説明

ベタインの製造方法

式:
【化1】


式中、RがC1−4アルキル、Qが任意にヒドロキシで置換されるC1−4アルカンジイルである、
のベタインが、式:
【化2】


式中、Qは上で定義した通りであり、R’はC1−4アルキルであり、Xは塩素、臭素またはヨウ素である、
のω−ハロカルボキシレートを、式:
【化3】


式中、Rは上で定義した通りである、
の三級アミンとアルカリ性水酸化物およびアルカリ土類水酸化物から選択される塩基とを含む水溶液に添加することにより、一つの工程で製造される。当該方法は、特にL−カルニチンの製造に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式:
【化1】

【0002】
式中、RはC1−4アルキル、Qは任意にヒドロキシで置換されるC1−4アルカンジイルである、
のベタインの製造方法に関する。より詳細には、本発明はカルニチンの製造方法に関する。カルニチン(I,R = CH3, Q = −CH2−CHOH−CH2−)、及び特にカルニチンのL-エナンチオマーは、脂肪酸代謝において重要な役割を果たすビタミン様物質である。
【0003】
L−カルニチンは生物工学的又は化学的方法によって製造されてよい。US 4 708 936及びUS 5 187 093は、ブチロベタイン(I,R = CH,Q = −(CH)−)の微生物変換によるL−カルニチンの製造について記載する。いくつかの化学的方法は、DL−カルニチンの光学分割を伴う。他の化学的方法は、γ−トリメチルアンモニオアセトアセテートのL−カルニチンエステルへの不斉水素化(EP 0 375 417 A2)またはγ−クロロアセトアセテートのL−γ−クロロ−β−ヒドロキシブチラート(L-γ-chloro-β-hydroxybutyrate)への不斉水素化に基づいており、これらは後の工程においてトリメチルアミンと反応し、対応するカルニチンエステルになる(US 4 895 979)。どちらの場合も、L−カルニチンエステルは酸加水分解に供され、次に遊離のL−カルニチンのベタイン形態に変換されるべき(例えばイオン交換によって)L−カルニチンの塩(例えば、カルニチン塩酸塩)を生ずる。これらの方法は、比較的冗長であり、廃棄されるべき大量の副生成物を形成する。
【0004】
JP−A−60−161952は、アルカリ性水酸化物の存在下、γ―クロロ−β―ヒドロキシブチル酸またはγ−クロロ−β−ヒドロキシブチル酸のメチルエステルもしくはプロピルエステルおよびトリメチルアミンからカルニチンを製造することを開示する。反応器に当該酸またはエステルを充填し、トリメチルアミンおよびアルカリ性水酸化物を連続的に添加するか、または混合物として添加する。報告されたカルニチンの収率は44〜75%である。
【0005】
本発明の目的は、所望の生成物を高収率で提供し、別の加水分解工程を必要としない、改善されたL−カルニチンおよび関連するベタインの化学的製造方法を提供することである。
【0006】
本発明に従って、請求項1の方法によりこの目的が達成された。
【0007】
当該アミンおよび当該塩基をω−ハロカルボキシレートに添加する代わりに、ω−ハロカルボキシレートを当該アミンおよび当該塩基の溶液に添加する場合、当該所望の生成物の収率および純度が有意に改善し得ることが見出された。反応の間に過剰の塩基が存在する場合、副反応(例えば、置換の代わりに脱離)が優勢になり得ると予想されることもあるため、これはいくぶん驚くべきことである。
【0008】
本発明に従うと、式:
【化2】

【0009】
式中、QはC1−4アルカンジイル、R’はC1−4アルカリ、Xは塩素、臭素、又はヨウ素である、
のω−ハロカルボキシレートを、式:
【化3】

【0010】
式中、RはC1−4アルキルである、
の三級アミンと、当該ω−ハロカルボキシレート(II)を当該三級アミン(III)とアルカリ性水酸化物およびアルカリ土類水酸化物から選択される塩基とを含む水溶液に添加することにより反応させ、式:
【化4】

