ベクトル波記録媒体、及び多重記録再生方法
【課題】スケジューリングを行う必要がなく、これによって記録システム上の転送レートの低下を引き起こす恐れのないベクトル波記録媒体及びその多重記録再生方法を提供する。
【解決手段】光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有し、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうベクトル波記録媒体であって、前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として、前記情報記録層に対して前記ベクトル波多重記録をホログラフィックに実施した後の、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、ηmin /ηmax ≧ 0.1を満たすようにする。
【解決手段】光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有し、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうベクトル波記録媒体であって、前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として、前記情報記録層に対して前記ベクトル波多重記録をホログラフィックに実施した後の、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、ηmin /ηmax ≧ 0.1を満たすようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射される光の偏光状態に応じて屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有し、ホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうためのベクトル波記録媒体、及びその多重記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック記録は、イメージ情報を持った信号光とともに参照光を同時に照射して生じる干渉縞を、記録媒体に回折格子として記録することにより行われる。ホログラフィック記録媒体からの再生は、上記したイメージ情報が記録された記録媒体に参照光を照射して、イメージ情報を回折格子からの再生信号光として読み出すことによって行われる。
【0003】
ホログラフィック記録は、上記イメージ情報を1ページとして、ページ単位で一括記録、再生でき、かつ、媒体の同一箇所にページを多重記録できることから、従来のCD、DVD、ブルーレイディスクで用いられるビット・バイ・ビットの記録方式に替わる高速かつ大容量の光記録方式として期待される技術である。
【0004】
一方、照射される光の偏光状態に応じて屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有する偏光記録媒体を用いて、イメージ情報を複屈折位相差(リターデーション)として記録する新たな偏光記録方式(リターダグラフィー)が提案されている(特許文献1参照)。また、イメージ情報を有する信号光とともに信号光とは異なる偏光状態の参照光を同時に照射して生じる偏光分布を上記偏光記録媒体に記録するベクトル波記録方式も提案されている。これは、ホログラフィック記録と偏光記録とを組み合わせることで、更なる高記録密度化が期待されるものである(特許文献2参照)。
【0005】
ところでホログラフィック記録、偏光記録に用いる記録材料は、ライトワンス型と書き換え型との2つに大別される。ライトワンス型および書き換え型の偏光記録材料に用いられる偏光感応性化合物としては、それぞれ、9,10−フェナンスレンキノン、アゾベンゼン等が広く知られている。
【0006】
ライトワンス型の記録材料を用いて多重記録が行なわれる場合、1ページ目の記録によって、記録成分がある割合で光反応して変化し、2ページ目の記録によって、残りの未反応の記録成分がある割合で光反応して変化し、3ページ目の記録によって、更に残りの未反応の記録成分がある割合で光反応して変化し、・・・、が順次繰り返されて多重記録が行なわれる。
【0007】
従って、多重が繰り返されるほど残存記録成分が減少するので、それにともない記録感度が低下する。つまり、各ページを同じ照射エネルギーで記録すると、後半のページにいくほど再生信号強度が減少することになり、記録再生システム上不都合が生じる。
【0008】
一方、書き換え型の記録材料を用いて多重記録が行なわれる場合は、1ページ目の記録によって、記録成分がある割合で光反応して変化し、2ページ目の記録によって、1ページ目のすでに記録に消費された成分と残りの未反応の記録成分とがそれぞれある割合で光反応して変化し、3ページ目の記録によって、1ページ目と2ページ目のすでに記録に消費された成分と残りの未反応の記録成分がそれぞれある割合で光反応して変化し、・・・、が順次繰り返されて多重記録が行なわれる。
【0009】
従って、多重が繰り返されるほど、すでに記録されたページの記録成分が減少するので、各ページを同じ照射エネルギーで記録すると、ライトワンス型とは逆に、前半のページの再生信号強度が減少することになり、この場合も記録再生システム上不都合が生じる。
【0010】
これらの不都合を解消するために、スケジューリングと呼ばれる手法が用いられる。これは、多重による再生信号強度の変化、つまり記録感度の変化を予め想定して、照射エネルギーをページ(回折格子)毎に変化させながら多重記録を行なうもので、これによって各ページからの再生信号強度を均一化しようとするものである(特許文献2参照)。
【0011】
しかしながら、特許文献3に示される記録媒体は、ホログラフィック記録媒体であってベクトル波記録媒体ではないため、大幅な記録密度の向上が期待できない。また、特許文献3に示される記録媒体は、スケジューリングを確実に行うことを目的とするものであって、スケジューリング自体は依然必要である。
【0012】
スケジューリングを行った場合、感度の低下が予想されるページ(回折格子)に対しては高い照射エネルギーで記録することになる。照射エネルギーは照射パワーと照射時間との掛け算であるが、照射パワーをページ毎に変化させるには記録システム上複雑な制御が要求されるため、照射時間を調整して照射エネルギーを変化させるのが一般的である。
【0013】
つまり、高い照射エネルギーで記録するためには照射時間を長くすることになり、これは記録システム上の転送レートの低下を引き起こすという問題につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−20883号
【特許文献2】特開平10−340479号
【特許文献3】特表2008−532091号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、スケジューリングを行う必要がなく、これによって記録システム上の転送レートの低下を引き起こす恐れのないベクトル波記録媒体及びその多重記録再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成すべく、本発明は、
光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有し、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうベクトル波記録媒体であって、
前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として、前記情報記録層に対して前記ベクトル波多重記録をホログラフィックに実施した後の、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、
ηmin /ηmax ≧ 0.1
を満たすことを特徴とする、ベクトル波記録媒体に関する。
【0017】
また、本発明は、
光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有するベクトル波記録媒体に対して、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を、前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうステップと、
前記ベクトル波記録媒体に対して前記第2の偏光状態の再生参照光を照射し、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光を得るステップとを具え、
再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、
ηmin /ηmax ≧ 0.1
を満たすことを特徴とする、ベクトル波記録媒体の多重記録再生方法に関する。
【0018】
なお、ηは、入射光、すなわち記録信号光及び記録参照光の光強度I0に対する各回折格子からの再生信号光の光強度I1の比 η= I1 / I0として定義される。
【0019】
