ベルト取付治具
【課題】ベルトを周方向に伸長させてプーリ外周面のプーリ溝に取り付ける際のベルトの損傷を防止することができるベルト取付治具を提供する。
【解決手段】プーリに装着するベルト取付治具2に、プーリフランジ8の外周面と面一に保持面16を設ける。プーリ5の外側の保持面16にベルト7を掛ける。プーリ回転方向の後方でプーリ溝6にベルト7を嵌める。プーリ回転方向の前方でプーリ5の外側にベルト7を通す。保持面16付近でベルト7がベルト幅方向に曲がる。プーリ5を回転させる。プーリ5の外側を通るベルト7が半径方向外向きに移動してプーリフランジ8の外縁に近づく。ベルト7がベルト幅方向の曲がりに対する復元力によってベルト幅方向に移動する。プーリフランジ8を乗り越えてプーリ溝6に嵌る。
【解決手段】プーリに装着するベルト取付治具2に、プーリフランジ8の外周面と面一に保持面16を設ける。プーリ5の外側の保持面16にベルト7を掛ける。プーリ回転方向の後方でプーリ溝6にベルト7を嵌める。プーリ回転方向の前方でプーリ5の外側にベルト7を通す。保持面16付近でベルト7がベルト幅方向に曲がる。プーリ5を回転させる。プーリ5の外側を通るベルト7が半径方向外向きに移動してプーリフランジ8の外縁に近づく。ベルト7がベルト幅方向の曲がりに対する復元力によってベルト幅方向に移動する。プーリフランジ8を乗り越えてプーリ溝6に嵌る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周方向に伸長可能なベルトを外周面にプーリ溝を有するプーリに取り付けるためのベルト取付治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、外周面にプーリ溝を有するプーリにベルトを掛巻してなるベルト伝動機構には、ベルトをプーリに取り付けてから所定のベルト張力を付与するように、テンションプーリなどの張力調整手段が設けられている。
【0003】
このような張力調整手段を不要にするため、プーリに取り付ける際に周方向に伸長させてプーリフランジを乗り越えさせるようにしたベルトが出現している。このベルトを使用する場合、ベルトを周方向に伸長させながらプーリフランジを乗り越えさせてプーリ溝に嵌め込むためのベルト取付治具が必要とされる。特許文献1には、ポリアミドからなる心線を用いて周方向に伸長しやすくしたベルトと、このベルトをプーリに取り付けるためのベルト取付治具とが開示されている。
【0004】
図11に、特許文献1が開示するベルト取付治具(搭載ツール)を示す。ベルト取付治具101は、プーリ102に装着して使用するものであり、その装着時にプーリ102の外周側に配置される円錐形部材103を備えている。円錐形部材103は、ベルト104を掛けることにより、プーリ102からのベルト104の外れを阻止すると共に、ベルト104の向きを変えてプーリ102の軸方向外方からプーリ溝105に導くようになっている。
【0005】
円錐形部材103の端部には案内平滑面106が設けられ、この案内平滑面106でベルト104の側面をプーリ溝105に向けて押さえながら、ベルト取付治具101をプーリ102の周方向に摺動させることにより、あるいはプーリ102を回転させることにより、プーリ溝105に嵌ったベルト104の範囲を広げていき、ベルト104をプーリ102に取り付けるようになっている。
【特許文献1】特開平10−184813号公報(段落番号0012、0015、0060〜0067、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のベルト取付治具は、ベルトを掛ける円錐形部材がプーリの外周面よりも半径方向外方に突出するので、プーリへの取付が完了するまでの一時的なベルトの伸びをより大きくする。この伸びの増大や、案内平滑面で側面を擦られることにより、プーリへの取付時にベルトが損傷するおそれがある。
【0007】
本発明は、外周面にプーリ溝を有するプーリに、ベルトを損傷させることなく周方向に伸長させて取り付けることができるベルト取付治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るベルト取付治具は、周方向に伸長可能なベルトを外周面にプーリ溝を有するプーリに取り付けるためのものであり、少なくともベルトがプーリ溝に嵌るまでこのベルト取付治具をプーリに固定するための固定手段と、ベルトの一部を保持する保持面とを備えている。
【0009】
保持面は、ベルトの内周面の一部を受けてプーリフランジの近傍かつプーリ軸方向外側に保持するものであり、この保持面を境にして、プーリ回転方向の後方ではプーリ溝にベルトを嵌め、プーリ回転方向の前方ではプーリの軸方向外側にベルトを通すようにする。これにより、ベルトを張力のない状態でプーリおよびベルト取付治具に掛けることができる。
【0010】
保持面をプーリフランジの外周面と面一に設定することにより、ベルトがプーリ溝からプーリフランジを跨いでプーリの軸方向外側に移行する部位で、ベルトがベルト幅方向に曲がる。このベルトの曲がりに対する復元力は、保持面よりもプーリ回転方向後方のベルトがプーリ溝に嵌ってプーリ軸方向に拘束されているので、保持面よりもプーリ回転方向前方のベルトをプーリの軸方向外側からプーリ軸方向内側にあるプーリ溝に向けて移動させるように作用する。
【0011】
プーリを回転させたとき、これに追随してベルト取付治具も周方向に回転するので、ベルト取付治具よりもプーリ回転方向前方で、プーリの軸方向外側を通るベルトが半径方向外向きに移動してプーリフランジの外縁に徐々に近づいていく。やがて、ベルトがそのベルト幅方向の曲がりに対する復元力によってプーリフランジを乗り越え、プーリ溝に嵌ろうとする。このようにしてベルトが完全にプーリ溝に嵌るまで、保持面がベルトの一部を保持する。
【0012】
このとき、保持面をプーリフランジの外周面と面一にするので、プーリに取り付ける際のベルトの一時的な伸びを最小限にすることができる。さらに、ベルト幅方向に曲がったベルトの復元力を利用して、ベルトのうちのプーリの軸方向外側に位置する部位をプーリ溝に向けて移動させるので、ベルトの側面を押圧して強制的に移動させる場合のようなベルト側面の擦れを生じさせない。このように、ベルトの伸びを極力小さくすると共に、ベルト側面の擦れを生じさせないので、プーリに取り付ける際のベルトの損傷を防止することができる。
【0013】
ここで、保持面をプーリフランジと面一に設定する場合には、ベルト取付治具の保持面を形成する板材の板厚分程度の差がある場合も含む。また、「面一」は、保持面の全面に限らず、その一部であってもよい。「面一」が保持面の全面の場合としては、保持面がプーリフランジの外周面と等しい曲率の場合を挙げることができる。
