説明

ヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法

【課題】明確かつ再現性よくヘリコバクター・ピロリ菌を識別することができる方法、及びそのための試薬を提供する。
【解決手段】ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質のC配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーとを用いて核酸増幅反応を行い、対象とするヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が東アジア型であるか西欧型であるかを判定し、さらにCagAタンパク質の毒性の指標となるC配列の有無および該配列の繰り返し数を明確に判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用したヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法に関するものである。本発明は、ヘリコバクター・ピロリ菌の病原性や発ガン危険性の推測などに際して特に有用である。
【背景技術】
【0002】
病原性を有するグラム陰性菌の多くは外来性遺伝子群を有することで病原性を発揮することが認められており、この外来性遺伝子群はpathogenicity island(PAI)と呼ばれている。ヘリコバクター・ピロリ菌では病原因子の一つである細胞空胞化毒素関連タンパク質(CagA)の遺伝子cagAがこのPAI内に位置し、このcagAを有する菌株の感染が十二指腸潰瘍、胃癌と関連することが報告されてきた。
【0003】
CagAタンパク質は、胃の上皮細胞に感染したヘリコバクター・ピロリ菌によって送り込まれるとSrcによってリン酸化を受け、Src homology phosphatase-2(SHP-2)と結合することで、Ras、ERKを介した異常な細胞増殖と細胞接着に関連するfocal adhesion kinase(FAK)を脱リン酸化することで細胞の運動能向上を引き起こす。CagAタンパク質には、C末端領域にEPIYAの5つの共通アミノ酸モチーフを持つA配列、B配列、C配列、D配列と名付けられたリン酸化を受ける領域があり、A配列、B配列、C配列は欧米人に多く感染するヘリコバクター・ピロリ菌に存在し、A配列、B配列、D配列は東アジア人に多く感染するヘリコバクター・ピロリ菌に存在する。SHP-2はC配列またはD配列の領域に結合することが分かっており、欧米人ではC配列を複数持つ場合にSHP-2との結合力が強くなり、毒性が強くなり発ガンしやすくなることが知られている(例えば、非特許文献1〜4参照)。
【0004】
ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が上記のA配列、B配列、C配列を持ち欧米人に多く感染するタイプ(西欧型)、またはA配列、B配列、D配列を持ち東アジア人に多く感染するタイプ(東アジア型)のどちらに該当するかを判別するための従来技術としては、例えばcagA遺伝子の核酸配列を決定するシークエンシング法がある。シークエンシング法は、核酸配列を直接解析することにより判別に必要な情報を得ることができるが、鋳型核酸の調製、DNAポリメラーゼ反応、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、核酸配列の解析などを行うため多大な労力と時間が必要である。また近年の自動シークエンサーを用いることで省力化は行うことができるが、高価な装置が必要であるという問題がある。
【0005】
また最近になって、従来より知られる遺伝子増幅法であるpolymerase chain reaction(PCR)法(例えば、特許文献1及び2参照)を利用して、cagA遺伝子を西欧型と東アジア型に分類する試みがなされている(非特許文献5参照)。これは西欧型CagAタンパク質の遺伝子または東アジア型CagAタンパク質の遺伝子をそれぞれ増幅可能なPCRを別々に実施した後、検出プローブとのハイブリダイゼーション反応により増幅の有無を判断し、CagAタンパク質の型を判別する方法であるが、本方法では1試料あたり2反応のリアルタイムPCRが必要なため煩雑な操作を伴い、さらには上記のようにCagAタンパク質において毒性の指標となり得るC配列の繰り返し数に関する知見を得ることができない。
【特許文献1】特公平4−67960号公報
【特許文献2】特公平4−67957号公報
【非特許文献1】Asahiら、J. Exp. Med. 第191巻、第593〜602頁、(2000年)
【非特許文献2】Higashiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 第99巻、第14428〜14433頁、(2002年)
【非特許文献3】Azumaら、J. Infect. Dis. 第189巻、第820〜827頁、(2004年)
【非特許文献4】Azumaら、J. Clin. Microbiol. 第42巻、第2508〜2517頁、(2004年)
【非特許文献5】Yamazakiら、FEMS Immunol. Med. Microbiol. 第44巻、第261〜268頁、(2005年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決して、明確にかつ再現性よくヘリコバクター・ピロリ菌を識別することができる方法およびそのための試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究の結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
1.CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用したヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、該領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することを特徴とする識別方法。
2.CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、
(a)少なくとも1種のプライマーが、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(b)また少なくとも1種のプライマーが、C配列の外部近傍に存在する核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(c)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となることを特徴とする方法を用いて核酸断片を増幅し、
(d)該方法で得られた1つまたはそれ以上の増幅核酸断片を解析することからなる識別方法。
3.CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用したヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、
