説明

ベローズおよびその製造方法

【課題】より均一な厚さの導電性被覆層を備え十分良好な特性(機械的特性,電気的特性)を有するベローズが得られるようにする。
【解決手段】ベローズ1の基体2の外周面側と内周面側とのうち少なくとも何れか一方に形成される導電性被覆層2a,2bにおいて、拡散接合によって形成する。拡散接合においては、平板状の基体2の少なくとも一端面側に対し平板状の導電性被覆層2a,2bを積層して、それら基体2と導電性被覆層2a,2bとを拡散接合する。そして、拡散接合された積層体を絞り加工によって筒状体に成形した後、その筒状体の側壁を蛇腹状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベローズおよびその製造方法に関するものであって、例えば真空容器を備えた真空コンデンサ,真空スイッチ,真空リレー,真空インタラプタ等に係るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば真空コンデンサに適用されているベローズ(側壁が蛇腹状の基体から成るベローズ)においては、真空コンデンサの真空容器内の可動導体と当該真空容器の一端側(金属部材)との間において通電路の役割を果たす共に、真空容器内を真空室と大気室とに区分し当該真空室を気密に保持するために設けられるものである。このベローズを複数個(例えば、ステンレスベローズと銅ベローズ)用い、真空容器内において互いに間隔を隔てて平行に配置して適用する手法(例えば特許文献1)も知られているが、昨今の省スペース化,小型化等の市場要求を鑑みると、良好な特性(機械的特性,電気的特性等)のベローズを単体で適用することが望ましい。
【0003】
ベローズの特性を高める手法として、蛇腹状基体(ステンレス鋼等)の表面に対しメッキ処理(銅メッキ処理等)により導電性被覆層を形成して電気的特性を高める手法が知られている。ステンレス鋼から成る基体に銅等をメッキする場合は、前処理工程としてニッケルメッキによる表面処理(中間メッキ処理)が施される。また、ベリリウム銅から成る蛇腹状基体を適用しロー付け部位に対して銅メッキ処理またはニッケルメッキ処理を施す手法(例えば特許文献2)も知られている。
【0004】
しかし、蛇腹状基体に対するメッキ処理は、専門性の高い特殊工程を要し委託先も少なく入手困難であり、製造歩留まりも低く現状では生産性が高くない手法となっている。また、ニッケル自体は磁性体材料であり、真空コンデンサ用途や高周波通電用途においては、通電時に発熱源の一部として作用するため、製品特性に影響を及ぼす恐れがあった。さらに、ベリリウム銅は、ステンレス系材料(SUS304L等)と比較して寿命特性(熱負荷下における連続的伸縮による金属疲労破断特性)が劣るとされている。
【0005】
高周波特性や高導電率特性の向上を目的とした銅や銀などの電解メッキ処理の場合、そのメッキ厚さ(導電性被覆層厚さ)が不均一になり易く、そのメッキ厚さが大きくなるに連れて当該メッキ厚さの均一性が悪化する傾向がある(メッキ厚さと均一性とが反比例の関係)。この結果、ベローズ全体の総厚みや機械強度分布においてバラツキが生じ、例えば真空コンデンサのようにベローズが繰り返し伸縮するような用途の場合には、金属疲労破断が起こり易くなる恐れがある。さらにまた、通電断面積が不均一(通電断面積が増減)となるため、通電時の発熱量が増大する恐れもある。
【0006】
このようなことから、ベローズに対して導電性被覆層を形成し易くすると共に、その導電性被覆層厚さを可能な限り均一にする検討が行われている。例えば円筒状基体(蛇腹状のベローズに成形する前の基体)に対し電気メッキ処理、あるいは当該基体外周側を覆うように極めて薄い被覆管(肉厚100〜200μm程度)を嵌め込む等により導電性被覆層を形成した後、所望形状に成形してベローズを得る手法(例えば特許文献3)が検討されている。
【0007】
しかしながら、たとえ電気メッキ後に成形する手法であっても、少なからず導電性被覆層厚さが不均一(平均±10%の偏差)となる。また、単に被覆管を嵌め込む等の手法では、例えば所望形状に成形する際に基体と導電性被覆層との間において歪の差が生じてしまい、破断するなど機械的強度の観点から極めて困難な製造工程となるため、実現性が低い。
