説明

ベンゾジチオフェン系化合物、該化合物を含有する組成物および有機電界発光素子

【課題】アモルファス性、溶剤への溶解性が高く、湿式成膜法で形成される有機層に用いても、得られる有機電界発光素子が高い性能を保つことができる化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるベンゾジチオフェン系化合物。


(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。但し、RとR、RとRおよびRとRが、いずれも同一であることはない。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子の発光層等に用いられる新規ベンゾジチオフェン系化合物と、この化合物を含有する組成物と、この化合物を含む有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光素子としては、無機材料を使用したものに代わり、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行われるようになっている。有機電界発光素子は、通常、陽極と陰極との間に、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層などを有し、この各層に適した赤、緑、青などの発光素子の開発が進んでいる。しかしながら、中でも青色の発光素子は、効率、寿命、耐熱性の観点で満足できるものではなく、フルカラーディスプレイ用途への適用は限定的であるという課題があった。
【0003】
また、有機電界発光素子の各層の形成方法としては、蒸着成膜法や湿式成膜法がある。蒸着成膜法では、テレビやモニタ用の中・大型フルカラーパネルなどを製作する場合、歩留まりの観点で課題を有する。そのため、中でもこれら大面積の用途には湿式成膜法が好適である。
【0004】
しかしながら、湿式成膜法で有機電界発光素子の各層を形成するためには、各層を形成する材料が溶剤に溶解し、かつ湿式成膜後にも素子として高い性能を有することが望まれていた。しかし、従来開発されている蒸着成膜法に使用されてきた材料であっても、湿式成膜法には適さないものが多かった(特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、特許文献1には、蒸着成膜法による有機電界発光素子の発光層材料として、本発明に係る式(1)において、RとRが水素原子で、R〜Rが、水素原子、アルキル基またはアリール基のいずれかであり、このうち、RとRとが同一のものであり、また、RとRとが同一のものであることにより、線対称の分子構造を有するベンゾジチオフェン系化合物が提案されているが、この化合物は、後述の比較例1,2に示すように、その対称な分子構造のために溶剤に対する溶解性が悪いことから湿式成膜には適さず、また、アモルファス性も低く、湿式成膜後にも素子として高い性能を有するとは言えなかった。
【特許文献1】特開2007−145833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、アモルファス性が高く、また、溶剤への溶解性が高い等の湿式成膜に適した化合物を提供することを課題とする。また、湿式成膜法で形成される有機層に用いても、得られる有機電界発光素子が高い性能を保つことができる化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、ある特定の化合物を用いることにより上記課題が解決できることが分かり、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表されることを特徴とするベンゾジチオフェン系化合物、に存する。
【化2】

【0009】
(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。但し、RとR、RとRおよびRとRが、いずれも同一であることはない。)
【0010】
本発明は、また、該ベンゾジチオフェン系化合物および溶剤を含有することを特徴とする組成物、並びに、陽極および陰極と、該陽極と該陰極との間に設けられた有機層とを有する有機電界発光素子において、該有機層に該ベンゾジチオフェン系化合物を含有することを特徴とする有機電界発光素子、に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、アモルファス性が高く、溶剤への溶解性が高かったり、固体状態と溶液状態との発光スペクトルの差が小さいなど湿式成膜に適した化合物である。また、本発明のベンゾジチオフェン系化合物を用いた有機層を有する有機電界発光素子は、該有機層の形成方法が蒸着法のみならず、湿式成膜法であっても、発光効率、発光輝度、寿命などの点において高い性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0013】
[ベンゾジチオフェン系化合物]
本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、下記式(1)で表されることを特徴とする。
【0014】
【化3】