(a)少なくとも1種のプライマーが、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(b)また少なくとも1種のプライマーが、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(c)さらに少なくとも1種のプライマーが、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(d)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となることを特徴とする方法を用いて核酸断片を増幅し、
(e)該方法で得られた1つまたはそれ以上の増幅核酸断片を解析することからなる識別方法。
4.配列番号1から3のいずれかに示される核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
5.CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、
(a)C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとして、配列番号1に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(b)C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーとして、配列番号2に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(c)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となることを特徴とする方法を用いて核酸断片を増幅し、
(d)該方法で得られた1つまたはそれ以上の増幅核酸断片を解析することからなる識別方法。
6.CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用したヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、
(a)C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとして、配列番号1に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(b)東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとして、配列番号3に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(c)CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列として、配列番号2に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(d)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となることを特徴とする方法を用いて核酸断片を増幅し、
(e)該方法で得られた1つまたはそれ以上の増幅核酸断片を解析することからなる識別方法。
7.5または6の識別方法を用いてCagAタンパク質C末端領域におけるC配列の繰り返し数を判定し、欧米人に多く感染するヘリコバクター・ピロリ菌による発ガンの危険性を推測する方法。
8.CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することによりヘリコバクター・ピロリ菌を識別するための試薬であって、
(a)少なくとも1種のプライマーが、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(b)また少なくとも1種のプライマーが、C配列の外部近傍に存在する核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(c)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となるプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTPおよび緩衝液を含むことを特徴とする識別用試薬。
9.CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用してヘリコバクター・ピロリ菌を識別するための試薬であって、
(a)少なくとも1種のプライマーが、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(b)また少なくとも1種のプライマーが、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(c)さらに少なくとも1種のプライマーが、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(d)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となるプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTPおよび緩衝液を含むことを特徴とする識別用試薬。
10.8または9の識別用試薬を含んでなり、CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の繰り返し数から欧米人に多く感染するヘリコバクター・ピロリ菌による発ガンの危険性を推測するための試薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ヘリコバクター・ピロリ菌を明確にまた簡便に識別できる方法が提供される。また本発明の方法によれば、CagAタンパク質において毒性の指標となり得るC配列の繰り返し数も判定することができ、これまでの方法より詳細にヘリコバクター・ピロリ菌を識別することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、プライマーとは、ヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドであって、核酸増幅のために一般的に利用される特性を有していれば良く、必要に応じて修飾されていても良い。プライマー鎖長は、9〜35塩基であればよく、好ましくは、11〜30塩基である。これらのプライマーを用いた増幅方法は特に限定はされない。既知の増幅方法を用いればよい。既知の増幅方法としては、例えば、PCR、NASBA、LCR、SDA、RCA、TMA、LAMP、ICANおよびUCAN法などがある。
【0011】
本発明において核酸の増幅とは、試料中の核酸から増幅したい核酸(標的核酸)をその固有の配列の相補性を利用して増幅することを指す。本発明におけるヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法に適用可能な核酸増幅の方法としては、基本的には、従来の方法を用いて行うことができ、通常、一本鎖に変性させたヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)およびDNAポリメラーゼおよび2種類以上のオリゴヌクレオチドすなわちプライマーを作用させることで、標的核酸を鋳型として用いたプライマー間の配列が増幅される。また、標的核酸が検出するのに十分な量が含まれていない場合、あらかじめ前記ヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片を以下に示す増幅反応によって、増幅しておくことも可能である。
