説明

ベルト用撚りコードの製造方法

【課題】径のばらつきをより小さくすることができるベルト用撚りコードの製造方法を提供する。
【解決手段】原糸にレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液で接着処理を施す。この接着処理を施した原糸を所要本数集めて下撚り係数2.0〜6.0の条件で下撚りして下撚りコードを作製する。次にこの下撚りコードを所要本数集めて上撚り係数5.0〜8.0の条件で上撚りして上撚りコードを作製する。この後、この上撚りコードに100N以上の張力をかけながら熱処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトなどベルトの心線として使用されるベルト用撚りコードの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Vベルト、歯付ベルトなどの高負荷伝動ベルトには、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリケトン、ポリアリレート等の高モジュラス繊維からなる撚りコードが、心線として用いられている。
【0003】
ここで、撚りコードには、ゴムとの接着性を高めるために、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液で接着処理が施されている。そしてこの撚りコードを用いてベルトを製造するにあたっては、型の外周に未加硫ゴムシートを円筒状に巻き付け、この上に撚りコードを螺旋状に巻き付けた後に、未加硫ゴムシートを加硫して円筒状の加硫スリーブを作製し、この加硫スリーブを輪切りするように切断することによって行なうのが一般的である。
【0004】
このように撚りコードを螺旋状に巻き付ける際に、撚りコードの径のばらつきが大きいと、撚りコードの上に撚りコードが乗り上げたり、撚りコードの間に隙間が生じる目飛びが発生したりするおそれがある。撚りコードの径のばらつきによってこのような現象が生じると、撚りコードを巻き付ける作業の支障となるため安定したベルトの製造が困難になる上に、製造されたベルトの各種性能に悪影響を及ぼすことになる。
【0005】
そこで、撚りコードの径のばらつきを小さくするために、特許文献1では、撚りコードをRFL液にディップした後に、乾燥工程で乾燥して、撚りコードを接着処理するにあたって、RFL液にディップした撚りコードを乾燥工程へ案内するプーリに、底部が円弧面の溝を設け、撚りコードをこの溝に通過させることによって、撚りコードの真円度が保たれるようにしている。撚りコードがプーリを通過する際に扁平に変形されると、撚りコードの径にばらつきが生じるので、プーリに溝を設けて撚りコードの真円度が保たれるようにしているのである。
【特許文献1】特開2005−240225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように撚りコードを接着処理する際に、撚りコードの真円度が保たれるようにすることによって、撚りコードの径のばらつきを小さくすることが可能であるが、このように撚りコードの真円度を保つことだけでは、径のばらつきを小さくする効果を十分に得ることができない場合もあり、撚りコードの径のばらつきをより小さくすることが望まれているのが現状である。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、径のばらつきをより小さくすることができるベルト用撚りコードの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係るベルト用撚りコードの製造方法は、原糸にレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液で接着処理を施し、この接着処理を施した原糸を所要本数集めて下撚り係数2.0〜6.0の条件で下撚りして下撚りコードを作製し、次にこの下撚りコードを所要本数集めて上撚り係数5.0〜8.0の条件で上撚りして上撚りコードを作製し、この後、この上撚りコードに100N以上の張力をかけながら熱処理を施すことを特徴とするものである。
【0009】
また請求項2の発明は、請求項1において、原糸がアラミド繊維糸であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、下撚り係数2.0〜6.0の条件で下撚りし、また上撚り係数5.0〜8.0の条件で上撚りし、さらに100N以上の張力をかけながら熱処理を施すことによって、この熱処理でレゾルシン・ホルマリン・ラテックスが原糸に馴染み易くなり、撚りムラを低減して、撚りコードの径のばらつきをより小さくすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0012】
原糸としては、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリケトン、ポリアリレートなど、ベルト用心線として用いられる任意の繊維からなるものを使用することができる。これらの中でも、抗張力に優れたアラミド繊維からなる原糸が好ましいものであり、アラミド原糸としては、「Kevlar」(東レ・デュポン(株))、「Twaron」(帝人テクノプロダクツ(株))、「Technola」(帝人(株))等の商標で市販されているものを入手して使用することが可能である。原糸の繊度としては、特に限定されるものではないが、150〜350Tex程度のものが好ましい。
【0013】
そしてまず、原糸をレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液で接着処理する。このレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液は、レゾルシンとホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとを混合したものであり、レゾルシンとホルマリンの初期縮合物を、ゴムラテックスのゴム100質量部に対して樹脂分が5〜50質量部になるようにゴムラテックスと混合するものである。ゴムラテックスとしては、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体(VP)、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、クロロプレン(CR)、アクリロニトリルブタジエン共重合体(NBR)、水素添加NBR(H−NBR)、クロロスルホン化エチレン(CSM)、天然ゴムなどを用いることができ、これらは一種を単独で用いる他に、二種以上をブレンドして用いることもできる。
【0014】
原糸をRFL液で接着処理するにあたっては、原糸をRFL液に浸漬して、原糸にRFL液を含浸させた後、加熱して乾燥することによって行なうことができる。乾燥は200〜230℃程度の温度で、1〜5分間程度行なうのが好ましい。また原糸へのレゾルシン・ホルマリン・ラテックスの付着量は、特に限定されるものではないが、原糸に対して5〜25質量%程度の範囲が好ましい。
【0015】
上記のようにRFL理液で原糸を接着処理した後、この原糸を下撚りする。下撚りの際に撚り合わせる原糸の本数は特に限定されないが、通常、2〜3本程度である。そして本発明では、下撚りは、撚り係数が2.0〜6.0となるように撚り数と繊度が設定されるものである。ここで、撚り係数は、
撚り係数=((撚り数(回/m)×√(合計繊度(Tex)))/960
で定義されるものである。
【0016】
下撚りにおいて、撚り係数が2.0〜6.0の範囲を外れる場合、撚りコードの径のばらつきを小さくする効果を十分に得ることができない。
【0017】
次に、このように原糸を下撚りして得た下撚りコードを上撚りする。上撚りの際に撚り合わせる下撚りコードの本数は特に限定されないが、通常、3〜4本程度である。また上撚りの撚り方は、下撚りと上撚りを同方向に撚る片撚りであっても、下撚りに対して上撚りを逆方向に撚る諸撚りであっても、いずれでもよいが、諸撚り撚りコードにおいて径のばらつきが大きく発生する傾向があるので、諸撚りする場合に本発明を適用することによって、より高い効果を得ることができる。
【0018】
そして本発明では、上撚りは、撚り係数が5.0〜8.0となるように撚り数と繊度が設定されるものである。上撚りにおいて、撚り係数が5.0〜8.0の範囲を外れる場合、撚りコードの径のばらつきを小さくする効果を十分に得ることができない。
【0019】
上記のようにして下撚りコードを上撚りして上撚りコードを作製した後、上撚りコードを熱処理する。上撚りコードの熱処理は、100N以上の張力を掛けて、延伸しながら行なうものであり、温度や時間の条件については特に限定されるものではなく、160〜250℃程度の温度で、30秒〜10分間程度行なうのが好ましい。
【0020】
このように上撚りコードに100N以上の張力を掛けながら熱処理することによって、含浸されたRFL液の原糸に対する馴染みが良くなって、撚りムラを低減することができ、撚りムラによって生じる撚りコードの径のばらつきを、より小さくすることができるものである。熱処理の際の張力の上限は、特に限定されるものではない。ただ、150Nを超える張力を掛けても、撚りコードの径のばらつきを小さくする効果をさらに向上することはできず、また熱処理を行なう処理装置に過度の負荷がかかるおそれがあるため、150N程度が実用上の上限である。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0022】
(実施例1〜6、比較例1〜6)
RFL液として、表1の組成からなるものを用いた。
【0023】
【表1】