【0008】
なお、真空コンデンサのベローズとは異なる技術分野であるが、給電ロールに関して、円筒状基体に対しシート状部材を巻き付け、そのシート状部材の端縁同士を溶接して仮付けし、それら基体とシート状部材を拡散接合するという技術が知られている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−78729号公報
【特許文献2】特許第3264006号公報
【特許文献3】特開2010−245552号公報
【特許文献4】特開2010−53415号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明者は、前述のように円筒状基体に導電性被覆層を形成してから所望形状に成形する手法とは異なる手法を見出し、より均一な厚さの導電性被覆層を備え十分良好な特性(機械的特性,電気的特性)を有するベローズが得られるようにすることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記の課題を解決すべく創作された技術的思想であり、具体的に、この発明によるベローズの製造方法の一態様は、平板状の基体の少なくとも一端面側に対し平板状の導電性被覆層を積層して、それら基体と導電性被覆層とを拡散接合し、その拡散接合された積層体を絞り加工によって筒状体に成形した後、その筒状体の側壁を蛇腹状に成形することを特徴とする。前記基体は、非磁性ステンレス材料から成るものでも良く、前記導電性被覆層は、銅,銀,金のうち少なくとも一つ以上を含んだ導電性材料から成るものでも良い。
【0012】
この発明によるベローズの製造方法の他の態様においては、真空容器内を真空室と大気室とに区分し当該真空室を気密に保持するベローズの製造方法であって、外周面側と内周面側とに対し導電性被覆層が拡散接合された筒状の基体を蛇腹状に成形することを特徴とする。
【0013】
また、この発明によるベローズの一態様においては、真空容器内を真空室と大気室とに区分し当該真空室を気密に保持するベローズであり、導電性被覆層がベローズの基体に対し拡散接合されていることを特徴とし、前記の方法のうち何れかにより製造されたものであっても良い。
【0014】
真空容器に適用されるベローズの技術分野においては、従来のように円筒状基体に対して中間メッキ処理を施したり被覆管を嵌め込んで導電性被覆層を形成する手法等は知られているものの、基体に対し導電性被覆層を拡散接合により形成したのち、それら基体と導電性被覆層との積層体を絞り加工して所望形状に成形するという技術的思想は無かった。
【発明の効果】
【0015】
以上、この発明に係るベローズおよびその製造方法によれば、ベローズの基体に対しより均一な厚さの導電性被覆層を備えたベローズが得られ、そのベローズにおいて十分良好な特性(電気的特性,機械的特性)を持たせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のベローズの一例を示す概略説明図。
【図2】本実施形態のベローズに適用する積層体の一例を示す概略説明図。
【図3】本実施形態のベローズを適用した真空コンデンサの一例を示す概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係るベローズおよびその製造方法においては、基体と導電性被覆層とが拡散接合によって積層されるものである。このようなベローズを得る方法としては、従来のように中間メッキ処理を施したり円筒状基体に導電性被覆層を形成してから所望形状に成形するのではなく、比較的容易な方法、例えば平板状基体の少なくとも一端面側に導電性被覆層を積層して、それら基体と導電性被覆層とを拡散接合した後、その積層体を絞り加工して筒状体(例えば円筒体)に成形し、その筒状体の側壁を蛇腹状に成形することが挙げられる。
【0018】
本実施形態のようにベローズの基体に対し導電性被覆層が拡散接合によって積層された場合、例えば円筒状基体に対しメッキ処理等を施して導電性被覆層を形成する場合と比較して、当該導電性被覆層の厚さがより均一(偏差が殆ど無い、少なくとも平均±1%以下)なものとなる。
【0019】