本発明のベクトル波記録媒体及びその多重記録再生方法によれば、光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有するベクトル波記録媒体に対して、第1の偏光状態の記録信号光及び第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を照射し、情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行うに際して、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを一定とした場合における、各記録情報に相当する各回折格子の再生信号光の回折効率において、最大値ηmaxの最小値ηminに対する比率を0.1以上としている。
【0020】
すなわち、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを一定とし、特にスケジューリングを行わない場合においても、ホログラフィックなベクトル波多重記録において、再生信号光の回折効率、すなわち再生信号光の強度が大きく減少することがない。結果として、感度の低下が予想されるページ(回折格子)に対して高い照射エネルギーで記録するような操作が要求されないので、照射時間を長くする必要がなくなり、記録システム上の転送レートの低下を抑制することができる。
【0021】
本発明の一例において、光誘起複屈折材料は、光ラジカル発生剤及びポリマーマトリックスを含む材料とすることができる。また、光ラジカル発生剤は、分子内開裂型光ラジカル発生剤とすることができる。さらに、分子内開裂型光ラジカル発生剤は、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上、本発明によれば、スケジューリングを行う必要がなく、これによって記録システム上の転送レートの低下を引き起こす恐れのないベクトル波記録媒体及びその多重記録再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態におけるベクトル波記録媒体の概略構成を示す斜視図である。
【図2】ホログラフィックにベクトル波多重記録を行うための光学装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】ホログラフィックなベクトル波多重記録を実施した後の、記録情報の読み出しに使用する再生光学系の一例を示す概略構成図である。
【図4】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図5】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図6】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図7】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図8】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図9】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図10】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図11】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
(ベクトル波記録媒体)
最初に、本発明のベクトル波記録媒体の一例について説明する。
図1は、本実施形態におけるベクトル波記録媒体の概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態のベクトル波記録媒体10は、透明基板11上に光誘起複屈折材料からなる情報記録層12が形成されてなる。
【0026】
透明基板11は、例えば、ガラス、樹脂などが用いられるが、成形性、コストの点から、樹脂が好ましい。樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、成形性、光学特性、コストの点から、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂が特に好ましい。
【0027】
また、透明基板11の表面には、必要に応じて微細加工を施すことができ、またUV硬化樹脂等でハードコート処理することもできる。さらには、反射防止処理をすることもできる。
【0028】
また、以下に示す記録及び再生に影響を与えない限りにおいてセラミック等からも構成することができる。
【0029】
透明基板11の厚さは、ベクトル波記録媒体10、すなわち情報記録層12に対する記録及び再生に影響を与えないような厚さに適宜に設定する。
【0030】
情報記録層12は、ポリマーマトリックス及び光ラジカル発生剤を含む。具体的には、ポリマーマトリックス及び光ラジカル発生剤を溶媒に溶解させ、透明基板11に塗布乾燥することで形成させてもよいし、ポリマーマトリックスと光ラジカル発生剤とを溶融混練し成型することで形成させてもよい。
【0031】
ポリマーマトリックスの種類は特に限定されるものではないが、ポリアクリル酸エステル等のアクリル系樹脂、ポリビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、各種エストラマー等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合、もしくは共重合体を用いてもよい。ポリマーマトリックスとしては、光学的に透明なものが好ましく、特に複屈折が小さなものが好ましい。
【0032】
光ラジカル発生剤は光照射によりラジカル種を生成するものであれば特に限定されるものではないが、光ラジカル重合開始剤として一般的に知られている化合物群が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。光ラジカル発生剤は分子内開裂型光ラジカル発生剤と水素引き抜き型光ラジカル発生剤とに大別されるが、本発明には前者が好ましい。分子内開裂型光ラジカル発生剤としては、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物を用いることが好ましい。
【0033】
α−アミノアセトフェノン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。α−アミノアセトフェノン化合物として、具体的には、以下の化合物が例示できる。
【0034】
例えば、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジエチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−エチルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−イソプロピルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ブチルフェニル)−2−ジメチルアミノ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン(イルガキュア907)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(イルガキュア369)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−ジメチルアミノフェニル)ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(イルガキュア379)などが挙げられる。
【0035】
オキシムエステル化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。オキシムエステル化合物として、具体的には、以下の化合物が例示できる。
【0036】
例えば、3−ベンゾイルオキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−フェニルチオ)フェニル−2−ベンゾイルオキシイミノオクタン−1−オン(イルガキュアOXE01)、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル]−1−アセトキシイミノエタン(イルガキュアOXE02)等が挙げられる。
【0037】
なお、本実施形態では、透明基板11を設けているが、ポリマーマトリックスを例えばフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチックから構成し、それ自体で十分な強度を有するような場合においては、透明基板11を省略することができる。
【0038】
情報記録層12の厚さは1〜3,000μmの範囲であることが好ましい。この場合、記録波長領域350nm〜800nmでの透過率が高く、比較的低エネルギーの記録信号光及び記録参照光でも十分に記録を行うことができ、エネルギー効率を増大させることができる。
【0039】
情報記録層12の表面には、必要に応じて微細加工を施すことができ、またUV硬化樹脂等でハードコート処理することもできる。さらには、反射防止処理をすることもできる。
【0040】
