる可能性があり、異常値が出現したり、抗原抗体反応による濁度増加が検出されにくくなったりすることがあり、特異性や測定精度の点で問題があった。
【特許文献1】特開昭63−159761号公報
【特許文献2】特開平2−49161号公報
【特許文献3】特表平8−508569号公報
【特許文献4】特開平10−73592号公報
【特許文献5】特開平10−90267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、簡易かつ迅速に、ヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を高い精度で測定することが可能なヘモグロビンA1cの測定方法及びヘモグロビンA1c測定用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ヘモグロビンA及びヘモグロビンA1cを含む測定試料に対して、ヘモグロビンA及びヘモグロビンA1cと特異的に結合する抗ヘモグロビンA抗体が結合又は吸着した担体粒子(A)、及び、ヘモグロビンA1cと特異的に結合する抗ヘモグロビンA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)を加えて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成させ、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定することによりヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を測定するヘモグロビンA1cの測定方法であって、前記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径は、前記担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さいものであり、前記担体粒子(A)の粒子径と前記磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程を有するヘモグロビンA1cの測定方法である。
【0010】
また、別の態様の本発明は、ヘモグロビンAを含む測定試料に対して、未感作の担体粒子(A)、及び、ヘモグロビンA1cと特異的に結合する抗ヘモグロビンA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)を加えて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成させ、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定することによりヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を測定するヘモグロビンA1cの測定方法であって、前記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径は、前記担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さいものであり、前記担体粒子(A)の粒子径と前記磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程を有するヘモグロビンA1cの測定方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法の対象となる上記ヘモグロビンA(以下、HbAともいう)及びヘモグロビンA1c(以下、HbA1cともいう)を含む測定試料としては、例えば、血液検体を溶血処理及び変性処理したものを用いることができる。
【0012】
上記溶血処理としては特に限定されず種々の方法を用いることができ、例えば、水等の低等張液や界面活性剤を用いる方法が挙げられる。
上記変性処理は、HbA1cを変性させてHbAと化学構造が異なる部位、即ち、糖結合部位を露出させ、抗HbA1c抗体との抗原抗体反応をしやすくすることや、不安定型HbA1cを除去することを目的として行われるものである。上記変性処理の方法としては特に限定されず種々の方法を用いることができ、例えば、KSCN塩を用いる方法や、弱酸性条件下で、脂肪族カルボン酸緩衝液又はホウ酸緩衝液等を用いる方法等が挙げられる。
【0013】
上記抗ヘモグロビンA抗体としては、HbA及びHbA1cと特異的に結合する抗体であれば特に限定されず、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、キメラ抗体、Fab抗体、(Fab)抗体等の形態であってもよい。
【0014】
上記担体粒子(A)を構成する担体粒子としては特に限定されず、例えば、ガラスビーズ、有機高分子ビーズ、有機高分子ラテックス等を用いることができる。上記担体粒子に上記抗HbA抗体を結合又は吸着させることで、抗原抗体反応により、測定試料中のHbA及びHbA1cが上記担体粒子(A)の表面に結合する。
【0015】
上記担体粒子に抗ヘモグロビンA抗体を結合又は吸着させる方法としては特に限定されず、例えば、物理吸着法や担体粒子が官能基を有する場合には、該官能基を介して上記抗ヘモグロビンA抗体を共有結合する方法等が挙げられる。
【0016】
上記抗ヘモグロビンA1c抗体としては、HbA1cと特異的に結合する抗体であれば特に限定されず、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、キメラ抗体、Fab抗体、(Fab)抗体等の形態であってもよい。
【0017】
上記磁性体含有粒子(B)を構成する磁性体含有粒子は、本発明のヘモグロビンA1cの測定方法において標識物質として機能するものである。
上記磁性体含有粒子(B)を構成する磁性体含有粒子としては特に限定されず、例えば、スチレン系共重合体等の有機高分子物質をマトリックスとして、四三酸化鉄(Fe)、γ−重三二酸化鉄(γ−Fe)等の各種フェライト類;鉄、マンガン、コバルト等の金属又はこれらの合金等の超常磁性を有する磁性体が分散したもの等が挙げられる。
【0018】