【0012】
核酸増幅方法としては、PCR、NASBA(Nucleic acid sequence-basedamplification method;Nature 第350巻、第91頁(1991年))、LCR(国際公開89/12696号公報、特開平2−2934号公報)、SDA(Strand Displacement Amplification:Nucleic Acids Res. 第20巻、第1691頁(1992年))、RCA(国際公開90/1069号公報)、TMA(Transcription mediated amplification method;J. Clin. Microbiol. 第31巻、第3270頁(1993年))、LAMP(loop-mediated isothermal amplification method:J. Clin Microbiol. 第42巻:第1,956頁(2004年))、ICAN(isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids:Kekkaku. 第78巻、第533頁(2003年))、UCAN(日本癌学会(H13.9.26〜H13.9.28、横浜にて開催)または日本鑑識科学技術学会(H13.11.8〜H13.11.9、東京にて開催)参照)などが挙げられる。
【0013】
なかでもPCR法は、試料核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のプライマー及び耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返すことにより、上記一対のプライマーで挟まれる試料核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である。すなわち、変性工程で試料の核酸を変性し、続くアニーリング工程において各プライマーと、それぞれに相補的な一本鎖試料核酸上の領域とをハイブリダイズさせ、続く伸長工程で、各プライマーを起点としてDNAポリメラーゼの働きにより鋳型となる各一本鎖試料核酸に相補的なDNA鎖を伸長させ、二本鎖DNAとする。この1サイクルにより、1本の二本鎖DNAが2本の二本鎖DNAに増幅される。従って、このサイクルをn回繰り返せば、理論上、上記一対のプライマーで挟まれた試料DNAの領域は2のn乗倍に増幅される。増幅されたDNA領域は大量に存在するので、電気泳動等の方法により容易に検出できる。よって、遺伝子増幅法を用いれば、従来では検出不可能であった、極めて微量(1分子でも可)の試料核酸をも検出することが可能であり、最近非常に広く用いられている技術である。
【0014】
本発明のヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法に適用可能な増幅核酸断片の解析法としては従来公知の核酸解析法を使用することができ、特に限定されるものではないが、簡便性の観点からアガロースゲル電気泳動が好ましい。「アガロースゲル電気泳動」を使用する場合は、一例として、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーおよびCagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーにより生成される増幅核酸断片と、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーおよびCagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーにより生成される増幅核酸断片の鎖長が異なるように各プライマーを設計する。これらのプライマーを混合して核酸を増幅することにより、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が東アジア型であるか西欧型であるか、さらにCagAタンパク質の毒性の指標となり得るC配列の繰り返し数について、増幅された核酸断片のパターンから迅速に判別できる。
【0015】
本発明の重要な開示の一つは、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーとを、一例として図1に示すように設定し、核酸増幅反応を行い、対象とするヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質について、毒性の指標となるC配列の有無および該配列の繰り返し数を明確に判定できるような顕著な効果を見出したことにある。
【0016】
例えば、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質にC配列が1個存在する場合は、図1(A)に示すように、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーにより1種類の増幅核酸断片が生成する。また、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質にC配列が2個存在する場合は、図1(B)に示すように、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーにより鎖長の異なる2種類の増幅核酸断片が生成する。
【0017】
本発明に用いるC配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーは、核酸増幅のために一般的に利用される特性を有していれば良く、必要に応じて修飾されていても良い。当該修飾としても特に限定されず、例えば、ビオチン化、ジゴキシゲニンの結合または蛍光色素の結合などの修飾が施され得る。上記構成によれば、プライマーによって増幅される核酸断片を高感度に検出することが可能になる。例えば、プライマーをビオチン化すれば、該プライマーによって増幅された核酸断片に対して、アビジンまたは抗ビオチン抗体が連結されたマーカーを結合させることができる。また、プライマーにジゴキシゲニンを結合すれば、該プライマーによって増幅された核酸断片に対して、抗ジゴキシゲニン抗体が連結されたマーカーを結合させることができる。そして、増幅された核酸断片に結合したマーカーを検出することによって、プライマーによって増幅される核酸断片の有無を検出することができるとともに、増幅される核酸断片の量を推定することができる。なお、プライマーに蛍光色素を結合させる場合には、増幅される核酸断片中の蛍光色素の有無と、蛍光色素から発せられる蛍光の強度とを検出すればよい。
【0018】
このとき、上記マーカーとしては特に限定されず、適宜公知のマーカーを用いることができる。例えば、上記マーカーは、酵素であることが好ましい。さらに具体的には、上記マーカーは、アルカリフォスファターゼまたはペルオキシダーゼであることが好ましい。上記マーカーとしてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、基質としてパラニトロフェニルリン酸またはCDP−starを用いれば良い。また、上記マーカーとしてペルオキシダーゼを用いる場合には、基質としてTMB、Lumi−Light(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、またはSAT−1(同仁化学社製)を用いれば良い。そして、上記酵素と基質との反応を検出すれば、プライマーによって増幅される核酸断片の有無を検出することができるとともに、増幅される核酸断片の量を推定することができる。