本発明では、情報記録層12に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行うに際して、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを一定とした場合における、各記録情報に相当する各回折格子の再生信号光の回折効率において、最小値ηminの最大値ηmaxに対する比率(ηmin /ηmax)が0.1以上であることが必要であり、0.2以上が好ましく、特に0.3以上が特に好ましい。
【0041】
これによって、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを一定とし、特にスケジューリングを行わない場合においても、ホログラフィックなベクトル波多重記録において、再生信号光の回折効率、すなわち再生信号光の強度が大きく減少することがない。結果として、感度の低下が予想されるページに対して高い照射エネルギーで記録するような操作が要求されないので、高い照射エネルギーで記録するために照射時間を長くする必要がなくなり、記録システム上の転送レートの低下を抑制することができる。
【0042】
なお、上述した再生信号光の、回折効率における最小値ηminの最大値ηmaxに対する比率(ηmin /ηmax)は、情報記録層12を上述した材料から構成することにより達成することができる。特に、光ラジカル重合開始剤として、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物の分子内開裂型光ラジカル発生剤を用いることにより、容易に実現することができる。
【0043】
なお、最小値ηminの最大値ηmaxに対する比率(ηmin /ηmax)の上限値は1であることが理想的ではあるが、現状において上述した材料を使用する限りにおいては、0.7程度である。
【0044】
本実施形態では、図1に示すように、透過型のベクトル波記録媒体10について説明したが、透明基板11の、情報記録層12が形成された面と相対する面上に反射層を形成することによって、反射型のベクトル波記録媒体とすることもできる。
【0045】
(ホログラフィックなベクトル波多重記録及びその再生)
次に、図1を参照して、ホログラフィックなベクトル波多重記録及びその再生の原理の概略について説明する。
【0046】
図1に示すように、ベクトル波記録媒体10に対して記録を行うに際しては、コヒーレントな記録信号光21及び記録参照光22を、情報記録層12の同一領域に同時に照射する。
【0047】
例えば、記録信号光21をp偏光とし、記録参照光22をs偏光とすると、上記情報記録層12の同一領域では、偏光方向が空間的・周期的に変調され、±45度の直線偏光部分12Aと円偏光部分12Bとが交互に周期的に現れる。
【0048】
この場合、情報記録層12における光強度分布は一様となるが、例えば変調された偏光方向に対応して、光誘起複屈折材料に複屈折が付与される。その結果、直線偏光部分12Aでは、±45度の直線偏光に応じて、空間的に方向性の異なる吸収率または屈折率であって、±45度に分布した複屈折性の格子がホログラムとして形成される。
【0049】
次いで、ベクトル波記録媒体10、すなわち情報記録層12においてブラッグ条件を変化させ、記録信号光21及び記録参照光22の照射を、それらの照射エネルギーを一定として、上記同様にして情報記録層12の同一領域に対して行う。これによって、情報記録層12の偏光方向が空間的・周期的に変調され、±45度の直線偏光部分12A’と円偏光部分12B’とが交互に周期的に現れる。
【0050】
この場合、情報記録層12における光強度分布は一様となるが、変調された偏光方向と同一の方向を向く情報記録層12を構成する光誘起複屈折材料の一部が、他の方向を向く光誘起複屈折材料の一部より強く光励起される。その結果、直線偏光部分12A’では、±45度の直線偏光に応じて、空間的に方向性の異なる吸収率または屈折率であって、±45度に分布した複屈折性の格子がホログラムとして形成される。
【0051】
このように、記録信号光21及び記録参照光22の照射を、それらの照射エネルギーを一定として、情報記録層12においてブラッグ条件を変化させ、順次に行うことにより、各回折格子がそれぞれ記録情報として機能することになり、情報記録層12へのホログラフィックなベクトル波多重記録を行うことができる。
【0052】
なお、上記においては、情報記録層12の異なる回折格子に対して記録信号光21及び記録参照光22の偏光状態を、それぞれp偏光及びs偏光で一定としたが、それら記録信号光21及び記録参照光22の偏光状態を変化させることもできる。
【0053】
次いで、上述のようにしてホログラフィックにベクトル波多重記録がなされた情報記録層12に対して、s偏光の再生参照光23をその表面側あるいは裏面側から照射する。すると、ホログラフィックにベクトル波記録がなされた各回折格子から回折光が得られる。このとき、回折光は入射光と90度異なるp偏光となる。このように、ホログラフィックにベクトル波多重記録がなされた情報記録層12の回折格子毎に再生参照光23を照射することによって、情報記録層12、すなわちベクトル波記録媒体の再生(読み出し)を行うことができる。
【0054】
なお、上記においては、図1に示すベクトル波記録媒体10が透過型であることから、透過型のベクトル波記録媒体に関する記録再生の原理について述べたが、反射型のベクトル波記録媒体に関する記録再生についても、再生参照光23を、情報記録層12の、記録信号光21及び記録参照光22の照射側から射する点で異なるのみであり、その他の操作については透過型のベクトル波記録媒体に関する記録再生原理と同様である。
【0055】
(ホログラフィックなベクトル波多重記録及びその再生の具体例)
図2は、本発明のホログラフィックなベクトル波多重記録に用いる記録光学系の一例を示す概略構成図であり、図3は、ホログラフィックなベクトル波多重記録を実施した後の、記録情報の読み出しに使用する再生光学系の一例を示す概略構成図である。
【0056】
上述したホログラフィックなベクトル波多重記録を行うためには、例えば図2に示すような光学系を用いる。この光学系では、レーザ光がシャッタ1、HWP(1/2波長板)1を通過した後、PBS(偏光ビームスプリッタ)で2分割され、一方は記録信号光としてシャッタ2を通過した後、SLM(空間光変調器)で反射され、PBSを透過した後、ベクトル波記録媒体に照射される。この場合、SLMで反射された光は、p偏光とs偏光とが混在しているが、p偏光成分のみがPBSを透過できるので、このp偏光成分を信号光としてレンズを介し、記録媒体に照射する。
【0057】
また、PBSで分割された他方は、記録参照光としてSPLM(空間偏光変調器)で反射され、レンズを介してベクトル波記録媒体に照射される。この際、SPLMによって、記録参照光の偏光状態が記録信号光の偏光状態と直交するs偏光となるように制御される。これによって、上述したように、ベクトル波記録媒体の情報記録層には、偏光方向が空間的・周期的に変調され、±45度の直線偏光部分と円偏光部分とが交互に周期的に現れる。そして、直線偏光部分では、±45度の直線偏光に応じて、空間的に方向性の異なる吸収率または屈折率であって、±45度に分布した複屈折性の回折格子がホログラムとして形成される。
【0058】
次いで、図2に示す光学系において、図示しない制御系を用い、ベクトル波記録媒体の角度を変化させ、このベクトル波記録媒体、すなわち情報記録層に対して上述した操作を行い、情報記録層、すなわちベクトル波記録媒体へのホログラフィックなベクトル波多重記録を行う。
【0059】
また、上述のようにしてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施したベクトル波記録媒体、すなわち情報記録層から信号を読み出す(再生する)に際しては、例えば図3に示すような光学系を用いる。この光学系は、図2に示す光学系を基本とし、記録媒体を透過(回折)した後の再生光(回折光)を結像させるための結像光学系、偏光板及びイメージャが付加されたものである。
【0060】
図3に示す光学系を用いた再生操作は、シャッタ2を閉とし、シャッタ1、HWP、PBSを透過したレーザ光をSPLMで反射させてs偏光の再生参照光とし、ベクトル波記録媒体に照射する。
【0061】
ベクトル波記録媒体からは、上述したように、ホログラフィックにベクトル波多重記録がなされた各回折格子から回折光が得られる。このとき、回折光は入射光と90度異なるp偏光となる。次いで、図示しない制御系でベクトル波記録媒体の角度を変化させ、同様にしてs偏光の再生参照光を、ホログラフィックにベクトル波多重記録がなされた回折格子毎に照射することによって、ホログラフィックにベクトル波多重記録がなされたベクトル波記録媒体、すなわち情報記録層の再生(読み出し)を行うことができる。
【0062】
なお、回折光は、結像レンズで結像させた後、偏光板でp偏光のみを透過させ、イメージャに入射させ、記録情報の解析を行う。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
光ラジカル発生剤として、イルガキュア379(BASF社製)10.0質量部、ポリマーマトリックス形成材料として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート40.9質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量629:Aldrich社製)49.1質量部、硬化触媒としてジブチルスズジラウレート(東京化成工業(株)製)0.07質量部からなる記録材料前駆体を調製した。