【0014】
保持面をプーリフランジの外周面と等しい曲率の曲面に設定すれば、保持面をプーリフランジの外周面と面一に設定しつつ、その面積を大きくすることができるので、ベルトをより広い面で受けることができ、ベルトの狭い範囲に強い力が作用することによるベルトの損傷を防止することができる。
【0015】
プーリフランジの外周面と面一な保持面をプーリ軸方向外側に設けるだけでもよいが、この保持面に連続して、プーリ溝にベルトを滑り込ませる傾斜面を形成すれば、ベルトが保持面からプーリ溝に移動しやすくなり、ベルトをよりスムーズに取り付けることができる。
【0016】
次に、ベルト取付治具を固定する固定手段について説明する。この固定手段としては、ベルト取付治具の一部をベルトとプーリとで挟持する構成が挙げられる。この構成によれば、ベルト取付治具の一部を挟むようにしてベルトをプーリ溝に嵌めるだけでよいので、プーリにベルト取付治具を簡単に装着することができる。なお、プーリにベルトが強く巻き付いてベルト取付治具をしっかりと挟持するまで、ベルト取付治具をプーリに仮留めしたり、手で保持したりすればよい。
【0017】
別の固定手段として、プーリの一部を挟んでプーリに着く挟着部を例示することができる。この挟着部をプーリの一部を緩やかに挟む大きさに設定し、さらに、保持面がベルト反力を受けてベルト取付治具の一部としての挟着部が傾いたとき、プーリの一部を強固に挟むように挟着部の大きさを設定する。
【0018】
そうすれば、ベルト取付治具をプーリに装着する際は、挟着部でプーリの一部を緩やかに挟むだけなので、ベルト取付治具の装着を簡単にすることができる。さらに、ベルトを取り付ける間は、ベルト反力を利用してプーリにベルト取付治具を強固に固定することができ、ベルトの取り付け完了後は、再びベルト反力が作用しなくなって挟着部でプーリを緩やかに挟んだだけの状態になり、ベルト取付治具を容易に取り外すことができる。
【0019】
プーリの側面に凹部が形成されている場合、挟着部として、プーリを凹部の内周側とプーリ溝の外周側とから挟む構造を例示できる。この構造を採用すれば、挟着部の一片がプーリ溝の外周側に位置するので、その表面をベルトに滑らせることができる。これにより、プーリの外周面に複数条の溝がある場合のように、プーリの外周面がベルトの滑りにくい状態であっても、ベルトに挟着部の表面を滑らせてスムーズにプーリ溝に嵌めることができる。
【0020】
挟着部のうち、プーリ溝に外周側から対向する面をプーリ溝の外周面と等しい曲率の曲面に設定すれば、挟着部をより広い面でプーリ溝の外周面に接触させることができる。これにより、プーリに装着したベルト取付治具を安定させることができると共に、ベルト取付治具によるプーリ溝の損傷も防止することができる。
【0021】
挟着部として、プーリフランジをプーリ軸方向に挟む構造を採用することもできる。この構造によれば、プーリ溝の溝幅やプーリの凹部の大きさに関わらずベルト取付治具を装着することができ、さらに、凹部のないプーリにもベルト取付治具を装着することができる。
【0022】
固定手段として、ベルト取付治具にナットを設け、このナットをプーリのセンターボルトに取り付けるようにしてもよい。そうすれば、センターボルトを利用するので、装着用の部材が不要であり、ベルト取付治具の装着を簡単にすることができる。さらに、プーリの外周面とは別の部位にベルト取付治具を固定するので、部材厚さなどに関わらず、保持面をプーリフランジの外周面に完全に一致させることができ、プーリに取り付ける際のベルトの伸びを最小限に抑えることができる。
【0023】
プーリ軸方向での外方へのベルトの外れを規制する外れ止めを設ければ、プーリを三次元的に配置した場合などのように、ベルト取付治具の保持面からベルトが外れやすいときにも、その外れを阻止することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のとおり、本発明によると、プーリフランジの外周面と面一に設定した保持面でベルトの一部を受けるので、プーリにベルトを取り付ける際の一時的なベルトの伸びを極力小さくすることができる。さらに、プーリへの固定手段を適宜選択して採用することにより、ベルト取付治具の装着を簡単にすることができる。これにより、周方向に伸長可能なベルトを、損傷することなく、かつ簡単にプーリに取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係るベルト取付治具を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。第1実施形態〜第4実施形態のベルト取付治具1、2、3、4は、いずれもプーリ5の外周面に形成されたプーリ溝6にベルト7を取り付けるためのものであり、プーリ5に装着してベルト7を掛け、プーリ5を回転させることにより、ベルト7を伸長させてプーリフランジ8を乗り越えさせるものである。
【0026】
ベルト7は、周方向に伸長可能とされてテンショナーなどの張力調整手段を不要にするものであり、例えばベルト本体にポリアミドからなる心線を埋設した構造とすることによって周方向の伸び率を2〜3%に設定される。なお、以下の実施形態では、ベルト7として、プーリ5の外周面に形成されたプーリ溝6の複数の溝に嵌るVリブドベルトを例示しているが、平ベルトなどのVリブドベルト以外のベルトであってもよい。
【0027】
[第1実施形態]
図1(a)は本発明の第1実施形態に係るベルト取付治具の斜視図であり、図1(b)はそのA−A断面図である。図2(a)はベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図であり、図2(b)はそのB−B断面図(要部断面図)である。図3は挟着部がプーリの外周部を挟む様子を説明する図である。
【0028】
ベルト取付治具1は、側面に凹部9を有するプーリ5に装着して、このプーリ5にベルト7を取り付けるためのものであり、プーリ5の外周部10を凹部9の内周側とプーリ溝6の外周側とから挟む挟着部(固定手段)11と、プーリフランジ8よりもプーリ軸方向外側でベルト7の一部を受けて保持する保持面12と、保持面12からプーリ溝6にベルト7を滑り込ませる傾斜面13とを備えている。
【0029】