上記磁性体含有粒子に抗ヘモグロビンA1c抗体を結合又は吸着させる方法としては特に限定されず、例えば、物理吸着法や担体粒子が官能基を有する場合には、該官能基を介して上記抗ヘモグロビンA1c抗体を共有結合する方法等が挙げられる。
【0019】
上記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径は、上記担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さいものである。本発明のヘモグロビンA1cの測定方法では、担体粒子(A)と磁性体含有粒子(B)との平均粒子径の差異を利用して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離し、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する。
【0020】
上記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径は、担体粒子(A)の平均粒子径の10%以下であることが好ましい。両者の平均粒子径の相違がこれよりも小さい場合には、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離して担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集することが困難となり、測定精度が低下することがある。
【0021】
上記担体粒子(A)の平均粒子径の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は1mmである。0.5μm未満であると、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離して担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集することが困難となることがあり、1mmを超えると、担体粒子の表面積が小さくなり、所望する感度が得られない場合がある。より好ましい下限は1μm、より好ましい上限は0.1mmである。
【0022】
上記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径の好ましい下限は0.03μm、好ましい上限は0.5μmである。0.03μm未満であると、自己凝集しやすくなり水系媒体中に分散させるのが困難となることがあり、0.5μmを超えると、水系媒体中で沈降するなど分散性が悪くなることがある。より好ましい下限は0.05μm、より好ましい上限は0.4μmである。
上記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径のCV値は、50%以下であることが好ましい。50%を超えると、定量的な測定を行う場合に誤差を生じることがある。
【0023】
ヘモグロビンA及びヘモグロビンA1cを含む測定試料に、上記担体粒子(A)及び上記磁性体含有粒子(B)を加えた場合の挙動を表す概略図を図1に示す。なお、(I)は、HbAに対するHbA1cの比率が比較的低い場合であり、(II)は、HbAに対するHbA1cの比率が比較的高い場合である。
【0024】
図1(I)に示すように、HbA1及びHbA1c2を含む測定試料に対して、上記担体粒子(A)3及び上記磁性体含有粒子(B)4を加えれば、上記担体粒子(A)3に結合又は吸着した抗HbA抗体に、HbA1及びHbA1c2が競合的に結合し、一方、上記磁性体含有粒子(B)4に結合又は吸着した抗HbA1c抗体が上記HbA1及びHbA1c2のうち、HbA1c2のみに結合して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体5が形成される。ここで、HbA1とHbA1c2の担体粒子(A)への結合は競合的であることから、複合体5に結合したHbA1及びHbA1c2の比率は、測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率を反映したものとなる。
従って、測定試料中の測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率が大きいほど、結合する磁性体含有粒子(B)、即ち、磁性量が大きくなる。
そして、後に説明する捕集工程を行った後、得られた担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体5の磁性量を測定する。更に、図1(II)に示すように、測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率が異なる場合についても、同様の操作を行い、複合体の磁性量を測定した後、これらの結果を基に検量線を作成することにより、磁性量の測定結果から、ヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を測定することが可能となる。
【0025】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法は、担体粒子(A)の粒子径と磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程を有する。担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離することは、ヘモグロビンA1cの定量に不可欠の工程である。また、本発明のヘモグロビンA1cの測定方法においては、更に、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集することにより、更に、検出感度を高めることができる。
この工程について詳しく説明する。
【0026】