【0064】
この記録材料前駆体を、シリコンフィルムスペーサー(厚み1.0mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス基板(30mm×30mm、厚み1.1mm)の空隙に注入し、窒素雰囲気下、55℃で3時間加熱処理を施した。その結果、2枚のガラス基板の間に光誘起複屈折材料からなる情報記録層が形成されたベクトル波記録媒体Aを得た。
【0065】
(実施例2)
ポリマーマトリックス形成材料として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート49.7質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量426:Aldrich社製)40.3質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてベクトル波記録媒体Bを得た。
【0066】
(実施例3)
光ラジカル発生剤として、イルガキュア379(BASF社製)5.0質量部、ポリマーマトリックスとして、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート43.2質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量629:Aldrich社製)51.8質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてベクトル波記録媒体Cを得た。
【0067】
(実施例4)
光ラジカル発生剤として、イルガキュア379(BASF社製)15.0質量部、ポリマーマトリックス形成材料として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート38.7質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量629:Aldrich社製)46.3質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてベクトル波記録媒体Dを得た。
【0068】
(実施例5)
光ラジカル発生剤として、イルガキュアOXE01(BASF社製)10.0質量部、ポリマーマトリックス形成材料として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート40.9質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量629:Aldrich社製)49.1質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてベクトル波記録媒体Eを得た。
【0069】
(比較例1)
偏光感応性化合物として、9,10−フェナンスレンキノン(東京化成工業(株)製)1.0質量部、熱重合モノマーとしてメタクリル酸メチル(和光純薬工業(株)製)98.6質量部、熱重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.4質量部からなる記録材料前駆体を調製した。この記録材料前駆体を60℃で2時間加熱後、凹字型に切り出したシリコンスペーサー(厚み1.0mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス板(50mm×50mm、厚み1.2mm)の空隙に導入した。その後、60℃で6時間加熱処理を行い、2枚のガラス板を取り外し、記録媒体Fを得た。
【0070】
記録再生方法
記録再生は、図2及び図3に示す光学系を用い、上述したような記録及び再生の手順に従って実施した。図2に示す記録光学系において、記録用の光源にはシングルモードで発振する波長405nmの半導体レーザを使用し、SLMは全画素全反射状態、PSLMは全画素90°偏光変調される状態とした。また、図3に示す再生光学系において、再生用の光源には、波長633nmのHe-Neレーザを使用した。
【0071】
測定結果
図4〜図11に、実施例及び比較例で得た記録媒体A〜Fに対してスケジューリング無し(つまり、ブラッグ条件を変化することにより、記録情報に相当する各回折格子に対し、記録信号光及び記録参照光を同一のエネルギーで照射)で、ホログラフィックにベクトル波多重記録を行い、48多重記録したときの、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す。また、このデータから求められるηmin /ηmaxを表1に示す。なお、図4〜図6は、実施例で得た記録媒体Aに対して、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを変化させた場合について示している。但し、48多重記録する際の照射エネルギーは多重記録の全体を通じて同一としている。
【0072】
【表1】
【0073】
図4〜図11及び表1から明らかなように、本実施例で得た記録媒体A〜Eのηmin /ηmaxはいずれも0.3以上であり、上記48多重記録においては、スケジューリングが本質的に必要ないことが分かる。一方、比較例で得た記録媒体Fにおいては、ηmin /ηmaxは 0.012という低い値であり、上記48多重記録においては、スケジューリングが必要であることが分かる。
【0074】
なお、図4〜図6及び表1のA-1, A-2, A-3の結果から分かるように、記録媒体Aに対する記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを変化させた場合においても、ηmin /ηmaxは0.3以上を保っており、記録媒体Aに対する記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーが変化した場合においても、スケジューリングの有無に影響を与えないことが判明した。
【0075】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 ベクトル波記録媒体
11 透明基板
12 情報記録層
21 記録信号光
22 記録参照光
23 再生参照光
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射される光の偏光状態に応じて屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有し、ホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうためのベクトル波記録媒体、及びその多重記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック記録は、イメージ情報を持った信号光とともに参照光を同時に照射して生じる干渉縞を、記録媒体に回折格子として記録することにより行われる。ホログラフィック記録媒体からの再生は、上記したイメージ情報が記録された記録媒体に参照光を照射して、イメージ情報を回折格子からの再生信号光として読み出すことによって行われる。
【0003】
ホログラフィック記録は、上記イメージ情報を1ページとして、ページ単位で一括記録、再生でき、かつ、媒体の同一箇所にページを多重記録できることから、従来のCD、DVD、ブルーレイディスクで用いられるビット・バイ・ビットの記録方式に替わる高速かつ大容量の光記録方式として期待される技術である。
【0004】
一方、照射される光の偏光状態に応じて屈折率の異方性を生じる光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有する偏光記録媒体を用いて、イメージ情報を複屈折位相差(リターデーション)として記録する新たな偏光記録方式(リターダグラフィー)が提案されている(特許文献1参照)。また、イメージ情報を有する信号光とともに信号光とは異なる偏光状態の参照光を同時に照射して生じる偏光分布を上記偏光記録媒体に記録するベクトル波記録方式も提案されている。これは、ホログラフィック記録と偏光記録とを組み合わせることで、更なる高記録密度化が期待されるものである(特許文献2参照)。
【0005】
ところでホログラフィック記録、偏光記録に用いる記録材料は、ライトワンス型と書き換え型との2つに大別される。ライトワンス型および書き換え型の偏光記録材料に用いられる偏光感応性化合物としては、それぞれ、9,10−フェナンスレンキノン、アゾベンゼン等が広く知られている。
【0006】
ライトワンス型の記録材料を用いて多重記録が行なわれる場合、1ページ目の記録によって、記録成分がある割合で光反応して変化し、2ページ目の記録によって、残りの未反応の記録成分がある割合で光反応して変化し、3ページ目の記録によって、更に残りの未反応の記録成分がある割合で光反応して変化し、・・・、が順次繰り返されて多重記録が行なわれる。
【0007】
従って、多重が繰り返されるほど残存記録成分が減少するので、それにともない記録感度が低下する。つまり、各ページを同じ照射エネルギーで記録すると、後半のページにいくほど再生信号強度が減少することになり、記録再生システム上不都合が生じる。