このベルト取付治具1は、1枚の金属板をU字形に折り曲げて、プーリ5に装着したときの外周側に表片1aを、内周側に裏片1bを形成してなり、その先端部が挟着部11とされる。表片1aの基端部表面が保持面12とされ、表片1aのうちの挟着部11と保持面12との間が傾斜面13とされる。少なくとも表片1aの表面は、ベルト7を滑らせやすいように、ベルト7との摩擦係数を例えば1以下に設定される。
【0030】
挟着部11は、表片1aと裏片1bとの間隔(W)をプーリ5の外周部10を半径方向に緩やかに挟む大きさに設定され、保持面12の受けるベルト反力によってわずかに傾くことにより、プーリ5の外周部10を強固に挟むようになっている。これにより、保持面12に掛けたベルト7が傾斜面13を滑ってプーリ溝6に嵌るまで、ベルト取付治具1がプーリ5に強固に固定される。
【0031】
挟着部11の表片1aは、プーリ溝6の外周面とほぼ等しい曲率に形成され、保持部12からプーリ溝6に向けて傾斜部13を滑ったベルト7がプーリ溝6に位置する挟着部11の表片1aの表面に載った際に、そのベルト7がプーリ5になじむようになっている。
【0032】
保持面12は、プーリ軸方向の幅をベルト7の幅よりも大きく設定され、ベルト7を掛けることができるようになっている。この保持面12は、プーリフランジ8の外周面とほぼ等しい曲率に形成され、プーリフランジ8よりもプーリ軸方向外方に、かつプーリフランジ8の外周面と実質的に面一に配置される。
【0033】
挟着部11の表片1aと保持面12との高さの差は、プーリフランジ8の突出長とほぼ同じ大きさとされ、挟着部11の表片1aと保持面12とが傾斜面13を介して連続している。
【0034】
次に、ベルト取付治具1を用いてプーリにベルトを取り付ける手順を説明する。まず、ベルト取付治具1をその挟着部11で外周部10を挟むようにしてプーリ5に装着する。図3(a)、(b)に示すように、挟着部11の間隔(W)は外周部10の厚さ(T)よりも大きく、挟着部11で外周部10を緩やかに挟むだけなので、ベルト取付治具1をプーリ5に容易に装着することができる。
【0035】
次いで、図2(a)、(b)に示すように、ベルト取付治具1よりもプーリ回転方向後方のプーリ溝6にベルト7を嵌める。ベルト取付治具1の近傍で、ベルト7をベルト幅方向に曲げるようにしてプーリフランジ8を跨ぐようにする。ベルト取付治具1の保持面12にベルト7を掛けて、ベルト取付治具1よりもプーリ回転方向前方でプーリ7よりもプーリ軸方向外方にベルト7を通す。この状態ではベルト7に張力は作用しておらず、ベルト取付治具1およびプーリ5に容易にベルト7を掛けることができる。
【0036】
プーリ5のセンターボルト14に例えば市販の工具を装着してプーリ5を回転させることにより、ベルト7を伸長させながら、ベルト取付治具1がプーリ回転方向前方に進み、ベルト7のうちのプーリ溝6に嵌る範囲が広がっていく。このとき、保持面12にベルト反力が作用して、図3(c)に示すように、挟着部11がわずかに傾くことにより、挟着部11が外周部10を強固に挟むので、ベルト7の取付時のベルト取付治具1の外れが防止される。
【0037】
ベルト取付治具1よりもプーリ回転方向後方でベルト7がプーリ溝6に嵌ってプーリ軸方向の移動を規制されているので、プーリ回転方向前方では、ベルト幅方向に曲がったベルト7の復元力によって、ベルト7をプーリ溝6に向かって移動させる力が作用する。なお、ベルト7の復元力は、ベルト張力の分力としてのスラスト力や、ベルト7の弾性力である。
【0038】
ベルト取付治具1よりもプーリ回転方向前方で、ベルト7がプーリ5の中心付近から半径方向外向きに移動して、徐々にプーリフランジ8の外縁に近づいていく。やがて、ベルト7の復元力により、ベルト7がプーリフランジ8を乗り越えるようにして、保持面12から傾斜面13およびプーリ溝6の溝底を滑ってプーリ溝6に嵌り、ベルト7が完全にプーリ5に取り付けられる。
【0039】
保持面12をプーリフランジ8の外周面と面一にしているので、ベルト7がプーリフランジ8を乗り越えやすく、さらに、プーリフランジ8を乗り越えさせる際に、ベルト7の伸びを極力小さくして、ベルト7の損傷を防止することができる。また、プーリ溝6の溝底に挟着部11の表片1aが位置するので、ベルト7にプーリ溝6の溝底を溝幅方向に容易に滑らせることができる。
【0040】
ベルト7が完全にプーリ5に取り付けられた後は、保持面12にベルト反力が作用しなくなるので、ベルト取付治具1は、再び挟着部11でプーリ5の外周部10を緩やかに挟んだだけの状態になり、プーリ5から自由落下させるなどして容易に取り外すことができる。
【0041】
なお、図4に示すように、裏片1bを設けることなく、表片1aだけでベルト取付治具1を構成してもよい。この場合、プーリ溝6とベルト7とでベルト取付治具1を挟んで固定すればよく、プーリ溝6にベルト7が強く巻き付いてベルト取付治具1をしっかりと固定するまで、手でベルト取付治具1を保持するのがよい。
【0042】
[第2実施形態]
図5は本発明の第2実施形態に係るベルト取付治具の斜視図、図6はベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図である。
【0043】
ベルト取付治具2は、第1実施形態のベルト取付治具1とほぼ同じ構成であるが、1枚の金属板をU字形に折り曲げて、プーリ5に装着したときの外周側に表片2aを、内周側に裏片2bを形成し、表片2aおよび裏片2bの側方に挟着部15を形成したものである。表片2aの表面が保持面16とされ、表片2aのうちの挟着部15と保持面16との間が傾斜面17とされる。
【0044】
このベルト取付治具2は、表片2aと裏片2bとが回転方向前端で連続しているので、その挟着部15でプーリ5の外周部10を挟むように装着されて保持面16にベルト反力を受けたとき、プーリ溝6の外周側および凹部9の内周側に加えて、外周部10の側面でも支持される。また、ベルト反力が大きくなりやすい回転方向前端を連続させるので、ベルト取付治具2の強度を高めることができる。さらに、回転方向前端の形状を適宜設定することにより、ベルト7の厚さ方向の極端な曲がりを抑えることができる。なお、他の構成は第1実施形態のベルト取付治具1と同じである。
【0045】
[第3実施形態]
図7は本発明の第3実施形態に係るベルト取付治具の斜視図、図8はベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図である。
【0046】
ベルト取付治具3は、第1実施形態のベルト取付治具1とほぼ同じ構成であるが、1枚の金属板をプーリフランジ8の外周面とほぼ同じ曲率で湾曲させて保持面18とし、傾斜面を設けることなく、保持面18の側方にプーリフランジ8をプーリ軸方向に挟む挟着部19を形成したものである。