上記担体粒子(A)の粒子径と磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離し、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程としては、具体的には例えば、担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さく、かつ、磁性体含有粒子(B)の平均粒子径よりも大きい孔径のフィルタを用いて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体をフィルタ上に捕集する方法(以下、フィルタ法ともいう);磁性体含有粒子(B)の平均粒子径よりも小さく、かつ、磁性体含有粒子(B)の平均粒子径よりも大きい断面積を有する流路チャネル分離部を用いて、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離し、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を流路チャネル分離部に捕集する方法(以下、流路チャネル法ともいう)の2つの態様が挙げられる。
【0027】
図2に上記フィルタ法又は流路チャネル法による担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)との分離、及び、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の捕集の原理を説明する模式図を示した。
なお、1はヘモグロビンA、2はヘモグロビンA1cを表す。
図2において、フィルタ又は流路チャネル分離部6の上流においては、測定試料中には、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体5、未反応の担体粒子(A)3、未反応の磁性体含有粒子(B)4が混ざりあった状態にある。平均粒子径から、フィルタ又は流路チャネル分離部5を通過できるのは、未反応の磁性体含有粒子(B)4のみであり、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体5と未反応の担体粒子(A)3とは、フィルタ又は流路チャネル分離部6に捕集される。
なお、この方法では担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体5と未反応の担体粒子(A)3とは分離されないが、本発明のヘモグロビンA1cの測定方法では、磁性量を測定することにより被検物質の定量を行うことから、磁性を全く帯びない担体粒子(A)3が存在しても測定結果には何らの影響も及ぼさない。
【0028】
上記フィルタの孔径は、担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さく、かつ、磁性体含有粒子(B)の平均粒子径よりも大きいものであれば特に限定されないが、好ましい下限は上記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径の2倍、好ましい上限は上記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径の10倍である。2倍未満であると、磁性体含有粒子(B)の一部が通過できないことがあり、10倍を超えると、担体粒子(A)の一部が通過してしまうことがある。
【0029】
上記フィルタの形状としては特に限定されないが、例えば、シート状であることが好ましい。
上記フィルタとしては、水性媒体からなる測定試料が透過可能であるものであれば特に限定されず、例えば、多孔質膜等を用いることができる。
上記多孔質膜としては特に限定されず、例えば、セルロース、ニトロセルロース、ガラス繊維、ろ紙、スチロール樹脂、ビニル系樹脂等からなるものが挙げられる。また、上記多孔質膜の水性媒体に対する親和性が低い場合には、界面活性剤を用いる等の従来公知の親水化処理を施してもよい。
上記フィルタが多孔質膜からなる場合において、連続した同一の多孔質膜を用いてもよいし、異なる材料を併用してもよい。
【0030】
上記流路チャネル分離部とは、支持体に流路チャネル(微細な溝)を形成したマイクロチップデバイスに形成された部位を意味する。このようなマイクロチップデバイスを用いる場合、測定試料は微量で行うことができ、また、短時間の測定も可能となる。
【0031】
上記流路チャネル分離部の断面積は、担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さく、かつ、磁性体含有粒子(B)の平均粒子径よりも大きいものであれば特に限定されないが、好ましい下限は上記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径の2倍、好ましい上限は上記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径の10倍である。2倍未満であると、磁性体含有粒子(B)の一部が通過できないことがあり、10倍を超えると、担体粒子(A)の一部が通過してしまうことがある。
【0032】
上記流路チャネル分離部は、具体的には例えば、マイクロチップデバイスの流路チャネルに突起物等により断面積が狭くなる構造や多孔質構造を形成することにより形成することができる。
【0033】
上記マイクロチップデバイスを構成する支持体は、計測工程で磁性量を計測することから、非磁性材料であることが好ましい。このような非磁性材料としては特に限定されず、例えば、ガラス、セラミックス、シリコン、ポリオレフィンやポリメチルメタクリレートなどの有機高分子材料等が挙げられる。
上記流路チャネルは、公知のエッチングや微細機械加工等により形成することができる。
【0034】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法のより具体的な実施態様について更に説明する。
第1の実施態様は、ヘモグロビンAを含む測定試料に対して、抗ヘモグロビンA抗体が結合又は吸着した担体粒子(A)、及び、抗ヘモグロビンA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)を加えて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成させる反応工程と、担体粒子(A)の粒子径と磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離し、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する分離捕集工程と、捕集された担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定する測定工程とを有する。