【0015】
(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。但し、RとR、RとRおよびRとRが、いずれも同一であることはない。)
【0016】
ここで、RとR、RとRおよびRとRが、いずれも同一であることはないとは、以下の(a)〜(c)を全て満たすことがないことを意味する。
(a)RとRとが同一である
(b)RとRとが同一である
(c)RとRとが同一である
【0017】
すなわち、RとRとが同一で、またRとRとが同一であっても、RとRとが異なるものであれば本発明の条件を満たす。RとR、RとR、RとR、の3つの組み合わせのうち、少なくともいずれか1組が、互いに異なるものであればよい。
また、ここで、「異なる」とは、例えばRとRとを例にとるならば、Rが水素原子であって、Rが置換基である場合;RとRの両方が置換基であるが置換基の種類が異なる場合;などが挙げられる。例えば、置換基が、「メチル基が置換したフェニル基」の場合、当該フェニル基に対するメチル基の置換位置が異なるもの同士も、置換基の種類が異なるものとして含める。
【0018】
{構造上の特徴}
上記式(1)で表されるベンゾジチオフェン系化合物(以下、本発明のベンゾジチオフェン系化合物という場合がある)は、このようにRとR、RとRおよびRとRが、いずれも同一ではないことにより、分子が非対称構造となり、アモルファス性を帯びるため、溶剤に対する溶解性が良好であると推察される。
【0019】
また、本発明のベンゾジチオフェン系化合物を、湿式成膜法で形成する有機電界発光素子の有機層に用いると、アモルファス性が高いことから、駆動中に分子が結晶化してダークスポット(光らない点)を形成するというような劣化を起こしにくく、寿命の長い有機電界発光素子が得られる。
【0020】
{置換基}
〜Rが置換基である場合の具体例としては、以下の置換基群Qに記載の基が挙げられるが、これらのうち、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、または、該置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基および置換基を有していてもよい芳香族複素環基を2環以上連結してなる基が好ましい。中でも、ベンゼン環またはナフタレン環等の由来の基、またはこれらが2環以上連結してなる基が特に好ましい。
【0021】
<置換基群Q>
置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1以上8以下の直鎖または分岐のアルキル基であって、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、オクチル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは、炭素数2以上8以下のアルケニル基であって、例えば、ビニル基、1−ブテニル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルキニル基(好ましくは、炭素数2以上8以下のアルキニル基であって、例えば、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアラルキル基(好ましくは、炭素数6以上10以下のアラルキル基であって、例えば、ベンジル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1以上8以下のアルコキシ基であって、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアミノ基(好ましくは、置換基に炭素数1以上8以下のアルキル基(このアルキル基は更に置換基を有していてもよい)を1つ以上有するアミノ基であって、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアリールアミノ基(例えば、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいヘテロアリールアミノ基(例えば、ピリジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいシクロアルキル基(例えば、アダマンチル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくは、芳香族炭化水素基や芳香族複素環基を有するアリールオキシ基であって、例えば、フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアシル基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1以上8以下のアシル基であって、例えば、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数2以上13以下のアルコキシカルボニル基であって、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数6以上13以下のアリールオキシカルボニル基である。)、
カルボキシ基、
シアノ基、
水酸基、
チオール基、
置換基を有していてもよいアルキルチオ基(好ましくは、炭素数1以上8以下のアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくは、炭素数1以上10以下のアリールチオ基であり、例えば、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいスルホニル基(例えば、メシル基、トシル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいボリル基(例えば、ジメシチルボリル基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよいホスフィノ基(例えば、ジフェニルホスフィノ基等が挙げられる。)、
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等由来の芳香族炭化水素基が挙げられる。)、
置換基を有していてもよい芳香族複素環基(例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等由来の芳香族炭化水素基が挙げられる。)、
該置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基および置換基を有していてもよい芳香族複素環基を2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基、ターフェニル基が挙げられる。)。
【0022】
なお、上記の置換基群Qの基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アリールアミノ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基等が挙げられ、その具体例は、上記置換基群Qに記載のものが挙げられる。
【0023】
{分子量}
前記式(1)で表される本発明のベンゾジチオフェン系化合物の分子量は、通常2000以下、好ましくは1500以下である。分子量がこの上限を超えると、不純物の高分子量化によって精製が困難となる場合がある。
【0024】
{溶剤溶解性}
前記式(1)で表される本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、溶剤溶解性に優れ、例えば、トルエンに対して25℃で0.9重量%以上の溶解度であることが好ましい。
【0025】
{好適構造}
前記式(1)で表される本発明のベンゾジチオフェン系化合物の中でも、RとRとが異なる化合物であるものが、有機溶剤への溶解性が向上し、また、結晶性が低下し、形成された薄膜中での結晶化が起きにくいという点で好ましい。中でも、下記式(1−1)で表される化合物であることが好ましい。
【0026】
【化4】

【0027】
(式(1−1)中、R12〜R15は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。但し、R12とR15が、同一であることはない。)
【0028】
12〜R15が置換基である場合の該置換基の具体例、好ましい例としては、上記式(1)におけるR〜Rが置換基である場合と同様である。
【0029】
式(1−1)で表される化合物において、R12〜R15は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基であることが好ましく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることがより好ましく、特に、置換基を有していてもよいベンゼン環由来の基、またはベンゼン環が、好ましくは2〜5環、さらに好ましくは2〜3環縮合してなる芳香族炭化水素基が好ましい。
【0030】
式(1−1)で表される化合物において、R12とR15は異なるものであるが、R13とR14は同一のものであることが好ましく、特に、R13とR14が、いずれも、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましく、特に置換基を有していてもよいベンゼン環由来の基(フェニル基)であることがより好ましい。
【0031】
また、上記式(1)で表される本発明のベンゾジチオフェン系化合物の中でも、Rが置換基である化合物は、Rが置換基でない化合物に対して、溶液状態で測定した発光スペクトルと固体状態で測定した発光スペクトルの差が小さく、すなわち固体状態においても希薄溶液中と同様に均一に分散し、会合等による色純度の低下および発光効率の低下を防止できる材料であることから、有機電界発光素子に用いる材料として特に有用である。中でも、式(1−2)で表される化合物が該効果が得られることから好ましい。
【0032】
【化5】

【0033】
(式(1−2)中、R21は置換基を表す。R22〜R25は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)
【0034】
21およびR22〜R25が置換基である場合の該置換基の具体例、好ましい例としては、上記式(1)におけるR〜Rが置換基である場合と同様である。
【0035】
式(1−2)で表される化合物において、R21〜R25は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基であることが好ましく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることがより好ましい。
【0036】
式(1−2)で表される化合物において、R21は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましく、特に置換基を有していてもよいベンゼン環由来の基(フェニル基)であることがより好ましい。
また、R22〜R25は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましく、特に置換基を有していてもよいベンゼン環由来の基(フェニル基)であることがより好ましい。
【0037】
{具体例}
以下に本発明のベンゾジチオフェン系化合物の具体例を挙げるが、本発明のベンゾジチオフェン系化合物は以下の化合物1〜107に限定されるものではない。
【0038】
【表1A】

【0039】
【表1B】

【0040】
【表1C】

【0041】
【表1D】

【0042】
{合成方法}
本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、例えば以下の方法により合成することができる。
【0043】
まず、特開2007−145833号公報等に記載の方法にてベンゾジチオフェン誘導体を合成する。
【0044】
【化6】