【0047】
ベルト取付治具3のプーリ回転方向前端部20は、その曲率を小さくされてプーリ5の半径方向内向きに延設され、ベルト取付治具3に掛けたベルト7の厚さ方向の曲がりを抑えると共に、保持面18がベルト反力を受けたときに、プーリ5の外周部10の側面で支持されるようになっている。
【0048】
ベルト取付治具3のプーリ回転方向後端部は、プーリ5の半径方向外向きに折曲され、プーリ軸方向で外方へのベルト7の外れを規制する外れ止め21される。外れ止め21より、複数のプーリ5を3次元的に配置した場合のように、ベルト7の外れやすいときにもベルト取付治具3からのベルト7の外れを防止する。
【0049】
挟着部19は、2種類で合計3つの突片19a、19bからなり、それぞれの突片19a、19bの先端に爪部19cが形成されている。両端の突片19aは、中央の突片19bよりもその突出長を長くされ、突片19aの爪部19cと突片19bの爪部19cとでプーリフランジ8をプーリ軸方向に挟むようになっている。
【0050】
突片19aの突出長と突片19bの突出長との差は、爪部19cでプーリフランジ8を緩やかに挟む大きさに設定され、ベルト反力を受けたベルト取付治具3がわずかに傾くことにより、挟着部19がプーリフランジ8を強固に挟むようになっている。この挟着部19の構成により、プーリ5の側面に凹部9のない場合にも使用することができる。なお、他の構成は、第1実施形態のベルト取付治具1と同じである。
【0051】
[第4実施形態]
図9は本発明の第4実施形態に係るベルト取付治具の斜視図、図10はベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図である。
【0052】
ベルト取付治具4は、第1実施形態のベルト取付治具1とほぼ同じ構成であるが、1枚の金属板を折り曲げた構造とする代わりに、略楕円形の厚板22から構成し、挟着部を設ける代わりに、プーリ5のセンターボルト14に取り付けるためのナット(固定手段)23を設け、傾斜面を設けることなく、厚板22の周面に保持面24を設けたものである。
【0053】
ナット23は、厚板22の側面にその中心から偏心させて設けられ、ベルト取付治具4をプーリ5に装着した状態で、ナット23から離れた部位がプーリフランジ8の外周面に接近するようになっている。図9に示すように、ナット23にはレンチ用穴25が設けられ、図10に示すように、レンチ26を用いてプーリ5のセンターボルト14に取り付けるようになっている。
【0054】
ナット23を固定手段とする構成により、ベルト反力の有無に関わらず、プーリ5にベルト取付治具4が取り付けられる。また、プーリ5の側面に凹部9のない場合にも使用することができる。
【0055】
厚板22の周面のうち、ナット23から離れた部位は、プーリフランジ8と同じ曲率で、かつプーリフランジ8と完全に面一に設定され、この部位がベルト7の一部を保持する保持面24とされる。保持面24のプーリ回転方向後端部には、突起が形成され、この突起がベルト7の外れを規制する外れ止め27とされる。なお、他の構成は、第1実施形態のベルト取付治具1と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係るベルト取付治具の斜視図、(b)はA−A断面図
【図2】(a)は第1実施形態のベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図、(b)はB−B断面図(要部断面図)
【図3】挟着部がプーリの外周部を挟む様子を説明する図
【図4】表片だけで構成したベルト取付治具の断面図
【図5】本発明の第2実施形態に係るベルト取付治具の斜視図
【図6】第2実施形態のベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図
【図7】本発明の第3実施形態に係るベルト取付治具の斜視図
【図8】第3実施形態のベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図
【図9】本発明の第4実施形態に係るベルト取付治具の斜視図
【図10】第4実施形態のベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図
【図11】従来のベルト取付治具を示す斜視図
【符号の説明】
【0057】
1、2、3、4 ベルト取付治具
5 プーリ
6 プーリ溝
7 ベルト
8 プーリフランジ
9 凹部
11、15、19 挟着部
12、16、18、24 保持面
13、17 傾斜面
14 センターボルト
21、27 外れ止め
23 ナット
【技術分野】
【0001】
本発明は、周方向に伸長可能なベルトを外周面にプーリ溝を有するプーリに取り付けるためのベルト取付治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、外周面にプーリ溝を有するプーリにベルトを掛巻してなるベルト伝動機構には、ベルトをプーリに取り付けてから所定のベルト張力を付与するように、テンションプーリなどの張力調整手段が設けられている。
【0003】
このような張力調整手段を不要にするため、プーリに取り付ける際に周方向に伸長させてプーリフランジを乗り越えさせるようにしたベルトが出現している。このベルトを使用する場合、ベルトを周方向に伸長させながらプーリフランジを乗り越えさせてプーリ溝に嵌め込むためのベルト取付治具が必要とされる。特許文献1には、ポリアミドからなる心線を用いて周方向に伸長しやすくしたベルトと、このベルトをプーリに取り付けるためのベルト取付治具とが開示されている。
【0004】
図11に、特許文献1が開示するベルト取付治具(搭載ツール)を示す。ベルト取付治具101は、プーリ102に装着して使用するものであり、その装着時にプーリ102の外周側に配置される円錐形部材103を備えている。円錐形部材103は、ベルト104を掛けることにより、プーリ102からのベルト104の外れを阻止すると共に、ベルト104の向きを変えてプーリ102の軸方向外方からプーリ溝105に導くようになっている。
【0005】
円錐形部材103の端部には案内平滑面106が設けられ、この案内平滑面106でベルト104の側面をプーリ溝105に向けて押さえながら、ベルト取付治具101をプーリ102の周方向に摺動させることにより、あるいはプーリ102を回転させることにより、プーリ溝105に嵌ったベルト104の範囲を広げていき、ベルト104をプーリ102に取り付けるようになっている。