【0019】
C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーがヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相同的なセンスプライマーである場合には、C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーはヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相補的なアンチセンスプライマーであればよく、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーがヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相補的なアンチセンスプライマーである場合には、C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーはヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相同的なセンスプライマーであればよい。
【0020】
上記の方法の一つを説明するならば、下記の(a)〜(b)の工程を含み、CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法である。
(a)互いのプライマー伸長産物が、相互の鋳型となる性質を有する次の(i)と(ii)のプライマーを用いて、核酸増幅をおこなう工程:
(i) C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するプライマー
(ii) C配列の外部近傍に存在する核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するプライマー
(b)工程(a)で得られた1つまたはそれ以上のプライマー(i)から得られる増幅核酸断片の種類を解析する工程
【0021】
外部近傍の「近傍」は、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとC配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマー間の鎖長が、一般的な増幅反応により増幅され得る鎖長に設定することを意味する。この一般的な増幅反応により増幅され得る鎖長は当業者にとって周知である。例えばLong PCRなどを用いれば、40kb程度の鎖長の増幅産物が得られることが知られている。なお検出感度を向上させるため、該増幅反応により増幅され得る鎖長は5kb以下が好ましく、2kb以下がさらに好ましい。また、該鎖長は20bp以上が好ましく、40bp以上がさらに好ましいが、アガロースゲル電気泳動など従来公知の核酸解析法を用いて解析可能な鎖長であれば特に限定されない。
【0022】
本発明の重要な開示の別の一つは、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーとを、一例として図2に示すように設定し、核酸増幅反応を行い、対象とするヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質について、東アジア型であるか西欧型であるかを判定し、さらにCagAタンパク質の毒性の指標となるC配列の有無および該配列の繰り返し数を明確に判定できるような顕著な効果を見出したことにある。
【0023】
例えば、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が東アジア型でありC配列が1個存在する場合は、図2(A)に示すように、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーにより1種類の増幅核酸断片が生成する。また、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が西欧型でありC配列が2個存在する場合は、図2(B)に示すように、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーにより鎖長の異なる2種類の増幅核酸断片が生成する。さらに、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が東アジア型でありC配列が存在しない場合は、図2(C)に示すように、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーにより1種類の増幅核酸断片が生成する。
【0024】
本発明に用いるC配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーは、核酸増幅のために一般的に利用される特性を有していれば良く、必要に応じて修飾されていても良い。当該修飾としても特に限定されず、例えば、ビオチン化、ジゴキシゲニンの結合または蛍光色素の結合などの修飾が施され得る。上記構成によれば、プライマーによって増幅される核酸断片を高感度に検出することが可能になる。例えば、プライマーをビオチン化すれば、該プライマーによって増幅された核酸断片に対して、アビジンまたは抗ビオチン抗体が連結されたマーカーを結合させることができる。また、プライマーにジゴキシゲニンを結合すれば、該プライマーによって増幅された核酸断片に対して、抗ジゴキシゲニン抗体が連結されたマーカーを結合させることができる。そして、増幅された核酸断片に結合したマーカーを検出することによって、プライマーによって増幅される核酸断片の有無を検出することができるとともに、増幅される核酸断片の量を推定することができる。なお、プライマーに蛍光色素を結合させる場合には、増幅される核酸断片中の蛍光色素の有無と、蛍光色素から発せられる蛍光の強度とを検出すればよい。
【0025】
このとき、上記マーカーとしては特に限定されず、適宜公知のマーカーを用いることができる。例えば、上記マーカーは、酵素であることが好ましい。さらに具体的には、上記マーカーは、アルカリフォスファターゼまたはペルオキシダーゼであることが好ましい。上記マーカーとしてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、基質としてパラニトロフェニルリン酸またはCDP−starを用いれば良い。また、上記マーカーとしてペルオキシダーゼを用いる場合には、基質としてTMB、Lumi−Light(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、またはSAT−1(同仁化学社製)を用いれば良い。そして、上記酵素と基質との反応を検出すれば、プライマーによって増幅される核酸断片の有無を検出することができるとともに、増幅される核酸断片の量を推定することができる。
【0026】