ここで、ベローズにおいて特許文献4を適用できたものと仮定した場合、当該特許文献4の技術ではシート状部材を筒状体に巻き付け端縁同士を溶接した状態で拡散接合する方法であるため、導電性被覆層はベローズの外周方向において繋ぎ目が残存してしまう。この繋ぎ目により、導電性被覆層の厚さが不均一になり(繋ぎ目の厚さが当該繋ぎ目以外の部位と比較して異なる)、その繋ぎ目の抵抗率に起因して電気的特性が低下してしまう。また、筒状内周側の端縁部溶接は、小径(例えばΦ50以下)の場合は困難である。なお、特許文献4は給電ロールに関するものであり、繋ぎ目による影響(真空容器内に適用した場合の影響)は何ら想定していないものと考えられる。
【0020】
一方、本実施形態のように拡散接合された積層体を絞り加工した場合には、前記のような繋ぎ目が残存することなく、均一な厚さの導電性被覆層を備えたベローズを得ることが可能となる。
【0021】
本実施形態に係るベローズおよびその製造方法においては、前述のように基体と導電性被覆層とが拡散接合された積層体を絞り加工して所望形状に成形できるものであれば良く、目的とするベローズに応じて技術常識を適宜適用した種々の形態のものが考えられる。
【0022】
<基体>
例えば、基体は、一般的な真空コンデンサ等のベローズに適用されているもののうち絞り加工できるものを利用でき、具体例としては非磁性ステンレス材料(SUS304,SUS316,各種SS材等)から成るものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
<導電性被覆層>
導電性被覆層は、前記の基体に対して拡散接合できるものであれば、種々の導電性材料を適用することができ、例えば高導電率である銅,銀,金等を含んだ導電性材料が挙げられるが、基体が耐腐食性の低い材料から成る場合には、耐腐食性を有する導電性材料を適用することが好ましい。また、導電性被覆層の厚さは、例えば当該導電性被覆層に通電され得る周波数を想定して適宜設定することが挙げられ、近年の市場で存在している周波数100MHz,60MHz,13MHzの真空コンデンサ製品の場合には、それぞれ導電性被覆層の厚さを7μm以上,9μm以上,18μm以上に設定することが考えられる。なお、比較的低周波の設備への適用を想定すると、導電性被覆層を更に厚く設定(数MHz〜数百kHzレベルに対し数十μm〜数百μmレベルに設定)、例えば周波数1MHz,100kHzに対し70μm,210μmに設定することが考えられる。
【0024】
<拡散接合>
拡散接合は、前記の基体と導電性被覆層とを互いに密着させて両者を原子拡散により接合する方法であれば良い、例えば平板状基体の一端面側に導電性材料を被覆して導電性被覆層を形成し、その積層体を平板状基体と導電性被覆層との界面方向に加圧しながら、基体の融点以下の温度で加熱処理して接合する方法が挙げられる。なお、基体の一端面側のみに導電性被覆層を形成した場合、その両者における熱膨張率の差(異なる材質であることに起因する差)、すなわちベローズの内周側と外周側とに熱膨張率の差が生じ、その差が大きい場合には反りが生じる可能性がある。そのため、例えば図1に示すように、基体2の内周側および外周側に対しそれぞれ同種の導電性被覆層2a,2bを備えたベローズ1を構成し、前記熱膨張率の差に起因する反り現象を抑制することが好ましい。なお、前記の導電性被覆層2a,2bは、単層構造に限定されるものではなく、それぞれ多層構造であっても良い。
【0025】
<成形>
前記の基体と導電性被覆層とから成る積層体を絞り加工して筒状体を得た後、その筒状体の側壁を蛇腹状に成形できる方法であれば、種々の方法が適用できる。例えば、図2に示すように、平板状基体2の両端面にそれぞれ導電性被覆層2a,2bを形成して積層体1aを得て、その積層体を絞り加工して円筒体を形成する。この円筒体の側壁を蛇腹状に成形(伸縮自在に成形)することにより、図1に示すようなベローズが得られる。
【0026】
<適用例>
前記のようなベローズは、例えば図3中の符号1で示すように、真空容器10内に固定電極4と可動電極5を配置した真空コンデンサ30に適用され、真空容器10内を真空室10aと大気室10bとに区分し当該真空室10aを気密に保持して伸縮自在に設けられる。