【特許文献1】特開平10−184813号公報(段落番号0012、0015、0060〜0067、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のベルト取付治具は、ベルトを掛ける円錐形部材がプーリの外周面よりも半径方向外方に突出するので、プーリへの取付が完了するまでの一時的なベルトの伸びをより大きくする。この伸びの増大や、案内平滑面で側面を擦られることにより、プーリへの取付時にベルトが損傷するおそれがある。
【0007】
本発明は、外周面にプーリ溝を有するプーリに、ベルトを損傷させることなく周方向に伸長させて取り付けることができるベルト取付治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るベルト取付治具は、周方向に伸長可能なベルトを外周面にプーリ溝を有するプーリに取り付けるためのものであり、少なくともベルトがプーリ溝に嵌るまでこのベルト取付治具をプーリに固定するための固定手段と、ベルトの一部を保持する保持面とを備えている。
【0009】
保持面は、ベルトの内周面の一部を受けてプーリフランジの近傍かつプーリ軸方向外側に保持するものであり、この保持面を境にして、プーリ回転方向の後方ではプーリ溝にベルトを嵌め、プーリ回転方向の前方ではプーリの軸方向外側にベルトを通すようにする。これにより、ベルトを張力のない状態でプーリおよびベルト取付治具に掛けることができる。
【0010】
保持面をプーリフランジの外周面と面一に設定することにより、ベルトがプーリ溝からプーリフランジを跨いでプーリの軸方向外側に移行する部位で、ベルトがベルト幅方向に曲がる。このベルトの曲がりに対する復元力は、保持面よりもプーリ回転方向後方のベルトがプーリ溝に嵌ってプーリ軸方向に拘束されているので、保持面よりもプーリ回転方向前方のベルトをプーリの軸方向外側からプーリ軸方向内側にあるプーリ溝に向けて移動させるように作用する。
【0011】
プーリを回転させたとき、これに追随してベルト取付治具も周方向に回転するので、ベルト取付治具よりもプーリ回転方向前方で、プーリの軸方向外側を通るベルトが半径方向外向きに移動してプーリフランジの外縁に徐々に近づいていく。やがて、ベルトがそのベルト幅方向の曲がりに対する復元力によってプーリフランジを乗り越え、プーリ溝に嵌ろうとする。このようにしてベルトが完全にプーリ溝に嵌るまで、保持面がベルトの一部を保持する。
【0012】
このとき、保持面をプーリフランジの外周面と面一にするので、プーリに取り付ける際のベルトの一時的な伸びを最小限にすることができる。さらに、ベルト幅方向に曲がったベルトの復元力を利用して、ベルトのうちのプーリの軸方向外側に位置する部位をプーリ溝に向けて移動させるので、ベルトの側面を押圧して強制的に移動させる場合のようなベルト側面の擦れを生じさせない。このように、ベルトの伸びを極力小さくすると共に、ベルト側面の擦れを生じさせないので、プーリに取り付ける際のベルトの損傷を防止することができる。
【0013】
ここで、保持面をプーリフランジと面一に設定する場合には、ベルト取付治具の保持面を形成する板材の板厚分程度の差がある場合も含む。また、「面一」は、保持面の全面に限らず、その一部であってもよい。「面一」が保持面の全面の場合としては、保持面がプーリフランジの外周面と等しい曲率の場合を挙げることができる。
【0014】
保持面をプーリフランジの外周面と等しい曲率の曲面に設定すれば、保持面をプーリフランジの外周面と面一に設定しつつ、その面積を大きくすることができるので、ベルトをより広い面で受けることができ、ベルトの狭い範囲に強い力が作用することによるベルトの損傷を防止することができる。
【0015】
プーリフランジの外周面と面一な保持面をプーリ軸方向外側に設けるだけでもよいが、この保持面に連続して、プーリ溝にベルトを滑り込ませる傾斜面を形成すれば、ベルトが保持面からプーリ溝に移動しやすくなり、ベルトをよりスムーズに取り付けることができる。
【0016】
次に、ベルト取付治具を固定する固定手段について説明する。この固定手段としては、ベルト取付治具の一部をベルトとプーリとで挟持する構成が挙げられる。この構成によれば、ベルト取付治具の一部を挟むようにしてベルトをプーリ溝に嵌めるだけでよいので、プーリにベルト取付治具を簡単に装着することができる。なお、プーリにベルトが強く巻き付いてベルト取付治具をしっかりと挟持するまで、ベルト取付治具をプーリに仮留めしたり、手で保持したりすればよい。
【0017】
別の固定手段として、プーリの一部を挟んでプーリに着く挟着部を例示することができる。この挟着部をプーリの一部を緩やかに挟む大きさに設定し、さらに、保持面がベルト反力を受けてベルト取付治具の一部としての挟着部が傾いたとき、プーリの一部を強固に挟むように挟着部の大きさを設定する。
【0018】
そうすれば、ベルト取付治具をプーリに装着する際は、挟着部でプーリの一部を緩やかに挟むだけなので、ベルト取付治具の装着を簡単にすることができる。さらに、ベルトを取り付ける間は、ベルト反力を利用してプーリにベルト取付治具を強固に固定することができ、ベルトの取り付け完了後は、再びベルト反力が作用しなくなって挟着部でプーリを緩やかに挟んだだけの状態になり、ベルト取付治具を容易に取り外すことができる。
【0019】
プーリの側面に凹部が形成されている場合、挟着部として、プーリを凹部の内周側とプーリ溝の外周側とから挟む構造を例示できる。この構造を採用すれば、挟着部の一片がプーリ溝の外周側に位置するので、その表面をベルトに滑らせることができる。これにより、プーリの外周面に複数条の溝がある場合のように、プーリの外周面がベルトの滑りにくい状態であっても、ベルトに挟着部の表面を滑らせてスムーズにプーリ溝に嵌めることができる。
【0020】
挟着部のうち、プーリ溝に外周側から対向する面をプーリ溝の外周面と等しい曲率の曲面に設定すれば、挟着部をより広い面でプーリ溝の外周面に接触させることができる。これにより、プーリに装着したベルト取付治具を安定させることができると共に、ベルト取付治具によるプーリ溝の損傷も防止することができる。
【0021】
挟着部として、プーリフランジをプーリ軸方向に挟む構造を採用することもできる。この構造によれば、プーリ溝の溝幅やプーリの凹部の大きさに関わらずベルト取付治具を装着することができ、さらに、凹部のないプーリにもベルト取付治具を装着することができる。
【0022】