【0045】
その後、鈴木カップリングなどのアリール−アリール結合反応およびハロゲン化反応を繰り返すことにより多様な誘導体へと導いて、本発明のベンゾジチオフェン系化合物を得ることができる。
【0046】
【化7】

【0047】
各段階での生成物は昇華精製法、蒸留法、カラムクロマトグラフィー法、結晶化法、他の精製方法により精製することができる。
【0048】
{用途}
本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、単独で用いることもできるが、各種溶剤に対する溶解性が良好であることからも、本発明のベンゾジチオフェン系化合物および溶剤を含有する組成物、すなわち、本発明のベンゾジチオフェン系化合物を溶剤に溶解または分散させた組成物(以下、本発明の組成物という場合がある)として用いることも好ましい。
【0049】
本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、発光材料として用いられることが好ましいが、正孔輸送材料等の電荷輸送材料として用いてもよい。特に有機電界発光素子の発光層または正孔輸送層の材料として用いることが好ましく、発光層の材料として用いることがより好ましく、とりわけ発光層の発光材料として用いることが好ましい。また、本発明のベンゾジチオフェン系化合物と他の材料とを組み合わせて、白色照明等の白色有機電界発光素子の発光層に用いてもよい。
【0050】
本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、特に溶剤を含む本発明の組成物として湿式成膜法による発光層の形成に用いられることが好ましい。
ただし、本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、真空蒸着法による発光層の形成にも有効に用いることができる。
【0051】
[組成物]
本発明の組成物は、本発明のベンゾジチオフェン系化合物と溶剤とを含むものである。
【0052】
本発明の組成物は、本発明のベンゾジチオフェン系化合物を1種のみ含有していてもよいし、また2種以上を含有していてもよい。本発明のベンゾジチオフェン系化合物は、該組成物を100重量部とすると、通常1重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下、本発明の組成物中に含有される。本発明の組成物中の本発明のベンゾジチオフェン系化合物の含有量がこの範囲を上回ると、この組成物を用いて形成された有機電界発光素子の発光効率の低下、駆動寿命の低下、発光スペクトルのブロード化等が生じる可能性がある。また、この範囲を下回ると、この組成物を用いて形成された有機電界発光素子の発光寿命の低下、駆動寿命の低下、駆動電圧の上昇が生じる可能性がある。
【0053】
また、本発明の組成物に含まれる溶剤としては、溶質であるベンゾジチオフェン系化合物が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されないが、好ましい溶剤としては、例えば、
n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;
トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;
クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;
1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;
酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類;
シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;
シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;
メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;
ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;
エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;
等が挙げられる。
【0054】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0055】
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、用いる溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0056】
また、本発明の組成物は、本発明のベンゾジチオフェン系化合物および溶剤以外にも他の化合物を含んでいてもよい。例えば、該組成物を有機電界発光素子の有機層の形成に用いる場合には、形成する層に合わせた他の材料を含有していることが好ましく、各層に用いられる電荷輸送材料等を含有することがより好ましい。
【0057】
本発明のベンゾジチオフェン系化合物を発光層の発光材料として用いる場合には、本発明のベンゾジチオフェン系化合物をドーパント材料として、他の化合物からなるホスト材料と組み合わせてもよいし、本発明のベンゾジチオフェン系化合物をホスト材料として、他の化合物からなるドーパント材料(発光材料)と組み合わせてもよい。もちろん、本発明のベンゾジチオフェン系化合物を単独で、発光層の発光材料として用いてもよい。
【0058】
他の化合物からなる発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
【0059】
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
【0060】
以下、発光材料のうち蛍光発光材料の例を挙げるが、蛍光発光材料は以下の例示物に限定されるものではない。
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、クリセン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0061】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0062】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0063】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0064】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0065】
また、他の化合物からなるホスト材料としては、例えば、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、フルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピリジン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0066】
具体例としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72−74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)等の芳香族アミン誘導体、2,2',7,7'−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9'−スピロビフルオレン等のフルオレン誘導体(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209)等が挙げられる。また、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)等のオキサジアゾール誘導体、2,5−ビス(6'−(2',2"−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のピリジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)等のフェナントロリン誘導体、4,4'−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体等が挙げられる。
【0067】
また、本発明の組成物には、必要に応じて、前掲の溶剤の他に、別の溶剤が含有されていてもよい。そのような溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。また、成膜性の向上を目的として、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤が含有されていてもよい。
【0068】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、陽極および陰極と、該陽極と該陰極との間に設けられた有機層とを有する有機電界発光素子において、該有機層に本発明のベンゾジチオフェン系化合物を含有することを特徴とする。
【0069】
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図7を参照して説明する。
図7は本発明にかかる有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図7において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
尚、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、有機電界発光素子に用いられる塗布用組成物特有の液性に合うためである。
【0070】
{基板}
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0071】
{陽極}
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0072】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0073】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
【0074】
{正孔注入層}
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
【0075】
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0076】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0077】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0078】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0079】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのものおよび芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
【0080】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種または2種以上とを併用することが好ましい。
【0081】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0082】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0083】
【化8】

【0084】
(式(I)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0085】
【化9】

(上記各式中、Ar〜Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R31およびR32は、それぞれ独立して、水素原子または任意の置換基を表す。))
【0086】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0087】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。該置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
【0088】
31およびR32が任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0089】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
【0090】
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4-ethylenedioxythiophene(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0091】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0092】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0093】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4'−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0094】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0095】
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0096】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0097】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0098】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
【0099】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に湿式成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
【0100】
成膜後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。
【0101】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0102】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0103】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0104】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0105】
{正孔輸送層}
正孔輸送層4は、陽極2、正孔注入層3の順に注入された正孔を発光層5に注入する機能を有すると共に、発光層5から電子が陽極2側に注入されることによる発光効率の低下を抑制する機能を有する。
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0106】
正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0107】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0108】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体またはグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
【0109】
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、ArまたはArが異なっているものであってもよい。
【0110】
【化10】