C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーは、ヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に対して同じ向きに設計する方がよい。C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーがヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相同的なセンスプライマーである場合には、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーはヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相補的なアンチセンスプライマーであればよく、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーがヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相補的なアンチセンスプライマーである場合には、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーはヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片に相同的なセンスプライマーであればよい。
【0027】
上記の方法の一つを説明するならば、下記の(a)〜(b)の工程を含み、CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法である。
(a)次の(ii)と(iii)のプライマーは互いのプライマー伸長産物が相互の鋳型となる性質を有し、(i)と(iii)のプライマーは互いのプライマー伸長産物が相互の鋳型となる性質を有する次の(i)〜(iii)のプライマーを用いて、核酸増幅をおこなう工程:
(i) C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するプライマー
(ii) 東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するプライマー
(iii)CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するプライマー
(b)工程(a)で得られる1つまたはそれ以上のプライマー(i)から得られる増幅核酸断片の有無及び種類と、プライマー(ii)から得られる増幅核酸断片の有無を解析する工程
【0028】
本発明のオリゴヌクレオチドは、ヘリコバクター・ピロリ菌の染色体またはその断片を増幅するためのものである。
【0029】
配列表の配列番号1で示される塩基配列の連続する15〜20塩基を有する配列を含んだオリゴヌクレオチドはC配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとして用いられ、C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーまたはCagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーと組み合わせて、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数の判定に用いられる。
【0030】
配列表の配列番号2で示される塩基配列の連続する15〜23塩基を有する配列を含んだオリゴヌクレオチドはC配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーまたはCagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーとして用いられ、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと組み合わせてヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数の判定に用いられ、または東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーと組み合わせてヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が東アジア型であることの判定に用いられる。
【0031】
配列表の配列番号3で示される塩基配列の連続する15〜27塩基を有する配列を含んだオリゴヌクレオチドは東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとして用いられ、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーと組み合わせて、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が東アジア型であることの判定に用いられる。
【0032】
本発明のヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法を使用するための試薬組成の好ましい一例としては、(a)DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、(b)核酸増幅用プライマー、(c)dNTP、(d)反応バッファー、(e)核酸含有試料などから成る。
(a)「DNAポリメラーゼ活性を有する酵素」としては、T4またはT7ファージ、大腸菌、サーモコッカス(Thermococcus)属、サーマス(Thermus)属、パイロコッカス(Pyrococcus)属、バシラス(Bacillus)属など種々の起源のDNAポリメラーゼおよびその改良変異体を特に限定されることなく使用できるが、核酸の増幅方法としてPCR法を使用する場合はKOD DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼなど熱安定性の酵素を使用することが好ましい。中でもKOD DNAポリメラーゼまたは該酵素を改良したDNAポリメラーゼは増幅量および反応速度の観点から最も好ましい。具体的には、KOD Dash DNAポリメラーゼの場合は1〜200単位/ml程度の使用が好ましく、10〜100単位/ml程度の使用がより好ましい。
(b)「核酸増幅用プライマー」は1〜4000nM程度を含む。中でも増幅量および特異性を高めるために、50〜500nM程度がより好ましく、200nM程度がさらに好ましい。
(c)「dNTP」は50〜1000μM程度を含む。100〜700μM程度がより好ましく、200〜400μM程度がさらに好ましい。
(d)「反応バッファー」については、本発明のヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法を使用するための試薬に含まれる酵素の能力を最大限に発揮する目的で、緩衝液や金属塩の濃度、溶液のpHなどが適宜選択され得る。また、酵素の安定性を高める目的で、該試薬にウシ血清アルブミンなどの添加剤を適宜混合しても良い。