固定手段として、ベルト取付治具にナットを設け、このナットをプーリのセンターボルトに取り付けるようにしてもよい。そうすれば、センターボルトを利用するので、装着用の部材が不要であり、ベルト取付治具の装着を簡単にすることができる。さらに、プーリの外周面とは別の部位にベルト取付治具を固定するので、部材厚さなどに関わらず、保持面をプーリフランジの外周面に完全に一致させることができ、プーリに取り付ける際のベルトの伸びを最小限に抑えることができる。
【0023】
プーリ軸方向での外方へのベルトの外れを規制する外れ止めを設ければ、プーリを三次元的に配置した場合などのように、ベルト取付治具の保持面からベルトが外れやすいときにも、その外れを阻止することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のとおり、本発明によると、プーリフランジの外周面と面一に設定した保持面でベルトの一部を受けるので、プーリにベルトを取り付ける際の一時的なベルトの伸びを極力小さくすることができる。さらに、プーリへの固定手段を適宜選択して採用することにより、ベルト取付治具の装着を簡単にすることができる。これにより、周方向に伸長可能なベルトを、損傷することなく、かつ簡単にプーリに取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係るベルト取付治具を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。第1実施形態〜第4実施形態のベルト取付治具1、2、3、4は、いずれもプーリ5の外周面に形成されたプーリ溝6にベルト7を取り付けるためのものであり、プーリ5に装着してベルト7を掛け、プーリ5を回転させることにより、ベルト7を伸長させてプーリフランジ8を乗り越えさせるものである。
【0026】
ベルト7は、周方向に伸長可能とされてテンショナーなどの張力調整手段を不要にするものであり、例えばベルト本体にポリアミドからなる心線を埋設した構造とすることによって周方向の伸び率を2〜3%に設定される。なお、以下の実施形態では、ベルト7として、プーリ5の外周面に形成されたプーリ溝6の複数の溝に嵌るVリブドベルトを例示しているが、平ベルトなどのVリブドベルト以外のベルトであってもよい。
【0027】
[第1実施形態]
図1(a)は本発明の第1実施形態に係るベルト取付治具の斜視図であり、図1(b)はそのA−A断面図である。図2(a)はベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図であり、図2(b)はそのB−B断面図(要部断面図)である。図3は挟着部がプーリの外周部を挟む様子を説明する図である。
【0028】
ベルト取付治具1は、側面に凹部9を有するプーリ5に装着して、このプーリ5にベルト7を取り付けるためのものであり、プーリ5の外周部10を凹部9の内周側とプーリ溝6の外周側とから挟む挟着部(固定手段)11と、プーリフランジ8よりもプーリ軸方向外側でベルト7の一部を受けて保持する保持面12と、保持面12からプーリ溝6にベルト7を滑り込ませる傾斜面13とを備えている。
【0029】
このベルト取付治具1は、1枚の金属板をU字形に折り曲げて、プーリ5に装着したときの外周側に表片1aを、内周側に裏片1bを形成してなり、その先端部が挟着部11とされる。表片1aの基端部表面が保持面12とされ、表片1aのうちの挟着部11と保持面12との間が傾斜面13とされる。少なくとも表片1aの表面は、ベルト7を滑らせやすいように、ベルト7との摩擦係数を例えば1以下に設定される。
【0030】
挟着部11は、表片1aと裏片1bとの間隔(W)をプーリ5の外周部10を半径方向に緩やかに挟む大きさに設定され、保持面12の受けるベルト反力によってわずかに傾くことにより、プーリ5の外周部10を強固に挟むようになっている。これにより、保持面12に掛けたベルト7が傾斜面13を滑ってプーリ溝6に嵌るまで、ベルト取付治具1がプーリ5に強固に固定される。
【0031】
挟着部11の表片1aは、プーリ溝6の外周面とほぼ等しい曲率に形成され、保持部12からプーリ溝6に向けて傾斜部13を滑ったベルト7がプーリ溝6に位置する挟着部11の表片1aの表面に載った際に、そのベルト7がプーリ5になじむようになっている。
【0032】
保持面12は、プーリ軸方向の幅をベルト7の幅よりも大きく設定され、ベルト7を掛けることができるようになっている。この保持面12は、プーリフランジ8の外周面とほぼ等しい曲率に形成され、プーリフランジ8よりもプーリ軸方向外方に、かつプーリフランジ8の外周面と実質的に面一に配置される。
【0033】
挟着部11の表片1aと保持面12との高さの差は、プーリフランジ8の突出長とほぼ同じ大きさとされ、挟着部11の表片1aと保持面12とが傾斜面13を介して連続している。
【0034】
次に、ベルト取付治具1を用いてプーリにベルトを取り付ける手順を説明する。まず、ベルト取付治具1をその挟着部11で外周部10を挟むようにしてプーリ5に装着する。図3(a)、(b)に示すように、挟着部11の間隔(W)は外周部10の厚さ(T)よりも大きく、挟着部11で外周部10を緩やかに挟むだけなので、ベルト取付治具1をプーリ5に容易に装着することができる。
【0035】
次いで、図2(a)、(b)に示すように、ベルト取付治具1よりもプーリ回転方向後方のプーリ溝6にベルト7を嵌める。ベルト取付治具1の近傍で、ベルト7をベルト幅方向に曲げるようにしてプーリフランジ8を跨ぐようにする。ベルト取付治具1の保持面12にベルト7を掛けて、ベルト取付治具1よりもプーリ回転方向前方でプーリ7よりもプーリ軸方向外方にベルト7を通す。この状態ではベルト7に張力は作用しておらず、ベルト取付治具1およびプーリ5に容易にベルト7を掛けることができる。
【0036】
プーリ5のセンターボルト14に例えば市販の工具を装着してプーリ5を回転させることにより、ベルト7を伸長させながら、ベルト取付治具1がプーリ回転方向前方に進み、ベルト7のうちのプーリ溝6に嵌る範囲が広がっていく。このとき、保持面12にベルト反力が作用して、図3(c)に示すように、挟着部11がわずかに傾くことにより、挟着部11が外周部10を強固に挟むので、ベルト7の取付時のベルト取付治具1の外れが防止される。
【0037】
ベルト取付治具1よりもプーリ回転方向後方でベルト7がプーリ溝6に嵌ってプーリ軸方向の移動を規制されているので、プーリ回転方向前方では、ベルト幅方向に曲がったベルト7の復元力によって、ベルト7をプーリ溝6に向かって移動させる力が作用する。なお、ベルト7の復元力は、ベルト張力の分力としてのスラスト力や、ベルト7の弾性力である。