【0111】
(式(II)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)
【0112】
ArおよびArの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環または2〜5縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0113】
ArおよびArの置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0114】
溶解性、耐熱性の点から、ArおよびArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、およびフルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニル基)が好ましい。
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)およびフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0115】
ArおよびArの芳香族炭化水素基および芳香族複素環基が置換基を有する場合、その置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0116】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
【0117】
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III-1)および/または下記式(III-2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【化11】

【0118】
(式(III-1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、またはカルボキシ基を表す。tおよびsは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。tまたはsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRまたはRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。)
【0119】
【化12】

【0120】
(式(III-2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、上記式(III-1)におけるR、R、RまたはRと同義である。rおよびuは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。rまたはuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRおよびRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。Xは、5員環または6員環を構成する原子または原子群を表す。)
【0121】
Xの具体例としては、酸素原子、置換基を有していてもよいホウ素原子、置換基を有していてもよい窒素原子、置換基を有していてもよいケイ素原子、置換基を有していてもよいリン原子、置換基を有していてもよいイオウ原子、置換基を有していてもよい炭素原子またはこれらが結合してなる基が挙げられる。
【0122】
また、ポリアリーレン誘導体としては、上記式(III-1)および/または上記式(III-2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III-3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0123】
【化13】

【0124】
(式(III-3)中、Ar〜Arは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。vおよびwは、それぞれ独立に0または1を表す。)
【0125】
Ar〜Arの具体例とては、前記式(II)における、ArおよびArと同様である。
【0126】
上記式(III-1)〜(III-3)の具体例およびポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0127】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は前記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0128】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0129】
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
【0130】
正孔輸送層4はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
【0131】
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は架橋性基の1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。
【0132】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。その正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。架橋性基を有する正孔輸送性化合物としては、これらの正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖または側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、上記式(II)や式(III-1)〜(III-3)に架橋性基が直接または連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0133】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解または分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
【0134】
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。
また、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
【0135】
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
【0136】
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上にのせたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0137】
光などの電磁エネルギー照射による架橋の場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0138】
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0139】
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0140】
{発光層}
正孔注入層3の上、または正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0141】
発光層5の発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0142】
本発明のベンゾジチオフェン系化合物を発光層の発光材料として用いる場合には、前述の如く、本発明のベンゾジチオフェン系化合物をドーパント材料として、他の化合物からなるホスト材料と組み合わせてもよいし、本発明のベンゾジチオフェン系化合物をホスト材料として、他の化合物からなるドーパント材料(発光材料)と組み合わせてもよい。もちろん、本発明のベンゾジチオフェン系化合物を単独で、発光層の発光材料として用いてもよい。他の化合物からなるホスト材料や発光材料は上述の通りである。
【0143】
発光層5における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0144】
発光層5におけるホスト材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上のホスト材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0145】
<発光層の形成>
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、上記材料を適切な溶剤に溶解させて発光層形成用組成物を調製し、それを用いて湿式成膜することにより形成する。
【0146】
発光層5を本発明に係る湿式成膜法で形成するための発光層形成用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、発光層の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。発光層用溶剤の好適な例は、上記正孔注入層形成用組成物で説明した溶剤と同様である。
【0147】
発光層5を形成するための発光層形成用組成物に対する発光層用溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。なお、発光層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0148】
また、発光層形成用組成物中の発光材料、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物等の固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0149】
発光層形成用組成物を湿式成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去することにより、発光層が形成される。具体的には、上記正孔注入層の形成において記載した方法と同様である。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。
【0150】
発光層5の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0151】
{正孔阻止層}
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0152】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0153】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0154】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0155】
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0156】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0157】
{電子輸送層}
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0158】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N'−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0159】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0160】
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0161】
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0162】
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0163】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0164】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0165】
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0166】
{陰極}
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8または発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0167】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネ
シウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0168】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0169】
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
【0170】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0171】
{その他の層}
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。例えば、図8に示すように、正孔注入層3および正孔阻止層6を省略してもよい。また、電子輸送層7および正孔阻止層6は必要に応じて、適宜設ければよく、1)電子輸送層のみ、2)正孔阻止層のみ、3)正孔阻止層/電子輸送層の積層、4)用いない等の用法がある。
【0172】
図7に示す構成層以外に有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
電子阻止層は、正孔注入層3または正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0173】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0174】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0175】
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0176】
さらに陰極9と発光層5または電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters,1997年,Vol.70,pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices,1997年,Vol.44,pp.1245;SID 04 Digest,pp.154等参照)。
【0177】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図7の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0178】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0179】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、その構成材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0180】
本発明の有機電界発光素子は、有機ELディスプレイに好適に使用される。本発明により得られる有機電界発光素子は、例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社,平成16年8月20日発行,時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で有機ELディスプレイを形成することができる。
【実施例】
【0181】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0182】
[合成例]
(a)2-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(2)の合成
【化14】