【0035】
第1の実施態様では、まず、最初の反応工程において担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成させ、次いで、分離捕集工程において未反応の磁性体含有粒子を分離し、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集し、最後の測定工程において捕集された担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定する。
【0036】
第2の実施態様は、ヘモグロビンAを含む測定試料に対して、抗ヘモグロビンA抗体が結合又は吸着した担体粒子(A)を加えて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA複合体を形成させる第一反応工程と、担体粒子(A)−ヘモグロビンA複合体を捕集する捕集工程と、捕集された担体粒子(A)−ヘモグロビンA複合体に、抗ヘモグロビンA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)を加えて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成させると同時に、担体粒子(A)の粒子径と磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離する第二反応−分離工程と、捕集された担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定する測定工程とを有する。
【0037】
第2の実施態様では、まず、最初の第一反応工程において担体粒子(A)−ヘモグロビンA複合体を形成させる。次いで、捕集工程において上述のフィルタや流路チャネル分離部を利用して担体粒子(A)−ヘモグロビンA複合体を捕集する。ここに磁性体含有粒子(B)を流せば、その一部は担体粒子(A)−ヘモグロビンA複合体と反応して担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成するが、未反応の磁性体含有粒子(B)は、フィルタや流路チャネル分離部を流れ去る。最後の測定工程において捕集された担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定する。
このように、被検物質と担体粒子(A)、磁性体含有粒子(B)との反応の順番は、測定方法にあわせて適宜選択し得る。
【0038】
上記第1及び第2の実施態様において、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定する方法としては、例えば、ホールセンサーやGMRセンサ等の磁気センサを用いる方法や、磁気緩和測定を利用する方法等が挙げられる。そして、得られた測定結果を基に検量線を作成し、この検量線を用いることで、磁性量の測定結果から、ヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を求めることが可能となる。
【0039】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法は、必要に応じて、測定試料や担体粒子(A)、磁性体含有粒子(B)の導入速度や導入量等を制御する目的で、試料導入量調整工程を有していてもよい。具体的には、例えば、反応工程等後の測定試料をガラス繊維、ろ紙、セルロース等からなる試料導入材料を通過させること等が挙げられる。
【0040】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法は、必要に応じて、反応工程等後に、測定試料を濃縮する目的で、濃縮工程を有していてもよい。濃縮した試料を用いることにより、更に測定感度を向上させることができる。
上記濃縮の方法としては特に限定されず、例えば、上記磁性体含有粒子(B)や、これを含む複合体は、磁性を帯びることから、反応させた溶液を収容する容器の外部より磁場印加手段を適用すれば、容器の内壁に吸着することができる。測定試料の溶媒(上清)の大部分を除去し、磁場を取り除いた後、微少量の分散媒(例えば、バッファー)等により容器の内壁を洗浄すれば、これらの粒子を回収して高度に濃縮することができる。
【0041】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法は、必要に応じて、上記捕集工程後に、過剰の試料を迅速に吸収する目的で吸水工程を有していてもよい。具体的には、例えば、上記フィルタを用いる場合は、その後方に、ガラス繊維、ろ紙やセルロース等の優れた吸水力及び給水容量を有する吸水物質を設置すること等が挙げられる。
【0042】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法は、必要に応じて、上記捕集工程後に、未反応の磁性体含有粒子(B)をより完全に除去する目的で、過剰の緩衝液等による洗浄工程を有していてもよい。
【0043】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法は、上記構成からなることにより、極めて容易に被検物質に反応した標識物質と未反応の標識物質とを分離し、かつ、被検物質に反応した標識物質のみを捕集することができ、磁性量を標識として定性的又は定量的な分析を行うことができる。
【0044】
別の態様の本発明は、ヘモグロビンAを含む測定試料に対して、未感作の担体粒子(A)、及び、ヘモグロビンA1cと特異的に結合する抗ヘモグロビンA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)を加えて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成させ、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定することによりヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を測定するヘモグロビンA1cの測定方法であって、前記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径は、前記担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さいものであり、前記担体粒子(A)の粒子径と前記磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程を有するヘモグロビンA1cの測定方法である。