(e)「核酸含有試料」は、例えば、バクテリア、動物または植物組織、個体細胞由来の溶解物などのあらゆる材料から調製することができる。該試料の調製法は特に限定されないが、例えば、患者の血液、組織から、既知の方法により調製してもよい。代表的なものとして、フェノール/クロロホルム抽出法(Biochimica et Biophysica acta 第72巻、第619〜629頁、1963年)、アルカリSDS法(Nucleic Acids Res. 第7巻、第1513〜1523頁、1979年)などの液相で行う方法がある。また、核酸の単離に核酸結合用担体を用いる系としては、ガラス粒子とヨウ化ナトリウム溶液を使用する方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 第76−2巻、第615〜619頁、1979年)、ハイドロキシアパタイトを用いる方法(特開昭63−263093号公報)等がある。その他の方法としてはシリカ粒子とカオトロピックイオンを用いた方法(J. Clinical Microbiology 第28−3巻、第495〜503頁、1990年、特開平2−289596号公報)が挙げられる。また、核酸は試料中に溶解させてもよいし、固相に固定させてもよい。
【0033】
本発明のヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法および識別用試薬は、ヘリコバクター・ピロリ菌による発ガンの危険性を予測するために用いられることが好ましい。上記ガンとしては、胃ガンなどを挙げることができる。上述したように、本発明の識別方法および識別用試薬を用いれば、CagAタンパク質のC末端領域の多型を検出することができる。更に詳細には、本発明の識別方法および識別用試薬を用いれば、発ガンに関係が深いC配列の有無を検出することができるとともに、C配列の数をも検出することができる。そして、C配列の有無によって、発ガンの可能性の有無を予測することができるとともに、上記C配列の数によって、発ガンの可能性の大小(C配列が多いほど、発ガンの危険度が大きい)を予測することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
ヘリコバクター・ピロリ菌の識別
(1)オリゴヌクレオチドの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号1〜3に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ1〜3と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、シグマアルドリッチジャパン(株)、オペロンバイオテクノロジー(株)等)に依頼した。
オリゴ1がセンス鎖でありC配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーであり、アンチセンス鎖のオリゴ2と組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用される。オリゴ2はCagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列を含有するプライマーである。また、オリゴ3は東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーであり、アンチセンス鎖のオリゴ2と組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用される。
【0036】
(2)PCR法によるヘリコバクター・ピロリ菌cagA遺伝子の解析
表1におけるサンプル番号1〜6のヘリコバクター・ピロリ菌からそれぞれフェノール・クロロフォルム法により抽出したDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりPCR法によるヘリコバクター・ピロリ菌のcagA遺伝子を解析した。
【0037】
【表1】

【0038】
試薬
以下の試薬を含む25μl溶液を調製した。
KOD DNAポリメラーゼ反応液
オリゴ1 5pmol、
オリゴ2 10pmol、
オリゴ3 5pmol、
×10緩衝液 2.5μl、
2mM dNTP 2.5μl、
25mM MgCl 1μl、
KOD DNAポリメラーゼ 0.5U、
抽出DNA溶液 100ng
【0039】
増幅条件
94℃・5分
94℃・15秒、
60℃・30秒、
68℃・30秒(35サイクル)
25℃・15分。
【0040】
(3)アガロースゲル電気泳動を用いた検出
増幅反応液5μlを3%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、紫外線照射下での蛍光を検出した。アガロース電気泳動で得られた写真を図3に示す。なお、図3のレーン番号は表1のサンプル番号に対応する。電気泳動の条件は、定電圧100V、60分間にて行った。反応液の他に分子量マーカーも同時に泳動し、検出された増幅核酸断片の鎖長を比較する際の参考とした。
【0041】
(4)結果
図3(および表1)のサンプル番号1〜6より明らかなように、本発明のヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法によれば、600bpを境界として増幅核酸断片の鎖長よりCagAタンパク質を東アジア型または西欧型に分類できる。すなわち増幅核酸断片が600bpより小さければ西欧型、600bpより大きければ東アジア型と判定できる。また、600bpより短い増幅核酸断片の本数より、C配列の繰り返し数を判定することが可能である。これらの結果は、核酸配列を直接解析することにより判別に必要な情報を得ることができるが多大な労力と時間が必要であるなどの欠点を有するシークエンシング法を用いた該6株の識別結果(表1)と一致する。
【0042】
すなわち、本発明のヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法では従来の方法と同様の識別能力を実現しながら、解析に必要な作業工程数を大幅に短縮し、容易にかつ迅速にヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が東アジア型であるか西欧型であるかを判定し、さらにCagAタンパク質の毒性の指標となるC配列の有無および該配列の繰り返し数を明確に判定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、ヘリコバクター・ピロリ菌のCagAタンパク質が東アジア型であるか西欧型であるかを判定し、さらにCagAタンパク質の毒性の指標となるC配列の有無および該配列の繰り返し数を明確に判定することが可能となり、これまでの方法のように煩雑な操作を必要とせず、迅速で容易に再現性の良い結果が得られることからも、産業界に大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとC配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーを用いたヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法の一例
【図2】C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとC配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーと東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーを用いたヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法の一例
【図3】ヘリコバクター・ピロリ菌の識別結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用したヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、該領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することを特徴とする識別方法。