一口ナスフラスコに4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(1)(1.20g,3.45mmol)を乾燥CHCl(40mL)に溶かし、0℃に冷却した後にNBS(N-ブロモスクシンイミド)(0.68g,3.80mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、0℃で10分間、その後、室温にて12時間攪拌した。反応終了後、炭酸水素ナトリウム水溶液とチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離し、水層をCHClで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にヘキサンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、白色の固体として2-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(2)(1.26g,収率87%)を得た。
【0183】
m.p.:180-182℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.34(m,10H),7.55(d,J5.7,1H),7.68(d,J5.7,1H),7.77(s,1H)
13CNMR(CDCl3):δ116.5,124.7,127.7,128.3,129.9,130.7,132.4,138.4,140.8
Anal.Calcd. for C22H13BrS2:C=62.71,H=3.11
Found:C=62.56,H=3.12
【0184】
(b)2-ヨード-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(3)の合成
【化15】

【0185】
一口ナスフラスコに2-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(2)(1.0g,2.37mmol)とヨウ化カリウム(0.50g,3.08mmol)を酢酸(100ml)と蒸留水(10ml)に溶かし、アルゴン雰囲気下、110℃にて1時間還流を行った。その後、ヨウ素酸カリウム(0.66g,3.08mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、110℃にて17時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、水を加えて固体を沈澱させ、その固体を濾過にて分離した後、ベンゼンに溶かした。その溶液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離し、水層をベンゼンで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にヘキサンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、白色の固体として2-ヨード-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(3)(0.64g,収率49%)を得た。
【0186】
m.p.:252-254℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.30(m,10H),7.67(s,1H),7.85(s,1H)
13CNMR(CDCl3):δ97.1,116.5,124.2,124.8,127.7,128.3,129.9,130.1,130.5,130.6,
131.8,132.0,133.7,138.3,138.5,140.7,144.5,145.2
【0187】
(C)7-ブロモ-2,4,5-トリフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェンおよび2,4,5,7-テトラフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(6)(BDT-1)の合成
【化16】

【0188】
一口ナスフラスコにトルエン(10mL)と蒸留水(3mL)を入れ、炭酸ナトリウム(0.63g)を加えた後、アルゴン雰囲気下、90℃にて2時間溶液の脱気を行った。その後、室温まで冷却し、2-ヨード-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(3)(0.50g,0.91mmol)、フェニルボロン酸(0.12g,1.01mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(63mg,0.055mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、75℃で72時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。
【0189】
この有機層を分離した後、水層をトルエンで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にヘキサン:クロロホルム(5:1)を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色の固体として7-ブロモ-2,4,5-トリフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(5)(0.29g,収率63%)と、淡黄色の固体として2,4,5,7-テトラフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(6)(54mg,収率12%)を得た。
【0190】
<7-ブロモ-2,4,5-トリフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(5)>
m.p.:192-195℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.35(m,10H),7.37-7.43(m,3H),7.69-7.73(m,2H),7.76(s,1H),
7.87(s,1H)
13CNMR(CDCl3):δ116.0,117.3,125.0,126.3,127.5,127.6,128.2,128.3,129.0,130.0,
130.1,130.5,131.4,133.3,133.7,134.1,138.7,138.8,139.2,140.7,145.6
Anal.Calcd. for C28H17BrS2:C=67.60,H=3.44
Found:C=67.05,H=3.83
【0191】
<2,4,5,7-テトラフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(6)>
m.p.:288℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.45(m,16H),7.74(d,J=7.2,4H),8.02(s,2H)
13CNMR(CDCl3):δ118.0,125.4,126.6,127.2,127.5,128.2,129.1,130.5,133.2,
133.9,138.2,144.0
Anal.Calcd. for C34H22S2:C=82.55,H=4.48
Found:C=82.56,H=4.50
【0192】
(d)2-(2-ナフチル)-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェンおよび2,7-ジ(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(9)(BDT-2)の合成
【化17】

【0193】
一口ナスフラスコにトルエン(2mL)と蒸留水(1.5mL)を入れ、炭酸ナトリウム(0.32g)を加えた後、アルゴン雰囲気下、90℃にて2時間溶液の脱気を行った。その後、室温まで冷却し、2-ヨード-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(3)(0.10g,0.18mmol)、2-ナフチルボロン酸(32mg,0.18mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(10mg,0.009mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、75℃で16時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。この有機層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にヘキサン:クロロホルム(5:1)を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色の固体として2-(2-ナフチル)-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(8)(69mg,収率69%)と、黄色の固体として2,7-ジ(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(9)(7mg,収率7%)を得た。
【0194】
<2-(2-ナフチル)-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(8)>
m.p.:263-265℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.40(m,8H),7.48-7.52(m,2H),7.82-7.89(m,7H),8.02(s,1H),
8.15(s,1H)
13CNMR(CDCl3):δ116.1,117.7,124.1,125.0,125.2,126.4,126.7,127.5,127.6,127.7,
128.1,128.2,128.3,128.6,130.0,130.1,130.6,131.4,133.1,133.4,
133.5,133.8,138.8,138.9,139.3,140.7,145.6
Anal.Calcd. for C32H19BrS2:C=70.20,H=3.50
Found:C=69.97,H=3.67
【0195】
<2,7-ジ(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(9)>
1HNMR(CDCl3):δ7.27-7.41(m,12H),7.45-7.52(m,4H),7.80-7.94(m,8H),8.17(s,2H)
13CNMR(CDCl3):δ118.1,124.2,125.1,126.3,126.7,127.4,127.7,128.1,128.2,128.6,
130.3,131.4,131.6,133.1,133.6,134.7,139.2,145.2
Anal.Calcd. for C42H26S2:C=84.81,H=4.41
Found:C=84.54,H=4.31
【0196】
(e)2-(2-ナフチル)-4,5,7-トリフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(10)(BDT-3)の合成
【化18】