【0008】
一方、書き換え型の記録材料を用いて多重記録が行なわれる場合は、1ページ目の記録によって、記録成分がある割合で光反応して変化し、2ページ目の記録によって、1ページ目のすでに記録に消費された成分と残りの未反応の記録成分とがそれぞれある割合で光反応して変化し、3ページ目の記録によって、1ページ目と2ページ目のすでに記録に消費された成分と残りの未反応の記録成分がそれぞれある割合で光反応して変化し、・・・、が順次繰り返されて多重記録が行なわれる。
【0009】
従って、多重が繰り返されるほど、すでに記録されたページの記録成分が減少するので、各ページを同じ照射エネルギーで記録すると、ライトワンス型とは逆に、前半のページの再生信号強度が減少することになり、この場合も記録再生システム上不都合が生じる。
【0010】
これらの不都合を解消するために、スケジューリングと呼ばれる手法が用いられる。これは、多重による再生信号強度の変化、つまり記録感度の変化を予め想定して、照射エネルギーをページ(回折格子)毎に変化させながら多重記録を行なうもので、これによって各ページからの再生信号強度を均一化しようとするものである(特許文献2参照)。
【0011】
しかしながら、特許文献3に示される記録媒体は、ホログラフィック記録媒体であってベクトル波記録媒体ではないため、大幅な記録密度の向上が期待できない。また、特許文献3に示される記録媒体は、スケジューリングを確実に行うことを目的とするものであって、スケジューリング自体は依然必要である。
【0012】
スケジューリングを行った場合、感度の低下が予想されるページ(回折格子)に対しては高い照射エネルギーで記録することになる。照射エネルギーは照射パワーと照射時間との掛け算であるが、照射パワーをページ毎に変化させるには記録システム上複雑な制御が要求されるため、照射時間を調整して照射エネルギーを変化させるのが一般的である。
【0013】
つまり、高い照射エネルギーで記録するためには照射時間を長くすることになり、これは記録システム上の転送レートの低下を引き起こすという問題につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−20883号
【特許文献2】特開平10−340479号
【特許文献3】特表2008−532091号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、スケジューリングを行う必要がなく、これによって記録システム上の転送レートの低下を引き起こす恐れのないベクトル波記録媒体及びその多重記録再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成すべく、本発明は、
光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有し、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうベクトル波記録媒体であって、
前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として、前記情報記録層に対して前記ベクトル波多重記録をホログラフィックに実施した後の、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、
ηmin /ηmax ≧ 0.1
を満たすことを特徴とする、ベクトル波記録媒体に関する。
【0017】
また、本発明は、
光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有するベクトル波記録媒体に対して、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を、前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうステップと、
前記ベクトル波記録媒体に対して前記第2の偏光状態の再生参照光を照射し、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光を得るステップとを具え、
再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、
ηmin /ηmax ≧ 0.1
を満たすことを特徴とする、ベクトル波記録媒体の多重記録再生方法に関する。
【0018】
なお、ηは、入射光、すなわち記録信号光及び記録参照光の光強度I0に対する各回折格子からの再生信号光の光強度I1の比 η= I1 / I0として定義される。
【0019】
本発明のベクトル波記録媒体及びその多重記録再生方法によれば、光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有するベクトル波記録媒体に対して、第1の偏光状態の記録信号光及び第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を照射し、情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行うに際して、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを一定とした場合における、各記録情報に相当する各回折格子の再生信号光の回折効率において、最大値ηmaxの最小値ηminに対する比率を0.1以上としている。
【0020】
すなわち、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを一定とし、特にスケジューリングを行わない場合においても、ホログラフィックなベクトル波多重記録において、再生信号光の回折効率、すなわち再生信号光の強度が大きく減少することがない。結果として、感度の低下が予想されるページ(回折格子)に対して高い照射エネルギーで記録するような操作が要求されないので、照射時間を長くする必要がなくなり、記録システム上の転送レートの低下を抑制することができる。
【0021】
本発明の一例において、光誘起複屈折材料は、光ラジカル発生剤及びポリマーマトリックスを含む材料とすることができる。また、光ラジカル発生剤は、分子内開裂型光ラジカル発生剤とすることができる。さらに、分子内開裂型光ラジカル発生剤は、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上、本発明によれば、スケジューリングを行う必要がなく、これによって記録システム上の転送レートの低下を引き起こす恐れのないベクトル波記録媒体及びその多重記録再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態におけるベクトル波記録媒体の概略構成を示す斜視図である。
【図2】ホログラフィックにベクトル波多重記録を行うための光学装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】ホログラフィックなベクトル波多重記録を実施した後の、記録情報の読み出しに使用する再生光学系の一例を示す概略構成図である。
【図4】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図5】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図6】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図7】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図8】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図9】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図10】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【図11】実施例においてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施した際の、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
(ベクトル波記録媒体)
最初に、本発明のベクトル波記録媒体の一例について説明する。
図1は、本実施形態におけるベクトル波記録媒体の概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態のベクトル波記録媒体10は、透明基板11上に光誘起複屈折材料からなる情報記録層12が形成されてなる。
【0026】
透明基板11は、例えば、ガラス、樹脂などが用いられるが、成形性、コストの点から、樹脂が好ましい。樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、成形性、光学特性、コストの点から、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂が特に好ましい。
【0027】
また、透明基板11の表面には、必要に応じて微細加工を施すことができ、またUV硬化樹脂等でハードコート処理することもできる。さらには、反射防止処理をすることもできる。
【0028】