【0011】
式中、QおよびRは上で定義した通りである、
のベタインを生ずる。
【0012】
当該反応は、圧力を上昇させることなく、比較的低温で行ってよい。
【0013】
有利には、当該ω−ハロカルボキシレートを、当該三級アミンおよび当該塩基を含む、攪拌した水溶液に緩徐に添加する。当該添加時間は、典型的には15分〜6時間、好ましくは約3時間である。反応温度は好ましくは、当該反応混合物水溶液の凝固点から+25℃の間である。より好ましくは、当該反応温度は+10℃以下、より好ましくは+6℃以下、最も好ましくは+3℃以下である。
【0014】
当該三級アミンおよび当該塩基を、好ましくは、それぞれω−ハロカルボキシレートの量に基づき1〜3当量の量で用いる。当該塩基を、より好ましくは1〜2当量の量、最も好ましくは1.5当量以下の量で用いる。
【0015】
好ましい実施態様において、置換基Rはメチル基である。
【0016】
別の実施態様において、Qは2−ヒドロキシプロパン−1,3−ジイル(−CH−CHOH−CH−)であり、当該製造されるベタインはカルニチンである。より好ましくは、当該ベタインはL−カルニチンである。
【0017】
ω−ハロカルボキシレート(II)における当該ハロゲンXは好ましくは塩素である。
【0018】
ω−ハロカルボキシレート(II)における当該置換基R’は好ましくはメチルまたはエチルである。
【0019】
当該塩基は好ましくは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。
【0020】
当該分野において既知の方法を用いて当該ベタインを単離および精製してよい。当該反応で形成されるアルコールR’OHおよび過剰の三級アミンRN、ならびに溶媒として使用する水の一部を、蒸留によって、好ましくは減圧下で除去してよい。当該過剰のアミンは、回収し、再利用してよい。
【0021】
当該塩の副生成物を、好ましくは電気透析によって、有利には上述の揮発性成分を除去した後に除去する。当該ω−ハロカルボキシレート出発物質のQの部分に依存して、置換の代わりに、いくらかの脱ハロゲン化水素(ハロゲンハライドの脱離)、水の脱離、および/または加水分解が副反応として起こってよい。特に、γ−クロロ−β−ヒドロキシブチラート(γ-chloro-β-hydroxybutyrate)を出発物質として用いる場合、水の脱離およびクロロ官能基の加水分解によって、いくらかのγ−ヒドロキシクロトン酸が形成されるだろう。この(非ベタインの)副生成物もまた、電気透析によって除去される。当該ベタイン(I)を、慣習的な方法、例えば、電気透析の後に得られるディリュエート(diluate)から水を蒸留して除くことにより単離してよい。
【0022】
本発明の方法は、回分的または連続的に、たとえば連続攪拌槽型反応器または連続攪拌槽型反応器のカスケード内で行われてよい。
【0023】
以下の非限定的な例は、本発明の方法を説明する。収率を除いて、明記しない限り、すべての百分率は重量パーセントで表わされる。
【0024】
例1
L−カルニチン(I,R = CH,Q = −CH−CHOH−CH−)
水酸化ナトリウム(17.6g,0.44mol,約2当量)を水(240g)に溶解した。トリメチルアミン水溶液(25%,61.3g,約1.2当量)を冷却しながら添加した。得られた混合物を0℃に冷却し、エチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(ethyl (R)-4-chloro-3-hydroxybutyrate)(含有率100%,36g,0.216mol)を当該攪拌した反応混合物に3時間以内に滴下した。0℃でさらに1時間後、当該反応混合物を+20℃に温め、HPLCで分析した。
【0025】
収率:L−カルニチン80%。
【0026】
例2
L−カルニチン
1.2当量の水酸化ナトリウムおよび2.5当量のトリメチルアミンを用いて、例1の手順を繰り返した。L−カルニチンを、実質的に同じ収率(81%)で得た。
【0027】
例3
L−カルニチン
水(1777g)、水酸化ナトリウム水溶液(50%,203.7g,1.5当量)およびトリエチルアミン水溶液(25%,807g,2.0当量)を混合し、0℃で攪拌した。エチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(含有率91.7%,307.9g)を3時間滴下し、例1で記載した通りの手順を続けた。
【0028】
収率:L−カルニチン89%。
【0029】
例4
L−カルニチン(連続工程)
水酸化ナトリウム(3.9%)およびトリエチルアミン(5.7%)の水溶液を、5つの250mLの連続的攪拌槽反応器のカスケードの第1の攪拌槽に入れ、一方、はじめの4つの反応器に等量のエチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートを入れた。各反応器における平均滞留時間は約1時間であり、トリメチルアミンおよび水酸化ナトリウムの両方をエチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートの総量に基づき、1.0当量の量で用いた。全反応器の温度を0℃に維持した。一旦、定常状態が確立されると、L−カルニチンの収率は80−83%であった。
【0030】
比較例1
L−カルニチン
トリメチルアミン(25%水溶液,90.7g,0.383mol)、水酸化ナトリウム(含有率:98.5%,7.82g,0.193mol)および脱イオン水(136g)の混合物を2時間滴下する間、エチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(含有率:95.5%,30.0g,0.172mol)を0℃で攪拌した。さらに1時間後、当該反応混合物のL−カルニチン含有率をHPLCにより7.35%と決定したが、これは収率70%に相当する。当該反応混合物を真空中で濃縮し、H NMRにより分析した。いくらかのγ−ヒドロキシクロトン酸および未知のオレフィン副生成物を含むことが見出された。
【0031】
例5
L−カルニチン
水酸化ナトリウム(156.1g,3.9mol,1.4当量)を水(3700g)に溶解した。トリメチルアミン水溶液(25%,649.5g,1.0当量)を冷却しながら添加した。得られた混合物を0℃まで冷却し、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(含有率91.5%,500.0g,2.75mol)を3時間以内に当該攪拌した反応混合物に滴下した。0℃でさらに1時間後、当該反応混合物を+20℃まで温め、HPLCにより分析した。
【0032】
収率:L−カルニチン85%。
【0033】
比較例2
L−カルニチン
250mLの反応器中、エチル(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート(含有率94%,12.00g,67.7 mmol)を水(75.04g)とともに攪拌し、0℃に冷却した。トリエチルアミン水溶液(25%,17.71%,1.1当量)を0℃で一度に添加し、その後、水酸化ナトリウム水溶液(25%,15.30g,1.4当量)を3時間以内に滴下した。0℃でさらに1時間後、当該反応混合物を20℃まで温め、HPLCにより分析した。
【0034】
収率:L−カルニチン76%(HPLC/IC)。
【0035】
比較例3
L−カルニチン
水酸化ナトリウム水溶液を一度に加えたこと以外は比較例2の手順を繰り返し、その後、トリメチルアミン水溶液を3時間以内に滴下した。
【0036】
収率:L−カルニチン75%(HPLC/IC)。
【0037】
比較例4
L−カルニチン
当該トリメチルアミン水溶液および当該水酸化ナトリウム水溶液を別々に、しかし同時に3時間以内に加えたこと以外は、比較例2の手順を繰り返した。
【0038】
収率:L−カルニチン77%(HPLC/IC)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