【0197】
一口ナスフラスコにトルエン(3mL)と蒸留水(1.5mL)を入れ、炭酸ナトリウム(0.32g)を加えた後、アルゴン雰囲気下、90℃にて2時間溶液の脱気を行った。その後、室温まで冷却し、2-(2-ナフチル)-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(8)(0.16g,0.29mmol)、フェニルボロン酸(67mg,0.55mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(19mg,0.016mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、90℃で19時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。この有機層を分離した後、水層をトルエンで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にヘキサン:クロロホルム(10:1)を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、黄色の固体として2-(2-ナフチル)-4,5,7-トリフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(10)(0.15g,収率93%)を得た。
【0198】
m.p.:263-265℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.40(m,8H),7.48-7.52(m,2H),7.82-7.89(m,7H),8.02(s,1H),
8.15(s,1H)
13CNMR(CDCl3):δ116.1,117.7,124.1,125.0,125.2,126.4,126.7,127.5,127.6,127.7,
128.1,128.2,128.3,128.6,130.0,130.1,130.6,131.4,133.1,133.4,
133.5,133.8,138.8,138.9,139.3,140.7,145.6
Anal.Calcd. for C32H19BrS2:C=70.20,H=3.50
Found:C=69.97,H=3.67
【0199】
(f)2-(9-フェナントリル)-7-(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(12)(BDT-4)の合成
【化19】

【0200】
一口ナスフラスコにトルエン(12mL)と蒸留水(1.5mL)を入れ、炭酸ナトリウム(0.32g)を加えた後、アルゴン雰囲気下、90℃にて2時間溶液の脱気を行った。その後、室温まで冷却し、2-(2-ナフチル)-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(8)(0.18g,0.33mmol)、9-フェナントリルボロン酸(0.26g,1.15mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(23mg,0.020mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、90℃で12時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。この有機層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にヘキサン:クロロホルム(5:1)を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、黄色の固体として2-(9-フェナントリル)-7-(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(12)(0.19g,収率88%)を得た。
【0201】
m.p.:263-265℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.40(m,8H),7.48-7.52(m,2H),7.82-7.89(m,7H),8.02(s,1H),
8.15(s,1H)
13CNMR(CDCl3):δ116.1,117.7,124.1,125.0,125.2,126.4,126.7,127.5,127.6,
127.7,128.1,128.2,128.3,128.6,130.0,130.1,130.6,131.4,133.1,
133.4,133.5,133.8,138.8,138.9,139.3,140.7,145.6
Anal.Calcd. for C32H19BrS2:C=70.20,H=3.50
Found:C=69.97,H=3.67
【0202】
(g)2-(トリブチルスズ)-1,3,5-トリメチルベンゼン(14)の合成
【化20】

【0203】
一口ナスフラスコに2-ブロモメシチレン(13)(0.29ml,1.91mmol)を乾燥THF(テトラヒドロフラン)(10mL)に溶かし、アルゴン雰囲気下、-78℃でn-BuLi(n-ブチルリチウム)(2.88mmol,1.55Mヘキサン溶液1.86ml)を滴下した。これを-78℃で2時間攪拌した後、塩化トリブチルスズ(IV)(0.78ml,2.88mmol)を滴下し、-78℃で2時間攪拌した。反応終了後、無機塩を除くためにシリカゲルを通した濾過を行い、濃縮した。これを乾燥させ、薄い黄色の液体として2-(トリブチルスズ)-1,3,5-トリメチルベンゼン(14)を得た。この生成物はさらに精製を行うことなく次の反応に用いた。
【0204】
(h)2-メシチル-7-(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(15)(BDT-5)の合成
【化21】

【0205】
一口ナスフラスコにトルエン(15ml)を入れ、2-(トリブチルスズ)-1,3,5-トリメチルベンゼン(14)(crude)、2-(2-ナフチル)-7-ブロモ-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(8)(0.35g,0.64mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(44mg,0.038mmol)と酸化銅(50mg,0.70mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、110℃で66時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。この有機層を分離した後、水層をトルエンで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にヘキサン:クロロホルム(5:1)を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、黄色の固体として2-メシチル-7-(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(15)(0.23g,収率63%)を得た。
【0206】
m.p.:151-153℃
1HNMR(CDCl3):δ2.22(s,6H),2.34,(s,3H),6.95,(s,2H),7.25-7.50(m,12H),
7.54(s,1H),7.80-7.91(m,4H),8.07,(s,1H),8.15(s,1H)
13CNMR(CDCl3):δ20.7,21.1,118.1,121.4,124.2,125.1,126.3,126.6,127.3,127.4,
127.7,128.0,128.1,128.2,128.5,130.2,130.3,130.7,130.8,131.3,
131.7,133.0,133.5,134.2,134.5,137.9,138.1,138.9,139.3,139.4,
140.2,144.0,145.0
Anal.Calcd. for C41H30S2:C=83.92,H=5.15
Found:C=83.70,H=5.42
【0207】
(i)2,7-ジヨード-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(16)の合成
【化22】

【0208】
一口ナスフラスコに4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(1)(1.00g,2.92mmol)を乾燥THF(40mL)に溶かし、アルゴン雰囲気下、-78℃でn-BuLi(7.30mmol,1.50Mヘキサン溶液4.87mL)を滴下した。これを-78℃で2時間攪拌した。そこに乾燥THF(5mL)に溶かしたヨウ素(2.22g,8.75mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、徐々に室温に戻し2時間30分攪拌した。反応終了後、炭酸水素ナトリウム水溶液とチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離し、水層を酢酸エチルで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にヘキサンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、白い固体として2,7-ジヨード-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(16)(1.74g,収率98%)を得た。
【0209】
m.p.:235-237℃
1HNMR(CDCl3):δ7.26-7.40(m,10H),7.88(s,2H)
13CNMR(CDCl3):δ127.7,128.3,129.9,131.9,133.3,138.5
IR(KBr):3051,2348,1472,1362,1029,808,695cm-1
Anal.Calcd. for C22H12I2S2:C=44.46,H=2.04
Found:C=44.21,H=2.15
【0210】
(j)2,4,5,7-テトラフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(17)の合成
【化23】