また、以下に示す記録及び再生に影響を与えない限りにおいてセラミック等からも構成することができる。
【0029】
透明基板11の厚さは、ベクトル波記録媒体10、すなわち情報記録層12に対する記録及び再生に影響を与えないような厚さに適宜に設定する。
【0030】
情報記録層12は、ポリマーマトリックス及び光ラジカル発生剤を含む。具体的には、ポリマーマトリックス及び光ラジカル発生剤を溶媒に溶解させ、透明基板11に塗布乾燥することで形成させてもよいし、ポリマーマトリックスと光ラジカル発生剤とを溶融混練し成型することで形成させてもよい。
【0031】
ポリマーマトリックスの種類は特に限定されるものではないが、ポリアクリル酸エステル等のアクリル系樹脂、ポリビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、各種エストラマー等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合、もしくは共重合体を用いてもよい。ポリマーマトリックスとしては、光学的に透明なものが好ましく、特に複屈折が小さなものが好ましい。
【0032】
光ラジカル発生剤は光照射によりラジカル種を生成するものであれば特に限定されるものではないが、光ラジカル重合開始剤として一般的に知られている化合物群が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。光ラジカル発生剤は分子内開裂型光ラジカル発生剤と水素引き抜き型光ラジカル発生剤とに大別されるが、本発明には前者が好ましい。分子内開裂型光ラジカル発生剤としては、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物を用いることが好ましい。
【0033】
α−アミノアセトフェノン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。α−アミノアセトフェノン化合物として、具体的には、以下の化合物が例示できる。
【0034】
例えば、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジエチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−エチルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−イソプロピルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ブチルフェニル)−2−ジメチルアミノ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン(イルガキュア907)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(イルガキュア369)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−ジメチルアミノフェニル)ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(イルガキュア379)などが挙げられる。
【0035】
オキシムエステル化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。オキシムエステル化合物として、具体的には、以下の化合物が例示できる。
【0036】
例えば、3−ベンゾイルオキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−フェニルチオ)フェニル−2−ベンゾイルオキシイミノオクタン−1−オン(イルガキュアOXE01)、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル]−1−アセトキシイミノエタン(イルガキュアOXE02)等が挙げられる。
【0037】
なお、本実施形態では、透明基板11を設けているが、ポリマーマトリックスを例えばフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチックから構成し、それ自体で十分な強度を有するような場合においては、透明基板11を省略することができる。
【0038】
情報記録層12の厚さは1〜3,000μmの範囲であることが好ましい。この場合、記録波長領域350nm〜800nmでの透過率が高く、比較的低エネルギーの記録信号光及び記録参照光でも十分に記録を行うことができ、エネルギー効率を増大させることができる。
【0039】
情報記録層12の表面には、必要に応じて微細加工を施すことができ、またUV硬化樹脂等でハードコート処理することもできる。さらには、反射防止処理をすることもできる。
【0040】
本発明では、情報記録層12に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行うに際して、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを一定とした場合における、各記録情報に相当する各回折格子の再生信号光の回折効率において、最小値ηminの最大値ηmaxに対する比率(ηmin /ηmax)が0.1以上であることが必要であり、0.2以上が好ましく、特に0.3以上が特に好ましい。
【0041】
これによって、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを一定とし、特にスケジューリングを行わない場合においても、ホログラフィックなベクトル波多重記録において、再生信号光の回折効率、すなわち再生信号光の強度が大きく減少することがない。結果として、感度の低下が予想されるページに対して高い照射エネルギーで記録するような操作が要求されないので、高い照射エネルギーで記録するために照射時間を長くする必要がなくなり、記録システム上の転送レートの低下を抑制することができる。
【0042】
なお、上述した再生信号光の、回折効率における最小値ηminの最大値ηmaxに対する比率(ηmin /ηmax)は、情報記録層12を上述した材料から構成することにより達成することができる。特に、光ラジカル重合開始剤として、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物の分子内開裂型光ラジカル発生剤を用いることにより、容易に実現することができる。
【0043】
なお、最小値ηminの最大値ηmaxに対する比率(ηmin /ηmax)の上限値は1であることが理想的ではあるが、現状において上述した材料を使用する限りにおいては、0.7程度である。
【0044】
本実施形態では、図1に示すように、透過型のベクトル波記録媒体10について説明したが、透明基板11の、情報記録層12が形成された面と相対する面上に反射層を形成することによって、反射型のベクトル波記録媒体とすることもできる。
【0045】
(ホログラフィックなベクトル波多重記録及びその再生)
次に、図1を参照して、ホログラフィックなベクトル波多重記録及びその再生の原理の概略について説明する。
【0046】
図1に示すように、ベクトル波記録媒体10に対して記録を行うに際しては、コヒーレントな記録信号光21及び記録参照光22を、情報記録層12の同一領域に同時に照射する。
【0047】
例えば、記録信号光21をp偏光とし、記録参照光22をs偏光とすると、上記情報記録層12の同一領域では、偏光方向が空間的・周期的に変調され、±45度の直線偏光部分12Aと円偏光部分12Bとが交互に周期的に現れる。
【0048】
この場合、情報記録層12における光強度分布は一様となるが、例えば変調された偏光方向に対応して、光誘起複屈折材料に複屈折が付与される。その結果、直線偏光部分12Aでは、±45度の直線偏光に応じて、空間的に方向性の異なる吸収率または屈折率であって、±45度に分布した複屈折性の格子がホログラムとして形成される。
【0049】
次いで、ベクトル波記録媒体10、すなわち情報記録層12においてブラッグ条件を変化させ、記録信号光21及び記録参照光22の照射を、それらの照射エネルギーを一定として、上記同様にして情報記録層12の同一領域に対して行う。これによって、情報記録層12の偏光方向が空間的・周期的に変調され、±45度の直線偏光部分12A’と円偏光部分12B’とが交互に周期的に現れる。
【0050】
この場合、情報記録層12における光強度分布は一様となるが、変調された偏光方向と同一の方向を向く情報記録層12を構成する光誘起複屈折材料の一部が、他の方向を向く光誘起複屈折材料の一部より強く光励起される。その結果、直線偏光部分12A’では、±45度の直線偏光に応じて、空間的に方向性の異なる吸収率または屈折率であって、±45度に分布した複屈折性の格子がホログラムとして形成される。
【0051】
このように、記録信号光21及び記録参照光22の照射を、それらの照射エネルギーを一定として、情報記録層12においてブラッグ条件を変化させ、順次に行うことにより、各回折格子がそれぞれ記録情報として機能することになり、情報記録層12へのホログラフィックなベクトル波多重記録を行うことができる。
【0052】
なお、上記においては、情報記録層12の異なる回折格子に対して記録信号光21及び記録参照光22の偏光状態を、それぞれp偏光及びs偏光で一定としたが、それら記録信号光21及び記録参照光22の偏光状態を変化させることもできる。