【請求項2】
CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、
(a)少なくとも1種のプライマーが、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(b)また少なくとも1種のプライマーが、C配列の外部近傍に存在する核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(c)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となることを特徴とする方法を用いて核酸断片を増幅し、
(d)該方法で得られた1つまたはそれ以上の増幅核酸断片を解析することからなる識別方法。
【請求項3】
CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用したヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、
(a)少なくとも1種のプライマーが、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(b)また少なくとも1種のプライマーが、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(c)さらに少なくとも1種のプライマーが、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(d)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となることを特徴とする方法を用いて核酸断片を増幅し、
(e)該方法で得られた1つまたはそれ以上の増幅核酸断片を解析することからなる識別方法。
【請求項4】
配列番号1から3のいずれかに示される核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、
(a)C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとして、配列番号1に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(b)C配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーとして、配列番号2に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(c)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となることを特徴とする方法を用いて核酸断片を増幅し、
(d)該方法で得られた1つまたはそれ以上の増幅核酸断片を解析することからなる識別方法。
【請求項6】
CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用したヘリコバクター・ピロリ菌の識別方法であって、
(a)C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとして、配列番号1に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(b)東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列を含有するプライマーとして、配列番号3に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(c)CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列として、配列番号2に記載の核酸配列または該配列に相補的な核酸配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを使用し、
(d)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となることを特徴とする方法を用いて核酸断片を増幅し、
(e)該方法で得られた1つまたはそれ以上の増幅核酸断片を解析することからなる識別方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の識別方法を用いてCagAタンパク質C末端領域におけるC配列の繰り返し数を判定し、欧米人に多く感染するヘリコバクター・ピロリ菌による発ガンの危険性を推測する方法。
【請求項8】
CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の有無および該配列の繰り返し数を判定することによりヘリコバクター・ピロリ菌を識別するための試薬であって、
(a)少なくとも1種のプライマーが、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(b)また少なくとも1種のプライマーが、C配列の外部近傍に存在する核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(c)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となるプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTPおよび緩衝液を含むことを特徴とする識別用試薬。
【請求項9】
CagAタンパク質C末端領域の多型性を利用してヘリコバクター・ピロリ菌を識別するための試薬であって、
(a)少なくとも1種のプライマーが、C配列をコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(b)また少なくとも1種のプライマーが、東アジア型CagAをコードする核酸配列に特異的な核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(c)さらに少なくとも1種のプライマーが、CagAをコードする核酸配列に共通の核酸配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
(d)一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となるプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTPおよび緩衝液を含むことを特徴とする識別用試薬。
【請求項10】
請求項8または9に記載の識別用試薬を含んでなり、CagAタンパク質C末端領域におけるC配列の繰り返し数から欧米人に多く感染するヘリコバクター・ピロリ菌による発ガンの危険性を推測するための試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−161112(P2008−161112A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354166(P2006−354166)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】