【0211】
一口ナスフラスコにトルエン(15mL)と蒸留水(2mL)を入れ、炭酸ナトリウム(0.41g)を加えた後、アルゴン雰囲気下、90℃にて2時間溶液の脱気を行った。その後、室温まで冷却し、2,7-ジヨード-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(16)(1.00g,1.68mmol)、フェニルボロン酸(0.62g,5.04mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.12g,0.10mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、90℃で20時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。この有機層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にクロロホルムを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、黄色の固体として2,4,5,7-テトラフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(17)(0.75g,収率90%)を得た。
【0212】
m.p.:288℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.45(m,16H),7.74(d,J=7.2,4H),8.02(s,2H)
13CNMR(CDCl3):δ118.0,125.4,126.6,127.2,127.5,128.2,129.1,130.5,133.2,133.9,
138.2,144.0
IR(KBr):3057,2312,1958,1596,1482,1072,702cm-1
Anal.Calcd. for C34H22S2:C=82.55,H=4.48
Found:C=82.56,H=4.50
【0213】
(k)2,4,5,7-テトラフェニル-1-ブロモベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(18)の合成
【化24】

【0214】
一口ナスフラスコに2,4,5,7-テトラフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(17)(1.48g,3.0mmol)を乾燥塩化メチレン(100mL)に溶かし、そこにNBS(0.53g,3.0mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で20時間攪拌した。反応終了後、炭酸水素ナトリウム水溶液とチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離し、水層を塩化メチレンで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にベンゼンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、黄色の固体としてほぼ定量的に2,4,5,7-テトラフェニル-1-ブロモベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(18)(1.72g)を得た。
【0215】
m.p.:239℃
1HNMR(CDCl3):δ7.25-7.78(m,20H),9.10(s,1H)
【0216】
(l)1,2,4,5,7-ペンタフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(19)(BDT-6)の合成
【化25】

【0217】
一口ナスフラスコにトルエン(12mL)と蒸留水(2mL)を入れ、炭酸ナトリウム(0.42g)を加えた後、アルゴン雰囲気下、90℃にて2時間溶液の脱気を行った。その後、室温まで冷却し、2,4,5,7-テトラフェニル-1-ブロモベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(18)(1.72g,3.00mmol)、フェニルボロン酸(0.55g,4.50mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.10g,0.09mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、90℃で20時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。この有機層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にベンゼンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、薄い黄色の固体として1,2,4,5,7-ペンタフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(19)(1.20g,収率70%)を得た。
【0218】
m.p.:257℃
HNMR(CDCl3):δ6.80(s,1H),7.13-7.41(m,20H),7.49-7.55(m,5H)
【0219】
(m)2,7-ジ(4-t-ブチルフェニル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(21)の合成
【化26】

【0220】
一口ナスフラスコにトルエン(6mL)と蒸留水(1.5mL)を入れ、炭酸ナトリウム(0.32g)を加えた後、アルゴン雰囲気下、90℃にて2時間溶液の脱気を行った。その後、室温まで冷却し、2,7-ジヨード-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(16)(0.40g,0.67mmol)、4-t-ブチルフェニルボロン酸(20)(0.42g,2.36mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.06g,0.05mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、90℃で18時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。この有機層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にクロロホルムを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、黄色の固体として2,7-ジ(4-t-ブチルフェニル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(21)(0.38g,収率89%)を得た。
【0221】
m.p.:287℃
HNMR(CDCl3):1.36(s,18H),7.31-7.38(m,10H),7.44(dt,J8.4,2.04H),
7.70(dt,J8.4,2.04H),7.98(s,2H)
13CNMR(CDCl3):-31.2,34.7,117.1,127.3,125.9,126.0,127.3,128.1,130.3,131.0,
131.5,134.6,138.8,139.3,145.2,151.4
IR(KBr):3027,2960,2864,2363,1601,1494,815,696cm-1
Anal.Calcd for C42H38S2:C=83.12,H=6.31
Found:C=83.38,H=6.30
【0222】
(n)2,7-ジ(4-t-ブチルフェニル)-4,5-ジフェニル-1-ブロモベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(22)の合成
【化27】

【0223】
一口ナスフラスコに2,7-ジ(4-t-ブチルフェニル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(21)(0.37g,0.61mmol)を乾燥DMF(17mL)に溶かし、そこにNBS(0.13g,0.73mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で20時間攪拌した。反応終了後、炭酸水素ナトリウム水溶液とチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離し、水層を塩化メチレンで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にベンゼンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、黄色の固体としてほぼ定量的に2,7-ジ(4-t-ブチルフェニル)-4,5-ジフェニル-1-ブロモベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(22)(0.42g)を得た。
【0224】
(o)2,7-ジ(4-t-ブチルフェニル)-1,4,5-トリフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(23)(BDT-7)の合成
【化28】