【0053】
次いで、上述のようにしてホログラフィックにベクトル波多重記録がなされた情報記録層12に対して、s偏光の再生参照光23をその表面側あるいは裏面側から照射する。すると、ホログラフィックにベクトル波記録がなされた各回折格子から回折光が得られる。このとき、回折光は入射光と90度異なるp偏光となる。このように、ホログラフィックにベクトル波多重記録がなされた情報記録層12の回折格子毎に再生参照光23を照射することによって、情報記録層12、すなわちベクトル波記録媒体の再生(読み出し)を行うことができる。
【0054】
なお、上記においては、図1に示すベクトル波記録媒体10が透過型であることから、透過型のベクトル波記録媒体に関する記録再生の原理について述べたが、反射型のベクトル波記録媒体に関する記録再生についても、再生参照光23を、情報記録層12の、記録信号光21及び記録参照光22の照射側から射する点で異なるのみであり、その他の操作については透過型のベクトル波記録媒体に関する記録再生原理と同様である。
【0055】
(ホログラフィックなベクトル波多重記録及びその再生の具体例)
図2は、本発明のホログラフィックなベクトル波多重記録に用いる記録光学系の一例を示す概略構成図であり、図3は、ホログラフィックなベクトル波多重記録を実施した後の、記録情報の読み出しに使用する再生光学系の一例を示す概略構成図である。
【0056】
上述したホログラフィックなベクトル波多重記録を行うためには、例えば図2に示すような光学系を用いる。この光学系では、レーザ光がシャッタ1、HWP(1/2波長板)1を通過した後、PBS(偏光ビームスプリッタ)で2分割され、一方は記録信号光としてシャッタ2を通過した後、SLM(空間光変調器)で反射され、PBSを透過した後、ベクトル波記録媒体に照射される。この場合、SLMで反射された光は、p偏光とs偏光とが混在しているが、p偏光成分のみがPBSを透過できるので、このp偏光成分を信号光としてレンズを介し、記録媒体に照射する。
【0057】
また、PBSで分割された他方は、記録参照光としてSPLM(空間偏光変調器)で反射され、レンズを介してベクトル波記録媒体に照射される。この際、SPLMによって、記録参照光の偏光状態が記録信号光の偏光状態と直交するs偏光となるように制御される。これによって、上述したように、ベクトル波記録媒体の情報記録層には、偏光方向が空間的・周期的に変調され、±45度の直線偏光部分と円偏光部分とが交互に周期的に現れる。そして、直線偏光部分では、±45度の直線偏光に応じて、空間的に方向性の異なる吸収率または屈折率であって、±45度に分布した複屈折性の回折格子がホログラムとして形成される。
【0058】
次いで、図2に示す光学系において、図示しない制御系を用い、ベクトル波記録媒体の角度を変化させ、このベクトル波記録媒体、すなわち情報記録層に対して上述した操作を行い、情報記録層、すなわちベクトル波記録媒体へのホログラフィックなベクトル波多重記録を行う。
【0059】
また、上述のようにしてホログラフィックにベクトル波多重記録を実施したベクトル波記録媒体、すなわち情報記録層から信号を読み出す(再生する)に際しては、例えば図3に示すような光学系を用いる。この光学系は、図2に示す光学系を基本とし、記録媒体を透過(回折)した後の再生光(回折光)を結像させるための結像光学系、偏光板及びイメージャが付加されたものである。
【0060】
図3に示す光学系を用いた再生操作は、シャッタ2を閉とし、シャッタ1、HWP、PBSを透過したレーザ光をSPLMで反射させてs偏光の再生参照光とし、ベクトル波記録媒体に照射する。
【0061】
ベクトル波記録媒体からは、上述したように、ホログラフィックにベクトル波多重記録がなされた各回折格子から回折光が得られる。このとき、回折光は入射光と90度異なるp偏光となる。次いで、図示しない制御系でベクトル波記録媒体の角度を変化させ、同様にしてs偏光の再生参照光を、ホログラフィックにベクトル波多重記録がなされた回折格子毎に照射することによって、ホログラフィックにベクトル波多重記録がなされたベクトル波記録媒体、すなわち情報記録層の再生(読み出し)を行うことができる。
【0062】
なお、回折光は、結像レンズで結像させた後、偏光板でp偏光のみを透過させ、イメージャに入射させ、記録情報の解析を行う。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
光ラジカル発生剤として、イルガキュア379(BASF社製)10.0質量部、ポリマーマトリックス形成材料として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート40.9質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量629:Aldrich社製)49.1質量部、硬化触媒としてジブチルスズジラウレート(東京化成工業(株)製)0.07質量部からなる記録材料前駆体を調製した。
【0064】
この記録材料前駆体を、シリコンフィルムスペーサー(厚み1.0mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス基板(30mm×30mm、厚み1.1mm)の空隙に注入し、窒素雰囲気下、55℃で3時間加熱処理を施した。その結果、2枚のガラス基板の間に光誘起複屈折材料からなる情報記録層が形成されたベクトル波記録媒体Aを得た。
【0065】
(実施例2)
ポリマーマトリックス形成材料として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート49.7質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量426:Aldrich社製)40.3質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてベクトル波記録媒体Bを得た。
【0066】
(実施例3)
光ラジカル発生剤として、イルガキュア379(BASF社製)5.0質量部、ポリマーマトリックスとして、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート43.2質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量629:Aldrich社製)51.8質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてベクトル波記録媒体Cを得た。
【0067】
(実施例4)
光ラジカル発生剤として、イルガキュア379(BASF社製)15.0質量部、ポリマーマトリックス形成材料として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート38.7質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量629:Aldrich社製)46.3質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてベクトル波記録媒体Dを得た。
【0068】
(実施例5)
光ラジカル発生剤として、イルガキュアOXE01(BASF社製)10.0質量部、ポリマーマトリックス形成材料として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート40.9質量部(東京化成工業(株)製)、及びペンタエリスリトールプロポキシラート(平均分子量629:Aldrich社製)49.1質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてベクトル波記録媒体Eを得た。
【0069】
(比較例1)
偏光感応性化合物として、9,10−フェナンスレンキノン(東京化成工業(株)製)1.0質量部、熱重合モノマーとしてメタクリル酸メチル(和光純薬工業(株)製)98.6質量部、熱重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.4質量部からなる記録材料前駆体を調製した。この記録材料前駆体を60℃で2時間加熱後、凹字型に切り出したシリコンスペーサー(厚み1.0mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス板(50mm×50mm、厚み1.2mm)の空隙に導入した。その後、60℃で6時間加熱処理を行い、2枚のガラス板を取り外し、記録媒体Fを得た。
【0070】
記録再生方法
記録再生は、図2及び図3に示す光学系を用い、上述したような記録及び再生の手順に従って実施した。図2に示す記録光学系において、記録用の光源にはシングルモードで発振する波長405nmの半導体レーザを使用し、SLMは全画素全反射状態、PSLMは全画素90°偏光変調される状態とした。また、図3に示す再生光学系において、再生用の光源には、波長633nmのHe-Neレーザを使用した。
【0071】
測定結果