式中、RはC1−4アルキル、Qは任意にヒドロキシによって置換されるC1−4アルカンジイルである、
のベタインの製造方法であって、水溶液中で
式:
【化2】

式中、Qは上で定義した通りであり、R’はC1−4アルキル、Xは塩素、臭素またはヨウ素である、
のω−ハロカルボキシレートを、
式:
【化3】

式中、Rは上で定義した通りである、
の三級アミンと、アルカリ性水酸化物およびアルカリ土類水酸化物から選択される塩基と反応させることによる、当該ω−ハロカルボキシレート(II)を当該三級アミン(III)と当該塩基とを含む水溶液に添加することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、当該反応を当該反応混合物の凝固点と+25℃との間の温度で行う方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、当該反応を+10℃以下で行う方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、当該三級アミン(III)および当該塩基をそれぞれ、ω−ハロカルボキシレートの量に基づき1.0〜3当量の量で用いる方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、Rがメチルである方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法であって、Qが2−ヒドロキシプロパン−1,3−ジイルであり、当該ベタイン(I)がカルニチンである方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、当該ベタイン(I)がL−カルニチンである方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、Xが塩素である方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法であって、R’がメチルまたはエチルである方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法であって、当該塩基が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法であって、当該ベタイン(I)を電気透析によって精製する方法。

【公表番号】特表2011−503132(P2011−503132A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533499(P2010−533499)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009650
【国際公開番号】WO2009/062731
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(391003864)ロンザ リミテッド (36)
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
【Fターム(参考)】