【0225】
一口ナスフラスコにトルエン(5mL)と蒸留水(1.5mL)を入れ、炭酸ナトリウム(0.32g)を加えた後、アルゴン雰囲気下、90℃にて1時間溶液の脱気を行った。その後、室温まで冷却し、2,7-ジ(4-t-ブチルフェニル)-4,5-ジフェニル-1-ブロモベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(22)(0.42g,0.61mmol)、フェニルボロン酸(0.097g,0.79mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.042g,0.037mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、90℃で48時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、セライトを用いた濾過を行った後、10重量%希塩酸を加えた。この有機層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、濃縮した。この混合物を展開溶液にベンゼンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、白色の固体として2,7-ジ(4-t-ブチルフェニル)-1,4,5-トリフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン(23)(0.29g,収率69%)を得た。
【0226】
m.p.:>300℃
1HNMR(CDCl3):1.36(s,18H),7.18-7.53(m,20H),7.68-7.74(m,3H),7.98(s,1H)
【0227】
[実施例1]
得られたBDT−4(2-(9-フェナントリル)-7-(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン)のトルエンに対する溶解度を25℃で測定したところ、トルエンに対する溶解度は53.6重量%であった。
【0228】
[実施例2〜4、比較例1,2]
BDT−4に代えて、以下の表2に記載の化合物を用いた以外は、実施例1と同様に、25℃におけるトルエンに対する溶解度を測定した。結果を表2に示す。
【0229】
【表2】

【0230】
[実施例5]
得られたBDT−4(2-(9-フェナントリル)-7-(2-ナフチル)-4,5-ジフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン)の溶液中および薄膜中における発光スペクトル(PLスペクトル)を以下のようにして測定した。
【0231】
まず、溶液中の発光スペクトル測定用として、BDT−4をCHClに溶解させ、1×10−5mol/L溶液を調製した。また、薄膜中の発光スペクトル測定用として、BDT−4をCHClに溶解させた(1.5重量%)溶液を調製し、該溶液をスピンコート法(1800rpm,60s)により成膜してフィルムを作製した。
日本分光社製FP−6200を用いて、溶液中の発光スペクトル測定用溶液および薄膜中の発光スペクトル測定用フィルムの発光スペクトルをそれぞれ測定した。
発光スペクトル(PLスペクトル)は、溶液中では417nmに極大波長を有し、薄膜中では460nmに極大波長を有していた。溶液と薄膜で発光スペクトル(PLスペクトル)の極大波長のずれは小さかった。これは、BDT−4が薄膜中において非常に均一に分散していることを示す。この発光スペクトル(PLスペクトル)を図1に示す。
【0232】
[実施例6〜8、比較例3,4]
BDT−4に代えて、以下の表3に記載の化合物を用いた以外は、実施例5と同様に、溶液中および薄膜中における発光スペクトル(PLスペクトル)を測定した。結果を表3に示す。また、発光スペクトル(PLスペクトル)を図2〜6に示す。
【0233】
【表3】

【0234】
[実施例9]
図8に示す有機電界発光素子を作製した。
ガラス製の基板1上にITO(インジウム錫酸化物)透明電極からなる陽極2、ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニル〕ベンジジンからなる膜厚50nmの正孔輸送層4、BDT−6(1,2,4,5,7-ペンタフェニルベンゾ[1,2-b:4,3-b´]ジチオフェン)からなる膜厚40nmの発光層5、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(III)からなる膜厚4nmの電子輸送層7、およびフッ化リチウムからなる膜厚0.5nmの電子注入層8、アルミニウムからなる膜厚100nmの金属電極製の陰極9をこの順に、真空蒸着法によって積層した有機電界発光素子を作製した。この有機電界発光素子は、大気中、13Vにおいて最高輝度6070cd/mの青色の発光が得られた。図3に、この有機電界発光素子の発光スペクトル(ELスペクトル)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0235】
【図1】実施例5のBDT−4の溶液中および薄膜中の発光スペクトル(PLスペクトル)を示すチャートである。
【図2】実施例6のBDT−5の溶液中および薄膜中の発光スペクトル(PLスペクトル)を示すチャートである。
【図3】実施例7のBDT−6の溶液中および薄膜中の発光スペクトル(PLスペクトル)と、実施例9の有機電界発光素子の発光スペクトル(ELスペクトル)を示すチャートである。
【図4】実施例8のBDT−7の溶液中および薄膜中の発光スペクトル(PLスペクトル)を示すチャートである。
【図5】比較例3のBDT−1の溶液中および薄膜中の発光スペクトル(PLスペクトル)を示すチャートである。
【図6】比較例4のBDT−2の溶液中および薄膜中の発光スペクトル(PLスペクトル)を示すチャートである。
【図7】本発明の有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図である。
【図8】本発明の有機電界発光素子の他の構造例を示す断面の模式図である。
【符号の説明】
【0236】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする、ベンゾジチオフェン系化合物。
【化1】

(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。但し、RとR、RとRおよびRとRが、いずれも同一であることはない。)
【請求項2】
が置換基であることを特徴とする、請求項1に記載のベンゾジチオフェン系化合物。
【請求項3】
〜Rが、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選ばれることを特徴とする、請求項1または2に記載のベンゾジチオフェン系化合物。
【請求項4】
とRが異なることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のベンゾジチオフェン系化合物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のベンゾジチオフェン系化合物および溶剤を含有することを特徴とする組成物。
【請求項6】
陽極および陰極と、該陽極と該陰極との間に設けられた有機層とを有する有機電界発光素子において、該有機層に請求項1ないし4のいずれか一項に記載のベンゾジチオフェン系化合物を含有することを特徴とする、有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−126480(P2010−126480A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302247(P2008−302247)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)和歌山北部エリア委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145283)国立大学法人 和歌山大学 (62)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】