【0045】
別の態様の本発明では、担体粒子として、未感作の担体粒子(A)を用いる。
上記未感作の担体粒子(A)を構成する担体粒子としては、HbA、HbA1c、タンパク質等と非特異的に結合又は吸着するものであることが好ましく、例えば、ガラスビーズ、有機高分子ビーズ、有機高分子ラテックス等を用いることができる。有機高分子としてはスチレン重合体、アクリル酸エステル重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。
【0046】
ヘモグロビンA及びヘモグロビンA1cを含む測定試料に、未感作の担体粒子(A)及び上記磁性体含有粒子(B)を加えた場合の挙動を表す概略図を図3に示す。なお、(I)は、HbAに対するHbA1cの比率が比較的低い場合であり、(II)は、HbAに対するHbA1cの比率が比較的高い場合である。
【0047】
図3(I)に示すように、HbA1及びHbA1c2を含む測定試料に対して、未感作の担体粒子(A)13及び上記磁性体含有粒子(B)4を加えれば、上記担体粒子(A)13に、HbA1、HbA1c2及びタンパク質等が非特異的に結合し、一方、上記磁性体含有粒子(B)4に結合又は吸着した抗HbA1c抗体が、HbA1cのみに結合して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体15が形成される。ここで、HbA1とHbA1c2の担体粒子(A)への結合は競合的であることから、複合体15に結合したHbA1及びHbA1c2の比率は、測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率を反映したものとなる。従って、測定試料中の測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率が大きいほど、結合する磁性体含有粒子(B)、即ち、磁性量が大きくなる。
そして、捕集工程を行った後、得られた担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定する。更に、図3(II)に示すように、測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率が異なる場合についても、同様の操作を行い、複合体の磁性量を測定した後、これらの結果を基に検量線を作成することにより、磁性量の測定結果から、ヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を測定することが可能となる。
なお、別の態様の本発明は、未感作の担体粒子(A)を用いる点以外は、本発明のヘモグロビンA1cの測定方法と同様であるため、その詳しい説明を省略する。
【0048】
本発明のヘモグロビンA1cの測定方法を実施するために用いるヘモグロビンA1c測定用キットもまた、本発明の1つである。
このようなヘモグロビンA1c測定用キットを用いることで、簡易かつ迅速に、ヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を高い精度で測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、極めて容易に測定試料に反応した標識物質と未反応の標識物質とを分離し、かつ、測定試料に反応した標識物質のみを捕集することができることから、簡易かつ迅速にヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を測定することができ、また、磁性量を標識として精度の高い分析を行うことが可能なヘモグロビンA1cの測定方法及びヘモグロビンA1c測定用キットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0051】
(抗HbAモノクローナル抗体結合担体粒子の作製)
担体粒子(ポリスチレン系、平均粒子径50μm、積水化学社製)10mgに20mMリン酸緩衝液(pH7.5)10mLを加え、3000RPMにて20分間遠心分離を行った。得られた沈渣に、20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に抗HbAモノクローナル抗体を0.1mg/mLの濃度になるように溶解した溶液を1mL加え、充分に混和して、室温にて1時間撹拌した。
【0052】
未反応の抗HbAモノクローナル抗体を除去するため、3000RPMにて20分間遠心分離を行い、沈渣を20mMリン酸緩衝液(pH7.5)3mLに懸濁させ、再度遠心分離を行った。その沈渣を20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に牛血清アルブミンを1%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液3mLに懸濁させ、室温で1時間撹拌し、ブロッキング処理を行った。その後、3000RPMにて20分間遠心分離を行い、沈渣を20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に牛血清アルブミンを1%(w/v)の濃度になるように溶解し、更にアジ化ナトリウムを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液2mLに懸濁させて粒子担体の懸濁液を調製し、使用までこれを冷蔵保存した。
【0053】
(抗HbA1cモノクローナル抗体結合磁性体含有粒子の作製)