【0038】
ベルト取付治具1よりもプーリ回転方向前方で、ベルト7がプーリ5の中心付近から半径方向外向きに移動して、徐々にプーリフランジ8の外縁に近づいていく。やがて、ベルト7の復元力により、ベルト7がプーリフランジ8を乗り越えるようにして、保持面12から傾斜面13およびプーリ溝6の溝底を滑ってプーリ溝6に嵌り、ベルト7が完全にプーリ5に取り付けられる。
【0039】
保持面12をプーリフランジ8の外周面と面一にしているので、ベルト7がプーリフランジ8を乗り越えやすく、さらに、プーリフランジ8を乗り越えさせる際に、ベルト7の伸びを極力小さくして、ベルト7の損傷を防止することができる。また、プーリ溝6の溝底に挟着部11の表片1aが位置するので、ベルト7にプーリ溝6の溝底を溝幅方向に容易に滑らせることができる。
【0040】
ベルト7が完全にプーリ5に取り付けられた後は、保持面12にベルト反力が作用しなくなるので、ベルト取付治具1は、再び挟着部11でプーリ5の外周部10を緩やかに挟んだだけの状態になり、プーリ5から自由落下させるなどして容易に取り外すことができる。
【0041】
なお、図4に示すように、裏片1bを設けることなく、表片1aだけでベルト取付治具1を構成してもよい。この場合、プーリ溝6とベルト7とでベルト取付治具1を挟んで固定すればよく、プーリ溝6にベルト7が強く巻き付いてベルト取付治具1をしっかりと固定するまで、手でベルト取付治具1を保持するのがよい。
【0042】
[第2実施形態]
図5は本発明の第2実施形態に係るベルト取付治具の斜視図、図6はベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図である。
【0043】
ベルト取付治具2は、第1実施形態のベルト取付治具1とほぼ同じ構成であるが、1枚の金属板をU字形に折り曲げて、プーリ5に装着したときの外周側に表片2aを、内周側に裏片2bを形成し、表片2aおよび裏片2bの側方に挟着部15を形成したものである。表片2aの表面が保持面16とされ、表片2aのうちの挟着部15と保持面16との間が傾斜面17とされる。
【0044】
このベルト取付治具2は、表片2aと裏片2bとが回転方向前端で連続しているので、その挟着部15でプーリ5の外周部10を挟むように装着されて保持面16にベルト反力を受けたとき、プーリ溝6の外周側および凹部9の内周側に加えて、外周部10の側面でも支持される。また、ベルト反力が大きくなりやすい回転方向前端を連続させるので、ベルト取付治具2の強度を高めることができる。さらに、回転方向前端の形状を適宜設定することにより、ベルト7の厚さ方向の極端な曲がりを抑えることができる。なお、他の構成は第1実施形態のベルト取付治具1と同じである。
【0045】
[第3実施形態]
図7は本発明の第3実施形態に係るベルト取付治具の斜視図、図8はベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図である。
【0046】
ベルト取付治具3は、第1実施形態のベルト取付治具1とほぼ同じ構成であるが、1枚の金属板をプーリフランジ8の外周面とほぼ同じ曲率で湾曲させて保持面18とし、傾斜面を設けることなく、保持面18の側方にプーリフランジ8をプーリ軸方向に挟む挟着部19を形成したものである。
【0047】
ベルト取付治具3のプーリ回転方向前端部20は、その曲率を小さくされてプーリ5の半径方向内向きに延設され、ベルト取付治具3に掛けたベルト7の厚さ方向の曲がりを抑えると共に、保持面18がベルト反力を受けたときに、プーリ5の外周部10の側面で支持されるようになっている。
【0048】
ベルト取付治具3のプーリ回転方向後端部は、プーリ5の半径方向外向きに折曲され、プーリ軸方向で外方へのベルト7の外れを規制する外れ止め21される。外れ止め21より、複数のプーリ5を3次元的に配置した場合のように、ベルト7の外れやすいときにもベルト取付治具3からのベルト7の外れを防止する。
【0049】
挟着部19は、2種類で合計3つの突片19a、19bからなり、それぞれの突片19a、19bの先端に爪部19cが形成されている。両端の突片19aは、中央の突片19bよりもその突出長を長くされ、突片19aの爪部19cと突片19bの爪部19cとでプーリフランジ8をプーリ軸方向に挟むようになっている。
【0050】
突片19aの突出長と突片19bの突出長との差は、爪部19cでプーリフランジ8を緩やかに挟む大きさに設定され、ベルト反力を受けたベルト取付治具3がわずかに傾くことにより、挟着部19がプーリフランジ8を強固に挟むようになっている。この挟着部19の構成により、プーリ5の側面に凹部9のない場合にも使用することができる。なお、他の構成は、第1実施形態のベルト取付治具1と同じである。
【0051】
[第4実施形態]
図9は本発明の第4実施形態に係るベルト取付治具の斜視図、図10はベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図である。
【0052】
ベルト取付治具4は、第1実施形態のベルト取付治具1とほぼ同じ構成であるが、1枚の金属板を折り曲げた構造とする代わりに、略楕円形の厚板22から構成し、挟着部を設ける代わりに、プーリ5のセンターボルト14に取り付けるためのナット(固定手段)23を設け、傾斜面を設けることなく、厚板22の周面に保持面24を設けたものである。
【0053】
ナット23は、厚板22の側面にその中心から偏心させて設けられ、ベルト取付治具4をプーリ5に装着した状態で、ナット23から離れた部位がプーリフランジ8の外周面に接近するようになっている。図9に示すように、ナット23にはレンチ用穴25が設けられ、図10に示すように、レンチ26を用いてプーリ5のセンターボルト14に取り付けるようになっている。
【0054】
ナット23を固定手段とする構成により、ベルト反力の有無に関わらず、プーリ5にベルト取付治具4が取り付けられる。また、プーリ5の側面に凹部9のない場合にも使用することができる。
【0055】
厚板22の周面のうち、ナット23から離れた部位は、プーリフランジ8と同じ曲率で、かつプーリフランジ8と完全に面一に設定され、この部位がベルト7の一部を保持する保持面24とされる。保持面24のプーリ回転方向後端部には、突起が形成され、この突起がベルト7の外れを規制する外れ止め27とされる。なお、他の構成は、第1実施形態のベルト取付治具1と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係るベルト取付治具の斜視図、(b)はA−A断面図