【0024】
そして、アラミド原糸(帝人テクノプロダクツ(株)製「Twaron」:繊度167Tex)をRFL液に浸漬した後に、200℃で1分間加熱することによって、アラミド原糸を接着処理した。このとき、アラミド原糸へのRFL液の固形分の付着量は15質量%であった。
【0025】
次に、この接着処理したアラミド原糸を、表2の本数、撚り係数で下撚りすることによって、下撚りコードを作製し、さらにこの下撚りコードを、表2の本数、撚り係数で上撚りすることによって、諸撚りした上撚りコードを作製した。
【0026】
この後に、この上撚りコードを、表2の張力を掛けながら、200℃で2分間、熱処理することによって、ベルト用撚りコードを得た。
【0027】
(比較例7)
上記と同じアラミド原糸をRFL液で処理しない状態で、表2の条件で、下撚り及び上撚りして、撚糸を作製した。次に、上記と同じ組成のRFL液にこの撚糸を浸漬し、200℃で1分間加熱することによって、撚糸を接着処理した。このとき、撚糸へのRFL液の固形分の付着量は9質量%であった。
【0028】
この後に、この撚糸を、表2の張力を掛けながら、200℃で2分間、熱処理することによって、ベルト用撚りコードを得た。
【0029】
上記のように実施例1〜6、比較例1〜7で得たベルト用撚りコードについて、非接触式の寸法/外径測定器((株)キーエンス製デジタル寸法測定器「LS−7000」)を用い、コード径を測定した。そしてn=130本のベルト用撚りコードについてコード径を測定し、その平均値と標準偏差を算出した。またベルト用撚りコードの強伸度(引張張力と切断時伸度)をJIS L1017に準拠して測定した。これらの結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2にみられるように、実施例1〜6のものはいずれも、撚りコードの径の標準偏差が0.017mm以下と非常に小さく、径のばらつきが極めて小さいものであった。
【0032】
一方、熱処理の際の張力が低い比較例1、下撚りや上撚りの際の撚り係数が小さすぎたり大きすぎたりする比較例2〜6、撚糸に対してRFL液による接着処理をするようにした比較例7では、いずれも撚りコードの径の標準偏差は0.02mmを超えるものであり、径にばらつきが生じるものであった。
【0033】
また、撚りコードの強伸度については、合計繊度が半分の実施例4を除き、各実施例及び比較例のいずれもほぼ同等であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原糸にレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液で接着処理を施し、この接着処理を施した原糸を所要本数集めて下撚り係数2.0〜6.0の条件で下撚りして下撚りコードを作製し、次にこの下撚りコードを所要本数集めて上撚り係数5.0〜8.0の条件で上撚りして上撚りコードを作製し、この後、この上撚りコードに100N以上の張力をかけながら熱処理を施すことを特徴とするベルト用撚りコードの製造方法。
【請求項2】
原糸がアラミド繊維糸であることを特徴とする請求項1に記載のベルト用撚りコードの製造方法。

【公開番号】特開2009−79337(P2009−79337A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251442(P2007−251442)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】