磁性体含有粒子(ポリスチレン系、磁性体量60%、平均粒子径0.3μm、積水化学社製)10mgに20mMリン酸緩衝液(pH7.5)10mLを加え、15000RPMにて20分間遠心分離を行った。得られた沈渣に、20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に抗HbA1cモノクローナル抗体を0.2mg/mLの濃度になるように溶解した溶液を2mL加え、充分に混和して、室温にて1時間撹拌した。
【0054】
未反応の抗HbA1cモノクローナル抗体を除去するため、15000RPMにて20分間遠心分離を行い、沈渣を20mMリン酸緩衝液(pH7.5)3mLに懸濁させ、再度遠心分離を行った。その沈渣を20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に牛血清アルブミンを1%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液3mLに懸濁させ、室温で1時間撹拌し、ブロッキング処理を行った。その後、15000RPMにて20分間遠心分離を行い、沈渣を20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に牛血清アルブミンを1%(w/v)の濃度になるように溶解し、更にアジ化ナトリウムを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液2mLに懸濁させて抗HbA1cモノクローナル抗体結合磁性体含有粒子の懸濁液を調製し、使用までこれを冷蔵保存した。
【0055】
(実施例1)
フィルタとしてグラスファイバーフィルタ(AP25、孔径1.5μm、直径90mm、日本ミリポア社製)を吸水用ろ紙(日本ミリポア株式会社製)の上に重ねてフィルタ試験片とした。
【0056】
20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に抗HbAモノクローナル抗体結合担体粒子を1%(w/v)、及び、抗HbA1cモノクローナル抗体結合磁性体含有粒子を0.1%(w/v)の濃度になるように分散し、牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解し、更にアジ化ナトリウムを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液を作製し、得られた溶液100μLを96ウェルマイクロプレート(ナルジェヌンクインターナショナル社製)の各ウェルに添加した。
【0057】
検体として、グリコHbコントロールレベルI(HbA1c=5.4±0.3%)、レベルII(HbA1c=10.6±0.5%)(国際試薬社製)を用い、牛血清アルブミン1%(w/v)、トリトン−100 0.03%(w/v)、及び、ヘモグロビン濃度が5μg/mLとなるように100mMPBSで調整し、測定試料を作製した。
【0058】
前記ウエルに測定試料100μLを添加し、混合10分後、フィルタ試験片の滴下部位にキャピラリーを用いて測定試料を100μL滴下した。続いて、滴下部位に、牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度の20mMリン酸緩衝液(pH7.5)を100μL滴下した後、フィルタ試験片のグラスファイバーを取り出し、滴下部位の磁性量を、市販のGMRセンサ(差動磁界センサ、NVE社製)を用いて測定した。
【0059】
(実施例2)
石英ガラス基板内に、深さ100μm、幅200μmの流路チャネル、その流路の先に、深さ5μmの微細な流路チャネル分離部を設けたマイクロチップデバイスを用いた。
【0060】
20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に抗HbAモノクローナル抗体結合担体粒子を1%(w/v)、及び、抗HbAモノクローナル抗体結合磁性体含有粒子を0.2%(w/v)の濃度になるように分散し、牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解し、更にアジ化ナトリウムを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液を作製し、得られた溶液100μLを96ウェルマイクロプレート(ナルジェヌンクインターナショナル社製)の各ウェルに添加した。
【0061】
実施例1と同様の測定試料を調製、添加し、混合1分後、流路チャネル流入部から反応液200μLを送液した。続いて、流路チャネル流入部から牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度の20mMリン酸緩衝液(pH7.5)を200μL送液した後、流路チャネル分離部の磁性量を、市販のGMRセンサ(差動磁界センサ、NVE社製)を用いて測定した。
結果を表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、実施例1、2では、HbA1cの比率の変化に伴い、磁性量についても大きく変化していることが確認された。これにより、測定結果に基づき検量線を作成し、作成した検量線を用いることで、磁性量の測定値から測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率を求めることが可能となる。従って、実施例1、2のヘモグロビンA1cの測定方法は、簡便で、精度の高い有用な測定法であることが判る。
【0064】
(実施例3)
フィルタとしてグラスファイバーフィルタ(AP25、孔径1.5μm、直径90mm、日本ミリポア社製)を吸水用ろ紙(日本ミリポア株式会社製)の上に重ねてフィルタ試験片とした。
【0065】
20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に抗HbA抗体結合粒子担体を1%(w/v)の濃度になるように分散し、更に牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解し、更にアジ化ナトリウムを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液を作製し、該溶液100μLを96ウェルマイクロプレート(ナルジェヌンクインターナショナル株式会社製)の各ウェルに添加した。
【0066】