図4〜図11に、実施例及び比較例で得た記録媒体A〜Fに対してスケジューリング無し(つまり、ブラッグ条件を変化することにより、記録情報に相当する各回折格子に対し、記録信号光及び記録参照光を同一のエネルギーで照射)で、ホログラフィックにベクトル波多重記録を行い、48多重記録したときの、各回折格子からの相対回折強度η/ηmaxのプロファイルを示す。また、このデータから求められるηmin /ηmaxを表1に示す。なお、図4〜図6は、実施例で得た記録媒体Aに対して、記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを変化させた場合について示している。但し、48多重記録する際の照射エネルギーは多重記録の全体を通じて同一としている。
【0072】
【表1】
【0073】
図4〜図11及び表1から明らかなように、本実施例で得た記録媒体A〜Eのηmin /ηmaxはいずれも0.3以上であり、上記48多重記録においては、スケジューリングが本質的に必要ないことが分かる。一方、比較例で得た記録媒体Fにおいては、ηmin /ηmaxは 0.012という低い値であり、上記48多重記録においては、スケジューリングが必要であることが分かる。
【0074】
なお、図4〜図6及び表1のA-1, A-2, A-3の結果から分かるように、記録媒体Aに対する記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーを変化させた場合においても、ηmin /ηmaxは0.3以上を保っており、記録媒体Aに対する記録信号光及び記録参照光の照射エネルギーが変化した場合においても、スケジューリングの有無に影響を与えないことが判明した。
【0075】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 ベクトル波記録媒体
11 透明基板
12 情報記録層
21 記録信号光
22 記録参照光
23 再生参照光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有し、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうベクトル波記録媒体であって、
前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として、前記情報記録層に対して前記ベクトル波多重記録をホログラフィックに実施した後の、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、
ηmin /ηmax ≧ 0.1
を満たすことを特徴とする、ベクトル波記録媒体。
【請求項2】
前記光誘起複屈折材料は、光ラジカル発生剤及びポリマーマトリックスを含む材料であることを特徴とする、請求項1に記載のベクトル波記録媒体。
【請求項3】
前記光ラジカル発生剤は、分子内開裂型光ラジカル発生剤であることを特徴とする、請求項2に記載のベクトル波記録媒体。
【請求項4】
前記分子内開裂型光ラジカル発生剤は、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物であることを特徴とする、請求項3に記載のベクトル波記録媒体。
【請求項5】
前記第1の偏光状態は、p偏光及びs偏光の一方であり、前記第2の偏光状態は、p偏光及びs偏光の他方であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載のベクトル波記録媒体。
【請求項6】
光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有するベクトル波記録媒体に対して、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を、前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうステップと、
前記ベクトル波記録媒体に対して前記第2の偏光状態の再生参照光を照射し、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光を得るステップとを具え、
再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、
ηmin /ηmax ≧ 0.1
を満たすことを特徴とする、ベクトル波記録媒体の多重記録再生方法。
【請求項7】
前記光誘起複屈折材料は、光ラジカル発生剤及びポリマーマトリックスを含む材料であることを特徴とする、請求項6に記載のベクトル波記録媒体の多重記録再生方法。
【請求項8】
前記光ラジカル発生剤は、分子内開裂型光ラジカル発生剤であることを特徴とする、請求項7に記載のベクトル波記録媒体の多重記録再生方法。
【請求項9】
前記分子内開裂型光ラジカル発生剤は、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物であることを特徴とする、請求項8に記載のベクトル波記録媒体の多重記録再生方法。
【請求項10】
前記第1の偏光状態は、p偏光及びs偏光の一方であり、前記第2の偏光状態は、p偏光及びs偏光の他方であることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一に記載のベクトル波記録媒体の記録再生方法。
【請求項1】
光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有し、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうベクトル波記録媒体であって、
前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として、前記情報記録層に対して前記ベクトル波多重記録をホログラフィックに実施した後の、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、
ηmin /ηmax ≧ 0.1
を満たすことを特徴とする、ベクトル波記録媒体。
【請求項2】
前記光誘起複屈折材料は、光ラジカル発生剤及びポリマーマトリックスを含む材料であることを特徴とする、請求項1に記載のベクトル波記録媒体。
【請求項3】
前記光ラジカル発生剤は、分子内開裂型光ラジカル発生剤であることを特徴とする、請求項2に記載のベクトル波記録媒体。
【請求項4】
前記分子内開裂型光ラジカル発生剤は、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物であることを特徴とする、請求項3に記載のベクトル波記録媒体。
【請求項5】
前記第1の偏光状態は、p偏光及びs偏光の一方であり、前記第2の偏光状態は、p偏光及びs偏光の他方であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載のベクトル波記録媒体。
【請求項6】
光誘起複屈折材料からなる情報記録層を有するベクトル波記録媒体に対して、第1の偏光状態の記録信号光及び前記第1の偏光状態と異なる第2の偏光状態の記録参照光を、前記記録信号光及び前記記録参照光の照射エネルギーを一定として照射し、前記情報記録層に対してホログラフィックにベクトル波多重記録を行なうステップと、
前記ベクトル波記録媒体に対して前記第2の偏光状態の再生参照光を照射し、前記情報記録層における各記録情報に相当する各回折格子からの再生信号光を得るステップとを具え、
再生信号光の回折効率の最大値をηmax、最小値をηminとしたとき、
ηmin /ηmax ≧ 0.1
を満たすことを特徴とする、ベクトル波記録媒体の多重記録再生方法。
【請求項7】
前記光誘起複屈折材料は、光ラジカル発生剤及びポリマーマトリックスを含む材料であることを特徴とする、請求項6に記載のベクトル波記録媒体の多重記録再生方法。
【請求項8】
前記光ラジカル発生剤は、分子内開裂型光ラジカル発生剤であることを特徴とする、請求項7に記載のベクトル波記録媒体の多重記録再生方法。
【請求項9】
前記分子内開裂型光ラジカル発生剤は、α−アミノアセトフェノン化合物又はオキシムエステル化合物であることを特徴とする、請求項8に記載のベクトル波記録媒体の多重記録再生方法。
【請求項10】
前記第1の偏光状態は、p偏光及びs偏光の一方であり、前記第2の偏光状態は、p偏光及びs偏光の他方であることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一に記載のベクトル波記録媒体の記録再生方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−194335(P2012−194335A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57810(P2011−57810)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学イノベーション加速事業「戦略的イノベーション創出推進」、「テラバイト時代に向けたポリマーによる三次元ベクトル波メモリ技術の実用化研究」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学イノベーション加速事業「戦略的イノベーション創出推進」、「テラバイト時代に向けたポリマーによる三次元ベクトル波メモリ技術の実用化研究」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]