【図2】(a)は第1実施形態のベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図、(b)はB−B断面図(要部断面図)
【図3】挟着部がプーリの外周部を挟む様子を説明する図
【図4】表片だけで構成したベルト取付治具の断面図
【図5】本発明の第2実施形態に係るベルト取付治具の斜視図
【図6】第2実施形態のベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図
【図7】本発明の第3実施形態に係るベルト取付治具の斜視図
【図8】第3実施形態のベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図
【図9】本発明の第4実施形態に係るベルト取付治具の斜視図
【図10】第4実施形態のベルト取付治具を用いてプーリにベルトを取り付ける様子を示す斜視図
【図11】従来のベルト取付治具を示す斜視図
【符号の説明】
【0057】
1、2、3、4 ベルト取付治具
5 プーリ
6 プーリ溝
7 ベルト
8 プーリフランジ
9 凹部
11、15、19 挟着部
12、16、18、24 保持面
13、17 傾斜面
14 センターボルト
21、27 外れ止め
23 ナット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に伸長可能なベルトを外周面にプーリ溝を有するプーリに取り付けるためのベルト取付治具であって、
少なくとも前記ベルトがプーリ溝に嵌るまで当該ベルト取付治具を前記プーリに固定するための固定手段と、前記ベルトの一部を受けてプーリフランジの近傍かつプーリ軸方向外側に保持する保持面とを備え、
前記保持面は、プーリフランジの外周面と面一に設定され、プーリを回転させたときに、ベルト幅方向に曲がったベルトがその復元力によってプーリ溝に嵌るまで、前記ベルトの一部を保持することを特徴とするベルト取付治具。
【請求項2】
前記保持面は、プーリフランジの外周面と等しい曲率の曲面に設定されたことを特徴とする請求項1に記載のベルト取付治具。
【請求項3】
前記保持面に連続して、前記プーリ溝にベルトを滑り込ませる傾斜面が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト取付治具。
【請求項4】
前記固定手段は、プーリの一部を挟んでプーリに着く挟着部とされ、該挟着部は、プーリの一部を緩やかに挟み、前記保持面の受けるベルト反力によって傾くことにより、プーリの一部を強固に挟む大きさに設定されたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のベルト取付治具。
【請求項5】
前記プーリの側面に凹部が形成され、前記挟着部は、前記プーリを前記凹部の内周側とプーリ溝の外周側とから挟むことを特徴とする請求項4に記載のベルト取付治具。
【請求項6】
前記挟着部は、プーリ溝に外周側から対向する面をプーリ溝の外周面と等しい曲率の曲面に設定されたことを特徴とする請求項5に記載のベルト取付治具。
【請求項7】
前記挟着部は、プーリフランジをプーリ軸方向に挟むことを特徴とする請求項4に記載のベルト取付治具。
【請求項8】
前記固定手段は、プーリのセンターボルトに取り付けられるナットとされたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のベルト取付治具。
【請求項9】
プーリ軸方向での外方へのベルトの外れを規制する外れ止めが設けられたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のベルト取付治具。
【請求項1】
周方向に伸長可能なベルトを外周面にプーリ溝を有するプーリに取り付けるためのベルト取付治具であって、
少なくとも前記ベルトがプーリ溝に嵌るまで当該ベルト取付治具を前記プーリに固定するための固定手段と、前記ベルトの一部を受けてプーリフランジの近傍かつプーリ軸方向外側に保持する保持面とを備え、
前記保持面は、プーリフランジの外周面と面一に設定され、プーリを回転させたときに、ベルト幅方向に曲がったベルトがその復元力によってプーリ溝に嵌るまで、前記ベルトの一部を保持することを特徴とするベルト取付治具。
【請求項2】
前記保持面は、プーリフランジの外周面と等しい曲率の曲面に設定されたことを特徴とする請求項1に記載のベルト取付治具。
【請求項3】
前記保持面に連続して、前記プーリ溝にベルトを滑り込ませる傾斜面が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト取付治具。
【請求項4】
前記固定手段は、プーリの一部を挟んでプーリに着く挟着部とされ、該挟着部は、プーリの一部を緩やかに挟み、前記保持面の受けるベルト反力によって傾くことにより、プーリの一部を強固に挟む大きさに設定されたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のベルト取付治具。
【請求項5】
前記プーリの側面に凹部が形成され、前記挟着部は、前記プーリを前記凹部の内周側とプーリ溝の外周側とから挟むことを特徴とする請求項4に記載のベルト取付治具。
【請求項6】
前記挟着部は、プーリ溝に外周側から対向する面をプーリ溝の外周面と等しい曲率の曲面に設定されたことを特徴とする請求項5に記載のベルト取付治具。
【請求項7】
前記挟着部は、プーリフランジをプーリ軸方向に挟むことを特徴とする請求項4に記載のベルト取付治具。
【請求項8】
前記固定手段は、プーリのセンターボルトに取り付けられるナットとされたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のベルト取付治具。
【請求項9】
プーリ軸方向での外方へのベルトの外れを規制する外れ止めが設けられたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のベルト取付治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−300172(P2006−300172A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121085(P2005−121085)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】
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