検体として、グリコHbコントロールレベルI(HbA1c=5.4±0.3%)、レベルII(HbA1c=10.6±0.5%)(国際試薬社製)を用い、牛血清アルブミン1%(w/v)、トリトン−100 0.03%(w/v)、及び、ヘモグロビン濃度が100μg/mLとなるように100mMPBSで調整し、測定試料を作製した。
【0067】
前記ウエルに測定試料100μLを添加し、混合10分後、フィルタ試験片の滴下部位にキャピラリーを用いて100μL滴下した。続いて、滴下部位に、牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度の20mMリン酸緩衝液(pH7.5)を100μL滴下した後、抗HbA1cモノクローナル抗体結合磁性体含有粒子を0.1%(w/v)の濃度になるように溶解し、更にアジ化ナトリウムを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液を作製し、該溶液50μLを滴下した。滴下10分後に、滴下部位に、牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度の20mMリン酸緩衝液(pH7.5)を100μL滴下した。その後、フィルタ試験片のグラスファイバーを取り出し、滴下部位の磁性量を、市販のGMRセンサ(差動磁界センサ、NVE社製)を用いて測定した。
【0068】
(実施例4)
石英ガラス基板内に、深さ100μm、幅200μmの流路チャネル、その流路の先に、深さ5μmの微細な流路チャネル分離部を設けたマイクロチップデバイスを用いた。
【0069】
20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に抗HbAモノクローナル抗体結合粒子担体を1%(w/v)の濃度になるように分散し、更に牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解し、更にアジ化ナトリウムを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液を作製し、該溶液100μLを96ウェルマイクロプレート(ナルジェヌンクインターナショナル株式会社製)の各ウェルに添加した。
【0070】
実施例3と同様の測定試料を調製、添加し、混合1分後、流路チャネル流入部から反応液200μLを送液した。続いて、流路チャネル流入部から牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度の20mMリン酸緩衝液(pH7.5)を200μL送液した。次いで、抗HbA1cモノクローナル抗体結合磁性体含有粒子を0.2%(w/v)の濃度になるように分散し、更に牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度になるように溶解した溶液50μLを送液した。続いて、流路チャネル流入部から牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度の20mMリン酸緩衝液(pH7.5)を100μL送液した。その後、流路チャネル分離部の磁性量を、市販のGMRセンサ(差動磁界センサ、NVE社製)を用いて測定した。
結果を表2に示した。
【0071】
【表2】

【0072】
表2より、実施例3、4では、HbA1cの比率の変化に伴い、磁性量についても大きく変化していることが確認された。これにより、測定結果に基づき検量線を作成し、作成した検量線を用いることで、磁性量の測定値から測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率を求めることが可能となる。従って、実施例3、4のヘモグロビンA1cの測定方法は、簡便で、精度の高い有用な測定法であることが判る。
【0073】
(実施例5)
検体として、グリコHbコントロールレベルI(HbA1c=5.4±0.3%)、レベルII(HbA1c=10.6±0.5%)(国際試薬社製)それぞれ125μLを精製水5mLに加え測定試料を作製した。
65mMリン酸緩衝液(pH7.4)に0.1%濃度となるように担体粒子(ポリスチレン系、平均粒子径50μm、積水化学工業社製)を分散した懸濁液200μLに、得られた測定試料5μLを添加し、37℃で30分間撹拌して、担体粒子表面に測定試料を吸着させた。
【0074】
次いで、得られた担体粒子懸濁液に抗HbA1cモノクローナル抗体結合磁性体含有粒子の懸濁液40μLを加え、37℃で30分間撹拌し、担体粒子吸着HbA1Cに抗HbA1cモノクローナル抗体結合磁性体含有粒子を結合させた。
グラスファイバーフィルタ(AP25、孔径1.5μm、直径90mm、日本ミリポア社製)を吸水用ろ紙(日本ミリポア株式会社製)の上に重ねたフィルタ試験片の滴下部位にキャピラリーを用いて得られた反応液を200μL滴下した。続いて、滴下部位に、牛血清アルブミンを1%(w/v)、トリトン−Xを0.01%(w/v)の濃度の20mMリン酸緩衝液(pH7.5)を100μL滴下した後、フィルタ試験片のグラスファイバーを取り出し、滴下部位の磁性量を、市販のGMRセンサ(差動磁界センサ、NVE社製)を用いて測定した。結果を表3に示した。
【0075】
【表3】

【0076】
表3より、実施例5では、HbA1cの比率の変化に伴い、磁性量についても大きく変化していることが確認された。これにより、測定結果に基づき検量線を作成し、作成した検量線を用いることで、磁性量の測定値から測定試料中のHbAに対するHbA1cの比率を求めることが可能となる。従って、実施例5のヘモグロビンA1cの測定方法は、簡便で、精度の高い有用な測定法であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、簡易かつ迅速に、ヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を高い精度で測定することが可能なヘモグロビンA1cの測定方法及びヘモグロビンA1c測定用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明において、測定試料に上記担体粒子(A)及び上記磁性体含有粒子(B)を加えた場合の挙動を示す模式図である。