【0027】
図3において、真空容器10は、絶縁筒体3aの各開口端側に対しそれぞれ絶縁性材料から成る封止部材3aa,3abを設け封止して成る。固定電極4は、径が異なる複数の略円筒状の電極部材4aを略同心円状に配置(例えば、略一定間隔を隔てて配置)して構成され、前記各封止部材のうち一方(図3では封止部材3aa)における真空容器10内周側に設けられる。可動電極5は、固定電極4と同様に径が異なる複数の略円筒状の電極部材5aを略同心円状に配置(例えば、略一定間隔を隔てて配置)して構成され、それら各電極部材5aが固定電極4と非接触状態で該固定電極4に挿出入(電極部材4a間に挿出入して互い違いに交叉)できるように真空室10a内側に配置される。この可動電極5は、真空容器10の軸方向に可動(固定電極4に対する挿出入の程度を調整できるように可動)する可動電極軸6によって支持される。
【0028】
前記可動電極軸6は、可動電極5を支持するための支持部材6aと、その支持部材6aの背面側から封止部材3abを突出するように延設された可動ロッド6bとから成る。符号7は、スラストベアリング等から成る支持体(図示省略)を介し真空容器10に対して回動自在に支持されモータ等の駆動源により回転運動する静電容量操作部を示すものであり、可動ロッド6bにおける封止端部3abから突出した端部に対し螺合(例えば、静電容量操作部に形成された雌螺子部が、可動ロッド6bの一端側に形成された雄螺子部に螺合)して接続される。符号8は、絶縁性のガイドを示すものであり、可動電極5と固定電極4とが互いに接触しないように当該可動電極5を案内するものである。
【0029】
ベローズ1においては、真空容器10内を真空室10aと大気室10bとに区分し当該真空室10aを気密に保持するように、一端側の縁が封止部材3abの内壁側に接合され、他端側の縁は支持部材6aに接合される。このベローズ1の接合においては、例えば真空ロー付けが挙げられる。
【0030】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。例えば、ベローズの適用例として真空コンデンサを挙げたが、真空容器を備えた真空スイッチ,真空リレー,真空インタラプタ等にも適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1…ベローズ
1a…積層体
2…基体
2a,2b…導電性被覆層
10…真空容器
30…真空コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の基体の少なくとも一端面側に対し平板状の導電性被覆層を積層して、それら基体と導電性被覆層とを拡散接合し、その拡散接合された積層体を絞り加工によって筒状体に成形した後、その筒状体の側壁を蛇腹状に成形することを特徴とするベローズの製造方法。
【請求項2】
前記基体は、非磁性ステンレス材料から成ることを特徴とする請求項1記載のベローズの製造方法。
【請求項3】
前記導電性被覆層は、銅,銀,金のうち少なくとも一つ以上を含んだ導電性材料から成ることを特徴とする請求項1または2記載のベローズの製造方法。
【請求項4】
真空容器内を真空室と大気室とに区分し当該真空室を気密に保持するベローズの製造方法であって、
外周面側と内周面側とに対し導電性被覆層が拡散接合された筒状の基体を蛇腹状に成形することを特徴とするベローズの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうち何れかの方法により製造されたことを特徴とするベローズ。
【請求項6】
真空容器内を真空室と大気室とに区分し当該真空室を気密に保持するベローズであって、
導電性被覆層がベローズの基体に対し拡散接合されていることを特徴とする真空容器用ベローズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−241766(P2012−241766A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111051(P2011−111051)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】