【図2】フィルタ法又は流路チャネル法による担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)との分離、及び、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の捕集の原理を説明する模式図である
【図3】別の態様の本発明において、測定試料に上記担体粒子(A)及び上記磁性体含有粒子(B)を加えた場合の挙動を示す模式図である。
【符号の説明】
【0079】
1 ヘモグロビンA1c
2 ヘモグロビンA
3 抗ヘモグロビンA抗体が結合又は吸着した担体粒子(A)
4 抗ヘモグロビンA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)
5 担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体
6 フィルタ又は流路チャネル分離部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビンA及びヘモグロビンA1cを含む測定試料に対して、ヘモグロビンA及びヘモグロビンA1cと特異的に結合する抗ヘモグロビンA抗体が結合又は吸着した担体粒子(A)、及び、ヘモグロビンA1cと特異的に結合する抗ヘモグロビンA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)を加えて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成させ、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定することによりヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を測定するヘモグロビンA1cの測定方法であって、
前記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径は、前記担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さいものであり、
前記担体粒子(A)の粒子径と前記磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程を有する
ことを特徴とするヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項2】
ヘモグロビンAを含む測定試料に対して、未感作の担体粒子(A)、及び、ヘモグロビンA1cと特異的に結合する抗ヘモグロビンA1c抗体が結合又は吸着した磁性体含有粒子(B)を加えて、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を形成させ、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体の磁性量を測定することによりヘモグロビンAに対するヘモグロビンA1cの比率を測定するヘモグロビンA1cの測定方法であって、
前記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径は、前記担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さいものであり、
前記担体粒子(A)の粒子径と前記磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程を有する
ことを特徴とするヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項3】
磁性体含有粒子(B)の平均粒子径は、担体粒子(A)の平均粒子径の10%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項4】
磁性体含有粒子(B)は、平均粒子径が0.03〜0.5μmであることを特徴とする請求項3記載のヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項5】
担体粒子(A)の粒子径と磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程は、前記担体粒子(A)の平均粒子径よりも小さく、かつ、前記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径よりも大きい孔径のフィルタを用いて、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を前記フィルタ上に捕集するものであることを特徴とする請求項3又は4記載のヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項6】
担体粒子(A)の粒子径と磁性体含有粒子(B)の粒子径との差を利用して、担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を捕集する工程は、前記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径よりも小さく、かつ、前記磁性体含有粒子(B)の平均粒子径よりも大きい断面積を有する流路チャネル分離部を用いて、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体と未反応の前記磁性体含有粒子(B)とを分離し、前記担体粒子(A)−ヘモグロビンA1c−磁性体含有粒子(B)複合体を前記流路チャネル分離部に捕集するものであることを特徴とする請求項3又は4記載のヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載のヘモグロビンA1cの測定方法を実施するために用いることを特徴とするヘモグロビンA1c測定用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−3410(P2007−3410A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185228(P2005−185228)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】